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カワイイ俺のカワイイ接客④


(失敗したかな)


 緊張を解くつもりだったのに、逆効果だったかもしれない。

 そんな反省を浮かべる俺に、彼はポソリと呟いた。


「……普段も、その、スカートとかで、お化粧もしてるんですか?」

「え? あ、ええ。個人によりますけど、僕は普段もそうしていることが多いですね」

「それって……周りに、"変"とか言われませんか」


(ああ、もしかして)


 過った可能性。おそらく、彼は。

 "こういう時"、俺は真実だけを口にする事にしている。


「……全く言われない、と言えば嘘になりますけど、もう慣れましたね。僕の場合は、ならいっそ極めてしまって、『似合うね』って言わせてやろうと突き詰めたせいか、最近は殆ど耳にしませんけど。あ、でも学校では男の格好ですよ」

「親は……?」

「ウチは両親公認です。一人息子のせいか、『娘もいるようで二度美味しい!』なんて言ってますけど、それはあくまで僕の恋愛対象が"女性"だからなのかもしれないです。友人も理解のあるヤツなので、正直僕は恵まれてる方だと思いますよ」

「そう、ですか……」

「メイド同士であまり立ち入った話しもしないので全体を把握しているワケでは無いですけど、こっそり隠れてやっている子や、逆に絶縁状態の子もいるみたいです。でも、それぞれが自分で決めた道なので、本人が"納得"しているんなら、それでいいんだと思いますけどね」


 最後に「僕の意見としては、ですけど」と付け加えたのは、言葉の通りこの意見は"俺個人"の見解でしかないからだ。

 環境が違えば、見方も変わる。何を良しとして何を悪いとするのかなんて、個人のボーダーラインでいくらでも変わってくる。

 特に性的マイノリティの問題は。非常にデリケートで、抱え込む苦悩も多い。だからこそ"自分"で折り合いをつけていくしかないのだと、俺はそう思うのだ。


「もし仮に」


 続けた言葉に、彼が弱々しい瞳を向ける。

 迷子になった子供のようだ。俺は少しだけ屈んで、


「"仮に"、ですけど。一歩を"踏み込んで"しまった時に後悔が生まれるのなら、それはきっとご自身にとって"優先すべきモノ"ではないんだと思います。怯えて過ごす日々は辛いですし、もっと大切なモノを、大事にしたほうが幸せなんじゃないかと。でももし、"踏み込めない"事が何よりの苦痛なら、その時は腹をくくって戦ってみるってのも、アリなのかもしれないですね」


 彼は面食らったように目を丸くして、


「お、とこらしい、ですね」

「"オトコの娘"、ですから。結局は、『人生楽しんだモン勝ち』ってヤツです」


 ニッコリと微笑んだ俺に、彼は小さく「楽しんだもんがち」と繰り返した。

 日焼けのない、きめ細やかな肌は目立った荒れも見当たらない。伏目がちの目蓋から伸びる睫毛は量が多く、薄い唇の口角はキュッと上がり愛嬌がある。

 いい"素材"だ。もし、彼の気が向くのなら、是非ともウチに来て欲しいくらいに。

 けれども。


(それは今、口にすべき内容じゃない)


 まだ彼は、一線の瀬戸際で揺れ動いている。その腕を掴んで無理矢理飛び越えさせるのは簡単だが、『無理強い』は俺のポリシーに反する。

 疼く商売魂をしっかりと押し込む俺のネームプレートを、彼がコソリと見上げた。


「……"ユウ"、さん」

「はい?」


 返事を返した俺に彼はなぜか姿勢を正し、硬直したままメニュー表だけを見つめ、


「っ、おれ、そのっ、甘いものも好きで……食べったいんですけど、よく、わからなくて……っ。オススメとか、ありますかっ!」

「!」


 必死に紡ぐ真っ赤な彼に、つい、笑みが溢れる。

 俺はメニュー表からひとつを指差し、


「パンケーキとか、いかがですか? 先日改良したんです」

「! それにしますっ」


 目を輝かせ、コクコクと頷く彼。

 非常に素直で可愛らしい。是非ともそのまま純真に育っていって欲しいものだ。

 ……既に育ってはいるか。


「かしこまりました」


 オーダー用紙に書き込み、「少々お待ち下さい」と低頭して、俺は彼の席から離れた。

 リラックス、まではいかないが、少しは気を緩めてくれただろうか。


 キッチンへ向かいオーダーを告げる。と、もうすぐオムライスが出来上がるという。拓さんのだ。

 スプーンとケチャップを用意しておくか。

 クルリと向き直った先。パントリーの入り口付近にある通路から、ジト目で見つめる時成が目に入った。

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