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Nightmare Knight II ―Dragon's blood―  作者: tillé.o.fish
プロローグ Memory.(記憶)
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1/2

I

 伸ばした手すらかすんで見えるほどの、ひどい吹雪だった。

 フード付きのマントに身を包んだ一団は、轟々と吹き付ける横殴りの風にも負けず、力強い足運びで、ただひたすらに吹雪の雪山を登っていた。

 数は、五人。

 そのうちひとりは、まだ物心ついたばかりの幼子おさなごで、先頭を歩む男の背にしっかりとしがみついていた。

 絶壁に挟まれた山の谷間に差し掛かると、途端に風は穏やかなものとなった。

 幼子は空を見た。空はまだ荒れていた。ここは、なにか不思議な力で守られているのかもしれないと、子供心にそう思った。

「もうすぐだ。頑張れ」

 男は幼子を背負いなおすと、先へと続く真っ直ぐな一本道を歩みはじめた。

 ほどなくして、一団は歩みを止める。目的地に着いたのだ。ここが旅の終着点。

 幼子の目の前には、とても大きな洞窟があった。洞窟には針のように尖った岩が、上から、下から、何本も突き出ていた。

 ――怪物がぼくたちを飲み込もうとしてる。

 寒さとはまた違った震えを、幼子は感じていた。

 一団は洞窟の入口に立つと、やれやれといった様子でフードを脱いで、マントの雪をはらう。彼らは鉄の鎧を身にまとった、国一番の騎士団だった。

 彼らに続いて父も幼子を降ろすと、フードを脱いで、そして幼子のフードに手をかけた。同じ色をしたブロンドの髪がふたつ。二人は親子だった。

「よいか」

 父はしゃがんで幼子に目線に合わせた。

「この先には、とても大きくて、恐ろしい生き物がんでいる。しかし、どんなに大きくても、恐ろしくても、決して怖がってはいけない。……約束できるか?」

 ゆっくりと、一語一句噛み締めるように、幼子に言い聞かせる。

「団長。やはりご子息には早すぎるのでは?」

 彼らのうちのひとりが、父に声をかけた。彼は、父に意見するなど恐れ多いと思いながらも、言わずにはおけなかったようだ。

「だからこそ連れて来たのだ。この子には見せておく必要がある。そして、知る必要がある。きたるべき日に、恐れず、彼と対話するために。ローデンハイムのごうと、我ら一族の呪われた血筋をな」

 父は彼らと話すとき、いつも難しい言葉を使う。それから彼らは、父が話すのをとても大切なことのように、真剣な表情で聞いているのだ。

「なに、アレもこの子を取って食おうなどとは考えまい」

 そんな父にしては珍しく明るい口調だった。父は立ち上がると、彼らに向かって、意味ありげな笑みを浮かべた。

「ゆくぞ」

「はっ!」

 父が号令をかけると、彼らはすぐに規律を正した。

 一団は松明を掲げ、洞窟の奥へと歩を進める。幼子は父に手を引かれ、その後ろを彼らが続いた。

 洞窟のなかは入口と同じで、相変わらず尖った岩があちこちから突き出ていた。幼子は何度かつまずいて転びそうになったが、そのたびに父が手を引っ張りあげてくれた。

 洞窟の奥には、とても大きな空間が広がっていた。

 天井には、入口の大口にも負けない大穴がぽっかり。空から光が差し込み、雪がしとしとと降り注いでいた。

「あれが見えるか?」

 父は空間の中央を指差していた。そしてそこには、石造りの祭壇があった。どうやら、人の手で造られたものだった。

「お前はここでみなと見ていろ」

 それから、父はしゃがんで幼子の両肩に手を乗せた。

「よいか、なにが出てきても……決して大きな声を出したり……逃げたりするな。約束だぞ」

 父と幼子は、互いの拳をとんっと軽くぶつける。二人だけの秘密の合図。男と男の約束だ。

「息子を頼む」

 父は幼子を彼らに託すと、ひとり、祭壇の前に立った。

「聞こえているか、魔物の王よ!」

 両手を広げ、天に向かって声を張り上げる。

「我ら一族との誓い! 新たに交わすため、我はここへ来た! 聞こえているか! 聞こえているならば、姿を見せよ!」

 父の声が天の大穴に吸い込まれるように消えていくのを、幼子は見ていた。

「なんも起きねぇな……」

 ささやき声でぼやく彼らを、別の彼らがしぃっと静める。

 ふわり。

 幼子のさらさらとした髪を、風が撫でた。

 天井の大穴から、風が吹いたのだ。

 ふわり、ふわり。

 風はリズムよく、そして大きくなる。

 ふわり、ふわり、ばさり、ばさり。

 それは、とても大きな羽音のようだった。

 音が大きくなるにつれ、風はどんどん大きくなる。

 いまではもう、外の吹雪にも劣らない強烈な風となっていた。

 幼子は空を見る。

 羽音の主は、天井の大穴からやってくるのだとわかったからだ。

 空から降りて姿を見せる羽音の主。

 幼子は一瞬にして、その姿に心を奪われていた。

 全身を覆うかたい鱗と、巨大な翼。

 着地の衝撃に大地が揺れるほど、信じられないくらい大きな生き物。

 幼い瞳は、それをじっと捉えて離さなかった。

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