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突撃、隣の龍神国

―――龍神国、王の間


「暇じゃのう暇じゃのう」

「慎んでください。以前あなたがお忍びと称して誰にも内緒で城下へと出向かれた時には国の上層部がパニックで政治もままならなかったのですよ?」

「そんなグダグダ言わずともわかっておるが、わしがおらんだけで政がうまく回らんとはのう……」



 豪華で華美な装飾が施された王の間で談話するは2人。

 片や従者の格好をした女性、片や幼女と言っていいほどの年齢に見える女の子。

 もし、この国の国民がこの幼女を前にすれば平常ではいられないだろう。

 なにせ自分達が神と崇め、国を造り、未だ国王の座に就いてもらっているはずの、

―――龍神なのだから。



「なーんか面白いことないかのう!」

「ありませんよ、そんなもの」

「んむ?何か来るの」



 龍神と従者が何度目かわからないやりとりを交わした時だった。

 1000人以上は収容できるであろう王の間、何もそんな数が謁見に来たことは無いが、そのちょうど真ん中に位置するであろう床に幾何学的な魔法陣が浮かび上がった。

 それを一目見た従者は素早く悟った。



(術式の構成が全く持って皆目見当のつきようも無い高度な物……!!危険すぎる!)



 龍神国にて龍神の従者をする、というのは中々にエリートな職業なのだ。

 従者を目指す者にはそれ相応の試練と言うものも与えられるし、術式を一発で看破する能力だって備えていなければいけない。

 のだが、全く持ってその術式の構成を読み取ることはできない。

 従者にとってこんなに高度な術式を見るのは2度目、であった。

 その1度目というのも、実は龍神が1度だけ術式を使うのを拝見したことがあったというもの。

 その神の英知が存分に尽くされた様な術式は読み取ることすら許してもらえない。

 それと同じ現象が、今、目の前で、起こっていた。

 つまりは、この王の間に術式を発動させたのは龍神に近しい力を持った者、ということ。

 例え、国を挙げて祭り上げている龍神とて相手の力次第では殺されることもある、ということは従者も把握していた。



(……おそらく、相手は他界の神……!!)



 近年、周辺諸国が軍国化している。

 それも平和条約を結んでいた国々が一斉に開戦宣言をし始めたのである。 

 従者が龍神に聞くところによれば、おそらくは他界の神の仕業、ということであった。

 それを聞いて従者は、その神を倒せば周辺諸国を元に戻せるか、と龍神に問うた。

 対して龍神は、可能、と返した。

 しかしながら。

 この現状を打破するべき術、否、打破できるであろう神、は遠い昔に失われてしまった、ということを苦い顔で龍神が言っていたのも従者は聞いていた。

 つまりは他界の神、という相手は龍神ですら適わない強大たる存在であることを示していた。



(初撃、初撃だけは防いでみせる) 



 従者はそう考えて自らの体に守護の術式を多重展開していく。

 初撃さえ自らが防いでしまえば、後は龍神が逃げるなり攻撃するなりの選択肢を取れるだろう。

 少なくとも初撃を龍神が受けてしまえば選択肢は狭まる、ということ。

 なんとしてでも、この身が焼かれようとも、主人たる龍神を守り抜く。

 そういう死にゆく者の覚悟を従者はしていた。



「お下がりください、私が出ます」



 従者は手で龍神を制し、自分は前を向いて相手の出方に備える。

 しかし、龍神たる幼女は従者の声も聞こえなかったかのように自分の世界に没頭していた。

 それに従者は気づく気配も無い。



「いや、この術式の構成文、どーこかで…、もしや、いや違う、しかし、んんん……ッ!」



 そう龍神が口に出したところで従者はようやく龍神がこの術式について何か思うところがあることに気づく。



「龍神様、もしやこの術式を展開させた主に何か心当たりが……?」

「待て、今思い出す…………そうだ!思い出したぞ!!シンヨウが使っていた術式だ!!」

「シン……ヨウですか?」



 従者が龍神へと聞き返そうと目を前方の術式から離した途端、

―――その術式はようやく起動された。

 幾何学的な魔法陣の中心に何かが生成されていく。

 それは足、それはふともも、それは腰、それは腹、それは胸、それは肩、それは頭。

 順々に2人分の体が構成されていく。

 そうしてその術式が役目を終えた時、最終的にそこに存在するのは。



「……よう、久しぶりだな、龍神サマ」

「ッ!!何奴!」



 男1人とメイドの女性1人。

 龍神の知り合いかもしれない、という前情報は従者の頭から消し飛んでいた。

 前もって予想していたことをいざ、本番になってみるとテンパって頭の中から消え去っているのと同じ様なもの。

 なにせ、男の方はともかく、メイドから発せられる雰囲気が常人のそれを凌駕している。



―――この女は危険だ。



 心のそこからそう思わせる雰囲気。

 立っている、というだけで消し飛ばされそうな雰囲気。

 まるで自分は猛獣の目の前に狩り出された鼠のようではないか。

 従者はそのメイドの前に立つだけで心が折れそうになっていた。

 第一、この王の間というのは何重にも龍神自らが手がけた防衛術式が仕込まれているのだ。

 従者は巧妙に仕掛けが隠されているその術式の数々に気づくことはできなかったが、確実に防衛術式は存在しているのだ。

 この世に生きとし生けるものに突破できる手段など無いはず、心の中でそう驕っていた自分が居た。

 龍神とは見た目は幼女であれ、神であることに変わりは無い、そう思っていた。

 しかし、龍神自らが言っていた通り、神とは無敵の意ではなかった。

 現に神が施した防衛術式が破られている。

 なんという強大な相手、だkらこそ、だからこそ。



―――ここで自分が犠牲になっても龍神を逃がす。



 そう従者が考え、新たな術式を展開しようとした瞬間。

 目の前の男が不敵な笑みと共に手を上げて言った。



「今日来たのは他でもない、龍神サマに頼みを聞いてもらいにきただけだ」




 * * * * *




 と、龍神国まで自前の術式でひとっ飛びしてみたものの。

 従者の方が完全に白野を警戒している。

 もっと言えば金髪ロングのナイスバディ姉ちゃんがめっちゃこっち睨んでる。

 体には防護術式、手には展開しかけの攻撃用の術式。

 白野にとっては果物ナイフと同等か、それ以下なのだが、綺麗な女性に睨まれるとは精神的にクるものがある。

 羞恥から睨んでいる、とかだったら白野も興奮したかもしれないが、相手には白野への殺意ビンビンである。

 よくよく考えれば、他国の王の間にいきなり侵入した時点で割と大罪に当たるのだが、それを白野が自覚する術も、それを白野に教える人もいない。

 さらに、この状況。

 主たる龍神が従者に一言「やめろ、そいつは自分の客人だ」との旨を告げればこの警戒も収まるのだろうが。



(あの野郎、俺との再開で感動しすぎてそこまで頭が回ってねえ!!コンチキチョー!!!)



 頭をワシワシと掻きながらレイヤのほうを向く白野。

 どこか疲れた様子で白野は口を開く。



「こりゃやっぱ一国の王が座する最重要区画に転移するのはマズかったか?」

「いえ、貴方様が立入を禁じられる場所などこの世界のどこにも在りません故」

「んな横暴な神が通るのか?」

「貴方様だからこそ通るんですよ」

「なるほど、納得させられ……るわけないだろ!」



(神だから何でもしていいってわけじゃないんだぞ、全く……全く)



 ちょっと怪しい白野であったが、それにレイヤが独自の謎理論で反論するよりも先に口を開いた者がいた。



「貴様等、ここがどこか知っての狼藉か!その身をもってその許されざる罪を贖うがいい!!」

「あっ!待つのじゃ!!」



 威勢よく従者が啖呵を切ったその直後、従者の突き出した手から合計3本の黒い鎖が勢い良く此方に向かって襲い掛かる。



(ていうか遅い、全体的に制止命令を下すのが遅いんだよ!!もっとはやく止められたハズだろ!!もう完全に俺罪人扱いじゃないか!!!しかもあの従者も従者で、話し合いもクソも無しで結構でかめの術式をぶっ放してきやがったしね!!)



 見た目は地味、だがあの鎖全てが突き刺さればと大抵の者では無事では済まないだろう。

 白野はそれを見て口を引き攣りそうになる。

 もっと、こう、生かして捕らえる、的なアレはないのか、と白野は内心毒づく。

 ここまで従者を駆り立てる原因が何か別にあるのか、と周りを軽く探ってみて白野はようやく気づいた。



(レイヤ、お前がずっと威嚇してたんかーーーーい!!!!!!!)



 白野や龍神くらいになるとその程度の気迫は威嚇にも含まれないレベルであったが、常人には少しきついレベルである。

 おそらくは俺に威厳を出すために、従者はこんなに強いんだから主の俺はもっと強いぞー、みたいなことをやりたかったんだろう。



(絶対これ、俺のほうが付属品みたいになってるよな)



 まあ、それ抜きとしたって、王の間への侵入は許されざる大罪であった、という事も加味しなければならないのだろうが、8割方レイヤのせいである。

 と、白野が一人心の中でツッコミをしている間にも鎖は白野の眼前に迫っていた。

 しかしながら、その程度の、お子様ナイフにも劣る、術式は、白野には届かない。



―――神を縛るだなんて少しおこがましい、とは思わないか?



 白野は右手を前に突き出す。 

 そしてその右手からは、流れるように術式が紡がれる。

 右手の術式は一瞬で完成し、白野は術式を起動させた。



―――「爆ぜろ」と。



 途端、甲高い音共に先端より爆発四散していく漆黒の鎖、目を見開く従者。

 従者の心の内は正に青天の霹靂、何故、どうして、という感じであろう。



(これだこれ、この快感!)



 頭から体の隅々まで行き渡る快感。

 久しぶりに味わうこの感覚がアドレナリンの分泌が身体全体を刺激する。

 これが白野の(悪)趣味の1つ。

 見下してる相手の顔を驚きに染めること。

 今回はレイヤの方を親玉と思ってくれていたのだろう、俺はそこまで重要な相手でもないと従者は判断していたようだ。

 ちなみに、この趣味は白野を古くから知る者は全員口を揃えて悪趣味と非難するのだが、白野は聞く耳をもたない。



(それにしても、俺の趣味を一発で当てるとは龍神国、侮れんな)



 従者がまんまと白野の趣味ど真ん中を突いてきたことから、見当違いの考えを抱く白野に対してレイヤが白けた眼で見てくる。 



「主様、お顔が少々お崩れになっておりますが」 

「わかってるけどどうにも抑え切れないんだって」

「あまり威厳を損なうようなことは控えてください」

「わかってる、わかってるよ」



 呆れた様子で顔を横に振る半眼のレイヤ。

 それに少しムッとする白野だが、自分の趣味が悪趣味だと言うことは一応理解しているため怒ることはできなかった。

 さらに2人には存在を忘れ去られそうになっているが、従者はこうも簡単に術式を破壊されたことからかなりのショックを受けていた。



(まあ、あの鎖は中々に俺の術式を再現していたもんだったけど……そもそも3本ともが鎖だったり、色々と不完全すぎるところが多い。要修行、頑張れ金髪ナイスバディ従者)



 すこしは梃子摺るとでも思っていたのだろう、土俵にも上がることを許されていなかったのだ、仕方があるまい。

 いくら心では龍神と同格、と思っていようが真正面からやられると割とショックを受けるらしい。

 従者は今現在、二手目を必至にひねり出そうとしているが中々決めあぐねているようだ。

 だがそれに態々付き合ってやるほど白野も暇ではない、白野は当初の目的を晴らすことにした。





「それじゃ……改めて、よう、龍神。白の神として龍神に頼みがあってきたんだが」



 不適に笑うその笑みは到底神には相応しくない悪辣な笑みであった。

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