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ラッキー

 皇女の言葉を受けて周りに再び喧騒が響き渡る。

 


「なんだよ驚かすなクソッ」

「本当に大丈夫なの?」

「ビビったわー」

「死にたくない」



 その反応は多種多様。

 しかしながら、今の言葉を信じたものもいれば信じられないものもいるらしいことが見て取れる。

 そんな中、白野は引き攣った顔をようやく元の平静な顔に戻して考えはじめる。



(正気か……?ヒナアに完全なトーシローを当てるなんて完全にいくらかの人数振るい落とす気か?)

(……しかし、彼女がたった今危険に晒すことはない、といった以上、死者や怪我人が出れば不満による反発は必至です。いくら素人集団とはいえ、全員が上位界から召喚された異世界人。大人数に暴れられてはこの城も無事では済まないであろうことは向こう側とて承知している筈です)



 ふと白野の頭の中にレイヤの声が響き渡る。

 これはお互いの考えの表層部分だけを相手に送信する心理系統の術式である。

 レイヤが主との意思疎通のためにその昔に適当に造った特に名前も無い術式なので両者は念話と呼んでいる、のだが。


 


(……レイヤ、念話できることを忘れていた俺も悪いが……なんでいままで使わなかったんだ?)

(いえ、たった今私も思い出したもので)

(……先程の背中へのやけに官能的なボディタッチ……)

(あれがはヒナアについてお伝えしただけです。触るのが目的などという変な言いがかりはやめてください。それよりも本題についてですが……)



 不自然なほどに急な話題変換。

 ていうか完全無欠のレイヤが念話の存在を忘れるなど万に一つも無いであろうことは明白なのだが、白野はここでレイヤを刺激しても得はないと判断して本題に入ることにした。

 またそれに対しレイヤがほっと安堵していることには白野は気づいてはいない。



(……そう、反逆という危険性が有る以上は無為に死なせることなんてできやしない筈だ)

(この実践訓練とやらで誰かの戦闘能力が目覚めるという可能性すらあります)

(皇女とその背後は何を考えてる?まさか本当に全員を危険に晒させない秘策でもあるっていうのか……)



「ね、ねえ」

「お、おい」



 無意識に顎に手をあて皇女をじっと見据えて考え耽っている白野は突然に横から話しかけられる。

 白野が横を振り向くとそこには、青い顔をした赤看と青束が白野の服を掴んでいた。

 おそらく無意識にやったことだろう。

 これからもしかしたら死ぬかもしれない、という死の恐怖に臆しているのだろう。

 死、という概念に対する恐怖というものはあらゆる恐怖の中でも最高位のもの。

 決して人間などという存在が抗えないものでもある。

 年を経るにつれて薄れてはいくのもでもある。

 しかしながら、最高位の恐怖。

 それが、未だ明確な形で意識していないとはいえ、自らが死を迎えるかもしれないという恐怖に二人は臆していた。



「怖いの?」

「こ、怖いに決まっているだろう!」

「クールそうだに見えるけど白野は怖くないの!?」

「僕は……そうだなあ……怖いかなあ」



 白野は己の死というものに対する恐怖について考える。

 白野は死が怖い。

 小学生のころ毛布を被って死について考えると唐突に闇に呑まれる感触が迫ってきて必要以上に死に対して怯えいた。

 逃れられない死に恐怖し、涙した。

 白野は常にその恐怖を胸のうちに宿してきた。

 多くの者が時が経つにつれ薄れてゆくその恐怖を常に忘れることのできない部類の人間だったのだ。

 だが、それも神と言う存在に成ってからは消えた感情である。

 死を恐れた白野だからこそ敏感に察知できる気配。

 死への恐怖という感情。



(懐かしいな、今となっては消えた感情……いや、今でも……)



「ちょっと、白野大丈夫!?」

「本当は気が悪いのか!?」

「だ、大丈夫だって。ちょっと怖くなっただけ」



 気が付くと白野は服の胸の部分を握り締めて顔を顰めていた。

 いつの間にか死について考えると同時、自らの精神をも削っていたようだ。



(……大丈夫ですか?)

(大丈夫だよ……少し持病がね)

(神たる貴方様を蝕む病がこの世に存在するとでも?)

(……ちょっとした精神的持病さ)



「ちょっと……白野?」

「……ん、なに?」

「ちょっとお前最近ボーっとしすぎじゃあないか?」

「考えることが最近多くてね……」



(まずい、ちょっと表に感情を出しすぎた)



 咄嗟に考えることが、なんて適当な答えを返したのがいけなかった。



「そんなに考えることがあるなら私達も力になろう」

「そうそう、なに考えてるのか知らないけど私達で力になるよ!」



(うわ……マズッ)



 白野が事実を話したところで、実は自分この世界の神様やっててー、この度見事に帰還させていただいた次第なんですけどーなんてこと言っても信じないだろう。

 そもそもこの2人に全てを話したところで何も力にはならないだろう。

 この世界について何も知らない女子高生2人など即戦力どころか戦力外通告だ。

 


(なんていいわけしよっかなー)



 と白野が考えていると2人はどんどん白野に詰め寄ってくる。



「ちょっ、近すぎ!」

「話すまで離れんからな!」

「そうそう!もう話しちゃって楽になっちゃえば?」



(何をッ!考えてッ!るんッ!だあ!!)



 些か近すぎる。

 花も恥らう乙女たる女子高生が凶暴たるフェンリルの如き獣を内に秘めた男子高校生に密着する距離ではない。

 白野は神は神だが一応は花も嫌がる男たる男子高校生だ。

 そんなことをされればどんな事案が発生するかもわからない。

 このままではヤバイ、と考えて白野は後ろに距離をとろうとする。



「うっわあ!!」



 が、しかしかかとが床にうまく引っかかったようで背後に大きく倒れこんでしまう。

 赤看と青束は白野に密着するどころか体重を預けていた。

 つまり、当然、2人もそれにつられて倒れ込んでしまう。

 ここで問題、この状態で倒れ込むと二人。

 下に白野、上に赤看と青束の男子高校生と女子高校生でできた現代風味のオブジェが今此処に完成した。



「うわ、わっ!早く2人ともどいて!」

「ちょっと、叶の、足が絡まって!」

「私は、白野の、腕に足が、絡まって、るん、だよ!!」



 倒れたときに絡まったのだろう。

 中々その拘束を解くことはできない。



「ここを、こうし、て」

「私がここで足を抜いて」

「僕はこのまま……」

「「「解けた!」」」



 3人で力を合わせてようやく立つことはできたのだが……。

 当然目立ってしまっている。

 完全に浮いている。

 もっと具体的に言うと周りから白い眼で見られている。

 さらには。



(お楽しみでしたね、我が主様)

(やだなあ。なんか声、冷たくない?)

(我が主様がそう思われるというのならばそうなのでしょう)

(もしかして……怒ってる?)

(いえ、そんなことはありません。決して我が主様が地球で言うラッキースケベという名の不幸に見舞われたことに対して憤慨しているわけではありません)

(う……そこでそのラッキースケベとかいう単語もってくる?)

(ええ、この世界に帰還してからの初ですね。初ラッキーですね)



 だいぶ昔にレイヤに白野が説明した適当な単語を未だに覚えているとは。

 メイドの記憶力恐るべし、である。



「え、えーと、静かになられたようなので説明させていただきます」



 白野達の行動により幸か不幸か場の喧騒が収まったようである。

 このタイミングをこれ幸いとどこか顔が紅い皇女が説明しようとする。

 どうやらようやく王国側の1000人余りの勇者達を傷つけることの無い作戦とやらを聞かせてもらえるらしい。

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