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布団脱出ゲーム

作者: lukewarm



 目が覚めたのは午前5時。アイフォンのアラーム機能がいつものように「おはようおはようおはようおはよう」と大きな音を鳴らし、俺を起こし続ける。仕方なく眠たい体に鞭を打ち、画面をスライドさせ、アラームを止める。


 日曜日の朝に起きるのは正直つらい。平日は部活動の朝連で早く起きることは習慣的に慣れているが、休日はまた別の話だ。休日ぐらいぐっすり寝ていたい。遊びの約束なんかするんじゃなかった……。今更になって深く後悔する。


 先週の金曜日、友人に釣りに行こうと誘われたのがきっかけである。朝早く行ったほうが昼間よりも少なくて、釣りやすいんだとかなんとか。今思うと、この最高に気持ちのいい時間を削ってまで、本当に魚を釣りたかったのか疑問である。もう正直魚とかどうでもいい。しかし約束してしまったものは仕方ない。俺は重たい体を起こそうとしたその時、


「出てっちゃうの……?」


 布団が甘えた声で話かけてきた。俺はその声に誘導されるかのように体を元の体制に戻す。布団もこう言っているんだ。仕方ない。布団が寂しがっちゃうし。集合時間は6時だから、準備さえ早く済ませてしまえば、まだまだ寝ることができる。俺はアイフォンのアラームを5時20分にセットし、再び寝ることにした。



 目が覚めたのは午前5時20分。先ほどセットしたアイフォンのアラーム機能がなり、「おはようおはようおはようおはよう」と再び大きな音を鳴らし、俺の睡眠を妨害してくる。俺は慣れた手つきで画面をスライドさせ、アラームを止める。


 なんでこんなに朝って時間が早く過ぎるんだろう。毎回そう思う。気分的には3分ぐらいしか経っていない気持ちなのに、20分も経過しているのだ。普段授業を聞いている時に、このスピードで時間が進んでくれたら、世の中の学生はどれだけ喜ぶだろうか。朝の時間と授業の時間を入れ替えてほしい限りである。今度神様のお願いしよう。


 そんなことをうだうだと考えていたら、時刻は5時30分になっていた。流石にもうそろそろ起きて準備をしないと、遅刻してしまう。俺は眠たい体に鞭を打ち、体を起こそうとした。その時


「出てっちゃうの……?」


 布団が再び甘えた声で話かけてきた。俺はその声に誘導されるかのように体を元の体制に戻す。布団は呼吸に合わせるかのようにぴったりとくっ付いていた。ああ。布団もこう言っているんだ。もう少しだけ寝ようかな……そう思ったが、友達との約束を思い出し、半分閉じかけていた目をこじ開ける。


 睡魔に負けるな、俺。遅刻したらまたなにか言われる。以前にも遅刻したことがあり、友人から何度か怒られたことがある。「今度遅刻したら飯奢れよ」そう言われた事を思い出した。こんなことで金が飛ぶのはだいぶ痛い出費である。気持ちを改め、俺は布団から出ようとした。


 しかし、体が全く動かなかった。


 どういうことだ?体が全く動かない。布団が全身を包みこむようにして離さないのだ。布団も「行かないで!」と泣き叫んでいる。必死に体を動かそうとするが、ピクリとも動かない。……これは困ったことになった。布団から出られなくなってしまった。


 俺はどうすれば、布団から脱出することが出来るかを考えてみる。選択肢その1。力づくで抵抗する。しかし暴力はよくない。布団が可哀そうだ。普段お世話になっている布団に対して暴力を振るうなど考えられない。この選択肢はないな。


 選択肢その2。他人に起こしてもらう。しかし、この選択肢の問題点はわざわざ大きな声で出して「起こしてー!」と言わなければいけない点である。何なんだこいつ感が否めない。しかもこの時間に家族を俺の声という騒音で叩き起こして、起こしてもらうというのも変な話だ。この選択肢もなしである。


 しばらく考えてみたが、良い考えは何も思いつかなかった。これだけ考えていい案が出ないのだ。一生起きることはできないんじゃないのか。そう思った。布団も嬉しそうに「えへへ」と笑いながら俺にくっ付いている。しかし、何とかして起きないと友人に飯を奢ることになる。どうしたものか……その時布団が話かけてきた。


「私と一緒にいる時間と釣りどっちが大事なの……?」


 俺は悩んだ。どっちが大事かと言われれば勿論布団と一緒にいることだ。釣りなんて、正直もうどうでもいい。しかし友人との約束を何度も守ってこなかった事に多少の罪悪感はある。布団は大事だが、友人も大切だ。やっぱりここは起きることにしよう。俺は必死に体を動かそうとする、だがしかし。


「やだ……行かないで!!!」


 布団が必死に抵抗する。


「離すんだ!……俺は行かなきゃダメなんだよ……!!」

「嫌よ!!あなたともっと一緒にいたい!」


 俺だってずっとお前と一緒にいたいさ。でも仕方ないんだ。いずれ離れなければいけない時がくる。今がその時だ。俺も布団に対抗するかように体を動かす。先ほどとは違い体が少しだけ動く。これなら起きることができそうだ。俺は重い石を持ち上げるかのように、掛け布団を徐々に動かしていく。俺の体は半分出かかった状態まで来た。しかしその時


「用事ができたって言えば……?」


 布団が悪魔の囁きをしてきた。たしかにその案はありだ。用事ができたって言えば布団と一緒にいることができるし、飯を奢らなくて済む。でも……これ以上友人を裏切っていいのか?俺は悩んだ。


 しかし俺の気持ちとは裏腹に手が勝手に動き、アイフォンを操作している。くそ!俺の手!何勝手に動いてやがんだ!!!気がついた頃にはメールの文章が完成してしまい、送信ボタンを押すところまできてしまった。


 何やってんだよ俺の手!友人を裏切るつもりか!!!


 …………だが、気持ちとは裏腹に俺の手は送信ボタンを押す。


 あーあ。やっちまいやがった。


 しかし……いいんだ、これで。俺の手が勝手にやったことなんだから。


 俺はその日ずっと布団と過ごした。


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― 新着の感想 ―
[一言] そうか! 寒くて眠くて自分が布団から抜け出せないんじゃない! 同衾している布団ちゃんが甘えてなかなか離してくれないから寝坊してしまうんですね!
[良い点] 上手い。嫉妬するほど表現が上手い。 朝のあの苦悩が見事に表されていて、高尚な文学大作を読んだ後のような感覚に捉われました(笑)
[一言] 朝の訳わからない葛藤を例えるのならこんな感じなんだろうなと思い読んでて思わず口角が上がりました
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