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カワイイ俺のカワイイ接客②


「どうしよ、お腹すいたからなぁー……」

「お昼まだなんですか?」

「うん、"お仕事"帰りでさー。あ、カイは今日お休みだから」


 ここでの勤務を秘密にしてほしいと言った俺に、心配ないと告げたかったのだろう。

 とはいえ、予約の件もあるし、今日カイさんが休みなのは、俺も把握している。


「……知ってます」


 告げた俺に、拓さんは「さっすがぁー」とニヤリと笑う。と、


「ん!? このオムライスってもしかしてハートとか描いてくれるヤツ!?」


 突然メニューを指差し興奮の色をみせるので、


「そうですね。一応、簡単なモノならハート以外も描けますよ」

「いや、ハートがいい! オムライスプレートで!」


 まるで、お菓子売り場でお気に入りのヒーローパッケージを見つけた少年のようだ。

 あまりにも無邪気に目を輝かせるので、俺は思わず吹き出し、


「お飲み物は?」

「んー……よし、グレープフルーツジュースで」

「お料理と一緒でいいですか?」

「それでお願い」


 頷く拓さん。俺はオーダー用紙に同と付け加え、メニュー表を回収する。


「少々お待ちください。お冷は直ぐに用意しますので」

「うん、よろしく」


 机端に置かれたデザートメニューが気になるのか、手元に引き寄せながら手を振る拓さんに軽く頭を下げ、パントリーへ。キッチンスタッフにオーダーを告げ、お冷とお絞りを用意しようと視線を巡らせた。

 と、いつからいたのか、既に『入店セット』をバッチリと準備した時成の姿。両手でお盆を持ち、エサを前にした「よし」待ちのワンコのように、期待の目を向けてくる。


「……よし」

「! いってきますーっ」


 ブンブンと勢い良く左右に振られる尻尾が見える。

 普段の時成はどちらかと言うと、のんびりまったりを好む猫属性だ。が、ひとたび"好物"を目の前にすると、興味津々な子犬へと変貌する。いや、子犬の皮を被った、肉食獣か。

 時成は"バイ"だ。相手が男か女かといった性別の概念に囚われることなく、自身の好んだ相手を恋愛対象とする。

 これまでの"お気に入り"を見ていると面食いなのが良く分かるが、本人はあくまで否定している。


『性格なんてよくわからない他人に"興味が湧く"としたら、"第一印象"しかないじゃないですかー』


 そういう事らしい。


 そんな第一印象重視の時成が今日の拓さん訪問の一件を知り、みすみすチャンスを逃す訳もなく、本来この時間帯に勤務予定だった別のスタッフからシフトを譲り受けたと報告された時には、そこまでするかと呆れたモノだ。

 が、今日の"念入りな"ナチュラルメイクと、いつもはストレートなツインテールの毛先が緩く巻かれているのを見てしまっては、もはや呆れを通り越して感服した。

 その努力に敬意を示し、こうして多少なりとも話す機会を作ってやるのが、先輩としてせめてもの情けだろう。


 案の定、珍しく軽い足取りで拓さんの元に向かった時成は、嬉しそうに頬を薄く染めながら言葉を交わしている。

 良かったな。心の中で嘆息しながら、俺はホールをぐるりと一望した。と、そろりと控え目に上げられた掌が一つ。その主を見れば、拓さんが現れる十分程前にご来店されたお客様だ。

 注文だろう。そう予測付けて、オーダー用紙を片手に彼の元へ向かった。


「お待たせしました。ご注文ですか?」

「は、ハイッ! あの、あ、アイスティーを、ひとつ」


 ココでは特に珍しくはない、男性一人のお客様。ただこういった店は初めてなのか、先程から黒縁眼鏡の奥では、不安げな双眸がキョロキョロと周囲を彷徨っている。

 シンプルな白のカットソーに、灰色のパーカーと緩めのジーンズ。顔立ちから推測するに、大学生成り立て、といった辺りだろうか。

 おっかなびっくりな注文を用紙に記入し、俺は努めて優しげな笑みを浮かべた。ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「かしこまりました。メニューお下げしてよろしいですか?」

「はっ! あの、まだっ見たくて」

「それではまた後ほど、お邪魔になりましたらお下げしますね」


 コクコクと頷く彼に「少々お待ちくださいませ」と頭を下げ、オーダー用紙を手にパントリーへ戻る。

 直ぐに帰りたい、という雰囲気ではなさそうだ。出来れば緊張を解いてあげたい所だが。


(さて、どうアプローチするか)

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