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冥王の城

 さて、この世界における冥府、とは何の役割を果たしているのか。

 この世界で死を経験した者の魂は冥府へと導かれる。

 冥府では、死した者の魂の良し悪しを判別する神とその眷属達が居る。

 そこでの前世での悪行、善行次第でその後、魂が辿る道が変わるというわけである。

 基本的には判別された魂はこの世界とは別、数多の世界の中でも主となる世界【スピカ=ナオ】の冥府へと移行する。

 そこで次の人生、俗に言う来世が決められる。

 つまり、判別自体はその魂が死した世界にて行われるものであるが、正式な判決自体は主となる世界に移行してから、ということである。

 本来は【主界】にて全てを取り仕切っていたのだが、流石にキャパシティを超えてきたので各世界に冥府が設置されるようになった、という話もあるが定かではない。

 【スピカ=ナオ】というのは前に説明した通り、主となる世界【主界】である。

 この【主界】たる【スピカ=ナオ】を中心として、葉脈のように数多の世界が連なっている。

 つまり、現時点で白野が治めている世界【アンダーノート】における冥府というのは、主世界【スピカ=ナオ】の冥府の下請けみたいなものである。



「全然変わってないな……」

「そうですね」



 そして。

 転移した2人は龍神国と同じ様に王の間へと跳ぶ、等という失礼な行為はぜずに城門前に跳んでいた。

 龍神国での対応で学習したのである。

 と、白野がそう考えながら若干ドヤ顔で顔を上げるとそこには……。



 戦火と思われる炎によって炎上する冥府の王城があった。



「ッ!なんかあったな!」



 現状はわからないが、それでも王の間へと直接に跳ぶ為に術式を高速で組み上げていく白野。

 と、途中でその術式が瓦解する。



「転移系の術式は使用不可、ってことか……いよいよ敵の襲撃、みたいだな」



 直接王の間へと跳ぶことを封じられた白野は新たな術式を組み、場内における気配を瞬時に探っていく。

 冥王の神兵、敵軍の神兵、冥王の神兵、神兵、神兵、神兵、神兵…………。



(神の気配が一つとして無いぞ……)



 いくらなんでも冥王の気配すら感じ取ることのできないというのは異常だ。

 白野は再び綿密に探り直す。

 と、気配が完全に断絶されている区域が白野の触覚に触れる。

 それは数多に織り成す術式の中でも荒く構成された式。

 白野は看破する。

 これは封印術、一定の区画を完全に外界より遮断する封印術式。

 そして、この中に何がいるかなど答えは明白。



(中に自分を冥王ごと閉じ込めてやがるのか……!!)



 恐らく、襲撃してきた敵は自らを冥王と共に王の間へと幽閉。

 そこで冥王の首を獲ろう、という魂胆なのだろう。

 普段の冥王の実力を知っている者ならば、これは余りにも幼稚な策。

 絶対に討ち取れると言う策があるのか、否、アレはそんな幼稚な策が通用する範疇に無い。

 白野ですら本気の冥王と戦りあえば、梃子摺ることになるだろう。

 しかし、白野は知っていた。

 あれを討ち取ることのできる策があるという事を。

 正しくは策を成功させることのできる期間があるということを。

 このままでは、まずい。

 一刻も早く、冥王の元へと駆けつける。



「レイヤ」

「直に王の間への最短ルートを検索いたします」

「頼む!!」



 主人の意を完全に把握しているレイヤは目を瞑り顔を俯け、両手を前に出す。

 すると、細い直角の淡い光の線がレイヤの足元を中心とし、何本も蜘蛛の巣のように地を伝って広がっていく。

 数秒のち、レイヤは顔を上げ目をゆっくりと開ける。

 その瞬間、1本の淡い光を放つ線を残し、全ての地に広がっていた線が一斉に空中に光が溶けるように消える。

 正に幻想的な光景であるが、その感傷に浸っている余裕は白野達にはなかった。



「検索終了いたしました、こちらのルートです」

「わかった、行くぞ」



 それを聞くなり白野は1本だけ残った地を這う線を頼りに前に飛び出した。

 そしてそれに追従する形で野蛮さを感じさせないかのようなステップで走り出すレイヤ。

 メイドの嗜み、というやつである。

 そのまま線を辿る形で城の内部へ、ではなく、中庭へ出てガーデンの噴水へと足を運ぶ。



「この噴水内が王の間と繋がっております。水は幻覚でできており、中には空洞が広がっています」

「成程、中々洒落た非常口だな」

「どうやらこの通路の先は、王の間の目の前に出るようです」



 白野は「レイヤが嘘をつく筈も無い」とでも言うかのように噴水の浅い底へと迷わず身を投げた。

 そこにはレイヤの言うとおり、地下空洞が広がっていた。

 しかしながら、その暗さに白野が眉を顰める。

 と、間髪入れずにレイヤが光を灯す術式を使用し空洞内を目に優しい暖かい光で染める。

 レイヤのいつも道理の完璧な行動に流石だな、と白野は空洞を改めて見渡す。



「案外広いな、横幅3人に縦幅2人くらいはあるぞこの空洞」

「それよりも、主様」

「なんだ?」

「ラヴィ様はこの程度でどうにかなられる方でもないのでは?」

「ああ、そりゃな……襲撃してきた相手が別界の主神じゃなければ危惧もしなかっただろうがな」

「……別に主神が相手でもラヴィ様を相手にするのは難しいことなのでは?」



 レイヤが白野の言葉に反応し、目線だけを白野へと向ける。



「ああ、だが、裏で糸引いてる奴が冥府をそのまま放置するハズも無い、が、今の今まで手を付けられていなかったのも事実」

「と、すると?」

「1日。1日のみ、冥王が弱体化する日がある」

「!」



 レイヤが目を見開く。



「おそらく、今日は数十年にたった1回の魂の主界への移行日なんだろう」



 白野は両手を広げて大げさに手振りをする。



「……そのタイミングを見計らって荒らしている、というわけですか」

「ああ、十中八九そうなんだろ。いくら目障りだと言っても、ここの冥府は別界の主神であろうとも無傷でどうこうできる代物でもない」



 そう言ってさらに白野は肩をすくめて見せる。



「古神の1柱、だからですか」

「ん、そうだ。どんな因果でこの世界の冥王をしているのかは知らないが、あれを簡単にどうこうできやなんてしない」

「だからこそ、の」



 白野が人差し指をピンと立ててレイヤに続きを促す。



「魂の移行日【アトラヴィア】を狙った犯行、ですか」



 レイヤの返答に対し、レイヤの方に少し顔を向け、満足そうに1度頷いてから再び顔を前に口を開く。



「そ、移行日に限っては冥府の王はその神力を大幅に減衰する」

「しかし、冥王ともあろう者が力の衰える移行日に限って警戒を怠る等ということが?」



 そう、冥王が自らの弱点ともあろう日に対し、警戒を怠るということはあるのだろうか。

 普通ならば、最も警戒が強くなる日であろう。

 それをレイヤは指摘した。

 それに対して白野は飄々とした態度で応える。



「移行日ならなおさら警戒が強くってこんな事態にはならない、ってか?」

「ええ、むしろ移行日のほうが襲撃は難しいのでは?」

「考えても見ろよ。冥王ならまだしも、他の雑兵程度で止められやしないさ」



 確かに、冥王ならば他界における主神相手でも対等に戦うことができるかもしれない。

 が、その冥王が対等レベルの他界の主神に対して雑兵をいくら固めたところでその戦力への期待はは皆無。

 まず、勝てないであろう。



「別の神に護衛を頼んでいる、というのは?」

「ないね、そもそも神兵の気配以外に神の気配を感じない」

「王の間にて冥王と共に閉じ込められているのでは」

「2対1の有利的状況なら、もうとっくに相手の隙を突いて、封印の術式を壊し外界へ抜け出てきてるはずだ」



 白野は走りながらも、両手の指でそれぞれ1と2を指して説明する。



「相手がそれも許さぬほどに強大な相手、だとしたら……」

「それもないことはないが、襲撃って言う位なんだから襲撃者はもっとスピーディーに事を進めたい筈だ」

「…………」



 レイヤは沈黙で白野の話の先を促す。



「つまりは、相手は速攻で王の間に入って冥王と自分を封印術で隔離したはずだ。王の間への転移ができるのは俺くらいのもの。つまりは襲撃者も味方側も王の間へと瞬時に辿り着くことはできない」

「……襲撃者は誰よりも早く冥王の居る場所まで向かった、と?」

「こんな絶好の機会に邪魔なんて真っ平だろう、たぶん襲撃者はそうしたはずだ」



 レイヤの疑問に対し白野は答えていく。



「そもそもの話……言っただろ?雑兵如きに意味はないってな」

「そういえば、他の神ですら雑兵扱いするお方……でしたね」



 昔に幾度と無くじゃれ合った冥王の顔を思い出し、半眼で呆れるレイヤ。



「きっと私兵のみで戦い抜くつもりなんだろ」

「……そんな無茶な真似を?」

「ま、アレのことだからな……他の神に護衛を頼まなかったのも、たぶん他の神を巻き込みたくは無いんだろう。冥王は死に理解有るからこそ死を恐れる。大方、それを他の神に味合わせるなんて持っての他、とか考えているんだろうな。無理もない」

「自己犠牲、ですか。あの方らしくも無い」

「単なる推測だ、真実は違うかもしれない」



 知らずの内、レイヤの拳に力が入る。

 推測かもしれない、それでも。

 それでもレイヤは見知った仲、それも主人を賭けて幾度と無くぶつかりあった仲の思いの内を見抜けなかった自分に腹が立つ。

 今日が魂の移行日【アトラヴィア】だということを把握していなかった自分に腹が立つ。

 自分にくらいは教えてくれても良かったのではないか。

 自分ならば、冥王の力にも劣らぬ戦力となっていたであろう。

 自分に声をかけなかった冥王に腹が立つ。

 数多の思いがレイヤの頭を駆け巡る。

 その、結果。



「よく知っていたはずが、見てたのは側面だけ、なんてことはよくある。気にするな」

「……この世界に混沌をもたらすのは我が主様をコケにするような行為……」



 急に立ち止まり、顔を俯けてプルプルし始めるレイヤ。



「……おい?レイヤ?おーい、レイヤー?レイアさーーーん?」



 次第にプルプルする回数が多くなっていく。

 プルプル指数、20、30、40、50……100。

 プルプル指数が100を越えた辺りでレイヤは唐突に立ち上がる。



「さらには冥王は私を頼らない、という……まさに屈辱、恥辱、陵辱!!!」



 メイドさん爆発。



「おーい?ていうか最後のは違うと思うんだけど……」

「行きましょう!!襲撃者を地獄の業火で滅するのです!!!」

「お、おう……って手引っ張るな!!おい!」



 謎爆発を起こしたレイヤに手を連れられ、白野はどんどん奥へと向かっていく。



「もうそろそろ到着です!我が主様!!」

「……王の間に入ったら俺から離れとけ、久々に暴れるから」







 神々の争いはもうすぐそこまで迫っている。

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