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邂逅の時!!白銀の獅子王の系譜 PART4

前回までのあらすじ


輪路が霊石を使えなくなった理由は、アンチジャスティスとの戦いで負った精神的な傷が原因だった。再び霊石が使えるようになるまでは、しばらく精神の療養が必要だという光弘。そんな中、光弘と由姫、喜助は、妖怪の孤児、麗奈、瑠璃、命斗を養女として引き取り、輪路達は廻藤家の温かさを知るのだった。

翌日、光弘はベルクドから連絡があり、朝早くから協会に出向いていた。何でも、例の妖魔について調査に進展があったらしい。輪路と翔と命斗は、強くなるために修行中だ。喜助は奉行所に出勤し、由姫は家事。やることが特にない美由紀とソルフィは、麗奈と瑠璃の二人と遊んでやっている。ソルフィは人形を使って瑠璃と遊び、美由紀は由姫からお手玉を借りて麗奈と遊んでいた。


「美由紀姉様。父上が言うておったが、姉様達は未来から来たんじゃろ?」


と、麗奈が突然尋ねてきた。


「そうよ。未来からね」


「どのようにしてこの時代に来たのじゃ?」


妙にこだわってくるため、美由紀は自分達が妖魔に接触したこと、どんな妖魔だったかを全て麗奈に聞かせた。麗奈は真剣な顔をして聞いている。


「というわけなの。」


「黒い球状の妖魔……」


「麗奈ちゃん。それってもしかして……」


「間違いなくアレじゃろうな。」


どうやら二人は、美由紀達をこの時代に飛ばした妖魔について、心当たりがあるらしい。


「何か知ってるの?」


「……恐らく美由紀姉様達が戦ったのは……」


美由紀が訊くと、麗奈は語り始めた。











協会本部。


「おお、来たか。」


光弘が会長室を訪れると、顔面しわくちゃで白い口髭を蓄えた仙人のような老人が出迎えた。彼がこの時代の会長、ベルクド・ザムディエール・ラザフォードだ。


「調査に進展があったらしいな。」


一応立場は光弘より上なのだが、光弘は特に敬ったりなどせず、親しい友人に話し掛ける感じで話す。この辺は、未来における輪路とシエルの関係に近いと言えるだろう。この先祖あって、あの子孫ありといった感じだ。ベルクドも特に何も言ったりはせず、光弘がそういった口調で話すことを許可している。


「ああ。見たことも聞いたこともない妖怪だから、探すのに苦労したぞ。」


そう言ってベルクドが取り出したのは、百鬼夜行絵巻と書かれた日本の古い巻物だった。


「百鬼夜行絵巻?何でこんなもんお前が持ってるんだ?」


「ここにいろんな資料があることはお前も知ってるだろう?これもその一つだ。」


「そりゃ知ってるが、こんな骨董品まであるとはな……」


百鬼夜行絵巻とは、その名の通り、百鬼夜行について描かれた巻物である。ベルクドは巻物を開くと、百鬼夜行の絵を見せた。おどろおどろしい妖怪達が、行列を作って行進している。


「これがどうかしたのか?」


「ここを見てみろ。」


実はベルクド、この百鬼夜行絵巻を最後まで見せていない。巻物をさらに開き、隠されている絵を見せる。


「これは……」


そこには、黒い球状の何かが描かれていた。


「これは太陽で、百鬼夜行は朝日が昇ってきたから慌てて帰ってる、ってのがこの絵を表してるそうなんだが、近年じゃこの絵にはもう一つ別の説が唱えられててな。」


ベルクドが言う別の説とは、この太陽が太陽ではなく、妖怪を表しているのではないか、ということだ。この太陽が実は凄まじく強い力を持つ妖怪で、百鬼夜行はこれに襲われて逃げているのではないか。それが、近年唱えられている説だ。


「もしそうだとするなら、全てに辻褄が合う。」


輪路達が戦ったのは、この絵と同じく黒い球状の妖怪。では、やはりこの絵が表しているのは、百鬼夜行を襲う妖怪である、と。


「天に関係する事象を意味して、この妖怪にはこういう名前が付けられている。空亡そらなきと」


ベルクドはこの妖怪の仮称を教えた。











「空亡?」


美由紀は麗奈達から聞かされたその名前に、聞き返した。


「本人がそう名乗ったわけではないが、天より現れた災いという意味で、他の者から空亡と呼ばれておる。」


二人の話によると、凄まじく強大な力を持つ妖怪で、九尾の狐や鬼、大天狗のような大妖怪達でさえ、これが現れれば裸足で逃げ出すという。加えて、空亡が何者なのかは誰も知らない。いつからいるのか、どこから来たのか一切がわからない正体不明の存在で、噂によると、この日本の国が生まれる前からこの世界に存在している可能性もあるらしい。いずれにせよ、空亡は全く言葉を話さないので、本人から事情を聞くこともできないそうだ。


「空亡がどれほどの力を持っているのか、誰にもわかりません。今まで空亡に、勝てた人がいないから。」


「だから時間を越えられる力を持っていても不思議はない、か……」


瑠璃の言葉を聞いて、美由紀は考える。そこで、ソルフィが口を挟んだ。


「協会でも、空亡の存在は知られています。でも接触した人がいないから、本当に存在しているのかどうかもわからなくて、半ば伝説化している妖怪なんです。まさか私達が戦った相手が空亡だったなんて……」


ソルフィも空亡の存在についてだけは知っていた。だが会ったことがなければ戦ったこともないので、どんな力を持っているのかはわからず、時空を操る力を持っているというのは想定外だったようだ。


「神出鬼没で、わしらも直接会ったことはない。ただ、見つけたらすぐ逃げろとだけ教えられた。」


「だから、あまりお手伝いできなくて、すいません……」


「ううん。二人とも、教えてくれてありがとう。」


二人が持つ情報も少ないが、敵の正体がわかっただけでも大収穫だ。美由紀は二人に礼を言う。




「はっ!!やっ!!」


麗奈と瑠璃の二人が情報提供をしている一方で、命斗は翔に稽古をつけてもらっていた。命斗の戦い方は荒削りだが、侍を目指していた者達の思念の集合体というだけはあって、どこか精練されている。


「ふっ!」


「あっ!」


しかし、翔に足払いを掛けられて、転んでしまった。


「相手の武器にばかり気を取られていると、こうなる。」


「はい。気を付けます」


「だが、筋は良い。もっと修練を積めば、討魔士と同等の力量を得るだろう。」


「はい!」


翔は命斗を評価しながら、稽古を続ける。と、


「……!!」


両手でシルバーレオを持っていた輪路が、突然力を入れた。その瞬間、ボッ!!という音が聞こえて、風が吹き荒れ、空気が切り裂かれる。翔も命斗も、輪路が必滅の瞬きを打ったのが見えていた。ただし、正確な斬撃の数が見えていたのは、翔だけである。今輪路は、五十にも及ぶ斬撃を放っていた。


「すごい……!!」


「……」


命斗は呟き、翔はとてつもない速度で成長していく輪路に、無言で畏怖の念を抱いていた。


「……神帝、聖装!!」


突然レイジンに変身する輪路。レイジンの目の前に、火の霊石が出現する。必滅の瞬きをある程度修得して強くなったので、霊石が使えるようになったのではないかと思ったからだ。だが霊石は、レイジンに融合する前に、消滅してしまう。


「……ちっ」


まだ使えるようになっていない。舌打ちしたレイジンは変身を解き、再び修行を始めた。











しばらくして、ベルクドから情報をもらった光弘が帰ってきた。光弘がもらった情報は、やはり空亡に対してのもので、そして輪路達が元の時代に帰る方法も持ってきた。


「空亡は十年ほど今いる時間で過ごした後、別の時間に跳躍することがあるそうだ。その時間跳躍が完了するまで数日掛かり、空亡が飛ぶ先の時間には空亡の半身が現れ、同じ一日を繰り返し、跳躍完了後に元の時間の流れに戻るらしい。」


輪路達が見た空亡は半身であり、その半身に接触すると空亡がいる時間に飛ばされてしまう。つまり、同じ方法でこの時間にいる空亡に接触すれば、元の時間に帰れるのだ。


「で、この時代の空亡はどこにいるんだ?」


輪路は肝心な空亡の居場所を訊いた。タイムリミットもあるし、早いところ空亡を見つけて帰りたい。


「恐らくこの近くにいる。だが空亡は時間跳躍を行う際、現在自分がいる場所に強固な結界を張るらしいから、わからなかったんだろうな。」


何と、空亡は近くにいるらしい。非常に隠蔽率の高い結界で己の存在を隠し、時間跳躍が終わるまで身を守っているのだ。


「だが気を付けろ。時間跳躍は、空亡にとって一番重要な作業だ。近付けば多分、攻撃してくる。」


いくらこちらに空亡を倒す意思がないとはいえ、不用意に結界を破って近付けば、時間跳躍を邪魔しに来たと思って攻撃してくる。空亡自身の力も恐ろしく強く、下手を打てば死にかねない。だから無事に輪路達が元の時代に帰れるよう、光弘と由姫も同行する。


「空亡は深夜、ちょうど日付が変わるのを狙って時間跳躍を行うらしい。それまでは結界の隠蔽率が上がっていて、誰にも見つけられないそうだ。」


しかし深夜零時に、時間跳躍を行うため、結界の出力を跳躍分に回す。それでも常人には見つけられず、高い霊力を持つ討魔術士が数十人がかりで探知の術を使ってようやく見つけられるくらいには隠蔽率が高い。霊力は光弘のものを使い、由姫が探知を使えば結界を見つけて破れるだろう。


「しかし、光弘様でさえ深夜という時間を突かねば見つけられないとは……」


「そいつは俺も驚いてる。案外空亡が使ってる結界は、普通の方法や単純に霊力が高いだけじゃ、見つけられないものなのかもしれない。」


翔は空亡の結界の隠蔽率に驚いていた。光弘は剣しか使えないわけではない。本職の討魔術士ほどとは言わないが、術も使える。由姫もソルフィより遥かに優秀な討魔術士だ。その二人の力を持ってしても、居場所が特定できないのである。異常と言うより他なかった。これは麗奈の言うように、他の大妖怪達が逃げ出したはずだ。


「とにかく今夜、決着をつけるぞ。」


いつ空亡が時間跳躍を終えるかわからない。機会を逃せば、輪路達は一生未来に帰れなくなる。急いだ方がいいので、決戦は今夜の零時になった。


「輪路兄様達、帰っちゃうの?」


瑠璃がとても残念そうに、か細い声で尋ねてきた。輪路は言って聞かせる。


「俺達の時代には、絶対に倒さなきゃいけない相手がいる。多分光弘にしか倒せないが、その時代に光弘はいない。」


倒さなければならない相手というのは、邪神帝を身に付けた殺徒だ。まぁもし光弘を連れて元時代に帰っても、究極聖神帝に覚醒していないこの時代の光弘では勝てないだろう。


「だから俺が倒す。必ず究極聖神帝になって、そいつに勝ってみせる。どうしても帰らなくちゃいけないんだ」


輪路は訴えかけるが、それでも瑠璃は納得していないという顔をしていた。そんな彼女に、麗奈と命斗が言う。


「瑠璃。輪路兄様達は、わしらとは住む世界が違うんじゃ。仕方ないことなんじゃよ」


「それに、とても大きな使命を背負ってる。それを邪魔しちゃ駄目だよ、瑠璃ちゃん。」


「……わかった。」


瑠璃は二人に諭され、寂しそうにしながらも頷いた。


「いい子ね。ありがとう」


ソルフィが礼を言いながら頭を撫でてやると、瑠璃は気持ち良さそうに目を閉じていた。


「さて、そうと決まったらお前ら休め。万全の状態で戦うことは、相手への礼儀だ。こっちの常識が理解できる相手かどうかは別としてな」


光弘の指示で、輪路と翔は決戦まで休むことになる。だが、輪路は浮かない顔をしていた。


「……使えなかったか。」


「……ああ。」


その顔色だけで、光弘は輪路の悩みを見抜く。あれから修行しては変身と霊石の使用を、何度も試してみた。だが必滅の瞬きの一度に放てる斬撃の数が増えるばかりで、肝心の霊石は一つも使えるようにならなかったのだ。


「……まぁそう気に病むな。もっと気楽に構えりゃいい。実戦になったら使えるかもしれねぇし、今回は間に合わなくても時間が経てば必ず使えるようになるからよ。」


プレッシャーを感じると、心の傷の回復は遅れる。だから自分を追い詰めず、全てをありのままに受け入れて、もっと気楽になるよう光弘は言う。


「……ああ。」


それに対して輪路は、一言だけ返事した。


(輪路さん……)


美由紀は何か言ってやりたかったが、彼女に言えること、できることは何もなかった。











深夜。


「じゃあ喜助。この子達を頼んだぞ」


「わかった。」


光弘は麗奈達三人を喜助に預け、絶対について来させないように言った。


「……本当は俺も一緒に行きたかったけど、俺は父上ほど強くないし、討魔士でもない。協力できないのが悔しいよ」


相手ははっきり言って、妖怪どころの存在ではない。神クラスだ。そんな相手との戦いに、弱い妖怪や一般人を連れて行くなど、自殺行為でしかない。だから、喜助も麗奈達も連れて行けない。


「だから父上、母上、それから三郎も!俺や麗奈達の代わりに、しっかり輪路さん達を守ってやってくれよ!」


「任せろ。俺達が負けるわけねぇからな」


「安心して待っててね。」


「心配はいらねぇよ。どうってこたねぇさ」


できるのは、無事に輪路達を未来に送り届け、この家に帰ってきてくれるよう頼むことだけだ。


「今までありがとな。」


「短い間でしたけど、お世話になりました。」


「俺達は必ず未来に帰ります。」


「本当に、ありがとうございました!」


輪路達は今まで家に置いてくれた礼を言って、元の時代に戻るべく出発する。


「元気でのー!」


「さよならー!」


「どうかご無事で!」


麗奈、瑠璃、命斗の声を聞きながら。




由姫の武器は、小さな杖だ。杖の先端に光が灯り、由姫がそれを周囲に向けている。


「こっち。」


今彼女は、空亡が張っている結界を探しているのだ。深夜に近いこともあってか、空亡の結界の力は本当に弱まっているらしい。由姫の肩に光弘が左手を置き、霊力を貸している。その様子を見て、美由紀は羨ましいと思っていた。


「……」


と、光弘は突然足を止める。由姫は呟いた。


「……光弘さん。」


「……ああ。」


「何だ?どうしたんだ?」


「急用ができた。先に行ってくれ。場所がわかったんだから、もう俺が力を貸す必要もないだろ。由姫、頼むぜ。」


「わかりました。みんな、行くよ。」


「え?あ、ああ……」


空亡の居場所に向けて歩き出す由姫。輪路達は戸惑いながらも、それについていく。やがて、彼らが十分な距離まで離れた時、光弘は言った。


「……あいつらについていかないところを見ると、やっぱり用があるのは俺だけらしいな。」


周囲には誰もいない。こんなことを言っても、誰も答えはないはずだ。



しかし、



「やれやれ、気付かれちゃったか。」



答えは返り、それは現れた。西洋の黒い服に身を包み、眼鏡を掛けた女性だ。


「久しぶりだな、ナイア。ここで現れたってことは、俺が何をしようとしてるのかも当然わかってるよな?」


「ああもちろん。彼らは未来から来たから、元の時代に帰そうとしてるんだろう?」


そう、ナイアルラトホテップ。光弘と彼女はこの時代において、顔馴染みなのだ。あまり馴染みたくはなかったのだが。


「で、やっぱり空亡はお前の同僚か?」


「同僚……まぁ同僚と言われればそうだね。君達が空亡と呼んでいるモノは、かつてボクの同僚ヨグ=ソトースが戯れで生み出した自分の眷属さ。」


空亡の正体は、この地球が生まれる遥か昔、ヨグ=ソトースが何かの役に立つかと思って生み出した、自身の劣化コピーだ。無論劣化コピーと言っても、その力は凄まじいものがあり、この星の妖怪達の手に負えるものではない。輪路達でさえ危険だ。


「そんなヤバいやつと、俺の妻や子孫を戦わせるわけにはいかねぇ。悪いが通らせてくんねーか?」


「それはできない相談だ。ようやく鬱陶しい君に少しでも嫌がらせができる機会が来たんだから」


ナイアは片手を挙げて、結界を張る。本当は輪路達も巻き込んで相手をしてやりたかったが、さすがにそれは堪える。子孫達はそれほど強くなかったし、空亡に任せておけば十分だ。


「ったくてめぇは……」


光弘はため息を吐いた。この女との付き合いは二十年ばかりになるが、邪魔したり邪魔されたり、一向に終わる気配がない。この戦いに勝ったとしても、恐らく無意味だろう。だが、勝たなければ行かせてもらえそうにないので、


「何回ぶった斬られりゃ俺には勝てねぇって学習するんだ?」


光弘は銀獅子丸を鞘から抜いた。




「ナイアさんが!?」


美由紀は驚いた。由姫は光弘が気付いたあの時、ナイアの気配を感じたのだという。そういえばと思い出した。この時代の光弘とナイアは、敵同士だったのだ。


「私達の時代では味方でしたけど……」


「ナイアルラトホテップが味方!?」


「はい。私達の未来で空亡がどこにいるかも教えてもらいましたし」


「……信じられない……」


美由紀の言葉に、由姫はかなり驚いている。仕方ないことと翔は思った。協会の残されている記録を見る限り、ナイアは人間を利用することはあっても助けはしないからだ。第三次大戦を迎えるまでは。


「今はとにかく、空亡を見つけましょう!」


「……わかったわ。」


ソルフィに言われ、由姫は空亡探索に集中する。走っている途中、由姫は立ち止まった。光弘から霊力を借りられなくなったことで消えていた杖の光が、突然灯った。


「ここよ。」


結界の探知能力なら、由姫は光弘以上だ。結界の目の前まで到着すれば、霊力を借りなくても見つけられる。


「何も見えねぇが……」


「間違いなくここにあるわ。」


由姫は杖をかざし、光を飛ばした。光は見えない壁のようなものにぶつかり、弾け飛ぶ。


「今、当たった!」


輪路はようやく、探していた場所に間違いがないと悟る。だが、由姫の顔は険しかった。


「破れない……!!」


今の光は、結界を破るために放った術である。しかし、由姫の結界破りの術は、空亡の結界に傷一つ付けられなかった。由姫では、結界を破るのに霊力が足りないのだ。


「俺がやる。」


輪路の方が霊力の量では上だし、今ので場所がわかったから目を閉じていても斬れる。


「……はっ!!」


霊力を込めて、結界を斬りつける輪路。またしても見えない壁が出現し、輪路の攻撃を跳ね返そうとする。


「足掻いてんじゃ……ねぇぞ!!」


しかし、輪路は霊力を上げて強引にシルバーレオを押しきり、結界を斬り裂いた。斬撃痕から亀裂が広がっていき、遂に結界が粉砕される。


いた。空中に、あの黒い球体が浮かんでいる。妖怪空亡。しばらくぶりの再会だ。


「あれが空亡か。見るのは俺も初めてだぜ」


三郎は麗奈達よりは長生きだが、空亡を見たことはない。だが見ているだけで、話に聞いた通りのとてつもない力を感じている。


「よぉ、久しぶりだな。せっかく結界張ってたのに悪いが、こちとらさっさと元の時代に戻りたいんだ。協力してもらうぜ」


「私達は何もしません!元の時代に、帰りたいだけなんです!」


輪路と美由紀は空亡と交渉する。光弘からはああ言われたが、話し合いが通じるかどうかはわからない。それで済むなら一番いいので、まず交渉を持ち掛けたのだ。空亡は、何も言わない。しかし、空亡の目の前(といっても目も鼻も口も手足もない完全な球体なので、どこが正面なのかはわからないが、とにかく輪路達に向いている方を正面としよう)に、白い光が集まっていく。


「いけない!!」


真っ先に反応したソルフィが、防御結界を張る。間もなくして、空亡の目の前に集まった光の弾が飛んできて、結界にぶつかった。遅れて由姫と三郎も結界に力を込めるが、弾は爆裂して結界は破壊され、一同は吹き飛ぶ。


「大丈夫か美由紀!?」


「は、はい!」


輪路は咄嗟に美由紀を抱えて回避し、爆発から逃れることができた。


「野郎……聞く耳持たずかよ!!」


美由紀を降ろして舌打ちする。聞く耳持たずというか、耳がないのでこちらの声が聞こえているかは怪しい。聞こえているかもしれないが、危害を加える意思はないとは伝わらなかったのだろう。


「こうなったら、空亡を倒すしかない!!」


話し合いが通じない以上、空亡を倒すしかない。空亡の頭上には空間の歪みができており、あそこに飛び込めば帰れるはずだが、そのためには空亡の存在が邪魔だ。翔はまず空亡を排除するために、討魔剣を抜いた。


「何かしたわけじゃないけど、この場合は仕方ないね。やらなきゃ、こっちがやられる!」


ソルフィもまた、空亡と戦うことを決意した。どうしても、未来に戻らなければならないのだ。ここで倒れるわけにはいかない。


「下がってろ美由紀!!」


「はい!!」


「「神帝、聖装!!」」


美由紀を下がらせ、聖神帝に変身する二人。その瞬間、空亡の周囲に先ほどと同じ光弾が無数に形成され、二人に目掛けて発射された。空亡の攻撃だ。レイジンとヒエンはそれをかわし、避けきれない攻撃は武器で弾く。


「なんて凄まじい攻撃!!」


「この力、神と同等だぜ!!」


由姫と三郎は周囲に結界を張り、この攻撃の影響が外界に出ないようにする。それにしても、本当に凄まじい攻撃だ。もし結界を張らなかったら、この山は今ので更地になっている。


「あんまり持久戦はできねぇ、なっ!!」


早急に決着をつけるべきだと判断したレイジンは、光弾をかわしながら跳躍し、空亡に急接近。そのままシルバーレオを叩きつけようとする。



その時だった。空亡の球状の身体から、何かが出現した。



「何!?」


現れたのは、カゲツの上半身だった。驚いて動きが止まったレイジンの脇腹に、ブラックライオンの一撃を入れて叩き落とし、空亡の体内に戻っていく。


「な、何だ、今のは!?」


わけがわからなかった。もういないはずのカゲツが、なぜ空亡の中から出現し、レイジンを攻撃したのか。


「廻藤!!」


それを見たヒエンは、同じように光弾をかわして空亡に斬り掛かる。すると、


「なっ!?」


今度はウルファンの上半身が出現してビッグスピリソードでヒエンの攻撃を受け止め、間髪入れずにドラグネスが出現してヒエンのみぞおちを殴り、叩き落としてから空亡の体内に消えていった。


「い、今のは間違いなくウルファンとドラグネスだった!!でもなぜ!?」


由姫も驚愕に目を見開いている。見間違えるはずがない。あれはウルファンとドラグネス。レッドファング家とグリーンクロー家にしか使えないはずの聖神帝が、なぜここに?そしてなぜ空亡に味方した?


「……読み取りやがったんだ……」


「えっ?」


三郎は呟き、ソルフィは三郎を見る。


「空亡は二人の過去の記憶を読み取って、そこから二人が知ってる戦士の情報を元に、自分の攻撃手段として再現しやがったんだよ!!」


空亡は時空を操る力を持つ。その力を使い、自分と接触した二人の過去を覗き見た。そして得られた情報から、己の力で二人が知っている戦士を再現したのだ。この力の本当に恐ろしい点は、二人の敵だけでなく味方の力も使えるということ。つまりいつも頼りにしていた味方の技を、空亡は使ってくるということだ。


「そんな……じゃあ、絶対に勝てない……!!」


当然、敵の力を使われても恐ろしい。美由紀は以前レイジン達が対峙した、オウザとリョウキ、それからアーリマンを想像して戦慄した。


「そういうこと……でも大丈夫よ。その力の性質上、自分より遥かに実力の高い存在は、再現できないはずだから!!」


しかし、この技には欠点がある。過去から戦士を召喚しているわけではなく、あくまでも再現だ。全て忠実に再現してはいるが、それらは全て空亡の力であるため、再現する戦士は空亡より格下でないといけない。よって、空亡より強い戦士が再現されることは、絶対にないのだ。無限に強くなるオウザとリョウキが再現されることは、ないだろう。ならカゲツが再現されたことに疑問が行くが、カゲツと二大邪神帝では素の力に大きな差がある。これで少なくとも、空亡にはカゲツ以上、邪神帝未満の力があるとわかった。


「どんな力使ってこようと関係ねぇ。偽者だってわかってんなら、まとめてぶった斬るだけだ!!ライオネルバスター!!!」


レイジンは復帰し、空亡に向けてライオネルバスターを放つ。空亡はシエルの上半身を出現させて結界を張り、ライオネルバスターを防いでから光弾で反撃してきた。


「シエル会長まで……!!」


美由紀は呟いた。本当に見境がない。


「ソルフィ!!奴の動きを止めろ!!」


「わかった!!ソウルワイヤー!!!」


ヒエンの指示を受けて、ソルフィがソウルワイヤーで空亡を縛る。かなりしっかり縛ったので、これなら分身は出せないはずだ。


「蒼炎鳳凰・猛火!!!」


すかさずヒエンが火の霊石を使い、蒼炎鳳凰でワイヤーごと焼き尽くす。だが、空亡は無傷だった。どうやら、耐久力も凄まじいらしい。ワイヤーが燃えたことで自由になった空亡は、乙姫の上半身を出現させて、剣の一振りでヒエンを吹き飛ばす。


「ぐあああああ!!!」


「翔!!てめぇ!!!」


「よくも翔くんを!!」


再び斬り掛かるレイジンと、人形を飛ばすソルフィ。空亡はカイゼルとカゲツを出現させてレイジンを斬りつけ、さらに二重の霊力砲でレイジン、人形、ソルフィを吹き飛ばした。


「うああああああ!!!」


「きゃああああああ!!!」


「おいおい。こりゃ本格的にヤバいんじゃねぇか!?」


「……三郎、ちょっと結界をお願い!!」


「由姫!!」


空亡に翻弄されるレイジン達を見て自分が動くべきだと感じた由姫は、結界の維持を三郎に任せ、空亡に挑む。


「廻藤流討魔戦術、四砲陣!!!」


由姫が杖を高く掲げると、周囲に四門の大砲が出現する。杖を下ろすと、大砲が空亡に向けて一斉に砲撃を始めた。対する空亡は、自分の身体に明日奈、暦、伊邪那美を出現させ、光弾と霊力弾、雷神を使って反撃した。圧倒的物量に由姫の砲撃は押し潰され、攻撃が由姫に迫る。


「由姫さん!!」


美由紀が叫ぶ。



その時だった。



「うおおおおおおおおおお!!!」



結界を斬り裂いて光弘が飛び込み、由姫の盾となって必滅の瞬きで空亡の攻撃を消滅させた。



「光弘さん!!」


「遅くなった。大丈夫か?」


少々時間は掛かったが、光弘は無事ナイアを退け、たどり着いたのだ。


「おい空亡。てめぇ、人の女に手ぇ出すとはふてぇ野郎だな。覚悟、してもらうぜ。」


由姫を攻撃した空亡に、怒りを隠さない光弘。そして、光弘は唱える。


「神帝、聖装!!」


遂に唱えた。瞬間、光弘が鎧を身に纏う。レイジンと全く同じ、しかしレイジンとは力の次元が全く違う、白銀に輝く獅子王型聖神帝。


霊威刃れいじん、ぶった斬る!!」


白銀の大太刀を構える、その者の名は、霊威刃。

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