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異世界召喚

 彼、白野には懐かしかった。

 彼にとっては世界に満ちている全てが懐かしいものだった。

 そこには地球とは決定的に違う何か、があった。

 彼、白野真陽が地球に送還された理由、とは何か?

 それは間違いなく、彼の嫌な記憶の中でも上位に食い込むような話である、とだけ今は言わせて貰う。




「次に皆様がお持ちである資質。これについてお話させていただきたいと思います」

「資質?」

「ええ、皆様全員がお持ちになられているものです」



―――召喚術式、というものは元来特別なものである。

 同じ世界なら大したリスクはないが別世界から、という条件が加味されると異常なほどに厳しいリスクが付き纏うのだ。

 まずは世界の構造について説明をしなければならないだろう。

 まず地球が存在する世界。

 これは別にちゃんとした名称があるのだが白野たちは地球、と統一して名称している。

 この地球は世界層第4次界層に位置する世界である。

 次にこの白野やクラスメイト、地球組が召喚された世界【アンダー=ノート】。

 この世界は第6次界層に位置している。

 白野は先代や違う世界の神から小耳に挟んだところによると、数字が少ない階層ほど、つまり昇順に世界の質というものが純粋に近いらしい。

 さらにこの数多にも枝分かれしている世界の中でも原初、頂点、主界【スピカ=ナオ】という第0次界層という世界も存在するのだが、今はおいておこう。

 この世界層、この界層の上の住人であればあるほど、下の界層の住人との資質の差、というものがついてくるのだ。

 これが皇女様が俺達に期待している項目であろう。

 さらにある条件でリスクが厳しくなる、と先程説明したが、これは下位界より上位界から異世界人を召喚した時、というものである。

 さらに第6次界層から第3次界層の異世界人召喚。

 この場合、異常なほどのリスク、つまり生贄くらいは普通に必要となってくるだろう。

 上位界からの異世界召喚を決行した者の意図は一瞬だけ、ほんの一瞬だけ垣間見ることができた。


―――魔王討伐ノタメ、上位界カラノ異世界人ヲ戦力トス。


 これだけの意図しか垣間見ることはできなかったが動機はわかった。

 魔王が統治するであろう魔国に対して戦争を仕掛ける、ということなのだろう。

 この世界での魔族という括りには魔人、魔物という存在が括られている。

 地球から来れば邪悪な存在にしか見えないだろう。

 白野ですら当初にその偏見は存在した。

 が、イメージにそぐわず―――豪快、繊細、几帳面、怠惰等の人間と変わらない感情を持ち、人間と変わらない愛を持つ種族である。

 白野が以前、この世界に来てこの世界を去る直前、魔族と人間の間では変わらぬ同盟の名の下に硬い友情で手を結び、貿易を行っていたと記憶している。

 さらには他の種族も同様に。

 早々時間が経ったところで破れないような絆が、そこには、あった、はずなのだ。



(はあ、なーんか裏に変なのがいるみたいだな)



 白野は思わず人差し指で側頭部をポリポリと掻いた。

 なにやら平和的世界であったこの世界に異物が紛れている感が拭えない。

 今現在、白野の頭にある予想は2つ。

 まあ、大体は見当がついている。



(戦力のアテにする、って言ってもさすがに召喚のしすぎだ。……召喚術式の文献が残ってなくてとりあえず大量の生贄を用意しました……ってか?)



 この白野の読み、正解である。

 まあ、この時点で白野に確かめる術はあることにはあるが、帰還したばかりのこの世界で何が背後に居るのかわからないのに博打に出る道理も無い。



(そもそも、俺は相手を軽視しすぎるきらいがある。主界に住んでいる遺物共が出しゃばって来てたとかなら面倒臭いしな)



 負けるという可能性は万に一も無いが、もし、主界の神を相手にすることになれば少々面倒臭いのである。

 なんてことを考えている合間にも、どんどん皇女の話は進んでいたようだ。

 後日、皇女様を主体とした資質確認のための修練の時間が設けられるらしい。



(どうせ天賦の才能だの、魔法だの、と持て囃されてよいしょ効果で調子に乗る事を予想するのは容易いな……まあ、君らは精々この世界に呑まれないようにな、下位界の人間は日々生きるのに必死なだけあって手強い)



 そう、日々命の危険がある下位界であるだけあってこの世界の人間は生への執着、勝つことへの執念が半端では無いのだ。

 どんな手を使ってでも覇者であろうとする様は美しくも見えるのだが。


(巻き込まれた側はたまったもんじゃないよなあ……俺は知らんけど挙げていくか……。)



 白野は神だが絶対に助けるという信念を持っているわけでもない。

 持っているのは神の力のみ。

 その力の指向性は与えられていない。

 白野はあくまで人から神になった身。

 つまりは自分勝手に生きるよ、ってことである。

 あまりにも残虐性の高いものなどには手を出すこともあるが、それらは全て白野の気ままな行動であり、義務ではない。



(生贄はどこから調達してきたのか……罪人がそんなに溢れかえるようにいるっていうのか?)


 ……一クラスを纏めて召喚するほどのリスク。

 別に今現在は介入する気は無い。

 この戦争を止めるとすれば別の神が東奔西走することなるだろう。

 もし、王国が無為に命を奪い召喚を行ったというのならば神としてこのまま目を瞑っているわけにはいかないだろう。

―――例え、悪と善、善と悪の公平さを欠いたとて。

 神罰の名の下、暴れることとなるだろう。



(しかし、他の世界からちょっかいかけられてるってんなら話は別、他世界の神との関係が確定した時点で殺す)



 人知れず白野のこぶしに力が入る。

 ふと気づいて、白野が顔を上げると皇女様の話もそろそろ終わりそうみたいである。

 ちなみに、この世界にステータス表なんて便利なものはない。

 自分の力を確認したけりゃ自力で発現しろってカンジの世界なのだ。

 これから自分の力を手探りで発現していく中、置いていかれる奴も出てくるだろう。 

 まあ、それも白野の知ったことではないのだが。



「では、世界情勢等のお話はここで終了とさせていただきます。各自お部屋をご用意させていただきましたので、ごゆっくりとお休みになられて下さいな」



 ……どうやら皇女様の話の後はとりあえず各自休憩らしい。

 御つきの者が順々にクラスメイト達を長い廊下へと案内していく。



(一人一部屋用意された部屋でゆっくり休養しろってことか、しめたぜ)



 しかし白野には丁度良い、一人きりになれる個室がちょうどほしかったところだ。

 ようやくの個室に浮かれ半分で自分の案内を担当するメイドに着いて行く白野。

 なんといったって白野はこの世界の神なのだ。 

 彼の知り合いなどこの世界にいくらでもいる。

 地球に例えると年末の年賀状をプリンター多重起動しないとやばいくらいいる。

 が、その中にちょっと連絡しとかないとマズい人物が数名いるだけなのだ。



(こっちに帰還しといて連絡も無しなんて殺されるかもな……あいつなら既に補足してそうだが)




 唐突に頭の中にメイド服で佇む彼女の姿を思い出し、少し冷や汗をかきながら白野はどこか頭の中の人物の立ち振る舞いに似たメイドの案内に従い、廊下を着いて行く。

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