第二十七話 未練、そして意地
今回はシャトルさんがアイディアを送って下さったキャラが登場します。
「ぐああああああ!!!」
剣を持った一人の男が、断末魔を上げて倒れた。男を倒したのは、日本刀を持つ小柄な少女。
「こんな雑魚の魂でも、ないよりはマシか…」
少女は日本刀を男の死体に突き立て、魂を吸い取った。と、その時、少女は自分の背後にとてつもなく巨大な霊力が現れたのを感じ、思わず振り向いて日本刀を構えた。
「柱間紗由理。」
「…なんだ、あんたか。」
だが知っている人物だったので、紗由理と呼ばれた少女は警戒を解いて日本刀を納めた。そして、紗由理の顔見知り、黒城殺徒は紗由理に言う。
「今日僕がここに来た理由、わかってるよね?」
「何度も言わせないで。私はあなたの仲間になるつもりなんてない」
紗由理は上級リビドンである。そして今彼女がいるのは、討魔士を育成するための機関だ。なぜ彼女がこんな所にいるかというと、魂を集めるためである。リビドンは魂を食うと強くなる。魂の質が高ければ高いほど良い。紗由理は多くの達人や、こういった施設を襲って魂を奪っている。それは、強くなるため。ただひたすらに強くなり、強く在るため。
「で、そうやって魂を集めて、腕を磨いて、君が求める強さは手に入ったのかい?」
「…まだだよ。まだだから、こうして戦ってるんじゃない。」
「このまま同じことを続けても、望みの強さは手に入らないと思うけどなぁ?」
「じゃああんたの仲間になれば手に入るっていうの?そうは思えないんだけど。」
「入るよ。必ずね」
紗由理は、もう何十年もこの旅を続けている。ひたすらに強さを望み続けて、力を得続けた。だが、どれほど強くなっても、自分の強さに納得できない。だから、旅を続けている。殺徒と出会ったのも、その途中だ。
「断る。私はあんたの仲間にはならない」
この勧誘も何度目だろうか。そして断った回数も忘れてしまった。殺徒はため息を吐く。
「前にも言っただろう?僕の仲間にならないなら、それが例え同じ死者だろうと僕にとっては邪魔でしかない。何が起きても安全を保障できないって」
「やるっての?そういうことならいつでもいいよ。あんたの魂を食えば、望みの強さを得られそうだ。」
紗由理は日本刀を抜き、切っ先を殺徒に向ける。しかし、殺徒はいつまで経っても攻撃してこない。
「…腰抜けが。」
戦闘の意思が感じられず、紗由理は刀を納めた。
「私を仲間にしたいってんならやめた方がいい。私はあんたと奥さんの魂も狙ってるから、寝首をかかれるよ。」
紗由理はもう一度、自分の意思を告げて殺徒の前から姿を消した。
「言ってくれるじゃないか。」
殺徒も笑って、間もなく姿を消した。
冥魂城。
「くそっ!!」
殺徒は怒っていた。怒りに呼応して、殺徒の全身から凄まじい霊力が漏れ出ている。冥魂城と、冥魂城を中心にした半径七百キロが震えるほどの、恐ろしい霊力だ。っていうかよく城崩れないな。
「あの糞餓鬼め…!!」
「落ち着いて殺徒さん。」
しかし、黄泉子はそんな霊力の奔流の中、恐れず殺徒に近付いて抱き付き、その唇にキスをした。それでようやく、殺徒の霊力が治まる。
「あの子は殺徒さんの本当の実力と、自分が泳がされてるってことに気付いてないから、あんなことが言えるの。無知って怖いわねぇ」
「…ああ、わかってるよ。今はまだ、手を出さない。」
先ほどの怒りはどこへやら、殺徒の顔はすっかり蕩けてしまっており、黄泉子の顔を優しく撫でていた。
「そう。今はまだ、ね…」
殺徒はもう一度、黄泉子とキスをした。
*
協会本部。ここではシエルから輪路に、新たな命令が下されていた。それは、先日協会が保有している討魔士育成機関の一つが何者かに壊滅させられたので、その犯人の正体と目的を突き止めることだ。
「急にそんなこと言われてもなぁ…手掛かりもないんじゃ捜しようがねぇぞ。」
「手掛かりならあります。」
シエルは情報を提示した。実は、何十年か前から、秘境に住んでいる討魔士や、武術の達人が何者かに殺害されているという事件が起きている。どの被害者も鋭利な刃物で斬られた痕が残っており、調べたところによると、犯行に使われた刃物は日本刀らしい。それもただの刃物ではなく、霊力で構成されたものだ。そして今回、皆殺しにされた討魔士達からも、同じ傷痕が検出された。これにより、同一犯だと推測できる。
「昔から協会がずっと追ってきた相手ですが、我々の施設までもが襲撃されたとなると緊急手段を使わざるをえません。」
「…まさか…」
「はい。囮捜査です」
輪路はやっぱりと肩を落とす。犯行から見て、相手が強い相手との戦いを望んでいるのは明白だ。だから、輪路を使って誘き出すのだと言う。
「んなもん翔にやらせりゃいいじゃねぇか!!」
「状況から察するに、相手は幽霊である可能性が高いのです。そして幽霊は、強い霊力に引き寄せられます。だからあなたを選んだのです」
傷痕に残された霊力の量からして、相手は幽霊である可能性が高い。幽霊を誘き出すには、強い霊力を持つ者を使うのが一番。そして輪路の霊力は、既に三大士族の討魔士達を超えている。この役目を担うのに、輪路以上の適任はいないのだ。
「そういうことかよ…」
「私もあなた一人に行かせるのは心苦しい。ですが、今日に限って翔もダニエルもシルヴィーも、全員別の任務に出払っているのです。」
「マジかよ…まぁ仕方ねぇ。相手が幽霊だってんなら、これ以上罪を重ねさせるわけにはいかねぇからな。」
輪路は仕方なく、任務を引き受けた。幽霊相手なら手慣れたものだ。もっとも、今回の相手はかなり凶暴そうだが。
*
というわけで、輪路は荒野に来ていた。この荒野は、襲撃された施設から三キロほど離れた場所にある。施設が襲撃されたのは昨日らしく、それならまだ相手はそう遠くに行っていないはずだ。輪路の目の前には、今奇妙な物体が置かれている。形状としては、パラボラアンテナに近い。これは霊力拡散装置であり、霊力を広範囲に渡って拡散する装置だ。主に魂を餌とする悪霊などを誘き寄せるのに使われる。
(こいつに俺の霊力を込めるんだったな…)
「…ふん!」
輪路は装置に手をかざし、霊力を込めた。装置に込められた霊力は直ちに拡散され、一瞬で半径百キロまで届く。
(…殺された連中は全員魂を抜き取られてたらしいが、一体誰がそんなこと…)
輪路はターゲットがやってくるまでの間、ない頭を振り絞って犯人が誰なのかを考えた。協会のデータによると、遺体には魂を抜いた処理が痕跡として残っていたそうだ。なぜ魂を抜いたのだろうか?殺戮や腕試しが目的なら、ただ殺すだけでいい。しかし魂を抜いていたということは、魂が必要だったからということになる。なぜ?そう思った時、輪路は一つの仮説にたどり着いた。
(…殺徒の仲間?)
殺徒は邪神帝オウザを復活させるために魂を集めている。殺徒の仲間が暴れているとすれば、確かに説明できるのだが…
(いや違うな。この事件が起きるずっとずっと前から、犯人は魂を集めていた…)
問題は、犯人は何十年も前から同じことをしていたということ。殺徒達が動き始めたのはそれよりずっと最近なので、時期が合わない。犯人は独自の目的で、魂を集めているのだ。
(いずれにせよ、ほっとくわけにはいかねぇな)
食われた魂は、その魂を食った存在を倒すことで解放できる。魂を解放するため、一刻も早く犯人を倒さなければならない。のだが…
「ウゥゥ…」「ァァ…」「霊力ダ…」「魂ヨコセ…」
いつの間にか、輪路は多数の幽霊に囲まれていた。どれもこれもボロボロで、呻きながら輪路に手を伸ばしてくる。これらの幽霊は、全て魂を餌にしている悪霊だ。広域拡散された輪路の霊力に惹かれて、集まってきたのである。
(犯人はこいつら、じゃねぇわな…)
悪霊達の霊力は弱い。常人や浮遊霊程度なら襲えるだろうが、討魔士クラスの相手は無理だ。よって、施設を襲った犯人ではないと断言できる。しかし、放置しておくと他の人間が危険なので、倒しておくことにした。
「魂ヨコセェェェェ!!!」
「ふん!!」
「グァァァァ!!!」
正面から覆い被さるようにして襲い掛かってきた悪霊を、日本刀モードに替えたシルバーレオで、一太刀のもとに斬り伏せる。
「食ワセロ!!」「ソノ魂食ワセロォォォ!!!」「ウマイ魂!!魂ィィィィ!!!」
その後も口々に叫びながら襲ってくる悪霊を次々と斬り倒し、成仏させていく。
(さて、当たりが来るまで何匹成仏させればいいやら…)
ここで霊力を拡散させ続ける限り、悪霊はいくらでも集まってくる。しかし、やはり放置するわけにはいかないので、やってくる悪霊は全て成仏させることにした。
*
それから霊力の拡散を続けること一時間。成仏させた悪霊の数は二百を越えたが、犯人は現れない。
「もうこの辺りにはいないかもなぁ…」
あまりにも来ないので、どこか遠くに行ってしまったのではないか、と懸念する輪路。
「…仕方ねぇ。場所変えるか」
来ない以上いつまでここで粘っていても無駄なので、輪路は装置を抱えて移動しようとする。
その時、
「待ちなよ。」
声が聞こえて、輪路は振り向いた。そこには、いつの間にか小柄な少女が立っていた。一目でわかった。この少女は幽霊。しかもリビドンだと。それから、少女の腰に目が行った。左腰に、日本刀が一本差してある。犯人が使う武器は日本刀。しかも、幽霊である可能性が高い。
(間違いねぇ)
全ての特徴が一致している。この少女が、数十年前から続く事件の犯人だ。輪路は装置を地面に下ろし、シルバーレオに手をかける。
「ずっと見てたけど、あんた私を捜してたんでしょ?そんな機械まで使ってさ。」
「…見てたんならさっさと出てこいよ。無駄に疲れたじゃねぇか」
「それは悪かったね。あんたがどの程度の力の持ち主か、見極めたかったんだ。昨日戦った連中は、数のわりに弱かったからね。あんたも討魔士なんだろ?さしずめ、仲間の仇討ちってところか。」
少女は自ら施設を襲ったことを明かした。しかも、輪路が討魔士だということに気付いている。
「そこまでわかってたんなら不意討ちとかできただろ。」
「そんなことして勝っても意味ないし、何より私が満足できない。正面から正々堂々と討ち破ってこそ、勝ったって実感がある。昨日襲った施設も、正面玄関から堂々と乗り込んでやったよ。」
「…武士道精神ってやつか?」
「『例え相手を倒そうと、正面から戦って倒したのでなければそれは敗北である』っていうのが、柱間流剣術の教えだ。名乗るのが遅れたね、私は柱間紗由理。気付いてるだろうけど、上級リビドンだよ。」
「やっぱりか…」
話している間、ずいぶん理性がはっきりしていると思っていたが、やはり上級リビドンだった。
「俺は廻藤輪路。お前、殺徒の仲間か?」
「へぇ、黒城殺徒を知ってるの?安心して。私はあいつの仲間じゃないから」
「仲間じゃない?」
「そ。まぁ、仲間になれってうるさいんだけどね。」
「…奴の仲間じゃないってんなら、何で魂なんて集めてんだ?」
輪路は気になっていることを訊いてみた。紗由理は答える。
「…強くなるためだよ。」
*
紗由理が死んだのは、第二次世界大戦の渦中だ。誰もが銃を手に取り戦う中、彼女だけは両親とともに、柱間流剣術と一本の刀だけで戦い続けた。それは、柱間流剣術こそが最強だと信じていたからだ。事実、柱間流剣術と彼女、それから彼女の一族は、近代兵器すら圧倒するほどの強さを見せつけていた。日本の国家も、柱間家さえいれば国は安泰だと信じきっていたほどだ。
しかし、彼女らは実にあっけなく死んだ。死因は、当時最新の兵器である戦闘機を使った空襲による焼死だ。強大無比を誇った剣術も、結局時代の移り変わりには勝てなかったのである。一族の者は、両親も従者も皆死んだ。しかし、唯一高い霊力を持つ紗由理だけが、死後幽霊となってこの世に残ったのである。紗由理は一族を守れなかったこと、柱間流剣術が敗れたことが認められず、怒りに任せて周囲の魂を食らい、ある程度霊力が高まったところで思い至った。柱間流剣術こそが最強であると、必ずこの世界に知らしめてみせる。自分が最強の存在になると。紗由理は自分自身の無力感への憎悪と、新たな目標への想いを両立させることによって、上級リビドンとなった。それからずっと、強さを求めて多くの達人に挑み、倒し、その魂を食らってきたのだ。
「だからって魂を食っていいことにはならねぇだろ。お前はもう死んでるし、強さなんてのは死んでまで求めるもんじゃねぇ。」
確かに紗由理の死は無念だっただろうが、だからといって他者を殺して魂を奪っていい理由にはならない。何より、紗由理はもう死んでいるのだ。他人を殺す殺さない以前の問題である。
「じゃあ私はどうしたらいいの?私の報われない気持ちはどうなるの?」
「捨てろそんなもん。お前がやるべきことは、その未練を捨てて成仏することだ。強くなることじゃあねぇ」
悲しいことだが、一度死を迎えてしまった以上、もう紗由理の役目は終わったということになる。死した魂がいつまでも現世に留まることは許されない。速やかに未練を捨てて成仏する。それが、幽霊となった者の役目だ。
「そんな言葉で、諦められると思う?」
「諦めてもらわなきゃならねぇ。どんな理由があろうと、お前はもう死んだんだからな。」
しかし、それで納得して成仏するほど、紗由理の未練は安くない。でなければ、今まで大勢の人間を殺すことはなかっただろう。
「それにお前、憎しみを捨てないと取り返しの付かないことになるぞ。」
「余計なお世話だ。私の邪魔をするなら、あんたの魂を食うわ。そのために戻ってきたんだもの」
「…まだこの世に留まり続けるってんなら、力ずくで成仏させるぜ。こっちはそのためにここで待ってたんだからな」
どちらも引くことはできない。紗由理の存在は危険だ。一刻も早く成仏させなければ、紗由理はこれからも人を殺して魂を食い続ける。
「神帝、聖装!!」
輪路はレイジンに変身した。紗由理は上級リビドンだ。最初から本気を出さなければ、すぐやられてしまう。
「魂身変化!!」
だが、聖神帝に変身したからといって戦いが楽になるわけではない。紗由理もまた上級リビドンの特性である変身を、魂身変化を修得しているのだ。紗由理の怪人形態は、一言で言えば骸骨の侍。しかし、骨は黒ずんでいる。黒は負の色、憎しみの色。紗由理がリビドンになってしまったことを、この姿が証明していた。
「行くぜ!!」
レイジンは紗由理を憎悪から解放すべく、シルバーレオを振りかざして立ち向かう。だが、さすがに強力な剣術の使い手なだけはあって、レイジンの攻撃を軽く弾くと、胴を斬りつけた。
「さっきからあんたの戦いぶりを見てたけど、まだまだ素人だね。柱間流剣術には遠く及ばないよ。でも霊力だけはすごいから、あんたの魂を食えば望んだ力を得られるかもしれない。」
ただ見ていたわけではない。きちんと分析している。紗由理の霊力は、レイジンとほぼ同等クラスだ。しかし剣術では、レイジンを上回っている。強いが勝てない相手ではない。それが紗由理の見解である。
「素人で悪かったな。じゃあこれならどうだ!!」
レイジンは火の霊石を使い、火焔聖神帝にパワーアップする。
「剣術だけが俺の武器じゃねぇんだよ!!」
霊力で作った炎を、紗由理に向けて放つレイジン。だが、
「はっ!!」
紗由理が日本刀を振ると、突風が発生して炎が吹き飛んだ。紗由理には何のダメージも与えていない。
「柱間流剣術、矢払い。飛び道具を防ぐための技だ」
かつてはこの技でも空襲の爆発と炎を防ぐことはできなかったが、上級リビドンになることで人知を超えた力を得た今なら、ミサイルも吹き飛ばすことができる。昔とは違うのだ。
「まだまだァッ!!ファイヤーレイジンスラッシュ!!!」
しかし、今のはただの炎であり、技ではない。今度は正真正銘の技だ。シルバーレオに炎を纏わせて振り下ろすレイジン。だが、
「はっ!!」
紗由理はシルバーレオが自分に当たる瞬間を見切ってかわし、レイジンの胴を斬った。
「ぐあっ!!」
「当たれば危険な技だとわかっているのに、当たるわけない。」
いくら上級リビドンでも、弱点属性の二重掛けを受ければ無事では済まない。これを受けて無事で済むのは、殺徒クラスのでたらめなリビドンだけだ。なら、攻撃を見切ってかわせばいい。剣術の技量なら、紗由理が遥かに凌駕している。
「なら力比べだ!!」
レイジンは一度火の霊石を解除し、力の霊石を発動。剛力聖神帝にパワーアップする。力を身に付けたレイジンは、紗由理の攻撃をものともせずガンガン攻めていく。
「パワードレイジンスラッシュ!!!」
「なるほど。パワーはなかなかだけど、スピードはまだまだ。」
「くそっ、当たらねぇ…だったら!!」
確かにパワーと耐久力は上がったが、スピードは紗由理に追い付いておらず、紗由理に攻撃を当てられない。さらに土の霊石を発動し、剛激聖神帝となってスピードを上げるが、それでも届かない。
「じゃあこれでどうだ!!ソニックレイジンスラッシュ!!!」
ならばとレイジンは、ソニックレイジンスラッシュを発動する。
「!!」
「がっ!!」
紗由理は一瞬驚いたが、すぐに見切ってまたしてもレイジンの胴を斬った。
「…驚いた。あんたもそこにたどり着いたんだ?」
「ぐっ…何のことだ!?」
「今使った技、柱間流剣術にもあるのよ。」
「そうかよ…!!」
レイジンは間髪入れず、剛焔激聖神帝にパワーアップし、
「レイジントリニティークラッシャァァァァッ!!!!」
今自分が放てる最大の必殺技を放った。
「見せてあげる。これが、さっきあんたが使った技の、真の完成形…」
紗由理は日本刀を腰溜めに構えると、縮地を使って突撃し、
「飛燕返し!!」
シルバーレオを斬り上げてから、レイジンの胴を斬った。
「ぐあ…!!」
「本来この技は、相手の突撃を利用して威力を上げるもの。もし私が刀ではなく腕を狙っていたら、あんたの右腕はなくなってたわ。」
「こ、こいつ…!!」
紗由理が放った、この飛燕返しという技。確かにソニックレイジンスラッシュと、非常によく似ている。しかし、完成度は紗由理の方が上だ。技の威力も、スピードも、レイジンスラッシュとは比べものにならない。
「驚くのはこれからだよ。」
紗由理がそう言うと、紗由理の日本刀の刃が炎上した。そして、
「ファイヤーレイジンスラッシュ!!!」
「な、何!?ぐあっ!!」
紗由理はその燃える日本刀で斬りつけてきたのだ。
「な、何だ、今のは…!?」
「私は一度見た技を修得して、自分のものにすることができるの。相手の技を盗めってよく言うでしょ?」
なんということだろうか。紗由理は、相手の技を覚える能力も持っていた。
「さぁ、あんたが私に使った技、叩き返してあげるよ!!」
*
冥魂城。
「参ったねぇ…」
殺徒はモニターで、レイジンと紗由理の戦いを見ていた。
「彼女を倒されるとまずい。」
「どうするの?」
「…仕方ない。少し早い気もするけど、成仏させられるよりはマシだ。」
黄泉子に訊かれて、殺徒は玉座から立ち上がる。
「収穫といこうか。」
*
「ぐおおっ!!」
紗由理から受けたダメージが蓄積したレイジンは、パワーアップが解けてしまう。
「もう終わりか?」
紗由理は余裕だ。
「…お前、相手の技を覚えられるって言ったよな?」
「ああ。それがどうしたの?」
「ならこいつも覚えられるか!?ライオネルバスタァァーーーッ!!!」
会話で時間を稼いだレイジンは、溜めたライオネルバスターを放つ。しかし、紗由理にはよけられてしまった。
「だいぶつらそうだね?私の攻撃がそんなに効いた?」
紗由理から攻撃を受けすぎたレイジンは、うまくライオネルバスターの照準を合わせられなかったのだ。
「ああそれとね、もちろん覚えられるよ。」
紗由理が言った直後、紗由理の胸に骸骨のライオンの頭部が出現し、
「ライオネルバスター!!!」
ライオネルバスターを撃ってきた。このままでは喰らってしまう。
「くっ…レイジンスパイラル!!!」
レイジンは咄嗟に絶技聖神帝になると、レイジンスパイラルを使ってライオネルバスターを跳ね返した。が、当然そこも見られており、
「レイジンスパイラル!!!」
レイジンスパイラルを修得した紗由理は、レイジンスパイラルをレイジンスパイラルで跳ね返すという荒業を見せた。
「うおっ…!!」
だがレイジンは、間一髪でレイジンスパイラルを回避することに成功する。しかし、
「レイジン…!!」
「!!」
逃げた先に紗由理がいた。紗由理はただ撃ったのではなく、レイジンを追い込んだのだ。
「トリニティークラッシャァァァァ!!!!」
「ぐあああああああ!!!!」
無理な姿勢でかわせるはずもなく、レイジンは紗由理からレイジントリニティークラッシャーを喰らって倒れ、変身が解けてしまう。
「まぁよく頑張った方だね。さて、それじゃああんたの魂をもらおうか。」
紗由理は輪路から魂を奪うべく、日本刀を担いで輪路に近付いていく。
その時、
「いや~、お見事お見事。まさかその男を倒せるとは思わなかったよ」
拍手をしながら、殺徒が現れた。
「あ、殺徒…!!」
輪路は睨み付けるが、受けたダメージが大きすぎて動けない。紗由理はうんざりしたように言う。
「またあんたか…悪いけど、今忙しいから後にしてくれる?こいつの強力な魂を食うんだから」
まさか昨日の今日でまた来るとは思わなかった。勧誘なら絶対に乗らないし、今輪路の魂を食うところだから、話は後にして欲しい。そう思っていた。
「彼の魂が欲しいならやめておいた方がいい。ほら、彼の目を見てごらん。力強い瞳だろう?こんな絶望的な状況だっていうのに、まだ生きることを諦めていない。」
もう輪路は、紗由理に殺されるのを待つばかりの状態だ。しかし、輪路の瞳からは生気が消えていない。逆転などどう考えても不可能だというのに、逆転することを考えている。希望に溢れた瞳だ。
「この男の魂は絶望に染まっていない。完全な絶望に染めてからでないと、逆に内側から君の魂が浄化されてしまう。それより君がこの男を倒したということの方が重要なんだ」
「…?どういう意味だい?」
紗由理は殺徒の言っていることの意味がわからず、詳しいことを聞こうとする。殺徒はニヤリと笑って答えた。
「君の魂を奪う頃合いだという意味さ。」
「!?」
紗由理は飛び退いて身構えた。今殺徒は何と言った?確か、自分の魂を奪うと…
「…いつもの勧誘かと思ったら、今度は冗談かい?」
「これが冗談だと思う?」
紗由理は訊いたが、逆に聞き返されてしまった。どうやら、殺徒は本気らしい。
「…いくら死んでいるとはいえ、もうちょっと現実的に物事を判断しな。私はあんたが恐れるくらい強いんだよ?その私を倒して魂を奪うなんて、簡単にいくと思う?あんた邪神帝がないと何にもできないんだろ?」
「え?僕が君を恐れているだって?」
殺徒は聞き返し、聞き返した瞬間、
「思い上がるなよ。餓鬼の分際で」
紗由理の目の前に接近して、紗由理を殴り飛ばしていた。
「ぐあっ!!」
吹き飛んで転がる紗由理。
「冗談を言っているのはお前の方だ。僕がお前みたいな雑魚を恐れるわけないだろ」
そう言って紗由理を見る殺徒の目は、怒りに染まっていた。
「僕が今までお前を野放しにしていたのは、泳がせていたからだ。せっかく何十年も前から魂を集めてくれているんだから、たっぷり肥え太らせてからもらおうと思ってね。」
そう。殺徒はあくまでも紗由理に魂を集めさせるために放っておいたのであって、恐れていたから手が出せなかったわけでは断じてない。その気になればいつでも倒せた。
「女に向かって言う台詞じゃないね…!!」
紗由理は立ち上がると、日本刀を殺徒目掛けて振り下ろした。殺徒はそれを、片腕で防ぐ。
「暴れるなよ。せっかく溜め込んだ霊力が逃げるだろ?」
「あんたなんかに私の魂をくれてやるもんか!逆に私があんたの魂を奪ってやるよ!!」
そのまま紗由理と殺徒は戦いを始めた。
「まずいなこりゃ…」
輪路は危機を感じていた。このままではまずい。しかし、輪路はまだ動けないのだ。何かないかと考える輪路。と、思い出した。輪路はこの任務に参加する前に、協会から回復薬を三つ支給されている。輪路は回復薬を取り出すと、三つとも全部飲み干した。早く体力を回復させ、戦える状態にしなければならない。と、そこで輪路はまた思い出した。もし殺徒に遭遇することがあったら、その霊力を計ってきて欲しいと、中級昇格試験を終えた時シエルから霊力測定機を渡されていたのだ。
「…」
自分より強い紗由理なら、もしかしたら殺徒に勝てるかもしれない。その可能性に賭けて、輪路は霊力を計る。まず紗由理から。紗由理の霊力は、五十八億。中級昇格試験を終えた後、輪路の霊力はまた上がっており、紗由理の霊力はレイジンに変身した時の輪路と全く同じだった。次に、少し緊張しながら、殺徒の霊力を計る。
「!!!」
弾き出された数値を見て、輪路は驚愕に目を見張った。殺徒の霊力は、九千八百京だ。桁外れ。次元が違いすぎる。シエルから聞いた話だが、霊力が九千京あれば、太陽系が百万は消し飛ばせるという。これにオウザの力が加われば、途方もないことになる。
「やべぇ…負けるぞ紗由理…!!」
*
結果は、紗由理の惨敗だった。殺徒には紗由理の攻撃が全く効かず、殺徒の攻撃が当たる度に力が吸い取られていく。一方殺徒は、素手だ。オウザはもちろんのこと、ブラッディースパーダさえ使っていない。ただの徒手空拳で、紗由理を圧倒しているのだ。
「望み通り素手でお前の相手をしてやったよ。これで満足かい?」
紗由理をボロボロにした後、殺徒はブラッディースパーダを出した。紗由理の魂をオウザに食わせるつもりだ。
「大人しく僕に従って死怨衆になっていれば、こうはならなかったかもしれないのに…聞き分けのない子供は嫌いだよ。それに比べて、僕の息子は最高だったなぁ。僕と黄泉子の言うことを何でもよく聞く、理想の子供だった。」
殺徒は生前の自分について話しながら、紗由理に迫っていく。しかし、紗由理もただではやられたりしない。そうだ。諦めるものか。ここで諦めたりしたら、何のために今までこの世界にしがみついていたかわからない。
「レイジントリニティークラッシャァァァァァァァ!!!!」
ついさっき覚えたばかりの超強力技を、殺徒目掛けて放つ。殺徒はブラッディースパーダではそれを防御せず、身体で受け止めた。
「…最後に君の気持ちを受け止めてあげようと思ったけど、その程度か。退屈な憎悪だねぇ」
殺徒は紗由理の心臓に、ブラッディースパーダを突き刺した。
「あっ…」
自分の全てが、ブラッディースパーダを通して殺徒に奪われていくのを感じる。そして、紗由理は理解した。輪路は言っていたのだ、憎悪を捨てないと取り返しのつかないことになると。本当に、取り返しのつかないことになってしまった。
「…輪路…」
紗由理は変身の力を失って元の姿に戻り、
「…ごめん…」
自分に警告してくれていたのに聞かなかったことを輪路に詫びて、ブラッディースパーダに吸収された。最後に残った日本刀は主を失って地面に落ち、殺徒はそれさえもブラッディースパーダで叩き折って吸収した。
「さ、紗由理…」
「何だいその顔は?君が倒そうとしていた相手を、代わりに倒してやったんだよ?感謝して欲しいね。ま、君にはすぐ死んでもらうことになるけど。」
殺徒は笑って言った。輪路に勝てるほどの霊力を得た紗由理。その魂は、邪神帝オウザを完全復活させるのに、十分だった。
「神帝、邪怨装!!」
殺徒はオウザに変身した。
「素晴らしい!!これが完全復活したオウザの力か!!このオウザと僕の力が合わされば、不可能は何もない!!」
周囲に死は満ちていない。だがオウザの力は、以前輪路が戦った時とは比べものにならないほど強化されていた。これが、邪神帝オウザの本来の力なのである。完全復活した以上、死者の魂を大量に連れてくる必要はない。単独で、その強大な力を振るえるのだ。殺徒はオウザを手にした歴代の上級リビドンの中でも飛び抜けた力を持つ、最強の上級リビドンである。その殺徒の力とオウザの力が合わされば、光弘すら凌駕してしまえるのだ。
「もう僕に勝てる者など存在しない。さて廻藤輪路。君には完全復活したこのオウザの、ウォーミングアップを手伝ってもらうよ。」
オウザは輪路に言った。
「…いいぜ、相手してやるよ。」
ちょうど完全回復し、輪路は立ち上がる。
(こいつをこのままにしておくわけにはいかねぇ。俺が必ず、ここで成仏させる!!)
「神帝、聖装!!」
必ずオウザを倒すと決意して、輪路はレイジンに変身する。
「まだ霊力が上がるのか…」
オウザは感心していた。これほどの差を見せつけても、レイジンの戦意が落ちるどころか、霊力が上がるのだ。
「だがその程度。僕には届かない」
しかし、互いの力に天と地以上の差があるのは明白。それでも、レイジンは諦めるわけにはいかなかった。ここで諦めてしまえば、紗由理は本当に無駄死にになってしまうから。
「レイジン、ぶった斬る!!」
「オウザ、介錯つかまつる!!」
*
オウザが全盛期だった頃、最後にこれを装着したのは、光弘への憎悪でリビドンになった浮遊霊だった。その浮遊霊の力は、殺徒の億分の一にも届いていない。にも関わらず、光弘は敗北寸前に陥るほどの大苦戦を強いられたのだ。オウザが作られた理由は、聖神帝への恨みから。そのため、聖神帝に必ず勝つための仕掛けがしてある。それが、無限強化機能だ。装着者の憎悪に応じて、オウザはその力を際限なく高めていくのだ。この無限強化機能を使われたせいで、光弘すら絶体絶命の窮地に追い込まれた。が、この機能には一つ欠点があり、装着者がある程度高い霊力を持っていないと、オウザの強化に耐えられず魂が消滅してしまうのだ。しかし、歴代最強の上級リビドンである殺徒なら、その心配はない。まさしく、最悪の組み合わせが揃ってしまったのだ。
(さて、こいつをどうやって倒すか…)
希望が見えない絶望的な戦いだが、レイジンはそれでも戦っていた。しかしやはり完全復活したオウザの力は桁外れで、以前より遥かに力を増したレイジンでも圧倒されている。ほんの一度、オウザがブラッディースパーダを振るだけで、かすってもいないのにレイジンは大きく吹き飛ばされてしまうのだ。
「やはり勝負にならないね。とはいえ、加減するつもりも躊躇もない。もう君は僕にとって必要ない存在なんだから」
オウザは完全復活し、もう魂を集める必要がなくなった。レイジンの魂も必要ない。オウザの力があれば、レイジンの魂を粉々に破壊するなど簡単だ。
(くそっ!!手が出せねぇ!!)
近寄ることもできず、歯痒い思いをするレイジン。その時、
(輪…路…)
「!!」
レイジンの頭の中に声が聞こえた。ノイズがかかっているが、今の声は間違いなく紗由理のものだ。
(紗由理!?お前なのか!?)
(輪…お…)
ノイズが激しすぎて、紗由理が何と言っているかわからない。レイジンは技の霊石を使い、絶技聖神帝になる。霊力の操作が円滑になれば、もっと聞こえやすくなるかもしれないと思ったからだ。
(輪路!!聞こえる!?)
思った通りだ。紗由理の声が、さっきよりずっとクリアに聞こえる。
(紗由理!!)
(よく聞いて!!邪神帝オウザはまだ、完全復活していない!!)
(何だと!?)
紗由理が言うには、オウザは紗由理の魂を取り込んだばかりでまだ完全に馴染んでおらず、そのおかげでこうしてテレパシーが使えるらしい。
(いつ完全に取り込まれるかわからないから、こいつを倒す方法を教えるよ!!)
紗由理はレイジンに、オウザを倒す方法を教えた。自分が取り込まれている部分の結合を極限まで弱めるから、そこを全力で斬る。そうすれば、紗由理を含めてオウザに取り込まれた魂がかなり解放されるのだ。魂の数が減れば、殺徒はオウザの変身を維持できなくなる。変身が解除されるのだ。
(けど、いくら弱めてもこいつは硬い。こいつを倒すにはありったけの霊力を込めて、さらに威力を上げた攻撃を当てるしかない)
(どうすりゃいい!?)
(…あんたが使った飛燕返しを、完全なものにする)
レイジントリニティークラッシャーでも、オウザにダメージを与えることはできなかった。さらに威力を上げるには、飛燕返しを会得した、真のソニックレイジンスラッシュを当てるしかない。
(一度しか言わないからよく聞くんだ。敵が向かってくる速度を、うまく利用して!それから、今のままのあんたじゃまだ速さが足りない!どうにか速さを上げるんだ!)
(わかった!)
それだけ聞けば十分だ。絶技聖神帝ならば、聞いたまま技を際限することができる。しかし、問題は速さだ。スピードを上げるのは、技の霊石だけでは無理だからだ。
(…もっと速く)
レイジンは祈った。どうかもっと速く。紗由理の想いを無駄にしないために、もっと、もっともっと速く。
その祈りは、聖神帝にさらなる速さを加える。
レイジンの目の前に、霊石が現れた。以前翔に見せてもらった、速さの霊石だ。
「ほう、この土壇場で新しい霊石を…だが、今さら霊石一つ増やしたところで何ができるんだい?」
確かに、技と速さの霊石二つだけでは、無理だ。これに加えて、火、力、土の三つの霊石も使わなければならない。霊石の五重発動だ。
(できるか?いや、やるんだ!紗由理の想いを無駄にしないって、決めただろ!!)
非常に厳しいが、やるしかない。やらなければならない。レイジンは三つの霊石を出し、その力を自分に宿した。五つの霊石の力を持つ聖神帝、強霊聖神帝だ。
「五重発動…なるほど、楽しませてくれるじゃないか。」
「いつまでも余裕かましてんじゃねぇよ。せっかく今俺が出せる全力を出してやったんだから、お前も全力を出しやがれ!!」
オウザは今、大きな力を得て精神に隙が生じている。そういう相手は、少し挑発してやれば簡単に乗ってくる。
「…いいだろう。ここまで僕と戦うことができた君への、せめてもの手向けだ。その魂もろとも、派手に吹き飛ばしてあげるよ!!」
思った通り乗ってきた。オウザはブラッディースパーダに霊力を込めて、振りかぶる。この時点でもう、地球全体が震えるかのような霊力が、周囲に発生している。もし全力で撃たせれば、地球は宇宙もろとも消滅してしまうだろう。
(落ち着け。撃たせるんじゃない。撃たれる前に斬るんだ!)
レイジンもシルバーレオを腰溜めに構え、霊力を込める。この一撃に全てを懸けるのだ。そして、全神経を尖らせる。早すぎず、遅すぎず、ベストなタイミングを見極めるのだ。
そして、その時は来た。
「オウザスラッシュ!!!」
オウザが突撃してきたのだ。レイジンは今だとばかりに、オウザの突撃に合わせて縮地を使う。速い。今まで使った中で、間違いなく最速の縮地だ。オウザはまだ反応できていない。
(ここだ!!)
同時に、紗由理の声がレイジンの頭の中に響く。すると、オウザの左腕の霊力が弱まった。ここが狙い所だ。
「スーパーソニック、レイジンスラァァァァァァァァァッシュ!!!!!」
レイジンはオウザの左腕目掛けて、全力の神帝戦技を放った。
「ぐああああああああああああ!!!!」
轟いたのはオウザの絶叫。レイジンの全力の一撃は、寸分違わずオウザの左腕を斬り落としたのだ。
「ば、馬鹿な!!こんなことが!!」
オウザはブラッディースパーダを落とし、左腕を押さえる。斬り飛ばされた左腕は、無数の魂となって霧散する。その中で、一つだけが紗由理の姿となって倒れた。
「まずい!!魂が!!僕が集めた魂がぁぁ!!!」
魂が不足し、オウザの変身が解除される。レイジンの変身も解除された。今の一撃で、本当に全ての霊力を使いきってしまったのだ。
「き、貴様、よくも…よくも…!!」
ようやく成し遂げられるはずだった全生命体の抹殺を阻止され、殺徒は輪路を殺すべくブラッディースパーダを拾い上げる。しかし、
「蒼炎紫雷凰!!!」
「なっ!?がああああああああ!!!!」
突然現れたヒエンの不意討ちによって、殺徒は吹き飛ばされた。普段なら気にも止めない威力の攻撃だが、今回ばかりはわけが違う。輪路が付けた傷から浄化の炎と雷が入り込み、内側から殺徒を焼いたのだ。
「廻藤!!大丈夫か!?」
「翔…お前どうして…」
倒れそうになっている輪路を支えるヒエン。
「思ったより早く俺の任務が片付いたんだ。戻ってすぐ会長から、お前への援軍として派遣されたんだよ。」
輪路はこれで一安心だ。心強い援軍が到着し、殺徒は甚大なダメージを受けている。勝てる望みが見えてきた。
「調子に乗るなよ…この程度のダメージで、僕が倒れると思うのか…!!」
なおも戦おうとする殺徒。しかし、
「そこまでよ殺徒さん。」
「黄泉子…!!」
なんと、黄泉子が現れた。
「あなたが負けるとは思ってない。でも、あなたはダメージを受けすぎた。そんなボロボロな姿を見ていたくないの」
「黄泉子…」
「私を愛しているなら、ここは退いて。」
黄泉子の言葉を一つ一つ聞く度に、たぎっていた殺徒の魂が急速に鎮静化されていく。
「…ああ、わかったよ。」
殺徒は黄泉子の言葉を聞き入れ、輪路とヒエンを見た。
「元傭兵でありながらつい油断してしまったよ。だが、次はこうはいかない。今度会った時こそ、お前の最期だ廻藤輪路!!」
殺徒は捨て台詞を吐き、黄泉子とともに帰還していった。
「…助かったか。よくやったな、廻藤。」
ヒエンは変身を解き、回復薬を渡しながら輪路を褒めた。今の戦いで、殺徒にかなりの深手を負わせたのだ。当分こちらには出てこないだろう。輪路は回復薬を受け取って飲み干し、それから翔に肩を貸してもらって紗由理のそばへ行った。
「…私が間違ってたよ。いつまでもこの世にいたから、あんなやつに好き勝手を許す隙を作った。本当にごめん」
紗由理は謝った。倒したとはいえ、オウザは紗由理のせいで復活してしまったのだ。罪の意識があるのだろう。
「わかってくれりゃいい。死んでまでこの世にしがみついてても、ロクなことがねぇ。お前は成仏すべきだったんだ」
「ああ…本当に…その通りだった…」
自分への憎悪でリビドンになった紗由理。しかし、憎悪は結局、より強い憎悪を持つ者に利用されてしまう。せっかく手に入れた強さも、憎悪が元だったがために、全て奪われてしまった。
「私、もう成仏する。でもその前に、一つお願いしていい?」
「何だ?」
「…私の分まで、強くなって欲しい。それで強くなったら、あいつを、黒城殺徒をぶっ飛ばして欲しいんだ。」
「…ああわかった。殺徒は必ず、俺が倒す。」
「…ありがとう…」
柱間紗由理は、自分に残った最後の未練を輪路に託して、成仏していった。
一人の少女の成仏と引き換えに、輪路は新たな力を得た。残る霊石は、あと一つ。
というわけで、輪路は五つまで霊石を手に入れました。あと少しで全部集まりますが、ただでは手に入りません。さらなる激闘が輪路を襲う!!次回もお楽しみに!!




