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【書籍化】カワイイ俺とキミの嘘!~超絶カワイイ女装男子の俺が、男装女子を攻略出来ないハズがない!~  作者: 千早 朔
第六章 カワイイ俺のカワイイ自覚

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カワイイ俺のカワイイ自覚②

 俺も疲れたし、周辺をうろつく予定は止めにして、このまま家に帰ろう。駅へと歩を進めながら思案していると、


「わー、見て見てユウちゃん。すっごい列」

「あ?」


 示された列の後方を目で追うと、未だ途切れる事なく伸びる人の群れ。

 一体、最後尾は何処にあるのだろうか。俺達が当初に並んでいた位置などとっくに越えた黒い線に、軽い目眩が襲ってくる。


「早めに来ておいて正解だったね」

「……だな」


 たかがシュークリーム、されどシュークリーム。急に手の内の箱が宝箱のように思えて、持ち手に力を込めた。

 頑張れ勇者達。目的のモノは、遥か彼方だ。

 重厚感のある声が、脳内でそんなナレーションを紡ぐ。

 時折感じる視線は羨望のそれだろう。受け流しつつ、連なる人並みを逆走していく。


「本当に五個も買っちゃうなんて」

「何も問題ないだろ。親父達の分は別けて入れて貰ってるから、駅で渡すな」

「わかった。優しいお店だったね」


 俺は「ホントにな」と頷いて、何となく列へと視線を転じた。ひたすら携帯に夢中な人、共に並ぶ友人とお喋りに夢中な人。男性よりも女性が多い印象で、年齢層にも幅がある。

 その中でふと、一人の人物に目が止まった。

 周囲から頭一つ出ているその人は、時間潰しに興じる人々の中で、何度も自身の腕時計と前方の列とを交互に確認している。

 この後予定でもあるのだろうか。ご愁傷様、と心の中で呟いた刹那、上げられた顔。その眼鏡の奥に、妙な既視感。


「っ」


 まさか。いや、でも。


「……俊哉、ちょっとストップ!」

「え、え? どうかしたの?」


 疑問符を頭上に飛ばす俊哉の腕を掴み、強引に道端へと引きずっていく。

 訳がわからない、と呆けた顔で見下ろす俊哉を壁際に立たせ、今度は取り出したスマフォで時成に電話をかけた。

 アイツはシフトの無い日でも、この街に居る事が多い。

 視線は先程の人物を捉えたまま、祈るような心持ちでコール音を重ねる。


『……もしもし、先輩?』


 耳に届いたよく知る声。俺は畳み掛けるように、


「時成、今ドコにいる?」

『今ですかー? アキバの電気街うろついてますけど』

「悪い、ちょっと俊哉頼めるか。駅まで送ってくれればいいから」

『構いませんけど、どうしたんですかー?』


 コテリと小首を傾げてみせる時成を思い浮かべながら、


「カイさんを見つけた。多分、だけど、そうだと思う」

『……わーお。運命的ってヤツですねー』

「そーゆーのいいから。"Puff Puff"って店わかるか? シュークリームの。その近くのコンビニに俊哉立たせてるから、回収してくれ」

『らじゃーですー。あ、おれ今日は"あいら"じゃないんで、俊哉さんに一言いっておいてくださいー』

「わかった。頼むな」


 これで俊哉は心配ない。

 通話を切り、スマフォを鞄へ収める俺に、会話を聞いていた俊哉が「カイさん、いたの?」と周囲を見渡す。

 ホームページの画像しか知らない俊哉には、『あの人だ』と示した所でわからないだろう。細かい説明を省き、状況だけをざっくりと伝える。


「ああ、俺の勘違いじゃなければな。時成呼んだから、駅まで送ってもらえ」

「時成って、あいらちゃんだよね? そんな別に、一人でも行けるから大丈夫だよ」

「そう言って迷ったの何回あると思ってんだ。もうコッチに向かってるし、直ぐにくるから大人しく待っとけ。ああそれと、今日は"あいら"じゃなくて"時成"だから。間違えんなよ……って、ヤベ」


 捉えていた人物が諦めたように列から離れ、人波に消えていく。

 逃がすか。

 手早く小袋を箱から取り出し俊哉へと押し付け、日傘を折りたたんで「じゃあな!」と駆け出した。


「あ、ちょっとユウちゃん!」


 焦った声が呼び止めるが、構っている暇はない。

 箱の中のシュークリームが崩れないよう抱えた腕を固定しながら、人並みをかき分け、黒髪のその人を追った。必死に数十メートルを駆け、やっとの事で近づいたその肩へと手を伸ばす。

 が、触れる直前、ハタと思い出した。そう言えば、触ってはいけない規則だった。


「っ、カイさんっ!」


 切れぎれの呼びかけに、その人が振り返る。

 セットされていない自然なままの黒髪がサラリと靡き、べっ甲色をしたフレームの奥で、俺を捉えた双眸が大きく見開かれていく。

 間違いない。いつもより薄化粧の。


「っ、ユウちゃん!?」

「よ、かった……追いついた……」


 安堵に深く息を吐き出し、ニコリと笑顔をつくる。

 困惑の表情で見つめるカイさんに、腕の中の箱を掲げてみせた。


「二つまでなら、お渡しできますよ?」


 書かれた店名に気づいたカイさんが、目を見張った。

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