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カワイイ俺のカワイイ接客③


 拓さんもいるし、下手な事は出来ない。

 いや、別に、普段からやましい事は一切していないが(時成辺りは首を傾げそうだが)、彼の席は拓さんの座る斜め前方側である。 言葉は聞こえずとも、やり取りの見える範囲。拓さんの真意が見えない今、あまり妙な動きはしたくない。

 こっそりと見遣った先。頬杖をつく拓さんは、他のお客様への応対へと向かった"あいら"を楽しげに観察している。手元にはまだデザートメニュー。


(……なんか、普通にご飯食べに来ただけのような気もしてきたけど)


 ただ純粋に楽しんでいるようだ。思い過ごしだったのかもしれない、と気が抜けそうになる。

 グラスチェックを終え、氷を入れてアイスティーを注ぐ。ガムシロップとミルクは白い陶器の小皿に一個ずつ。当店のロゴが印刷された丸い紙コースターと、ストローもお盆に乗せた。

 気を取り直して、やはり落ち着かなそうにソワソワとしている彼の元へ。


「お待たせ致しました。アイスティーでございます」

「っ!? あ、ハイッ!」


 彼は盛大に肩を跳ね上げ、慌てて姿勢を正す。

 コミカルな反応に笑いを噛み殺しながら、彼の右手側にコースターを置き、その上にアイスティーのグラス。小皿を側に添えた。

 ストローは彼の手前側に。

 緊張に固まりながらも俺の手を追っていた彼へ視線を移すと、ハッとしたような顔をする。

 初々しい。俺は努めて優しげに微笑んで、


「ミルクとガムシロップはお入れになりますか?」

「あっ、はい、いれますっ」

「宜しければお入れしても?」

「へっ!? い、いいんですかっ?」

「ええ。手前失礼致しますね、"ご主人様"」

「っ」


 単語に反応する彼を横目で捉えつつお盆を小脇に抱え、揃えた指先で陶器を引き寄た。ガムシロップを摘み上げ、指先でパキりと封を折る。上部を開け、グラスへ流し込んだら、同じようにミルクを。

 ゴミ置きへと化した容器をお盆に乗せて完了だ。


「よく混ぜてお召し上がりください」

「……ありがとうございます」


 なにやらエラく感動しているようだが、コレぐらいのサービスは他店でもやっている。

 という事は、やはり『メイド喫茶』に訪れる事自体、初めてなようだ。

 初の『メイド喫茶』が、"オトコの娘"のメイド。


(そりゃまた随分とハードル上げたな……)


「こちらへのお帰りは初めてですか?」尋ねた俺に、

「おか!? おかえりっ」

「失礼しました。当店へのご来店は初めてですか?」


 混乱したように目を回すに彼に、言葉を直して再度尋ねた。

 取り乱した羞恥からか、俺の笑顔に見惚れたのか。真っ赤に染めた顔を伏せた彼は、小さく「……はい」と呟く。

 柔らかそうな癖のある黒髪。


(……ふむ)


「そんなに緊張なさらなくても、とって食べたりしませんよ」


 冗談めかして笑うと、オズオズと顔が上げられた。

 やっぱり。よく見れば、目はくりっとしていて小動物的な可愛さがある。


「……あの」

「はい、なんでしょう?」


 モゴモゴと口籠る彼の言葉を、笑顔のまま静かに待つ。

 余程言い辛い内容なのか、両手の指を組み合わせて親指を擦る彼は耳まで真っ赤で、非常に有望な人材……ではなくて、庇護欲が掻き立てられる。

 彼は意を決したように俺を見上げると、「あの」と繰り返し、


「そのっ、ココで働いてるひとって、みなさん男性なんですよね?」

「? ええ、勿論全員、性別は男ですよ」

「そ、ですよね……。あの、あなたも、あちらのツインテールのひとも」

「はい、男です」


 まあ、俺も時成も一見しただけではわからない部類だ。疑いたくなるのも無理はない。


「……証明するにも、お見せできるのは喉仏くらいですけど」


 俺は軽く顎先を上げ、首に巻いたフリルのチョーカーに指先を差し込んで見せた。と、その彼は即座に「わわわスミマセンっ!」と自身の両目を覆う。

 確かに、ちょっと色気を意識していたが、そこまで過剰反応されると少々申し訳ない気持ちになる。


「失礼しました」苦笑した俺に、

「いえ……本当すみません……」彼は縮こまってしまう。

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