第二十二話 討魔士三大士族
今回は、三大士族に少し焦点を当ててみました。
「廻藤。明日は霊力測定を行う」
「霊力測定?」
任務を終えて翔は言った。霊力測定というのは、その名の通り霊力量の測定だ。専用の測定機が存在し、その測定機から弾き出された数値に応じて試験を行う。この試験の結果次第で、討魔士や討魔術士は次の階級にランクアップできるのだ。
「階級か…そんなのあったんだな。」
「組織だから当然ある。」
事実、翔は会長補佐という階級に就いている。討魔士としての階級は、見習いから始まって初級、中級、準上級、上級の五つに分かれており、会長、会長補佐、副会長、副会長補佐は、それよりさらに上の特例階級だ。会長はラザフォード家、その下三つは三大士族しかなれない。
「お前はまだ見習いだ。だが力を付けてきたのだから、いつまでも見習いのままではいられないだろうと思ってな。」
輪路はまだ見習い討魔士である。しかし、もう霊石を四つも手に入れ、三重発動してみせた者をいつまでも見習い扱いというのは、いくらなんでもおかしい。なので、翔は輪路を昇格する試験を行う機会を設けたのだ。
「そりゃ何よりだ。で、お前の見立てだと、俺はどれくらいなんだ?」
輪路はニヤニヤと笑いながら、翔に尋ねた。その笑いには、当然かなり高いんだろう?という意味が含まれている。
「…戦闘技術はともかく、霊力の量なら上級討魔士レベルだ。」
翔はその笑顔を癪に思いながら答えた。輪路は予想が当たったと笑う。いつも厳しく接されていたので、自分はすごいのだと思い知らせることができて満足だ。
「やっぱりな!そうじゃねぇかと思ったよ!」
「ただし、試験に通らなければ昇格はできない。それと、いきなり上級になるのも無理だぞ。」
「え?そうなの?」
「当たり前だ。今言っただろう?技術がまだ伴っていないと。霊力の量だけで昇格できるほど、協会は甘くないんだ。まずは初級試験。それより上に行くのは、見習いで身に付けるべき技術がしっかり身に付いているかどうかを確認してからだ。」
「ちぇ~」
翔から釘を刺された。だが確かに、こういうのは段階だ。徐々に段階を踏んでいかなければならない。とにかく、初級試験を突破して…
「…そういやどんな試験なんだ?」
どんな試験をするかわからない。別に聞いておいてもいいだろうと思い、輪路は翔に訊いた。
「昇格試験は、基本的に三大士族が執り行う。一対一の決闘を行い、勝てば昇格できる。今回は俺がお前の相手をしよう」
「…それ合格無理じゃね?」
「そうでもない。士族側は、試験に応じたハンデを負う。見習いでも合格できるようにな」
士族との対決というとかなり厳しい試験のように思えるが、士族側は上級なら上級の、初級なら初級のハンデを負う。具体的には、霊力や使用する技の制限などだ。初級ならほとんど弱い通常攻撃しか行わないが、上級なら制限はほぼなく、奥義なども使用して本気で相手を叩き潰そうとしてくる。
「もっとも、制限以外で手加減はしないがな。」
「だよな。」
ちなみにその制限は特殊な道具を使って行う。従って、それ以外の加減はしない。する必要がない。したら、試験にならない。
「おや、昇格試験をするのか?」
と、そこに一人の男がやってきた。左目に眼帯を付けた、白髪の男だ。
「ダニエル副会長。」
翔は男の名を呼んだ。ダニエル・レッドファング。協会の副会長を務める、三大士族レッド家の当主だ。
「副会長…あんたが…」
輪路はダニエルが放つ気迫に、少し圧されている。そういえば、翔以外の士族に会ったのはこれが初めてだ。
「君が光弘様の子孫の、廻藤輪路君か。噂はいろいろ聞いているよ?あの黒城殺徒を前にしても、怯むことなく戦いを挑んだとか。」
「ああ、あのことか。あの時はああするしかなかったし、ひどい目に遭っちまったけど…」
輪路が殺徒に挑み、オウザの秘密を探り当て、黒城一派の戦力をあぶり出したことは、協会内でも既に語り草となっている。オウザの秘密を暴いたのは美由紀だが。
「いやいや、君のおかげで邪神帝を使うための真の条件、邪神帝が二体いることを突き止められたんだ。多大な功績を残したと誇っていいよ。さすが、光弘様の子孫だ。」
「いや~それほどでも…」
「ただし。」
「へっ?」
ダニエルはひとしきり輪路を褒めた後続けた。
「あの時は仕方なかったかもしれないが、今後勝手な判断で強敵に挑むのは控えるように。君は勇気と無謀は違うということを、もう少し学習する必要がある。」
「は、はぁ…」
ダニエルから注意を受けてしまった。まぁ、仕方ないことだろう。殺徒と一番最初に接触したのは、他ならぬ彼である。戦いはしなかったが、見ただけで力の差と恐ろしさを理解した。だから殺徒相手に何の準備もせず戦うことはやめろと言ったのだが、輪路はそれを聞かずに戦ったのだ。大きな情報を得られはしたが、それは結果論である。
「青羽会長補佐。確か、君が彼の監督を任されていたんだったね?」
「はい。」
「まったく…君がついていながらこのざまか。どうして君が会長補佐に抜擢されたのか、今でも理解に苦しむよ。」
「…申し訳ありません。」
輪路が勝手な行動を取ったのは翔のせいであると、ダニエルは翔を責める。だが翔は反論することもなく、素直に頭を下げて謝った。
「…ふん。次の彼の昇格試験は君が担当するそうだが、いくら後輩だからといっても手心を加えることはしないように。わかっているな?」
「心得ています。」
「ならよし。では輪路君、健闘を祈るよ。」
翔の反応が気に入らないのか、ダニエルは鼻を鳴らし、言いたいことを好き放題言って去っていった。ダニエルの姿が見えなくなってから、輪路は翔に話し掛ける。
「…なんか、えらい機嫌悪そうだったな。」
「…あの人は俺が会長補佐に就任したことを良く思ってないんだ。」
「何で?」
「あの人から見れば、俺は若造だからな。もっともそれだけでなく…いや、何でもない。」
「?」
翔が話を終えてしまったのでわからなかったが、とにかくダニエルは翔の何かが気に入らず、翔もその理由がわかっているということがわかった。
*
翌日、輪路は翔に案内され、医務室に来ていた。どうやら霊力の測定といっても気難しいものではなく、学校の体力測定と同じようなものらしい。
「今回測定を受けられる廻藤輪路様ですね?」
「あ、はい。」
「こちらへどうぞ。」
医務室の討魔術士に案内され、輪路は座る。
「ではこちらに手を置いて下さい。」
討魔術士が示した所には、ちょうど手を置けるサイズの布が用意してあり、その布はコードで近くにあるモニターと繋がっている。この布とモニターは、霊力測定機である。布の上に手を置くことで、触れた者の霊力を読み取り、モニターに数値化して表示する仕組みだ。協会には検査用と索敵用の二種類の霊力測定機があり、検査用は相手の霊力を詳細まで計れるが、持ち運びが不便である。逆に索敵用は小型で携帯に優れているが、周囲の霊力を読み取るだけで直接相手に触れないため、詳細な霊力量を計れない。今回使うのは前者だ。輪路が測定機に触れると霊力を読み取り始め、モニターに数値が表示される。輪路の霊力は、八千五百二十万だ。
「かなりの数値ですね。」
討魔術士は言った。霊力は魂の力であるため、誰もが持っている。一般人の平均霊力は、六か七。幽霊が見える、つまり霊感がある人間は三十~五十。幽霊の声が聞こえる、はっきり会話ができるレベルになってようやく百だ。幽霊に触れるようになるには二百。他者に見せたり、触らせたりできるようになるには、五百。霊力を操って幽霊に有効なダメージを与え、倒すには一気に飛んで三千必要だ。幽霊以外の相手との戦い、すなわち実戦で使いものになるようになると、一万。実戦での熟練者が、十万である。討魔士や討魔術士になると、六十万。聖神帝になれる者は、百万だ。こう見ると、約八十倍もの霊力を持つ輪路は、かなり強い方なのである。
「翔様の二倍以上あります。」
ちなみに、翔の霊力が三千九百万で、シエルが一億だそうだ。
「やっぱすげぇなシエルって。」
「当たり前だ。協会の会長だぞ?俺達をまとめ上げるには、それだけの実力も必要になる。」
「では続いて、聖神帝に変身して下さい。」
「おう。神帝、聖装!!」
次に、聖神帝に変身した状態での測定を行う。モニターに映し出された数値は、三十五億四千万だ。
「こちらも素晴らしいですね。ありがとうございます、もう結構ですよ。」
討魔術士に言われて、レイジンは変身を解く。
「…そういやよ、もしかして光弘の霊力を測定した記録も残ってたりするのか?」
輪路は少し気になったので訊いてみる。光弘は協会所属の討魔士だったので、光弘の霊力の記録も残されているはずだ。
「はい、残されています。変身前で八千九百穣、変身後で二十五溝です。」
「…うわすげぇ…」
輪路は呟いた。光弘の霊力は、兆を遥かに超えている。霊石を四つも使えるようになったし、少しは差が縮まったかと思ったが、全く縮まっていない。いやそもそも光弘の霊力自体知らなかったのだが。
「私も最初に聞いた時は、頭がおかしいんじゃないかと思いましたよ。穣以上なんて霊力、聞いたこともありません。」
討魔術士もこの数値を見た時、かなり驚いたらしい。前代未聞の霊力量で、この記録は未だに破られていないそうだ。
「私も当時を生きている人間ではないのでわからないんですが、記録によると光弘様が全力を振るった時、宇宙が消滅しかけたとか。」
「マジかよ。どんだけすげぇんだ俺のご先祖様…」
「…話がずれたが、この霊力量なら初級昇格試験を受けるには十分すぎる。試験を受けることを認めよう」
翔は輪路が試験を受けることを認めた。しかし、討魔術士が異を唱えた。
「初級昇格試験ですか?これだけの霊力があるなら、上級試験でも通ると思うのですが。」
討魔術士は、輪路がただ試験を受けるということしか聞かされていない。どの階級の試験を受けるかは、聞いていないのだ。会長補佐である翔の二倍以上の霊力となれば、普通は上級昇格試験だと思うだろう。
「霊力だけならな。だが、まだ戦闘技術が伴っていない。だからまず、初級昇格試験だ。」
「なるほど。」
「というわけだ。廻藤、お前は闘技場に行っていてくれ。俺は少し準備をしてから行く。場所はわかるな?」
「ああ。」
輪路は翔から指示を受け、試験の会場へと向かう。討魔術士は翔に話し掛けた。
「せっかくですから、翔様も測定をしていかれてはいかがですか?」
「…そうしよう。」
討魔術士の提案を聞き入れた翔は、自分も霊力の測定を行う。結果、変身前の霊力は四千六百万。変身後は七十七億だった。少し霊力が上がっている。
「あなたも新しい会長補佐として、相応しい実力者へと成長しておられますよ。自信をお持ち下さい」
「…ありがとう。」
討魔術士の言葉の意味を知る翔は、礼を言って医務室を出ていった。
*
協会本部の地下には、巨大な闘技場がある。この闘技場は、大事な試験や大会を行うための、神聖な舞台なのだ。昇格試験も、ここで行われる。
「遅くなった。」
素振りをしながら翔を待っていた輪路のもとへ、翔が到着する。翔の左腕には、何か機械が取り付けられていた。これはスキルリミッターという道具で、付けた者の能力を制限することができる。士族側は試験の際、これを付けて試験を行う。
「こっちは準備万端だぜ。」
「よし、では早速始めよう。」
試験の形式は、一対一の決闘だ。対戦相手の士族は、審判も兼用している。もちろん、判定に手心を加えはしない。
「来い!」
「行くぜ!!」
翔から挑発され、輪路は縮地を使って一気に距離を詰めてから、シルバーレオを振り下ろす。翔はそれを防ぐが、輪路は蹴りを放った。翔は飛び退いてかわす。輪路はシルバーレオを振るい続ける。
(無重動法は使わないらしいな)
翔は無重動法を使わず、通常の回避か防御かで輪路の攻撃をさばいている。使わないというよりは、使えないのだろう。どうやら無重動法は、スキルリミッターの制限に入っているようだ。普通に考えれば、当然である。あの技は強力すぎる。使われたら攻略がかなり難しい。ついでに言えば、炎翼の舞いも使ってこない。あれも制限に入ったようだ。
(よし、いける!)
それでも翔の戦闘力は高かったが、一番厄介な技さえなければ何とかなる。そう思った輪路は、明鏡止水の境地へと入った。翔の討魔剣を弾き、胴に二発ほど打ち込み、シルバーレオを喉元に突き付ける。
「…俺の負けだ。」
実戦ならもう三回は殺されている。そう判断した翔は負けを認め、輪路を合格させた。これで輪路は、ようやく初級討魔士になれたのだ。
試験に合格した場合、それをシエルに報告するための書類を書かなければならない。翔は書き方を輪路に教えるため、上へと戻る。その途中で、ダニエルと出会った。
「おや、試験はもう終わったのかい?」
「おう!合格してやったぜ!」
「それは結構。」
「副会長はどちらへ?」
「これから別の討魔士の中級昇格試験を担当しに行くところだ。」
どうやら、ダニエルも試験を執り行うようだ。それだけなら、まぁよかったのだが、
「…愚問だとは思うが、手を抜いてはいないだろうな?」
その後がまずかった。翔が本気でやったかどうか、疑っているのだ。そこで輪路は思い出した。ダニエルは翔のことを良く思っていないのだ。
「手抜きなんてしてねぇよ。戦った俺が一番、よくわかってる。」
「…ならいい。」
輪路が言うと、ダニエルは不機嫌そうではあるが、素直に去っていった。
「…行くぞ。」
「あ、ああ…」
二人も上に戻っていった。
*
ヒーリングタイム。
「合格おめでとうございます!」
美由紀は輪路が試験に合格したことを祝った。ちなみにもう十時を過ぎているが、輪路はかなりゆっくりしている。見習い討魔士は上級討魔士が監督についているが、初級討魔士になるとその監督が取れるのだ。輪路も初級討魔士になったため、翔の監督が取れたのである。監督さえなければ任務はいつ参加してもいいため、輪路はゆっくりしているのだ。父の葬式のこともあってかなり慌ただしかったが、ようやく落ち着けた。
「ありがとよ。あ、そうだ。なぁソルフィ」
「何ですか?」
「ダニエル副会長に会ったんだけどよ、あの人翔のこと嫌ってるみてぇでさ…お前翔の幼なじみなんだろ?お前なんか知らねぇか?」
「…」
ソルフィは黙った。言うべきか言わざるべきか、迷っているらしい。
「…翔くんには黙っているよう言われてるんですけど、やっぱり廻藤さんには言った方がいいですよね。」
ソルフィは話すことにした。
討魔士の名門ラザフォード家。その初代当主フィリエル・マルクタース・ラザフォードは、バラバラに戦うのではなく結束して、組織を結成して脅威に立ち向かうべきだと提案した。この提案に全面的に賛同したのが、レッドファング家、グリーンクロー家、青羽家。後に三士族と呼ばれることになる、討魔士の名家である。初代当主達の誇りは現代にまで脈々と受け継がれているが、その誇りでダニエル・レッドファングの右に出る者はいない。しかし、そんな彼でも、青羽家の今代当主、青羽飛鳥の実力には届かなかった。飛鳥は翔の母であり、翔が光弘の次に憧れていた討魔士だった。ダニエルもまた、彼女を目標にしていた。自分にとって飛鳥は、強さの象徴のような存在だったのだ。しかし、ある任務。その任務には、飛鳥が翔を同行させていた。しかし、まだ未熟だった翔は窮地に陥り、その翔を魔物の攻撃から庇って、飛鳥が重傷を負った。魔物の討伐には成功したが、飛鳥は討魔士として二度と戦えなくなってしまった。欠けた青羽の座を補うため、翔は飛鳥から聖神帝ヒエンを受け継ぎ、会長補佐となったのだ。
「副会長はその時のことをずっと恨んでいるんです。自分が戦って乗り越えるはずだった飛鳥様を、翔くんが二度と戦えなくしてしまったって…」
だから、自分の実力ではなく、たまたまヒエンを受け継いだだけの存在である翔を、ダニエルは絶対に認めない。無論、翔はヒエンを受け継ぎ新たな青羽家当主になるため、他の討魔士の何倍も厳しく鍛えられてきた。事件が起きてからはダニエルに、他の討魔士達にも認めてもらおう、自分は飛鳥の息子であると認めてもらおうと、より一層自分を厳しく鍛えた。そのおかげで他の討魔士達は翔を認めてくれたが、ダニエルだけはまだ認めてくれない。
「副会長も、本当は翔くんを恨んじゃいけないって、わかってはいるんです。でも…」
討魔士とて不老不死というわけではない。霊力を操ることである程度寿命を伸ばすことはできるが、それでも長生きできるだけでいつかは必ず老衰で死ぬ。ゆえに、生物というものは次代に己の意志を託さねばならない。三大士族にも必ず、その時は来る。飛鳥は一足早く、それを実行したにすぎないのだ。それはわかる。わかるのだが、ダニエルはそれを認めたくなかった。人間は時として、大局よりも自分の思いを優先することがある。ダニエルもそうだった。次代に全てを託す、その時が来る前に超えたかった。それを邪魔した翔を、ダニエルは恨んでいる。正義の使者としてそれがどれほど間違っている行為かはよく理解しているのだが、それでも翔を恨む自分を止められないのだ。
「…」
話を聞いた輪路は、おもむろに立ち上がった。
「輪路さん?」
「悪い。ちょっと用事ができちまったから、協会行ってくるわ。マスター、これコーヒー代。釣りはいいから」
「はいはい、気を付けてね」
輪路は佐久真にコーヒー代を渡し、店を出ていった。
「…ダニエル副会長を説得しに行ったんですね。」
「あの人結構頭固いから、簡単にはいかないんですけどねぇ…」
輪路は直接口に出さなかったが、美由紀とソルフィは輪路が何をしに行ったのかわかった。
「協会って、私が思ってたより大変なところなんですね。」
「大変ですよ。変わり者な人とかたくさんいますし」
「あはは。シエルさんも大変ですね」
「ホントです。私達をまとめてる会長が、一番大変なんですよ。」
美由紀は、シエルも苦労しているなと思った。直属の配下である三大士族がこうなのだから、それより下の人達をまとめるのはもっと大変だろうと。
「…大変と言えば、シエルさんのお兄さん、ブランドンさんは一体何をしようとしているんですか?」
美由紀は気になったので聞いてみた。きっと何か目的があるはずである。
「…よくわからないのですが、ブランドンはアーリマンを召喚しようとしているらしいです。」
「アーリマン…」
アーリマンとは、ゾロアスター教に登場する、悪を司る神だ。ブランドンは、そのアーリマンをこの世に召喚しようとしているらしい。アーリマンの力を使って、この世界を支配することが目的のようだ。
「でも何でそんなことを…」
美由紀が疑問に感じながら、佐久真を見る。カップを拭いていた佐久真の手が、突然止まったからだ。佐久真はどこか悲しそうな、怖い顔をしてうつむいている。
「店長。店長!」
「えっ、何?」
美由紀が二回声をかけると、佐久真は元の顔に戻った。
「どうしたんですか?今すごく怖い顔してましたけど…」
「何でもないわ。さ、仕事に戻って戻って!」
佐久真は、まるで何事もなかったかのように、美由紀を仕事に戻らせた。そんな佐久真を、ソルフィは黙って見ていた。
*
翔はシエルに呼び出されていた。
「いかがなさいましたか?」
「翔、あなたに緊急任務を命じます。アルプス山脈に、ダークキマイラが出現しました。」
「!!」
翔は目を見開く。ダークキマイラ。それは十年ごとに出現し、近くにいる生物に無差別に襲いかかる危険な魔獣だ。彼が見習い討魔士だった頃に戦い、母に討魔士として二度と活動できなくなるほどの傷を残した相手でもある。翔はあの時のリベンジをするため、ダークキマイラが出現したら真っ先に自分に討伐任務を回してもらうよう、シエルに頼んでいたのだ。
「すぐ出立します。」
「翔!」
焦るかのように、足早に部屋を出ていこうとする翔。そんな彼を、シエルは呼び止めた。
「…あなたとダークキマイラの間に、どういう因縁があるかは知っています。ですが、わかっていますね?決して気負いすぎてはいけません。」
飛鳥は自分の後継者として、翔にヒエンと会長補佐の座を譲った。もしこの戦いで死ねば、そんな飛鳥の想いを無駄にしてしまう。ダークキマイラは、単独で倒すためには三大士族レベルの討魔士の力が必要な、油断のならない強敵なのである。
「…わかっています。」
しかし、それは翔もわかっていること。翔は静かに告げて、部屋を出ていった。
*
「すんません。」
輪路は美由紀達が予想した通り、ダニエルの所を訪れていた。
「何かね?」
「いや、あんたに一つお願いがあるんですけどね?」
「お願い?まぁ私に叶えられる範囲だというのなら、叶えてやらんこともないが。」
「じゃあ…翔のこと、認めてやってくれませんかね?」
輪路がそう頼んだ時、ダニエルが一瞬黙った。
「…何の話だ。」
「人の話に勝手に首突っ込んだことは謝りますよ。けどあいつからいろいろ教わった身としては、あいつが抱えてるモンを見逃すってことができないわけで…」
これは本来、輪路が介入すべきことではないのかもしれない。しかし、翔にはいろいろ世話になったし、助けられたこともたくさんある。助けられっぱなしというのは、輪路にとってかなり気持ち悪い。
「君なりに青羽会長補佐に対して恩義を感じてはいるだろう。だが、君には関係のない話だ。これ以上踏み込むのはやめてもらう」
やはり、ダニエルは輪路に踏み込んで欲しくなかったようだ。だが、このままでは何も進展しないだろう。仕方ないが、強行手段を取らせてもらうことにした。
「じゃあ俺が翔のおかげで強くなったって証明したら、あんたは翔を認めてくれるか?」
「何?」
「あんたは翔が、会長補佐の後釜として相応しくないって思ってんだろ?だったら翔は会長補佐として立派にやってるって証明すりゃいいわけだよな?」
「それと君の成長に何の関係がある?」
「翔はシエルから、俺を一人前の討魔士に育てるよう命令されてる。だから俺が強くなれば、それは翔の手腕だってこった。」
「…なるほど、確かにそうだ。それで?」
「あんたに決闘を申し込む。昨日初級昇格試験に合格したばっかだが、中級昇格試験をさせてもらうぜ。」
翔は輪路を一人前にするよう命じられた。初級昇格試験はその目安である。だからこそ、翔は輪路の監督から外れたのだ。だが、もし輪路の成長が周囲の予想以上だったら?初級昇格試験の合格は、まぁ当然だろう。しかし中級昇格試験に合格したら?翔の手腕は、周囲にとってかなり注目されることになる。そしてその中級昇格試験の相手がダニエルだったら、もう誰も翔の力を無視できない。認めるしかない。本当は最初から中級にすべきだったのだが、この期間なら十分間に合う。理屈は合っている。合っているのだが、
「…君は自分が何をしようとしているのか、理解しているのか?」
そのためにはダニエルと戦って勝利しなければならない。無論それは簡単なことではないだろう。ダニエルは恐らく、翔より強い。そして中級昇格試験ともなれば、制限は初級昇格試験時よりも軽くなる。初級の時は制限されていたから無理だったが、中級の時は聖神帝も使用できるのだ。
「もちろんわかってるさ。だがな、あんたに勝たなきゃこの話は進まねぇんだ。俺はとっくに覚悟してんだよ!」
しかし無茶は承知だ。これくらいのことをしなければ、ダニエルはいつまで経っても翔を認めない。
「でどうなんだ?まさか逃げたりしないよな?」
輪路はダニエルに、決闘をするかどうか問う。
「…以前言ったはずだ。君はまだ、勇気と無謀の違いを学習できていないと。」
ダニエルは少し説教した後、輪路の問いに答えた。
「…どうやら、私が直々に教えてやらねばならんらしいな。よかろう」
ダニエルは輪路の決闘を受けた。
*
アルプス山脈は、名の知られた山である。それゆえに、山自体が強大な霊力を持っている。それだけならよかったのだが、十年に一度、この山は大規模な霊力の排出を行う。霊力を山の周辺に行き渡らせるためだ。霊力が満ちる場所では、生命が活発となる。しかし、この山がもたらすのは恩恵ばかりではないのだ。その霊力の排出される場所に、霊力を求めて大量の動物霊が集まる。そして霊力が排出された際、動物霊達は我先にと霊力を奪い合い、争う。その結果動物霊達が複雑に集合し、一体化して一匹の魔獣が誕生する。それが、ダークキマイラだ。魔獣というよりは幽霊の集合体と言えるが、リビドンとほぼ同質の存在であるため、一般人でも目視できる。そして今、翔の目の前にはそのダークキマイラがいた。鳥の翼が二枚、コウモリの翼が二枚。計四枚の翼と、狼と猫とネズミの三つの頭。それから、熊の胴体に六本の犬の足を持つ、山の動物を片っ端から集めて混ぜ合わせたような異形。これが、ダークキマイラの全貌だ。
「…はぁ…はぁ…はぁ…!!」
翔はまだ戦っていない。見ているだけだ。だが見ているだけで、動悸が早くなる。呼吸が荒くなる。手が震える。翔は怯えているのだ。かつて戦い、自分の力が全く通じなかったこの魔獣に。母に重傷を負わせた、このダークキマイラに。
「翔様、大丈夫ですか?」
彼のそばには、討魔術士が一人いる。今アルプス山脈の全域に討魔術士が配備され、ダークキマイラが一般人に危害を加えぬよう結界を張っている。ここにいる討魔術士も、その一人だ。加勢するためではない。自分とダークキマイラとの戦いには、絶対に手を出すなと命令している。
「…大丈夫だ。」
目の前にいるダークキマイラは、あの時のダークキマイラと同一の個体ではない。しかしそれでも翔にとっては、ダークキマイラという存在そのものがトラウマだ。ゆえに、それを克服するためにここに来た。ダークキマイラを自分一人の手で倒さなければ、真の意味でヒエンを受け継いだことにはならないのだ。翔自身が認められない。
「俺はもう…あの時とは違う!!」
翔は怯え続ける自分に檄を飛ばし、
「神帝、聖装!!」
ヒエンへと変身する。こいつだけはヒエンの力で、ヒエンを受け継いだ自分の力で倒さねばならない。だから、最初からヒエンを使う。
「今日俺は、俺自身を超える!!!」
「キシャァァァァァァァ!!!」
ヒエンの覚悟に応えるように、ダークキマイラが吼えた。
*
闘技場。
「確認させてもらうが、本当にいいのかね?力の差を嫌と言うほど思い知ることになると思うが。」
「くどいぜ。あんたこそ俺の強さにビビるなよ?」
ダニエルが確認してくるが、輪路は考えを曲げない。仕方なく、ダニエルは輪路に付き合ってやることにする。
「神帝、聖装!!」
まず輪路が先に変身し、シルバーレオを抜く。
「…神帝、聖装!!」
次にダニエルが変身した。狼の姿をした、真紅の聖神帝だ。名はウルファン。レッドファング家が代々受け継ぐ、狼型聖神帝である。ウルファンは背負っていた巨大な西洋剣、ビッグスピリソードを抜いて構えた。
「行くぜ!!」
突っ込むレイジン。縮地を併用し、シルバーレオの刺突を放つ。ウルファンはビッグスピリソードを腰溜めに構え、レイジンが間合いに入った瞬間に振った。レイジンは刺突を中断して、ビッグスピリソードを防ぐ。縮地のスピードを見切り、レイジンの接近に合わせたのだ。しかし、それだけでは終わらなかった。ビッグスピリソードを振り抜き、レイジンを吹き飛ばしたのだ。ヒエンがスピードタイプなのに比べて、ウルファンはパワータイプだ。ビッグスピリソードの重量とリーチの長さを活かした攻撃を、遺憾無く発揮する。翔とは別ベクトルの強さだ。その上縮地を見切るほどの動体視力を持っているのだから、明らかに翔より強い。
「ライオネルバスター!!!」
ならば作戦変更とライオネルバスターを使うレイジン。しかし、
「ウルフハウリング!!!」
ウルファンは胸にある狼の装飾の口から同等の威力の衝撃波を放ち、ライオネルバスターを相殺した。
「どうした?偉そうに息巻いていたくせに、まさかこの程度で終わるということはないだろうな?」
「ったりめーだ!!まだまだこれからだぜ!!」
レイジンは力の霊石を使い、剛力聖神帝となる。力で対抗するつもりだ。
「ハァァァァッ!!!」
レイジンは力を増した一撃を、ウルファン目掛けて放つ。しかし、ウルファンは特にどうということもなく、ビッグスピリソードで受け止めた。ウルファンは霊石を使っているわけではない。制限に入っている。しかし、それでも単純なパワーで、剛力聖神帝となったレイジンと拮抗しているのだ。
「何!?」
「霊石を使ってその程度か。期待外れだ!!」
ウルファンはシルバーレオを弾き、レイジンの胴を連続で斬る。斬って斬って、それから蹴り飛ばした。
「わかったか?お前は自分の実力を見誤り、そして無駄に傷付いた。それが、勇気と無謀の違いだ。何も考えずに己の直感に従って戦えば、待っているのは意味のない早死に…」
ウルファンは倒れたレイジンに、ゆっくり近付いていく。
「殺しはしない。だが、貴様の自尊心は死ぬ。もっと腕を上げてから出直してこい」
そして、ビッグスピリソードを振り上げた瞬間、
「なに勝った気になってんだよ。」
レイジンが土の霊石を使い、ビッグスピリソードを片腕で防いだ。
「む!?」
「まだまだァァッ!!!」
さらに火の霊石までも使い、剛焔激聖神帝にパワーアップ。
「ウラァァァァ!!!」
ビッグスピリソードを弾き、シルバーレオを振り回してウルファンを引き離す。予想外の反撃を受けたウルファンは、勝負を決すべくビッグスピリソードに霊力を込めた。
「レッドファング流討魔戦術奥義、ウルフファングリッパー!!!」
「レイジントリニティークラッシャァァァァァァァ!!!!」
レイジンもまた霊力をシルバーレオに込め、ウルファンと正面からぶつかる。レイジンの一撃は、ウルファンのビッグスピリソードを容易く叩き折ってしまった。
「馬鹿な…!!」
「俺の勝ちだ。文句ねぇだろ?」
レイジンは驚くウルファンの喉元に、シルバーレオを突き付ける。ビッグスピリソードは砕かれ、あと一センチ刃を押し込めば、レイジンはウルファンの首に傷を付けることができる。しかし、
「舐めるなァッ!!」
ウルファンはレイジンが怯むほどの気迫とスピードでシルバーレオを払いのけた。
「これで勝ったなどと思うなよ!!まだ私は戦える!!」
武器は破壊された。だが、それが何だというのだ。まだ闘志は折れていない。聖神帝最強の武器である心さえ折れなければ、負けではないのだ。
ただしそれは実戦の場合である。
「もういいでしょう?そのぐらいにして下さい。」
そこへ、白髪の老婆が入ってきた。ウルファンは名を呼ぶ。
「シルヴィー副会長補佐!!」
この老婆こそ、ダニエルの補佐を務める最後の士族、シルヴィー・グリーンクローである。
「あんたが副会長補佐か。」
「お初にお目にかかります、廻藤輪路。まずはこの度、副会長補佐でありながら副会長を止められなかった私の不手際をお許し下さい。」
「あ、いや…」
いきなり頭を下げたシルヴィーに、レイジンは狼狽する。
「副会長。あなたはいつまで会長補佐を認めないつもりですか?」
「私は何も」
「ずっと見ていましたが、廻藤輪路の成長は目覚ましいものがあります。それも一重に、会長補佐の指導があってのもの。これだけのものを見せつけられては、認めるしかないと思いますが?」
「ぬ、うう…」
シルヴィーはウルファンに反論を許さない。
「廻藤輪路。あなたは素晴らしい方ですね」
「へ?いや、何で?」
「あなたはこの堅物に会長補佐の実力を認めさせるために戦ったのでしょう?まだ協会に入ったばかりだというのに、なかなかできることではありませんよ。さすが、光弘様の子孫ですね。」
確かに翔の実力を認めさせるために戦ったのは事実だが、まさか副会長補佐にここまで褒められるとは思わなかった。
「今回の中級昇格試験は、私の判断を以て合格とさせて頂きます。」
「ちょっと待て!何を勝手に話を進めている!?」
「…では訊きますが、霊石の三重発動が可能な聖神帝相手に、中級の制限で勝てますか?勝てませんよね?その剣のようにボロボロにされるのがオチです。そんな醜態をさらしたいのですか?」
「ぐ…」
言い返せない。仕方なく、負けを認めて変身を解いた。レイジンも変身を解く。
「…確かに私の負けだ。青羽会長補佐の実力を認めよう」
去っていくダニエル。口ではああ言っているが、どうも納得していないようだ。まぁ全力を出せる戦いではなかったわけだし、仕方ないのかもしれない。
「ごめんなさいね。あの人、いつも言って聞かせてるんですけど。」
「あ、いえ…そういえば、あんたは翔のことどう思ってるんだ?」
「私は最初から認めていましたよ。飛鳥さんが見出だした後継者ですからね」
シルヴィーは最初から翔を会長補佐として認めていたらしい。
*
「おおおおおっ!!」
ヒエンとダークキマイラの激闘は続いていた。さすがに強い。しかし、負けるわけにはいかない。
「ガァァァァァァァァァ!!!」
ダークキマイラは三つの口から、黒い炎を吐いて攻撃してくる。ヒエンに炎は効かない。だが、炎のせいでヒエンの視界が塞がれてしまった。その隙に接近したダークキマイラが、右前足を振り下ろしてくる。それを炎翼の舞いでかわすヒエン。しかし、ダークキマイラはダメージを受けない。さっきも、何度も朱雀狩りを放ったが、ダメージを与えられなかった。
(やはりパワーが足りない…!!)
ダークキマイラはいくつもの魂が結合してできている魔獣だ。一つ一つの魂は弱い動物霊のものだが、それが、何千、何万と集まることによって、物理的にも霊的にも凄まじい防御力を得ている。ずっと前からの課題だったパワー不足が、この肝心な場面でも足を引いていた。
(もし廻藤なら…)
レイジンのトリニティーレイジンクラッシャーなら、間違いなく勝てただろう。しかし、その考えを振り払った。
(俺はもう誰にも頼らないと決めたんだ!!あいつを頼ってどうする!!)
そう。会長補佐としての実力を示すために、ダークキマイラを倒すために、もう誰の力も頼らないと決めた。もちろん、このダークキマイラは十年前の個体とは完全な別物である。しかし、ダークキマイラを倒すことは、己のトラウマを越えるための目標だったのだ。
(力が…もっと力が欲しい!!)
ゆえにヒエンは強く願った。ダークキマイラを倒すための力が欲しい。このトラウマを乗り越えるためには、今こそ力が必要なのだと。
力への渇望は、聖神帝に新たな力を与える。
ヒエンの目の前に、レイジンのものと同じ、力の霊石が出現したのだ。
「やっと来たか…」
青羽翔は、輪路ほどの激情家ではない。聖神帝の新たな力を開発するためには激情が、強い感情の爆発が必要なのだ。だから、今まで力の霊石の発現に時間が掛かった。そして待ち望んでいた霊石を掴み、ヒエンは剛力聖神帝となる。ただし、変身後の姿だけはレイジンと違い、牙の装飾が両腕に施されていた。
「朱雀狩り・剛!!!」
より威力の強化された朱雀狩りを放つヒエン。ダークキマイラの顔面に燃える裂傷が入り、ダークキマイラは大きく怯んだ。その隙に跳躍し、
「青羽流討魔戦術奥義、蒼炎鳳凰・猛火!!!」
より巨大に、より鮮やかに燃える蒼炎鳳凰を発動。ダークキマイラを塵一つ残さず、焼却した。
「やった…!!」
ヒエンは変身を解く。ダークキマイラを倒し、翔はようやくトラウマを克服した。
*
翔は協会に帰還した後、自宅に帰宅した。
「ただ今戻りました。」
そう言って頭を下げた相手は、床に伏せる老婆。彼女こそ翔の母、青羽飛鳥である。飛鳥は翔に呼ばれて、目を開けた。
「ダークキマイラを討伐して参りました。」
「そうか。誰か一緒に連れていったかい?」
「いえ、私一人です。」
「…馬鹿な子だねぇ。」
飛鳥はそれだけで、翔の全てを察した。自分の仇を討つためだということも。
飛鳥には、左腕がない。十年前翔をダークキマイラの攻撃から庇った際、切り落とされたのだ。それだけでなく、背中にも大きな傷がある。治療しきれないほど深い傷で、そしてその傷は命まで届いている。
「…恐らく私の命は、来年の春を迎える前に尽きる。」
まぁ元々八十を超える老齢だったし、そこから大怪我を負ってなお十年生き延びたのだ。奇跡と言っても差し支えない。
「それまでに、もっと強くなれ。今のお前は、まだまだ会長補佐としてひよっ子だからね。」
「…心得ています。」
翔は再び、頭を下げた。
*
「何を考えているんだお前は。」
輪路がダニエルと戦い、中級昇格試験に合格したと知ったのは、翌日だった。
「いいだろうが別によぉ…俺はお前を認めさせるために」
「そんなことは頼んでいない。これは俺が解決しなければならない問題だ。お前に心配される筋合いはない。俺の事情に構っている暇があるなら、お前は一刻も早くもっと強くなれ」
「何だよ…」
別に褒められると思ってはいなかったが、あまりにも辛辣な言葉である。だが、と翔は続けた。
「一応礼は言っておく。そして、よく中級昇格試験に合格した。その点は評価しておこう」
翔はそう言ってどこかへ行った。
「…確かに、余計なことだったかもな。」
翔は強い。自分よりも遥かに。そう思うと、自分がしたことは確かに余計なことだったかもしれない。輪路は密かに反省するのだった。
翔もパワーアップです。次回は何を書こうか考えていないので、今回より遅れるかもしれません。ですが、エタることはないのでご安心を。




