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とでも思っていたのか

(異世界へ帰還後のようやくの夜明けを迎えることになる。……と思ってたんだけどなあ)



 現在、白野がいるのは食事の際、クラス一同が会した大広間である。

 そう、何を隠そう時刻は夜中の3時。

 草木も眠る、丑三つ時である。

 城内の衛兵に熟睡していた白野達とクラスメイトは1人残らず全員が叩き起こされのだった。

 ちなみに、レイヤは例の如く、姿を隠蔽する術式を使用している。

 その叩き起こされた理由をクラスメイトを当然問いただした。

 しかし現時点では非常事態のため、としか兵士には聞かされておらず、詳しい説明は今からこの大広間にて皇女様直々に行われるという話であったのだが。



「いつまでたってもこないなあ」

「なにがあるんだろうか?」

「ホントこんな夜中に!お肌に影響が出たら困っちゃうじゃん!」



 相変わらずこの女子高生2人は自分のペースで生きているようで安心する白野。

 今はこんなにほのぼのとした状態……。

 だが、この後また不良達によるレイヤの刺激タイムが始まるのかと考えると……白野の胃が唐突にキリキリと痛み始めるのであろうことは容易に想像できる。



(それにしても……何があったんだ一体……)



 現時点でこの王国が危機に瀕する事態など九割九部九厘ないと白野は考えていた。

 否、どの国であろうと瀕する危機というのはある。

 それは御伽噺などで悪役と分類されることの多い魔物が魔人種として確固たる権利を確立し、理性ある一つの種族として存在しているこの世界における「悪役」、「魔物」、に位置するもの。

 それは、異形、歪、異質な。

 それは世界の歪みにしてこのアンダーノートにおける膿。

 名を「ヒナア」、先代主神がアンダーノートにおける生きとし生ける者全てが一致団結できるように用意した世界共通の敵、巨悪、最悪。

 一定の期間をおいて世界の総人口を減らすためにどこからともなく軍隊で現れ、国を襲い、消えていく。

 それは世界の人口や憎悪管理の為に存在するモノであり、世界の為の悪役。

 普通はこの世界に住んでいるものならば誰しもが忘れ去ることのできない恐怖。

 しかし、ヒナアのことを完全に日本暮らしでド忘れしている白野は未だ思い出すことができない。



「っと」



 唐突に背中に触れられる感触。



(この感触から見るに人差し指1本のみ、やけに官能的手触り、指の細さなんかからおそらく女性、っていうかレイヤの指だこれ)



 と、白野は感触だけで言い当てる。

 ちなみに正体は本当にレイヤである。

 ていうかなんで白野がレイヤの指の感触を完全に記憶しているのかは謎である。



(書いてるのは、文字?えーと、なになに……ヒ、ナ、ア…………あー、正直完ッ全に忘れてたわ!!)



 背中でレイヤがなぞっていく文字を繋ぎ合わせるとヒ、ナ、アと読めることから白野は記憶の片隅からヒナアについて引っ張りあげる。

 そして顔を僅かに紅く染める白野。


 

(あー、恥ずかしい。なんでこんなこと忘れてたんだよ……平和大国にっぽんぽんに完全に慣れちゃってたしなー……ていうか、よく俺が気づいてないことに気づいたな、ナイスプレーレイヤ)



 と、自らを恥じてレイヤに感謝する白野。

 というか普通は主人の頭の中を完全に把握するメイドなんていないのだが、それに白野は気づいてはいない。

 良くも悪くもレイヤのおかげによって白野のメイドに対するハードルが急激に上昇しているのである。

 それで困る人物がこの【アンダー=ノート】における白野の周りにはいたりするわけなのだが、レイヤはそんなこと知ったことかというスタンスである。



「白野」

「……ん?どしたの?」

「皇女様がやってきたみたいだよ」



 白野が考え事で心此処に有らずと言った様子だったので赤看と青束が声をかけてきた。

 そしてその台詞通り、たった今皇女がこの大広間に足を踏み入れたようだ。

 皇女は先程とは違い、ドレスの上に鎧を着込んでいるようだ。



(ドレスの上に鎧?あれって相当難しいと思うんだけどな)



 白野の知り合い、神の知り合いともなればドレスの上に鎧を着込む者なんて何人もいる。

 が、総じてどんなドレスであろうとも鎧を上に着用したままで動き回るのは難しいのだ。

 動き回ることに最適化されていないドレスで戦場へ打って出るなど、よほどの豪の者でなければ死地に赴くのと同義。

 さて、あの皇女様にそんな高等技術ができるのかといえば……然りである。

 白野の眼は今まで幾度もの修羅場を潜り抜けてきた眼である。

 それはどんな達人の戦術眼、鑑識眼をも上回る。

 故に白野のその両眼は如実に示していた。

―――皇女の実力の程を。



(まーた甘く見てたみたいだ……これでこの世界に戻ってきて二度目……)



 白野は己の不甲斐無さに僅かに眉を顰める。

 きっとこの感情もレイヤに筒抜けだろう、という考えが脳裏に浮かんだがそれを無理やり揉み消して再び皇女の観察に戻る。



(普通の皇女様じゃないな……一兵卒なんてレベルでもない……軍隊を束ねる器)



 両眼に映る皇女のその武術の腕、身にまとっている術式の多彩さ、非の打ち所が無いステータスに白野は眼を剥いた。

 白野はこれ程までの名器が闇の道を選ぶか、と眩暈がする。

 神の身としてはこれほどの逸材には正道をいってほしい気持ちもある。

 しかし神は基本的には平等の精神、正を正と、邪を邪と、定義してはいけない。



(操られているならセーフ、自らの本心での行動ならアウト)



 なんて制約はこの世界には存在するはずもなく。

 完全に自らのペースで善悪を決めて行動しちゃうのだ。

 神なんて自分勝手に場を荒らしちゃうものだろ、と考えるのはこの世界の神における共通事項なのである。

 介入する気がないのならばしないし、あるのならしちゃう。

 神の気まぐれに人間が翻弄される、だなんて地球でもよくある話。

 これがアンダーノートの神の在り方。

 その中でも白野は特に自由奔放、人間のような生き方。

 神らしくない神だからこそ生きとし生けるもの全てを惹き込む。

 それは他の神とて例外ではない。



(だからこそ、貴方に皆惹かれる。まあ私は真陽様がどんなカタチの在り方であろうと着いて行くのですが)



 レイヤは白野の胸の内を推測し、顔を穏やかにする。

 この先、誰に止められようと、誰に拒絶されようと、誰を傷つけようと、自分が主と定めた神に、男に着いて行くその決心は鈍ることはない。



「皆様、ご静聴願います」

「(!)」



 ようやく皇女様が全員の前へ歩み宣言する。

 どうやら、ようやく非常事態の概要についての説明に入るようだ。

 他の高校生達がざわめき始める。



(さて、推測通りならば……)

「今回、非常事態という名目で皆様に緊急召集させて頂いたのは他でもありません。ヒナアの大群が我が国内を蹂躙すべく、進軍してきたためです」



 ヒナア、その単語を聞いた他の高校生達は一斉に囁き始める。

 なんだよそれ、大丈夫なの?、死にたくない等の台詞が各方面から漏れ聞こえる。

 この事態を見た皇女は、キッと引き締めた顔で宣言した。








「大丈夫です。皆様が危険に晒されることはありません。今回はこのヒナア相手に実践訓練を行ってもらいます」







 白野とレイヤはギョッと引き攣った顔で皇女の顔を凝視した。 

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