プロローグ
「おとなになったらけっこんしようね」
少女は、まだ6つの少女は貴族だった。本を読み、平民出の英雄とお姫様の恋のお話に思いを寄せた。そして屋敷を抜け出し毎日のように領地の子らと遊んでいた。
そして貴族の少女と遊ぶ少年少女はそれを親に諌められ次第に数を減らしていき、最後には貴族の少女1人と少年が残った。
その少年は教会に1人預けられた孤児だった。畏れ多いと、不興を買ったらと諌める親もなく、少年は少女と遊び続けた。
そしてある日のこと、少年はそれを言われた。夕暮れ時のことだ。
「けっこん?」
少年は教会で教わった文字は書けても一般常識が抜けていた。分からない事は聞く、そう神父様に教わっていた少年はそれを聞き返した。少女は軽く頬を染めながら答えた。少年が知らないものを尋ねて来るのはいつものことで、彼が知らない事は少女が教えるのもまたいつものことだった。
「ええ、いっしょにくらすのよ。アレクにはパパやママはいないけど、わたしとアレクでこどもをつくってパパとママになるの」
「わぁ!いっしょにすめるなら、キャシーといっぱいあそべるね!それならけっこんしよう!やくそくだからね」
少年ーーアレックスは嬉しそうに少女に抱きつこうとした。その時だった。運悪く、少女を探していた騎士に見つかった。見つかってしまった。
「ぐぅっ…!」
そして殴られ引き離された。
「アレクっ!」
「このお方に気安く触れるでない!フロン伯爵家のキャサリン様であられるぞ!…さぁ、キャサリン様。どうか御屋敷へお戻りください」
そう一方的に告げると騎士は少女ーーキャサリンを連れて行った。
遥か西に沈む太陽は、少年の好きな彼女の髪と同じ金色に輝いていた。それは、皮肉にも彼の目に溜まる涙で一層煌めきを増していた。
何がいけないんだろう。なんで殴られたんだろう。神父様に聞いてみよう。
アレクはそう思い、痛む頬を抑え教会へと帰った。
そして足りない頭を必死で使い、神父様の話でアレクに分かったことは「ちい」とやらが足りないからキャシー ーー神父様はキャサリン様と呼びなさいと言っていたーーとは「けっこん」どころか触ることも出来ないらしい。それを手に入れるには騎士様になって、敵を沢山倒して物語に出て来るような英雄になれば「きししゃく」になれる。それならば「けっこん」出来るかもしれないと。そうなるには毎日頑張って剣や武術、勉強をして、王都で騎士の試験に受かればいいんだと聞いた。
アレクのそれからの毎日は、キャシーと遊んでいた場所で剣の素振りや走りこみ、村に派遣されている兵士や騎士に特訓をしてもらったりと騎士になる為に全てを捧げた。訓練中にキャシーが来るかもしれないと選んだいつもの場所へ、彼女が来ることは終ぞ無かった。




