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第五十五話 崩れ落ちる希望

前回までのあらすじ


遂に始まった黒城一派との全面戦争。おびただしい数のリビドンに苦戦しながらも、輪路達は死者の居城冥魂城にたどり着く。そして、麗奈、瑠璃、命斗の三人は、強敵死怨衆を撃破するのだった。

 翔は蒼天を振るい、黄泉子がそれを左のデッドカリバーで防ぐ。続いて翔は烈空を振るい、黄泉子は右のデッドカリバーで受け止める。


「はぁっ!!」


 その体勢から強引に振り抜き、翔を真っ二つにしようとする黄泉子。


「神帝聖装!!」


 だがその前に、翔が素早くヒエンに変身し、炎翼の舞いを使いながら逃れた。


「神帝邪怨装!!」


 羽が舞う中心におり、このままでは爆発に巻き込まれてしまう。黄泉子もまた速やかにリョウキに変身し、直後、全ての羽が爆発する。邪神帝に変身することでダメージを軽減したリョウキは、すぐにヒエンを見つけ出して斬り掛かる。


「ふっ!!」


 その寸前で瞬時に全霊聖神帝に強化変身するヒエン。素のままではパワー負けしてしまうからだ。予想通り、二人の力は拮抗し、ヒエンはリョウキの攻撃を受け止める。受け止めた瞬間に、ヒエンはリョウキの脇腹に蹴りを喰らわせた。吹き飛びはしなかったが、リョウキの体勢が若干揺らぐ。もちろん一発で終わらせはしない。その超スピードを利用して、ヒエンは一瞬のうちに数十発の蹴りを叩き込んだ。蹴りの衝撃が蓄積されるタイミングがなく、数十発分の衝撃が一度に襲ってきて、リョウキはとうとう吹き飛ばされた。


「ぐうっ!!」


「全霊朱雀狩り!!」


 飛んでいくリョウキに追い付き、朱雀狩りでさらに吹き飛ばして壁に叩きつける。


「ぐっ……ずいぶんと腕を上げたじゃない。でも、勝負はここからよ。神帝、極邪怨装!!」


 たった二週間の修行で驚くほど強くなったヒエンを倒すため、リョウキは遂に究極邪神帝に強化変身した。


「望むところだ。神帝、極聖装!!」


 ヒエンもまた、究極聖神帝に強化変身する。

 そこからは、見ている者が圧倒される戦いだった。一秒間に一兆回斬撃が飛んでくる。相手がそれを全く同じ速度で叩き落とす。カウンターで三十兆回の斬撃を飛ばす。それを最小限の動作でかわしきる。こんな攻防を一秒以内で行っている。まさしく人外の闘争。

 しかし、戦いは長引くだけで決着がつかなかった。


「やるじゃない。それでこそ三大士族、と言いたいところだけど、さっさと倒されてくれないかしら?」


「それはこちらの台詞だ。俺はお前と遊ぶためではなく、お前を倒しに来たんだからな」


「あ、そう。なら殺してあげるわ!!」


 そう言ったリョウキは、デッドカリバーを振るって、二匹の毒蛇を飛ばした。比喩ではない。猛毒の霊力でできた、文字通りの意味での毒蛇だ。


「ふっ!!」


 ヒエンも負けじと、蒼天から炎を、烈空から雷を飛ばして、毒蛇を二匹とも撃ち落とした。


「ナインヘッドエクリプス!!!」


 それならばと、身体から毒蛇を九匹伸ばすリョウキ。ヒエンは炎と雷を八つ飛ばして、毒蛇を八匹まで叩き落とし、最後の一匹を蒼天と烈空で切り裂いた。

 もし現世で戦っていれば、リョウキの毒蛇は一瞬で地球を汚染し尽くし、滅ぼしているだろう。それほどまでに、リョウキの力は強化されていた。


「お前もずいぶんと力を増したな」


「さらなる憎悪を集めることで、出力を上げたわ。究極邪神帝の力も完全に馴染んだし、制限時間も克服した。もう私と殺徒さんに弱点はないの」


 時間制限なしであれだけの力が使えれば、確かに脅威だ。


 しかし、それでも弱点がないというのは言いすぎである。


「弱点ならある。今貴様の前に立っている俺こそが、貴様の弱点だ!!」


 毒素を浄化し焼き払う聖属性と炎属性。毒属性にとって弱点と言える属性を二つも兼ね備えているヒエンは、まさにリョウキにとっての天敵だ。


「うおおおっ!!」


 レイジンがアジ=ダハーカを討ち取る時やったように、ヒエンは全身から聖なる炎を溢れさせ、リョウキを牽制しながら斬り込んでいく。


「朱雀狩り・極!!!」


「アルティメットヴァイパーバッシュ!!!」


 それに合わせて、リョウキも猛毒の斬撃を放つ。炎を侵そうとする毒と、毒を焼き払う炎。二つの反する力はぶつかり合い、互いに弾き飛ばされた。


「……小技をぶつけ合うのは、お互い終わりにしましょう」


 そう言ったのはリョウキだった。両者の力は拮抗している。同じである以上、小技をいくらぶつけたところで、決着はつかない。


「いいだろう」


 勝敗を決するのは、大技。それも、自分の力の全てを出しきる、最大の必殺技だ。


「見せてやる。青羽流討魔戦術の最終奥義を」


「面白いわ。なら私も、私が持てる最大の力で、あなたを殺してあげる」


 ヒエンの霊力が、リョウキの霊力が、かつてないほど大きく、強く、高まっていく。


「「はっ!!」」


 二人は同時に飛び、冥魂城を飛び出した。




「貴様……!!」


 オウザはレイジンを睨み付けている。究極邪神帝の力を自身の魂に馴染ませるため、殺徒はさらに多くのリビドンを集め、その憎悪を吸収した。その結果、二週間前より遥かに強大な力を手に入れた。間違いなく輪路より強くなっている。強くなっているはずなのに、


「なぜ……なぜお前の方が僕より強い!?」


 追い詰められていたのは、オウザの方だった。禍々しくも荘厳なオウザの鎧には、無数の斬痕が残っている。それらは全て、レイジンが付けたものだ。対するレイジンには、ほとんどダメージがない。オウザの攻撃をかわしきり、防ぎきったから。


「お前らの力はどこまで行っても外付けだ。自分で目覚めさせた力じゃねぇ」


 レイジンは、なぜ二週間互いに準備をし尽くしたのに、ここまで差が出たのか、簡潔に教えた。

 輪路達はさらなる力を求めて、己の力で強くなろうと鍛練を続けた。だから、輪路達の力は彼らの力だ。しかし、殺徒達はリビドン達から無理矢理憎悪を奪い取って力に変えた。すなわち、彼らの力ではない。邪神帝はそうやって造られたものだし、もっと言えば邪神帝自体、そもそも殺徒達の所有物ではない。騒動に乗じて、横からかすめ取っただけだ。

 自分の力で強くなった者の実力と、他者の力で強くなった者の実力とでは大きな差が出る。だから、同じ準備期間でも、手にした実力がここまで差の開いたものになったのだ。


「ふざけるなよ……お前の脆弱な力が、僕の最強の力に敵うものかぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 激怒したオウザは、レイジンに斬り掛かる。


「レイジンインフィニティースラッシュ!!!」


「がぁぁぁぁぁっ!!!」


 レイジンはすかさずレイジンインフィニティースラッシュを浴びせ、オウザを自分から遠ざけた。


「ぐ、あ……まだだ……まだ終わらない……!!」


 しかしオウザは倒れず、ブラッディースパーダに霊力を込めた。レイジンもシルバーレオに霊力を込める。


「アルティメットオウザスラァァァァァァァァッシュ!!!!」


「アルティメットレイジンスラッシュ!!!!!」


 ぶつかるのは、二人の最強の必殺技。


(負けるか!! この僕が滅ぶものか!!)


 敗北など決して認めない。自分が敗れる結末など、あるはずがない。


(こいつが憎い!! 僕を追い詰めている、こいつが憎い……!!)


 レイジンをひたすら憎むオウザ。憎しみによって、オウザの戦闘力はどこまでも増大していく。


(勝つのは俺だ!! 光輝やウォントのためにも、俺は勝たなきゃならねぇ!!)


 しかし、レイジンも自分の戦闘力を増幅できる。憎悪ではなく、使命感から。戦う前に誓ったのだ。彼を慕う者のために、その魂を必ず、憎しみという闇の中から救い出すと。


「おおおおおおおおあああああああああ!!!!」

 その正義の魂が、負けるはずがなかった。レイジンの霊力が一気に膨れ上がり、オウザを吹き飛ばしたのだ。


「がぁっ!! ぐああああああ!!!」


 ダメージを受け、屋上を転がるオウザ。勝負あり。あと一撃叩き込めば、今度こそレイジンの勝ちだ。



 その時、冥魂城を突如として巨大な地響きが襲った。



「何だ!?」


 驚いて周囲を見回すレイジン。次の瞬間、巨大な蒼い炎の不死鳥と、紫色の毒々しいケツァルコアトル。


「あれは……翔!?」


 間違いなく、あの不死鳥はヒエンの蒼炎鳳凰だ。となると、あちらのケツァルコアトルは、リョウキのポイズンスピリットケツァルコアトルである。


「極霊……鳳凰……!!!」


「アルティメットケツァルコアトル!!!」


 しかし、どちらも似て非なる技だ。ヒエンが使っているのは究極聖神帝の状態で発動する蒼炎鳳凰、極霊鳳凰であり、リョウキが使っているのは究極邪神帝の状態で発動するポイズンスピリットケツァルコアトル、アルティメットケツァルコアトルである。レイジンが見た中で、一番大きな鳳凰だった。何せ、冥魂城よりも大きいのだ。そしてそれは、ケツァルコアトルも同じこと。翔はかつてない、全力を出している。この光景はそれを物語っていた。


「行くぞ、黒城黄泉子。いや、白宮優子ぉぉぉぉォォォォォ!!!」


「来なさい、青羽翔!! その魂、侵し尽くして壊し尽くしてあげるわ!!!」


 ヒエンはリョウキの真の名を呼び、リョウキは咆哮を上げて、それぞれぶつかり合う。一度激突しただけで、巨大な衝撃波が発生した。


「うっ……!!」


 究極聖神帝のレイジンすら、近くではまともに立っていられない。シルバーレオを屋上に突き刺して耐える。オウザはそのまま、屋上に押し付けられていた。とても戦闘の続行は不可能だ。しかし、すごい戦いである。前にナイアから、究極聖神帝は一撃でいくつもの銀河を吹き飛ばせると聞いた。それだけの戦いを、今ヒエンとリョウキはしているに違いない。この冥魂城の耐久力も凄まじいものだ。未知のテクノロジーが使われているのかもしれない。


「おおおおおおおおおおおおおお!!!!」


「はあああああああああああああ!!!!」


 何度も何度も激突するヒエンとリョウキ。しかし、それにも終わりの時が来た。鳳凰の身体に、亀裂が入り始めたのだ。


「翔!!」


 レイジンは叫ぶ。極霊鳳凰が、破られかけている。このままでは、リョウキに粉砕されてしまう。


「私の勝ちね!! そのまま砕けなさい!!!」


 亀裂を見逃さなかったリョウキはさらに霊力を上げ、亀裂を狙って何度もケツァルコアトルをぶつける。どんどん亀裂が大きくなっていく鳳凰。

 そして、とうとう鳳凰は砕け散った。


「翔ーーっ!!!!」


 再び叫ぶレイジン。二人の戦いを見ていたオウザは、歓喜の声を上げた。


「あっはっはっはっ!!! 見ろ!! 黄泉子が勝ったぞ!! 僕の黄泉子が、お前の仲間を殺したぞーっ!! あーっはっはっはっはっはっ!!!」


 火の粉が落ちていく。その中に、ヒエンの姿が見える。

 しかし、


「!!」


 ヒエンは突然動き出し、蒼天と烈空の柄を繋ぎ合わせ、一本の剣に変えた。合体剣、蒼烈刃を水平に構え、炎を纏ってヒエンは飛ぶ。その炎が、不死鳥の形を形成する。


「なっ!?」


 こんな形で反撃してくるなど読んでいるはずもなく、油断していたリョウキは慌てケツァルコアトルの強度を上げて身を守ろうとするが、


「おおおっ!!!」


 激突したヒエンを弾くことができず、どんどん食い込んでいく。


 そして、


「はっ!!!」


 不死鳥の翼が、リョウキを切り裂いた。その瞬間に、リョウキは気付く。


「きょ、極霊鳳凰は……フェイク……!!」


 そう。極霊鳳凰は、この一撃を叩き込むための、囮だったのだ。


「これぞ青羽流討魔戦術、真の最終奥義、再臨之不死鳥!!」


 不死鳥は何度倒されようと蘇る。決して滅ぶことがないからこそ、不死鳥と呼ばれているのだ。極霊鳳凰をわざと破らせ、敵に油断が生じた隙を突いて、小さな不死鳥を纏って切り裂く。小さい代わりに出力を絞り、一点突破のカウンターを狙う技。ヒエンの作戦は、見事成功した。


「は、隼人、さ……」


 リョウキの変身が解除され、主を失ったケツァルコアトルも消え去る。そのまま黄泉子は、冥魂城の一角に落ちていき、屋根を貫いて床に激突した。


「ゆ、優子ぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!!!」


 妻が敗れたことが信じられず、オウザは叫ぶ。


「翔!! やったな!!」


 レイジンはヒエンに呼び掛け、ヒエンは力強く頷き、黄泉子にとどめを刺すべく降りていった。


「……さぁ、俺達も決着をつけようぜ。観念しな!」


 レイジンは今度こそ決着をつけるべく、オウザにシルバーレオを向ける。


「……ゆ、許さ、ない……」


「!?」


 しかし、オウザは床に両手と両膝を付けたまま、こちらを向かず、震える声で言った。


「よくも……よくも、僕の優子を……!!」


 ゆっくりと、よろめきながら立ち上がる。その姿を見て、レイジンはなぜか無意識に半歩下がってしまっていた。


「う、うお……!!」


 そしてオウザはこちらを向き、


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああああああああああーーーーっっっ!!!!!!!」


 絶叫を上げた。瞬間、オウザの全身が光り始め、黒紫色のエネルギーがあちこちから集まってきた。


「な、何だ!?」


「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 困惑するレイジンの前で、オウザはそのエネルギーを吸い込んでいく。口から、手から、足から、全身から。


「あああああああああああああああああああああ!!!!」


 ひたすら叫び、ひたすら吸い続けた。











 秦野山市。

 輪路達から希望を託された者達は、現世を守るために死者の軍勢と戦い続けていた。

 しかし、突如として変化が現れる。冥界と現世を繋ぐ門から溢れ続けていたリビドン達が、いきなり動きを止めたのだ。それだけでなく、通常の霊体に戻り、成仏していったのである。


「何!? どうしたの!?」


「何が起こってるんですか!?」


 困惑する鈴峯姉妹。ふと、二人は先ほどまで感じていなかったはずの、あるものを自分達が感じ始めていることに気付いた。


「こ、これ……」


「この背筋がゾッとするみたいな感覚って……!!」


 一度感じたら忘れられない、あまりにも強すぎる憎悪と殺意を孕んだ気配。そしてそれは、賢太郎も感じていた。


「黒城殺徒の霊力!?」


 賢太郎だけではない。この場にいる全員が、殺徒の霊力を感じていた。


「一体どういうことだ!? さっきまで奴の霊力なんて……」


 感じなかったと明日奈は言う。その答えを、三郎は告げた。


「……憎悪だ。奴ら、究極邪神帝の力を得るために、リビドンどもの憎悪を吸い取ったって言ってたろ」


「なるほど。廻藤さん達が奴らを追い詰めて、後がなくなったから、急遽攻撃に回していたリビドンの憎悪を吸い取り始めた、と」


 暦は納得した。殺徒は輪路に追い詰められ、輪路を何としてでも倒すために、リビドン達の憎悪を吸い始めたのだ。憎悪がなくなれば、リビドンはリビドンとしての形を維持できなくなり、通常の霊体に戻る。リビドンが成仏している理由はそれだ。


「この離れた位置から、リビドンの憎悪を吸収しているだと!?」


「なんという力……!!」


 ウルファンとドラグネスは戦慄した。とにかくものすごい力で、殺徒は憎悪を集め続けている。それも、リビドンがリビドンでいられなくなるほどに。いくら上級リビドンで下級リビドンの使役能力を持つといっても、これは異常だった。そしてその異常な力は、現在進行形で増大を続けている。しばらくして殺徒の霊力は上昇を止め、ふと気になったカイゼルは霊力測定器を取り出し、殺徒の霊力を測定した。測定器のメーターに表示されている文字を、カイゼルは読み上げる。


「不可説、不可説転……」


「不可説不可説転!?」


 ソルフィはその数値に、耳を疑った。協会の霊力測定器は、不可説不可説転まで測定できるように作ってある。ただ、歴代でそこまでの霊力を持つに至った者はいない。七瀬はソルフィに尋ねた。


「それってどれくらいすごいの?」


「全多元宇宙と全異世界、そして冥界を理論上一撃で消し飛ばせる霊力です」


 早い話が、この霊力に到達した者は、世界の全てを永遠に終わらせることができる。この宇宙の創造者アザトース、終焉の神となったシヴァ、究極聖神帝の光弘さえ、この霊力にはたどり着いていない。そんなとてつもない霊力を、殺徒は手に入れたというのだ。


「な、なんという霊力だ……」


「戦いを何より好むこの俺が、戦うことを拒否してやがる……!!」


 駆けつけてくれたぬらりひょんや那咤太子達も、殺徒の霊力の強大さを感じて怯えている。


「冗談じゃない!! 輪路達は、大丈夫なのか!?」


 ゴウガは殺徒達を倒しに向かった輪路達を心配する。


「……輪路さん……!!」


 美由紀は輪路の無事を必死に祈った。




 そして冥界。


「野郎、憎悪を吸ってやがるのか!! それも、全世界から!!」


 霊威刃はただ事ではないと感じていた。殺徒は冥界どころか、冥界に繋がるあらゆる宇宙全てから憎悪を集めているとわかったからだ。


「父さん!!」


「ああ!!」


 霊威刃は瑠璃を抱き抱えて飛翔し、屋上を目指した。




「あああああああああああああああああああ!!!!!」


 憎悪を集めるオウザ。なぜか、その身体が空中に浮いていく。レイジンはオウザの迫力と、増大していく力に圧倒されて、何もできない。殺徒がこうなった理由はただ一つ。黄泉子を倒されたから。自分が最も愛する存在である黄泉子を目の前で倒されたことにより、元々レイジン達に対して抱いていた憎悪が限界を超えたのだ。



 そして限界を超えた憎悪は、究極邪神帝を新たな領域に踏み込ませた。



「神帝……超越邪怨装!!!」



 殺徒が唱えると、オウザのマントは巨大な二枚の翼に、手足は屈強になり、角は長く伸びて、ブラッディースパーダはノコギリのようにギザギザになって、より殺傷力が増している。その姿は、悪魔と鬼が合体したような、まさに鬼神と呼べるものだった。


「……力だ。力が溢れてくる! 素晴らしいッ!! 僕は今、究極を超えた存在になったんだ!!!」


 究極邪神帝すら超える力が、とめどなく溢れてくる。究極邪神帝以上の邪神帝、超究極邪神帝オウザの誕生だ。レイジンはここで、ようやく自分を取り戻した。


(びびってる場合じゃねぇ!! 早く殺徒を止めねぇと!!)


 あの姿と力は絶対にまずい。一刻も早く止めなければ。その使命感が、レイジンを突き動かした。


「殺徒!!!」


 レイジンの言葉に反応し、オウザはレイジンを見る。


「何だまだいたのか。さっさとシッポをまいて逃げていれば、死ぬまでの時間が一分くらいは延びたかもしれないのに。わざわざ自分から死に急ぐとはね」


 オウザの対応は、さっきまでの憎しみに溢れた言動が嘘であったかのように、穏やかだった。いや、そう見えるだけだ。レイジンにはわかっている。今までがずっと可愛く見えるほどの凄まじい憎悪を魂に宿し、決して逃すつもりはないと殺意をみなぎらせている。ここまでくると、もはや憎悪や殺意というよりは、狂気そのものだ。


「感じるか。既に冥界どころか、全ての宇宙、全ての次元、全ての世界を消滅させられるだけの力が、超究極邪神帝の力が、僕の中に溜まっている。もうお前が僕に勝てる可能性は、万に一つもないんだ」


 確かに、オウザの力は、未だかつてないものだ。しかし、それでも諦めるわけにはいかない。


「やってみなきゃ、わからねぇだろうが!!!」


 レイジンは跳躍し、シルバーレオをオウザ目掛けて振り下ろした。


「何!?」


 しかし、レイジンの攻撃は当たらない。目の前に霊力の壁が出現し、それに阻まれてシルバーレオが届かないのだ。


「ぐあっ!!」


 壁に弾かれたレイジンは、屋上に叩きつけられる。あの壁の正体は、オウザの霊力そのものだ。しかも、オウザ自身が出そうと思って出しているものではない。オウザのパワーが高過ぎて、それが無意識にバリアの役目を果たしているのである。


「ライオネルバスター!!!」


 次はライオネルバスターを放つレイジン。しかし、バリアを貫通できない。


「レイジンスパイラル!!!」


 それならバリアを吹き飛ばそうとレイジンスパイラルを放ってみたが、それでも無駄だった。


「ははは。無理無理。その程度の霊力じゃ、僕に触れることすらできないよ」


 オウザの霊力は圧倒的だった。究極邪神帝のオウザは、存在しているだけで世界の全てを憎悪で汚染し、歪めて破壊していく。対する究極聖神帝のレイジンは、存在しているだけで世界の全てを浄化し、清め、直していく。二つの力は互いを食い合い、結果今まで周囲への影響はプラスマイナスゼロにされていた。しかし、オウザの方が強くなりすぎてしまったため、汚染の影響が出始めて、周囲が破壊されていっている。


「野郎……!!」


 レイジンはギリリと奥歯を噛みしめた。




「何だ、この霊力は!? 黒城殺徒、なのか!?」


 その強大な力は、ヒエンも感じている。黄泉子は笑った。


「どうやら隼人さんは、私が想像もできないような高みにたどり着いたみたいね。さしずめ、超究極邪神帝といったところかしら」


「白宮優子!!」


「私なんかに構っていていいの? まぁ、結果は変わらないでしょうけど」


「……」


 ヒエンは考える。優子は既に消滅が始まっており、放っておいても消える。霊力も奪い、リョウキも消滅させたので、何かできるとも思えない。優子を倒すのは簡単だが……


「……!!」


 結果、オウザとの戦いを優先することにしたヒエンは、優子を無視して飛び出した。


「……そう。結果は、ね……」


 一人残された優子は呟いた。




「廻藤!!」


 屋上にたどり着くヒエン。時同じくして、瑠璃を抱えた霊威刃、動ける程度まで回復した麗奈と命斗も駆けつけてきた。


「何じゃあれは!?」


「かいつまんで説明するぜ。どうもあいつは、超究極邪神帝とかいうのになったらしい」


「究極邪神帝を超えた存在、ですか……」


 麗奈は驚き、レイジンの説明を聞いた命斗が冷や汗を流す。


「奴がどういう存在になったかはこの際いい。奴を倒さなきゃ世界が終わるってことさえわかってりゃな……!!」


 今はごちゃごちゃ喋っている暇などない。一刻も早くオウザを倒さなければ、全てが終わる。霊威刃は瑠璃を下ろし、銀獅子丸を構えた。


「そういうこった。俺一人で決めるつもりだったが、そうもいかなくなったらしい。あんだけ見栄張っといて悪いが、力を貸してくれ」


 本当なら一人でオウザを倒すつもりだったが、ここまで力の差が開いてはそれも不可能だ。霊威刃達は頷く。


「……行くぜ!! これが最後の戦いだ!!」


 レイジン達はオウザを倒すべく、力を増大させる。


「面白い。何ができるか見せてくれよ」


 オウザは左手を高く掲げる。すると、そこに小さな黒紫の霊力弾が出現し、オウザはそれを投げつけた。


「おおっ!!」


「うおっ!!」


 それを受け止めるレイジンと霊威刃。小さいが、この霊力弾には宇宙を五つ吹き飛ばせるだけの威力が秘められている。二人はさらに霊力を高め、限界まで霊力弾を中和してから弾き飛ばす。遠くで銀河一つを消し飛ばすほどの爆発が起きた。最強クラスの討魔士二人がかりで限界まで威力を抑えて、それでもこれである。


「ずいぶん苦労してるじゃないか。今のは攻撃とさえ言えない、吐息みたいなものだよ?」


 余裕そのもののオウザ。彼からしてみれば、小手調べとさえ言えない攻撃だ。超究極邪神帝、その力は規格外という言葉すら足らない。表現できる言葉が、そもそも存在しない。


「極霊鳳凰!!!」


 だが、だからといってこちらも手を打っていないわけではない。レイジン達が攻撃を防いでいる間に、ヒエンも霊力を高めていた。極霊鳳凰をぶつけて、オウザにダメージを与えようとする。


「うおあっ!!」


 しかし、極霊鳳凰さえオウザのバリアは突破できず、溢れる霊力にヒエンは鳳凰もろとも吹き飛ばされた。


「瑠璃!! 命斗!! 合わせろ!!」


 麗奈と瑠璃は両手を、命斗は宿儺を抜いて合体させ、オウザに向ける。


「「「廻藤流討魔戦術超奥義、融力閃波!!!」」」


 そこから、三人の妖力を全力で解放し、融合させた妖力弾を発射した。


「もっと本気でやれよ。そんな腑抜けた攻撃じゃ、一生かかっても僕には届かないね」


 これでも駄目だった。最後の手段とばかりに、レイジンと霊威刃が、全霊力を込めてオウザに斬り掛かる。


「アルティメットレイジンスラッシュ!!!」


「霊威刃極斬剣!!!」


 二人が放てる最大の必殺技。一人一人が放てばやはり弾かれただろうが、二人の霊力が同調したことによって、これだけは届いた。



 かろうじて、だが。



「そうそう。いい感じだ」


 オウザもいつまでも棒立ちでいるはずがない。ブラッディースパーダがさらに強化された剣、ブラッディードゥームで二人の攻撃を軽々と防いだ。防いで、跳ね返して、屋上に叩きつけた。


「それで、次は何を見せてくれるんだい? まさかもう終わりなんてことはないよね?」


 オウザは両手を広げ、次の出し物を期待する。しかし、レイジン達は何もしない。何もできない。できるだけの全てを、やりきってしまったから。


「……どうやら本当に全力を出しきってその程度だったらしいね。あー、つまんない。白けた。マジで白けちまったよ」


 オウザは心の底から落胆した。せっかく凄まじい力を得たのに、仇敵とも言える相手との差が、埋めようもないほどに開いてしまったのだ。これほどつまらないことはない。


「もういいや。全部消してやる」


 オウザはブラッディードゥームに霊力を集め出した。この時点で、もう冥界だけなら消滅させられる威力が集まっている。


「ま、待て!! 消すってのは世界をか!? そんな威力の攻撃を撃ったら、みんな消えちまうぞ!! 世界どころか、魂まで全部!! 光輝も!!」


 現世を死者の国へと作り替え、光輝とともに住むのが目的ではなかったのかと、レイジンは言った。


「あー、光輝? そんな目的もあったけど、いいや。だってもう、どうでもいいんだもん。今の僕には、全てに対する憎しみしかない。光輝も、優子もみんな憎いんだ。ああ、そもそもあいつらさえいなければ、こんなことにならなかったのに」


 レイジンはオウザの言葉を聞いて絶句した。あれほど愛していると言っていた妻と息子を、憎いと言ったのだ。


「なんということだ……」


 降り立ったヒエンも驚いている。彼は優子と戦っている最中、彼女から聞いたのだ。

 レイジンの予想通り、二人はある存在から、無理矢理憎悪を植え付けられてリビドン化した。そのため、元の性格にかなりの歪みが生じている。隼人は優子より強い憎悪を植え付けられたため、思考が短絡的になり、凶暴化し、度々理性が崩壊しかかることがあったそうだ。


「そして今、超究極邪神帝の力を得た反動で、奴の理性は完全に崩壊してしまったんだ……!!」


 今の隼人にあるのは憎しみだけ。なぜ憎いのか、どうして憎いのか、わけもわからず憎悪し、破壊と消滅を振り撒くだけの存在へと成り果てている。


「だから消す。僕が憎いと感じる全てを消す。消し去り続ける」


「やめろ殺徒ぉっ!!!」


「嫌だね。消して欲しくないなら止めてみろよ。無理だろうけど」


 レイジンの制止を振り切り、オウザはさらに霊力を込める。ブラッディードゥームから、巨大な光の刃が伸びた。あれを振り下ろされたら、全てが終わる。オウザの一撃は世界も、宇宙も、空間も、時間も、魂をも破壊する。何千次元上の世界に逃げようと、決して逃れられない。再生を無限に繰り返して死なない存在だろうが、死の概念がない存在だろうが、死そのものだろうが、あらゆる攻撃を無効化する能力だろうが、問答無用で無に還し、その無すらも消し去る必滅の魂撃。


「スーパーアルティメット……」


 その一撃が、


「オウザスラァァァァァァァァァァァッシュ!!!!!」


 今、振り下ろされた。


「やらせねぇ!!!」


 真っ先に動いたのはレイジンだった。ありったけの霊力を込めてオウザの力を中和し、なかったことにしようとする。しかし、レイジンの霊力ではとても足りない。強化が追い付かない。


「廻藤!!」


「ちぃっ!!」


「輪路兄!!」


「「輪路兄様!!」」


 ヒエンや霊威刃達も動き、霊力と妖力を込める。それでも全く届かない。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああ!!!!」


 知ったことか。こいつを必ず止める。止めてみせる。必ず美由紀を守ってみせる。レイジンは己の強化を待たず、強化速度の限界を越えて霊力を放出し続け、そして、スーパーアルティメットオウザスラッシュを消し去った。


「……驚いた。まさか本当に止めるとは……」


 オウザは驚いている。全力の一撃を止めるだけの力が、レイジン達にあったとは思わなかったのだ。


「はぁ……はぁ……」


「何とか、しのいだな……」


 しかし、無傷ではなかった。ヒエンも霊威刃も、麗奈達もかなりの力を消耗している。



 そして何より、レイジンが倒れた。



「輪路!!」


「廻藤!!」


 変身が解かれた輪路を、霊威刃が抱き止めた。輪路は目を開けたまま、気絶していた。目からはハイライトが消えており、霊威刃の言葉に反応しない。


「霊力欠乏症か!!」


 霊威刃は輪路の症状を見抜く。

 霊力欠乏症とは、霊力を限界を越えて解き放った者が稀に発症する、あらゆる刺激に反応しない昏睡状態に陥る病だ。このままでは、輪路は衰弱死してしまう。


「輪路兄が、霊力欠乏症に……!!」


 輪路が一番力を解放した。そのおかげで、オウザ最大の必殺技を止めることができたのだ。麗奈は、麗奈達は、自分達の力のなさを悔いた。











「!?」


 美由紀は、輪路の身に何かが起きたことを悟り、目を見開いた。


「輪路さん!?」





圧倒的すぎる超究極邪神帝の力の前に輪路は倒れ、世界の消滅が迫る。鍵を握るのは輪路と美由紀、そして二人が今まで築いてきた絆だ!!


次回最終話、『廻藤輪路』。


狂気に堕ちた魂を救い出せ、レイジン!!




超究極邪神帝オウザ


目の前で黄泉子を倒された殺徒が、その憎悪の臨界点を突破させ、冥界をはじめとするあらゆる世界に存在する全ての憎悪を吸収し、オウザをさらに進化させた、究極を超えた邪神帝。変身の掛け声は、『神帝超越邪怨装』。

霊力は不可説不可説転という、未だかつて誰も到達したことのない数値を叩き出しており、冥界と多元宇宙と異世界、過去と未来、次元と存在、能力、概念全てを一撃で消し去ることができる。莫大な霊力がバリアの役目を果たしており、生半可な力の持ち主では攻撃を当てるどころか近付くこともできず、その上無限強化能力も健在であり、もはや誰にも止められない。前作、メタルデビルズのラスボスを飾った、ヴィーナススタイルのミライを超える戦闘力である。武器もノコギリのような刃と化したブラッディードゥームにパワーアップしており、必殺技は、数百万メートルにも及ぶ巨大な霊力の刃で全てを斬り裂き消し去る、スーパーアルティメットオウザスラッシュ。

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