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カワイイ俺のカワイイ接客①

 世間一般でティータイムとされる十五時過ぎ。この時間帯は平日でも、歩き疲れた足を休めようと一息つきに来店されるお客様で、店内の半分程度は埋められる。

 オーダーは軽食が中心。その為、ホールスタッフは比較的手持ち無沙汰だ。

 スタッフとのコミュニケーションを目的とする方には、絶好の機会だろう。事実、お客様からの声掛けが一番多いタイミングでもある。


 爽やかなミントグリーンに茶色いラインの入ったミニスカートのメイド服は、甘すぎずもしっかりと可愛さは保っていて気に入っている。難点はその上に真っ白なエプロンをつけると、胸元のデザインが半分以上隠れてしまう所だろうか。

 せっかく凝った制服なのだから、腰下からか、胸元を開けたタイプのエプロンにしたらいいのにと常々思っている。

 注文のアイスティーをグラスに注ぎながらボンヤリとしていると、パントリーに戻ってきた時成が、


「あ、ユウちゃん先輩、オレンジも一個入れてくれますかー」

「おー。氷は?」

「特に指定なしですー」

「了解」


 注ぎ終えた俺はグラスをもう一つ手に取り、汚れや破損が無いかチェックをして、製氷室から氷をひとすくい入れる。

 次いで冷蔵庫から取り出したのは、プラスティック製のボトルに入った百パーセントのオレンジジュース。注ぎながらチラリと時成を見遣ると、少し離れた位置で必死に肘を張っている。どうやら、アイスクリームディッシャーでバニラアイスを丸くしているようだ。

 俺はボトルをしまうと、冷蔵庫に入る小型のタッパーを取り出した。アイスの飾りになる、ハート型にくり抜かれたパイが入っている。


「ほら、オレンジとパイ」

「わーさすが先輩ー。 ありがとうございますー」


 ぐぎぎ、と奮闘する時成のお盆に双方を置いてやる。あともう少し、といった所か。案外力のいる作業なのだ。

 俺はアイスティーの乗るお盆を左手に、右手を軽く添えながらパントリーを出た。注文を頂いた席へ向かう、つもりだった。


 開いた扉。来店を知らせる涼やかなベルの音。

 反射で足を止め入口へ笑顔を向けた俺は、捉えた人物に息を呑んだ。


「こんにちは、ユウちゃん」


 細身のジーンズ、緩いカットソー。黒いレザーのジャケットをスラリと着こなすその人は、ニコニコと十八番である愛想の良い笑みを浮かべながら、手を数度振る。

 頭の中で鳴り響く開始のゴング。俺はキチンと笑顔をつくり直して、頭を下げた。


「おかえりなさいませ、拓さん。少し待ってて貰えますか?」

「ん、りょーかい」


 見送りの時のように片手を軽く胸元に添える拓さんに、苦笑を返す。もはや癖なのだろうか。

 早足気味でアイスティーを運んでいったのは、常連のおじさまの席だ。入店のベルも心得ているのか、アイスティーを置いた俺に「いっていいよ」と笑顔を向けてくれた。

 ありがたい。礼を告げ、興味深そうにチェキ撮影用のブースを観察していた拓さんの元へと戻る。


「お待たせしました。奥にカーテンがある個室タイプの席もありますけど、ホールとどっちがいいですか?」

「んー、ユウちゃんがお仕事してるトコ見たいし、ホールがいいな」

「かしこまりました。ご案内します」


 メニュー表を一冊抱え、拓さんを誘導する。

 パット見、細身でスマートなイケメン(軽そう、という印象が加わるが)である拓さんに物珍しそうな視線が注がれるのも、既に予想済みだ。

 案内するのはホール一番奥の壁側。事情を知る時成にも協力してもらい、来店予告をしていた拓さんの為に空けておいた席だ。

 少しでも好奇の目を遮ろうという配慮だったのだが、当の拓さんはどこ吹く風で、ジーンズのポケットに指を引っ掛けた堂々たる足取りでついて来る。

 先日のカイさんの件といい、この人達は"視線慣れ"しているようだ。


「こちらにどうぞ」

「ありがと。よいしょっと」

「ちょ、拓さんその掛け声はちょっと……」

「あ、やっぱおじさん臭い? カイにも『せめてエスコート中は止めてください』ってよく注意されるんだよねー」


 カラカラと笑う拓さんの言葉に、眉を寄せるカイさんの顔が浮かぶ。

 確かに、客のイメージを最優先するカイさんなら、即座に指摘するだろう。

 壁を背にしてソファーへと落ち着いた拓さんは、俺の渡したメニュー表を受け取りながら、しげしげと視線を上下した。


「へー、ここのメイド服って薄緑なんだ。ピンクじゃないの?」

「性別上、ピンクよりは抵抗が少ないんじゃないかって案みたいですよ」

「ふーん……、ユウちゃんなら絶対ピンクも似合うと思うんだけどなぁ。でもいいね。ユウちゃんが可愛いのはいつものコトだけど、やっぱメイド服ってこう、特別というか、主人感がたまらないというかさ」

「……」


 先程からちょくちょく発言がおじさん臭いのは、仕事ではなくプライベートとして素の拓さんに近い証拠なんだろうか。

 呆れ顔で「拓さん」と名を呼ぶと、「ゴメンゴメン」とメニュー表を開く。

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