表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】カワイイ俺とキミの嘘!~超絶カワイイ女装男子の俺が、男装女子を攻略出来ないハズがない!~  作者: 千早 朔
第六章 カワイイ俺のカワイイ自覚

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/108

カワイイ俺のカワイイ自覚⑦


(バカ野郎)


 ギリッ、と奥歯を噛んだ。自身の不甲斐なさに腹が立つ。

 目元を覆うと日差しが遮断され、眼前には夜のような黒が広がった。

 その、中。浮かんだのは、カイさんの残していった、嬉しそうなかお。


「……反則だろ」


 少し前のカイさんなら、俺を出し抜くような行動をとった後は、"してやったり"と言うような顔をしていた。

 だけど、あの笑顔は違う。

 警戒心などまるでない、裏なくただ言葉の通り、次の会合を待ち望んでいるだけの。


「……」


 いつになく重い腕でスマフォを取り出し、発信履歴から一番上の番号にかけた。

 一回、二回。コール音が途切れて、数秒の空白。


『……先輩』

「……暇か?」

『そろそろかかってくるかなーって思ってましたー』


 言葉と共に小さく笑う気配がするが、その声からは俺への心配が伺い取れる。


『今、ドコですかー?』

「……前に話した、ベンチんトコ」

『了解ですー。五分ちょっとくらいで着きますから、大人しくそこで待機しててくださいー』

「……わかった」


 いつもなら即座に、「俺はお前の飼犬か」と苦言を呈していただろう。

 だが今はそんな余力もない。時成もわかっているのか、特に何を言うでもなく通話が途切れた。


 考えるのも億劫で、ただボンヤリと景色を映していると、宣言通り、さほど待ったと感じない内に時成が現れた。

 肩下まである長い黒髪は纏めることなくおろされ、襟ぐりの広いカットソーからは重ねたタンクトップが覗いている。七分丈のズボンから伸びるふくらはぎは細いが、女性とは違った筋のある細さで、続く足首もキュッと引き締まっている。

 そうだった。『今日は時成』だと言っていた。

 時成のこうした"男の服装"は珍しいので、思わずマジマジと観察してしまう。

 見れば化粧も眉を整えた程度だ。が、元から中性的な顔立ちをしているので、事情を知らない人が見れば、『バンド系男子』か『ボーイズライクな服装が好みの女子』に見えるだろう。


「俊さんはちゃんと駅まで送り届けましたー」


 近寄ってきた時成は、俺の隣にポスリと座る。


「悪かったな、急に呼びつけて」

「いえー。"カイさんとオトモダチになろうプロジェクト"の一員として、お役に立てて良かったですー」

「……」


 "カイさんとオトモダチになろうプロジェクト"。ツクリと胸が痛む。

 押し黙る俺を促すように、時成は「それで」と言葉を続け、


「どうでした? って、その顔は聞くまでもないですねー」


 呆れたような、労るような。そんな顔をした時成から視線をそらし、目の前に続くアスファルトを見つめた。

 反射された日差しが目に入り、少し、染みる。


「……俺は、俊哉との約束を破るつもりはない」

「……といいますとー?」

「何も、変わらない。計画通り、カイさんとは"オトモダチ"になれるよう、頑張る」


 最優先事項は、カイさんと"オトモダチ"になる事だ。"特別"ではなく、丁度良く"友好的"な関係を作る。それがあの日宣言した、俊哉との『約束』だ。

 時成は目を丸くしたが、次いで小さく吹き出し、


「ほーんとユウちゃん先輩って、意地っ張りっていうか真面目というか。まー、そこが良いんですけどー」


 小馬鹿にするようなニュアンスに、ムッと横目で時成を睨む。

 時成は両手を上げて「すみませんー」と言いつつも、悪びれた様子は一切ない。むしろ、駄々をこねる子供を見るような、そんな顔で俺を見る。


「先輩は、経験がないんだと思いますけどー。"好き"って気持ちはそー簡単に消す事も、抑える事も出来ませんよー」


 ならお前は経験があるのか。そう問いかける前に、時成は真剣な眼で俺を見つめ、


「カイさんのコト、好きなんですよね?」

「……」

「先輩」

「っ、そうだよ」

「ダメです。ちゃんと、『好き』って言ってみてください」

「なっ」


 ふざけるな。横目で睨めつけるも、時成は臆すること無く、ただ真っ直ぐに俺を見る。

 いつもの間延びした口調もドコへやら。それだけ時成が真摯に向き合ってくれているのだと、目で、耳で、理解する。

 急かすような、見守るような。言うまで決して逃さないと圧をかける双眸。

 どうしてそこまでして言わせたいのか。見当もつかないが、この空気に耐え切れなくなったのは、俺の方だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ