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第二十四話 学校にテロリスト

はい、もうそのまんまです。どうぞ

季節は夏。夏といえば、夏休み。多くの学校が終業式を迎える中、この夢咲高校も例外なく、夏休みを迎える準備をしていた。終業式を終えて、教室に戻ってきた彩華は、明日奈に訊く。


「いよいよ明日から夏休みですね!明日奈さんは、夏休みの予定とかもう決めているんですか?」


「あたいは…まぁ、修行かな。毎日みっちりやってるおかげでかなりマシになったけど、まだまだ力不足だし。」


寮の生活をやめた明日奈は、自宅からの通学を行っており、おかげで天照の巫女としての修行ができる。平日も休日もみっちりと行っているから、伊勢市を離れてもかなりの力を維持できるようになった。だが100%の力を使えるわけではなく、まだまだ修行が必要だ。夏休みはその全てを、修行に当てようと考えている。というのも、殺徒の存在があるからだ。初めて見た殺徒と邪神帝の力は、あまりにも強大だった。あれに対抗するために、今以上の力を得なければならない。


「奇遇ですね!私も稽古ですよ!」


「あんたのはいつものことじゃないの?」


「いつもよりずっと激しい稽古をしますよ。夏休みだからって、甘えは許されません。」


彩華は、本気で家の道場を継ごうと考えている。だから空手に関しては、妹よりも本気なのだ。


「はは。あんたらしいや」


真面目な彩華らしいと、明日奈は笑った。



誰もが希望を膨らませる夏休みは、もうすぐそこ。そう思っていた時、事件は起きた。



「動くな!!」


二つある教室の出入口。その両方から、仮面で顔を隠した男達が、マシンガンを突き付けながら入ってきた。教室はあっという間にパニックに陥る。


「騒ぐな!!じっとしていれば何もしない!!」


男の一人が言うが、パニックは治まらない。やがて痺れを切らした男の一人が、


「静かにしろって言ってるだろ!!」


マシンガンを天井に向かってぶっぱなした。その時一際大きな悲鳴が上がったが、それっきり静かになる。


「…よし。全員床に伏せろ!!」


「さっさとしろ!!」


生徒達が静まったのを見た男達は、今度は生徒達を床に伏せさせていく。だが、


「おいお前!!何をしている!?床に伏せろと言ったはずだ!!」


明日奈だけは従わなかった。マシンガンの銃口を向けられても、微動だにしない。


「聞いているのか貴様!!」


無反応な明日奈を見て怒った男は、明日奈のこめかみに銃口を押し付けた。それでもなお、明日奈は動かない。ただ冷めた目で、馬鹿にしたように男を見ているだけだ。いや、実際馬鹿にしているのだろう。いくらマシンガンで武装しているとはいえ、この男達の力は明らかに下級のリビドンより劣っている。そんな雑魚に負けるはずがない。しかし、このままでは危険なので、既に伏せていた彩華はそのままの体勢で明日奈のスカートの裾を引っ張った。


「明日奈さん、言う通りにした方がいいです。危ないですよ」


ところが、明日奈は片手で自分のスカートの裾を引っ張る彩華の手を掴んだ。


「えっ?」


「彩華。そのまま動くんじゃないよ」


明日奈は霊符を取り出した。最初に男達が乗り込んできたゴタゴタの間に、準備しておいたのだ。男は驚いて下がり、マシンガンを構え直す。


「…っ!」


明日奈が霊符に霊力を込めると、明日奈と彩華は一瞬光り、教室から消えた。


「き、消えた!?」


男は二人が消えたのを認識すると、慌てて周囲を確認したが、やはり二人は消えていた。


「い、いない!!」


「何をやっているんだお前は!!」


「す、すいません!!」


「…まぁいい。リーダーに報告するぞ!」


もう一人の男が男を叱責し、トランシーバーを取り出してどこかに連絡を取り始めた。


「リーダー。どうやら生徒の中に、異能者がいたようです。」




気が付くと、彩華と明日奈は少し離れた廊下に移動していた。


「こ、ここは!?」


「瞬転の術。瞬間移動の法術だよ。短距離移動だから、さして霊力も消費しない。」


明日奈はさっきの集団が攻めてきた時、霊力を使って索敵を行い、学校全体を調べていた。思った通り、仕掛けてきたのはあれだけではなく、学校全域に同じような集団が配置されていたのだ。それから、武装集団が配置されていない場所を見つけ出し、彩華を連れて瞬間移動したのである。


「こっち!」


明日奈は彩華の手を引くと、気付かれないように近くの教室に飛び込んだ。そこは、理科室だった。ドアに鍵が掛けられていたが、霊力を使って解錠したので問題ない。


「お姉ちゃん!」


「神田先輩!」


しかし、そこには先客がいた。茉莉と賢太郎だ。


「茉莉!賢太郎くん!どうしてここに!?」


彩華が尋ねると、賢太郎が答えた。終業式を終えて体育館から帰る途中、突然賢太郎が身体が熱くて苦しいと不調を訴え、二人で保健室に向かっていたのだが、そこへちょうど例の集団が攻め込んできて、近くにあったこの理科室に隠れていたのだという。


「しっかり鍵掛けといたはずだけど、無用心だったわ。もしさっきの人達だったら今頃あたし達、蜂の巣にされてるわね。」


「いや、鍵はしっかり掛けてあったよ。あたいが解錠の術を使って開けたんだ」


「…あらま。」


明日奈はドアに鍵を掛け直しながら言う。茉莉は開いた口が塞がらなかった。


「それより、賢太郎くんは大丈夫?」


「はい。今はもう…っていうか、さっきの人達が来る直前に治ったんです。おかげで助かりましたけど」


明日奈が訊くと、賢太郎はもう不調が治ったと言った。もしあのまま教室に帰っていたら、賢太郎と茉莉も捕まっていただろう。あまり苦しいのは好きではない、というか嫌いだが、おかげで助かった。


「それにしても、あいつら一体何なんだろう?」


「…考えにくいですけど、テロリストじゃないでしょうか…」


賢太郎が彩華に訊くと、茉莉と同じ答えを返した。確かに、テロリストとしか思えない。


「まぁ仮にテロリストであるとして、何でこんな時にこんな所狙ったのかしら?こっちはいい迷惑よ…」


「こんな時だからだろうさ。今日は終業式で、明日から夏休みだろう?みんな気持ちが浮わついてるから、絶好の狙い目だったと思うよ。」


茉莉はぼやいたが、明日奈は仕方ないという。ただでさえ学校をテロリストが狙うと考えている者などいないだろうに、加えて今日は終業式だ。全校生徒のみならず、教師までもが警戒心を薄くしている日である。不意討ちには絶好の場所で、絶好の日だ。


「…これからどうする?ここに籠城でもする?」


茉莉は全員に、これからどう動くかを訊いた。学校中テロリストだらけだ。ここもいずれ見つかる。籠城しようにも、相手は重火器で武装した超危険集団だ。


「守りに入っていては、敵に付け入る隙を作ります。こうなったら、私達でテロリストを倒しましょう!」


「はぁ!?お姉ちゃん本気!?」


「本気です!!何のために今まで鍛えてきたと思ってるんですか!?」


「…少なくともテロリストと戦うためじゃないわよ…」


彩華の案は『テロリストを倒す』だ。しかし、茉莉はおもいっきり反対した。確かに彼女達は空手を習っているが、相手は兵隊である。実際の戦場で人殺しを繰り返してきた連中に通用するとは、とても思えない。


「でも、はっきり言って他に手はないよ。人質、取られちゃったしさ。」


しかし明日奈の言うように、他に有効な手がないのも事実だ。今生徒も教師も残らず捕らえられ、この学校という名の檻に監禁されている。全員が、テロリストの人質なのだ。こうなると、外部からの救助は期待できない。外が無理なら、内側から攻めるしかないのだ。


「けど、あんたらが命張る必要はない。あの程度の連中相手なら、あたい一人で十分だよ。」


明日奈は元々、彩華達を戦わせるつもりはなかった。彩華をここに連れてきた理由は、ただ単に大切な友達だから守りたかっただけ。ここに来た理由も、ちょうどテロリストが誰もいなくて、賢太郎と茉莉がいたから。大切な存在を、一纏めにして守れるからである。


「あんたらはここに隠れてな。一応結界を張っとくから…」


そう言って霊符を出そうとする明日奈。彼女の手を、彩華が止めた。


「そういうわけにはいきません。明日奈さん、霊符のストックはいくらですか?」


「…二十枚だ。でもこれだけあれば…」


「そうだとしても、明日奈さんの霊力は無限じゃありません。ここではかなり落ちるはずです」


「…」


彩華の言うことは、間違いではない。秦野山市では、明日奈の霊力はかなり落ちる。フルパワーでも、輪路には遠く及ばない。そして、相手はかなりの数だ。明日奈一人で全員を相手するとなると、正直言ってキツい。かつてリビドンが大量発生した時は、リビドンが途中からほとんど戦おうとしなくなったため持ったが、今回は持つかどうか…それに、一つ懸念材料もあるのだ。


「私達なら大丈夫です。さっきも言ったように、鍛えてますから。確かにテロリストと戦うためじゃないですよ?でも、大切な友達の力になることくらいはできます。」


「彩華…」


「僕も戦います!だってこのままじゃ、絶対まずいし…」


「…やれやれ、こんな所に一人取り残されるのも怖いから、あたしも行きますよ。ええ、行きますとも。」


「賢太郎くん…茉莉ちゃん…」


彩華も、賢太郎も、茉莉も、三人とも戦う決意をした。彼女らも守りたいのだ。自分達を育ててくれたこの学舎を。


「…わかった。」


明日奈は了承し、作戦を練る。まず四人が固まって動くと効率が悪く、的にされかねないので散開して動くということ。ただし、賢太郎だけはまた不調に陥った場合サポートが必要なので、茉莉と組ませる。


「それから、あんたらにはこれを渡しておく。」


明日奈は三人に霊符を渡した。


「これには索敵の術がかけてある。敵が近くに来ると、脈動して教えてくれる。この脈動は音が出ないから、持ってるやつだけが敵の接近を感知できるんだ。」


さらに、明日奈は付け加える。


「あとこの霊符、霊力持ちが近付くとより強く脈動する。」


「!ということは…」


「ああ。敵の中に、かなり強い霊力持ちがいる。」


彩華の予想通り、テロリストの中には霊力の使い手がいる。先ほど索敵の術を学校全域に向けて使った時、強い霊力の持ち主が引っ掛かった。恐らく、テロリスト達のリーダーだ。これこそが、明日奈の懸念材料である。霊力の状態から見て、かなり使い慣れている。それに、どこか普通とは違う霊力なのだ。こんな存在を自分達の仲間として迎えているあいつらは、ただのテロリストではない。何が起きるか、何をしてくるかわからないのだ。もしかしたら彼女達は、とんでもない連中を相手しようとしているのかもしれない。


「こいつと出会ったら、迷わず逃げな。絶対に戦おうなんて考えるんじゃない。こいつの相手は、あたいがする。いいね?」


「「はい!」」


「はい。」


「じゃあ、あたいは体育館に行くよ。」


索敵をかけてみたが、今生徒と教師は少しずつ体育館に集められている。広い場所でまとめて管理するつもりなのだろう。明日奈はここに突撃して人質を解放し、さらに暴れることによってテロリスト達の目を惹き付ける。その隙に彩華達が、まだテロリストが立て籠っている教室から生徒を解放するという作戦だ。


「じゃあ行くよ…」


もう一度索敵をかけて、理科室の周りにテロリストがいないのを確認してから、ドアの鍵を開ける明日奈。それからドアを開け、一同は素早く、音を立てないように散開した。











ヒーリングタイム。


「…今日は輪路ちゃん降りてこないわねぇ。」


佐久真はもう正午になるというのに部屋から出てこない輪路を心配している。


「輪路さん昨日は仕事が遅かったですから…」


昨晩は任務が深夜までという長丁場で、帰ってきた時はもう2時を回っていた。だから美由紀は、輪路を起こさないようにと気を配っている。


「…ん…もうこんな時間か…」


一方輪路はようやく起き出し、時計を見ていた。それから、何か面白い番組はないかとテレビの電源を入れる。


『現在、夢咲高校前からお送りしています!』


テレビには夢咲高校と、それを取り囲む警官隊。そして、こちらに向かって必死に情報を伝えようとしているインタビュアーが映し出された。


「夢咲高校…?」


確か賢太郎達が通っている学校だ。輪路は顔をしかめる。


『突如として学校内を占拠したテロリスト集団は、生徒と教師全員の身柄と引き換えに、身代金十億円を要求しています!警官隊が現場を包囲してから既に三十分経過していますが、状況には何の進展も見られません!』


「テロリスト!?」


今は正午近い。まだ生徒がいる時間帯だ。ということは賢太郎達も…


「…」


輪路はベッドから起き上がると服を着替え、シルバーレオを携えて部屋を出た。


「あ、輪路さん。」


「おはようございます。よく眠れました?」


降りてきた輪路に、美由紀とソルフィが挨拶する。


「もうこんにちはね。今コーヒー煎れるから」


「いや、飲んでる時間がねぇ。」


「えっ?」


佐久真は輪路のためにコーヒーを煎れようとしたが、輪路はその言葉を遮る。美由紀が尋ねた。


「どうかしたんですか?」


「テレビ見てたんだけどよ、賢太郎達が通ってる高校がテロリストに占拠されたらしい。」


「!?」


店内にテレビは置いていないので、美由紀達はその情報を知らない。部屋にいた輪路だけが知ることができた情報だ。美由紀が再び尋ねる。


「もしかして、夢咲高校に行くんですか?」


「ああ。多分まだ賢太郎達は学校にいるからな、助けに行ってやんねぇと。」


輪路は賢太郎達を助けに行くようだ。


「ったく、世話の焼ける弟子だぜ。おかげですっかり目が覚めちまった」


輪路は店から出ると、バイクに乗って夢咲高校に向かった。


「私も人形を向かわせます!美由紀さんは翔くんに連絡を!」


「はい!」


ソルフィは人形を取りに奥へと走り、美由紀はこの前ソルフィから教えてもらった翔の連絡先へと電話をかける。


「あらあら、賢太郎ちゃん達ったら大切にされちゃって。」


佐久真だけが何もせず、ただコップを磨いていた。











体育館前。


「何とかたどり着いたね。」


明日奈は中の様子を伺っていた。ちなみに、入り口を守っていたテロリスト達は、額に霊符を貼り付けて電流を流し、気絶させて倒している。体育館の中には多数の生徒や教師が集められており、それらを六人のテロリストが見張っている。その六人の中に、霊力持ちはいない。リーダーならここにいるものと思っていたが、かなり意外だ。しかし、それならそれで好都合。まずは人質の解放が最優先。そのためには、テロリスト達の注意を人質からそらさなければならない。


「式神」


明日奈は式神を二枚取り出すと、それに霊力を込めて体育館内へと放った。


「あっ!何だあれは!?」


やがてテロリストの一人が式神の存在に気付き、六人全員が式神に意識を向ける。すると、式神が一瞬赤く光り、それからそこら中をぴょんぴょんと跳ね回り出した。


「くそ…!!」


それを見たテロリスト達は、式神に向けて一斉射撃を始めた。いくら得体の知れない物といえど、普通は跳ね回っているだけなら攻撃したりしない。それには、先ほどの光に原因がある。明日奈が掛けておいた、陽動光の術という法術だ。この術を掛けられたものは、敵意を持つ者から視線を向けられた時、一瞬だけ光を放つ。そして光を見た者は光を放った対象への敵意を極限まで増幅され、対象に対して徹底的な攻撃を始めるのだ。こうなると相手を倒すことのみに集中するため、他に何が起きても一切目を向けることはない。そして術の効果は、術を掛けた対象が完全に破壊されるまで続く。まさに、陽動に最適な術なのだ。式神は小さい上に素早いので、銃撃であろうと簡単にかわす。すぐには壊されない。明日奈はこの隙に体育館へと侵入し、霊力弾でテロリスト達を気絶させてから、教師達に接触する。


「神田!無事だったのか!」


「奴らはあたいが惹き付けるから、先生達はみんなを連れて早く逃げて!」


「わ、わかった!しかしどこへ!?」


明日奈が超常的な力を持つことを理解したのか、教師達は大人しく従う。明日奈はテロリストがいない場所を探すべく、索敵の術を使う。先ほどの銃撃を聞きつけたからか、あちこちからテロリストが集まってくる。


(テロリストが来ない場所はない…だったら作るまで!!)


明日奈はさらに式神を二枚追加し、それぞれの入り口から放つ。


「何だあれは!?」


「撃て!!撃て!!」


式神を見たテロリストは次々と陽動光の術に引っ掛かり、式神を攻撃する。そして式神が移動すれば、テロリスト達もそれを追って移動する。こうしてテロリスト達を安全な場所へと集め、避難経路を確保した。


「これでよし。みんなは、教室に戻って床に伏せていてくれ。」


「えっ!?」


「大丈夫。ここにいる生徒がいた教室に、もうさっきの連中はいない。」


安全な場所があるとすれば、それは教室だ。ここの生徒達がいた教室なら、もう空き部屋になっているのでテロリストはいない。いる必要がないから。


「それに…」


それに今は、頼もしい仲間達が、他の教室を解放しているはずだ。


「さぁ行って!他の経路から、テロリストが来るよ!」


明日奈は素早く生徒と教師を避難させた。実は、テロリストがここにたどり着く経路を一本作ってある。まだテロリストの気を引くという、囮役が残っているから。間もなくして、テロリスト達が体育館にやってきた。


「ここから先には、一歩も通さないよ!!」


明日奈は大幣を抜いて構えた。




彩華は生徒達が監禁されている教室を探して、見つからないように気を付けながら、しかし急いで走っている。と、


(ここですね…!)


テロリスト四人が立て籠っている教室を見つけた。ここから生徒達を救出しなければならないが、このまま突っ込めば飛んで火に入る夏の虫だ。まずはテロリスト達を、教室の外に誘き出さなければならない。その方法を考える彩華。


(…これしかありませんね…)


彩華が思い付いたのは、物音を立てるという作戦だ。何か物音を立てれば、一人か二人は必ず確認しに出てくる。彩華は近くの壁を、軽く数回叩いた。


「おい、今何か物音がしなかったか?」


「そういえば、さっき俺達の包囲から逃げた生徒が二人いるって連絡があったな。その一人かも…」


「…よし、俺が確認してくる。」


彩華の目論見通り、テロリストが一人教室から出てきた。テロリストは周囲にマシンガンを向けて警戒しながら、音がした方向に歩いていく。彩華は物陰に隠れ、テロリストが来るのを待った。そして、テロリストがちょうど良い場所に差し掛かった時、


「ぐっ!!」


彩華は物陰に隠れたまま、テロリストの顔面に裏拳を叩き込んだ。突然目の前に出現した拳に対応できず、テロリストは仮面を叩き割るほどのパワーの裏拳をまともに受けて昏倒した。だが砕けた仮面が床に落ちて音を立て、テロリストが倒れても音が鳴る。


「おい!今の音!」


「お前は見張ってろ!今度は俺達二人で見てくる!」


「わ、わかった!」


音に気付いたテロリストが、今度は二人で様子を見に来る。彩華は倒したテロリストを放置し、再び物陰に隠れた。


「あっ!」


「おい!大丈夫か!?」


テロリスト二人は、倒れている仲間の安否を確認するため、駆け寄ってくる。これは彩華が用意した即席の罠だ。テロリスト達を十分に引き付けた後、


「ぐほっ…!!」


飛び出して正拳突きを叩き込む。


「お前!!」


残った一人がマシンガンを構えるが、もう遅い。引き金を引くより早く、彩華がテロリストを蹴り飛ばした。これで残ったテロリストは、あと一人だ。しかし、


「動くな。」


彩華の背中に、ゴツゴツした銃口が押し当てられた。教室は一つだけではない。彩華の戦いに気付いたテロリストが、この階にある四つの教室から、三人ずつ出てきてしまったのだ。が、これは想定内。次の瞬間、テロリストの視界から彩華の姿が消えた。視認できないほどの速度で、テロリストの下にかがんだのだ。


「は?ごあっ!!」


何が起こったのかわからないでいるテロリストを、かがんだ状態から肘打ちで大きく打ち上げる。間髪入れず、彩華は次のテロリストの懐に飛び込み、壮絶な連打を浴びせた。


「撃つな!!味方に当たる!!」


テロリスト達は発砲しようとするが、彩華は他のテロリストに密着して戦っているため、うかつに攻撃できない。彩華は入り乱れて戦うことで、テロリスト達の銃を封じたのだ。


「くそぉ!!」


仕方なく、残ったテロリスト達はナイフを抜いて襲い掛かる。だがインファイトなら、彩華の得意分野だ。手刀で手首を攻撃してナイフを叩き落としたり、刃を蹴り砕いたりして、それに怯んだ隙を突いて次々に戦闘不能にしていく。


「こ、こいつ強いぞ!!」


「伊達に毎日鍛えてません!!」


彩華は日々激しい鍛練を積むことによって、兵隊にすら通用する戦闘力を得ていた。最後に残った一人がマシンガンを構えるが、今さら無駄なことだ。彩華は跳躍してテロリストを飛び越える。その間に発砲してきたが、当たらない。無論そのまま撃ち続けることはできないので、振り向かなければならないのだが、それより早く回し蹴りで蹴り飛ばされ、壁に叩きつけられて気絶した。どうにか余分な敵は全滅させることに成功したが、各教室にはまだ一人、テロリストが残っている。それをどうやって誘き出そうか考えていると、


「がっ!」


目の前の教室から声が聞こえた。彩華が驚いて中を見てみると、テロリストが倒れている。その後ろには、椅子を持った男子生徒がいた。テロリストが一人になったのをチャンスと取ったあの生徒が、勇気を出して背後から不意討ちしたのだ。と、


「ぎっ!」「うげっ!」「がはっ!」


他の教室からも同じ声が聞こえてきた。どうやら、やられっぱなしで終わるのは癪だったようだ。




一方、茉莉と賢太郎のチーム。


「ごめんね、僕の面倒見てもらっちゃって。」


賢太郎は茉莉に謝っていた。自分が足を引っ張ってしまったからだ。


「何言ってるのよ。幼なじみとして、当然のことでしょ?」


しかし、茉莉は全く気にしていなかった。数年前に起きたある事件について、負い目を感じていたからだ。


「っと、無駄話はここまでよ。」


「うん。」


だが、今はそのことを気にしている場合ではない。テロリストが占拠している教室を見つけた。まずは、テロリストを誘き出す。相手は四人なので、二人だけでは敵わない。それに、他の教室のテロリストまで誘き出す可能性もある。だから、慎重に行わなければ。


「…」


賢太郎は茉莉とアイコンタクトを交わし、教室のドアから手だけを出して振った後、引っ込んだ。


「待て!!」


驚いたテロリストの一人が、賢太郎を追って飛び出してくる。茉莉は物陰に隠れて、テロリストが目の前を通った瞬間に足を出し、転ばせた。


「うおぁっ!!」


テロリストは転倒し、立ち上がる前に茉莉が跳躍して、全体重をかけて踏みつけた。


「うがぁぁぁぁっ!!!」


テロリストは口と鼻から酸素を吐ききって気絶した。悲鳴に驚いて、他の教室からもテロリストが出てくる。


「茉莉ちゃん!!」


しかし、賢太郎が次の手を用意していた。消火器だ。消火器なら、学校のどの階にも複数置いてある。賢太郎は逃げてきた後、消火器を取ってきたのだ。二人は出てきたテロリスト達に向けて、消火器を吹き掛ける。テロリスト達は咳き込み、視界を奪われ、賢太郎達はその隙を突いてテロリスト達を倒した。また、教室に残っていたテロリストも、いきなり教室の外が煙に包まれて動揺していたところを、他の生徒達に倒された。











体育館。


「…もう襲ってこないみたいだね。」


襲ってくるテロリストを次々と倒していた明日奈だったが、テロリストの襲撃は突如として止んだ。式神達に誘導させていたテロリストも、全て体育館に誘い込んでいたので、どうやら全てのテロリストを倒したらしい。あとは外のテロリストだが、それは警官隊に何とかしてもらおう。


「人質を解放したことを伝えないと…」


外に連絡するため、体育館を出ようとする明日奈。その時、


「あら駄目よ。こっちが劣勢だってばらされちゃ、私が困るわ。」


背後から声が掛かった。そこには、露出度の高い服を着た女性がいた。明日奈は警戒する。この女性こそ、明日奈が懸念していた霊力持ちだからだ。


「…あんたがこのテロリストどものリーダーかい?」


「そうよ。」


女性はあっさり白状した。隠す必要がないのだろう。やはりこの女性が、テロリスト達のリーダーだった。


「リーダーのくせに戦いを部下に任せて、今まで何してたんだ?まさかずっと臆病者みたいに、隠れて見てたってんじゃないだろうね?」


「そのまさかよ。こいつらにあなたを倒すのは無理だろうって思ってたけど、まぁ役立たずではないわね。あなたをそこまで疲れさせることができたんだから」


(こいつ…!!)


明日奈がこの女性が霊力持ちだと気付いていたように、女性もまた明日奈が霊力持ちだと気付いていた。だから部下をぶつけて高みの見物を決め込み、部下が全滅したところででてきたのだ。明日奈を疲弊させるために。


「もうくたくたでしょう?そんな絞りカスみたいな状態で、私に勝てるかしらねぇ~?」


「…なめるんじゃないよ。あたいが負けるわけないだろ!!」


明日奈は気丈に答え、大幣を構えた。霊力の上下は精神力で決まる。心が折れたらその時点で負けだ。


「無理しちゃって…」


女性は呆れながら、蠱惑的な笑みを浮かべた。





ちょっと微妙ですけど、かなり長くなりそうだったのでここで一度切ります。次回はメタルデビルズでも登場した、あの人が登場!まぁ誰かわかると思いますけどね。お楽しみに!

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