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番外編 青羽流vs二階堂平法

今回は、御風激闘伝とのクロスオーバーです。タイトル詐欺じゃないですよ?

「会長。廻藤の真似をするわけではありませんが、俺にはあなたが俺をどうしたいのかわかりません。」


協会本部。シエルに呼び出された翔は、シエルに言った。また翔を女体化させて、参加してもらいたい任務があるというのだ。


「そう言わないで下さい。真面目な任務なのですから」


そしてシエルは、翔に任務を下した。それは、桃華宮女子高等学校に潜入してもらいたいということ。


「……今一度お聞きします。会長、あなたは俺をどうしたいんですか?男が桃華宮に潜入など、完全に犯罪ではありませんか。」


桃華宮と言えば、やむを得ない場合を状況を除いて、いかなる時も一切の男性の立ち入りを禁止していることで有名な、女だけの秘密の花園である。そこに翔を行かせるなど、完全に犯罪ではないか。翔は女性に欲情したりなどしないが、そんなことは関係ない。


「だから、真面目な任務だと言ったではないですか。」


しかし、シエルはとても真剣な顔をしている。


「そこに通っている一人の生徒が、少し問題なのです。詳しいことは、その生徒のクラスの担任を勤めている、良子から聞いて下さい。彼女が一番よくわかっているでしょうから」


「……わかりました。ですがその前に、生徒の名前だけ教えて頂けませんか?」


調べる対象について、翔は名前だけでも聞いておくことにした。シエルは答える。


「竹本御風です。」











桃華宮女子校。そこは生徒はもちろん、教師や用務員に至るまで全員が女性の、完全女子校。そんな女子校に、翔子は朝七時に行った。


「どうも~。久しぶりですね、翔様。」


翔子を迎えたのは、ガラの悪そうな女性教師、木下良子。普段は機械いじりと通信教育が好きな一般人を演じているが、彼女の正体は協会の討魔術士である。術士ではあるが、極めて高い体術技能の持ち主で、普通に強い。桃華宮という本当の意味で女しかいない場所を守るため、協会から派遣されてきたのだ。


「それとも、翔子様って呼んだ方がいいですか?いや~ずいぶん可愛くなっちゃって。」


「木下。無駄口を叩くな」


「……へいへい。じゃあとりあえずこっちへ」


木下は翔子を、応接室に通す。誰も近付かないように言ってあるし、人払いの術と防音の術を部屋に掛けてあるため、話を聞かれる心配はない。木下はいくつかの資料を持ってくると、それを翔子に見せ、御風について説明した。


「竹本御風。古流剣術二階堂平法の達人で、護身のため常に日本刀を持ち歩いている。この時点でもうおかしいって思うかもしれませんけど、本番はここからです。」


木下は説明を続ける。


「重度のレズビアンであり、この女子校に来たのは……まぁそういうことです。二階堂平法を学んだのもその奥義心の一方、これは簡単に言うと睨んだ相手を金縛りにする技です。こいつを使って女を捕まえるわけですわ。で、反対に男に対しては憎悪しかない。事実、中学三年の時に男を五人、殺してます。」


「人格に問題がありすぎるな。しかも前科持ちか……」


ここまでのことをやっているなら、木下がもう殺しているはずだ。しかし、御風は生きている。なぜ生かしているのか、翔子は尋ねた。


「あたしもそう思ったんですけどねぇ。あの娘の過去を調べてみると、殺すのも気が引けるんですわ。」


「何でだよ?」


「これ、見て下さい。」


木下が見せたのは新聞だ。新聞には、女子小学生集団リンチ事件と書いてあった。


「竹本は同級生を男子のいじめから助けたんですが、それを逆恨みした男子から反撃を受けました。しかも一対一じゃなくて、仲間を呼んで一方的にリンチですよ。新聞だけじゃなくてテレビにも載った、ちょっとした事件です。」


木下の説明を聞きながら、翔子は記事を読む。御風は全身に青アザを付けられ、左足の骨を折られるという重症を負った。当然のことながらこれはいじめっ子達の両親に知れ渡り、謝罪と医療費を全額負担したようだ。


「これが原因で、竹本は男嫌いになりました。竹本が殺した五人も、この時竹本をリンチにした連中です。昔の恨みを忘れられなかったんでしょ~ね~」


御風の同性愛も、このトラウマで精神に異常をきたしたせいだという。御風の友人である、真由美という生徒が聞き出したそうで、真由美が木下に話したらしい。


「結構深いワケがありましてねぇ~。そう思うと、あたしも不用意に手が出せないんですわ。ここが前にアンチジャスティスに襲われた時、助けてもらったっていう恩もありますからね。」


ここがアンチジャスティスに襲われたという話は、翔子も聞いている。その時解決してくれたのが、御風だということも。


「できる限りあたしが解決しようと思ったんですけど、やっぱり三大士族に直接見てもらった方がいいかなって。」


シエルからこの学校を守るよう命令された時は、彼女自身もそれを望んでいた。なぜなら、ここは彼女の母校だからである。またここに戻ってこれるなんて思ってなかったし、戻れたら自分の手で守ろうと思っていた。しかし、協会には彼女一人の一存では決められない掟がある。それを決めるために、三大士族があるのだ。


「どうするかはアタシが決める。お前は何も心配するな」


「……できるなら、あの娘が幸せになる選択を、して下さい。」


木下は翔子に全てを任せた。











「というわけで、今日から三日間このクラスの臨時担任になる、青羽翔子先生だ。みんな、仲良くしろよ。」


「青羽だ。よろしく頼む」


調査方法は、御風のクラスの臨時担任になる。期間は三日間。その間に問題を起こさなければ、御風のやったことは不問にする。殺人をやらかした御風を不問にするというのは問題だが、彼女にはそれを超える功績があるため、本当に大丈夫かどうか調べる必要があるのだ。自己紹介を終え、木下が出ていく。そしてその直後、


「「「「「きゃーっ!!!可愛いーっ!!!」」」」」


翔子は生徒達にもみくちゃにされた。


「ねぇねぇ何歳?」「どこから来たの?」「お父さんとお母さんは?」


どうやら翔子の姿は彼女達から見て相当幼く見えるらしい。


「ええい鬱陶しい!!離れろ!!アタシは子供じゃねぇんだ!!」


翔子は女子達を払いのけながら、ある席を見る。



その席に座っていたのは、いろんな意味で目を惹く一人の美少女。彼女こそが、ターゲットの少女、竹本御風だ。


「うふふ。」


「ちょっ……学校ではやめてって言ったじゃない……」


今彼女は、翔子の存在などまるで眼中にないといった感じで、隣の席の女子とイチャイチャしていた。あの生徒は木下が言っていた、片平真由美という生徒だろう。御風の一番のお気に入りで、御風は週末に彼女を自分の家に連れ込んでいるらしい。


「……!」


ふと、翔子と真由美の目が合った。合ってすぐ、真由美は視線をそらしてしまう。


「どうしたの?」


その様子を奇妙に思った御風が、翔子を見る。しばしの沈黙の後、翔子は顔をそらし、教室から出ていった。











それから翔子は、授業中や休み時間など、暇があれば御風を観察していた。学校が終わって御風が帰宅した時は、家路までを監視したりもしている。真由美やその他の女子に、顔を撫でたり胸を揉んだり足を凝視したりと、時々いかがわしい悪戯を仕掛けるだけで、危険らしい危険は特にない。同性愛というものを理解はできないが、規制したりするつもりはない。愛には様々な形があるということを知っているし、心に傷を負って、同性しか愛せなくなった者を翔子は何人も知っている。だからといって異性を殺すのはやりすぎだが。



御風の監視をして二日目。一応彼女が討魔士であることは極秘なので、教師として仕事をしているふりはしなければならない。今日も彼女は、職員室で仕事をしているふりをしている。と、


「青羽先生、ですよね?」


一人の生徒に声を掛けられた。真由美だ。


「ああ。片平、だったか?」


「はい。もし時間があったら、ちょっと来て頂けませんか?」


「……ああ。」


翔子は真由美に連れ出され、人気がない準備室に連れ込まれた。


「こんな所に連れ込んで、一体何の用だ?」


「……単刀直入にお聞きします。あなた普通の人じゃないですよね?」


「……何だいきなり。」


「……前に、御風が戦っているところを見たんです。遠慮とか情けとか、そんなものが全然ない、すごく怖い目でした。昨日先生が御風を見る目が、その時の御風の目と全く同じだったんです。それで、これは普通の人の目じゃないんだって、わかりました。」


「……それで?アタシが普通の人じゃなかったら、どうだっていうんだ?」


「この前学校に来たアンチジャスティスっていうテロリストを見て思いました。そういう、特別な人でできてる組織もあるんだなぁって。先生もそういう組織の人なんじゃないですか?」


(鋭いな……)


翔子は思った。どうやら真由美は、翔子が協会の人間であることを、おぼろげながらも見抜いてしまったようだ。


「御風を見てたってことは、御風が目当てなんですよね?もしかして、御風を殺しに来たとかですか?」


殺すか殺さないかはまだ考えていないが、問題があるようなら殺す。それだけだ。しかし、それよりも先に真由美という問題ができた。完全に翔子を特殊機関の人間と決め込んで話を進めているようだし、隙を突いて気絶させ、記憶を消すか。翔子がそう考えていた時、真由美は言った。


「御風を殺さないで下さい。そりゃ確かに過激な娘ですけど、あの娘は女の子が好きなだけなんです。人を殺したのも、この学校の生徒を殺そうとした人達から守っただけで……」


アンチジャスティスのことを言っているのなら確かにそうだが、御風はいじめられた恨みがあるとはいえ五人殺しているのだ。もしかしたら公になっていないだけで、もっと殺しているかもしれない。小学生時代にあれだけの傷を負わされたというのは、確かにトラウマになるだろう。事実御風は精神障害を患った。だが、それでも殺人を犯していいという理由にはならないのだ。


「納得できないかもしれませんけど、御風のこと、どうか許してあげて下さい。もう二度と、御風に人殺しなんてさせませんから!」


「……お前があいつのストッパーになるってことか?」


真由美があまりにも必死なので、翔子は試してみたくなった。協会の存在はうまく知られないようにし、自分は特殊機関の人間で、御風を殺すか殺さないかの調査をしに来たことを話したのだ。


「お前が一生あいつのストッパーになれるっていうんなら、あいつは殺さないでおいてやる。」


要は、御風がやむを得ない場合を除いて、今後一切殺人をしなければいいのである。真由美が生涯そのためのストッパーになるというのなら、それでいい。しかし、翔子は我ながらずいぶんと無茶な要求をしていると思った。この要求は、御風と真由美の両者が同性愛者であり、なおかつ互いに愛し合っていなければ成り立たない。普通に考えてできるはずがないことだ。


「……なんてな。言ってみただけだ」


翔子の素性は知られてしまったが、記憶を消せばいいだけのことである。



そう思った時、



「やれます。」



真由美はそう答えた。


「……は?今、やれるって言ったのか?」


「はい、やれます。実は私も、その……百合でして……」


真由美自身も知らなかったことだが、実は彼女にもレズの気がある。それに気付いたのは、アンチジャスティスの襲撃から学校を守った後のこと。御風にキスされた真由美は、そのキスの甘さ、そして自分にも同性愛があることを自覚し、以来御風と恋人同士になった。今では毎週御風の家でお泊まり会を開き、御風に愛されて(意味深)いる。


「学校ではやめてっていつも言ってるんですけど、恋人ができたのが嬉しいからって全然聞いてくれなくて……あれ、先生?もしかして引いてます。」


「……かなりな。」


真由美は同性愛者、しかもかなり濃厚だった。翔子は自分が提示した条件であるにも関わらず、ドン引きしている。しかし、確かに条件は満たしているのだ。


「お前と竹本の関係はよくわかった。でもな、わかってるだろ?口だけじゃ信用できねぇって。」


「……わかってます。実際に見なきゃ納得しませんよね?」


「そういうことだ。」


実際に御風を抑えるところを見るまで、翔子は納得しない。そこで翔子は、一時間ほど御風を連れて町を歩くよう真由美に言った。その間、真由美が御風の男への殺意を抑えることができれば、合格だ。早速今日の学校終了後、テストを始めることにした。











放課後。まずは御風を外に誘い出すということで、真由美が話し掛けた。


「ねぇ御風。今日はちょっと歩かない?」


「いいけど、どうして?」


「デートよデート。。一時間だけでいいから、ね?」


「もちろんいいわよ。他ならない真由美とのデートなら、ね。」


真由美がデートという言葉を出すと、御風はすぐに乗ってくれた。ちょろい。真由美が御風を誘い出すと、翔子はその後ろから気付かれないように付いていく。




テストを始めて十分。今のところ、何もハプニングは起きていない。御風は美人だし、真由美は足がとても綺麗なので、道行く人々は時折視線が二人に釘付けになるが、声を掛ける勇気を持つ者はいないようだ。まぁそれは十中八九、御風が携えている日本刀が原因だろう。あんなものを持っていれば、誰だって関わろうとは思わない。


「ねぇ真由美。あなた私が男嫌いだって知ってるでしょ?あんまり人通りが多い所は……」


「我慢して。これは御風のためでもあるんだから」


時々御風が人通りのない場所に行きたがるが、真由美が制止する。テスト中なのだから仕方ない。




テスト開始から二十分経過。ようやくそれは起こった。


「君達可愛いね。俺らと遊ばない?」


ナンパだ。チャラい男が四人、御風と真由美をナンパしている。


「……!!」


不快指数が既に限界を迎えていた御風は、ナンパされるなりいきなり日本刀、姫百合を抜いた。抜いたが、斬りつける前に真由美が御風の腕を掴み、斬らせない。


「御風!駄目!」


大好きな真由美に言われて、御風の殺意が一時的に消える。真由美は男達に言った。


「見ての通り、この人は男の人が嫌いだから、斬られないうちに早く逃げて!」


「う、うわあああ!!」「ひぃぃぃ!!」「ま、待ってくれ!!」「わぁぁぁぁ!!」


真由美から逃げるよう言われた男達は、泡を食って逃げ出した。


「真由美……」


「いつも言ってるでしょ?いくら男の人が嫌いだからって、問答無用で斬り掛かったりしちゃ駄目。斬っていいのは、向こうから何かすごく危ないことをされたりとか、正当防衛が成立する時だけだって。」


真由美は御風に、むやみやたらと男を殺してはいけないと説得する。


「そうじゃなくて。」


「えっ?」


「……当たってるわ。」


御風は、真由美が抱きついている自分の腕に、真由美の胸が当たっていることを伝えた。真由美は着痩せするタイプで、実はかなり大きい。御風は脚フェチだが、おっぱいも大好きだ。


「ば、馬鹿!」


「うふふ、ごめんなさい。これからは気を付けるわ」


本当にわかってくれたのかどうかはわからないが、御風は姫百合を納めてくれた。


(ほう…)


翔子は今の光景を、バッチリ見ている。レズ行為をされた時は頭が痛くなったが、真由美はちゃんと御風の殺戮行為を止めた。その点は評価できる。




テストは再開し、あの後も何度かナンパされたりしたが、御風が斬り掛かろうとする度に、どうにかして真由美が止めている。その時御風とキスして、男をドン引きさせて退散させたり、胸を揉んで脱力させて攻撃を封じている間に逃がしたりと激しいレズ行為をし、その度に翔子は頭が痛くなったが、御風を抑えながら男を退けるということはできていた。翔子は二人の関係を見て、まるで刀と鞘だと思った。御風が刀で、真由美が鞘。今まで抜き身であった御風かたなの暴走を、後から出会った真由美さやが抑える。同性ではあるが、まさに出会うべくして出会った二人と言えた。




「真由美。今日はずいぶんと大胆だったじゃない?もしかして最近欲求不満なの?」


「べ、別に何でもないよ。たまには、こういうのもいいかなって思っただけ……」


そうこうしている間に一時間は過ぎ、テストは終了だ。テストの結果は、真由美が御風と別れた後に翔子が伝えると言ってあるが、まぁ合格でいいだろう。真由美は鞘としての役目を立派に果たしていた。彼女さえいれば、この先御風が暴走することはない。


「綺麗だね……」


河川敷、真由美は夕焼けを見ながら言った。


「あなたの方が綺麗よ。」


御風は真由美の肩に手を回し、ほっぺにキスする。また頭が痛くなった翔子だが、まぁこういう愛もあるのだし、テストも合格だし、よしとしようと割り切った。



翔子が帰ろうとしたその時、



(ん?)


翔子は何かを感じた。何かの力が、御風と真由美に向かって流れていく。


(これは……霊力?)


しかも、かなり邪な霊力だ。恨みに満ちた、とてつもなく黒い霊力。


「見ツケタ……竹本、御風……」


「……真由美、今呼んだ?」


「私じゃないよ。でも、今の声何?なんかすごい不気味だった……」


突如として聞こえた謎の声は、御風と真由美の耳にも届いた。そして次の瞬間、


「な、何あれ……」


真由美はゾッとした。突然目の前に、何もない空間から黒い服を着た男が現れたのだ。それも、ただの男ではない。顔が醜く爛れており、さらに胸と腹に四つの怪物の顔が張り付いていて、それが口々に叫んでいるのだ。


「見ツケタ……」「竹本ォォ!!」「ヨクも殺してクレたナ……」「許さナイゾォォォ!!!」


「何だかよくわからないけど、真由美下がって!」


「御風!!」


「はぁぁぁ!!」


御風は姫百合を抜き、男を袈裟懸けに斬りつけた。しかし、御風の攻撃は男を斬れず、男が殴り掛かってくる。距離を取って見てみると、斬りつけた肩には傷一つない。


「だったらこれはどう!?二階堂平法奥義、修羅十文字!!!」


御風は全身から闘気を沸き上がらせ、それを姫百合に乗せて十字斬りに男に叩きつけた。たちまち起きる大爆発。だが、爆心地の中心にいる男には、全くダメージを与えられていない。


「どうなってるの!?」


「そんな……御風の修羅十文字が、効かないなんて……!!」


御風は修羅十文字が効かなかったことに冷や汗を流し、真由美は恐怖している。


「竹本!!下がれ!!そいつはお前じゃ無理だ!!」

その時、翔子が現れた。


「青羽先生!?どうしてここに!?」


「いいから下がれ!!」


とにかく御風を下がらせようとする翔子。仕方なく、御風はそれに従った。


「どういうことですか青羽先生?さっきの口振りだと、あの怪物の正体を知ってるみたいですけど。」


御風は翔子に尋ねた。翔子は答える。


「あれはリビドン。簡単に言うと、怨霊だよ。」


そう、あれはリビドン。死した者が憎悪によって現世に干渉する力を得た、怨霊だ。


「怨霊?」


「そうだ。あいつらはお前に殺されたから、お前を恨んで出てきたんだよ。」


翔子はあのリビドンの中に、五つの霊魂を見ている。御風が殺したいじめっ子の数も、ちょうど五人だ。五人のいじめっ子が御風への憎悪で悪霊となり、融合して合体リビドンになったのである。


「……なるほど、あいつらね。とことん嫌なやつらだったってわけか」


やはり御風は覚えていた。いくら殺したとはいえ、自分にトラウマを作った者達を忘れるはずがない。


「あいつはアタシが倒す。お前らはここにいて、よく見てろ。特に竹本、お前は自分がやったことがどういう意味を持つのか、再確認しておけ。」


翔子はそういうと、合体リビドンの前に躍り出た。


「憎いか。悔しいか。だがな、お前らがそんな姿になったのは、お前ら自身に原因があるんだぜ?」


それから、合体リビドンに言う。


「お前らが女をよってたかって痛めつけて、余計なトラウマなんて作らなきゃ、そんな姿にはならずに済んだんだ。」


いじめはいじめた側が百パーセント悪い。だからといっていじめた相手を殺していいということにはならないが、いじめっ子達がこんな姿になったのは間違いなくいじめっ子達に原因がある。そもそも、男が女をいじめるという行為は絶対に間違っているのだ。


「それがドウシタ!」「俺達は殺されたカラ、こうシて出てきたんだ!」「生意気なんだよ女のくせニ!」「イイからあいつヲ殺させロ!」「ジャないとお前カラ先に殺す!」


合体リビドンは口々に言う。女のくせに生意気。彼らはそう言った。女性という存在をどこまでも下に見ていて、それで殺されたからリビドンになった。逆恨みもいいところだ。どこまでも身勝手な連中である。


「なるほどなるほど。てめぇらの言い分はよーくわかった。殺されても仕方ないゲス野郎どもだってことがな!!神帝、聖装!!」


同情の余地など一切ない。そう思った翔子はヒエンに変身した。


「ヒエン、参る!!」


それから、ツインスピリソードを使った怒涛の連撃を繰り出す。


「すごい!青羽先生の攻撃が効いてる!」


御風の攻撃は全く通じなかったのに、ヒエンの攻撃は面白いほど合体リビドンに効いていた。それもそのはず。リビドンは死者が現世に干渉できるようになっただけで、生き返ってはいないのだ。既に死んでいる者をそれ以上殺すことはできないため、例え通常の日本刀の三百倍の切れ味を持つ姫百合でも、リビドンを倒すことはできないのだ。しかし、浄化の霊力で憎悪を浄化することで、リビドンを成仏させることはできる。ヒエンの攻撃には強力な浄化の霊力が込められているので、合体リビドンにダメージを与えられるのだ。


「「「「「女のくせに……女のくせに……!!!」」」」」


だが、合体リビドンもやられっぱなしではなかった。己の憎悪と霊力を増大させ、数倍の大きさに膨れ上がったのだ。


「本当に身勝手な連中だな。」


相手が女だということもあるだろう。だが、こういう性根が腐った人間は、真ん前から叩き潰すに限る。ヒエンがさらに強力な攻撃を仕掛けようとした、その時だった。



突然闘気の刃が飛んできて、合体リビドンの片腕を斬り落としたのだ。



やったのは御風だ。気付けば、御風はヒエンの横を歩いている。


「竹本!?」


これは驚いた。霊力がなければ、リビドンには傷一つ付けられないはずだ。


「何が女のくせによ……」


無論、御風は霊力持ちではない。しかし、二階堂平法奥義心の一方の極意は、相手の感覚に恐怖のイメージを叩き込み、萎縮させることにある。御風はそれを応用し、相手に自分は○○された、というイメージを叩き込むことで、催眠などが使えるのだ。今回の場合は、斬られたというイメージを叩き込んだ。通常ならそれはただの錯覚でしかないが、相手は幽霊である。霊力とは精神力であり、例え錯覚だろうと精神を揺るがされれば、幽霊は実際にダメージを受ける。二階堂平法は偶然にも、リビドンと相性のいい剣術なのだ。


「私があなた達がやってきたこと、忘れたと思う?」


今御風は、自分の中のイメージを確固たるものにするため、昔を思い出していた。あの五人のいじめっ子達はグループを組み、女の子だけをいじめていた悪質な連中だ。御風の件で謝り、慰謝料を払いはしたが、その本質は変わらなかった。あの後もバレないように、気を付けていじめを続けていたのだ。だから殺した。


「それなのに、死んでからもネチネチネチネチと……」


御風はありったけの闘気を姫百合に込めて跳躍し、


「ムカつくのよクズどもが!!」


合体リビドンのもう片方の腕を斬り落とした。御風の雄々しい憎悪に圧倒されていたヒエンだったが我に返り、


「青羽流討魔戦術奥義、蒼炎鳳凰!!!」


蒼炎鳳凰を決めて合体リビドンを成仏させた。











戦闘終了後、翔子は御風が私情のためだけでなく、他者のことを思ってあの殺人を犯したことを知った。もし御風が殺さなければ、あの五人はもっとたくさんの女の子をいじめていただろう。成人になったら、性犯罪に走っていたかもしれない。


「アタシはお前を誤解してたみたいだ。けど、あんまりやり過ぎるなよ?」


「わかっています。あんな風に殺されたくありませんし、何より青羽先生と戦いたくなんかありませんもの。」


しかし、御風のレズ行為は少々やり過ぎる傾向にあるため、注意はしておいた。それから、真由美にも言う。


「しっかりストッパーになってやってくれよ?お前だけが頼りなんだからな。」


「はい!」





念のためもう一日様子を見たが、御風は問題行為(レズ行為を除いて)を行わなかったので、御風の件は不問となり、木下は喜んでいた。誰もが納得できる結果に収まり、翔子は協会に帰還する。




「……はぁ……」


ヒーリングタイム。翔はコーヒーを飲みながら、リラックスしていた。輪路が尋ねる。


「どうした?ずいぶんやつれてるけどよ。」


翔は本当のことを言いたかったが、言ったら絶対に馬鹿にされるので、


「疲れただけだ。」


と答えておいた。











その週の週末。この日は待ちに待ったお泊まり会だ。真由美を自分の部屋のベッドに拘束し、御風はひたすら口付けを重ねる。


「今日は、んっ、いっぱい、んんっ、楽しみましょうね。んっ」


「この前、んっ、青羽先生に、んぅっ、やり過ぎないでって、あっ、言われたばかりじゃ、ないっ……」


御風は一旦キスを止めて言う。


「大丈夫よ。プライベートのことは言われてないわ」


御風と真由美は、夜通し激しく、愛し合った。

次回、討魔士達の悪夢!お楽しみに!

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