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第四十話 惹かれるものは

「正影!正影はいないか!」


アンチジャスティス本部。ブランドンは正影を捜しに、彼の部屋に来ていた。いつも正影はトレーニングしているか、ビルの内部を適当にうろつくかしているのだが、今日は二~三時間ほど前から誰も姿を見ていないらしい。妙に思ったブランドンが直々に部屋に捜しに来たのだが、やはり部屋に正影の姿はない。


「!」


と、ブランドンは正影の机の上に置き手紙がしてあるのを見つけた。


『しばらく出てくる』


手紙にはそうとだけ書いてあった。


「正影め……最終作戦が近いから、勝手に出歩くなと言っておいたのだがな……」


ブランドンは苛立つ。しかし正影の居場所はわからず、仕方なく待つしかなかった。











ヒーリングタイム。


いつものように仕事をしている美由紀と佐久真とソルフィ。と、


「……」


そこへ輪路が、無言で入ってきた。


「あれ?輪路さん、もう帰ってきたんですか?」


美由紀が尋ねる。輪路は今から二時間ほど前、仕事があると言って出掛けたのだ。協会の仕事で出掛けると、普通は夜になるまで帰ってこない。しかし、今の時間帯はまだ昼前だ。早すぎる。


「……」


輪路はそれに答えず、じっと無表情で美由紀を見ている。


「……どうかしたんですか?」


「……」


ソルフィが訊いても答えない。


「なぁに?仕事先で何かあったの?そういう時は、これでも飲んで、元気出しなさいな。」


佐久真は輪路に、いつものアメリカンを出してやった。


「……」


輪路はじっと、アメリカンを見つめる。


「……こりゃ相当重症みたいね。」


いつもなら喜んで飲むのだが、輪路はアメリカンを注視したまま動かない。結局飲まず、また美由紀の方を見た。


「……」


いつしか美由紀も、真剣な顔をして輪路を見ている。やがて、美由紀は輪路に尋ねた。



「あなた輪路さんじゃないですね?」



「「!?」」


この発言には、佐久真もソルフィも驚いた。この男はどこからどう見ても輪路にしか見えないのだが、美由紀は輪路ではないと言う。美由紀は続ける。


「見た目も雰囲気も輪路さんそっくりでしたから、気付くのに時間が掛かりましたけど、あなたは輪路さんじゃない。一体誰なんですか?わざわざ輪路さんを真似してまで、ここに何をしに来たんですか!?」


矢継ぎ早に問いかける美由紀。すると、輪路は答えた。


「お前の言う通り、俺は輪路ではない。俺の名は、廻藤正影。廻藤輪路の血液から造られた、ホムンクルスだ。」


「ホムンクルス?」


美由紀の目の前で、正体を明かした正影は、本来の姿へと戻る。といっても、服装が黒くなり、シルバーレオがブラックライオンに変化しただけだが。


「正影!!」


輪路と正影の外見は、瓜二つだ。パッと見た感じでは、どちらがどちらかわからない。だから正影と交戦した経験のあるソルフィでさえ、気付くのが遅れた。ソルフィはすぐにソウルワイヤーで、正影を拘束しようとする。しかし、それより速く正影がブラックライオンを抜き放ち、刃をソルフィの喉元に押し当てた。周囲の客から悲鳴が上がる。


「余計な真似をするな。俺は事を荒立てるために来たわけじゃない」


ソルフィと交戦する意思はないということを伝えてから、正影は自分の目的を美由紀に告げる。


「美由紀。お前を迎えに来た」


「……えっ?私を?」


「大人しく俺と一緒に来い。さもなくば、どうなるかわかっているな?」


正影は周囲に目配せする。もし断れば、ここにいる人全員を殺すと言っているのだ。


「……わかりました。」


美由紀は承諾し、カウンターを回って正影のそばに来た。


「輪路を呼べ。街外れの荒野で待っていると伝えろ」


正影は最後にそう言い、美由紀の手を引いて店を出た。


「み、美由紀が……」


「落ち着いて下さい佐久真さん。今、廻藤さんに連絡します。廻藤さんなら、きっと美由紀さんを取り返して下さるはずです。それに佐久真さん、戦えるんですか?」


「……」


ソルフィの問いかけに、佐久真は答えられなかった。











街外れの荒野。美由紀は正影から、彼についての詳細を聞いていた。


「俺は輪路の感情と記憶のデータをインプットされ、奴の全てを引き継いでいる。その中で、最も強く想う存在としてお前のデータがあった。」


正影はアンチジャスティスに従うよう多少の調整を受けてはいるが、根本的には輪路のコピーだ。輪路が一番想っている存在を求めるなら、正影もまた同じようにそれを求める。輪路が美由紀を好きだったから、正影も美由紀が好きになったのだ。輪路が惹かれた存在に、正影も惹かれた。


「だから俺は、お前をアンチジャスティスに迎えたい。」


「だ、駄目ですよそんなこと!」


「なぜだ?俺と輪路は同じ存在だ。しかし、力は俺の方が強い。この前、俺は輪路を倒したんだ。見た目が同じでも、力が強い方のものになるべきだろう?」


そこまで言われて、美由紀は以前輪路が、自分は恐ろしく強い相手と戦って負けたから、勝てるように修行していると言っていたことを思い出した。輪路が言っていた相手というのは、正影のことだったのだ。


「他の連中に手は出させないし、ブランドンにだって何も言わせない。お前は何も心配しなくていいんだ!だから……俺のものになれ。」


必死に美由紀を連れて行こうと説得する正影。


「……私は……」


美由紀は、自分は行かないと言おうとする。言おうとしたその時、



「やっぱお前、俺じゃねぇわ。俺なら美由紀が嫌がるようなこと、絶対言わねぇからよ。」



輪路が現れた。ソルフィから連絡を受けて、美由紀を助けに来たのだ。ちなみに、ソルフィは置いてきた。なぜなら、自分が戦わなければならない相手だから。


「輪路さん!!」


今度は正真正銘本物の輪路だと確信する美由紀。


「来たか。」


正影は美由紀から手を離し、彼女を下がらせる。


「よう正影。久しぶりだな」


「ああ。今お前、妙なことを言っていたな。美由紀が嫌がっていたとかどうとか」


「嫌がってたじゃねぇか。そういうこととかわからねぇ時点で、お前はやっぱり俺じゃねぇってことだ。」


「……そうだな。俺は確かにお前だが、お前ではない。俺はお前の影だ」


正義の象徴、廻藤光弘の子孫、廻藤輪路。正影はまさしく、その影と言える存在だ。影であるがゆえに、輪路と同じだが違う。だから美由紀を想うといっても、想い方が輪路と正影ではまるで違うのである。


「だが俺は、単なるお前の影で終わるつもりはない。お前を倒し、俺が輪路になる。そして、俺が美由紀を手に入れるんだ。」


輪路の想い方は、美由紀のそばにいて、愛でながら守るという方法。対する正影の想い方は、美由紀を奪い、美由紀の全てを己のものとするという略奪愛だ。美由紀が自分をどう思おうが関係なく、必ず自分に振り向かせる。そういう身勝手な愛なのだ。


「やっぱりお前を生かしとくわけにゃあいかねぇよなぁ。」


「そうだな。だが今言った通り、俺はお前を殺しに来た。死ぬのはお前だ」


「……言うじゃねぇか。あの時と同じように行くと思ったら大間違いだぜ!」


輪路はシルバーレオを日本刀モードにして抜き放ち、正影に斬り掛かった。正影もまた瞬時にブラックライオンを抜刀し、それを受け止める。


「キャッ!!」


二人の攻撃がぶつかっただけで衝撃波が発生し、美由紀はそれに煽られて尻餅をついた。ここにいては巻き込まれると思い、すぐ立ち上がって物陰に隠れる。その直後、正影が輪路を弾き飛ばした。


「おおっと待ちな!」


その時、三郎が飛んできて、結界を展開した。


「三郎!!」


「やり合うってんなら俺に声を掛けろよな。しかし……お前が正影か」


三郎は正影にも声を掛ける。


「そうだ。」


「いやはや、輪路から話を聞いてただけだったが……なるほど、そっくりだな。パッと見じゃわかんねぇ」


「だがすぐわかるようになる。廻藤輪路は今日ここで死に、俺が新しい輪路になるんだからな。」


「だそうだが?」


「んなことさせるわけねぇだろ!!輪路は俺だ!!」


輪路は再度、正影に挑む。袈裟懸けに斬りつけ、突きを繰り出し、逆袈裟に放つ。だが、正影はそれらを全て防いでしまった。


「……少しはやれるようになったな。」


とはいえ、前回の交戦に比べれば、輪路の戦闘力は格段に向上している。


「おおっ!!」


「……!!」


その証拠に、輪路は今次々と攻撃を繰り出し、防がれてはいるのだが、正影に以前のような余裕が見られない。以前の輪路なら、単独で正影相手にここまで張り合うなど不可能だった。


「てめぇに勝つためだけに、やりたくもねぇ高重力訓練なんか進んでやったんだ!!勝てるようになってなきゃ、意味ねぇだろ!!」


「ぐっ……!!」


輪路が強く打ち込むと、正影が後方に大きく下がった。


「……確かにあの時とは違うようだ。だがわかっているのか?俺もあの時とは違うんだぞ?」


輪路は確かに強くなった。爆発的と言える成長速度だ。普通なら、こんな短期間でここまで強くなることなど、あり得ない。しかし、正影もまた、以前交戦した時とは違う。訓練はしているし、何より肉体の調整を終わらせているのだ。タイムアップによる戦闘不能は、絶対に起こらない。


「奇跡は二度も起きない。」


「ああ。だから今度は俺の実力で、生き残らせてもらうぜ。」


もはやこの戦い、どちらかが死ぬことでしか決着はつかない。


「「神帝、聖装!!」」


そして二人は、本気を出す。


「レイジン、ぶった斬る!!」


「カゲツ、叩き斬る。」


聖神帝レイジンと、聖神帝カゲツ。白銀と漆黒の、全く同じ姿の現人神。二人がこの姿になった以上、ここから先の戦いに、手加減はない。


「ッシャァァァァ!!!」


先に仕掛けたのはレイジン。何の工夫もない、ただの斬撃を全力で放つ。


「っ!!」


カゲツも同じように、ただの斬撃を放つ。二つの斬撃がぶつかり、先ほどより大きな衝撃波が発生した。何の芸もない攻撃だが、そこに秘められた力は絶大。二人の力は、今のところ互角だ。


「まだまだァ!!」


すると、レイジンの背後に、火の霊石と力の霊石が出現し、それがレイジンに融合して剛焔聖神帝にパワーアップした。一瞬にして超パワーを得たレイジンは、カゲツを押し返す。それから二度、三度とシルバーレオを振るが、カゲツはそれをバックステップでかわす。スピードで追い付けないと思ったレイジンは、走りながら自身に速さの霊石、土の霊石、技の霊石を融合させ、強霊聖神帝に強化変身。カゲツに追い付き、パワー、スピード、テクニックの全てで圧倒し、シルバーレオを持つ右手の拳を上に、左の拳を下に構えて、双方を同時に繰り出し、カゲツの胸と腹を殴り飛ばす。最後に水の霊石を融合し、全霊聖神帝に変身。


「ライオネルバスター!!!」


フルパワーのライオネルバスターを放つ。


「シャドーハウリング!!!」


吹き飛ばされたカゲツは着地し、シャドーハウリングを放つ。二人の攻撃は互角で、二つの霊力光線は消滅する。


「ソニックレイジンスラッシュ!!!」


レイジンの攻撃はまだ終わらない。ライオネルバスターが相殺されることは想定していたので、相殺される瞬間を見計らって縮地で接近。ソニックレイジンスラッシュで、ブラックライオンを弾き飛ばす。


「アサルトエッジ」


だが、カゲツは瞬時に武器をアサルトエッジに変えて反撃してきた。レイジンは両腕に霊力を込めて硬化し、シルバーレオも絡めて攻撃を防ぐ。


「バーストスティング」


と、一瞬の隙を突いてバーストスティングを生成したカゲツは、それをレイジン目掛けて投げつけた。すぐ両腕でガードするが、バーストスティングは硬化している両腕にも突き刺さり、爆発する。だが爆発する瞬間、レイジンは液状化することで衝撃を受け流した。同時にカゲツが落ちてきたブラックライオンをキャッチし、レイジンが液状化を解いて、再度互いに一撃をぶつける。衝撃波で、大きく後退する二人。


「すごい……」


美由紀はレイジンとカゲツの激闘を見て、小学生のような感想を口にした。まぁ、実際この戦いを見た者がいれば、同じようなことしか言えないとは思うが。


「これなら……!!」


レイジンは以前負けたと言っていたが、とてもいい勝負をしており、これならきっと勝てると思っていた。美由紀は。しかし、三郎にはそう見えなかった。


(確かにいい勝負をしてるように見えるが……)


霊力を持たない者から見れば、二人の戦いは拮抗しているように見える。しかし霊力を持つ者から見た場合、状況はまるで別物だった。というのも、レイジンは全霊石の発動ということもあって、戦えば戦うほど霊力が減って戦闘力が低下していくが、カゲツはいくら戦っても霊力が全く落ちず、むしろ上がってさえいるのだ。万能の霊薬、賢者の石。それを動力にして造られたカゲツは、賢者の石から霊力を無限に引き出して戦える。ゆえに、スタミナ切れがない。こういった意味でも、タイムアップによる戦闘不能はあり得ないのだ。


「ふぅ……ふぅ……」


遂にレイジンの息が切れ始めた。対するカゲツは平常そのもので、息一つ乱している様子がない。


「ずいぶん疲れているようだな。」


「ふぅ、気のせいだよ、ふぅ、ばーか、ふぅ……」


レイジンが疲れているのは本当だ。だがそれを認めるのも癪だったので、虚勢を張っておいた。それから、また斬り結ぶ。


「レイジンアースインパクト!!!」


数度打ち合ってから距離を取り、レイジンアースインパクトでカゲツの足元を爆破した後、火炎放射をぶつける。だがカゲツは何事もなかったかのように炎の中から飛び出し、レイジンを斬りつけてきた。どうにか回避するレイジン。


(ああは言ったが、マジで余裕がねぇ。奴がこれ以上強くならねぇうちに、ケリ着けねぇと!!)


カゲツの霊力はここまでの死闘を繰り広げてなお、さらに上昇を続けている。一瞬でもカゲツの霊力強化を上回る霊力をぶつけてやれば、きっと勝てるはずだ。


「行くぜ……」


勝負を決めるべく、戦いながら霊力をシルバーレオに込めていくレイジン。ただオールレイジンスラッシュを放っても、防がれて終わりだ。戦いながらオールレイジンスラッシュの発動に必要な霊力を溜めて、隙を作ってからそこに文字通りの全霊を叩き込む。それ以外にカゲツを倒す方法はない。突きを、袈裟斬りを弾きながら、隙を作ろうとするレイジン。


「おらっ!!うおらぁっ!!」


上からシルバーレオでブラックライオンを押さえ、右足の回し蹴りを、続いて左足の回し蹴りを、カゲツの頭に喰らわせる。


「くっ……!!」


よろめきながら離れるカゲツ。いかに頑丈なホムンクルスとはいえ、頭に強い衝撃を何発も浴びたら、脳震盪を起こす。


(ここだ!!)


「オールレイジンスラァァァァァァァァッシュ!!!」

勝機到来。いまだによろめいているカゲツに、頭からオールレイジンスラッシュを叩き込むレイジン。そして起こる大爆発。


「きゃっ!!」


「輪路!!」


爆風に悲鳴を上げる美由紀と、輪路の安否を確認しようと叫ぶ三郎。


「……ギリギリだったな。だが、俺の勝ちだ……!!」


全霊化が解け、通常のレイジンに戻る。目の前には、首のないカゲツが立っていた。いくらホムンクルスでも、頭を失って生きていられるはずはない。レイジンの勝ちだ。



そう、思っていた。



目の前でカゲツの頭が再生するまでは。



「なっ!?」


「いくら頭を消し飛ばそうと、俺の存在の核となっている賢者の石を破壊しない限り、俺は死なない。残念だったな」


「ぐあっ!!」


驚くレイジンをブラックライオンで斬りつけるカゲツ。そうなのだ。カゲツは、普通のホムンクルスとは違う。賢者の石に記憶や感情データ、霊力を注入して造られたため、倒すには頭ではなく、賢者の石を破壊しなければならないのだ。こう言ってはアレだが、カゲツにとって頭は飾りも同然なのである。


「今度は俺の番だ。」


冷淡に言ったカゲツは、先ほどレイジンがやったように、戦いながらブラックライオンに霊力を込めていく。レイジンも再び全霊聖神帝になろうとするが、霊力をほぼ全て失ってしまったため、レイジンの変身を維持するのが精一杯で、全霊どころか霊石一つすら使うことができない。


「がっ!!ぐああっ!!」


霊力を消費しすぎたせいで、まともな抵抗さえできず、ほとんどサンドバッグ状態で斬られ続けるレイジン。



そして、



「カゲツスラッシュ!!」


「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


カゲツは真一文字に、レイジンを斬った。霊力もダメージも限界に達し、遂に変身が解けて輪路は倒れる。


「輪路さん!!」


美由紀は危険も省みず飛び出し、輪路を抱き締めた。そんな彼女を、変身を解いた正影が無情にも片腕を掴んで輪路から引き剥がす。


「離して!!」


「無駄だ。そいつはすぐに死ぬ。それより、早く行くぞ。お前がいるべき場所に」


「嫌っ!!離してっ!!」


抵抗するが逆らえず、引きずられていく美由紀。



その時、



「……」


正影は足を止めた。いや、止められた。


「はぁ……ぜぇ……ぜぇ……」


輪路が倒れたまま正影の片足を掴み、止めている。正影は足を引き抜き、再び歩き出すのだが、輪路はもう一度掴み、正影の足を止めた。そして、正影の顔を睨み付ける。連れていくな。まだ俺は終わっていない。なに勝手なことしようとしてやがる。その瞳からは、そんな意思が伝わってきた。


「なら終わらせてやろう。」


輪路にとどめを刺すべく、ブラックライオンを振り上げる正影。



しかし、



「駄目!!」


美由紀が抱き付いてそれを阻止した。このままでは本部に帰れないし、美由紀を斬ってしまう。さてどうしたものかと考える正影。そして、思い付いた。賢者の石のエネルギーを使って紙を作り、それを輪路に渡す。紙には、何か住所のような字が書いてあった。


「そこがアンチジャスティスの本部だ。結界で隠されているが、その紙を持っているなら中に入れる。」


「!?」


なんと、正影は輪路にアンチジャスティスの本部がどこにあるかを教えたのだ。


「どうもまだ美由紀は俺が勝者だと認めていないようだし、お前も納得していない。そこで、場所を変えて決着をつけようと思う。アンチジャスティスの本部なら、お前もうってつけだと思うだろう?」


「……信用できねぇ。これが本当に、アンチジャスティスの本部だと思えねぇからな……」


輪路は正影から提供された情報を、信じていなかった。協会でさえ掴めなかった極秘情報を、こんな簡単によこすだろうか?嘘を吐いている可能性は十分に考えられる。


「そいつは嘘を言ってねぇ。決着をつけるつもりでいるってのは本当だ」


しかし、嘘ではないと三郎が言う。読心妖術で、正影の心を読んだのだ。


「だから帰してやれ。今のままだとお前、死ぬぞ。」


既に力の差は明白。このまま無理をして戦ったところで、虫のように捻られて終わりだ。三郎は輪路に、引き下がるように言った。


「……俺は必ずてめぇを倒す。だから、約束しろ。今は預けてやるが、俺が行くまで、美由紀には絶対、手を出さねぇって……!!」


だが輪路もただでは引き下がらず、正影に美由紀の無事と安全を保証するよう、約束を取り付けさせる。


「約束しよう。さっきも言った通り、その紙に書いてある場所が、アンチジャスティスの本部だ。俺はいつでも、お前が来るのを待っている。」


正影からその言葉を聞き、輪路はようやく手を離す。


「さぁ、行こう。美由紀」


正影は美由紀の手を取り、二人の身体が光り出す。


「……輪路さん。私、待ってますから。」


美由紀は最後にそう言って消えた。輪路と三郎以外、誰もいなくなった結界の中。


「……美由紀……」


輪路はそう呟いてから、意識を手放した。

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