邂逅の時!!白銀の獅子王の系譜 PART2
突然日曜日が何度も繰り返されるという現象に遭遇した輪路。事件を解決しようとした輪路達だが、ループを繰り返していた謎の怪物に接触した瞬間、美由紀達とともに二百年前の過去にタイムスリップしてしまう。そしてその時代で、輪路は己の先祖、廻藤光弘に出会うのだった。
光弘に先導してもらいながら、輪路達は夜の山道を行く。
「本当に山奥だな。もうかなり町から離れたぞ?」
「こんな山奥に住んでおられるんですか?」
「ああ。だから言ったろ?ちっとばかし山奥だってな。」
輪路と美由紀が尋ね、光弘が答える。しばらく行くと、
「着いたぞ。」
山の中に、明かりが灯った一軒家が見えた。光弘は家の戸を開ける。
「帰ったぞ、由姫。」
「おかえりなさい。」
すると、一人の女性が出迎えに来た。恐らく、というか間違いなく光弘の妻だと思うのだが、
「え、ええっ!?」
美由紀は驚いた。今光弘に由姫と呼ばれた女性、美由紀にそっくりだったのだ。
「あら!私と光弘さんのそっくりさん!」
「だろ?会わせたらお前も驚くだろうなって思ってたんだ。」
どうやら光弘は、輪路だけでなく美由紀にも驚いていたようだ。
「とりあえず上げてやっていいか?」
「もちろん。さ、みんな上がって上がって!」
光弘と由姫は、四人を家の中に上がらせる。居間に上がって、光弘は由姫に訊いた。
「喜助は?もう寝たか?」
「こんな遅くですもの。もう寝てますよ」
「……子持ちかよ……」
「俺はこれでも五十三だからな。子供の一人もいなきゃ、おかしいだろ。」
「五十三!?」
輪路は驚いた。光弘の顔付きをよく見てみると、確かに輪路よりも若干老けて見えるのだが、とても五十代には見えないのだ。美由紀は呟く。
「それは……ご高齢ですね……」
「……そんなに年食ってるか?まだ五十代だろ。」
「この時代の平均寿命は、私達の時代と比べてかなり短いんです。確か、六十代ぐらいだったかと……」
「……そりゃ確かに高齢だな。」
平均寿命が六十代の時代に五十三というのは、かなりの高齢だろう。現役といっても、先はあまり長くなさそうだ。
「まぁ俺は霊力を操れるから、それであと二十年は行けるだろ。」
体内の霊力を操ることができれば、それで寿命を伸ばすことができる。さすがに百年単位では無理だが。
「……っと、思わず流しかけたが、今お前らの時代って言ったか?」
「……あっ!」
光弘に訊かれて、美由紀は両手で口を覆った。このままでは、光弘達に自分達が未来から来たということを知られてしまう。ここは過去の世界だ。もし下手を打てば、輪路の存在が消えてしまうかもしれない。
「いろいろと理由がありそうだが、まず話を聞かせてくれ。そうでなければ、協力もできん。」
「決して悪いようにはしませんから、包み隠さず全部教えて下さい。」
まぁ悪いようにはされないだろう。それはわかっているのだが……
「諦めて全てを話そう。」
翔に言われて、ここに至るまでの経緯を話すことにした。
「……するとお前らは、この時代より遥か未来から来たってことか?」
「まぁこんな話、信じてもらえるとは思えねぇけどな。俺らだって未だに自分達の身に起きたことが信じられねぇんだから」
信じてもらえるはずがない。そんな気分で話した。タイムスリップなど、未来においてもあり得ない事象だ。それを過去の人間がまともに信じるなど、もっとあり得ない。それがいくら、魔物退治のエキスパートだったとしてもだ。
「……いや、俺達は信じるぞ。何せ俺達も、あり得ない連中相手に戦ってきたんだからな。なぁ由姫?」
「ええ。私達は信じますよ」
だが、廻藤夫妻は信じてくれた。信じると言ってくれた。彼らも彼らで、輪路達の不安を和らげようと思ったのだろう。
「由姫さんも討魔士なんですか?」
「討魔士じゃなくて、討魔術士ね。私には光弘さんみたいに、派手に飛び回ったりとかできないから。」
ソルフィの質問に答える由姫。美由紀そっくりな人間が討魔術士をやっているかと思うと、何だか美由紀が討魔術士をやっているように思えて複雑な気分だ。
「で、お前らは元の時代に帰りたいってわけだな?」
光弘と問いに、輪路達は頷く。
「よしわかった。それなら俺達で、お前達が元の時代に帰れるよう協力してやる。」
これは心強い味方を得た。最強の討魔士である光弘が協力してくれるなら、絶対に元の時代に帰れる。
「で、それは嬉しいんだけどよ。何かアテとかあるのか?」
「俺が思うに、お前らが見たっていう妖魔は、この時代にもいる。妖魔を見つけ出してもう一度接触すれば、元の時代に帰れるはずだ。」
相手は時空を操る妖魔。時代を渡る力を持っていても、何ら不思議はない。だからもう一度妖魔に接触すれば、帰ることができるはずである。
「だがまずはお前らが接触したっていう妖魔が何者なのか、それを知ることから始めなくちゃな。明日俺が協会に行って、妖魔について調べてみる。ずいぶん特徴的な姿の妖魔だから、調べりゃすぐわかるだろ。」
そうでなくても、時間を操るなどという強大な力の持ち主なのだ。存在自体が限られているし、きっとすぐ見つかる。
「それなら俺も。調査には慣れているので」
「お前らはここでじっとしてろ。何せこの時代は、お前らにとって過去だ。何がきっかけになって未来が変わるかわからん。それでお前らに早死にでもされたら、寝覚めが悪い。まぁ二百年も先の話だから、確かめる方法なんてないけどな。」
翔が調査に同行しようとしたが、未来の住人が過去で行動を起こすことは危険を伴う。なので気持ちだけ受け取ることにして、光弘は翔達を家で待たせることにした。
「しかし、まさか未来から俺の子孫が会いに来てくれるなんてなぁ。」
が、それはそれとして、光弘は喜んでいた。少なくとも二百年は、廻藤の血が絶えずに済むとわかったからだ。
「来たくて来たわけじゃねぇよ。」
「わかってる。絶対に元の時代に帰してやるからな」
減らず口を叩く輪路と、笑う光弘。さすがに輪路より遥かに年上なだけあって、対応がかなり大人だ。
「そうと決まったら、しばらくこちらにお泊めしないとね。」
という由姫の計らいで、一同は廻藤家に泊めてもらうことになった。
*
翌日。
「へぇ!じゃあこの人が父上の子孫かぁ!」
一人の男が、輪路の顔を珍しそうに見ていた。彼の名は、廻藤喜助。光弘の息子であり、現在は町の奉行所で働いているという。
「見れば見るほど父上そっくりだなぁ。」
「だろ?それに引き換え、どうしてお前は俺に似なかったんだろうな?まぁ、全部似られても困るが。」
「それは言いっこなしだよ。じゃあ行ってくる」
「行ってらっしゃい!」
由姫が見送り、喜助は奉行所に出掛けていった。
「さて、俺も行ってくるか。早いところ、お前らが元に時代に帰るための方法を見つけてやらねぇとな。」
光弘は喜助の出発を見届けた後、自身も協会本部に転移した。
「うまく見付かればいいんですけど……」
ソルフィは不安そうだ。何せこの時代には、まだ時空方位磁針がない。こちらから元の時代に戻るための方法が、事実上ないのだ。やはり、あの妖魔と接触する以外にない。
「大丈夫。あなた達は、私達が責任をもって帰してあげるから。」
由姫が元気付ける。
「……さて、光弘が帰ってくるまで暇だし、なんかいろいろ聞いていいか?実は俺、光弘の伝説とかいろいろ聞くの、楽しみだったんだよ!」
「あ、私も気になります!」
「……俺も。」
「翔くんは光弘様に憧れてたから、一番聞きたかったんじゃない?私もそうだけど。」
輪路の提案に、全員が賛成した。
「伝説、と言えるかどうかまではわからないけど、話し相手ぐらいになら、なってあげられるわ。」
由姫も特に抵抗はないらしく、そのまま、光弘についての昔語りが始まった。美由紀は、ある意味一番気になっていたことを由姫に訊く。
「光弘さんと由姫さんのなれそめって、どんな感じだったんですか?」
「そうねぇ……」
由姫は当時を思い出して話す。元々、光弘を協会に誘ったのは、彼女だそうだ。二十年前、協会の霊力測定器が凄まじい量の霊力を感知し、それを単身確かめにこの山にやってきたところ、由姫は山賊から襲撃を受けた。霊力を持たない山賊など相手にもならないので、軽く蹴散らしてやろうと思ったらしいが、それより早く光弘が現れ、先に蹴散らされてしまった。
「一目見てわかったわ。あのとてつもない霊力の源は、この人だったんだって。」
光弘に助けられた由姫は彼の家に上げてもらい、そこで互いの事情を全て説明した後、光弘に討魔士になってもらったという。
「みんなは、何であの人がこんな山奥に住んでるんだろうとか、疑問に感じなかった?」
ここで由姫が、全員に質問する。輪路と美由紀は頭をひねった。
「確かに妙な話だよな。昨日一度剣を合わせた時わかったんだが、とんでもない強さだったぜ。しかも、間違いなく手加減してた。」
「そんな強い人なら絶対に幕府で重用されるはずなのに、どうしてこんな所に住んでいるんでしょうか?」
もし光弘が伝説通りの力の持ち主なら、輪路は昨日彼の剣を受けた時、受け止められずに潰されていた。なのに潰されていないということは、光弘が手加減をしていたということ。協会の誰よりも強い力を得た輪路が、危うく死にかけたのである。手加減してもなおこの強さ。こんなに強い光弘なら、幕府で引っ張りだこにされているはずなのだが、それがどういうわけか幕府から離れた山の中に住んでいる。その答えを、由姫が教えた。
「……光弘さんは確かに強いわ。でもね、強すぎちゃったのよ。」
光弘は幼少期から、幕府に貢献するため激しい修行に身を投じていた。幕府に行き、この日の本の国のために戦う。そう思い続けてひたすら修行に打ち込み、そしてある日、とうとう光弘は幕府に行った。己の強さを証明するため、将軍の親衛隊を素手で全滅させる。襲ってくる五千の兵士を山ごと一太刀で吹き飛ばすなど、人知を超えた所業をやってみせた。結果、光弘の圧倒的すぎる力を目の当たりにして恐怖した将軍は、彼を幕府から遠ざけるために、この山奥に強制疎開させたのである。
「自分はこの国のためだけに修行してきたのに、それが無に還った瞬間だったって言ってたわ。だから私は、あの人が自分の力を振るうのに相応しい場所を用意することにしたの。」
「それが協会か?」
「ええ。もう幕府には愛想を尽かしているみたいだったから、あっさり私の言うことを聞いてくれた。」
そのあまりにもあっさりした具合を見て、由姫は光弘が精神に深刻なダメージを負っているとわかったのだ。この傷を何とか癒したい。この人を放っておけないと思った結果、由姫は光弘と結ばれたのである。
「心の傷が癒えてからは、どんどん討魔士としての腕を上げていったわ。元々すごく強かったから、一月で誰も追い付けなくなっちゃった。」
由姫は優れた力を持つ討魔術士で、出会った当初は彼女の方が光弘より強かったのだが、光弘はあっという間に由姫を追い抜き、気付けば協会最強、いや、地球最強の戦士になっていた。
「ずいぶん懐かしい話をしてるな。」
そこへ、出掛けたばかりのはずの光弘が帰ってきた。
「あら、光弘さん早かったじゃない。」
「いや、調べに行ったら会長と出くわしてな。事情を話したら、代わりに調べてくれるってよ。あのじじいの方がこういうのは得意だしな」
「まぁ。会長に向かってそんな口の利き方……」
「じじいはじじいだ。俺とさして変わらんしな」
資料室に行った光弘だったが、そこでは偶然にもこの時代の会長、ベルクド・ザムディエール・ラザフォードが調べ物をしており、事情を話して調査を交代してもらったという。輪路達のそばにいてやって欲しいとのことだ。
「そうだ。あんたも何か話聞かせてくれよ!」
「ん。いいぞ」
光弘は輪路の頼みを快く引き受け、話すことにする。
「で、何を聞きたい?」
「ソロモン72柱の悪魔を撃退した、という話は?」
翔が話題を切り出す。
「……ああ、あの時の話か。あれは俺が聖神帝の力の使い方にも慣れて、火の霊石が使えるようになった時のことだな。」
当時の光弘はまだ討魔士として駆け出しであり、初めての霊石として火の霊石が使えるようになったばかりの頃だったらしい。協会の討魔術士達の予言で、ソロモン72柱の悪魔が世界を征服するため、地獄から復活するという話を聞いた光弘は、単独で悪魔が現れるという場所に赴き、先見隊としてやって来た十匹を軍勢ごと斬り伏せたという。ちなみにソロモン72柱の悪魔とは、ソロモン王が使役していた72匹の悪魔であり、一匹一匹が数万という悪魔の軍勢を率いている。いかに聖神帝の力を身に付けた討魔士とはいえ、本来ならたった一人で相手にできる存在ではない。が、規格外の強さを誇る光弘にとって、この程度は物の数ではなかったようだ。
「俺が斬ったのは十匹だけだったしな。残りの62匹は、俺の姿を見るなり逃げ帰っていったよ。」
無数に散らばる悪魔達の亡骸。その真ん中に立って無傷の身体を見せつける、白銀の聖神帝。悪に属する者にとって、これほど恐ろしい光景はない。残りの軍勢全てをぶつけても勝てないと思った悪魔達は、泡をくって地獄に逃げていったそうだ。
「おお……廻藤光弘の伝説に、偽り無し!」
翔は興奮している。次はソルフィが尋ねた。
「シヴァ神と戦ったというのは、本当ですか?」
すると、光弘の顔がとたんに不機嫌になる。
「……あー覚えてる。覚えてるよ。覚えてるとも。忘れるわけがねぇ」
「な、何だか、聞いちゃいけなかったことみたいですね……気に障ったならやっぱりいいです。」
「いや、愚痴がてら聞いていけ。」
無理矢理聞かされることになってしまった。今から十年前、光弘と由姫は協会の任務で、インドに出張させられた。その時に破壊神シヴァと、その妻カーリーに出会ったのだそうだ。
「あの野郎由姫を見るなり、自分の女の方がいい女だとかふざけたこと抜かしやがってよ。頭にきたから左腕一本斬り落としてやった」
光弘の逆鱗に触れてなお嫁自慢を続けるシヴァは、光弘から怒りの鉄槌を受けて逆上し、そこから宇宙の命運を懸けた大喧嘩に発展した。二人の死闘は、由姫とカーリーが力を合わせて、鎮静させたという。
「あの時は本当に大変だったわ。もう少しで宇宙が消し飛ぶところだったんだから」
「お前を馬鹿にされて黙ってられるか。こんなにいい女なのによ」
「やだ光弘さんったら……」
「……のろけ話になったな。」
顔を赤らめてくねくねする由姫を見て、輪路は呟いた。
「……さて、じじいが調べ終えるまで、あとどれくらいかかるかわからねぇ。せっかくだからこの機会に、俺の子孫に技を授けてやるとするか。」
唐突に光弘がそう言った。
「俺に、あんたの技を?」
「別に損はねぇだろ?」
確かに損はないが、相手はあの光弘である。一歩間違えれば、輪路でさえ死にかねない。
「大丈夫だ。こう見えても加減は得意でな、お前を死なせるような真似はしねぇさ。」
「……本当だろうな?」
最初に戦った時潰されかけたという経験から、輪路はかなり疑っている。
「その稽古、俺も参加していいですか?」
「おお、いいぞ。」
翔が参加を申し出ると、光弘は快く引き受けた。一同は家の裏手に回り、光弘が剣を抜く。
「まずはお前らにどの程度のことができるのか知りたい。お前らの力、技の全てを、全力でぶつけてきてくれ。」
「おう。」
「はい。」
光弘に言われて、輪路と翔も武器を抜く。
「さてと、こっちも準備しなくちゃね。三郎ちゃん!ちょっと来てくれる!?」
このまま三人が戦い始めると非常に危ないので、由姫が三郎を呼ぶ。そう、三郎を。
「あいよ~。どうした?って何だこの状況?」
「こ、この時代の三郎ちゃんだ!!」
やってきた三郎を見て、美由紀は興奮した。以前から三郎は何百年も生きていると聞かされていたので、この時代にいても不思議はないのだが、やはり実際に見ると興奮する。由姫は三郎に事情を話した。
「なるほどね。じゃ、この生きた災害が被害を出さないように、結界を張るとするか。」
「お前、ひどいな。」
光弘を生きた災害呼ばわりする三郎。とりあえず、三人の戦いで日本が消し飛ばないよう、由姫と三郎が力を合わせて結界を張ることになる。
「私もお手伝いします。」
そこにソルフィも加わって、三人で巨大で頑丈な結界を張った。
「さぁ来い!」
光弘は余裕そうに剣を構えた。
「じゃあ俺からだ!!」
最初に突撃したのは輪路。縮地を使って一気に距離を詰め、シルバーレオを振り上げる。が、光弘は防ぐこともせず、のけぞってかわす。すかさず二撃、三撃と打ち込むが、いずれも触れることすらできずに空をきる。
「っ!」
輪路の影から飛び出し、不意討ちのような形で双剣を振るう翔。対する光弘は特に慌てたような様子もなく、落ち着いて目で追いながら、翔の攻撃を全てかわす。
「すごい……」
美由紀は呟いた。輪路も翔も、決して弱くないはずなのに、光弘は未来の協会においてトップクラスの実力を持つ二人を、いとも容易く手玉に取っているのだ。さらに恐ろしいのは、まだ光弘が全く反撃をしていないということ。今はただ、二人の攻撃をかわすのみだ。二人は間違いなく全力で攻撃しているが、光弘は余裕そのもので、かすりもしない。
「動きはすごくいい。だが、まだまだ俺に当てるには遠いぞ。」
光弘は二人の戦い方を評価する。だが、正直に言って馬鹿にされているようにしか聞こえない。まぁ、元々光弘は圧倒的すぎるほど力の差があるし、この神業的な守勢から攻勢に出られても困る。三郎は生きた災害と形容したが、これは実際比喩でも誇張でも何でもないのだ。
「翔!!」
輪路は一瞬翔に目配せすると、シルバーレオを大きく振りかぶり、光弘に向けて巨大な衝撃波を飛ばした。
「……」
それを難なく切り裂いて止める光弘。しかし、衝撃波は囮だった。
「はぁっ!!」
その後ろからぴったりとくっついてきた翔が、双撃を放つ。これにはさすがの光弘も、回避ではなく防御の型を取る。さらにそこから走ってきた輪路が一撃を加え、光弘の剣を真上に高く弾き飛ばした。
「「はっ!!」」
光弘に最後の一撃を放つ二人。この一撃は、無論光弘の首筋に突き付け、降伏させるための一撃だ。当てるつもりは全くない。
だが、当たってしまった。光弘が突然割り込ませてきた、彼の手に。そう、光弘は業物である輪路と翔の剣の刃を、素手の手刀で防いだのだ。
「手加減してやってたとはいえ、銀獅子丸を飛ばされるとはな。少し油断しすぎたか」
光弘は両手にほんの少しだけ力を入れる。だがほんの少しでも、大の大人二人を吹き飛ばすには十分であり、輪路と翔はそれを利用して距離を取った。
「どういうことだ!?」
「今、確かに素手で刃面を……!!」
光弘がやったことに驚く二人。光弘は尋ねる。
「武士は必ず、大刀と小刀の二本を携帯する。未来人のくせにそんなことも知らないのか?」
「……なるほど。あんたの両腕が、その小刀ってわけだ。」
「……少し、違う。」
「何!?」
次の瞬間、光弘は輪路に飛び蹴りを放った。慌ててかわす輪路だったが、輪路の後ろにあった木が折れた。いや、折れたのではない。切れた。まるで鋭利な刃物で切られたかのような跡が残っている。今度は翔が突撃するが、光弘はそれを両手で受け止め、頭突きを放つ。この頭突きを受けてはいけないと反射的に悟った翔は、瞬時に膠着状態を解除して光弘から離れる。頭突きと同時に放たれた衝撃波は、軌道上にあるもの全てを切り裂いていった。
「廻藤流討魔戦術奥義、体刀。全身に霊力を行き渡らせ、刃とする技だ。いわば俺自身が小刀!」
霊力を行き渡らせることによって、手刀や足刀が本物の刀になる恐るべき技、体刀。その技の説明を終えた時、ちょうど光弘の上に刀、銀獅子丸が降ってきた。
「さて、お前らの手役はそれだけじゃないだろう?もっと俺にぶつけてみろ。」
光弘は銀獅子丸を掴み取って挑発する。
「聖神帝になっても構わんぞ。そうすればあるいは、俺に手傷の一つも負わせられるかもしれん。」
「……面白ぇ。」
「「神帝、聖装!!」」
このまま続けても勝てないと思った二人は、光弘の挑発通り聖神帝に変身した。だが光弘が言った通り、それでもなお力の差は埋まっていない。
「それなら全力でやってやるぜ!!」
生身で聖神帝を上回る莫大な霊力。その差を少しでも埋めるため、二人は霊石を全解放した。
だが、
「!?」
ヒエンは全霊聖神帝になれたのに、レイジンは全霊聖神帝になれなかった。霊石がレイジンに融合する寸前で、全て消えてしまったのだ。
「……もう一度だ!!」
再度全霊聖神帝になろうとするが、やはり霊石は消えてしまう。
「一つずつなら……!!」
一度に全部融合するのが無理なら、一つずつ使う。そう思って火の霊石から使おうとするが、それでも霊石は消えてしまった。
「だったらこれでどうだ!!レイジンジェミニ!!!」
霊石の融合ができないなら、せめてレイジンジェミニとして使おうとする。だが、霊石はレイジンの姿に変化する前に消えてしまった。その有り様を見て、美由紀とソルフィは呟く。
「霊石が……」
「使えなく……なってる……」




