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第五十四話 ここは冥界、死者の国

この作品もあと少しで終わりです。

 冥界に突入した輪路達。巨大な衝撃波を飛ばしてリビドンを大量浄化しながら進む光弘を先頭に、一同はひたすらまっすぐに進む。


「どうやら、こいつらの目的は俺達じゃないらしいな」


 しかしすごい数のリビドンだ。見た感じ、億や兆ではきかない、まさに異形の軍団。さすがの光弘の力でも、全てを浄化することはできない。何匹かうち漏らしてしまう。そしてうち漏らしたリビドンは輪路達をスルーして、一直線に門に向かう。恐らく黒城一派から、現世を破壊することだけ考えろとでも命令されているのだろう。


「こいつらを操ってるのは殺徒達だ。奴らさえ倒せば、こいつらは統率を失うぜ」


 輪路の言う通り、リビドン達はあくまでも、黒城一派に支配され、自我を奪われて動かされているに過ぎない。黒城一派さえ壊滅させれば、統率を失って一気に弱体化する。だから現世組を救うには、一刻も早く黒城一派を壊滅させる必要があるのだが……


「しかし、遠いのう……」


 麗奈はぼやいた。一応彼女らの目の前には、殺徒が言っていた冥魂城と思われる城が見えているのだが、さっきからずっと走っているのにまだたどり着かない。目と鼻の先にあるように見えるのに、全くたどり着かないのだ。かれこれ、もう三十キロは走っている気がする。


「幻術の類いが使われている様子はありません」


 瑠璃が探知の術を使うが、あの城が幻、ということはないようだ。


「となると、あの城が単純にものすごく大きくて、私達はものすごく遠い所にいるってことになりますね……」


 命斗の見解ではそうだった。


「マジかよ……どんだけでかいんだあの城……」


 今度は輪路がぼやく。これだけ走っても全くたどり着かないということは、あの冥魂城は、最低でも数千メートルはあるということだ。でかすぎる。そして、遠すぎる。


「少し飛ばすぞ。あまり時間は掛けられないからな……!!」


 そう言った光弘は一発、一際大きな衝撃波を飛ばす。その一撃で、数百万のリビドンが消し飛び、一気に道が開けた。


「行くぞ!!」


 だが、この程度の道はすぐに塞がってしまう。塞がらない内に、急いで通り抜ける。この作業を十回ほど繰り返し、輪路達はようやく冥魂城にたどり着いた。

 近くで見てみると、その大きさがよくわかる。大きすぎて頂上が見えない。


「待て!!」


 そのまま中に飛び込もうとしたところで光弘が鋭く叫び、一同は急停止した。止まって見てみると、城全体を透明な結界が覆っているのがわかる。言うまでもなく、シャロンの結界だ。


「俺が破ろう。神帝、聖装!!」


 輪路達を少しでも消耗させないよう、光弘が霊威刃に変身し、


「霊威刃、ぶった斬る!!」


 一太刀で結界を破壊した。

 すると、


「さすがですわね。この程度の死魔障壁では足止めにもなりませんか」


 城門のすぐ裏にいたのであろうシャロンが、忌々しげな顔をしながら出てきた。


「これより先は我らの城。一人たりとも入ることは許しませんわ」


 シャロンは冥魂城の門番の役を勤めている。侵入者の存在を許しはしない。シャロンが魔麒麟を掲げると、現世に向かっていたリビドンの約半数がUターンして戻ってきた。自分を含めた物量作戦で、一気に押し潰すつもりだ。


「ここまでだな。お前らは中に入れ。雑魚どもの相手は俺が引き受ける」


「じゃあ、あの人の相手は私がします」


 霊威刃がリビドン軍団を、瑠璃がシャロンを引き受ける。


「やぁっ!!」


「くっ……」


 言うが早いかシャロンに飛び掛かり、蹴りを放つ瑠璃。瑠璃のスピードは二週間前の五倍以上速くなっており、短期間での急激なスピードアップに驚いたシャロンは邪応竜で防御した。その後も瑠璃は連続で速く重い蹴りを放ち、シャロンを入り口から遠ざけていく。


「行って!!」


「……頼んだぞ!!」


「必ず後で合流しようぞ!!」


「瑠璃ちゃんしっかり!!」


 翔、麗奈、命斗の三人は瑠璃を応援しながら駆け抜け、


「……ありがとな」


 輪路は瑠璃と光弘両方に礼を言って、後に続いた。


「こ、のっ!!」


 死魔障壁で蹴りを防ぐシャロン。


「この前の続きです」


「……望むところですわ。魂身変化!!」


 シャロンが変身し、二人は戦いを始める。霊威刃は二人の邪魔をしないよう、押し寄せてくるリビドンを次々と薙ぎ払った。




「にしてもでかい城だな!」


 城門での戦いを光弘と瑠璃に任せた輪路達は、残りの黒城一派を捜して冥魂城を走る。広い城内だが、殺徒と黄泉子はきっと玉座の間にいるはずなので、今は上を目指しているところだ

 しかし、そう簡単に上まで行けるはずもなく、


「危ない!!」


 突然ナイフが飛んできた。輪路が叫び、四人は咄嗟にかがんでかわす。


「チッ! 惜っしい……」


 ナイフを投げたのは、カルロスだった。冥魂城を守る、二人目の刺客である。


「その人数を見ると、シャロンは上手く足止めして戦力を削いでくれたみたいだな」


 実は、シャロンを入り口に配置したのはカルロスの指示である。目論見は見事に成功し、戦力は分散されてしまった。


「……ここは貴様の策に乗ってやるとしよう。輪路兄、翔様、命斗。ここはわしに任せろ」


「麗奈!?」


「わし一人足止めされたところで、大した戦力の分散にはならん。早く行け!! 黒城殺徒をぶちのめすんじゃろうが!!」


「……すまねぇ」


 麗奈を連れて行けないのは残念だが、時間を裂けない。輪路は仕方なく、麗奈にカルロスの相手を任せることにした。


「頼んだぞ!」


「麗奈ちゃん、しっかり!」


 翔と命斗も輪路に続く。


「あーあ。俺の相手はお前かよ」


 カルロスも麗奈の相手がしたいのか、あるいは殺徒達の勝利を信じているのか、輪路達を追っていかない。


「つくづく縁があるのう」


 カルロスは死怨衆の一人だ。全力を尽くさねば勝てない相手である。麗奈はカルロスを倒すため、尾を八本まで生やし、


「魂身変化!!」


 カルロスも戦闘形態に変身した。




「……いると思ってたぜ」


 黒城一派も背水の陣である。そしてこの冥魂城は、彼らのアジトだ。もはや、退くに退けない。となれば、幹部勢が総出で迎撃に出てくる。当然、彼も。


「……デュオール……」


「……待っていたぞ」


「……輪路兄様、翔様。ここは、私に任せて下さい」


 デュオールを倒すため、命斗は宿儺を抜刀して進み出た。


「……必ず勝てよ」


「……はい!!」


 翔は命斗を励まして、上に向かった。輪路も命斗を一瞥し、玉座の間を目指す。


「魂身変化!!」


 それを見てから、デュオールは自分が最も力を発揮できる姿に変わる。


「言葉は不要。貴様も武人の端くれなら、わかるだろう?」


「はい。わかります」


 今命斗は、純粋な武人として、デュオールと戦いたかった。彼女の中にある、かつて無念のままに散っていった戦士達の思いが、きっとそうさせるのだろう。


「尋常に……」


 命斗が構える。デュオールも構える。

 そして、


「「勝負!!」」


 二人は激突した。




 あまりに、あまりに大きく広い、冥魂城。しかし、人知を超えた身体能力を持つ輪路と翔は、驚くべき速度で着々と登り続け、遂に玉座の間にたどり着いた。


「あら、思ったより早かったわね」


 しかし、そこにいたのは黄泉子だけだった。


「黄泉子!? 殺徒はどうした!?」


「殺徒さんならこの上。冥魂城の屋上にいるわ」


 屋上。てっきり玉座の間にいると思っていたので、完全に盲点だった。屋上にいると最初からわかっていれば、飛んで屋上に行ったのに。


「でも、ここから先に行けるのは、廻藤輪路。あなただけよ」


 つまり、彼女はここで翔の相手をするということだ。


「翔」


「……元々奴とは、俺が戦うつもりだった。向こうがその気になってくれているというのなら、好都合だ」


 そうだった。翔は最初から、黄泉子と戦いたいと言っていた。輪路もそれを邪魔するつもりはない。


「行きなさい。殺徒さんはあなたとの戦いを望んでいる。せっかく待ってあげてるんだから、これ以上待たせないで」


 黄泉子はそう言って、道を開けた。よく見ると、玉座から八十メートルほど右に、扉がある。あそこから屋上に行けるのだろう。


「翔。頑張れよ」


「ああ」


 輪路は翔にエールを送り、走る。


「お前と共に戦えたことを誇りに思う。お前が俺の戦友で本当によかった」


 その途中で翔がそう言い、輪路は思わず立ち止まる。だが、


「俺もだ。お前が俺を協会に誘ってくれて、本当によかったよ!」


 すぐに再び駆け出し、扉を開けて消えていった。


「最後のお別れは済んだかしら?」


 翔に向き直る黄泉子。どうやら彼女は、翔が輪路に別れの言葉を言ったものだと思い込んでいるらしい。


「最後じゃないさ」


 そう。断じて最後などではない。終わりなどであるはずがない。全てはこれからだ。


「最後になるのは、お前との因縁だ」


 翔は蒼天と烈空を抜き、構えた。


「――決着を」


 黄泉子もまた、デッドカリバーを抜いた。




 黒城殺徒は、自分が死ぬ前のことを、まだ白宮隼人と名乗っていた頃のことを思い出していた。

 最初は自分の力を示すため、傭兵として戦い、敵対する者達を次々と殺していった。人間も、モンスターも。

 幼少期から高い霊力を持ち、幽霊を使役して操ることができる彼にとって、死とはごく自然でありふれた、あること自体が当たり前なものだった。だから、誰かを殺すことに対して、特に躊躇いは感じていなかった。生まれた者はいつか、必ず死ぬから。自分が手を下すか否か、どちらにせよ結果は同じだ。それぐらいにしか感じていなかった。普通の人間には決してたどり着けない場所に、最初からいたからこそ形成された、独自の価値観といったところか。他者より優れた力を持っていた故の、優越感とも言える。

 そんな彼だが、結婚し、子を成したことで、その内面に僅かな変化が現れる。息子には隼人の力も、異常な価値観も受け継がれなかった。だからもし、自分の価値観とやってきたことを、彼が知ったらどう思うだろうかと不安になった。同じ不安は、まだ優子と名乗っていた黄泉子も抱えていたらしい。力こそ隼人との付き合いで目覚めたものだし、生死への価値観も隼人のものとは違っていたが、人殺しであることに変わりはない。

 が、予想に反して、息子は自分達を受け入れてくれた。確かに普通の人間とは違うが、自分を生んでここまで育ててくれたことには感謝していると、言ってくれたのだ。

 だから二人は、息子をどこまでも大切にしようと思った。まずそのために、科学者になったのだ。自分達の霊力を殺しではなく、人々に役立てるために。そして息子が一人立ちできるようになったら、息子のために消えようと思った。自分達が生きていたら、息子のためにならないと思ったから。その矢先、ウォントがやってきた。少し早すぎるかと思ったが、ウォントには退けない理由があるし、親戚が面倒を見てくれていた。何より、この時を逃せば死ぬ機会はなくなる。そして二人は、ウォントに殺された。


(これでいい。これが、あの子のためになる)


 息子、光輝のために死ねたことで、隼人は救われたのだ。もう、自分の力を振るう必要はない。もう二度と、誰かと戦ったり、殺し合ったりすることはないのだから。



 そう、思っていたのに。



『少し、虫が良すぎるのではないかな?』


 死んだはずの隼人はいつの間にか冥界におり、目の前には鎧を着た男が立っていた。


『お前は生死の重さも考えず、ただ自分のためだけに多くの命を殺してきた。そんなお前が、お前達だけが都合良く救われる結末など、許されるはずがない』


 気が付くと、隼人の隣には優子がいて、鎧の男は自分達に何かを言っていた。隼人は尋ねる。


『あなたは?』


『私が何者かなどどうでも良いことだろう。私はお前達に、罰を受けるべきだと言っているのだ』


 言うが早いか、鎧の男は二人に片手をかざした。


『うぐ、あ……!!』

『あ、ぐ……!!』


 とたんに二人を、耐え難い苦痛が襲った。痛みにのたうち、苦しみに頭を押さえる。同時に沸き上がってきたのは、一つの感情。それは、憎悪。無論、二人にとって憎む対象などない。しかし、二人はわけもわからず憎んでいた。生きとし生けるもの、全てを。


『他者を憎む者、リビドンとなって永遠に苦しみながら破壊を振り撒くがいい。それがお前達に私が与える罰だ』


 鎧の男は不思議な力を持っていた。その力で二人の感情に、強い憎悪を無理矢理植え付けたのだ。


『だが私も鬼ではない。お前達はリビドンの中でも特に力を持ち、理性を残している上級リビドンに変えてやった。あとは好きに動け』


 憎悪を植え付けただけでなく、二人は上級リビドンに変えられていた。男は去る前に、二人に一つの情報を残す。


『あちらの方角に冥魂城という城がある。そこに住まう上級リビドンは、邪神帝オウザという鎧を手にしているらしい。奪うことができれば、お前達の役に立つだろうな?』


 鎧の男は、その冥魂城がある方角を指し示して消えた。

 それから二人は、冥魂城がどのような城かを知る、仲間を集める、腕を上げるなどの下準備を重ね、六年前に起きた死者の魂の大規模な変動を契機に、襲撃して冥魂城と邪神帝を手に入れた。殺徒と黄泉子という名前は、この時に自分達で考えたものだ。

 あとは邪神帝の力を回復させながら、自分も霊力を憎悪を高め続け、現在に至るというわけである。


「そう。お前と対決するという現在にね」


 屋上にブラッディースパーダを突き立てて立っていた殺徒は、自分の背後にいる存在に、振り向かずに言った。


「本当にお前は、よくここまで僕の邪魔をしてくれたもんだよ」


 それからブラッディースパーダを引き抜き、忌々しげながらもどこか楽しそうに、笑いながら振り返る。


「俺だってお前との問題がこんなに長引くなんて思わなかったよ」


 殺徒の目の前に立ち、輪路は言う。


「だが、それも今日で終わる。お前が死ぬという形で」


「いいや、お前が成仏して終わりさ」


 輪路はシルバーレオを日本刀モードに変えて抜き放ち、構える。


「行くぜ、殺徒」


「来いよ、輪路」


「……!!」


 先に仕掛けたのは輪路だった。縮地を使って距離を詰め、真正面から斬りつける。殺徒はブラッディースパーダでそれを受け、弾き、輪路の顔面を突く。輪路は弾かれた反動を利用し、一回転して回避しながら斬りつけ、殺徒がそれを防ぐ。それぞれが互いの急所を狙って斬り合う。


「うらっ!!」


「はっ!!」


 霊力を込めて同時に斬りかかり、つばぜり合う。だが、反発し合う正反対の霊力によって、二人は弾かれた。


「神帝、聖装!!」


「神帝、邪怨装!!」


 生身の実力は互角。二人は聖神帝と邪神帝に変身した。


「ライオネルバスター!!!」


「ダークネスカノーネ!!!」


 さらに、遠距離攻撃技を撃ち合う。こちらの威力も互角だ。相殺した。


「究極聖神帝にもならずにこのオウザと張り合うか……やはり相当腕を上げたようだな」


「当たり前だろ? 俺はお前に絶対に勝たなきゃいけないんだからよ!!」


 再び斬りかかるレイジン。オウザはそれを右にかわし、レイジンは右に向けてシルバーレオを振るい、オウザはそれをブラッディースパーダで止めた。だが、レイジンはその防御を強引に押し切り、シルバーレオを振り切った。


「レイジンジェミニ!!!」


 片手をオウザに向けて、レイジンは霊石六つを飛ばす。オウザはそれを全て弾き飛ばしたが、弾かれた霊石はレイジンに変身し、再度オウザに斬りかかる。一体一体がオウザと同レベルの戦闘力の持ち主で、これにはさすがのオウザも苦戦を強いられた。しかし、オウザにはレイジンにない機能、無限強化機能がある。


「ハンドレッドデスクロウ!!!」


 一度距離を取ったオウザがマントを翻すと、マントから無数の腕が飛び出し、分身レイジン達を押さえ込んだ。この腕はとにかく数が多く、レイジン本体にも襲いかかる。


「おおおおおおおおおおお!!!」


 が、レイジンもいつまでも棒立ちではいない。シルバーレオを逆手に持ち、霊力を込めて回転しながら斬った。シルバーレオから白銀の霊力刃が飛んでいき、霊力の腕を全部破壊した。


「ツインデスクロウ!!!」


 再びマントを翻すオウザ。すると、マントから巨大な二本の腕が飛び出した。数を少なくして出力を上げる方向に転換したらしい。


「らぁぁぁぁぁ!!!」


 シルバーレオを持ち変えて、霊力を込めて斬りつけるレイジン。巻き起こる爆発。だが、この程度で敗れるレイジンではない。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 爆煙の中から、全霊聖神帝になったレイジンが出てきた。攻撃を受けた瞬間に霊石を呼び戻し、強化変身したのだ。


「オールレイジンスラッシュ!!!」


「!!」


 怒涛の反撃にオウザは素早くブラッディースパーダを構え、受け止めた。再びの爆発。両者は空中に飛び上がる。全霊聖神帝の攻撃でも、オウザがダメージを受けた様子はない。やはり、全霊聖神帝程度の攻撃では、駄目なようだ。


「神帝、極聖装!!」


 ならばとレイジンは切り札の、究極聖神帝に変身した。これを見て、オウザもジョーカーを切る。


「神帝、極邪怨装!!」


 究極邪神帝に変身した。


「この二週間さらなる憎悪を吸収することで、究極邪神帝の力は完全に僕の魂に馴染んだ!! 時間切れを期待しても無駄だぞ!!」


「んなもんハナから期待してねぇよ。俺は実力でてめぇをぶっ倒す!!」


 究極邪神帝の力は二週間前よりもさらに強大になっている。しかし、究極聖神帝の力も増大させた。レイジンは今度こそオウザを打ち倒すために、霊力を高めて激突した。











 輪路達が冥界で激闘を繰り広げている間、現世でも死闘が展開されていた。


「はっ!!」


「やぁっ!!」


 彩華と茉莉は門から溢れてくるリビドンの経穴を突き、次々と成仏させていく。


「七瀬!!」


「うん!!」


 茉莉の霊力は彩華に比べると少し少ないので、七瀬から霊力を借りて、霊力弾を飛ばした。


「全く、鬱陶しい連中だ」


 賢太郎は意識をナイアに交代し、無双の霊力でリビドン達を浄化していく。殺徒の力で幾分か強化はされているようだが、神浄界の効果で弱体化しているし、ナイアほど強ければどうということはない。


(光弘さんに何か言わなくてよかったんですか?)


 賢太郎としては、ナイアが光弘に対して特に何も言わなかったことが少し気掛かりだったが、


「言う必要なんてないよ。あいつなら心配ないし、何より昔の男だからね」


 ナイアは今自分が好きになった男に夢中だった。だが彼女の言葉からは、光弘への信頼が感じられる。もしかしたら光弘は、六年前彼女が改心する前に、何らかの影響を与えていたのかもしれない。


「厄介ですね……」


「うむ……」


 ドラグネスとウルファンは、リビドン達に対して脅威を感じていた。実力にではない。このリビドン達、とにかく結界の外に出ようとするのだ。他の討魔士や討魔術士も奮闘しているが、全く戦意を持たず逃げに徹している相手を倒すというのは、別の意味で難しいことだった。リビドン達が外に出れば、外の世界は大変なことになる。この戦いは、決して外の世界に生きる者達に知られてはいけないのだ。


「このリビドン達を、外に出すわけにはいかない!!」


 逃げようとするリビドン達にソウルワイヤーを絡め、ワイヤーを通して霊力を送り込み、浄化していくソルフィ。空を飛ぶなど機動力の高いリビドンには、ドールバレットで確実に撃ち落とし、仕留めていく。


「美由紀!! 隠れていなさい!!」


「はい!!」


 美由紀が巻き込まれないよう、ゴウガはこちらに向かってくるリビドンを倒していく。もちろんゴウガや美由紀を襲いたくて向かってくるわけではないが、高速で突っ込んでくるリビドンはそれだけで、生身の人間にとっての脅威だ。


「!?」


 その時、シエルは何者かが結界に干渉し、外から入ってくるのを感じた。


「へぇ~なかなか面白いことになってんな!」


「な、那咤太子!!」


 シエルは驚く。結界に入ってきたのは、那咤太子だった。


「俺が呼んだんだ。あともう少し、援軍を呼んであるぜ」


 どうやら三郎が呼んだ援軍らしい。そして、間もなくさらなる援軍、ぬらりひょんと妖怪軍団が到着した。


「お前ら死ぬ気でやれ!! 輪路さんのためだ!!」


『はい!!!』


 輪路にやられたことがトラウマ化しているらしい。


「助かりました。神田さんと松室さんも、限界が近かったですからね」


 明日奈と暦は今日に備えて必死で修行したが、それでも神浄界の持続時間が劇的に伸びたわけではない。元々短期決戦用の術なので、長期戦には向かないのだ。


「……くっ!」


 明日奈が崩れ落ち、膝を付く。霊力が尽きたのだ。


「ごめんなさい。私も……!!」


 暦も霊力が尽きる。これにより、神浄界が解除された。残るは、シエルの結界のみとなる。


「神帝、聖装!!」


 シエルはカイゼルに変身し、霊力を高めることで結界の強度を増し、リビドンの脱出を妨害する。


「あいつらを倒せばいいんだな? よし、任せろ!」


 那咤は勇んでリビドンとの戦いを始める。さすがは神の武器。リビドンを次々と浄化していった。


「あとは、黒城一派が一刻も早く壊滅するのを祈るのみですが……」


「……輪路さん……!!」


 カイゼルと美由紀は、輪路達の勝利と帰還を信じて祈った。











 霊威刃はリビドンの軍勢と戦い続けていた。


(しかし、これだけの数をよく集めたもんだ。こりゃ冥界だけじゃなくて、他の世界からも集めてきやがったな……)


 オウザの力で強化されているとはいえ、それでも霊威刃の敵ではない。問題は、数の多さだった。ぶっちゃけこのリビドン達は地球の全人口より多い。冥界で裁きの時を待ちながら眠っていた霊を、全員叩き起こしたとしても、それでも足りない。となると、霊威刃達が手を出せない別の世界を回って戦力を集めたということに他ならない。

 そして、これだけの頭数を揃えることができた、黒城一派の手腕にも、霊威刃は畏怖の念を抱いた。上級リビドンといえど、その力にはピンからキリまである。上級リビドンだけが持つ、下級リビドンの使役能力。それは、能力を使う上級リビドンが強ければ強いほど、従えられる下級リビドンが増える。くどいようだが、今この場に溢れているリビドン達は、全員黒城一派が力ずくで従わせているだけであって、決して心からの忠誠を誓って動いているわけではない。しかし、それだけに恐ろしい。相手の一切の感情を無視して完全に従わせるということは、それが一人だけだったとしてもかなりの霊力が必要になる。それなのにこんな、あり得ない数を従わせている。黒城一派ほど強大な力を持つ組織は、二百年前にもいなかった。輪路達はとんでもない敵の相手をしていたのだと、霊威刃は改めて痛感した。


(さて……)


 霊威刃はシャロンと戦う瑠璃を見た。


(お前がどこまで強くなったのか、しっかり見せてもらうぜ)


 戦いながら、霊威刃は娘の成長を見ることにした。


「うっ!!」


 瑠璃はシャロンに邪応竜で殴られ、地面を転がる。三郎との激しい修行を積み、以前より遥かに強くなったはずだが、シャロンもまた強くなっていた。殺徒が強くなったから、バックアップも強化されたのだ。


「あなたもとても強くなったわ。でも、あなたが死ぬという結末は変えられない」


 魔麒麟を振るうシャロン。すると、小さな円錐状の死魔障壁が大量に出現した。


「穿ち壁の舞い」


 瑠璃の技、眼力壁への対策だ。これだけたくさんあったら、吸収しきれない。飛んできた死魔障壁をかわす瑠璃。


「ああっ!!」


 だが、後ろから飛んできた死魔障壁が背中に刺さり、瑠璃は倒れた。


「無駄なのよ。あなたがどんな努力をしようと」


「うっ……ううっ……!!」


 背中が痛くて起き上がれない。それに、シャロンが言ったことも、瑠璃の心に突き刺さっていた。

 瑠璃は自分が一番、三人の中で弱いと思っている。だから少しでも麗奈や命斗に追い付こうと頑張った。だが、いくら努力しても、それが報われたように感じない。それを指摘されたみたいで、とても悲しかった。痛くて苦しい。悲しくて涙が出てくる。

 だが、


「それは違うぞ!!」


 霊威刃が、シャロンの言葉を否定した。


「お前は努力家だ!! お前の努力は必ず報われる!! それを教えてやれ!!」


「!!」


 霊威刃は、偉大な父、廻藤光弘は、瑠璃の努力を否定しなかった。見てくれている。励ましてくれている。そう思った瑠璃は立ち上がり、背中に刺さっている死魔障壁を引き抜き、投げ捨てた。


「負けるわけにはいかない!! お父さんが見てくれているから!!」


「……!!」


 呼吸を必要としない霊体でありながら、シャロンは思わず息を飲んだ。今目の前にいる子兎妖怪は、父の期待に応えるために戦っている。血は繋がっていないが、そんなことは関係ない。それは、父から惜しみない愛を注がれて育ったから。自分を愛してくれる父に報いようと、頑張っているのだ。


「……あなたが注がれてきた愛はきっと計り知れない。その愛が……」


 シャロンは呟いた。


「その愛が私は大っっっ嫌いなのよッ!!!!」


 そして激怒し、再び穿ち壁の舞いを発動した。

 瑠璃が与えられた愛と、シャロンが求めた愛は違う。しかし、愛であることに変わりはない。だから、誰かに愛されている者を、愛の存在そのものを、彼女は許さないのだ。

 瑠璃は回避に移るが、やはり全ての死魔障壁をかわしきることはできず、今度は両腕に刺さる。


「ああああっ!!!」


 太く鋭い針で貫かれたような激痛が瑠璃を襲い、動きが止まった。


「これで終わりよ!! 神撃剛扇!!!」


 一気にとどめを刺そうとするシャロン。二つの扇に霊力を込めて叩きつける、近接技の神撃剛扇。さらに強化されたこの攻撃は、瑠璃を一撃で粉微塵にしてしまえるだろう。


「……はぁっ!!」


 身体で受ければ。


「なっ!?」


 瑠璃は魔麒麟を妖力を込めた片足で蹴り上げた。


「はっ!!」


 続く二撃目で、邪応竜を蹴り飛ばす。やられたのは腕だけだ。足さえ動けば、まだ戦える。


「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 足をフルに使って、動きが止まっているシャロンに連続で蹴りを叩き込む。回し蹴りからの足払い。上段蹴りでかち上げてから跳躍してのかかと落としで地面に叩きつけ、


「廻藤流討魔戦術奥義……!!」


 バウンドしたところを狙って、父から教わった技を放つ。


「必滅の瞬き!!!」


 それは本来、剣を使って放つ技。しかし瑠璃は、それを足技で放てるように改良したのだ。おびただしい数の蹴撃を一度に浴びたシャロンは吹き飛ばされ、冥魂城の壁に叩きつけられて倒れた。


「う、う……」


 呻くシャロン。瑠璃の攻撃で、憎悪と霊力のほぼ全てを削ぎ落とされてしまった。今の彼女は、もうほとんど普通の幽霊と変わりない。

「私も、あなたのように、掛け値なしの愛を、与えて欲しかった……」


 結局のところ、それが彼女の未練である。だから、他の愛を与えられている存在を見ると、羨ましくて、悔しくてしょうがない。

 そんな彼女に、瑠璃は問いかけた。


「本当に、あなたを愛してくれた人はいないんですか? 今あなたのそばに、あなたが好きな人はいるんじゃないんですか?」


「……デュオール……」


 そう言われて真っ先に思い出したのは、自分を拾ってくれたデュオールだった。


「そう……そうだわ……私もまた……愛されていた……」


 身近すぎて気付けなかった愛に気付き、未練を晴らしたシャロンは、光の粒子となって消えていった。死後もかなりの数の人間を殺した彼女だ。間違いなく地獄に堕ちただろう。しかし、そうであったとしても、シャロンはきっと幸せだった。


「……うっ」


「瑠璃!?」


 瑠璃は倒れた。両腕に刺さっていた死魔障壁は、シャロンが成仏したため消えているが、ダメージは消えない。限界だった。


「神帝、極聖装!!」


 霊威刃は究極聖神帝に変身し、水の霊石の力を解放して瞬時に回復させた。周囲のリビドン達は、霊威刃の霊力にあてられて次々に成仏していく。敵を無視しながら瑠璃に近付き、抱き上げる霊威刃。


「よく頑張ったな。さすが、俺の娘だ」


 父に褒められて、瑠璃は静かに微笑んだ。




 カルロス・シュナイダーに、両親はいない。中学二年生の頃、指名手配中の強盗殺人犯に自宅に押し入られ、刺殺死体となった。カルロスはたまたま、友人の家に泊まりに行っていたため、無事だったのだ。犯人は捕まらず、カルロスは親戚の家に引き取られた。

 それから三年間、自分の両親を殺した強盗殺人犯を、カルロスはずっと恨みながら過ごした。一体どんな気持ちでこんなひどいことをしたんだろうと、ずっとずっとずっと、考え続けていた。そんなある日、カルロスは見つけたのだ。強盗殺人犯を、街中で。その日は学校の授業で彫刻刀を使っており、鞄に入っていた。カルロスは気付かれないように犯人の背後に近付き、何度も何度も彫刻刀を突き刺して殺害し、両親の仇を討った。

 その時、カルロスはなぜか快感を覚えた。そして理解した。人を殺すというのはこんな気分だったのかと。

 それからカルロスは二十歳を越えるまで、自分の中の殺意を抑えながら、どんな方法で人を殺そうか、頭の中でいくつもシミュレートした。綿密に計画を練り、殺人鬼としてのキャッチコピーも考えた。ただ殺すのではつまらないと思ったから。思い付いたのは、ピエロの衣装だった。親戚が親を亡くしたカルロスの気を紛らわそうと、よくサーカスに連れていってくれたのを思い出したのだ。

 二十歳を迎え、カルロスは遂に殺人ピエロとして動き出し、あとは誰もが知っての通りの結果を残した。死後、冥界に送られたカルロスは、自分に二度と殺人をできなくした者達への憎悪から下級のリビドンとなったが、リビドンの中でも随一の殺意を持つカルロスに目をつけた殺徒と黄泉子が、彼を上級リビドンに変えて参謀の座に据えたのである。


「まだまだ終わらせてもらっちゃ困るんだよ。もうすぐ殺徒様と黄泉子様が、死者のための世界を作って下さる。そうなったら俺はその世界で、死者の魂を切り刻んで滅多刺しにして食いまくれるってわけなんだよ!! ひゃはははは!!!」


 死者は二度も殺せない。だが魂を食えば、それはカルロスにとって殺したのと同じこと。だから、彼は黒城夫妻の計画を全面的に支持している。


「……貴様は人間ではない!! 獣じゃ!! わしらと同じ、畜生の類いじゃ!!」


 異常すぎるカルロスを、麗奈はそう形容した。人間にはあり得ない、快楽殺人にのみ特化したその思考回路。これを畜生と呼ばずして何と呼ぶのだろうか。


「畜生で結構だね。お前みたいな、殺しがいのあるやつを殺せるならさ!!」


 カルロスはナイフを投げてきた。快楽殺人鬼は標的を殺す難易度が高ければ高いほど燃え上がる。この戦いも、カルロスにとって望んだ状況だ。殺人狂であると同時に、戦闘狂でもある。


「そうか」


 投げたナイフは、麗奈の尾に叩き落とされた。


「ならばこちらも、相応のものを見せなければなるまい」


 しかし、尾は九本に増えている。全力を出すつもりだ。


「見世物が好きなようだから、こういう演出はどうじゃ? さぁてお立ち会い! これよりお見せ致すは、世にも珍しい九尾の狐の曲芸!!」


 向こうがピエロなら、こちらは動物の曲芸。ただの動物ではなく、妖怪だが。


「それも、ただの九尾の狐ではございません。何と、尾が変わるのです!!」


 次の瞬間、麗奈の尾が全て変化した。炎の尾、水の尾、雷の尾、風の尾、土の尾、氷の尾、鋼鉄の刃の尾、銃の尾、竜の頭の尾。これが、麗奈の奥の手だ。九尾の狐には、本来長い期間をかけて修行しなければなれない。いくら麗奈が天才でもたった二週間の修行では、全ての尾を解放した状態での戦闘時間は少ししか延びない。だから修行の方針を変更し、戦闘時間が短縮される代わりに瞬間的な火力を極限まで高める術を身に付けたのである。


「この曲芸は三十秒しか行いません。どうか、まばたきをされませんよう……!!」


 言った麗奈は、早速攻撃を仕掛ける。まずは火炎放射、水鉄砲、電撃、鎌鼬、つらら、土のつぶて、竜の光線、銃の光弾を使った遠距離攻撃だ。


「うおおっ!?」


 圧倒的な弾幕。防ぎきれない。カルロスは慌てて逃げ惑う。


「逃げるな。外道」


 逃げた先に麗奈が回り込み、刃の尾でカルロスの腹を斬る。


「ぐああああああ!!!」


 無論全ての攻撃に浄化の妖力が込められており、カルロスはダメージを受けた。それから、爪に炎を纏わせて切り刻む。早く倒さなければ、麗奈の妖力が尽きてしまう。


「調子に乗るんじゃねぇ。餓鬼がよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 カルロスもやられっぱなしではなかった。ナイフを装備して対抗してくる。麗奈も尾を使って自分ができる最大の攻撃を仕掛けた。

 火力は麗奈の方が上で、どんどんカルロスの霊力を削っている。だが、


「うっ!!」


 麗奈は膝を付いた。しかも、尾が一本になってしまう。時間切れだ。この戦い方をすると変化が解けて、尾も一本までに弱体化してしまう。


「俺の勝ちだな……!!」


 今が最大のチャンスと飛び掛かるカルロス。しかし、弱体化してもなお、麗奈は諦めていなかった。


「まだまだァァァァァァ!!!」


 咆哮し立ち上がる麗奈の周囲に、四つの大砲が出現する。


「廻藤流討魔戦術、四砲陣!!!」


 それは、かつて母から習った廻藤の技。四つの大砲は火を吹き、カルロスを呑み込んだ。


「があああああああ!!!」


 カルロスが倒れる。今しか彼を成仏させる方法はない。


「はぁぁぁぁぁ!!!」


 麗奈は飛び掛かり、カルロスの背中から右手を突き入れた。その右手は、カルロスの魂まで届く。魂を掴んだ麗奈は浄化の妖力を流し込み、カルロスの憎悪を完全に浄化した。


「……負けたのか……俺は……」


「そうじゃ。貴様の負けじゃ」


 麗奈は腕を引き抜きながら言った。ただ憎悪を浄化したわけではなく、魂に細工をした。審判者に引き渡すための刻印。由姫から教えてもらった術だ。霊の中にはカルロスのように、どうやっても晴らせない未練を持つ者もいる。そういった霊を成仏させるために、魂に刻印を刻むのだ。これにより、例え未練が残っていたとしても、その霊は閻魔大王などの魂を次の命に導く審判者に、強制的に引き渡される。


「……貴様は間違いなく地獄に堕ちる。あまりにも人を殺しすぎた」


「天国に逝けるとは思ってねぇよ。けど、すぐにまた会うことになるかもしれねぇぜ?」


「……何?」


「殺徒様がもうすぐ、俺達死者のための世界を創って下さる。その次は、魂を取り扱ってる連中を殺すのさ。二度と生者が生まれねぇようにな」


 カルロスは少しずつ消えながら、笑って言う。


「その時が来るまで、地獄の悪魔やら鬼やらを殺しながら、気長に待っててやるよ……」


 今のカルロスに憎悪はない。だが、並外れた殺意だけはそのままなのだ。次なる虐殺の対象に想いを馳せながら、カルロスは消えていった。


「……そんな世界はできん。輪路兄が、必ず黒城殺徒を、倒してくれる……」


 もういないカルロスに言いながら、麗奈は壁に背を預け、回復薬を飲んで動けるようになるまで休息に入った。




「はぁっ!!」


「ふんっ!!」


 互いに激しく斬り合う命斗とデュオール。だが、命斗がかなり劣勢だ。


「インパクトドライブ!!!」


「あああっ!!」


 槍を振り回し、勢いを付けた刺突で命斗を吹き飛ばすデュオール。


「どうやら、わしの勝ちらしいな」


 既に命斗は立ち上がれる身体ではない。デュオールは自分の勝ちだと言う。


「まだ……負けてない!!」


 しかし、命斗はそれでも立ち上がった。自分が引き受けたのだから、ここで勝たなければ輪路達に会わせる顔がない。


「私は、輪路兄様達を守ると、父様に誓った!! 私は、私の誓いを果たす!!」


「……誓いか」


 デュオールは呟く。自分もかつて、国に忠誠を誓って、裏切られて死んだ。そして、今もまた、殺徒に忠誠を誓ってこの場にいる。


「ならばわしを倒してみよ。わしの魂にその刃が届いた時、貴様の誓いは本物だと証明される」


「言われなくても!!」


 わかっている。だから使う。妖刀宿儺の、真の力を。


「両面宿儺よ。その荒ぶる魂を解放せよ!!」


 次の瞬間、宿儺から緑色のエネルギーが迸り、命斗に宿った。

 修行を重ねた命斗は、富士山に住んでいた鬼と戦った。名前は、両面宿儺。顔が二つあり、手足が四本ずつあるという異形の鬼だ。命斗が死闘の末勝利を納めると、両面宿儺は命斗を主と認め、妖刀宿儺になったのである。元が鬼であるため凄まじい力を宿しており、命斗が求めることで、妖刀宿儺はその力を命斗に貸し与える。


「行くぞデュオール!! 私の全てを出し尽くして、お前を倒す!!」


 一時的に大幅なパワーアップができるが、体力を高速で消耗するため、ここぞという時が来なければ使えなかった。しかし、もう出し惜しみしている暇はない。必ずデュオールを倒し、輪路とともに現世に帰る。その誓いを果たすために。


「良かろう。来い!!」


 互いに全てを出し尽くし、二人は激突した。命斗のスピードは劇的に向上しており、デュオールの槍をかわして胴を斬る。


「ぬっ!! おおっ!!」


 デュオールも負けじと床にカースを突き刺し、霊力の衝撃波を拡散させて命斗を吹き飛ばした。


「うあっ……!!」


「おおおお!! ランスクラッシャー!!!」


 その隙を逃すまいと、デュオールは両槍に霊力を込めて突撃する。命斗は宿儺を交差させ、それを受け止めた。驚いているデュオールに構わず、強引に槍を払い、デュオールの胸板に蹴りを喰らわせる。


「ぬぅぅ……リャァァッ!!!」


 逆上したデュオールは今度こそ勝負を決めるべく、カースにありったけの霊力を込めて突いた。


「ふっ!!」


 しかし命斗は瞬時にそれを見切り、左の宿儺でカースの柄を斬り落とす。


「舐めるなッ!!!」


 多少のけぞったが、デュオールは素早くイビルに霊力を込め直し、先ほど以上の速度で突く。


「はっ!!」


 命斗はそれすら見切り、右の宿儺でイビルの柄を斬り落とした。


「ぬぁぁぁぁぁ!!!」


 破壊された二本の槍を投げ捨て、デュオールは腕の鎧をアームランスに変形させる。


「砕け散れぇぇぇぇぇ!!!」


 そのまま霊力を込めて突く。だが命斗は両方の宿儺でアームランスを破壊しながら振り上げ、宿儺を合体させてデュオールの腹を突き刺した。


「うっ……がっ……!!」


 よろめきながら命斗から離れるデュオール。宿儺が刺さっている腹からは、鮮血のように霊力が噴き出している。


「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 それでも負けぬ。負けられぬ。デュオールは絶叫を上げながら、命斗に掴みかかった。その細い首を引きちぎってやると。


「うぐっ!?」


 だが、それは叶わなかった。デュオールが命斗の首を締め上げるより早く、命斗の右手がデュオールの胸に刺さったからだ。


「廻藤流討魔戦術奥義、体刀……!!!」


 命斗は二百年前、光弘の技、体刀の原理を見取っていたのだ。そして長きに渡る修行と研鑽を重ね、とうとう完成させた。


「ふんっ!!」


 動きが止まった隙を突いて、命斗は右手と宿儺を引き抜き、


「はぁぁぁっ!!」


 真っ向幹竹割りにデュオールを斬った。命斗との全霊の勝負の果て、デュオールは敗北し、倒れる。


「……見事だ」


 負けたはずなのに、デュオールは命斗に称賛の言葉を送った。


「……あなたほどの武人が、どうしてあんな恐ろしい人に付き従っていたのですか?」


 消えていくデュオールに、命斗は質問した。一体なぜ、黒城夫妻のしもべとなったのかと。外道であることは明らかだったはずだ。


「わしはな、ある異世界で、ある将軍の部下だったのだ。ところがその将軍は、突然国を追われた。将軍の活躍を妬ましく思った者が、無実の罪を着せたのだ」


 デュオールは自分の生前を語る。無念であり、苦痛の記憶だった。信じていた国が、上司の敵となったのだから。


「わしは将軍の無実を証明しようとしたが、誰も信じず、わしも同罪として処刑したのだ。ゆえにわしは、全ての生者を、滅ぼしてやろうと思った。ネイゼン将軍の無念を、晴らすために……」


 デュオールが黒城夫妻と出会ったのは、やり場のない怒りを周囲のリビドン達にぶつけていた時だった。殺徒は言ったのだ。自分達についてくれば、自分達の期待を裏切らない働きをしてくれれば、望みを必ず叶えてやると。


「既にわしは死人の身。自暴自棄になっていたわしは、殺徒様と黄泉子様に従った」


 そんな中、シャロンと出会った。シャロンもデュオールと同じで、信じていた相手に捨てられたのだと言った。


「次第に殺徒様に従うのは危険だと感じ始めていった。だが、わしとシャロンが望みを叶えるためには、殺徒様に従うしかなかったのだ。死人に対して理解を示す者など、死人しかいまい」


 他は成仏しろと言うばかりで、自分達の怒りを晴らしてなどくれなかった。自分達に理不尽を働いた者達に、何の罰も与えなかったのだ。

 だが、実際に憎悪を晴らされてわかった。結局、自分達がやっていたことは間違いだったのだと。


「祖国と殺徒様。どちらもわしが仕える相手としては、間違いだったというわけだ。だが、最後にお前のような強い相手と戦えてよかった。礼を言うぞ、廻藤命斗」


 デュオールも武人である。強い相手と戦うことは、死んで魂のみの存在となった彼にとって、数少ない楽しみの一つなのだ。


「……私も、あなたと戦えてよかった」


 命斗も、自分と戦ってくれたデュオールに礼を言う。それを見たデュオールは、満足そうな笑みを浮かべた。


「……すまなかったな、シャロン。わしの戦いに、お前を付き合わせてしまって……」


 シャロンのことを思いながら、デュオールは消え去った。


「……さようなら」


 命斗は、貶められ、憎悪の果てに冥界をさまよった哀れな魂に別れを告げ、宿儺を納刀した。




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