カワイイ俺のカワイイ調査②
「あーでもスカート丈っていえば、オレはどっちかっていうと清楚なお嬢様系のが好み。前に着てたよね?」
「あ、はい。一応、色んな系統持ってるんで」
「さっすが。あとこの間、腕が透けてみえる素材の服見かけてさ。いいよね、シースルー。あ、ノースリーブも捨てがたいけど! そんでスカートは膝のちょっと上か隠れるくらいがベスト」
「ミニは嫌いですか?」
「いやー、嫌いじゃないけど、なんか目のやり場に困るっていうか。大事な子なら余計にその太腿はオレのモンだ! ってのもあるし。下は隠して上出てるくらいが安心カワイイ」
「……何の話してるんですか」
カツリと鳴った床と、低く響いた声。
(っ、カイさん)
カーテンを手で避け現れた想い人に、バクリと大きく心臓が跳ねた。
不機嫌顔で拓さんを見遣るカイさんは、そんな俺の動揺など気付かない。拓さんも同じく気づかないまま、剣呑な視線に「ヤッバ」と頬を引きつらせた。
「まったく。先輩に頼むと全然進まないじゃないですか」
「いやー、ゴメンて」
「今度からユウちゃんが来る時は、オレもここで待ちます」
「え!? ウソ、ダメダメ! 一緒にお出かけ出来るカイとは違って、オレがユウちゃんと話せるのはココだけなんだから!」
慌てふためきながらパソコンとレジを叩く拓さんに息をつき、財布を取り出す俺に視線を移すと、カイさんは申し訳無さそうに「ゴメンね」と零す。
手のかかる先輩に、頭を悩ませる後輩。
そんな図式にも関わらず、どことなく保護者のような空気感を纏うカイさんは、いつもよりも大人な表情を滲ませた。
(なにそれ、かっこいい)
俺の言語中枢は一体どうしてしまったのか。
片言で紡いだ興奮を悟られないよう手にした財布だけを見つめて、「いい、え」と絞り出しながらいつものエスコート代を払う。
顔は赤くなっていないだろうか。
腕を組んで待つカイさんに首をすくめてレジを叩く拓さんがいじってくる様子もないので、大丈夫だと思いたい。
「……ユウちゃんを独り占めするなんてズルいぞ、カイ」
機器から出てきたレシートを破りながら、拓さんがジト目でカイさんを見上げる。
「ズルいも何も。以前から言ってますが、ユウちゃんはオレのお客様です」
問答無用。遠慮の欠片もなくバッサリと切り捨てたカイさんは、拓さんの手からレシートを抜き取ると、「行こうか」とオレに笑む。拓さんが「あっ、ちょっと!」と抗議するも、一瞥して終了だ。
普段は温和なカイさんだが、拓さんが絡むとやや強引になる傾向があるらしい。口先を尖らせながら、「えーもうちょっとゆっくりしてけばいいのにー」と久しぶりに帰省した息子を引き止める母親のような台詞を呟いているが、最早まるっと無視だ。
こうなったら一介の客である俺に口を挟む余地はないだろう。扉を開けたカイさんに駆け寄り、「じゃあ、また」と拓さんに会釈した。
「またね、ユウちゃん。いい夢を」
直前までどんなにふざけていても、決める所はキッチリ決める。
コツ、と靴底を鳴らし胸元に手を添え、頭を下げる拓さんの背はしっかりと伸びていた。
「本当、ゴメンねユウちゃん。毎回毎回手間取らせて……」
階段を下りながらすまなそうに言うカイさんは、インディゴのジーンズにグレーのカットソー、仕上げにネイビーのロングカーディガンをサラリと羽織った、カジュアルながらも上品な服装だ。
いつものスーツ姿ではないのは、店内で注目の的だった前回の反省を踏まえ、私服欄にチェックを入れておいたからである。
なんだか先日会った時よりも、更にメンズライクな服装だ。エスコート時用、なのだろうか。
そんな事をツラツラと考えながら差し出されたレシートを受け取り、オレは微笑しながら「いいえ」と首を振った。
「楽しいですよ、拓さんと話すの」
「そう? ユウちゃんが望めば、今度からオレが受付に立つよ?」
俺に目線を合わせるように、覗きこむカイさん。
「っ!」
息を呑んだのは、その眼の真摯さにではない。




