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月下大激突!!乙姫の野望 PART3

どうぞ!

「…ん…」


輪路は目を覚ました。竜宮城から地上に戻ってくる途中で、いつの間にか気を失っていたようだ。


「廻藤!気が付いたか!」


目を覚ました直後に、翔の顔が視界に飛び込んできた。


「翔?…ここは…?」


輪路は痛む身体を無理矢理起こし、周囲を確認した。ここは、浦島亭の輪路と美由紀の部屋だ。


「お前が渚さんに連れられて地上に戻ってきたところを、三郎が偶然見つけたんだ。」


「で、翔に頼んでここまで担いでもらったんだ。霊力の残り香があったからな、この部屋がお前の宿泊先だってことはすぐわかったぜ。」


「三郎!」


窓から三郎が入ってきて輪路に言った。


「…美由紀達は?」


「さあな。多分散歩でもしてるんじゃねぇか?」


翔と三郎は、美由紀達を見ていないらしい。誰にも気付かれないよう窓から入ってきたのもあるが、出掛けているからだろう。輪路は内心安心した。乙姫を倒してくると啖呵をきったのに、無様にも返り討ちにあって戻ってきたのだから。


「…うっ!」


「あまり激しく動くな。回復薬を飲ませたばかりだからな」


輪路は敗北したことを思い出し、ようやく大ダメージを受けていたということを思い出した。翔は輪路を布団の上に寝かせる。やがて、輪路はポツポツと話し始めた。


「…乙姫ってやつを倒してくれって頼まれてさ、倒しに行った。」


「ああ、知っている。渚さんから全て聞いた」


「…とんでもねぇやつだった。全然敵わなかったよ」


「…やっぱり、今のお前じゃ無理だったか。光弘も一回負けたからな」


どうやら三郎は、輪路が負けると予測できていたようだ。それは、輪路が光弘とよく似ているから。光弘でさえ一度は敗北した相手なのだから、光弘より遥かに弱い輪路が勝てるとは思っていない。というのもあるが、光弘は一度乙姫との戦いに敗北した後、乙姫を倒す術を会得して即座に再戦を挑み勝利している。輪路も同じようになると予想しているのだ。


「…そうだ、三郎。」


「ん?」


「渚の親父さんから聞いたんだが、光弘は乙姫を弱らせて倒したそうじゃねぇか。その方法は光弘しか知らねぇって聞いたんだが、お前も知らねぇのか?」


「いや、俺は知ってる。というより、光弘は乙姫を弱体化させる方法を俺にしか教えなかった。」


「「!?」」


輪路と翔は驚いた。翔も驚いているあたり、光弘は協会側にも話していなかったのだろう。


「自分の子孫の中に必ず討魔士が生まれるから、そいつが乙姫と戦うまでは誰にも言うなって口止めされてたんだよ。」


「どうすりゃいいんだ!?どうすりゃあいつに勝てる!?」


輪路は乙姫を倒す方法を聞き出すため、身を乗り出して三郎に尋ねる。三郎は答えた。


「水の霊石だ。」


「水の霊石?」


「乙姫と戦ったんなら見ただろ?あの宝玉。あれは水の霊石を使えば溢れ出る力を鎮めることができるんだ」


光弘はかつて、輪路と同じように真満月の昼間、人魚達から乙姫の復活が間近であることを聞き、倒しに行った。だが乙姫の力は想像以上であり、このままでは勝てないと悟った光弘は一時撤退。それからかつて乙姫を封印した浦島太郎の霊と交信し、乙姫を倒す方法を聞き出すという作戦を考案したのだ。結果、浦島は乙姫を倒すために、水の霊石が必要であることを話した。乙姫の宝玉は邪悪な水の属性を秘めたものであり、それは聖なる水の属性を秘めた水の霊石で払うことができると。残念ながら浦島はそれに気付いた時、封印するのが精一杯なほどの傷を負ってしまっていたようだが。


「どうすりゃその水の霊石を出せるようになるんだ!?」


「前にも言った通り、霊石を生み出すためには激情の爆発が必要だ。そして水の霊石を生み出すために必要な激情は、慈愛。命を慈しみ、守ろうとする心だ。」


「慈愛…」


水は命の源。命を生み、育て、守る力。それゆえ、水の霊石は全ての霊石の中で最も強い力を持つ。結局は滅ぼす力よりも、愛し守る力の方が強いのだ。


「けど、それなら俺だって…」


「確かにお前は魂を守るために、ガキの頃から戦ってきた。けどな、それだけじゃ足りねぇんだ。水の霊石は強い反面、作ることに責任が伴う。この世もあの世も、ひっくるめて全ての命を守るって覚悟が必要なんだ。」


輪路は今まで慈愛を以て、多くの迷える魂達を救ってきた。しかし、その慈愛はいずれも、亡くなった者達に向けられたものだ。生きている者も救ってきたが、輪路の人生の中では、死者の比率の方が圧倒的に多い。それでは駄目なのだ。水の霊石は最強の霊石である分、発現にもいろいろと条件が伴う。過程と結果は等価値であり、大きなな結果が欲しければそれに見合うだけの苛酷な過程を経なければならない。水の霊石の場合は、より大きな慈愛が発現に必要となる。死した人間のみならず、生きている人間も、自分が今戦っている相手すらも救う。そんな慈愛が必要になるのだ。


「乙姫を…救う…?」


「…あの女は全宇宙の支配という野望に、完全に取り憑かれてる。救うには、もはやその命を断つ以外にない。そういう気持ちで戦うことが、水の霊石の発現に必要なんだ。」


考えてもいなかった。今になって、ナイアが言っていたことを思い出す。滅ぼすことが救いになる者もいる。今まではそういうことを考えずに戦ってきたが、そろそろそういった認識を改めるべき時がきたのかもしれない。



その時、



「輪路さん!?」


部屋の入り口に美由紀が立っていた。翔はそれを見るとすぐさま輪路から離れ、美由紀が代わって駆け込み、輪路を抱き締めた。


「どうしたんですかそんなにぼろぼろになって!!」


「乙姫とやり合うって言ったろ。情けねぇことに負けちまったが…けどすぐ行かねぇと。三郎が秘策を教えてくれたからな、今度は負けねぇ。」


「駄目です!!そんな身体で戦いに行ったら、今度こそ殺されちゃいますよ!?」


「彼女の言う通りだ。その傷では、少なくとも午前零時までは安静にしていなければ。」


美由紀は再び乙姫と戦いに行こうとする美由紀を押さえつける。翔もまた、全快を待つべきだと言った。秘策があるとはいえ、万全な状態で戦わなければ勝率が大きく低下する。乙姫が相手ならなおさらだ。


「そんなに待ってたら乙姫のやつ何するかわかんねぇだろ!!今夜の真満月であの女の封印は完全に解けちまうんだ!!」


「焦らなくていいぜ?あいつの行動パターンは読めてるからな。」


完全体になったらどこまで強くなるかわからない。だからそうなる前に倒しておきたいのだが、三郎は言った。


「真満月になると同時に宇宙船の封印が完全に解ける。そうなったら、奴はまず間違いなく宇宙船を海上に浮上させる。それから今度はこの太陽系を固定して、真満月を永続させようとするだろう。自分の強化期間を永遠のものにするためにな」

「なんでそんなことがわかるんだ?」


「二百年前光弘が戦った時にやろうとしたことだからだ。あの時できなかったことだからな、必ず同じことをしようとするはずだぜ。逆に言うと、それまで奴は一切の行動を起こせない。今夜の午前零時までは、お前はゆっくり休めるってことだ。」


解除が間近とはいえ、光弘の封印は凄まじいものだ。あれほど強大な力を持つ乙姫さえ、その行動を抑制しているのだから。


「けどその代わり、乙姫は必ずお前が倒せ。翔、今朝言った通り、援軍の要請は無用だ。お前はソルフィと一緒にできる限り輪路をサポートして、輪路にとどめを刺させろ。絶対に必要以上に手を貸すんじゃねぇ」


「もちろんだぜ!」


「わかっている。」


輪路と翔は、三郎の指示に頷く。だが、


「何で…」


美由紀だけは納得していなかった。


「何で輪路さんにばっかりそんな危ないことさせるんですか!!」


「美由紀…」


「輪路さんも!!どうして嫌だって言わないんですか!?負けて殺されそうになったんですよね!?どうしてまた挑むんですか!?」


美由紀は輪路が乙姫に挑むことに反対している。それはそうだろう。乙姫の力はあまりに強大で、輪路はそれに打ち負かされて帰ってきた。それなのにまた挑むなど、殺されに行くようなものだ。


「三郎ちゃん。これは絶対に輪路さんがしなくちゃいけないことなんですか?他の人に代わってもらうってことはできないんですか!?」


「もちろん他の討魔士でも勝てるぜ?水の霊石さえ使えりゃな。けどな、これは俺が二百年前に光弘とした約束なんだ。」


「約束?」


「…これは人魚連中は知らないことだが、光弘が乙姫を倒さず封印止まりにしたのは、二百年後に必ず現れる自分の子孫の試練にするためだ。」


光弘はどういうわけか、二百年後に自分の子孫の中から討魔士が生まれることを知っていた。そして二百年後に生まれる子孫が、より強い討魔士になるための試練として、殺さずに封印しておいたのである。人魚達にそれを言ったら絶対に反対されるので、うまく言いくるめておいたが。


「俺だって輪路がただ霊力の高い普通の人間だったら、こんな無茶は言ってねぇ。だが輪路は光弘の予言通り聖神帝になり、討魔士になったんだ。なら俺はあいつとの誓いを果たさなきゃならねぇ」


三郎も、ただ無慈悲に乙姫などという無茶苦茶な相手を倒せなどと言っているわけではない。彼なりに考えて、彼なりに配慮した結果なのである。


「俺も最初は協会から応援を呼ぶ必要があると思ったが、光弘様の名を出されては従わないわけにはいかない。」


翔も三郎の意図を聞くと、従ってくれた。輪路をサポートしてくれると、約束してくれたのだ。


「なぁ美由紀。お前俺の性格知ってるだろ?やられたままじゃ、気が済まねぇんだ。光弘云々を抜きにして、俺は俺の意思で乙姫を倒してぇんだよ。」


「輪路さん…」


輪路は負けず嫌いだ。だから一度敗れた相手には、必ずリベンジする。どれほど強大な相手だろうと、それは変わらない。美由紀もまた、ナイアの言葉を思い出した。輪路は強いから、その身の安否を気遣う必要はないと。


「…わかりました。でもその代わり、今度こそ勝って下さいね?負けたりしたら、絶対に許しませんから。」


「…ああ。わかってる」


結局美由紀も輪路の決意に折れ、彼の出陣を見届けることにした。











時間は大きく飛んで、深夜午前零時五分前。


「…時間だな。」


輪路は布団から飛び起きた。美由紀は尋ねる。


「もう大丈夫なんですか?」


「ああ。もう行かねぇと」


なんとか輪路の傷は全快した。あとは、乙姫に余計な行動を起こさせる前に倒さなければならない。


「ようやく治ったか。」


その時、輪路と美由紀、そして翔と三郎がいる部屋へ、賢太郎が入ってきた。ナイア憑依状態で。今回の戦いには、ナイアも同行することになっている。輪路の戦いに極力手を出さないつもりではいるが、万一輪路が敗れた時、輪路の代わりに乙姫を倒すためだ。なぜなら、乙姫の目的はアザトースだからである。自分の主人の命が危険にさらされている以上、従者が動かないわけにはいかない。


「わかっているね?もし廻藤輪路が敗れるようなことがあったら…」


「…ああ。その時は、お前が乙姫を倒せ。」


三郎は許可した。ナイアの存在は、輪路が失敗した時の保険である。力だけなら乙姫はナイアよりずっと強いが、様々な魔術に精通しているナイアなら乙姫の弱点を突けるのだ。


「お前に手間掛けさせるようなヘマはしねぇから安心しろ。それより、賢太郎をしっかり守ってくれよな。そいつが死んだら、あの二人が悲しむ。」


「わかってるよ。」


あの二人とは、彩華と茉莉のことだ。二人は賢太郎の幼なじみなので、賢太郎が死ねば誰より悲しむ。ナイアもそれは心得ている。


「時間だ。行くぞ」


翔が立ち上がり、討魔士達は部屋を出ようとする。と、


「ちょっと待って下さい!」


彩華が飛び込んできた。


「お姉ちゃん!」


「だから待ちなって!」


その後ろから、少し遅れて茉莉と明日奈も来る。


「私達も連れていって下さい!」


「駄目だ。お前らはここで、俺達が帰ってくるのを待ってろ。」


彩華はついて行きたいと言うが、輪路は拒否した。今回相手は海の上まで出てきてくれるが、それでも彩華は戦力にならない。非戦闘員は全員、この浦島亭で待機しているように言った。そして万が一輪路達協会組全員が敗れた時の保険として、明日奈を残している。もし自分達が負けたら、美由紀達を連れて逃げるように。そうしたら、それこそヘブンズエデンの傭兵や、五年前の英雄達にでも頼めばいい。


「本当はあたいだって一緒に行きたいよ?戦えるんだからね。けど、さすがに今回は役に立てそうもない。そんなあたいにも、みんなを守るって役をくれたんだ。その辺は感謝しなくちゃね」


「明日奈。他の連中を、美由紀を頼むぜ。」


「ああ。任せときな」


明日奈も今回の乙姫戦においては自分の力不足を痛感しており、やむなく戦前を離脱。非戦闘員の護衛という役に甘んじた。ちなみに賢太郎達の親は、明日奈が睡眠薬を混ぜた料理を食べたので、全員眠っている。戦闘時には既に向こうでスタンバイしているソルフィが竜宮城一帯にも結界を張るので、無関係な者達が巻き込まれることも、戦い自体を知られることさえない。


「お姉ちゃん、今回は大人しく待ってましょ?」


「ですが…」


「気持ちはわかるわ。でもね、この中で一番行きたいって思ってるのは、美由紀さんなのよ?」


茉莉の言う通り、誰よりも輪路を想っている美由紀が、一番同行したいと思っている。しかし、この戦いは輪路が乗り越えなければならない試練だ。何の力もない自分が行っては邪魔になる。そう思ったから、美由紀は自分の気持ちを抑えて、待つことを選んだのだ。


「…わかりました。」


彩華はようやく折れた。ナイアは彩華の肩に手を置く。


「心配は無用だ。この子のことは、ボクが責任を持って守る。」


「…はい。賢太郎くんのこと、よろしくお願いします。」


「ああ。約束しよう」


ナイアは必ず賢太郎を守ると約束した。


「じゃ、行くぜ。」


輪路は翔達を連れて出ようとする。と、


「輪路さん!」


美由紀が呼び止めた。輪路は無言で振り返り、


「…気を付けて。」


美由紀は一言だけ、輪路に言った。


「ああ。」


輪路は笑うと、今度こそ宿を出た。











場所は、最初に渚と出会った所。そこには渚と、打ち合わせしたソルフィが待っていた。


「輪路様!!」


「心配かけたな渚。もう大丈夫だ」


渚は輪路が深手を負っていたことがずっと気掛かりだったので、輪路の元気な姿をしてようやく安心した。だが、安心してばかりもいられない。


「…時間です。」


ソルフィの腕時計が、午前零時を差していた。




竜宮城。


「…ようやく、ようやくこの時がきた。」


玉座で乙姫は呟いた。二百年。人間にとってもかなり長い年月だが、乙姫にとってこの二百年は一万年にも等しく感じられた。そのあまりにも長かった二百年が、二百年の封印がようやく解けたのだ。


「今度こそ妾の望みを叶える。もう誰にも、邪魔はさせぬ。」


乙姫が呟くと、竜宮城全体が鳴動を始めた。封印されていた機能が二百年ぶりに動き、ブースターを吹かしたのだ。竜宮城は海底から浮き上がり、猛スピードで海上へ向かっていく。そして、竜宮城は浮上から僅か数分で、海上にその姿をさらした。同時に、大質量の物体が海面に現れた影響で津波が発生する。


「三郎!!」


「ソルフィ!!」


「はい!!」


「おう!!」


輪路と翔が命じると、三郎とソルフィは協力して巨大な結界を展開する。さらに輪路と翔が互いに武器を抜いて振るい、衝撃波を発生させて津波を相殺した。


「「神帝、聖装!!」」


そのまま聖神帝に変身し、


「さあ、リベンジマッチの始まりだ。」


竜宮城に向かっていった。ナイアは当初の予定通り、戦いへと向かう聖神帝達を見送った。




遂に始まった乙姫とのリベンジマッチ!輪路は水の霊石を作れるのか!?お楽しみに!

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