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第三十六話 愛に破れた女の憎悪

女の恨みは恐ろしい。皆さんも、ご用心を。

冥魂城。


「……できた。」


城の地下にある装置。この装置は中に入って霊力を充填することで、冥魂城に何らかの影響を与えることができるものだ。例えば、攻撃的な能力を持つ者が霊力を与えれば、城のあちこちに砲台などが設置される、といった具合に。シャロンの場合は防御に特化した能力であるため、霊力を与えることで城を覆う結界を展開しているのだ。しかし、充填した霊力は三時間程度で空になる。そのためあまり長期に渡っての結界の展開はできず、ずっと張り続けようと思ったらこの装置の中にい続けなければならない。しかし、シャロンはある方法を開発した。今装置の中には、彼女の霊力を圧縮した結晶が一つ、置いてある。この結晶は装置の中に入れてあっても一日はもつため、今ならシャロンは一日だけ、外出が可能なのだ。それにしても、ずいぶんと苦労した。装置に霊力を充填しながら霊力を結晶化させるには、相当な霊力が必要となる。しかし、彼女にはそうしてでも、外出しなければならない理由があった。




「外に行きたい?」


次に、殺徒と黄泉子に許可をもらいに行く。殺徒は常に最上階の玉座の間にいて、黄泉子はいつも殺徒の片腕に抱き付いている。捜すのは簡単だ。


「はい。私が城を離れても、問題なく結界が機能するようにしてあります。」


「それは結構。しかし、珍しいね。君が外出したいなんて言うの」


以前から外出したいという意思を見せることはあったが、ここまで強く、明確に意思表示されたことはないので、殺徒も黄泉子も珍しがった。


「一体どうしたのかしら?」


「……どうしても、決着をつけなければならないことがあるんです。」


それは、彼女が死んでリビドンという存在に堕ちた理由と、深い関わりがある。


「……行っても構わないが、そのせいで成仏したりとか、そういうことはないよね?」


「もちろんです。決着をつけた後も、私はリビドンとして殺徒様のおそばで戦い続けます。」


彼女の存在の根幹に関わることなので、解決すれば成仏するかもしれないという危険性をはらんでいるが、シャロンは心配ないと言った。


「なら行っておいで。僕達は君が戻ってくるのを待っているから」


「はい。ありがとうございます」


殺徒に許可をもらったシャロンは、冥魂城から出撃していった。その様子を偶然見ていたデュオールが、玉座の間を訪れる。


「殺徒様、黄泉子様。今シャロンが出撃していったようですが……」


「ああ。何でも、決着をつけたいんだってさ。」


「デュオール。あの子の死因について知っているのは、あなただけよね?何か心当たりがあるんじゃない?」


「……はい。あります」


正直に言うと、ある。なぜなら、シャロンが死怨衆に入ったのは、デュオールが彼女の死因を知り、殺徒と黄泉子に進言したからなのだ。


「デュオール。君に命令を下す」


「は。何なりと」


「シャロンの護衛に就け。ただし、君は基本的に手を出すな。あくまでも、彼女自身にやらせろ。君は彼女を守るだけだ」


「かしこまりました。」


殺徒が下したのは、シャロンの護衛命令。彼女が己の目的を果たせるよう、妨害してくる者達から守れという命令。それを聞いたデュオールは急いで、しかしシャロンに気付かれないように出撃していった。


「優しいのね殺徒さん。」


「大事な手駒を失いたくないだけさ。」


「あら。ツンデレ?」


「本心だよ。僕が優しくする相手は、君だけさ。」


「もう殺徒さんったら……」


二人は口付けを交わした。そう、殺徒にとって一番大切な存在は黄泉子のみであり、それ以外は全て手駒。だがせっかく手に入れた手駒を、簡単には失いたくない。それだけなのだ。











「はぁ~……暑いなぁ~……」


「ホットコーヒー飲んでるんだから当たり前でしょ。」


いつものコーヒーを飲みながら愚痴る輪路に、佐久真は突っ込んだ。


「コーヒーは熱いからうまいんだろーが。アイスコーヒーなんか飲みたくねぇよ」


「あら通ね。でもまだまだ残暑が厳しいんだから、熱中症には要注意よ?」


「ああ。わかってる」


輪路はホット以外のコーヒーを、まずいと言って飲まない。真夏だろうが真冬だろうが、関係なくホットだ。真冬ならいいが、真夏は暑くてたまらないだろうに。


「廻藤。今いいか?」


「ん?翔か。どうした?」


と、ペンダントを通じて、翔から連絡が来た。


「もし時間が空いていたら、協会まで来て欲しい。」


「わかった。すぐ行く」


どうやら呼び出しのようだ。しかし、どうも様子がおかしい。命令なら来いと言いきればいいものを、歯切れが悪いのだ。


「悪いマスター。俺ちょっと行ってくる」


「はいはい。行ってらっしゃい」


気になった輪路はコーヒー代を払い、店を出て協会に向かった。


「……あの子も忙しい子ねぇ。まぁ前よりはずっといいけど」


輪路は短期間でずいぶん変わった。前は毎日暇をもてあましていたが、今は何というか生き生きしている。


(きっと、討魔士の仕事は輪路さんにとって天職だったんでしょうね)


美由紀は静かに思った。輪路は最強の討魔士、廻藤光弘の一族の末裔なのだ。きっと輪路は、なるべくして討魔士になったのだと思う。


(私も頑張らないと!)


輪路も前を見据えて歩き出しているのだから、自分も頑張らなければならない。美由紀はそう思った。


(翔くんどうしたんだろう……)


ペンダントからの声は、ソルフィも聞いていた。彼女も輪路と同様に、翔の様子が気になっている。しかし、自分には美由紀を守らなければならないという使命があるので、詳細については全て、輪路に任せることにした。











協会。


「どうした翔?ずいぶん歯切れの悪い連絡しやがってよ。」


翔の部屋に来た輪路は、何の用かと問い詰めた。


「実は、今から俺は任務に行くんだ。」


「任務?何の?」


「護衛任務だ。」


翔が引き受けた任務は、リオウ・イーダという人物の護衛任務だ。しばらく前から何者かの視線を感じており、自身の護衛と原因の解明を依頼してきたらしい。というのも、視線以外に、物がひとりでに落ちる。鳴るはずのない奇妙な音が鳴るなど、怪奇現象が続出しているため、幽霊に取り憑かれてしまったのではないかとのこと。しかし、リオウ自身は幽霊がいそうな場所には行ってないという。


「そこで俺は彼の近辺を調査してみたんだが、結果、彼は十二年前恋人だった女性と別れ、女性は自殺したという事実が判明した。」


「じゃあそいつの幽霊が犯人だってことか?」


「俺もそれで間違いないと思う。だが、その女性の正体が問題なんだ。」


すると、翔は自殺したという女性の写真を出した。写真を見て輪路は驚く。


「これシャロンじゃねぇか!!」


そう。写真に写っていた女性は、黒城殺徒の部下、死怨衆の一人、シャロンと瓜二つだったのである。シャロンとは一度しか戦ったことがないが、どんな顔をしていたかははっきりと覚えている。


「シャロンは自分の元カレを殺そうとしてるのか?」


「それは本人に訊いてみなければわからないが、十中八九そうだろう。だがリオウ氏の周囲で発生している霊的現象……奴が本格的に動き出すのは近いはずだ。」


昔付き合っていた相手だというのなら、シャロンにもきっと思うところがあるのだろう。シャロンは上級リビドンであり、普通のリビドンと違って明瞭に理性が保たれている。根底に憎しみがあるとはいえ、理性がある上級リビドンは、その理性に邪魔されてすぐに行動に移れないということが、ごくまれにあるのだ。ましてや、かつて愛していた男である。


「俺一人で行くつもりだったが、お前にも一応話しておいた方がいいかと思ってな。」


「ありがとな。俺も行くぜ!」


「いいのか?」


「ああ。もしかしたら、殺徒の野郎が出てくるかもしれねぇし。」


シャロンは殺徒の部下。それが動くとなれば、殺徒が動く可能性は十分にある。輪路は翔の任務に同行することにした。











中国の繁華街。そのレストランの一つで、輪路達はリオウと待ち合わせる約束をしている。何でも、自宅やホテルで待つのは恐ろしすぎて、できるだけ人が多い所にいたいという。リオウがどこにいるのかは、すぐにわかった。レストランの片隅の席に、うつむいている男が座っていたからだ。その男は、遠目から見ても明らかに怯えているのがわかる。心なしか、少し震えているようだ。


「あなたがリオウさんですね?」


翔が話し掛けると、男は一瞬ビクッ!と肩を弾ませたが、すぐに顔を上げる。彼がリオウだ。写真と顔が一致している。



二人はリオウと少し話をした。


「最初は気のせいだと思ったんです。」


彼の周囲に発生していた心霊現象。一番最初に発生したのは、寝ている時に一度、ラップ音が発生するというものだった。小さな音だったし、最初は気のせいだと思っていたが、それが毎晩続く上に、ラップ音の音量も、回数も日ごとに上がっていくのだ。五日目にはラップ音の後に、視線を感じるようになった。それから、気付くと物が棚から落ちていたり、洗面所に行くと鏡に人影が写っていたり、怪奇現象は日に日にエスカレートしていった。


「すぐにシャロンのことが思い浮かびました。私が彼女を捨てたから、彼女は私のことを恨んで……!!」


「落ち着いて下さい。まだ本当にその人のせいかどうかはわからないんでしょう?」


「それはそうですが、シャロンとしか……」


翔は徐々に取り乱していくリオウの肩に手を置き、落ち着かせる。


「……何でシャロンを振ったんだ?」


輪路は事件の根幹となる部分に触れた。そもそも彼がシャロンを振らなければ、こんなことは起きなかったはずだ。


「写真見たんだよ。あんたとシャロン、すげぇ楽しそうな顔してた。あんなに楽しそうだったのに、何で振ったんだ?」


「……仕方なかったんです。」


リオウは十二年前、シャロンと結婚をする一歩手前まで行っていた。二人は愛し合い、あの時は本当に幸せだったのだ。ところが、悲劇が起きた。リオウには幼なじみがおり、その幼なじみは社長の娘だったのだ。そしてその幼なじみが突然押し掛け、リオウに結婚を迫ったのである。自分にはもうシャロンがいるからと断ったのだが、断ればシャロンを殺すと脅迫され、仕方なくリオウはシャロンと別れた。


「私はシャロンを守るために彼女と別れた。それなのに、結局死んでしまうなんて……!!」


当然だが、別れる前、リオウはシャロンから何度も訊かれた。あんなに私を愛してくれたのに、どうしてと。リオウは包み隠さず、正直に伝えた。そしてシャロンを守るため、自分は別れることを決意したということも。だが、予想できなかった。その後に、自殺してしまうなど。


「あんた、いい人なんだな。よし!わかった。あんたの想い、絶対にシャロンに伝えるよ。」


「……すいません。ありがとうございます……!!」


リオウの優しさに触れ、輪路は必ずシャロンを成仏させると誓った。


「……」


翔は、なぜか冷ややかな目でリオウを見ていた。











「ったく、何だよ……」


輪路はあれから、一人でリオウの周囲を監視していた。危険ではあるが、囮捜査だ。シャロンはリビドンの中でも限りなく力を付けている部類に入るため、幻術の類いが効かない可能性がある。つまり、惑い餌の術が効かないかもしれないのだ。それに、本人も直接シャロンと話がしたいと言っていたので、リオウの意思も汲んだのだ。しかし、そんな大事な作戦だというのに、翔は突然、お前に任せると言って姿を消したのだ。もちろん任務を放棄したわけではなく、調べたいことがあるらしい。


「……まぁいいや。俺があの人を守りゃいいだけの話だ」


最初こそ文句を言っていた輪路だったが、一人だろうとリオウを守り切れればそれでいいと開き直り、今は普通にリオウを追っている。やがてリオウは、とある建物の中に入っていった。輪路もそれを追って入ろうとした時、


「!?」


それより先に、誰かが入った。そして、入る瞬間にその人間の横顔が見えた。


「シャロン!!」


シャロンだ。間違いなくシャロンの顔だ。輪路は急いでシャロンを追いかける。この建物は、リオウが一時の避難場所として借りたマンションである。追い詰められることを恐れてか、エレベーターではなく階段を使って上がるリオウ。シャロンもそれを追いかけようとした時、


「そこまでだ。」


輪路がシャロンの腕を掴み、こちらを向かせた。やはりシャロンだ。


「あの人に手は出させねぇ。」


「……その様子だと事情を知っているようですね。廻藤輪路」


「ああ。」


「だったら邪魔をしないで下さいな。」


「そいつは無理だ。お前はあの人を殺すつもりなんだろ?」


「そうです。」


「それを知っていて俺がさせると思うか?」


シャロンはあっさりと白状した。隠すつもりなどなかったのだろう。


「……どうやらあなたは、私が彼を殺そうとしていることしか知らないようですわね。あの男の本性を、何も知らない。」


「何?」


「魂身変化!!」


シャロンは意味深な言葉を呟いたかと思うと変身し、結界を張った。拠点防衛用ではなく、異界発生型の結界を。これにより、結界の中には輪路とシャロンしかいなくなる。


「シャロン!!」


「誰にも私の邪魔はさせない!!」


しかしシャロンは輪路と戦わず、そのまま飛翔してマンションの天井を突き抜けていった。彼女らしくない、あまりにも乱暴な方法である。


「させるかよ……神帝、聖装!!」


だが、このまま行かせるわけにもいかない。輪路はレイジンに変身すると、同じように飛翔し、シャロンを追いかける。


「ラァッ!!」


シャロンと並走するような形で、同じく天井をぶち抜きながら隣に追い付いたレイジンは、シルバーレオの一撃を放つ。当然シャロンは死魔障壁を張ってこれを受け止めるわけだが、


「!?」


衝撃を防ぎ切れず、マンションの外に弾き出されてしまった。


「……驚いた。初めて戦った時とは、比べものにならないくらい強くなっていますわね。」


以前のレイジンが相手だったら、衝撃も完全に防ぎ切れていた。しかし、今レイジンが放った一撃は、死魔障壁の破壊こそできなかったが、霊石なしでシャロンを大きく吹き飛ばしたのだ。確かにあれからかなり時間が経ったが、それでもここまで強くなるなど不可能である。


「どうしても勝たなきゃいけないやつがいっぱいいるからな。お前もその一人だ!!」


「くっ……障り壁の舞い!!」


シャロンはレイジンに攻撃を仕掛ける。死魔障壁を無数に飛ばす。だがレイジンは、また霊石なしで死魔障壁を次々と破壊していく。どうやら、先ほどの攻撃は本気ではなかったようだ。


「ならば!!」


シャロンは死魔障壁を、レイジンが破壊する以上の速度で生み出していく。量を使った、攻撃を上回る防御。これにはさすがのレイジンも、押し寄せる死魔障壁の濁流に押し流されていく。だが、


「まだまだァァァァ!!!」


レイジンは全力を出し、死魔障壁を押し返し始めた。


「馬鹿な……!!」


鉄壁を誇る死魔障壁が、簡単に破壊されていく。以前とはまるで別人なレイジンの強さに、シャロンは恐怖した。


「レイジンスラッシュ!!!」


とうとう神帝戦技が届く距離まで迫ったレイジンは、レイジンスラッシュを放つ。だが、


「何!?」


新たに出現した死魔障壁に、レイジンスラッシュは防がれてしまった。


「合体死魔障壁の存在を忘れていたようですね。」


今レイジンに砕かれた死魔障壁。それら全てを合体死魔障壁に変えた。以前よりも破壊された枚数が多い分、前回の数倍の強度を得ている。強くなったレイジンでも、さすがにこれを霊石を使わず破ることはできない。


「死魔障壁水晶!!!」


と、いきなりシャロンが死魔障壁を砕いた。粉々になった死魔障壁の破片は無数の細かい刃となり、レイジンを襲う。


「ぐあああっ!!!」


大きく吹き飛ぶレイジン。ショットガンの接射を受けたようなものだ。もっとも、使われたのはショットガンの弾ではなく、通常の何倍も頑丈な死魔障壁の破片で、衝撃もショットガンとは比較にならない。レイジンもかなりのダメージを受けた。


「まだ……いけるぜ!!」


しかし、まだまだ戦闘可能なレベルだ。すぐに体勢を立て直し、再びシャロンに挑む。だが、ダメージを負って集中力が落ちていたせいか、気付けなかった。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


横から、変身したデュオールが迫ってきていることに。


「!!」


デュオールは二槍による一撃を叩き込み、レイジンを弾き飛ばす。


「デュオール!!」


「行けシャロン!!奴の相手はわしがする!!」


「ありがとう!!」


シャロンはデュオールに礼を言ってレイジンの相手を任せ、リオウの部屋へと向かう。


「デュオール!!てめぇもいやがったのか!!」


そこに、復帰したレイジンが戻ってきた。しかし、デュオールは両手を広げてレイジンを阻む。


「ここから先へは通さん!!」


どうやら、シャロンを止めるには、デュオールを倒していくしかなさそうだ。


「……時間が惜しい。とっと片付けるぜ!!」


レイジンは全霊聖神帝に変身し、


「レイジン、ぶった斬る!!」


突撃した。











「はぁっ!!」


壁を破ってリオウの部屋に突入するシャロン。


「うわっ!!な、何だ、この化け物は……!!」


「……私よ。」


当然驚くリオウ。そんな元カレの目の前で、シャロンは変身を解く。


「シャロン……!!」


「……久しぶりね、リオウ。」


生と死を越えて、リオウとシャロンは再び出会った。


「君は死んだんじゃ……」


「ええ、死んだわ。死んで、悪霊になった。こんなこと言っても、わからないと思うけど。」


シャロンは、自分がリビドンになったことを、リオウに伝える。まぁ、討魔士と縁のないリオウには、何を言われてるかわからないだろうが。


「少し前から、あなたの周りでいろんなことが起こってたでしょう?あれはね、私が使役したリビドン達がやったのよ。」


「リビドン?」


やっぱり何のことかわからないリオウ。そんな彼に、シャロンはあるものを見せることにした。


「おいで。」


シャロンがそういうと、彼女の周囲に、小さい火の玉のようなリビドンが多数現れた。


「そ、それは……?」


「ウィスプリビドン。私が使役して、あなたを見張らせていた悪霊よ。」


このリビドンは、生前ストーカーだったリビドンの魂の切れ端から、シャロンが作った存在だ。冥魂城は常に様々なリビドンから襲撃されており、その中にたまたまストーカーリビドンがいたので、結界越しに倒してバラバラにし、その切れ端を使って生み出したのだ。今日のために。切れ端だったために本来のストーカーリビドンより隠密性が損なわれており、時々怪奇現象を起こすなどの不始末をしていた。今役目を終えたウィスプリビドンを、シャロンは吸収する。そして、リオウに問いかけた。


「なぜ私がこんなことをしたかわかる?それはね、あなたに聞かなきゃいけないことがあったからよ。」


「聞かなきゃいけないこと?」


「……どうして私を捨てたの?」


「……それは……」


リオウは迷う。真実を言うべきか否か。彼女の話が本当なら、彼女はもう死んでいる。死人をどうにかするなど、あの女にそんな力はないだろう。だったら、今は言えるはずだ。


「君を守るためだ。あいつは僕と結婚しなかったら、君を殺すと脅してきて、従うしかなかった。結局、君は死んでしまったけど……」


だから、伝える。誠心誠意、心を込めて。


「……私はそんな嘘を聞くために来たわけじゃないわ。」


「嘘なんかじゃない!僕は君を守りたくて」


「言ったでしょ?ずっと見てたって。」


だが、シャロンは全て知っていた。そして、彼女と同じく全てを知った者が、もう一人現れる。ヒエンだ。結界に侵入したヒエンが、壁を破って飛び込んできたのだ。そのまま、リオウを守るようにしてシャロンの前に立ちはだかり、ツインスピリソードを突き付ける。


「あら、あなたもいたんですね。悪いですけど、邪魔はしないで頂けませんか?」


「……お前がなぜこの男を狙うのかはわかっている。」


「……どうやら、知ったようですね。なら、なおさら私の邪魔をしないで下さい。あなた方協会の人間にとっても、抹殺の対象になる人間のはずですよ?私にやらせて下さってもいいはずですが。」


「そうだな。だが、お前が属している勢力が勢力だ。やらせるわけにはいかない」


断固拒否の意思を貫くヒエン。そこへ、


「ぬああっ!!」


デュオールも飛び込んできた。レイジンもだ。デュオールはレイジンに吹き飛ばされてきたのである。


「翔!!」


「廻藤。シャロンがこの男を付け狙う本当の理由がわかった」


「本当の理由?」


「ついさっき終わったんだ。調べ物がな……」




翔の調べ物。それは、リオウに婚約を迫ったという女性が、本当に婚約を強要したかを確かめることだった。輪路は気付いていなかったが、翔はあの時リオウの違和感に気付いていたのだ。何かがおかしい。シャロンのことを思って罪悪感に苛まれるリオウの姿が、まるで演技のように感じた。違和感の正体を確かめるため、翔は急ぎリオウの現婚約者、ランファに会いに言ったのだ。そして、遂にランファは白状した。


「この男は浮気をしていたんだ。」


リオウはランファと浮気していた。そして、ランファと結婚することを決意したリオウは、シャロンと別れるために一芝居打ったのだ。強要されたというのは、全て嘘である。


「本当なのか!?あんた本当に……」


レイジンはリオウに問いかけるが、リオウは答えない。代わりに、シャロンが答えた。

「……死怨衆になってから全てを調べたわ。そして、あなたが私と別れた本当の理由に気付いた。ここに来たのは、確かめるため。」


どうやら、ヒエンが言ったことは真実らしい。シャロンはリオウに訊いた。


「何がいけなかったの?どうして私と別れるために、あんな芝居をしたの!?そんなに私のこと、嫌だった……?」


「……嫌に決まってんだろ。お前みたいな貧乏人」


「!?」


「貧乏な恋人と金持ちな社長の娘。どっちと結婚するかって訊かれたら、後者の方に決まってんだろ。」


遂にリオウは、本性を現した。シャロンが愛してやまなかった男の正体は、金の亡者だったのだ。シャロンが自殺した理由は、彼の負担にならないためだった。自分の存在が彼を苦しめるなら、死んだ方がいい。そう思って死んだ。正直言って、彼が金の亡者であるということもわかっていた。それでも、彼自身の口から本心を聞きたかったのだ。


「……そう。よく、わかったわ。」


現実に打ちのめされながらも、ようやく吹っ切ることができた。


「これで心おきなく、あなたを殺せる。」


リオウを殺す決心をしたシャロンは、再度変身した。


「……わかるまい、貴様らには。捨てられた者の想いが」


デュオールもまた立ち上がる。


「わしには、シャロンの想いを遂げさせる義務がある。邪魔はさせんぞ、討魔士!!」


そして、今までにはないほど強大な力で、レイジンとヒエンに襲い掛かった。


「ぐあっ!!」


「廻藤!!」


ほぼ棒立ち状態だったレイジンは、避けることができずにデュオールの攻撃を喰らい、全霊聖神帝に長く変身していたせいもあって霊力が枯渇し、変身が解けた。決意が揺らいでしまったのだ。こんなゲスを、守る価値があるのかと。己の利益に走り、挙げ句一人の女性を死に追いやったこの男を、本当に守っていいのかと。


「そこをどけ!!」


「ならん!!あのような男、今すぐ死ぬべきだ!!でなければ、シャロンは永遠に苦しみ続ける!!」


ヒエンはデュオールにどくよう言うが、デュオールは聞き入れない。一方シャロンは、魔麒麟と邪応竜を手に、リオウに迫る。虫をひねるような、簡単な作業だ。


「さよなら、私が愛した人。」


愛に破れた一人の女は、己に決着をつけるべく、リオウに魔麒麟の一撃を放つ。



だが寸前で輪路が割って入り、シャロンの攻撃を受け止めた。



「なぜ邪魔をするの!?」


「……お前の気持ちはわかんねぇよ。わかりたくもねぇ。もし俺が、お前と同じ目に遭ったら……想像するだけで震えが止まらなくなる。」


恐ろしいから、わかりたくなかった。自分がもしも、美由紀から同じことをされたらと思うと、恐ろしくてたまらない。


「けどな、これ以上お前を苦しませるわけにはいかねぇ。」


「だったら!」


「殺させろってか?そしたらお前、ますます苦しむことになるぞ!お前の憎しみは、こいつを殺しても晴れねぇ!それは断言する!」


「ならどうしろと言うの!?」


「俺がお前を成仏させる!だからもう、恨むな!恨めば恨むだけ、お前は苦しむ!忘れるな!お前はもう死んだんだ!!」


「そんな言葉で、諦められるわけないじゃない!!」


激怒するシャロンは、魔麒麟をさらに押し込んでくる。それを懸命にこらえる輪路。



その時、



「あ~あ~見てられないなぁ。」



なんと、殺徒が現れた。


「殺徒様!?」


「殺徒!!」


「……」


殺徒はおもむろに近付くと、輪路の首を片手で掴んで、放り投げた。それからリオウの首を片手で掴み、シャロンの前に差し出す。


「あっ……かっ……!!」


「さぁ、殺しなよ。君が望んでたことだろ?」


「……はい。」


殺徒は苦しむリオウを放り投げ、シャロンは魔麒麟で一閃。リオウを真っ二つに両断した。当然、リオウは絶命する。殺徒はブラッディースパーダで、リオウの魂を吸収した。


「やれやれ、全く頼りない手駒だなぁ。僕の手を借りなければ、自分の目的も成し遂げられないのか。」


「……」


シャロンは答えない。


「……まぁいいや。ところでどうだい?救えるはずの命を、守れなかった気分はさ。」


「殺徒……てめぇ……!!」


輪路は殺徒を睨み付けるが、殺徒の心は全く揺らがない。


「まだ取り込めない。やはり、自分に関係ない相手の死では絶望しない、か。まぁ、死んで当然の人間だったしね。それがわかっただけでも十分」


今この場で輪路を殺しても、魂は取り込めない。そう悟った殺徒は、剣を納める。


「今はまだ殺さないよ。今日はただ、無能な手駒を回収しに来ただけだからね。帰るよ、二人とも。」


シャロンは殺徒に従い、デュオールはヒエンとの戦闘をやめ、冥界に帰っていった。シャロンがいなくなったことにより、結界が解ける。ヒエンも変身を解いた。輪路は翔に尋ねる。


「……なぁ翔。俺、どうすりゃよかったのかな?」


「……お前がやったことは正しい。それだけだ」











冥魂城。


「デュオール。」


シャロンはデュオールに声を掛けた。


「……ありがとう。助けてくれて」


「礼なら殺徒様に言え。結局わしは、何もできなかったのだからな。」


「そんなことないわ。ありがとう」


シャロンは、デュオールに恩がある。何しろ、彼女が上級リビドンとなり、死怨衆に入れたのは、彼のおかげなのだ。彼女は元々、上級リビドンではなかった。近付く者に手当たり次第に襲い掛かる、ただの下級リビドンだった。ある時、まだ冥魂城を手に入れる前だった殺徒達に襲い掛かり、シャロンは彼らを守っていたデュオールと戦った。本当ならそのまま魂を食われていたはずだったのに、彼が情けを掛けてくれたのだ。そして、デュオールは殺徒に頼んだ。殺徒の力でシャロンを上級リビドンに変え、死怨衆に加えて欲しいと。殺徒はそれを聞き入れ、シャロンは死怨衆に入った。


「あなたが初めて私を助けてくれたこと、今でも忘れてない。あなたのおかげで、今の私がある。私はあなたに、本当に感謝しているの。」


「なに。互いに捨てられた者同士、気が合うのではないかと思ってな。」


彼は生前、自分の上司ネイゼンの無実を証明しようとした。だが結局彼も国家反逆罪に問われ、処刑されてしまったのだ。シャロンの憎悪を知ったデュオールは、国に捨てられた者と、恋人に捨てられた者。似た者同士であるから、気が合うと思って、彼女を助けたのだ。


「さて、そろそろ装置の霊力が切れる頃だな。」


「ええ。私はまた、自分の仕事に戻るわ。」


やるべきことを終えたシャロンは、装置に帰っていった。




今度の任務はお姫様の護衛!でもそのお姫様は男性恐怖症で、輪路は再び女体化することに。そこにウォレスがやってきて!?


次回、『護衛任務!!ボディーガードは女剣士!?』


女の敵をぶった斬れ!!レイジン!!!

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