本の国にアリス
止まらない自分の胸の鼓動が遠くから聞こえてきているような不思議な感覚に襲われた。
本の国にアリス
「アリス。絵本読んであげるわ。」
小春日和とでもいおうか。今現在の日和を示すようなこの、のんびりとした姉の思考回路はどうも苦手だ。面倒くさい上に面倒くさい。
日曜日ということで、久々に姉と二人っきりで庭で寛ぐというこの状況は…
まぁいい。
が、さっきから姉に
「ねぇ。読んであげるから。ねぇ。ねぇったら。」
と、絵本を聴かされることを必要に迫られるという状況は遠慮しておきたい。しかし、それがわたしたちの日曜日。
「その絵本、庭で寛ぐたびに聞かされてるんですけど。」
「だって、主人公の名前なんかアリスとお揃いなのよ!?これってとっても珍しいことよ。なんども話したくなるじゃない!!」
「その理由も何度も聞かされてますし、何度も言いますけど、わたしの名前はその絵本から姉さんがとってわたしにつけたんでしょう。」
ここで勘違いしてほしくないのが、わたしは姉が嫌いなわけじゃない。どちらかといえば好きだし、家族として大事に思っている。…ただ、苦手なだけだ。
「この絵本の原作には主人公のお姉さんや、妹も出てくるのよ。ほらね。アリスにぴったりじゃない!!」
ほう。その話は初耳だ。
しかし、ほらねと言われても。
…姉の日和にあてられていると、睡魔が襲ってくる。普段の忙しさが嘘のようなこののんびりさ加減。それでも、毎度言い返すわたしは我ながらに偉いと思う。
姉としては、いちいち言われ、いちいち言い返すのが好きなようだ。
因みに何度も聞いてるとは言ってもまともに聴いたことはない。必ず話の途中で眠ってしまうからである。
「…!!何なの!!もうっ…また…その口の利き方は!!!」
このセリフも何度か聞いたことがある。だが、絵本を読み聴かせる場で言われたことはなかったように…思う。
「…いいじゃないですか、敬語ぐらい。」大きな欠伸をしつつ答えた。
最初に言われたときは失礼な言葉遣いをしてしまったかと、驚いたが、むしろその丁寧な言葉が姉の感情を怒りに導いてしまったらしい。今はそのときに比べるとかなりラフな口調、態度になってるはずだが、まだ不満があるようだ。…それにしたって怒り過ぎだ。
まだ、なんか言っている…。ああ、もう無理だ。そこでわたしの思考は途切れた。
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…ん?
―おはよう。どうしたの?
わたしに…わたしに姉などいたかしら?
―いないよ。
では何故?
―夢だから。
ああ、そう。…ん?あなたは…?
―また忘れたの?
ああ、花、ね。
―そう。花。でも忘れてたんだね。酷い。
ご、ごめん…。
―いいよ。許してあげる。その代わりにあなた…を…い…。
え?ごめん。もう一回言って?
―…あなたの命をちょうだい。
え…?
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初めての投稿です。力不足ですが、生温かい目で見守って頂けると幸いです。