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第5話

ぐるぐる、ぐるぐると思考はから回りする。本当にキャシーは僕のことを覚えていたのか、それなら僕は手酷い裏切りをしてしまったのではないか。だが今更なんのつもりだったのだろう。彼女が僕の事を覚えていた、こんな些細な事で彼女を諦める決心が揺らいでしまいそうで。確かに最近の小競り合いは第1騎士団主導なわけで、ならば小さな功績を沢山上げるのは比較的早いかもしれないが。だがそれとキャシーが僕との約束を叶えたいと願っているということとは必ずしも同一であると断定は出来なくて。だが彼女が約束を守りたいと、叶えたいと考えているとすれば、やはり自分の行為は裏切りになってしまうのではないか。だが…。

そうしてぐるぐるぐるぐると考えは巡るものの、結局今更悩んだところで何の意味もないと気付いたのは日付が変わる頃だった。ふと隣を見るとダンは既に帰ったようで、初老を過ぎたくらいの男性が座っていた。アレクは2人分の勘定を済ませてから、酒場の扉を開いた。外は春の夜の澄んだ空気で満ち満ちていて、アレクの火照った頭を冷やしてくれた。ふぅ、と一息つくと自分の部屋のある宿舎へと足を向けた。


騎士団の宿舎はかなり大きく、敷地は広い。団長や副団長ともなると普通の団員よりも自室は質が良く、広いものとなる。普通の団員の部屋も一般的な平民の暮らす「住居」の半分以上の広さをもつ。それもそのはず、貴族の子女なんかも騎士団に入るためそれ相応の待遇が必要になるからだ。平民出の騎士も所謂エリートというやつなわけで、彼ら彼女らは総じて高い能力を持つ。能力が高い人間に低い待遇をしていては団から抜けたり、そればかりか酷い時には他国に亡命され国力が落ちてしまう。そのため平民だろうが極めて待遇は良い。その分働いてはいるのだが。

だが平民と同じで待遇が気に食わないという貴族も中にはいる。そういった貴族には「ならば実力で相手より上だと証明しろ」と言われる。そもそも、貴族と平民では騎士団の入団試験の内容は異なっている。平民の場合、学問は史学の試験、数学の試験、兵法の試験。武術は基礎身体能力試験、武器を使った戦闘試験、無手での戦闘試験、馬術の試験。この全てをクリアしなくてはならない。

一方貴族の場合、上のどれか1つ(馬術は貴族の嗜み、出来て当然のため除外する)でも合格すれば入団出来る。その合格ラインも平民のものよりかなり低く設定されていて、とても簡単に入団出来る。

そんなイージーモードな為、貴族が実力で平民より上だと証明するのは極めて困難である。

「…というわけなんだ」

あんまり大きな声では言えないけどねと締めくくる。

「なるほど…そういう仕組みだったのですね。道理で合格出来た方が少ないわけです」

21にしては些か…大分高い声で返事をしたのはリーンフォース。痩せた軍隊なんて騎士には縁起の悪い名前の彼はダン付きの従騎士で、王都で1、2を争うほどの商家の三男坊。彼は今はアレクの部屋でアレクの従騎士と共に講義を受けていた。

「しかし、グレンダン様は勉学に長け、武術の腕も凄いものですよね。あの方もグローリー子爵家の嫡男であらせられますし…」

そう返したのはアレク付きの従騎士で、名はマーガレット。

「うん、でもねメグ。ダンの家の当主は代々騎士団に入る事になってるんだ。グローリー家の当主たるもの強く賢くあれ、って家訓らしくて小さい頃から武術の訓練や勉学をみっちりやるらしいよ。それでもダンは先代や今代の当主様より騎士としては優れているらしいけど」

そう、ダンはあれでも子爵家の嫡男なのだ。

「変態趣味だけどね」

こっそり頭の中で付け足しながら、ふふっと微笑む。


「そ、そういえば!アレク様、来週のヴィクトリア様の生誕祭はどちらの警護になられたのですか?」

私もお顔を拝見したいとメグの眼がアレクに訴えかけてくる。

「うーん、第6王女様の初お披露目パレードの事だよね?僕とダンは第2大通りで警護にあたる筈だよ。第1大通りから真っ直ぐいらして、僕らが引き継ぐ時は第3第4と交差する大噴水広場だったかな」

「へぇ…確か第1から第2大通りを上半身が見えるような馬車で進むのでしたよね。そして門の前で折り返してまた王城まで戻る、と。高い建物の立ち並ぶ辺りでは弓兵にも気を付けないといけませんね」

「そうだねリーン。門に近い辺りは少しごちゃごちゃしてて隠れる場所も多いからね…。民衆に紛れこむかもしれない暗殺者にも注意しないといけないね。事前に怪しいところを洗い出して、特に注意すべき場所を頭に入れておかないと」

最後は自分に言い聞かせる程度の声量で呟くとアレクは立ち上がって、ぽんと柏手を1つ打つ。

「さて、そろそろいい時間だ。今日はここまでにしておこうか。…あー、2人とも僕より年上だから大丈夫だとは思うけど、その、街で聞いても僕の噂を広めないようにね。頼むよ」

疑問の表情を浮かべる2人に曖昧に微笑むと、2人を帰宅へ促した。1人きりになってからふぅと溜息を吐くと、アレクは頬を引きつらせながら机の引き出しに入っているモノについて思い返した。そう、例のあの記事がついに完成したと1部押し付けられたのだ。


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