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第6話

翌日、その記事はそれはもう大々的に売り始められた。

「あのみんなの憧れ、アレックス様の過去。その新情報だ!さあさあ、買った買った!うちの新聞の独占記事だよ!1部たったの5銅ビスヌ!!」

こんな売り文句にまず飛びついたのは若い女の子たちだった。

「な、なんですって!?1部、いえ、2部ください!」

「こっちにも1部!」

「こちらにも1つくださいな」

「12部ください!」

おぉ…と一瞬どよめきが起こったが、以降も1部2部ずつと順調に売り上げを伸ばしている。その光景を、珍しくヘルムまで被って巡回しているアレクは死んだ目で見ていた。

「あぁ、なんてことだ。まさかあんなに売れてるなんて。僕はもう恥ずかしくて外を歩けないよ」

「いやいや副団長、それは困りますよ…」

少し前の休みの日に、アレクには思い人がいるのかどうかという質問を受けた。丁度キャサリン様との事で少し悩んでいた頃で、特に気にもせずに少し話してしまったのが運の尽きだった。

「だってあの新聞、有る事無い事適当に書いてあるんだよ。僕の来歴も少し色付けてるみたいだし、あぁ憂鬱だなぁ。もう恐ろしくて恐ろしくて、いい加減身を固めないと鬱になるかもしれない。こういう適当な記事のせいで、しつこく付き纏われた事もあるんだよ…」

「副団長、あんまりそういった『男の敵』発言は大っぴらになさらない方がよろしいかと。嫉妬という感情は抑え難いものです故」

「あ、あぁ。僕も少し気が動転してたみたいだ。助かるよ、ジョシュア」

「礼には及びません。それより、この辺りで警備交代でありましたね。引継ぎの際に狙われるやもしれませぬ故、怪しげな所はチェックしておきましょう」

「うん。それじゃあ僕はまず、向かって左半分を」

「それでは私は右半分を」

そう言って彼らは二手に分かれて行動を始めた。


「よし、こんなものかな」

頭の中で不安な箇所を上げておき、合流したらジョシュアと地図へ書き込み。そののち2人で見回り、追加箇所は無いかチェックする。面倒な作業ではあるが、準備は万全にしなければもし何かあったときに首が飛ぶ羽目になる。

「副団長、それでは」

ジョシュアと合流すると、まずは声をかけられた。

「うん。一旦本部へ戻って書き込もうか。詰所だとどうしても誰かに見られそうで不安だからね」

「はっ。では参りましょう」

そう言って2人は第2騎士団本部へと戻っていった。


「ここと、ここの家の上は屋根が平らで隠れられそうな物が多かったよ。あとはここの隙間も」

まずはアレクが地図を指差しながら注意点を書き込む。

「この辺りは屋台が多かったから、当然のことだけど当日は規制を設けておかないと」

「そうでありますね。私の方は…」


警戒箇所を探して地図に書き込んで、また探して。これを何度か繰り返して不安な点を上げていき、対策用の地図が完成した。これを元に見廻りをしてしっかり目視で確認し、更に不安な箇所が無いかを探す。こうして何日も何日もかけて王族警護の準備は進められていった。



シンとした部屋にノックの音が3回鳴った。

「ヴィクトリア殿下、起床のお時間です。入室の許可を」

返答は、ない。

「本日は殿下の御披露目を兼ねた生誕祭がある、特別な1日でございますよ」

しかし返答はない。

「殿下、殿下、どうかお早く。私はお母上から、3回お声をかけて起床なさらなければドアを開けてシーツを剥ぎ取っても良いと言付かっておりますゆえ、これが最後となりますよ。殿下?殿下?」

「入室を許します」

ややくぐもってはいたが、ようやく返答があった。

「それでは、失礼いたします」

世話係が入ってくるとヴィクトリアはまだシーツに包まっていた。壁の本棚から取り出したのか何冊もの本が机に積まれており、それを見た彼女はスッと動くとそれらがあるべき場所へと片付けていく。

「あぁ、待って。まだそれは読んでるところなの」

「前々から申し上げておりますが、殿下。ブックマーカーをお使いになってくだされば問題無いではありませんか。昨年もお母上から誕生日の贈り物にと頂いておりましょう?」

「だ、だって。お母様からの贈り物は、一緒に頂いた「英雄アケロイ、竜を討つ」に挟んでいるんですもの。別のだって何かしら使っています」

「それならば、お求めになればよろしいのでは?」

ヴィクトリアとて王族、小遣いとてばかにならない額は貰っている。だがしかし、全く手をつけていなかった。否、学問を学ぶ際のインクに羽根ペン、羊皮紙などの筆記用具や、ダンスや作法の勉強に必要なドレスにいたるまで。生活に必ずしも必要ではないと思うものは自分で出していた。紅茶や茶菓子などは気にしていないあたりまだまだ世間知らずと言えるが。

(ワタクシ)は、民の税で本の栞を買う気にはなりません。ドレスとて私には必要ないというのに、お茶会やお食事会で何度も同じドレスを着ていたら笑い者になるからと、私が買わなければ「王族費用」とかいうよく分からない名目で国庫から出されていたのでしょう!?」

それでも姉や義兄に義姉など他の王子王女と比べればまともな金銭感覚を持っていた。実際、他の王族は平気で国の金を使う。年間2割ほどは確保されている「王族費用」は日々の食費から装飾品、今回の生誕祭のような時にも使われている。

「それならばご自身でお作りになってはいかがでしょうか、と長々とお話しして申し訳ありません。お着替えのお手伝いを」

結局本を片付けた世話係の彼女は、そういうと隣室のドアを開けてドレスルームへと入っていった。

「そうです、木でも削って作ればいいのですね。何故思いつかなかったのでしょう?」

ブツブツと呟きながらヴィクトリアは彼女の後を追った。

今回は難産でした。毎回2000文字以上を最低ラインにしているせいか、なかなか切るタイミングが難しい…。

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