我がメイド
メイドの後を着いていくと、そこは廊下の突き当りに位置する部屋だった。
白野はメイドが錠で開けてくれた部屋の中に入り、メイドに別れを告げようとする。
が、もう既にそこにメイドは居なかった。
「んな、」
「随分と私のことは忘れ去られているようですね」
後ろを振り向くと、もう既に部屋の中に先回りしているのは、かつて白野専任のメイドだった女性。
先程廊下を案内してくれたときとは違う、銀髪に白野がデザインしたメイド服、すらりを伸びた足に細いウエスト。
男性が完璧な女性を求めたとしたらこうなるのか、と思わされるほどのビジュアル。
それは白野にレイヤ、と呼ばれ絶対の信頼を置かれていた完全無欠のメイドさんであった。
「そんな、ことは、ないぞ……?今だって呼ぼうとしていたわけだし……?」
指に展開した術式を見せる。
この術式は昔、レイヤのみに知らせて置いた非常用の連絡術式。
レイヤならば見ただけでわかるだろう、との期待を込めて見せたのだが。
「私の変装を見破れなかった時点で失望しました」
「ん、んな心にも思ってないことを」
半眼で白野を睨むレイヤ。
レイヤは、ちょっと焦っている白野の顔を見つめて静かに笑うと。
どこのメイドと比べても引けを取らない優雅なお辞儀で白野を出迎えた。
「随分とと長い間お待ちしておりました。我が主様」
「心配させたなー……ってなんだよ」
目の前に現れたメイド服の女性は唐突に俺の手を取ってジロジロと眺め始める。
「いえ、以前よりも細くなったのでは?と思いましたので」
「んな過保護な…お前は俺の母親かなにかかよ」
「私は貴方様の忠実なるメイドで御座います」
至って真面目にそう返してくるメイドに頬をかく白野。
「お前はホント世界一俺に世話焼くメイドだもんな…」
「当たり前です」
「でもまあ、変わりなさそうでなによりだよ。レイヤ」
「ええ、貴方様も」
変わりなさそうに見える知己に向かって微笑を向ける白野に対してメイド服の女性も微笑みを返してくる。
この完璧メイドは、なんやかんや白野にとってこの世界で最古の知り合いである相手だ。
「さてと……今世界情勢ってどうなってる?皇女様とやらの話だと完全に裏になんか臭いのがいそうでな」
「ええ、お話します……が、環境を変えましょう」
「え?」
「貴方様ともあろうお人をこんな粗末な部屋に閉じ込めるなど笑止千万。私が白の領域へのゲートをお造りいたしますのでお話ならばそこで」
有無を言わさずレイヤは白野の服を掴み、宙にできた歪みのようなものの中へと引きずり込んだ。
「おいおい、いくらなんでもそりゃあ王国失礼だろ?むしろ千人近い人数の部屋を確保した上にあの品質での待遇は凄いと思うんだがなあ」
「それでも、です!この世界にて最上位の貴方様をあんな部屋では締まりが無いです!」
レイヤに連れて来られた空間は地球で言う最高級ホテルのスイートルームを模していた。
とりあえず、高級感漂うソファに身を落ち着かせる白野。
この白の領域という空間、これは白野が認めたものしか出入りのできない、白野が別次元に設けた白野の居城。
この空間は内部の者のイメージによって姿かたちを自在とする空間。
前よりも質が向上しているところを見るに……。
「俺が居ない間も精進してたんだな、レイヤ」
「当然です。主が居ないからと鍛錬を怠るのは三流のメイドです」
当然、イメージが鮮明であればあるほどに超精巧な空間となる。
このイメージを鮮明に、というものが以外と難しいものでここまでの品質は一朝一夕で出せるようなものでもない。
「前の空間も結構高品質だったのにな、あれより精巧なののは俺でも無理だろ……」
「お褒めに預かり光栄です」
白野は褒められて満更でもない表情を隠しきれないレイヤを見て暫く微笑んだ後、話を切り出した。
「さて、この国の裏は俺っていう主神に内緒で誰が糸引いてんの?」
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