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第八話 二槍暴乱

今回は敵がどういった存在かが少しわかります。

「殺徒様!!黄泉子様!!」


カルロスは殺徒と黄泉子の前に土下座していた。


「どうか!!どうかもう一度チャンスを下さい!!」


「ちょっ、落ち着きなってカルロス。」


「そうよ。何をそんなに慌ててるの?」


「この度の作戦、わたくしめは遊びすぎたがためにとんだ失態を…ですからどうか!!どうか汚名を返上するチャンスを下さい!!もう一度!!もう一度出撃の機会を!!」


「その辺りにしておくのだな、カルロス。」


二人にすがり付いて汚名返上のチャンスを求めるカルロス。そんな彼を制したのは、デュオールだった。


「デュオール…!!」


「見苦しいぞ。自信満々の作戦を破られたのがそんなに悔しかったのか?」


そして嫌味を言う。この二人は死怨衆の仲間でありながら、犬猿の仲だ。互いが互いを嫌っている。


「殺徒様。例の聖神帝の周囲について調べていたところ、面白いことがわかりました。出撃の許可を頂きたいのですが…」


「うん。いいよ」


あっさりデュオールの出撃許可を出す殺徒。カルロスは食い下がる。


「なら俺にも出撃許可を!!」


「カルロス。君は少し休みなよ」


「ちょっと頭に血が上りすぎ。策士のあなたらしくもないわ」


「…くっ…!!」


カルロスは仕方なく下がった。


「…一体どうしたのでしょうなぁ?黄泉子様の仰る通り、奴らしくもありません。」


カルロスの未練がましい態度を見たのは久しぶりだ。以前にもああいう行動をすることは何度かあったが、デュオールはカルロスと仲が悪いので詳しく知ろうとはしない。殺徒が答えた。


「デュオール、君も知ってるだろう?生前の彼は快楽殺人鬼だった。何よりも殺しが好きで、ゆえにその最高の悦楽を邪魔されることを極端に嫌う。」


「だから、自分の快楽を邪魔した聖神帝を殺したいのよ。」


カルロスは生前、快楽殺人鬼で知能犯でもあった。殺徒達に策士と賞されるほどの頭の回転も、殺人によって身に付けたものだ。より質が良く、より多い相手を、より複雑に、より大胆に殺したい。死んでからもその殺意と性格が変わることはなかった。だからこそ殺徒と黄泉子も彼を拾ったわけだが。


「でもメリハリは付けなくちゃ。そういうわけだから、デュオールは何も気にしなくていいよ。」


「は。では、行って参ります。」


カルロスの性格を知ったデュオールは、憂いも(大したことではなかったが)消えたので出撃する。


「…デュオールは出撃したのですか?」


と、入れ違いになる形で、チャイナドレスを着た女性が現れた。


「あら、シャロンじゃない。どうしたの?」


黄泉子が女性の名を呼ぶ。


「いえ、最近デュオールやカルロスが忙しそうにしているので…」


「ああ、彼らにはよく働いてもらってるよ。何なら、君も行ってくるかい?」


尋ねる殺徒。シャロンは少し考えるような素振りをした後、首を横に振った。


「いえ。私シャロン・ファロンは、冥魂城の守りを一手に引き受ける者です。この冥界には常時あなたの座を狙う者が蔓延っているのですから、私が現世へ赴くわけには参りません。」


「そうかい?なら、君にも城を守る役目を頑張ってもらおうかな。」


「はい。お任せを」


シャロンは下がった。











輪路は賢太郎と茉莉と一緒に、秦野山総合病院に来ていた。昨夜高熱を出して入院した彩華のお見舞いだ。


「大丈夫?彩華さん。」


賢太郎はベッドの上の彩華に尋ねる。熱が完全に下がったらしく、彼女の顔は健康的な肌色だった。


「はい。注射も打ってもらいましたし、医師の方からは二~三日あれば退院できると。」


「よかった!」


「まったく、心配させないでよねお姉ちゃん。」


茉莉は少しきつい言い方をしているが、姉が無事だとわかり安心している。


「お前でも風邪ひくことってあるんだな。鍛えてるんだから風邪なんかひかねぇと思ってたぜ」


輪路は日々鍛練に勤しんでいる彩華が風邪をひいたことを、かなり意外に感じている。


「いやぁそれが…」


彩華は恥ずかしそうだ。茉莉がため息を吐きながら教える。


「実はね、お姉ちゃんがこうなった理由は鍛えすぎなんです。」


「は?」


茉莉曰く、一昨日彩華が『今日はかなり気分がいいんです!』とか言ってランニングやら腕立て伏せやら腹筋背筋やら組み手やらを滅茶苦茶にやりまくり、あまりにも鍛練をしすぎて一日寝るだけでは疲労が取れず、昨日無理して学校に行った結果倒れてしまったようだ。


「かぁ~!お前疲労にやられたのかよ?ったく、俺と同じで限度ってもんがないよな。」


「あはは…お恥ずかしい限りで…」


無理のしすぎで風邪をひいてしまったことを恥じる彩華。


「それにしても、輪路さんが来て下さるとは思いませんでした。」


「ん、ちょっとな。俺はそこらをブラブラしてくるから、お前らは好きに話し込んでろ。帰る時になったら、三郎からもらったアレで俺に呼び掛けてくれ。」


三郎は賢太郎達三人にも、妖力の結晶を渡している。美由紀と同じく、結界に閉じ込められた時の対策としてだ。


「わかりました。」


賢太郎が返事をし、輪路は病室から出ていく。




輪路が賢太郎達に付き添った理由は、この病院に入るためである。彼はもうこの街に住んで長い。幽霊がいそうな場所は行き尽くしたと言える。だがさすがの輪路も、病院のような何の理由もなく入れないような場所には行っていない。少なくとも病人でも怪我人でもない者が入っていい場所ではないので、病人や怪我人に関係のある者、すなわちお見舞いとして入ったのだ。病院は、常に命のやり取りが行われている場所。戦場の次に、人死にが多い場所だ。だから、成仏できずにさまよっている幽霊も、大勢いるはずである。特にこの秦野山総合病院は、十年前墓地を潰して建てた場所である。三郎から聞いたが、さらにその数百年前は落武者の霊が出没していたらしい。高い霊力を持つ自分とそれなり接している彩華なので、何かあってはまずい。だから先手を打ちに来たのだ。


「…いねぇな。」


しかし、病院のどこを探しても、幽霊はいなかった。


(そういえば…)


輪路は三郎に言われたことを思い出した。











「秦野山総合病院?ああ、あそこは別に行かなくていいぜ。」


「あ?何でだよ?」


輪路は三郎に聞き返した。


「お前さ、前にあそこが建つ前の墓地に行っただろ。」


「ああ。墓地だってのに幽霊がいなくて驚いたけどな」


輪路は秦野山総合病院が建つ前の墓地に行ったことがある。他の墓地には幽霊がいたのだが、妙なことにあの墓地だけは幽霊が一人もいなかった。よほど未練がない死に方をしたのだろうか。


「今から数百年前…あの辺りには落武者の霊がいてな、悪さを働いてたんだ。死人が出ることもしばしばだったな」


数百年前、あの辺りは寺院で、多数の落武者が自殺に使う場所だったそうだ。ただ自殺した落武者達の未練があまりにも強く、成仏できずに霊の集団、霊団となり、近付く者を襲っていた。そこに旅の僧が現れ、霊団を成仏させようとしたのだが、落武者一人一人がかなり強い力を持っていたため、それら全てを成仏させることができず、仕方なく土地そのものに術式を施して落武者達を封印したらしい。


「千年はもつ強力な封印でな、その封印の影響で近くで死んだやつはすぐ浄化されて成仏しちまうんだ。だからあの辺りには幽霊がいないんだよ」


「…千年もつ封印ができるやつが、たかが落武者相手に負けるか?」


「よほど強い落武者だったんだろ。それに俺が見た限りじゃ、落武者の数は少なく見積もっても二十人だった。多勢に無勢だよ、一人を相手にすんのと霊団を相手にするんじゃわけが違う。お前もいつかわかるさ」


僧はかなり強かったようだ。そこまで強力な封印を施せる人間が落武者を成仏させられなかったというのはいささか信じ難いが、三郎の言うように、様々な要因が重なったのかもしれない。











それでも気になったのでこうして来てみたわけだが、やはりというか何というか、幽霊はいなかった。封印が死んだ人間を成仏させているようだ。とてつもなく強い霊力の持ち主でもない限り、成仏してしまうと三郎は言っていた。そして、今数百年経っているので、あともう何百年かはもつということになる。


「…俺は必要ないってことか…」


自分が生きている間にここの封印が解かれることはないだろうと輪路は感じた。


「師匠、帰りますから戻ってきて下さい。」


「おう、今戻る。」


ちょうどいいタイミングで賢太郎から通信が入り、輪路は病室に戻った。




「それじゃ彩華さん、明日また来るから。」


「いくらすぐ治るっていっても、ちゃんと安静にしてるのよ?」


「はい、二人ともありがとうございます。廻藤さんも、今日はありがとうございました。」


「ああ。早く治せよ」


三人は彩華に別れを告げ、病院を出た。


「…一応聞いとくが賢太郎。お前病院で幽霊を見たか?」


「?いいえ…」


「…そうか。」


一応賢太郎にも確認したが、やはり見えなかったようだ。


(…まぁ、いないならいないで別にいいか)


輪路はさして深刻には考えなかった。幽霊など、いるよりいない方がずっとよかったからだ。











深夜、秦野山総合病院。


「ここか。血塗られた魂が封印されている場所は」


病院の屋上に降り立つデュオール。


「ふん!!」


デュオールは右手の槍を、おもいっきり屋上に突き立てた。槍を通してデュオールの力が病院全体に、病院が建つ土地全体に行き渡る。


「さあ蘇れ!!呪われた魂達よ!!」


デュオールがそう叫ぶと、病院の地面から無数の人魂が沸き出し、屋上まで昇ってきた。やがてデュオールの目の前にたどり着いた人魂達は、それぞれが落武者の姿を取り始める。その数、およそ二十。デュオールは己の力を以て封印を破り、落武者達を復活させたのだ。


「よくぞ我が呼び掛けに答えた。負け犬どもよ」


「…貴様は何者だ?」


自分達を蘇らせておいて負け犬呼ばわりするデュオールに、落武者の一人が皆を代表して尋ねる。


「我が名はデュオール。負け犬のままでくすぶっている貴様らに、復讐の機会を与えるため参上した。」


「復讐?」


「そうだ。お前達は憎くないのか?お前達に負け戦を強い、みじめな自害へと追いやった無能な君主が。お前達をこの地に封じた僧が!」


「…憎い。ああ、憎いよ!!」「憎いに決まっている!!殺したくてたまらない!!」「あの無能畜生め!!よくも俺達を!!」「くそ坊主がぁぁぁぁぁ!!」


恨みの言葉を口々に叫び始める落武者達。デュオールはニヤリと笑った。


(思った通り、素晴らしい憎悪だ。個々の霊力も悪くない)


デュオールはこの病院の噂を聞きつけてこの辺り一帯を調べ、封印された落武者達の存在を知った。封印を解いて落武者達を蘇らせ、己の兵に加えるのが目的だ。


「よろしい。お前達の憎悪の声、しかと聞いた。お前達に復讐の機会と、力を与える!!」


デュオールは槍を引き抜くと、左の槍とともに穂先を落武者達に向けた。両方の槍から赤い電撃がほとばしり、落武者全員に命中する。


「さあ、我らの兵となり隷属せよ!!」


『ウアアアアアアアアアアアアア!!!』


電撃を受けて叫ぶ落武者達。やがてデュオールが電撃を止めると、落武者達は全身に甲冑を纏い、顔が骸骨になったサムライリビドンに変わっていた。


「行け!!手始めにこの建物の人間を皆殺しにしろ!!」


『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』


サムライリビドン達は咆哮を上げると屋上のドアを蹴破り、病院内に侵入していった。











「…んん…」


彩華は目を覚ました。何か騒がしい。人が叫ぶ声や、ガチャガチャと金属がぶつかる音が聞こえてくる。


「何…?」


うるさく思った彩華は、音が何なのか確かめるため、病室のドアをゆっくり開けて、そっと廊下を見た。


「ウアアアア!!!」「コロセ!!」「皆殺しダ!!」「オオオオ!!!」


彼女が見たのは、怨念を叫びながら暴虐の限りを尽くすサムライリビドンの群れだった。


「!!」


彩華は慌ててドアを閉めると、見つからないようベッドの向こうに隠れる。


「大変だ…!!」


次に、寝間着のポケットに手を伸ばす。今日のお見舞いの時、茉莉が持ってきてくれたペンダント。


「廻藤さん!!廻藤さん!!」


彩華は必死で輪路に呼び掛けた。











「廻藤さん!!廻藤さん聞こえますか!?返事して下さい!!」


もう寝ようとしていたところ、ペンダントから彩華の声が飛び込んできた。輪路はやかましそうにペンダントを取ると、彩華に尋ねる。


「何だ彩華?そんなに慌ててどうした?」


「病院で怪物が暴れてるんです!!鎧武者みたいな…あっ!!来た!!」


彩華からの通信が突然切れる。


「鎧武者…?」


彩華が最後に言っていたことを呟く輪路。鎧武者といえば…


「…!!」


眠気に支配されていた頭を一気に起こし、輪路は木刀を帯刀して部屋から飛び出す。


「輪路さんどうしたんですか!?」


部屋から出たところで、美由紀と鉢合わせた。隣の部屋なので、先ほどの彩華の声が聞こえたのだろう。様子を見に来たのだ。


「病院で何か起きたらしい。今から言って見てくる!」


「私も行きます!」


「わかった。来い!」


輪路は美由紀の手を引いて駆け出すとバイクにまたがり、後ろに美由紀を乗せて発車した。


「もしかしたら幽霊絡みかもしんねぇ。三郎を呼んでくれ!」


「はい!」


美由紀は輪路の指示でペンダントを取り出し、三郎を呼ぶ。間もなくして三郎はバイクに追いつき、わけを訊いてくる。


「いきなりどうしたんだ輪路?」


「お前が言ってた病院の封印、解けたかもしんねぇ。」


「何!?んなもんあり得ねぇよ!!あと数百年は維持できる封印だぜ!?誰かが意図的に解きでもしない限りな!!」


「意図的に?まさか…!!」


「それを確かめに行くんだよ!!」


輪路はバイクを走らせた。




病院。


「こいつは…!!」


輪路は病院を見ながら言った。建物のあちこちで、鎧武者が暴れているのだ。


「とりあえず結界を張るぜ!!落武者どもと病院を切り離さねぇと!!」


三郎は結界を張る。これにより、今見えているものは病院に似た異界と化し、落武者達は病院からこの異界へと引き込まれた。


「…た、助かった…?」


彩華に刀を振り下ろそうとしていたサムライリビドンも消え、やっと一息つく。


「やはり来たな、聖神帝廻藤輪路。」


結界が張られたことを知ったデュオールは、屋上から輪路達の目の前へと降り立つ。


「何だお前?」


いぶかしむ輪路。美由紀はデュオールが、槍を二本持っていることに気付いた。


「輪路さん!!あの人、槍を二本持ってます!!」


「見りゃわかる。それがどうし…っ!!」


輪路は、先日倒した忍者が言っていたことを思い出した。



『槍使いだ。二本の槍を持った男の幽霊が、俺を怪物に変えた。』



槍を二本持った男。忍者が言った存在と特徴が一致している。


「てめぇがあの忍者をリビドンに変えた幽霊か!!」


「いかにも。わしの名は、デュオール・ラクティス。貴様らがリビドンと呼ぶ者の一種だ。この地に封印されていた人材を掘り起こしに来た」


「人材…なるほど、封印を破って落武者の幽霊を復活させたのもお前ってことか。」


三郎は苦々しそうに言う。


「リビドン?この人も?」


美由紀はデュオールがリビドンであることを、かなり意外そうに思った。


「それにしては、狂ってないというか、理性が残ってるというか…輪路さん。この人は本当にリビドンなんですか?」


「…ああ。この感じ、間違いねぇ。こいつもリビドンだ」


今まで見てきたリビドンは皆理性を失って狂っており、まともな行動をしていなかった。だがデュオールからは、そういった感じが一切しない。ひどく落ち着いている。そんな感じだった。三郎が説明する。


「リビドンっつってもピンからキリまでいてな。中には自分の憎悪を制御して、理性を保っちまうくらい強い精神力の持ち主もいるんだ。そいつらは普通のリビドンより遥かに強い、上級リビドンって存在にカテゴリーされてる。」


「上級リビドン…」


どうりでデュオールが落ち着いていると思った。今まで戦ってきたリビドンとは、格が違うのだ。リビドンの強さも聖神帝と同じく、霊力と精神力で決まる。リビドン自体、相当強い精神力がないとなれない。それを超えて憎悪を完全制御するとなれば、もはや人間を超越した精神力の持ち主と言える。鍛練を積んでいるはずの忍者さえ、最終的には暴走したのだから。それでも、彼は人間だ。上級リビドンなどという存在になれたのは、まさしく天才と呼べる存在だからだろう。


「上級リビドンは幽霊をリビドンに変えたり、自分より弱いリビドンを操ったりできる。他にも特殊な能力を持ってるやつとか、単純に戦闘力がバカみてぇに高いやつもいる。今まで戦った連中なんか比較になんねぇぞ…!!」


「だろうな。こいつは間違いなく、強い。」


輪路はデュオールの強さを肌で感じていた。今まで戦った幽霊やリビドンとは、次元そのものが違う。こんなに強いやつがいたのか、と思ってしまう。


「ちょうど良い。新しく手に入れた戦力を、お前で試させてもらおう。」


デュオールが右手の槍を掲げると、病院の窓からサムライリビドン達が飛び出してきて、デュオールの後ろに整列した。


「行け!!」


それからデュオールが槍を輪路に向けると、サムライリビドン達が一斉に突撃してきた。


「三郎!!美由紀を守れ!!」


「おう!!美由紀、こっちだ!!」


「はい!!」


三郎は美由紀を連れて逃げる。


「神帝、聖装!!」


輪路はレイジンに変身し、


「レイジン、ぶった斬る!!」


スピリソードを抜いて、サムライリビドン達を正面から迎え討った。まず五人。刀を抜いて斬りかかってくる。その後ろからもう五人が槍を構えて突撃し、次の五人が弓矢で、最後の五人が火縄銃で、それぞれ攻撃してくる。


「ちっ!!多いな!!」


レイジンは刀使いと槍使いをスピリソードでさばき、矢と銃弾を弾く。一人一人は大して強くないが、連携がしっかりとできており、レイジンが攻める隙を与えない。これは恐らくデュオールのせいだろう。三郎は上級リビドンなら他のリビドンを操れると言っていた。デュオールが連携して戦闘できるよう、サムライリビドン達を操っているに違いない。そもそもリビドンは、自分の憎悪に狂っているような連中だ。連携を組んで戦うなんて行動が、できるはずがない。にも関わらずこれほどの戦い方ができるということは、デュオールが自我を奪って操っているからだ。


「さてどう出る?守っているばかりでは勝てんぞ。」


「くっ…!!」


デュオールは一切手を出していない。必要ないと判断したのだろうか。


「舐めやがって!!ぐおっ!!」


刀と槍に気を取られて、銃弾を二発喰らってしまった。さらに、矢が降ってきて受けてしまう。正面からは刀と槍が、その後ろからは銃弾が、上からは放物線を描いて矢が、それぞれ襲ってくる。全く隙がない。その時、


「輪路さん!!建物の中に逃げて下さい!!」


美由紀が指示を出した。


「けどここで俺が退いたら…!!」


「美由紀のことなら大丈夫だ!!俺が守る!!」


「…くそっ!!頼んだぜ!!はぁっ!!」


美由紀を守りたいが、今回ばかりは手が回らない。三郎が言っていた霊団の厄介さを、ようやく思い知った。仕方なく美由紀を三郎に任せ、病院内へと退避していく。サムライリビドン達は追いかけていった。


「ちっ…」


デュオールも舌打ちしつつ追う。




(なるほどな…)


レイジンは襲いかかってきたサムライリビドン二人の刀を弾き、一人の胴を斬ってもう一人を蹴り飛ばす。次に槍を持ったサムライリビドン三人の槍を叩き斬り、裏拳と蹴りで押し返す。美由紀が言っていたことを、やっと理解した。今レイジンが戦っている場所は、病院の廊下だ。廊下は狭いため、一度に二~三人くらいしか同時に襲ってこられない。加えて火縄銃や弓などが邪魔となり、全員が武器を刀か槍かに替えているのだ。


(しかも、今は全員がこの廊下に並んでる!!今なら…!!)


レイジンは戦いながら胸のライオンの口に霊力を込めると、


「ライオネルバスタァァァァァァーッ!!!」


ライオネルバスターを放ってサムライリビドン達を一掃。廊下を完全に覆い尽くすほど巨大な光線なので、撃ち漏らしはない。


「ああ…俺達の未練が…憎悪が消えていく…」「なんて清々しい気分なんだ…」「感謝するぞ剣士よ。」「これで…俺達は…」


憎悪と未練を浄化してもらった落武者達は、成仏していった。その時、


「女の助言があったとはいえ、あれだけの数を一人で全滅させるとはな。やはり下級のリビドンでは手に余るか…」


ずっと傍観に徹していたデュオールが現れた。


「…その女はどうした。」


「安心するがいい。わしにとって最も倒さねばならん相手は、貴様だからな。」


「そうかい。だが、あとはあんただけだぜ。大将!」


「仕方あるまい。次はわしが相手だ」


取り巻きを全滅させられ、一人だけになったデュオールは、レイジンと戦う決意をした。


魂身変化こんしんへんげ!!」


次の瞬間、デュオールはより大柄な体躯となり、より重厚な甲冑に身を包み、肌が紫色でゴツゴツと硬質化したものへと変化した。上級リビドンは強力な精神力で憎悪を制御し、己の理性を獲得した存在なのだが、他者を恨むという根本的な部分は変わっていない。制御しているとはいえ憎悪を解放した方が強いし、その結果姿は怪物のものとなる。だが上級リビドンは理性を維持しているので、怪物の姿は己の力をただ強化しただけの戦闘形態だ。暴走したりはしない。


「行くぞ!!貴様を我が槍、カースとイビルの餌食にしてやる!!」


「抜かせよ。てめぇこそ俺が成仏させてやらぁ!!」


二人は激突する。デュオールは一本だけでも扱いづらいはずの槍を、二本とも使いこなし、レイジンを追い詰める。


「リーチはわしの勝ちだな。貴様は剣を得意としておるようだが、間合いに入らねば意味はあるまい!!」


右の赤黒い槍カースを、左の青黒い槍イビルを自由自在に振り回し、レイジンを近寄らせない。リーチにおいて刀と槍では、槍に勝てない。いくら速く強烈なレイジンの斬撃でも、間合いに入らなければ届かないのだ。


(だからこの技があるんだよ!!)


しかし、そのリーチの長さが槍の弱点でもある。長いゆえに懐に飛び込まれると、相手を攻撃できないのだ。そしてスピリソードに霊力を込めながら、一瞬で距離を詰める技、縮地を使う。


「ぬっ!!」


これでもう、デュオールの槍に脅かされることはない。あとは必殺技を決めるだけだ。


「ソニックレイジン…!!」


だが、


「うっ!?」


デュオールはあっさりとカースを離し、自由になった右手でレイジンの腕を押さえ込み、ソニックレイジンスラッシュを止めた。驚くレイジン。デュオールはイビルもあっさり離し、左手も自由にする。その直後だった。左腕の鎧が槍のような形状に変形し、デュオールがその左腕で殴りかかってきたのだ。


「ごほっ…!!」


防ぐ暇もなくみぞおちへと命中し、レイジンは吹き飛ぶ。


「ふん、貫けなかったか。頑丈な鎧だな」


幸いにもレイジンの腹の鎧には傷一つない。聖神帝の鎧は変身者の霊力が高ければ高いほど、堅固になっていく。しかも鳥の羽のような軽さで、どれだけ硬くなっても重さは変わらない。輪路の霊力が高かったおかげで、致命傷を負わずに済んだのだ。


「その手の技を使ってくる相手との戦い方ぐらい、心得ておるわ。だがこのアームランスを生者に使ったのは、本当に久しぶりだ。なかなかやるな」


デュオールの両腕の鎧は、それぞれアームランスという槍に変形する。カースとイビルの間合いを見切られ懐に飛び込まれた場合の対策であり、いざという時の切り札だ。それを容易く使わせてみせたレイジンの実力を、デュオールは賞賛する。


「だが、わしの魂には届かん。」


左腕のアームランスを鎧に戻したデュオールは、カースとイビルを回収する。


「行くぞ!!」


回収して早々に、デュオールはカースとイビルを高速で振り回し始めた。そのまま駆け出す。二本の槍の刃が、デュオールが駆け抜けた廊下の壁を、ドアを斬り刻んでいく。そして、


「インパクトドライブ!!!」


十分に勢いを付けたデュオールは、立ち上がったばかりのレイジンに向かって二本の槍による同時の刺突を繰り出した。うまくタイミングを合わせて、スピリソードで防ぐレイジン。だが、衝撃までは受け切れない。


「ぐあああああ!!!」


レイジンは先ほどよりもさらに大きく吹き飛ばされた。


「輪路!!」


「輪路さん!!」


ライオネルバスターによって空けられた穴から吹き飛んできたレイジンを見て、三郎と美由紀は駆け寄る。


「く、来るな…!!」


レイジンはダメージを受けながらも、二人に近寄らないよう言う。そのすぐ後に、レイジンの目の前にデュオールが現れた。瞬間移動だ。幽霊はデフォルトで瞬間移動ができる。しかし、普通のリビドンに瞬間移動はできない。憎悪に狂って正常な思考ができず、自分の力が制御できないからだ。だから、幽霊が本来持っている瞬間移動や物質透過などの能力を、リビドンは使えない。しかし上級リビドンは思考回路が正常なため、瞬間移動も物質透過も普通にできる。


「どうした?何を寝転んでいる?さっさと立て。」


デュオールはカースの穂先をレイジンに向けると、クイ、クイ、と持ち上げて、早く立ち上がるよう挑発した。


「馬鹿にしやがって…!!」


レイジンはスピリソードを横に振ってカースを弾く。デュオールは飛び退き、その隙にレイジンは跳ね起きて、


「ハリケーンレイジンスラッシュ!!!」


縮地を使いながらハリケーンレイジンスラッシュを放つ。先ほどは止められたが、腕が届かない距離からなら当たるはずだ。が、


「ふん。」


当たらなかった。デュオールは瞬間移動でハリケーンレイジンスラッシュを回避し、レイジンの背後に移動してイビルで斬った。


「ぐっ…うらっ!!」


すかさず背後に向かってスピリソードを振るが、ダメージを負って苛立ったのかかなり振り方がいい加減だ。そんな攻撃が通じるはずもなく、デュオールは瞬間移動もせずにイビルでスピリソードを止めると、カースでレイジンを突いた。


「がっ!!ごあっ!!がああっ!!」


顔を、胸を、腹を、突く。


「ぬん!!せい!!はっ!!」


斬る、斬る、斬る。レイジンはスピリソードを落とし、されるがままだ。


(このままじゃやられる…こうなったら…!!)


スピリソードを落としてしまった。残る武器は、ライオネルバスターしかない。だが、ただ撃っても瞬間移動でよけられてしまう。


(…一つだけ、よけられない方法がある…)


一応、瞬間移動を使ってくる幽霊と戦った経験はある。瞬間移動を使った後、もう一度瞬間移動を使うまでほんの少し、タイムラグがあるのだ。その時は一切の動作が停止し、通常の回避も、反撃もできない。そこを狙ってフルパワーのライオネルバスターを叩き込む。他に方法はない。レイジンは霊力のチャージを始める。


「その技は先ほど見たぞ。わしに叩き込むつもりでいるな?」


サムライリビドンを一発で全滅させたあの技をしっかり見ていたデュオールは、攻撃の手を止める。いくら瞬間移動があるとはいえ、余裕ぶっこいて攻撃していたら、避けられなくなる可能性があったからだ。


「良かろう、撃ってこい。それを外した時が、貴様の最期だ!!」


「くっ…」


対策されてしまっている。デュオールはレイジンがライオネルバスターを撃つまで、一切仕掛けず待つつもりだ。撃たせてから瞬間移動でかわし、レイジンにとどめを刺す。


(まだだ!!まだ勝つ方法はある!!)


「ライオネルバスタァァァァァァァァァーーッ!!!!」


それを知りつつ、ライオネルバスターを撃つ。予想通り瞬間移動をするデュオール。だが、


「そこかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


背後にデュオールの気配を感じたレイジンは、ライオネルバスターを照射したまま振り向いたのだ。


「な、何!?」


デュオールは驚愕しながら、白銀の閃光に呑まれた。照射しながら強引に移動した方向に身体を向ける。おまけに背後に移動してくれたおかげで、超至近距離から浴びせることができた。勝った。レイジンは確信する。



しかし、



「…何という男だ。戦士と呼ぶにはあまりにも豪胆で、荒削りすぎる。しかし、あえてそれを通したか。」


デュオールは、立っていた。ダメージはある。ダメージはあるのだが、成仏できるほど憎悪や霊力が削られたわけではない。


「…何て野郎だ…全力をぶつけてやったってのに、ほぼ無傷かよ…!!」


「悪くない一撃だった。貴様の霊力があと五十倍あったら、わしは成仏させられていたところだ。」


「全然届いてねぇってことじゃねぇか…!!」


デュオールは遠回しに、お前では絶対に勝てないと言っている。全力でやってもまるで通じていない。万策尽きた。


「そんな…輪路さん!!逃げて!!」


このままでは殺されてしまう。その時、


「ここまでだな。」


三郎が目から光線を発射した。


「ぬっ!?ぬぅぉぉぉぁぁぁ!!」


予期せぬ所から攻撃を喰らい、防ぐこともできず、デュオールは消滅した。


「奴を結界の外に飛ばした。700kmは離れた所に追放したから、簡単には戻ってこれねぇだろ。」


「三郎ちゃん…ありがとうございます!!」


三郎が、輪路の窮地を救ってくれた。美由紀は三郎に心から感謝し、輪路のそばに駆け寄る。


「輪路さん!!」


「…ああ。」


レイジンは変身を解く。だが、輪路は少し放心状態だった。











「烏が…味な真似をしてくれる。」


結界の外。秦野山市から遠く離れた場所に飛ばされたデュオールは、憎々しげに呟いた。幽霊は瞬間移動を使えるが、一度に移動できる距離は長くて数km程度だ。デュオールの場合、最長移動距離は約600mである。


「…まぁいい。瞬間移動を何度も繰り返せばいいだけの話だ。すぐ戻ってやる!!」


瞬間移動を使おうとするデュオール。その時、


(無理はいけないよ、デュオール)


(殺徒様!?)


殺徒がテレパシーで語りかけてきた。


(無傷じゃないんだろう?あれだけの浄化霊力を浴びせられて、今の君に何度も瞬間移動を行えるだけの力が残っているのかな?)


瞬間移動は霊力の消耗が激しいため、通常の幽霊はそう何回も使えない。リビドンは憎悪がある限り霊力が無限なのだが、憎悪を削られると弱体化する。フルパワーのライオネルバスターを超至近距離で受けて、さすがのデュオールも無傷では済んでいない。肉体が受けたダメージこそ微々たるものだが、憎悪をかなり削られてしまった。


(戻っておいで。深追いは禁物だ)


(…かしこまりました)


主の命令なので、デュオールは冥魂城へと帰還した。











翌日の夕方。


「いや~、トラブルはありましたけど、おかげさまで大全快です。」


彩華はヒーリングタイムに、完治したことを伝えに来た。


「よかったぁ。軽い風邪で安心したよ」


「風邪といっても疲れただけですから、しっかり休むだけで大丈夫です!」


賢太郎は彩華がすぐ復帰してくれたことをとても喜んでいる。


「これに懲りたら、もうあんな無茶しないでよ?」


「はい。今回の一件で、無茶はよくないって思い知りましたから!」


「…どーだか。」


茉莉は、絶対また無茶するなこの熱血お姉ちゃんは。と思っていた。


「あら、どうしたの輪路ちゃん?」


アメリカンを飲む手が止まっているのを見て、佐久真が指摘する。


「…別に。」


輪路は不機嫌そうに答えた。


「輪路さん…」


美由紀は不安そうな顔をしている。輪路は今、昨夜の戦いを思い出していた。


(あれが上級リビドン…)


今まで戦った相手とは、比較にならない強さだった。このままでは勝てない。


(またなんか特訓を考えなきゃな…)


輪路は今より強くなり、必ずあの男、デュオールを打倒することを誓った。





今まで戦った全ての敵を遥かに凌駕する男、上級リビドンデュオール。三郎のおかげで助かりましたが、あのままだと輪路は死んでいました。さらなるパワーアップを検討しなければなりませんね。


次回もお楽しみに!

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