積み木を壊すもの
白野の問いかけた問いに対して、質問するのを予測していたのであろうレイヤはどこからかボードを持ってきた。
そのボードにはこの世界の大まかな地図が貼り付けられていた。
そしてどの国も赤い丸で囲われ、注意書きが幾つもしてあった。
「そうですね、神である貴方様を差し置いて、この国の裏では他界の神による戦争をけしかける計画が目下進行しております」
「あー、やっぱり俺の考えたとおりかー」
「ええ、両種族間の友好に亀裂は現在一切走っておりません、が、どの国も上層部のみが暴走しております」
「上層部自体の狙いは資源か?」
「ええ、鉱山、腕の良い鍛冶師、水産物、農産物、家畜等々は戦争で勝てば大量に手に入るものですからね」
「大量に召喚された勇者とでもいうべきか、高校生達約1000人は戦力目当てってのは知ってるんだけど、よく大量の犠牲が必要になる異世界召喚にまで踏み切ったな」
「1000人という数が召喚されたのは上層部にも予想外だったようですが、邪魔な者を切り捨てて上位界の資質持ちを手に入れられるのならば、という考えのようです」
ここまでくれば頭痛がしてくる白野。
そんな考えで命を切り捨ててまで、他の世界の一般人に戦争を任せるというのか。
(神さんがどんだけ頑張っても争いは無くならないという事か……)
たとえ、それが第3者による犯行の結果だったとしても。
この世から悪を排除なんて事はできない。
排除すれば世界は成り立たない。
悪なしに善は存在し得ない。
悪の全く無い全てが善なる世界があったとしよう。
そこにあるのは退屈と自我の崩壊へのカウントダウン。
そもそも悪が無ければそれを善と定義できるのか。
(他界の神の介入確定。速やかに敵の力量を測り次第ぶっ殺す)
せっかく中々、良い感じのバランスをこの世界は保っていたのに介入されてグチャグチャにされた。
横から積み木の王国を崩された気分だ。
戦争が起こって技術が衰退する問題点。
それも前任の主神が解決策を用いたために解決することができた。
せっかくなにもかもがオールグリーンとうまくいっていた世界だったというのに。
(なにも神罰の与えられる対象に神は入っていないだなんて定義は無い。この世界じゃ俺がルールだ、世界を崩した罪を贖ってもらうぞクソ野郎!)
白野の中々普段は持ち上がらない重い腰が上がった。
すなわち、それが意味するのはこれより起こるのは白野の一方的な神罰。
相手が誰であろうと構わない、不可避の断罪である。
それとついでにあれも聞いておこう、と白野は聞いておくことにした。
「王国のやつらが上位界からの召喚に使ったであろう大量すぎる生贄はどっから用意した?」
「国民の中でも王族に反抗的な国民の多い領地の領民が大量に消費されているようですね」
「いくらなんでも他の国民に反発を食らうんじゃ?」
「なにやら最初から居なかった、という強い催眠に国全体がかかっている様です」
「十中八九他界の神の手引き、成程、胸糞悪い」
白野は胸の内に思った。
その神は確実に殺さなければならない、と。
先程まで、他界の神との関係が無ければ手は出さない、と言っていたが結局は手を出していたのだろう。
落とし所で手を差し伸べるくらいのことはやったかもしれない。
白野は本心では戦争を嫌っているからだ。
そして今回、その他界の神とやらは白野の大嫌いな戦争を引き起こした張本人。
確実に殺す、と白野が考えてもおかしくは無いことだった。
白野の王国に対する悪感情と共に急速に王国全土に対する神からの祝福は失われていく。
神の祝福とは凄いもので一度祝福されれば豊作の年となる。
白野のこの世界全土にかけていた祝福の内一部分だけが急速に薄れてゆく。
祝福が急速に失われる、ということは、来年の収穫率は確実に眼に見える単位で下がっているだろう。
他界から来て滅茶苦茶に掻きまわしてくれた神は今頃慌てていることだろう。
何せ自分の囲っている国の祝福の加護が急速に弱まりつつあるのだから。
(ここまでしておいて祝福なんてものを受け取れると思うなよ)
「ええ、まったく。王室は特に戦争推奨派であると聞きます」
「やっぱりあの皇女様も腹黒ってことか……今の国王は誰?」
「マックリオ3世、なかなかに肥えた豚のような巨漢で、過去最低の支持率を誇っている稀代の愚王のようです」
「うん、そのまんまみたいな名前だし、容姿から嫌なオーラしかしないなそいつ」
自ら悪役です!とでも宣言しているかのようなスペックぶりに感嘆する他ないだろう。
よくそんなに悪ステータスを揃えられたな、と。
(……そうだな、この国が行った異世界召喚なんていう暴挙を理由にあそこの国に眼を光らせて貰おうか。どうせあいつのことだから洗脳なんかされるヤツじゃないし、殺さてれるなんてのも有り得ないだろ)
方針が決まったとなれば善は急げだ。
「とりあえず方針が決まった」
「上層部を壊滅いたしますか?」
「怖いなお前!そこでそんなこと覚えたって言うんだ……?」
「過去の貴方様ですよ?」
「ああ…そうか、そういえばそうだったな」
過去に自分がしたであろう諸行を思い出し赤面、なんてやってる場合ではない。
とりあえずどこの世界から来たのかを探る。
敵の情報は万が一に備えて多いほうが良い。
敵も神、白野も神。
どんな神にも白野は殺せないだろう、が殺せなくとも封じる手段はいくらでもある。
だから相手の手札を、正体を探る。
そのためには少しばかり時間が欲しい。
「さあ、いくか。時間が惜しい」
ソファから立ち上がった白野は足元に転移の術式を展開させて行く。
そもそも他人の領域内で、しかもレイヤほどの実力者の領域で、転移の術式を展開するなど神の所業にも等しい行為なのである。
まあ、神なのだが。
「お出かけですか?」
「ああ、龍神国までな。……着いてくるだろ?」
「愚問です。私は貴方様のメイド、地獄の果てまでもお供いたします」
それはまたオーバーな、と考えたあたりで本当にやりそうだと思い白野は苦笑する。
そして次の瞬間二人は足元に展開された術式より転移した。
目的地は龍神国、王の間である。