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カワイイ俺のカワイイ接客⑤


「……どーしたの、あいら」


 訊ねるも、時成はその場から動こうとしない。

 つまり、"そういう事"か。

 察した俺は呆れ顔を作り、ホールへ踏み出した。時成の側へ歩を進めると、当然、お客様方の視線が集まる。

 時成は周囲を一瞥もせずに、ただ俺だけを見つめたまま不貞腐れたようにむぅ、と頬を膨らませた。


「ユウちゃん先輩、楽しそうですねー」

「あいらは何がそんなに不満なの?」


 言いながら膨らんだ頬を指先で突く俺。

 プスッと空気を抜いた時成は口を尖らせて俯き、俺のエプロンの裾をキュッと掴む。

 お客様方の視線は、熱い。


「ユウちゃん先輩の"お気に入り"は、おれだけで充分ですー」

「あいら……」


 興奮にざわめく店内。言っておくが、コレも"サービス"だ。

 特に"ユウ"と"あいら"は先輩後輩の関係であり、ナンバーワンとツーという立場でもある。

 個人的に仲が良い、という要素も多分に含まれるが、"美味しい"肩書のつく俺達の"アクション"も名物の一つだ。

 俺は「ごめんね」と苦笑して、少し高い位置にある頭を撫でてやる。


「少し放置しすぎたかな……。大丈夫。ご主人様も、メイドの皆も大好きだけど、一番可愛いのはあいらだから」

「っ! 先輩ぃーっ」

「よしよし。ちゃんとお仕事に戻れそう?」

「はいー、がんばりますー」

「いい子。さ、"ご主人様方"にちゃんとご奉仕しないと」


 頷いたあいらはしょんぼり眉のまま、一番近い席の常連さん方の元へ。「あいらちゃんはユウちゃんに甘えただなー」と笑われ、「だって先輩のコト大好きですもんー」と返しているのが聞こえる。

 俺はパントリーへ戻り、出来上がったオムライスプレートをお盆に乗せた。手早く注いだグレープフルーツジュースとストロー、結局用意出来なかったスプーンとケチャップボトルも乗せてホールに踏み出る。

 丁度のタイミングで、"あいら"が意味ありげな視線を寄越してきた。俺は肩を竦めつつも、ゆったりと微笑んで隣の通路を行く。たったこれだけでも、先程の余韻が残る店内での効力は抜群だ。


「お待たせしました、拓さん。オムライスプレートです」

「わーおしそー!」

「それと、グレープフルーツジュースです」


 手前すみません、と断りを入れ、両手を膝の上に下ろした拓さんの目の前に、コースターとグラス、ストローとスプーンも置いていく。

 ワクワクとした目で大人しく見守っていた拓さんは、俺が全てを置き終わると、待ってましたと言わんばかりに「ユウちゃんってさ」と口を開いた。

 ご機嫌そうに口角を上げつつ、片目を眇める。


「いっつもあーやって"オトして"るんだ?」

「っ」


(……やっぱ見えてたか)


 拓さんが揶揄しているのは、十中八九、先程の『有望な人材くん』とのやり取りだろう。

 心中では警戒しつつも俺は弱ったような苦笑を浮かべ、エプロンのポケットからケチャップボトルを取り出し、プレート上に鎮座するオムライスへハートを描く。


「そんな人聞きの悪い。あれは単なるお客様との"コミュニケーション"で、言うなら"サービス"です。拓さん達と一緒ですよ」

「ふぅん? オレにはあの彼、もうユウちゃんにメロメロ! って感じに見えたけどねぇ」

「メロメロって……語弊がありすぎです。ただちょっと気を許して貰えたくらいで"メロメロ"だって言うんなら、僕はカイさんにメロメロってコトになるじゃないですか」

「違うの?」

「ちがっ」


 違う、と返そうとして、言葉に詰まる。

 ここで強く否定してしまえば、『なら何故カイさんの元へ通いつめているのか』と突っ込まれかねないからだ。


「……わない、ですけど。"客"であり"サービス"だっていう分別はついてます」


 あくまで好意はあるが、『そういう』好意ではないと繋げた俺に、


「そう? ま、いいけど」


 拓さんはサラリと話を打ち切った。


(……『ま、いいや』程度の話題だったのか……)


 肩透かしを食らったような気分だ。が、なんとかやり過ごせたのなら、それでいい。

 安堵に胸中で息をつきながら、描いたハートの中に『拓さん』、プレートの手前部分に小さなハートを数個と、『ユウ』の文字をデコレーションする。

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