第三十七話 護衛任務!!ボディーガードは女剣士!?
再び、女体化回です。
「お前、頭大丈夫か?」
輪路はシエルに向かって言った。翔が怒る。
「廻藤!前々から口の悪い奴だとは思っていたが、今のはさすがに聞き逃せないぞ!」
「どう考えても頭がおかしいやつの言葉としか思えねぇだろうが今のは!!」
その言葉に、輪路は正面から反抗する。
「何でだよ!!何でまた女になんなきゃいけねぇんだよ!!」
*
シエルから輪路に、新しい任務が下された。アーリア国という王国からの依頼で、アーリア国の姫、レイラ・アリスフォンがもうすぐ大事な儀式に参加するので、護衛して欲しいとのことだ。まぁそれだけなら別に引き受けても問題なかったのだが、問題は護衛として指定している人員のことだ。護衛人数は二人であり、戦闘力と霊力が協会内で最も高く、それから女性であること。この三つの条件の内二つを満たしているのはシエルだが、彼女は会長であるため、協会の存続に関わるような用事でなければ動けないし、それに彼女一人しかいない。そして、他の女性討魔士や討魔術士では、規定の霊力値を満たせていない。というわけでシエルが考案したのは、男性を女性に変えて派遣するというものだ。そして戦闘力、霊力共に基準値に達しており、女体化経験のある輪路に、白羽の矢が立ったのである。
「いやいやいやいや!!シルヴィーがいるだろ!!あとダニエルも!!」
「あの二人は今、別件で忙しいんです。」
「クソッ!逃げやがったな!?」
「そう心配しなくても、あなた一人行かせるわけではありません。翔も同行させます」
確かに、指定人数は二人と言われた。つまり、もう一人いるというわけだ。そして選ばれたもう一人が、翔だった。
「え?」
輪路が翔に目をやると、翔は諦めたような顔をしてそっぽを向いた。
*
ヒーリングタイム。
「つーわけだ。またソルフィの薬で、女になんなきゃならなくなった。」
「本当ですか!?」
美由紀は目を輝かせた。
「何でそんな嬉しそうなんだよお前は!!」
「だって、また輪子さんが見られるんですよ!?嬉しくて嬉しくて!」
「お前なぁ……」
輪路は落胆した。
「今回は翔くんも女体化するんだね。」
「……不本意ながらな。だが会長のご命令である以上、逆らうわけにはいかない。」
ソルフィが訊くと、翔は本当に不服そうに答えたが、彼は会長補佐の身だ。会長からやれと言われたら、断ることはできない。
「じゃあ早速始めようか。翔くん、廻藤さん、こっちへ。店長、美由紀さん、少しだけお店お願いしますね。」
「はいはい。」
「わかりました!」
佐久真はやれやれといった感じで、美由紀は嬉しそうに、店の奥へと消えていく二人を見送った。
数分後、
「お待たせしました。」
ソルフィが、女体化した二人を連れてきた。輪子はまぁわかるが、翔の女体化はまた斬新だ。何せ、身長が輪子より頭一つ分低く、胸も平坦。髪は青の短髪で、どことなくボーイッシュで幼い感じがする。
「わあ!翔さん可愛い!翔さんの女の子だから、翔子さんですね!」
「……嬉しくねぇ……」
美由紀に言われた翔、否、翔子は男のようなぶっきらぼうな口振りで答えた。男女属性である。
「でも、翔子さんと輪子さん、いろんな意味ですごく違いますね。」
「体質で効果が変わるってソルフィが言ってたからな。それに、アタシの霊力は廻藤と比べると少ない。それも関係あるだろ」
美しく可愛らしいことには変わりないが、発育がよく大人っぽい輪子と違って、翔子は貧相で子供っぽい。翔子の霊力も通常の討魔士と比べれば破格ではあるのだが、輪子と比べると見劣りしてしまう。子供っぽくなってしまったのはそれが原因だろうと、翔子は納得した。言われてみると、輪子の胸は以前より少し大きくなった気がする。
(霊力があると胸が大きくなるんだ……)
「おい。今何を考えてる?」
美由紀はさりげなく自分の胸を見たが、翔子はそれを見逃さなかった。
「ぷっ」
「笑うな廻藤!!」
輪子は吹き出し、翔子は激怒した。
「ごめんごめん。じゃ、そろそろ行きましょうか。」
輪子は謝り、二人は出発しようとする。美由紀は呼び止めた。
「えっ?もう行っちゃうんですか?」
「ええ。だから飲んだわけだし」
「念のため、薬は常備しておいて下さい。時間も常に確認すること。いいですね?」
「わかってるわかってる。」
「おう。」
ソルフィは薬についての注意をした。と、
「あの、無理なお願いだってわかってるんですけど、私も一緒に連れていってもらえませんか?」
「えっ?」
美由紀は、二人に同行したいらしい。
「どうして?」
「だって、輪子さんになること本当に嫌そうでしたし、もう見れないと思うと、少しでも長く近くで見たくて……」
「あなたねぇ……」
呆れる輪子。どうやら美由紀は、輪子を相当気に入っているようだ。
「で、翔子。あんたはさっきから何をしてるの?」
「会長に確認を取る。」
翔子はスマホを出し、協会に連絡した。そして数分後。
「許可が取れた。一緒に来ていいぞ」
「はあ!?」
「やった!」
何と許可が取れた。
「ちょっ、本気!?」
「ああ。むしろ一緒に連れていけって言われたぜ」
「……シエルったら、本当に頭大丈夫……?」
危険な任務にむしろ連れていけなど、正気の沙汰とは思えない。だが、輪子も組織の人間だ。会長に命令されたら、逆らえない。
「すぐに準備してきます!あ、店長!もちろんいいですよね!?」
「あ、うん。いいわよ」
何より美由紀本人が行く気満々だ。あまりの気迫に、佐久真も押し切られてしまった。
「じゃあ行ってきます!」
「美由紀のことは私達が責任持って面倒見るから、安心してね。」
「じゃあソルフィ、佐久真さん。後よろしく頼むぜ」
三人は出掛けていった。
「……驚いた。まさかシエルちゃんが許可するとはね」
「この場合、私がついているより、あの二人が一緒にいた方がいいですから。」
「確かに。」
残された佐久真とソルフィは、そんな会話をしていた。
*
アンチジャスティス本部。
「ウォレス。」
ブランドンはウォレスを呼び出した。
「はい。お呼びですか?」
「アーリア国に行き、レイラ・アリスフォンを拉致してこい。」
「!!」
またいつもの美しくもない任務をやらされると思っていたウォレスの、顔色が変わる。
「お前好みの任務だろう?」
「はっ!!ぜひとも引き受けさせて頂きます!!」
突然やる気満々になったウォレスは勢い良く返事をし、出立の準備をしに行った。
「ブランドン。」
そこへ、ウォレスと入れ違いになるような形で、正影がやってきた。
「正影か。調子はどうだ?」
「調整が終わった。それを報告しに来たんだ」
現在正影は、ジークと戦闘訓練をしながら、エラルダに問題点を調整してもらっている。そしてついさっきその調整が終わり、そのことを報告しに来たのだ。
「ウォレスがずいぶんと上機嫌だったが、何かあったのか?」
正影はアンチジャスティスの最終兵器であるため、ブランドンと対等に接することが許されている。それだけでなく、基本正影は他者が自分にタメ口をきくことを許していた。まぁそれはともかく、正影はブランドンに、ウォレスがやけに機嫌が良さそうだったので、その理由を尋ねる。
「アーリア国の姫、レイラ・アリスフォンを拉致しに行かせた。」
「……誰だそれは?」
「お前はまだ知らないのか。」
正影はレイラ姫のことを知らないようなので、ブランドンは教えることにした。
*
アーリア国。それは、世界で最も美しい国。森や川などの自然が太古のまま残り、ユニコーンやピクシーなどの幻獣や妖精、霊獣が多数生息している。普段は不可視の結界に守られた森で、強い霊力を持たぬ人間でなければ、見ることも入ることもできない。自然が豊かなのは、この地を強大な霊力が満たしているからであり、霊力が豊富な土地はそこに住む人々の精神をも豊かにする。しかし、五十年に一度、この地の霊力が切れる。霊力が切れれば、アーリア国は土地も自然も人々も、荒みきってしまうという。それを避けるには、強大な霊力を持つ者が森の奥にある祭壇に行き、祭壇に霊力を捧げなければならない。祭壇は古代に作られた霊力の増幅伝達装置であり、ここに霊力を捧げることによって、霊力が国全体に行き渡るのだ。どういうわけか、アーリア国の王族は強大な霊力を持って生まれる傾向にあり、霊力の補充は王族が行う。国を満たせるほどの霊力を持つことができて、初めて王や王女になれるのだ。つまり祭壇から霊力を補充する行為は、王位継承の儀式も兼ねているのである。だが新たに霊力を込める際、一瞬だけ、森を守る結界が消えるのだ。結界には祭壇を守る役目もあるため、国家転覆を狙う輩に襲撃されかねない。アーリア国はそれを防ぐため、協会から強い霊力を持つ討魔士を、護衛として要請したのだ。
「今回、姫にアタシらが男だってことを知られるわけにはいかない。儀式に支障をきたしちゃまずいからな」
「わかってるわよ。」
翔子はくれぐれも自分達の本来の性別を悟られないようにと、輪子に注意した。そして三人は、遂にこの国の王女と対面する。
「お初にお目にかかります。私はアーリア国第六十七代王女、フィオナ・アリスフォンです。本日は我が国の儀式の護衛のため参じて頂き、心より御礼申し上げます。」
アーリア国王女、フィオナは、三人に挨拶した。三人も挨拶する。
「討魔協会会長補佐、青羽翔子です。」
「同じく、準上級討魔士、廻藤輪子です。」
「篠原美由紀です。討魔士ではないんですけど、よろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。レイラ、挨拶なさい。」
「はい。」
フィオナの後ろに隠れるようにしていたレイラ。フィオナはレイラに、彼女も挨拶するように促す。
「「!!」」
それを見た瞬間、輪子と美由紀は目を見開いた。レイラは、何と美由紀そっくりの容姿の持ち主だったのだ。
「わ、私がもう一人……!?」
「私も驚いています。ですが、それゆえにあなたの同行を許しました。あなたのような人がいて下されば、レイラも落ち着くでしょうから。」
美由紀が来るという話は、もうシエルを通してフィオナに伝わっている。その際、美由紀はレイラとそっくりだということも伝えた。普通なら大事な儀式に一般人を招待したりなどしないが、美由紀は特別だ。容姿が同じ者同士なら、レイラの精神を安定させられる。霊力と精神は密接に関わっているので、精神の安定は霊力の安定に繋がるのだ。
「レイラ・アリスフォンです。よろしくお願いします」
レイラはお世話になる三人に挨拶した。フィオナは言う。
「王位継承の儀式は明日執り行います。それまで、皆さんはごゆっくりおくつろぎを。レイラ、皆さんをあなたの部屋にご案内しなさい。」
「はい。では皆さん、こちらへ。」
フィオナに言われたレイラは、早速三人を自分の部屋に案内した。
レイラの部屋は、やはり一国の姫君らしく、とても広くて、綺麗に整えられており、机やベッド、小物入れすら、高級感が漂っている。部屋全体が光っているような錯覚さえ覚えた。現在三人は、部屋の真ん中にある、来客用の机を囲んで椅子に座っていた。
「どうぞ。ハーブティーです」
そこへ、レイラが人数分のハーブティーを容れて持ってきて、彼女も座った。
「……何だか、すごく不思議な気分です。」
「ホントだよな。顔も声も話し方も、全部一緒だ。」
美由紀は目の前に自分と全く同じ人間が現れたことに動揺し、翔子もまた驚いている。
「でも、やっぱり美由紀じゃないわね。姿形は同じだけど、すぐに見分けがつくわ。」
「お前、それは二人の服が違うからだ。服が同じだったら、見分けなんかつかねぇよ。」
「え~?」
しかし、輪子はすぐ見分けられるらしい。翔子は、それは服のせいだと指摘する。確かに、美由紀は普通の服で、レイラは豪華なドレスだが。そこで、レイラが提案した。
「じゃあこうしませんか?今から私と美由紀さんが同じ服を着て、お二人の前に立ちます。どちらが美由紀さんか当てて下さい」
「お、同じ服って、もしかして……」
「はい。あなたには、私と同じドレスを着て頂きます。といってもドレスというだけで、完全に同じ服はないのですが゛、それで十分でしょう。」
「い、いいんですか!?」
「はい♪」
美由紀はかなり遠慮していたが、レイラは快くオーケーを出した。あんな綺麗なドレス、一度でいいから着てみたいな~、と思っていた美由紀だが、それがこんな形で実現するとは思わなかった。
「ではこちらへ。」
「は、はい……」
レイラに手を引かれ、美由紀はついていく。たどり着いたのは、衣装部屋。中には大量のドレスが用意されていた。王族ともなれば、パーティーに参加することも多い。だからそのために、たくさんのドレスを用意しておかねばならないのだ。
「全て私に合わせて作ってあります。美由紀さんの容姿が完全に私と同じなら、どれを着てもサイズは合うはずですが……とりあえず、脱いでみましょうか。」
「えっ!?あっ、あのっ!!」
美由紀はレイラに服を脱がされ、下着姿にされる。それからレイラは美由紀のサイズを計り、自分のサイズと比べた。
「ぴったりですね。美由紀さん、歳はいくつですか?」
「に、二十四、です……」
「私も二十四歳です。歳まで同じなんですね」
サイズを計り終えたレイラは、適当なドレスを選び、美由紀に着せていく。着慣れているのか、とても手際がいい。ものの二分程度で、美由紀の着付けは終わった。
「わあ……」
美由紀は感嘆の声を上げる。シンデレラや白雪姫、眠れる森の美女。そんなお伽噺話の中に出てくる、お姫様が着るドレス。手の届かないものだと思っていたそれが、今自分の身体を包んでいる。そう思うと、まるで夢の世界に迷い込んだ気分になった。
「どうぞ。」
レイラは美由紀を、鏡の方に向かせた。美由紀は鏡に映った自分を見て、それからレイラを見る。これで本当にドレスが同じだったら、レイラの方が自分の鏡だと錯覚してしまっていただろう。それほどまでに、二人は似ていた。
「さて、それじゃあ私も着替えますね。」
このままではすぐ見分けがついてしまうので、レイラも別のドレスに着替える。着替え終えた二人は、輪子と翔子の前に立った。
「では、当てて下さい。」
レイラは二人に、どちらが美由紀か当てるように言う。と、
「こっちね。」
輪子は迷わず、右側に立つ方を指差した。
「おい輪子!いくらなんでももうちょっと考えろよ!」
翔子はあまりに早く選んでしまった輪子に、もっと真面目に考えるよう言う。
「私はこっちでいいから、あなたも早く選びなさいよ。」
対する輪子は、自分の決定を変えるつもりはなく、翔子に早くどちらが美由紀か選ぶように促す。翔子は考えた。見分けなど、全くつかない。どちらも、同じ人物に見える。仕方ないので、
「こっちだ!」
輪子の反対。左側を選んだ。正解は、
「こっちです!」
右側だった。正解したのは輪子だ。翔子は驚いて輪子を見る。
「すごいな。どうしてわかったんだ?」
「美由紀とは付き合い長いしね。だから、雰囲気でわかるのよ。いくら何から何まで同じだって言っても、私にはそれがわかる。」
雰囲気。何とも曖昧なものだが、輪子と美由紀が長い時間を掛けて積み上げてきたものは、決して小さくない。それが結果として、本物の美由紀を一目で見抜くに至ったのだ。
「羨ましいです。私には子供の頃から、そんなお友達がいなくて……」
「それはそうでしょうね。お姫様っていったら、友達作りなんて簡単にはできないでしょうし。」
レイラには美由紀と違い、輪子のような仲のいい友人がいない。幼少期から、アーリア国の王族として相応しい存在になるため、厳しい教育を受け続けてきたから、友達を作る暇などなかったのだ。
「美由紀さんには、そういう人がいるんですね。それもこんなに美しい方が……本当に、羨ましいです。」
「……差し支えなければ、教えて頂けませんか?レイラ姫様が、どうして男性恐怖症になってしまったのかを。」
レイラが輪子のことを口にしたので、美由紀は気になっていたことを訊いてみた。なぜ彼女は男性恐怖症なのか。どういう経緯があってそうなってしまったのか。レイラは、言おうか言うまいか考えているようだ。
「つらかったら無理されなくても……」
「……つらいというほどではないのですが、その、少し恥ずかしくて……」
「恥ずかしい?」
「はい。ですが、私のせいで協会には迷惑を掛けてしまいましたし、話させて頂きます。」
美由紀は取り消そうと思ったが、今回協会にかなりわがままな注文をしたことを恥じており、その理由だけは話そうという気になったようだ。
「今から二年前のことです。それまでは、まだ男性恐怖症ではなかったのですが……」
レイラは元々、男性にも女性にも別け隔てなく接する、理想の姫だった。ところが二年前、彼女はあることを体験する。その日の夜は大規模なダンスパーティーがあり、当然レイラはそれに出席。ダンスパーティーを終えて、自分の部屋に戻ってきた時のことだった。出かける前に鍵を閉めたはずのその部屋に、なぜか一人の男が侵入していたのだ。彼は、自分はフィオナに雇われたボディーガードだと名乗り、これからレイラが夜一人でいる時に守るよう命令されていると言った。しかし、ボディーガードの条件として、自分の存在は誰にも、例えフィオナであっても口外してはいけないと、レイラは彼に口止めされたのである。そしてそれ以来、ボディーガードはレイラが一人の時、常にいるようになった。とても素敵な男性だったので、レイラはフィオナに内心感謝した。ところが、一週間ほどして変化が現れる。妙な疲れを感じるようになり、簡単な動作を行うことさえ億劫になり始めたのだ。こんなことは今までなかった。あのボディーガードが現れてからだ。気になったレイラは禁を破ってボディーガードのことをフィオナに相談したが、フィオナはそんなボディーガードは雇っていないと答えた。いよいよ以てボディーガードが信用できなくなったレイラは、執事や女中、兵士を集めて罠を張り、男の正体を暴いた。
「男の正体はインキュバスだったんです。」
「インキュバス?」
「魔術を使って女を魅了し、精気を吸い取る魔物だ。」
インキュバスのことを知らなかった輪子に、翔子はインキュバスのことを教えた。どうにかインキュバスを追い払うことには成功したが、自分はあの男の魔術に掛かって魅了され、寝ている間に精気を吸い取られていたと想像すると、恐ろしくて堪らなくなり、以来レイラは男性恐怖症になってしまったのだ。
「それは……」
「男性恐怖症にもなりますよね……」
輪子も美由紀も納得した。インキュバスは男の魔物で、人間の男性に化ける力を持っている。それに精気目当てで近付かれ、いつまた狙われるかわからないと思うと、男性恐怖症にもなるだろう。それでも何とか城の兵士や大臣ぐらいは耐えられるようになったのだが、外から男性の来客があるともう無理らしい。
「彼の正体がインキュバスだと見抜けず、口車に乗ってしまった私のせい。自業自得ではあるのですが、それでも怖くて……」
「恐らく、その時点でインキュバスの魔術に掛かっていたんでしょうね。討魔の修行をしているならまだしも、そうでない者には自分が魅了の魔術に掛かっていると気付くのは難しいですから。」
「……ありがとうございます。翔子さんは優しい方ですね」
フォローを入れてくれた翔子に感謝するレイラ。あの一件は自分に全ての責があると思っているので、一人でもそう言ってくれる者がいると嬉しい。
「お礼といってはなんですが、今夜は明日の王位継承の儀式の前夜祭として、ダンスパーティーが執り行われます。皆さんぜひ参加して下さい」
せめてもの礼として、レイラは三人を今夜のダンスパーティーに招待することにした。
「ごめんなさい。私、踊れないの。」
「大丈夫ですよ輪子さん。私が踊れますから、エスコートします。」
「えっ!?」
ダンスなど踊ったことのない輪子は遠慮したが、美由紀がエスコートを申し出てきた。意外なスキルがあったことに驚いている。
「翔子さんは?」
「大丈夫ですよ。社交ダンスは一通り習ってますから」
翔子も大丈夫らしい。
そして夜、ドレスを着た輪子と翔子は、既にドレスを着ていた美由紀と一緒に、ダンスパーティーに参加した。男性と踊れないレイラの相手を翔子が務め、輪子は四苦八苦しながらも美由紀にエスコートしてもらって、各々ダンスパーティーを楽しんだ。
*
そして翌日、王位継承の儀式の時は来た。
「ここから先は何が起きても不思議じゃねぇ。気を引き締めていけよ」
「わかってるわ。」
それぞれ戦闘に対応できる服に着替え、翔子は輪子に注意を促す。武器は持ったし、薬も飲み直したから、自分達の正体がバレる可能性はない。大丈夫だ。
「では祭壇へ向かいます。準備はいいですね?」
フィオナは自分のそばにいる大臣に尋ねる。
「完了しております。」
「結構。では号令を」
「は。これより出立する!」
大臣が号令を掛けた。フィオナとレイラ、そして美由紀は車輪付きの椅子に座っており、兵士達がそれを押していく。輪子と翔子はいつでも彼女らを守れるよう、すぐそばに付き従っている。レイラは美由紀に訊いた。
「ブローチは付けていますか?それがないと結界の中に入れないので、そのまま付けていて下さいね。」
「はい。」
強い霊力の持ち主ならそのまま入ることができるが、霊力を持たない者はブローチを付ける。このブローチには結界を抜けるための術式が刻まれており、これさえ付けていれば結界に入れるのだ。そして、これら以外の方法では結界に入ることも、結界を破ることもできない。また、魔物よけの術式も刻まれているため、危険な魔物に襲われる心配もない。
間もなくして、一行は結界の目の前に到着する。そして、まるで見えない壁の中へと入るように、一行は結界の中に消えていった。
「これは……」
美由紀は呟く。結界の外から見た時には、ただ森が広がっているだけに見えたが、大きな石畳の道が一本、森の奥に向かって伸びていた。
「森を太古のまま残してあるのは確かですが、祭壇までの道だけは整備してあるんです。」
それはそうだろう。王位継承の儀式に、王族や大臣だけ、ということはない。大勢の人間が同席するし、道がそのままだったら行くのが大変だ。また、道だけが整備してあるという証拠に、道の両脇の森は手付かずだった。
「祭壇があるのは奥ですが、一本道なのですぐ着きますよ。」
その言葉通り、本当に道が一本しかなかった。別れ道などもなく、一直線に森の奥へと進んでいく。段々と木の影が深くなり、恐怖を感じ始める美由紀。彼女がレイラやフィオナを見ると、二人は全く怖がってなどいなかった。兵士達の足取りも、全く乱れていない。きっと、この森に来るのに慣れているのだろう。ふと、視界が開けた。祭壇に着いたのだ。
「!!」
美由紀は目を見張った。影の深い森の中、ここだけはまるで周囲の木が遠慮するかのように円形に開け、空から明るく日光が射し込んでいる。そんな場所にあったのは、苔むした古い石造りの祭壇。古いが、壊れる様子など一切見せず、威厳のようなものを漂わせている。その祭壇の頂上、常人には上がれない場所に、巨大な青いクリスタルがあった。
「あれが、この地に霊力を満たしている、祭壇の源です。普段はもっと輝いているのですが、霊力が尽きかけているのでかなり色褪せています。」
幻想的な風景に目を奪われている美由紀に、レイラは説明した。この場所には常に特殊なカメラがセットしてあり、王位継承の儀式はカメラを通して国中にテレビ中継される。
「間もなく霊力が尽きます。」
懐中時計で時間を確認した大臣が、フィオナに耳打ちする。あのクリスタルの霊力が尽きた後、姫か王子が霊力を新たに満たすことで、王位の継承が確定し、その後戴冠式を行う。
「あのクリスタルにレイラ姫様が霊力を満たせば、姫様から王女様になれるんですよね?」
「はい。私は今日この時のためだけに、霊力を磨き続けてきました。全力を尽くします」
今日はレイラの人生の晴れ舞台。絶対に成功させなければならない。そして遂に、クリスタルから光が消失し、青い色彩のみが残った。同時に、この森を守っていた結界も消える。
「では、霊力の充填を始めましょう。」
フィオナが号令を掛けると、全員が持ち場に付く。レイラがちょうどクリスタルの真下に来るような形になったところで、フィオナが改めて言った。
「わかっていますね?あなた一人でクリスタルに霊力を充填するのです。それができれば、あなたの王位継承を認め、戴冠式に移行します。」
「はい。心得ております」
ここから先は、レイラ一人だけで作業を行わねばならない。輪子も翔子も、フィオナさえも手を出してはならないのだ。クリスタルに霊力を込めるレイラ。それに従って、クリスタルに輝きが戻っていく。
だがその時、突然地響きが起きた。
「えっ!?なに!?」
困惑する美由紀。そして、
「おはようございま~す!!せっかくの王位継承の儀式中にごめんねぇ~!!」
近くの地面を割り、木を薙ぎ倒し、見覚えのあるロボットが現れ、聞き覚えのある声を発した。
「その声、ウォレス!!」
「知っているんですか輪子さん!?」
「ええ!!ナルシストで自意識過剰で、おまけに女の誘拐癖があるっていう救いようのないド変態よ!!」
突如現れたロボットについて尋ねたフィオナに、輪子はわかりやすくウォレスという人間について説明する。かなりはしょった説明なのだが、事実これだけでウォレスの全てを説明できてしまえる。
「ふん。お前もいたのか、廻藤輪路。」
輪子の姿を確認して、不満そうな声を出すウォレス。前に一度ひどい目に遭わされているので、ウォレスは輪子を目の敵にしている。が、
「輪、路?あなたは輪子さんでは?」
「頭沸いた変態の言うことなんて聞き入れちゃ駄目よ!」
ここで素性をばらされるわけにはいかないので、フィオナにはそう答えておいた。
「まぁいい。初めまして、アーリア国のフィオナ王女。本日はあなたの娘であるレイラ姫様を、僕のコレクションとして頂きに参上しました。」
「何ですって!?」
「僕はビューティーコレクターなのですよ。世界中の美しい女性を、収集して回っているのです。世界で一番美しい国であるアーリア国の姫をコレクションできればと、昔から思っていましてね。」
ああ、やっぱりそうかと翔子は思った。以前にも交戦経験があるから言えることだが、このウォレスという男はアンチジャスティスの中でも、特に自分の欲望に従って行動する傾向にある。あらゆる悪徳を美徳とする組織だから、ブランドンは許可しているのだろうが、当然協会としては快楽誘拐犯を許すことなどできない。
「っ!レイラ!クリスタルに霊力を充填する作業を続けなさい!結界さえ張れれば、手を出してはこれないはずです!」
結界が切れた直後にやってきたところから見て、ウォレスは恐らく霊力を持っていない。クリスタルに霊力を充填すれば、自動的に結界が再展開される。そうすれば、ウォレスをあのロボットごと森の外に弾き出すことができるのだ。
(その判断は正しい。ウォレスは霊力を持っていないからな)
これも翔子が以前ウォレスと交戦したから言えることだが、ウォレスはフィオナの予想通り霊力を持っていない。自作した特殊な装置を使うことで、幽霊相手でも戦えるようにしているだけだ。だから、結界には入れない。
(しかし……)
しかし、一つ問題がある。
(今の彼女の精神状態では……!!)
「お、男の、人……!!」
「レイラ?レイラ!!気をしっかり持ちなさい!!」
「男の人が、私を、狙って……!!」
案の定、レイラの精神状態は大いに乱れていた。これではとても、作業に戻れなどしない。
「いや……嫌ぁぁぁぁぁぁ!!!」
あの時と同じように、自分は男に狙われている。それがわかると、レイラは恐怖のあまり頭を両手で抱え、うずくまってしまった。
「……輪子。どうやら儀式を続けるには、ウォレスの野郎をぶっ飛ばすしかなさそうだぜ。」
「最初からそのつもりよ。あのド変態、今日こそ仕留めてやる!!」
レイラに作業を続行させるには、脅威の元であるウォレスを排除するしかない。
「「神帝、聖装!!」」
ウォレスを倒すため、二人は聖神帝に変身した。レイジンはフォルムが女性となり、ヒエンは少し小柄だが、戦闘には何の支障もない。問題なく戦える。
「すぐに終わるから、みんなはここで待ってて!!」
レイジンはそう言うと、ヒエンと一緒にウォレスの前に飛び出した。
「ヒエン……ということは、お前は青羽翔か!!ふん!!お前達など、このビューティーウォレス改で、今度こそ潰してやる!!」
以前使用したビューティーウォレスの改良型兵器、ビューティーウォレス改。ウォレスはそれを操り、二人の聖神帝を迎え撃つ。
「廻藤!!わかっているな!?あの兵器には、十中八九民間人がいるはずだ!!」
「もうサーチを掛けてるわ!!あなたの予想通り、かなりいるわよ!!」
ビューティーウォレスは、戦闘兼コレクション運搬マシーンである。ウォレスは常に、このロボットに自分のコレクションをたくさん乗せている。本人からすれば趣味の領域だが、実質人質だ。まずこの人質を解放しなければならない。
「「力の霊石!!」」
二人は剛力聖神帝になると、女性が捕らえられている場所に全力で攻撃し始めた。装甲は頑丈だが、剛力聖神帝の攻撃にいつまでも耐えられる金属など、そうそう存在しない。
「そうはさせないぞ!!」
二人の目的がわかったウォレスは、ビューティーウォレス改を操り、回転ノコギリやビームガンなどを取り付けたアームで妨害してくる。ビューティーウォレス改は以前対決したビューティーウォレスの、二倍以上のサイズを持ち、搭載されている兵器の量も前とは桁外れだ。巨大な機体をカバーするだけのアームが、次々襲ってくる。だが、所詮は通常兵器だ。聖神帝の中でもトップクラスの戦闘力を持つこの二人には、通用しない。
「はああああああ!!!」
「おおおおっ!!!」
レイジンは攻撃を受け止め弾き返し、ヒエンは全ての攻撃をことごとく回避して、構わずビューティーウォレス改に攻撃を当てていく。
「パワードレイジンスラッシュ!!!」
「朱雀狩り・剛!!!」
そして、二人が必殺技を当てた瞬間に、ビューティーウォレス改の装甲は砕け散り、破壊された装甲の隙間から、二人は内部に飛び込んだ。数秒後、二人は何人もの女性を抱えて、外に飛び出してきた。
「この人達をお願い!!」
「まだ中に何人か残ってるから、それも全員助けてくる!!」
「はい!!」
レイジンとヒエンは兵士達に助け出した女性を預け、またビューティーウォレス改の内部へと戻っていく。兵士達は女性達を受け取り、安全を確保する。それを何度か繰り返し、二人は遂に全ての女性を救出した。あとは、ウォレスを倒すだけだ。もう一度中に飛び込もうとした時、
「よくも僕のコレクションを!!」
突然壁が出現して、破壊された装甲を塞いだ。それから、装甲の継ぎ目がなくなっていく。
「高速修理用のナノマシンだ。もうこれ以上好き勝手させないぞ!!」
レイジンとヒエンから度重なる攻撃を受けたショックで、システムが一時的にダウンしていたが、どうにか復帰することができたようだ。こうなったら、外から吹き飛ばすしかない。
「ならお望み通り吹き飛ばしてあげるわ!!ライオネルバスター!!!」
レイジンはビューティーウォレス改に向けて、ライオネルバスターを発射した。しかし、
「ビューティーアブゾーブ!!!」
ウォレスが何かのスイッチを押すと、ライオネルバスターは光の粒子となって霧散し、ビューティーウォレス改に吸収されてしまった。
「吸収された!?」
「ビューティーアブゾーブ。霊力を吸収し、このビューティーウォレス改の力に変える装置さ!改の名は伊達じゃないんだよ!!」
(霊力を吸収だと!?なんということだ!!これでは姫の精神が万全でも……!!)
強い霊力や、王家専用の術式を使う以外に、結界を破る方法が一つある。霊力を吸収することだ。結界の霊力を吸い取れば、クリスタルの霊力は削られていき、結界は消える。敵味方問わず霊力持ちが入り乱れる戦場では使えないが、ここで使えば効果は抜群だ。
「元々この装置があるから、儀式まで待つ必要はなかったんだけど、やっぱりこういう場面で来た方がドラマチックじゃないか。」
「ドラマチックって……あなたは人の迷惑を考えたことがないんですか!?」
あまりに身勝手なウォレスに対し、美由紀は遂に激怒して反論する。だが、
「迷惑?美しい僕のコレクションになることは、むしろ光栄なことだよ?何せ、それは美しいことの証明だからね。そうそう、姫をコレクションしたら、この国は滅ぼさせてもらうよ。僕が欲しいのは、あくまでも姫だけだからね。他はどうでもいいんだ」
ウォレスの身勝手さがより鮮明にわかっただけだった。
「そんなこと、させるわけないでしょ!!」
「うるさいなぁ。君は自分の霊力でも喰らって死んでろよ」
ウォレスは巨大キャノン砲、ビューティーウォレスハイパーキャノンを出すと、先ほどの霊力を充填して発射した。
「レイジンスパイラル!!!」
だがレイジンは咄嗟に剛柔聖神帝にパワーアップし、レイジンスパイラルを使って光線を跳ね返した。しかし、どちらも霊力であるため、再びビューティーアブゾーブで、ビューティーウォレス改に吸収されてしまう。
「あ、あ、私の、せいで……」
一方レイラは、ウォレスの言葉もあって、すっかり怯えきっていた。そんな彼女に、美由紀は優しく声を掛ける。
「レイラ姫様、大丈夫です。ウォレスにあなたをコレクションなんてさせませんし、この国も滅ぼさせません。輪路さんも翔さんも、すごく強いですから。」
「えっ?」
輪路。翔。先ほどウォレスが、輪子と翔子をそう呼んでいた。美由紀は真実を話す。
「絶対に駄目って口止めされてたんですけど、あなたのために言わせて頂きます。あの二人、実は男なんです。今は薬を使って女の人に変身してますけど」
「え、ええっ!?」
「最後までよく聞いて下さい。」
レイラが取り乱す前に、美由紀が言葉で制す。フィオナもまた、興味深そうに美由紀の話を聞いていた。
「確かにあの二人は男ですけど、あなたを守るために女に変身してるんです。わかりますか?男性の中には、女性を利用しようとする悪い人もいます。でも世の中には、あの二人のように女性を守ろうとする人もいるんです。だから、あの二人の戦いから、どうか目を離さないで下さい。」
美由紀はそう促し、レイラもまた、絶対に見逃さないように戦いを見た。
「さて、それじゃあそろそろ終わらせようか。」
ビューティーウォレス改は、ビューティーウォレスハイパーキャノンに、再び霊力を充填していく。霊力を使った砲撃なら、レイジンスパイラルを使われても吸収できる。ウォレスも学習しているのだ。
「翔子!!」
レイジンはヒエンに目配せする。それだけでヒエンはレイジンの意図を察し、頷いた。
「死ねぇぇぇぇ!!!」
ウォレスはスイッチを押し、ビューティーウォレスハイパーキャノンを撃つ、レイジンスパイラル分の霊力も吸収したため、さっきよりずっと威力が大きい。
「レイジン、ぶった斬る!!」
対するレイジンは、全霊聖神帝にパワーアップ。シルバーレオに霊力を纏わせ、それを超高速回転させて、光線を受け止めた。霊力は光線を絡めとり、留める。
「またレイジンスパイラルか?何度使っても無駄だ!!」
再びレイジンスパイラルが来ると思い、ウォレスは言い放った。
「レイジンスパイラル!!!!」
ウォレスの予想通り、レイジンはレイジンスパイラルを放った。だが、ただのレイジンスパイラルではない。纏わせた霊力が、炎に変わっている。受け止めた霊力を、火の霊石の力で炎に変換したのだ。霊石の力が極端に大きくなる、全霊聖神帝でしかできない業である。そして、放ったのもビューティーウォレス改に対してではない。空中にいるヒエンに対してだ。
「ヒエン、参る!!!」
ヒエンはその特性により、莫大な炎を吸収。
「青羽流討魔戦術奥義、蒼炎鳳凰・猛火!!!!」
超巨大な蒼炎鳳凰を発動した。
「な、何だあの大きさは!?」
驚くウォレスは、それに遅れて気付けなかった。レイジンがビューティーウォレス改の足を掴んでいることを。
「うりゃああああああああああ!!!!!」
「わああああああああああ!!!!??」
ビューティーウォレス改を天高く放り投げるレイジン。
「はああああああ!!!!!」
ヒエンは蒼炎鳳凰を操り、ビューティーウォレス改に突撃。超高温の炎が、変態のロボットを包んだ。
「そ、そんな……!!」
すぐにビューティーアブゾーブを使ったが、凄まじい霊力を吸収しきれず、動力が爆発する。
「く、くそぉぉぉ!!忌々しい討魔士どもめぇぇぇぇ!!!」
このままでは爆発に巻き込まれてしまう。敗北を悟ったウォレスは仕方なく緊急脱出装置を起動し、脱出。アンチジャスティス本部に引き上げていった。そしてその直後、主を失ったビューティーウォレス改は大爆発を引き起こした。
*
反正義の変態は去り、その後王位継承の儀式は滞りなく行われた。レイラの霊力は無事クリスタルを満たし、アーリア国に再び平和が戻ったのだ。戴冠式も行われ、城に戻った一同。
「皆さん。本当にありがとうございました」
玉座には王冠を受け継いだレイラが座り、その隣にはフィオナが座って微笑んでいる。
「美由紀さん。あなたのおかげで、私はもう少し殿方に対して努力ができそうです。」
「いえ……」
「輪子さん。いえ、輪路さん。それから翔さんも、わざわざ女性になってまで来て頂き、ありがとうございました。」
輪路も翔もまだ女性の姿だが、彼らが男性だということは既にレイラに知られている。また、美由紀から自分が話したということも聞いた。
「特に輪路さん。美由紀さんを、大切にしてあげて下さいね?」
「ええ。もちろん」
彼らのおかげで、レイラは少し男性恐怖症を克服できたようだ。それだけでも、二人が女性に変身したことは、無駄ではなかったと言える。そして三人は帰路に付いた。
*
「ふーん。それはよかったじゃない」
土産話を聞いていた佐久真は、とても楽しそうに言った。
「まぁな。けど、もう女になるのはこれっきりにして欲しいぜ。」
「俺も同感だ。」
「え~?輪路さんと翔さんの女性姿、綺麗で可愛いのに~。」
「よせよ美由紀!」
「……勘弁してくれ。」
輪路は顔を赤くして怒り、翔は静かに拒否した。と、ソルフィが言う。
「そうだ翔くん。会長から伝言があるんだけど、近々また、女体化して任務に行って欲しいんだって。」
それを聞いた翔は、片手で頭を押さえた。どうやら翔の悪夢は、まだまだ終わりそうにない。
「本当に、勘弁してくれ……」
まだまだ続くよ女体化回!今度は翔が、男子禁制の秘密の花園、桃華宮女子校に潜入だ!
次回、番外編!『青羽流vs二階堂平法』
狂気の美少女剣士との激闘に、ヒエン、参る!!




