第四十四話 英雄と深まる謎
今回はちょっとしたサプライズがあります。
「……たまにはいいか。」
そう言って輪路が受注したのは、日本国内の任務である。時間回帰事件を解決してから一ヶ月、世界中を飛び回っていて、国内の任務をやることがなかった。なら、たまには自分の国の任務を解決するのもいいだろうと、輪路は思った。任務の内容は、暴力団が潜伏しているという情報が入り、しかも全員が異能者の可能性があるため鎮圧して欲しいとのこと。暴力団ぐらいなら警察に任せろと思ったが、相手が異能者なら対応できる存在が限られる。
「んじゃ、行きますかね。」
輪路は任務で指定された場所へと出発した。
この時輪路は、たどり着いた場所で、とても重要な人物と遭遇するということを、まだ知らなかった。
*
着いたのは、日本の青森県。輪路はとりあえず、暴力団らしき集団が目撃されたという廃墟に来た。聞いた話によると、不審な格好をした男性が数人入っていき、それから数分後に争うような音が聞こえて、男性達は出ていったらしい。中に入った輪路は、くまなく内部を調べてみる。
「……なるほど。」
目についたのは、恐らく暴力団が入ったと思われる部屋だ。壁に巨大な引っ掻き傷や、つい最近何かを燃やしたような煤が残っている。引っ掻き傷はまるで熊か何かに付けられたような大きさで、しかし入っていったのは人間の男性のみと聞いている。これは、ますます異能者集団である可能性が濃厚になってきた。
「……犯人は現場に戻るっていうが、戻ってきそうにねぇな……」
恐らく暴力団グループはここで、何かの取り引きをしていたのだろう。もしかしたら、ここは取り引き場としてよく使われるのかもしれないと思ったが、標的が戻ってくる気配はないので、気分転換も兼ねて外に出ることにした。
「それにしても、どうやったら究極聖神帝になれるのかねぇ……」
町を歩きながら、輪路は考える。あれからずっと修行を続けているが、一向に究極聖神帝になれる兆しがない。確かに強くなってはいるし、輪路自身それを自覚してはいるのだが、それでは駄目なのだ。もっともっと、劇的なパワーアップをしなければ、殺徒には勝てない。殺徒を倒さなければ、この宇宙に生きる全ての命が死んでしまう。それだけは絶対に、避けなければならない。そのためには、究極聖神帝にならなければ。気持ちは焦るのだが、変化が起きない。それがまた輪路を焦らせるという、悪循環に陥っている。
そんな時だった。
「やめて下さい。その人、嫌がってるじゃないですか。」
何か喧騒が聞こえる。それに反応して輪路が見てみると、そこには柄の悪そうな男三人と、気の弱そうな女性。それから、その女性を庇おうとしている金髪の女性がいた。もう一人の女性だが、かなりおかしな格好をしている。ベレー帽を被り、サングラスを掛けているのだ。まるで、自分の素性を隠そうとしているアイドルのような格好である。
「だから、俺達はそっちの女に用があるんだよ。あんたには関係ないだろ」
「こいつが俺達にぶつかってきたのに、謝りもせずに通りすぎようとしたんだよ。」
「見ろよほら。おかげで今日買ったばっかの服が汚れちまった」
男達は相当ご立腹な様子で、女性二人に詰め寄っている。
「そんな……私、ちゃんと謝ったのに……」
「あんなもんで許すわけねぇだろ!」
「クリーニング代よこせよ!慰謝料だ慰謝料!」
絡まれている気弱な女性はおずおずと返すが、男達は許すつもりはなさそうだ。と、金髪の女性が言った。
「払う必要なんてありませんよ。私、この人達が自分からぶつかったところ、見てましたから。」
「何だと!?」
「てめぇやる気か!?」
金髪の女性は、この三人が最初から女性をターゲットにしており、慰謝料をせしめる目的でいたことを見抜いていたようだ。一歩も引かない金髪の女性を見て、輪路はそろそろ助けに入らないとまずいと思い、割り込む。
「オイオイオイオイ。お前らちょっと落ち着きな?な?」
「何だてめぇ!?」
「部外者は引っ込んでろよ!!」
案の定、男達は突っ掛かってきた。
「落ち着いて引き下がれって言ってんだよ。挑むならこんな弱そうなやつじゃなくて、ヤクザとかプロレスラーとかにしな。ま、お前らみたいなヘタレじゃ、強い相手に挑むなんて無理だろうけどよ。」
「んだとてめぇ!?」
怒った男の一人が、輪路に殴り掛かる。輪路はその拳を片手で弾き、もう片方の手で三人の全身に無数の拳を叩き込んだ。あえなく吹っ飛んだ三人に、輪路は言う。
「消えな。これ以上は命取りになるぜ」
先ほどのやり取りで、輪路の実力は十分思い知った。男達は腰砕けになりながら、一目散に逃げていく。
「あの……ありがとうございました!何かお礼を……」
「いいっていいって。それより、早く帰りな。また目ぇ付けられても面倒だろ?」
「……はい。本当に、ありがとうございました!」
気弱な女性が輪路に礼を言うが、輪路は断り、女性を帰した。これで残ったのは、金髪の女性のみ。
「強いんですね。びっくりしました」
「そうか?俺が見た感じ、あんたも相当やりそうだけどな。」
輪路は、この金髪の女性を少し、警戒している。なぜなら、彼女はほぼ間違いなく、異能者だからだ。一目見た時、普通ではない力の波動を感じた。それも、かなり強い力だ。この金髪の女性は、とても強い異能者である。もしかしたら、今暴力団と何らかの繋がりを持っているかもしれない。
「あんた異能者だろ?その気になれば、あんな連中瞬殺できたわけだ。」
「……何のことでしょう?」
「隠さなくてもいい。俺も異能者だからな。ちょっとあんたに聞きたいことがあるんだが……」
女性から暴力団について情報を聞き出そうとする輪路。
その時だった。
「さだめさーん!」
向こうから、さだめと呼ばれたこの女性と、全く同じ姿をした男性が駆けつけてきた。
「光輝。」
さだめは男性を見る。光輝と呼ばれた男性は、さだめの肩や腕をペタペタ触り出した。
「何か起きたの!?怪我はない!?」
「この人が助けてくれたから大丈夫。それに、私一人でも大抵のことは切り抜けられるよ。光輝は心配性だなぁ」
「あなたがさだめさんを?」
「ん?ああ。」
「ありがとうございます!!」
光輝は喧騒に気付き、さだめが巻き込まれているとわかって慌てて来たようだ。輪路に礼を言っている。
(こいつも異能者だな……)
輪路は、光輝もまた異能者であることに気付いた。それも、さだめに匹敵するほど強い異能者だ。
「なぁ、あんたらに聞きたいことがあるんだが……」
「それでしたら、僕達の家に来て頂けませんか?お礼もしたいですし。」
「……そこまでのことをした覚えはないんだが、まぁゆっくり話ができるってんならいいや。それと、挨拶が遅れたな。俺は廻藤輪路だ」
光輝達の家に連れていってもらえることになり、輪路は名乗る。二人も名乗った。
「僕は白宮光輝です。」
「私は白宮さだめです。私達、結婚してるんです。」
「へぇ、ずいぶん若そうに見えるが、結婚してるのか。ん?ちょっと待て。白宮って、あの白宮か!?」
スルーしそうになったが、輪路は思い出した。白宮光輝と白宮さだめといえば、五年前の第三次世界大戦で、世界を救った英雄の一人である。
*
ここ青森には光輝の自宅があるらしく、光輝とさだめはそこに住んでいるそうだ。
「あら光輝ちゃんにさだめちゃん!おかえり!」
「ただいまおばさん。」
光輝が挨拶したのは、彼の親戚の千鶴おばさん。ここは光輝の自宅だが、実は千鶴の自宅だ。
「そちらの方は?」
「廻藤輪路さん。さっき助けて頂いて、お礼をしたくて。」
「あらそう!さだめちゃんを助けて頂いてありがとうございます。」
「いえ、お構い無く。」
「どうぞ上がって下さい。」
光輝がさだめと輪路を、家の中に上がらせる。それから簡単にお茶と茶菓子を出し、落ち着いたところで話を始める。
「それで、聞きたいことというのは?」
「ああ。何でもあの近くで、全員異能者の暴力団が出たって話を聞いて捜しに来たんだが、あんたら何か知らないか?」
「異能者の暴力団……僕は何も。さだめさんは?」
「私も全然。」
異能者なので暴力団と関わりがあるかと思ったが、知らないそうだ。まぁ世界を救った英雄が暴力団など、あまりにも問題が大きすぎるだろうが。
「けど町中であんなカッコしてたら、関係なくても怪しまれるぜ?」
あんな素性を隠そうとするような装いをしていれば、輪路でなくても怪しいと思うだろう。
「やっぱり英雄だからか?人気者は大変だねぇ。」
「……それもあるんですけど、僕達、命を狙われてますから。」
「……は?」
ヘブンズエデンの傭兵は、政府から殺人を行うことを許可されているが、逆に周囲の人間が傭兵を殺すことも許可されている。ヘブンズエデンを卒業しても、それは変わらない。一度でも人殺しに手を染めてしまえば、決して許されない罪を背負う。この二人もまた、その例外に漏れていない。だから、二人が殺した相手の同僚などに、命を狙われているのだ。
「……本当に大変だな。」
「まぁ、僕達を狙ってくる相手なんて、限られているんですけどね。」
「それでもだ。曲がりなりにも世界を救ったお前らが、世界に命を狙われるなんてな。」
「全部覚悟の上です。」
光輝は自分が傭兵になった後、こうなることも全て予想していたという。輪路はなぜそこまでして傭兵になったのか気になり、訊いてみた。
「どうしてそこまでして傭兵になりたかったんだ?」
「……両親の仇を討ちたかったからです。」
光輝の両親もまたヘブンズエデンの傭兵であり、数年前殺された。彼は両親の仇討ちのため、両親の後を追って傭兵になったのだ。
「そんなことしても何にもならないって、傭兵になる前はよく言われました。でも、僕は全部無視して傭兵になったんです。単純に相手が憎かったし、それに二人を殺した理由も知りたかったから。」
仇討ちのために傭兵になった男。これでもし霊力持ちだったら、確実にリビドンになっていたなと輪路は思った。
「仇討ちはできました。まぁ、当たり前というか、二人は帰ってこないんですけど、やっぱり後悔はしてません。向こうも僕に殺して欲しかったって思ってましたし」
光輝の両親を殺した男は、脅されて仕方なくやったのだった。本人はそのことをずっと後悔しており、光輝に殺してもらうことを望み、激闘の果てに光輝は仇討ちを果たした。
「私は自分の母を守るためなんですけど、光輝が傭兵になった理由を知ると、ちょっと恥ずかしくなっちゃって……」
「そんなことないよ。僕が傭兵になった理由なんて、褒められたことじゃない。」
「確かに、褒められたもんじゃねぇわな。けど、もう終わったことをあれこれ言ったって仕方ねぇ。ここで会ったのも何かの縁だし、ちょっとあんたのご両親に挨拶させてもらおうか。仏間はどこだ?」
「こっちです。」
輪路はせっかくなので、その光輝の両親に手を合わさせてもらうことにした。光輝は輪路を、仏間に案内する。
そして仏壇を見た時、輪路はあまりの衝撃に、一瞬心臓が止まりかけた。
仏壇には、ちゃんと光輝の両親の遺影が飾ってある。
しかし、その遺影に写っている夫婦が、殺徒と黄泉子にそっくりなのだ。
「こっちが父の隼人で、こっちが母の優子です。あれ、廻藤さんどうされました?」
「……えっ?あ、ああいや、何でもない。」
しばらく放心状態になっていたが、輪路はすぐに気を取り直し、手を合わせる。
(どういうことだ?他人の空似か?にしてはどう見ても……)
似すぎている。外見だけではなく、名前もだ。
(そういや殺徒のやつ、自分には息子がいるとか言ってたな……)
これは詳しく聞いてみる必要がある。もちろん、殺徒と黄泉子のことは教えないようにして、だ。居間に戻った輪路は、先ほどの遺影の二人について、少し話を聞いてみる。
「なぁ、もしよかったら、あんたの両親について少し教えてもらっていいか?」
「それはもちろん。」
「じゃあまず、二人ともヘブンズエデンの卒業生だって言ってたよな?やっぱりあんたらと同じで、異能者だったりするのか?」
「はい。確か、能力名はソウルサーヴァントで、幽霊を操る能力らしいです。僕は幽霊なんて見えないんで、本当にそんなことができるかどうかはわからないんですけどね。幽霊が実在するのかどうかも半信半疑です」
光輝の父、隼人は幽霊を己の下僕として使役するアーミースキルを会得しており、優子は隼人と付き合う内に同じ力を目覚めさせたらしい。ちなみに隼人の方は生まれつき持っていた力で、それをアーミースキルとして登録していたそうだ。
(霊力持ち、だな)
この質問でもう、光輝の両親が黒城夫妻と同一人物であると判明したようなものである。幽霊を使役するには高い霊力と、特別な才能が必要だと翔から聞いた。光輝の話を聞く限り、隼人は幼少期からほぼ日常的に幽霊を使役し、操っていたらしい。そんなことは輪路にもできない。アンチジャスティスに霊使いの女がいたが、あれは修練の果てに会得した技術であり、才能ではない。つまり隼人は、子供の頃から幽霊を操るエキスパートだったということだ。それなら殺徒と黄泉子が持っていた、あの馬鹿げた霊力にも説明がつく。光輝はさらに語る。
「自慢の両親でした。二人がいてくれるだけでいつも幸せで、二人とも僕をとても大事にしてくれて……」
「……」
顔を見ているだけでわかる。光輝は二人に、本当に大切に育てられたのだと。だから、やはり二人がリビドンになっていることを、輪路は伝えなかった。伝えられなかった、と言った方が正しいが。
*
一通り話を聞いた輪路は、白宮家を後にした。やはり、光輝があの二人の息子ということで、間違いはなさそうだ。
「まさか英雄の両親が悪霊になってるとはな……」
信じられなかったし、信じたくもなかった。あんな人の良さそうな息子の両親が、死後リビドンになったなど。
「……どうすっかなぁ……」
輪路が黙ってさえいれば、光輝が両親のリビドン化に気付くことはない。やはり、このまま黙り続けるのが一番だろう。二人を倒してからもずっとだんまりを決め込んでいれば、光輝は真実を知らないまま一生を終えることができる。彼の心情を考えるなら、それが一番いい選択だと輪路は思った。
そう思った時、町で爆発が起きた。
「何だ!?」
輪路は急いで駆け付ける。そこにいたのは、数人の男性と、頭に赤いオーブのようなものが埋め込まれた獣。そして、左手に銃が付いたロボットだった。
「何だこいつら!?」
見たことのない怪物達だ。リビドンや魔物の類いではないようだが、姿形や装備からしてあの廃墟の傷を付けた暴力団であることは間違いない。怪物達は今、男達の指示に従って町を破壊している。
「とにかくやめさせねぇと!!」
輪路はシルバーレオを抜き、暴力団に近付く。
「おい!!何してんだお前ら!!やめろ!!」
すると、暴力団は破壊活動をやめる。だが、残りの男性達も全員怪物に変身し、一斉に襲い掛かってきた。
「何!?」
輪路は慌ててシルバーレオを日本刀モードに変え、怪物達と打ち合う。
「ガアアアアアアア!!!」
怪物達の内、獣が飛び掛かってきた。
「うぜぇんだよ!!」
だがそんな単調な攻撃を受ける輪路ではなく、避けながら霊力を込めて、獣を斬った。
「グギャァァァァァァ!!!」
地面に叩きつけられた獣は、一際大きな叫び声を上げて爆発する。
「何なんだよこいつら……」
見たこともない怪物の集団。未知数の力を持つ存在達を前にして、輪路は警戒する。その時、
「廻藤さん!!大丈夫ですか!?」
さっき別れた光輝とさだめが、騒ぎを聞き付けてやってきた。
「おうお前らか!」
「こ、こいつらは……!!」
光輝とさだめは、怪物達の内、額に赤いオーブを持つ者に注目している。
「こいつらを知ってるのか!?」
「はい。こいつらは、エボリュータント。第三次大戦を起こした二つの組織の片方が使っていた、超進化生命体です!」
「エボリュータントと一緒にいるってことは、あっちは多分、改造人間ボーグソルジャー……!!」
第三次大戦によって二つの組織、ヴァルハラとデザイアが遺した負の遺産。ボーグソルジャーと、エボリュータント。ボーグソルジャーはヴァルハラの超技術によって改造手術を受けた改造人間で、エボリュータントはデザイアが保有していた進化の宝珠という宝珠の力で進化した人間だ。輪路はようやく、この怪物達の存在を思い出す。そういえば五年前、彼もこいつらと戦った。
「けど何でこいつらがこんな所にいるんだよ!?五年前に全滅したんじゃなかったのか!?」
「わけは後で話します!!今はこいつらを全滅させましょう!!」
どうやら光輝達は何やら事情を知っているらしいが、今それを話している時間はない。とにかく、怪人連合を全滅させることが先決だ。
「そうだな。神帝、聖装!!」
輪路は素早く怪人連合を全滅させるため、レイジンに変身した。
「レイジン、ぶった斬る!!」
「へ、変身!?」
光輝は驚いている。確かに異能者だと聞いてはいたが、この手の能力の持ち主だとは思っていなかったからだ。
「まるでゲイルみたいだ……」
「光輝!!」
「あ、ごめん!!僕達も行こう!!」
さだめの叱責で我に返った光輝は、二人で一緒に唱える。
「「疑似進化!!」」
唱えた瞬間、光輝の髪が青く染まって逆立ち、さだめの髪も逆立って額に稲妻のような刺青が現れる。そして二人の両手に、燃える五亡星の紋様が出現した。さらに、光輝の両腰に二本の刀が、さだめの手に一本のハルバードが現れる。二人は五年前、進化の宝珠の欠片を使って疑似的な進化を行い、さらに旧神クタニドの力を借りて自分達の中に眠る旧神の因子を目覚めさせた。これによって、二人は生身の人間でありながら、人間を遥かに超越する怪人相手にも対抗することができるのだ。
「はぁっ!!」
光輝は旧神の力によって召喚した二本の刀、羅刹刃と水神刀に、雷と水の力を宿して振るう。雷は光輝自身の能力であり、水はクタニドから譲り受けた水神刀の力だ。
「やぁぁっ!!」
さだめもまた全身から雷を飛ばし、怪人連合を牽制しながらハルバード、ヴォルテクスで斬る。
「やるじゃねぇか。」
レイジンはボーグソルジャーを斬り捨てながら、二人の力を評価する。さすが、世界を救った最強の傭兵達だ。
そうこうしている間に、怪人連合は全滅した。少し落ち着いてから、光輝とさだめは輪路に語る。
「ヴァルハラもデザイアも壊滅しましたが、どちらも様々な組織と同盟を結んでいて、その組織にボーグソルジャーの改造データや、進化の宝珠があるんです。」
「そしてさっきのは、私達を狙って来たんだと思います。」
倒すべき相手は滅んだ。しかし、ヴァルハラとデザイアの負の遺産が、今もなお彼らを苦しめ続けている。彼らは世界を救った英雄だが、そんな彼らを疎ましく思っている者達は大勢いるのだ。
「僕の両親もそうでした。だからこそ、死を望んでいたんだと思います。」
「死を望んでいた?」
「はい。僕の両親は、自分達の命を狙っていた相手に、自分の意思で命を差し出したんです。贖罪のためだって」
英雄と呼ばれている者達にも、他人が知らない闇がある。輪路はそれを知った。
*
「ただいま。」
任務を完了させた輪路は、ヒーリングタイムに帰ってきた。
「おかえりなさい。」
「おう。マスター、いつもの一つ。」
「はいはい。」
美由紀が笑顔で迎え、佐久真がアメリカンを出す。輪路はカウンター席に座り、アメリカンを眺める。が、飲まない。
「どうしたんですか?」
気になった美由紀が訊く。
「……さっき、任務先で、殺徒と黄泉子の息子に会った。」
「「!?」」
美由紀とソルフィは驚いている。今度はソルフィが尋ねた。
「それ、本当なんですか?」
「ああ。多分、あいつで間違いない。」
輪路は自分が任務先で得た情報を、ソルフィと美由紀に伝える。
「白宮光輝……第三次大戦の英雄が……まさか……」
「白宮……黒城……そういうことだったんですね……」
「ああ。だが、どうしてもわからねぇことがある。」
光輝が殺徒と黄泉子の息子であるということはわかった。だが、輪路にはなぜ二人がリビドンになったかだけが、どうしてもわからなかった。光輝の話を聞く限り、二人がリビドンになるほどの未練や憎悪を抱いて死んだとは思えないのだ。
「一体どうして、あの二人はあそこまで強いリビドンになったんだ?未練なんてなかったんじゃねぇのか?」
こればかりは、本人に訊いて確認してみるほかない。まぁ、恐らく彼らの存在の根幹に関わる話なので、簡単に答えてくれるとも思えないが。
「……いろいろ気になることはありますけど、任務は終わったんですから、ゆっくり休んで下さい。」
「……ああ。そうする」
決して無理しないで欲しい。美由紀はそう伝えて、仕事に戻る。
その時だった。
「!?」
一瞬ズキッ!と頭が痛み、視界が歪んで、全身から力が抜けた。
「美由紀ちゃん!!」
「美由紀さん!!」
「美由紀!!」
倒れそうになった美由紀を、佐久真とソルフィが支える。輪路も行こうとしたが、さすがに三人も必要なかった。
「だ、大丈夫です。ちょっと、立ち眩みしただけですから……」
美由紀は大丈夫だと言って、二人から離れる。だが、本当は大丈夫なんかではなかった。今の頭痛は、明らかに普通ではない。あのアンチジャスティスとの戦いから、美由紀の身体に不可解なことが起こり続けている。
(私の身体、どうなっちゃったの?私はこれから、どうなっちゃうの?)
美由紀の心を、不安が包んでいた。




