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第二十話 血塗られた魔剣

今回は、久々に本格的な任務です。

冥魂城。


「ダーインスレイヴ、ですか?」


殺徒と黄泉子に呼び出されたデュオールは、新しい命令を受けていた。


「そうだ。至急、それを奪ってきて欲しい。」


「かしこまりました。」


「それと、現地にはもうアンチジャスティスのスタッフがいるから、彼らと協力してくれ。」


「は。」


命令を受けたデュオールは、玉座の間を出ていく。


「魔剣ダーインスレイヴ、か…そんな物が実在するなんてね…」


「僕も驚いているよ。あれはお伽噺話の中だけの存在だと、つい最近まで思っていたからね。でも実在するというのなら、ぜひとも手に入れたい。」


「そうね。うふふ…」


殺徒と黄泉子は互いに身体を絡め合いながら、笑い合う。


(さてデュオール。君は最近失敗続きだから、これぐらいの任務は成功させてくれよ?)


黄泉子と愛し合いながら、殺徒はそう思っていた。




「デュオール。」


「シャロンか。」


シャロンは任務に出発する途中のデュオールと、うまく出会うことができた。


「また任務?」


「ああ。曰く付きの魔剣を一本奪ってくるように、とのことだ。」


「魔剣?」


「何でも神話に出てくる剣だそうでな、殺徒様が興味をお持ちだ。」


「うまくいきそう?」


「…いかせねばならん。わしは最近失敗続きだから、もしこの任務にまで失敗したら確実に殺徒様の逆鱗に触れる。」


黄泉子はともかく、殺徒は自分が期待した通りの働きができない者に容赦をしない。いくら死怨衆といえど、これ以上失敗を重ねるなら確実にオウザ復活の贄にされる。仕事ができない部下が最後にさせられる、絶対に役に立てる仕事だ。しかしそうなるわけにはいかない。だから、この任務は絶対に成功させなければならないのだ。


「気を付けてね。」


「ああ。お前こそ、冥魂城の守りを頼むぞ。」


この任務が成功する保証などない。だが、成功させねばならないのだ。でなければ、自身が死んだ意味すら完全に失われてしまう。デュオールは今度こそ、冥魂城から出撃していった。











協会。

輪路と翔は、シエルに呼び出されていた。


「何の用だシエル?まさかまた女になれなんて言うんじゃ…」


「魅力的ですが、残念ながら違います。もっと真面目な、緊急の任務です。」


不吉なことを言われたが、今回は女体化の命令ではないらしい。


「オークニー諸島のとある遺跡で、ダーインスレイヴが発掘されたらしいのです。」


「ダーインスレイヴ!?」


翔は知っているらしく、かなり慌てている。


「ダー…何だそりゃ?」


輪路は知らないので、何なのか質問した。



ダーインスレイヴとは、北欧神話に登場する魔剣である。魔剣と付く通り、魔法が掛けられた剣で、斬った相手に癒すことのできぬ傷を与えるという。それだけなら再生能力を持っている相手を倒すのに便利な剣と片付けられるが、当然それだけではない。でなければ、緊急指令を与えたりなどしない。ダーインスレイヴには呪いも掛けられており、一度鞘から抜くと持ち主の殺人衝動を極限まで増大させ、暴走させる。その効果は周囲にいる者を傷付け、血を刃に吸わせるまで続くので、抜かせたが最後確実に誰か死ぬ。


「伝説を知る者なら、恐れて誰も抜こうとはしないだろう。だが問題なのは、第三者の存在だ。」


翔やシエルが危険視しているのは、ダーインスレイヴを抜こうとする者より、抜かせようとする者の存在だ。もし何も知らない一般人にダーインスレイヴを持たせ、抜かせるような真似をしたら…。


「殺徒が一番喜ぶよな…」


その第三者に該当する人物が、黒城殺徒だ。あの男は邪神帝オウザを復活させるため、より多くの人間の魂を欲している。復活には高い霊力を持つ魂を使うのが望ましいのだが、もし対象を選ばなくなった場合、ダーインスレイヴの存在を知れば確実に強奪し、他者に使わせるだろう。


「そうなる前に、あなた達にはダーインスレイヴを破壊してもらいたいのです。」


シエルが命じたのは、魔剣ダーインスレイヴの破壊だ。確保や封印ではなく、破壊。不用意に抜けば大量虐殺を引き起こす剣など、残しておいたところで害にしかならない。唯一のメリットである再生阻害も、今では様々な術で代用ができる。だから破壊したところで、何の問題もないのだ。


「わかった!そのダーインスレイヴっていう物騒な剣を叩き壊してやるぜ!」


「了解しました。喜んで引き受けさせて頂きます」


「頼みましたよ。場所は先ほど言った通り、オークニー諸島の遺跡です。」


輪路と翔は任務を受け入れ、オークニー諸島へと向かった。











オークニー諸島。ここはダーインスレイヴの伝説の発祥となった地であり、そこに当のダーインスレイヴが遺されていたというのは感慨深いものがあるが、


「迷惑なモン作って遺しといてくれたよな。」


物が物である。輪路の言う通り、迷惑でしかない。ちなみに、どうしてダーインスレイヴが発掘されたのかを知ったかというと、近くで偶然魔物と戦っていた討魔士が、遺跡の外で震えている一人の男を見つけたからだ。男の話によると、彼は遺跡の発掘調査隊の一人で、遺跡の最奥に安置されていた一本の剣を発見したそうだ。その剣を興味本位で抜いてみたところ、突然人殺しがしたくなり、気が付いた時には調査隊が全滅していたという。剣を見てみると、刀身が血で染まっており、自分がやってしまったという恐怖と自責の念で剣を投げ捨て、かといってどうすることもできず遺跡の外で一人ただ震えていた、とのことである。討魔士はこの地の歴史について覚えていたため、剣の正体がダーインスレイヴだと知った。その後は討魔術士の応援を呼び、男に鎮静と記憶操作の術を掛けて解放した。調査隊は遺跡に仕掛けられていたトラップに掛かって全滅したという偽の記憶を刷り込み、またそう伝わるよう情報操作もしたので、世間に真実が広まることはない。そして現在、遺跡は多数の討魔士と討魔術士に封鎖されている。


「ご苦労様です。」


輪路達に挨拶したのは、その討魔士の一人だ。ここを封鎖している討魔士達は、全員地元の警備員の装いをしている。怪しまれないようにするためだ。


「こちらへどうぞ。」


討魔士は輪路と翔を、件のダーインスレイヴが安置されている場所へと案内する。




遺跡の最奥。そこには大きな祭壇があり、ダーインスレイヴはその上に奉られていた。周囲には現場を維持するため、二人の討魔術士が待機している。


「なぁ、確かダーインスレイヴって、抜き身のまま投げ捨てられてたんじゃなかったか?」


ここで輪路は異変に気付く。報告では、ダーインスレイヴは投げ捨てられていたはずだ。なぜ発掘された時の状態に戻っているのか。


「実は、私がダーインスレイヴを発見したのですが、発見した時から既にこの状態でした。」


「はぁ?じゃあお前、この剣がひとりでにこうなったとか言うつもりか?」


「神話にも登場する魔剣だ。それぐらいのことは十分考えられる」


剣が意思を持って元の状態に戻るなど考えられないが、ダーインスレイヴは呪われた剣だ。自身の呪いを万人に振り撒くため、持ち主の手を離れた後自動で鞘に納まるという機能があってもおかしくはない。翔はそう言った。


「滅茶苦茶あぶねーじゃねぇか。つーかよ、俺らを呼ばずにお前らだけで壊せよな。」


「私もそう考えたのですが…よく見ていて下さい。」


討魔士は腰に差してある討魔剣を抜くと、ダーインスレイヴめがけて振り下ろした。だが、その一撃は突如として現れたドーム状のバリアにより、弾かれてしまう。


「このように、保護結界が張られているのです。」


討魔士の話だと、このバリアが何なのか討魔術士に解析してもらった結果、ダーインスレイヴを破壊しようと繰り出された攻撃に反応して展開される、保護結界だという。しかもかなり頑丈で、破壊するためには聖神帝の、それもかなり高い霊力と攻撃力を持つ者の力が必要とのことだ。


「それで俺達が呼ばれたというわけか。」


「んっとに面倒なもん遺してくれるよな。昔の人間ってのは、時々意味のわかんねぇことするからマジで嫌になるぜ。」


翔は自分達が呼ばれた本当の理由を知り、輪路は面倒なことになったとため息を吐いた。


「廻藤、これも修行の一環だ。この剣はお前が壊せ」


「え~…」


ダーインスレイヴの破壊を任され、輪路はおもいっきり嫌そうな顔をした。


「聖神帝になった時の霊力はお前の方が強いんだから、お前がやればいいだろ。」


「修行の一環だと言ったはずだ。お前がどれほど力を付けたか見てやるのに、これほどうってつけな方法はない。」


「…ちっ!わかったよ。神帝、聖装!!」


仕方なく輪路はレイジンに変身し、シルバーレオを抜く。


「一発でぶっ壊してやる!!」


霊力を込めて振り上げ、


「レイジンスラァァァァァッシュ!!!」


勢い良く振り下ろす。



だが、



「ちょーっと待ってもらおうか!!」


後ろからいきなり呼び止められて、技を中断させられる。レイジンと翔、それから討魔士達は、後ろを振り向いた。


「その剣はウチのボスが欲しがってるんだ。壊してもらっちゃあ困るな」


そこにいたのは、長いマントを羽織った一人の男だった。片手には、この部屋の入り口を守っていた討魔士の一人を担いでいる。


「何だ貴様は!!」


討魔士は剣を構え、討魔術士達も手を向ける。男は名乗った。


「俺の名はジーク・ベルモンド。アンチジャスティスの魔剣士だ。ダーインスレイヴをもらいに来た」


「アンチジャスティスだと!?くっ…廻藤さん!翔様!早くダーインスレイヴを破壊して下さい!!」


「あ、ああ!なんかよくわかんねぇけどそうする!」


「アンチジャスティスの手先め!ダーインスレイヴは渡さんぞ!!」


ジークと名乗った男が所属している、アンチジャスティスという組織について知っていた討魔士達は、ダーインスレイヴの破壊をレイジンと翔に任せて、ジークに挑む。しかし、


「ハッ」


ジークがつまらなそうな声を出した瞬間、討魔士達は倒され、レイジンに向かおうとしていた攻撃を翔が討魔剣二本で受け止めていた。長いマントに隠れていたが、ジークは腰に四本の剣を差しており、そのうちの二本がジークの両手に握られている。凄まじい速度で剣を抜いたジークは、その速度のまま討魔士達を倒し、レイジンまで斬ろうとしたのだ。が、翔は高速戦闘を得意としていたため、ジークの攻撃を見切ってレイジンを守ることができたのだ。


「翔!!」


「…ふっ!!」


レイジンは翔を呼び、翔はそれに応えず、ジークの剣を弾いて斬りかかる。右から左からと間髪入れずに襲う剣を、ジークは流れるような動作でさばいていく。強い。翔と同等だろうか、ジークはとてつもない実力の持ち主だった。


「俺に構うな。ダーインスレイヴを破壊しろ」


「お、おう!!」


だが、ジークをレイジンから引き離すことはできた。この隙を突いて、今度こそダーインスレイヴを破壊しようとするレイジン。だが、それはまたしても阻止された。突如として飛んできた槍が、シルバーレオを弾き飛ばしたのだ。弾き飛ばされたシルバーレオは、レイジンから2mほど離れた地面に突き刺さる。槍もすぐ近くに転がった。


「悪いが、させん。」


部屋の入り口には、デュオールが立っていた。


「デュオール!?」


「やはり貴様ら、アンチジャスティスと組んでいたか…」


レイジンは驚き、翔はジークを警戒しながら、デュオールにも目を向ける。


「貴様は勘づいていたらしいな。そうだ。我々はアンチジャスティスと同盟を結んだ」


「なぜだ。お前達にメリットなどないはず…」


「それは我々だけが知っていれば良いこと。これ以上のことを話すつもりはない」


「おい翔!さっきからアンチジャスティスって何なんだよ!?」


翔とデュオールの会話。それ以前にも、討魔士がアンチジャスティスと言っていた。聞いたことのない言葉だ。レイジンはそのアンチジャスティスという組織が何なのか、翔から聞こうとする。


「…今は話している時間がない。とにかく、奴らにダーインスレイヴを奪われることだけは絶対に避けろ!」


確かに、今回は悠長に話をしている時間はなさそうだ。


「…わかったよ。こいつらを片付けたらゆっくり話してもらうからな!!」


話を聞くのは後回しにし、今はデュオールとジークの相手に専念する。


「ハァッ!!」


カースを構えてレイジンに飛び掛かるデュオール。まずは、シルバーレオを回収しなければならない。レイジンはデュオールの突きをかわしながら跳躍し、刺さっているシルバーレオを引き抜きながら回転。立ち上がる。


「ふん…」


デュオールは鼻を鳴らし、手をかざす。すると、まるで意思を持っているかのように、イビルがデュオールの手に戻った。


「行くぜ!!」


レイジンは今回こそデュオールを倒すべく、シルバーレオを構えて突っ込む。


「魂身変化!!」


デュオールもまた変身し、レイジンを迎え打った。


「神帝、聖装!!」


ヒエンに変身する翔。


「聖神帝になったか…なら!」


それを見たジークは、マントを脱ぎ捨てた。マントの下にあったのは、重厚そうな鎧。鎧の中心には、よくわからない紋様のようなものが一つ、刻まれていた。


「ルインアーティファクト、起動!!」


ジークがそう唱えると、鎧の中心に刻まれた紋様が、赤く発光した。と思った瞬間、ジークが消えた。


「っ!!」


が、実は消えたわけではない。超スピードで移動しただけだ。ヒエンはそのスピードを捉え、ジークが放った剣を防ぐ。しかし、それだけでは終わらない。すぐさまもう二撃、三撃と、怒涛の連撃を繰り出した。ヒエンも負けじと反撃する。両方ともとんでもないスピードで、腕が消えていた。剣同士がぶつかる金属音で、かろうじて二人が戦っているということを認識できる。


「どうなってんだあいつ!?翔のヒエンと互角だと!?」


デュオールと戦いながらヒエンの戦いを横目で見ていたレイジンは、デュオールを弾き飛ばしてから攻め手を止めてしまう。それほど信じられない光景だった。聖神帝相手に、ジークは生身のまま拮抗しているのだ。


「ルインアーティファクト。アンチジャスティスが、お前達の聖神帝に対抗するために作り上げた道具、らしいぞ?ジークの場合は、あの鎧がルインアーティファクトだ。」


何もないまま聖神帝と互角の戦いを繰り広げるなど、それはもはや人間の領域を越えている。だが何もないということはなく、理由をデュオールが教えた。アンチジャスティスのメンバーは、討魔士の聖神帝に対処するための処置として、ルインアーティファクトという道具を開発した。使用者の能力を強化したり、特殊能力を付加したりする。また、ルインアーティファクトにはその証拠として、必ず紋様が刻まれている。この紋様は古代語で悪という意味だ。そしてその力を解放すると、紋様が赤く発光する。ジークの場合は鎧がルインアーティファクトであり、使用者の能力を聖神帝と同レベルにまで引き上げる。あの鎧の力のおかげで、ジークはヒエンと同等のパワーとスピードを獲得しているのだ。


「だがあの鎧の力でも押しきれんとは…やはり三大士族の討魔士は突出しているということだな。外の連中は弱かったが」


「!?てめぇ、外のやつらをどうしやがった!!」


デュオールの言葉が引っ掛かり尋ねるレイジン。この遺跡は、かなりの数の討魔士や討魔術士が包囲していたはずだ。だが、デュオールもジークもこの最奥の部屋に現れた。ということは…


「それをリビドンであるわしに聞くか?当然皆殺しにしてやったわ!殺して魂を奪ってやった!」


「!!」


予想していた通りだった。デュオールとジークは、外を警備していた者達を全滅させたのだ。正確には、デュオールに外を任せてジークが内部に侵入し、遅れてデュオールが到着したという形だが。殺徒は強い霊力を持つ魂を欲しているため、デュオールにとって絶好の狩り場だったろう。それはわかっている。わかっているのだが、


「…だったら返してもらうぜ。てめぇが奪った魂を!!」


許す理由にはならない。殺された者達は生き返らないが、デュオールに奪われた魂を解放し、成仏させることはできる。


「技の霊石!!」


デュオールを倒すため、レイジンは絶技聖神帝にパワーアップした。


「新たな霊石を得たか。だがそれで何ができる!?」


デュオールはイビルによる刺突を放った。が、レイジンはそれを弾く。続いてカースによる薙ぎ払いを放つが、それも弾いて、レイジンはデュオールの腹を斬りつけた。


「ぐっ!!ならば!!」


デュオールは二本の槍を交差させるようにして横に振った。これならかわせない。しかし、


「うっ!?」


レイジンは槍が交差した一点に突きを繰り出し、槍を止めた。さらに、その状態から槍を押し返し、


「ライオネルバスタァァァァァーッ!!!」


「ぐおああああ!!!」


体勢が崩れたところでライオネルバスターを繰り出し、デュオールを吹き飛ばした。流れるような攻撃。これもまた、絶技聖神帝だからこそできることだ。


「技の極みということか…やるな。」


敵でありながら、自分とここまで渡り合ってみせたレイジンを、デュオールは賞賛した。一方、レイジンは焦っている。


(くそ!やっぱり仕留め切れなかったか!)


技の霊石は、技の精度を上げるだけだ。そのため、絶技聖神帝は技の数が増えても決定打に欠けるのである。


「仕方ねぇ…力の霊石!!」


レイジンは絶技聖神帝のパワー不足を補うため、力の霊石を使用した。これにより、レイジンは剛柔聖神帝へとパワーアップする。


「行くぜ!!」


レイジンはデュオールに斬りかかった。


「ぬぅ!!」


予想通り、パワー不足を補うことができた。デュオールの槍術を次々とさばき、剛剣を叩き込む。


「ラァッ!!」


シルバーレオを振り上げるレイジン。だが、


「ぬっ!!」


デュオールにかわされてしまう。それだけなら、まだよかった。それだけなら。


「うおっ!?」


レイジンは振り上げすぎて、バランスを崩してしまったのだ。


「!?ハッ!!」


「ぐあっ!!」


その隙を突いて、デュオールはカースで刺突を放ち、レイジンを転倒させる。


「どうやら、まだ霊石の力を完全に使いこなせてはいないようだな。」


剛柔聖神帝はその名の通り、剛柔一体の戦いを得意とする形態だ。しかし、剛柔一体を成すには、剛と柔の調整が寛容となる。力が強すぎれば、今のように技が決まらない。しかし、この調整はとても難しく、それゆえ力の霊石と技の霊石は相性が悪い。今のレイジンでは、剛柔聖神帝の力をバランス良く使いこなすのは無理だ。



一方、


「朱雀狩り!!!」


「うおっ!!」


ヒエンとジークの戦いの形勢は、ヒエンに傾きつつあった。ヒエンの神帝戦技は、見事ジークの双剣を破壊してみせたのだ。


(どうする?剣のストックはまだあるが…)


ジークは残り二本の剣に手を伸ばしかけてやめた。同じことだからだ。ジークが携帯している四本の剣は、いずれも無銘の剣。スピリソードのように、霊力が込められているわけではない。


(仕方ねぇ。もったいなくて使いたくなかったが…)


「光栄に思えよ?こいつを使ってやる。」


そう言ってジークは、一個の小さなクリスタルを取り出した。そして、


「ふん!!」


霊力を込めてから真上に放り投げた。それから、ジークはダーインスレイヴに向かって一直線に走る。


(錯乱したか?)


だが、みすみす通すつもりはない。ヒエンはすぐジークの前に立ちはだかり、ツインスピリソードを振り下ろした。だが次の瞬間、ヒエンの目の前に先ほど真上に放り投げられたはずのクリスタルが瞬間移動し、バリアを張って攻撃を防いだ。


「何!?」


「そこをどきな!!」


「がっ!!」


予想外の事態に驚いていたヒエンはその隙を突かれ、ジークに蹴り飛ばされてしまった。邪魔者を排除したジークは、ダーインスレイヴを手に取る。


「翔!!」


「ぐっ…馬鹿な!!今のは何だ!?」


ヒエンはどうにか起き上がる。ジークが教えた。


「ディフェンスクリスタル。ついこの間出来上がった代物でな、五秒だけ攻撃を自動で防いでくれる。で、五秒を過ぎると…」


ジークのすぐそばに滞空していたクリスタルが、地面に落ちて砕け散った。


「こうなる。けど問題ねぇよな?ダーインスレイヴを手に入れたんだから。」


確かに、クリスタルは効果を失った。予備もない。だが、目的のダーインスレイヴは入手することができたのだ。


「でかしたぞジーク!!」


「ありがとよ。だが、この状態から逃げ帰るのは、少し無理そうだ。」


ディフェンスクリスタルの予備がないため、レイジンとヒエンの猛攻を防ぎながら撤退、という荒業はできないだろう。無茶をすればできるかもしれないが、なるべくしたくない。だから、ジークはさらなる奥の手を使う。


「だから、こいつを使ってお前らを全滅させてもらうぜ。」


ジークは何の躊躇いもなく、そして勢い良く、ダーインスレイヴを鞘から引き抜いた。


「お、おい!!」


レイジンは驚く。ダーインスレイヴには、抜いた持ち主を暴走させてしまう呪いが掛かっているのだ。それを抜いてしまえば、当然ジークに呪いが振りかかる。


そのはずだった。



「なるほど、さすが伝説の魔剣ダーインスレイヴ。すげぇ力だ」


だが、ジークは一向に暴走する様子を見せない。


「なぁ翔。ダーインスレイヴって、抜いたやつを殺人マシーンに変えちまう、呪われた魔剣じゃなかったか?」


「そのはずだ。だが、なぜ奴は暴走しない?まさかダーインスレイヴに選ばれたとでも…」


自分が聞いた情報が誤っていたのかと、ヒエンに確認するレイジン。ヒエンも驚いている。ただ、危険極まりないアイテムでも、アイテムに選ばれることによってその危険を回避できるという話を聞いたことがある。しかし、ダーインスレイヴがそのような剣だという話は聞いた覚えがない。またしてもジークが説明した。


「これが俺の能力さ。あらゆる魔剣を完全に制御し、さらに効果を強化することもできる。俺はダーインスレイヴを制御し、俺の物にしたんだ。」


ジークには、あらゆる魔剣を自分の制御下に置くという能力があった。ゆえに、ダーインスレイヴの呪いを完全に無効化し、その力だけを使うことができる。しかも、魔剣の強化までできるのだ。これが、ジークが魔剣士と呼ばれる所以である。ちなみに、こんな能力があるにも関わらず無銘の剣を使っていた理由は、


「ただ魔剣を手に取ると気分が乗ってな、いつもやりすぎちまうんだ。」


テンションが上がって加減ができなくなるからだ。これでいつも必要以上の破壊や殺戮を行ってしまうため、自制の意味を込めて無銘の剣を使っているのである。でないと目立つ。まだ表にアンチジャスティスの名を出すわけにはいかないのだ。


「つーわけで加減できないからヨロシク。」


しかし、相手が極上の存在であることも事実。だから手加減せず、一切の容赦なく叩き潰す。そのために、本来回収しなければならない魔剣を使う。それが、ジークの奥の手だった。


「!!」


ジークは一瞬でヒエンの目の前に接近し、ダーインスレイヴを振った。ヒエンは慌ててガードするが、やはり危機を感じる。ダーインスレイヴを手にしたジークは、先ほどより遥かに戦闘力が上がっていたのだ。一撃防いだだけでわかる。加えて、ダーインスレイヴは斬りつけた相手に治癒不可能な傷を残す。その力をノーリスクで使えるのだから、うかつに攻撃を受けられないのだ。


「くっ!!」


そこから再び乱舞が始まる。しかし、今度はジークがヒエンを押していた。剣が一本になり手数が減ってしまったが、それ以上にジーク自信のスピードが上がっており、その結果ヒエンを追い詰めているのだ。



しかし、



「翔!!」


レイジンがジークの真横から縮地を使って割り込み、ジークを斬りつけた。防がれてしまったが、ジークを弾き飛ばし、ヒエンから引き離すことには成功した。


「廻藤!!」


「翔、あいつの相手は俺に任せてくれ。その代わり、デュオールの相手を頼む。」


「しかし!」


「大丈夫だ。俺に考えがある。それに、あの剣を壊すのは元々俺の役目だからな。」


「…わかった。だが気を付けろ、一撃でも喰らったら終わりだ。」


「わかってるって。」


ヒエンは言われる通り、ジークの相手をレイジンに任せ、自身はデュオールを相手取る。


「おいおい、お前俺に勝つ気か?やめとけって。お前あいつより弱いだろ?なら俺に勝てるわけねぇ。」


「勝てねぇかどうかは、やってみなきゃわかんねぇぜ?」


「ほう、なら何ができるか、見せてもらおうか!!」


レイジンの挑発に乗り、ジークは急接近してダーインスレイヴを振り下ろす。しかし、レイジンはそれを最小限の動きでかわして、それからダーインスレイヴをシルバーレオで横から斬った。


「うおおっ!?」


体勢を崩すジーク。


「んなろっ!!」


だが、ジークは攻撃を受けていないので、すぐさまもう一度レイジンに斬り掛かる。しかし、レイジンは同じようにかわしてダーインスレイヴを斬った。それ以降何度も斬り掛かったが、同じことだった。


「くそが…何で当たらねぇ!?」


ジークの攻撃は一切当たらず、レイジンの攻撃だけが当たり続ける。レイジンはその理由を言った。


「その剣は意思を持ってる。」


「!!お前…ダーインスレイヴが意思を持ってることに気付いたのか。」


「ああ。」


先ほど、レイジンはジークがダーインスレイヴを抜いた時、ダーインスレイヴから意思を感じた。多くの人を斬りたい、たくさんの人を斬り殺したいという、残虐な意思を。同時に理解した。ダーインスレイヴを抜いた者は、その邪悪な意思に自分の意識を汚染され、暴走してしまう。これこそが、ダーインスレイヴの呪いの秘密だったのだ。


「俺は相手の意識を感じて反撃する技が使えるんだよ。」


レイジンイレースマインド。レイジンは明鏡止水の境地にたどり着き、ダーインスレイヴの意思を感じて回避し、さらに反撃してみせたのだ。


「おもしれぇ、いつまでかわせるか見物だな!!」


久々に強い相手に巡り会えたせいか、ジークの闘志にも火が点き、テンションがさらに上がって攻撃が激しくなった。


「ジーク!!貴様何を遊んでいる!!我々の任務はダーインスレイヴを回収することだけだぞ!!相手をしてやる必要はない!!」


「そう固いこと言うなよ。せっかくだから、楽しもうぜ!!」


「他人より自分の心配をしたらどうだ?。」


「ぬっ!!」


ヒエンは速さの霊石を使い、瞬速聖神帝になってデュオールに斬り掛かる。ジークとの戦いも瞬速聖神帝になれば勝てていたのだが、ダーインスレイヴ使用時のジークのパワーアップが予想以上だったためなる暇がなく、またレイジンに相手を代わられてしまったので仕方なくデュオールに使った。


「おおおっ!!」


「ぐぅぅ!!」


マックススピードに達したヒエンの攻撃は、さすがのデュオールでもさばききれない。だが、


「何発ぶつけようと、わしには通じんぞ。」


デュオールは倒れない。サタンにすら通じた手だったのだが、どうやらデュオールはずいぶんパワーアップしているらしい。


「貴様と遊んでいる暇はない。」


「行かせん…!!」


ヒエンは再び、デュオールを攻撃する。




「けっ!!ちょこまかしやがって!!」


戦い続けるレイジンとジーク。


(そろそろだな)


いい加減霊石二つの維持もつらくなってきたし、そろそろ望んだ展開が訪れると察したレイジンは、勝負を決めに入る。


「死ね!!」


ダーインスレイヴに霊力を込めて、幹竹割りに斬り掛かるジーク。


「パワード…!!」


レイジンはシルバーレオに霊力を込めながら、横に一回転してそれをかわし、


「レイジンスラッシュ!!!」


ダーインスレイヴの真横に必殺の神帝戦技を叩き込んだ。



その瞬間、バキィィッ!!とダーインスレイヴが真っ二つに折れてしまった。



「何!?ダーインスレイヴが!!てめぇまさか、これ狙ってやがったのか!?」


「今頃気付いたか。」


レイジンは、ジークと戦っていたわけではない。戦っていた相手は、あくまでも破壊命令を下されたダーインスレイヴだけだ。だから、今まで一度もジークに攻撃を当てず、ダーインスレイヴにだけ攻撃を当て続けた。剣にとって壊れやすい、真横からの攻撃を。


「言っただろ。その剣ぶっ壊すって」


宣言通り、レイジンはダーインスレイヴを破壊した。すると、


『ギャアアアアアアアアアアアア!!!!』


折れたダーインスレイヴから、人間の断末魔のような叫び声が上がった。レイジンに破壊されたダーインスレイヴの、最期の叫びだ。その後、ダーインスレイヴの折れた箇所から、大量の光弾が飛び出してきた。攻撃ではない。


「こいつは…人間の魂か!!」


レイジンが見たそれは、人間の魂だった。どうやらダーインスレイヴには、斬った人間の血だけでなく、斬り殺した人間の魂までも吸い取る機能があったらしい。


「おのれッ!!」


立ち上ぼり、解放されていく魂達。その奔流めがけて、デュオールはイビルを投げつけた。すると、魂達は全てイビルに吸収され、イビルはデュオールの手に戻った。


「てめぇ何しやがる!!」


「ダーインスレイヴが破壊されてしまった以上、せめて封印されていた魂だけは持ち帰る!!殺徒様に何と報告すれば良いか…!!」


デュオールはダーインスレイヴを手に入れられなかったことを嘆きながら、瞬間移動で帰還していった。


「あっ!!その手があったか!!くそ~!!」


「これまでだな。観念してもらうぞ」


ジークはデュオールに見捨てられ、レイジンとヒエンの目の前に一人取り残されてしまった。ジークのせいで失敗したのだから当然だ。


「ケッ!誰がお前らなんかに捕まるかよ!」


ジークは折れたダーインスレイヴに、霊力を込めて天井に投げつけた。ダーインスレイヴは天井に当たった瞬間に爆発し、天井が崩れてきた。


「あばよ!!」


遺跡が崩落を始め、それに紛れてジークは逃げてしまった。




「ちっ!!逃がしたか!!こんなことなら一~二発当てときゃよかった!!」


壊れた遺跡を吹き飛ばして脱出した輪路と翔。既にジークの姿はどこにもなく、あったのは遺跡の残骸と、デュオールに殺されたと思われる討魔士達の死体の山だった。


「…翔。もう教えてくれてもいいだろ?アンチジャスティスって一体何なんだ?」


戦いは終わった。もう危機は去ったので、今なら時間はあるだろうと、輪路は訊いた。

「…今から八年前に設立された、協会と対立している組織だ。あらゆる『悪』を象徴し、世界を支配しようと企んでいる。」


「だからアンチジャスティスか…」


協会が正義の組織であるのに対し、アンチジャスティスは悪の組織。世界を悪によって支配しようと企んでいるらしい。


「だが、どうしてもわからない。アンチジャスティスの構成員は、黒城一派が何よりも嫌う生者だ。それがなぜ同盟を組んだのか…」


殺徒達は生者を嫌っている。だから悪とはいえ、生者で構成されているアンチジャスティスと同盟を組むということは、まかり間違ってもあり得ないことなのだ。


「…とにかく、今は協会に戻り、ダーインスレイヴを破壊できたことを報告しよう。」


「お、おう。」


予想外の事態で大勢の死者を出してしまったものの、ダーインスレイヴの破壊には成功した。今はまず、そのことをシエルに報告しなければならない。


「…しかし、大勢やられちまったな…」


「…彼らも覚悟の上だ。いつか必ずこうなることは、わかっていたはずだからな。」


戦死した討魔士達を悼み、輪路と翔は帰還した。











冥魂城。


「申し訳ございません。何なりと処罰を」


デュオールは回収した魂を献上し、殺徒と黄泉子に全てを報告した。


「…もしこの任務に失敗したら、君の魂をオウザに食わせようと思っていた。だが、君はたくさんの魂を持ち帰ってくれたからね。」


殺徒は献上された魂にブラッディースパーダを向け、吸収した。


「これでオウザの復活にかなり近付いた。ダーインスレイヴを入手できなかったのは残念だが、結果に免じてこの失敗は不問にしよう。」


「あ、ありがとうございます!!」


ダーインスレイヴを使って魂を集めたかったが、デュオールが強い霊力を持つ魂をたくさん集めてきてくれたので、殺徒は今回の失敗を許した。


「優しいのね殺徒さん。」


「僕は生者以外なら誰にでも優しいよ。結果さえ持ってきてくれればね」


結果が全て。これは彼が生前通っていた傭兵育成機関で学んた理念だ。だから、良い結果を持ってきてくれた者には優しく接する。逆に結果がない者に対しては、二~三回の失敗は許すがそれ以降は容赦しない。


(結果が全て、か…確かにその通りだ)


デュオールは思っていた。彼は生前も兵士をやっていたのだが、戦績は芳しくなかった。だからいつも憧れていたのだ。神将と称されていた生前の上司、ネイゼンに。


「また頼むよ。」


「はっ!」


デュオールは今の上司である殺徒に、頭を下げた。





魔剣ダーインスレイヴ。しかし、あまり生かしきれなかったと反省しています。虐殺したのが回想の中だけですし。でもその特性上、ダーインスレイヴの攻撃って絶対に喰らえないんですよね。話の構成的にも、扱いづらい武器です。次にまた神話の武器を出す時は気を付けます。


次回もお楽しみに!

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