第3話
書き溜め分はこれでおしまいです
以降は気分と時間次第…
結局、アレクはその手紙には断りの返事をした。
「はぁ…アレックス、俺の昇進が遅れるじゃないか、なんてことは言わないけどね。だがホントに良かったのか?今回を逃したら次は何時になるか、誘って貰えるかすら分からないんだぞ」
ダンにそう伝えると、友人の立場からはそう言われた。そして続いて部下の立場からも。
「そりゃ副団長様が残ってくださりゃうちの団員も殆どが喜ぶでしょうし、俺も嬉しいですよ。ですがね、ご存知でしょうが疎ましく思う人間も居るんですよ。1騎士としては微妙な心境ですが」
「微妙っていうと、どういうことだい?」
「あー、気付いてないんですかね」
日に焼けた頬をぽりぽりと掻いてから続ける。
「ウチの女性団員からの俺へのやっかみですよ。居るんですよ、騎士団の中にも副団長を狙ってるやつは」
「そういうのは、その。やっぱりあるのか」
やっぱりだなんてアレク以外が言ったらダンはぶん殴りたくもなっただろうが、アレクが本気で理解してなさそうな顔をしているのを見ると一瞬覚えた苛立ちを、深い溜息へと変えた。
「ええ。そりゃ顔良し性格良し金良し将来性良し。おまけに訓練時や任務時と平時のギャップが堪らないそうです」
あぁ、副団長と結婚すれば防犯性も上がりますかね、と軽く笑うとすぐに少し草臥れた顔をする。
「あー、こほん。ダンは、その…なんでそんなに詳しいの?」
聞きたくはないがダンとて誰かに、いや原因へ吐き出したかろうと思い仕方なく水を向ける。
「なんでってそりゃあのババアども…失敬。お嬢様がたが俺に色々と余計な事を話し続けてくるんですよ。やれアレックス様は何処にいるのか、やれアレックス様は何がお好きなのか。やれアレックス様の今日の私服と同じ服屋の服を買った。毎回副団長と休みがかぶる訳でもないですからね、その時女性団員とペアになると殆どの確率でアレックス様アレックス様と延々と聞かされ続けるんですよ……。しかも詰め所に戻ってからもですよ⁉︎はぁ、今じゃ副団長より副団長の事を知っている気がします」
最後まで言い切ったダンは、何処となく晴れやかな顔をしていた。逆にアレクの顔は形容しがたい形に歪んでいた。
「その、ダン。今日終わったら飲みに行こうか。おごるよ…」
私服の調達先まで調べ上げられている事にゾッとしつつも、騎士の能力の高さとその無駄遣いへの嘆きとがない交ぜになり、結局は有耶無耶にしたままそれを酒で流し込む事にした。
「え?あぁ、じゃあご馳走になります。それにしても、さっきの件は誰からの推薦だったんですか?うちの将軍ですかね、閣下は副団長大好きですから」
「いや、それが違うんだ。実は第3の騎士団長からだった。不気味で仕方がないんだ…。あの麗剣様が僕を第1に上げたがる理由や関係性がさっぱり分からなくてね」
そう、第3騎士団の団長といえば3女とはいえ貴族の令嬢でありながら、最年少で、それでいて賄賂など使わずに実力だけで団長の座をもぎ取った才媛である。そんな女性とアレクの共通点と言えば、せいぜい最年少という肩書きだけだろう。
だがしかし、それを聞いてダンは呻き声を上げた。
「うわぁ、副団長はなんというか…。女性にモテるくせに間が悪いというか」
「い、一体なんの事だよ、間が悪いって」
そんなタイミングで、手慣れた動作でスリを働く女を見かけてしまう。ダンに手信号で回り込めと指示すると、アレクはその女性へと声をかけようと近付いた。