異世界冒険譚!!勇者と十匹の悪魔 PART4
長編は今回で終了です。
「ハァァァァァァァァァァ…!!」
全身から光を発するサタン。すると、どこからともなく、光の玉が飛んできた。その数、およそ九。
「これは…まさか…!!」
「そうだ。お前達が倒した私の同胞達の力だ」
ヒエンの予想通り、この九つの光の玉は、レイジン達が倒した悪魔達の力だった。そしてその力を、
「カァァァァァ!!」
サタンは口を開けて吸い込んだ。すると、サタンの身体が一回り大きくなる。それだけではない。サタンから感じられる力が、数倍に膨れ上がったのだ。
「これが私の本来の力だ。私を除く九匹の悪魔の力を吸収することによって、この力を使うことができる。奴らが役に立たん以上、私が奴らの力を使って代わりにこの世界の消滅を成し遂げてやろう。」
サタンは翼を広げて飛び立つと、天井を完全に吹き飛ばして外に出た。
「もうこの世界に用はない。十分楽しませてもらった!」
サタンのエネルギーがさらに増大する。その気になれば、サタンはいつでもこの世界を滅ぼすことができた。それを今までしなかったのは、ただの戯れだ。じわじわとこの世界の要所を落とし、人々が苦しむ姿を見たかった。
「この世界を消し去り、私は新たな世界へと旅立とう。」
サタンは自在に時空間を行き来できる。だからこの世界が滅んでも、死ぬことはない。サタンの両手に、凄まじいエネルギーが集まっていく。レジェネイアを消滅させる気だ。
「お前達勇者も、この世界と運命を共にするがいい!!」
サタンはレイジン達に向かって、巨大な光線を飛ばした。
「うおおおおおおおおおおお!!!」
レイジン達の盾となるべく飛び出したのは、ナイトだ。左腕を光線に向け、光線を吸収する。
「ナイト!!」
「相馬さん!!」
「うぐっ!!ぐぅぅぁぁぁぁぁ!!!」
レイジンと砂原の声が聞こえる。だが、構っている暇はない。ナイトの全身を、今まで感じたことのないほどに強烈な激痛が駆け巡っているのだ。とてつもない速度で体内を破壊していく、いっそ死んでしまった方がいいと思えるほどの激痛が。さっきもらった回復薬の効果が、全然間に合わない。しかし、それでもナイトは倒れるわけにはいかなかった。自分が倒れたら、後ろにいる者達がこの光線に巻き込まれて、消し飛ばされてしまう。それだけは、絶対に避けたかった。
「おおおおああああああああああ!!!!」
咆哮を上げ、必死に耐える。やがて光線の威力は減衰し、ナイトは見事耐えきった。だが、
「か…はっ…!!」
もう限界だった。崩れ落ちる。
「相馬さん!!」
砂原がナイトを抱き起こす。ボロボロになりながらも、ナイトは笑った。
「よかった…守れたんだな…」
「もう馬鹿!!」
砂原は思わずナイトを抱き締める。
「ふん、防いだか。だが今のはほんの肩慣らし…次はこの世界もろとも消し去る!!」
しかし、サタンが今使った光線は、全力を撃つ前の準備運動でしかなかった。再度魔力のチャージを始めるサタン。
「くそっ!なら何度だって止めて…!!」
「やめて下さい!!その身体じゃ無理です!!」
もう一度光線を吸収しようとするナイトだが、砂原が強引に押さえ込む。もしもう一度吸収したら、ナイトは確実に死んでしまう。いや、死にはしないのだが。
「もう一つ、有効な方法がある。」
と、ヒエンが進み出た。
「…撃たせなければいい。」
そう言うとヒエンの目の前に、一つの物体が出現した。青色の、羽の形をした石だ。レイジンは反射的に、それが何であるか察する。
「霊石か!!」
「そう、これは速さの霊石。」
ヒエンはツインスピリソードの片方で、速さの霊石を横から真っ二つにする。その瞬間、二つになった霊石が光となり、ヒエンの両足に宿った。両足に、羽の装飾が一つずつ施される。瞬速聖神帝の誕生だ。ヒエンは何倍にも強化されたスピードを使い、一瞬でサタンの目の前まで接近し、ツインスピリソードを叩き込む。
「ふん!!軽いな!!」
エネルギーのチャージを中断して、ヒエンを弾き飛ばすサタン。
「気を付けろ!!そいつには聖神帝の力が効きにくい!!」
レイジンはヒエンに、サタンが持つ無神論の特性を伝える。
「…ならば」
しかし、やることは簡単だ。こちらの一撃が効きにくいなら、
「手数で圧倒する。」
その一撃を、何発でも叩き込んでやればいい。一秒間に六千発、ヒエンはサタンに斬撃を放つ。あまりのスピードに、レイジンにもヒエンの腕が見えない。
「ぐおおおおお…!!!」
これにはさすがのサタンもダメージを受けている。
「すげぇ…」
「これなら…」
凄まじい速度の連撃に、烏丸と伊織も勝利を確信している。
だが、
「ぬああああああああああああ!!!!」
次の瞬間、サタンが全身から巨大な衝撃波を発した。
「ぐぅっ!?」
吹き飛ばされるヒエン。あまりのパワーに、ヒエンの動きが一瞬止まってしまう。
一瞬止められれば、サタンには十分だった。
「そこだァァァッ!!!」
サタンは動きが止まったヒエンに向けて、片手から魔力波を放ったのだ。動きが止まっているヒエンはそれを避けることができず、
「ぐあああああああああああ!!!」
喰らってしまった。ヒエンは城まで吹き飛んでいく。
「翔!!」
が、驚いたレイジンが受け止めることによって、ヒエンは一命をとりとめた。
「翔!!大丈夫か!?」
「…お、俺が、お前に、助けられる、とはな…」
しかしその直後、ヒエンの変身が解けてしまった。翔の全身は、ズタズタにされてしまっている。戦闘の続行は、不可能だろう。
「なぁ、この人の強さはどれくらいだ?あんたと同じくらいか?」
「…いや、俺より強い。」
「…マジかよ…」
安倍はレイジンからの返答を聞いて戦慄した。翔はレイジンより強い。その翔が一撃、たった一撃受けただけで、戦闘不能にされてしまった。しかもサタンが今撃った一撃は、全力ではない。もし全力で撃たれたら、間違いなくこの世界は消える。サタンの言っていたことがハッタリなどではなく、紛れもない事実だということを理解した。
「回復薬の残りは!?」
「ある…だが、再び戦闘できるように、なるには、三分かかるだろう…」
「…三分か…それだけあったら…」
「…撃てる…だろうな…」
翔の回復薬は一つナイトに渡したが、もう一つある。それを飲めば、再びヒエンに変身できるようになる。だが、瞬時に回復するわけではない。最低でも、三分は絶対にかかる。それだけの時間があれば、サタンが全力の光線を撃つには十分だろう。妨害は、まぁできる。しかし、できるのは妨害だけだ。こちらの攻撃は、サタンに決定打を与えられないのだ。
「…チッ!距離が離れすぎてる!」
「ここからじゃ、銃弾が届きません!」
「私がやる。」
安倍と砂原の銃ではとても届かないので、伊織がライフルを使う。だが、
「…ふん!」
強化前なら牽制になっていた伊織のライフルも、もうサタンにダメージを与えられなくなっていた。
「遊びは終わりだ。そろそろ消してやる」
「わっちの能力も少し厳しいが…ええいやってやる!!」
サタンは魔力チャージを始め、烏丸は能力で圧縮空気弾を作り、サタンに向けて飛ばした。が、
「むん!!」
サタンの気迫一発で掻き消される。妨害もできない。残ったのは、レイジン。レイジンもヒエンと同じく飛べるので、サタンの攻撃を妨害できる。が、それでどうなるだろうか。この世界の寿命が、ほんの少し伸びる程度のことだ。
(…手詰まり、か…)
打つ手がない、どうしようもない。完全に、八方塞がりだ。
その時、
(諦めるな)
「!!」
レイジンの頭の中に、あの声が聞こえてきた。もうずいぶん聞いていなかった、あの声が。
(諦めるなって、どうしろってんだよ)
(諦めるな。聖神帝の力の源は、己自身の心だ。心が折れれば、その時点で敗北が決まる。だが心さえ強くもっていれば、お前が負けることは決してない)
声の主にそう言われて、レイジンは思い出す。そうだ、いつだって、強い想いで苦境を打破してきた。もう駄目だと思えるような窮地でも、勝つと決めることで乗り越えた。だからきっと、今回も勝てる。
(ハッ。そうだな、どうかしてた)
この程度で諦めるなど、俺らしくもない。そう思って、レイジンは心を強く持ち直す。
「俺は、諦めねぇ!!」
諦めずに勝利を求める心は、聖神帝に新たな力を呼び起こす。
レイジンの目の前に、白銀に輝く霊石が現れた。翔から聞いたのだが、能力強化系の霊石は、色が聖神帝の色と同じらしい。だからこの霊石は、能力強化系だ。そして、力の霊石は牙の形だったが、この霊石は爪の形をしている。
(さぁ掴み取れ!!お前の心が呼び覚ました力、技の霊石を!!)
「技の…霊石…!!」
レイジンは声に導かれるまま、左手で技の霊石を掴み取り、握り潰す。その瞬間、霊石の力がレイジンの左腕に宿り、左腕に三本、爪の装飾が施された。
これぞレイジンの新たな強化形態、絶技聖神帝である!!
「廻藤お前…新しい霊石を…!!」
「お前は休んでろ。奴は俺が倒す!!」
レイジンは翔を休ませ、シルバーレオを両手で構える。
「レイジン、ぶった斬る!!!」
サタンは魔力をチャージしながら、レイジンの変化を見ていた。
「何か変化があったようだが、無駄なことだ。もうまもなくチャージが完了し、お前達はこの世界もろとも消し飛ぶ!!」
サタンの魔力チャージは、もう終わりかけていた。既に、この世界を消し飛ばせるだけの魔力が集まりつつある。今さら何かできるとも思えない。
「廻藤さん、あんたなんかパワーアップしたみたいだけど、アレを何とかできるか?」
安倍は聖神帝の力についての詳細など知らないので、霊石を使ったレイジンを見て、なんかパワーアップした、という程度にしか感じていない。ただ、今はかなり絶望的な状況なので、この状況を打破できるパワーアップかどうか知ろうと、レイジンに話し掛けた。
「…」
だがレイジンは答えない。
「おい、どうなんだよ?」
「黙ってろ。言われなくても何とかしてやる」
不審に思った安倍がもう一度話し掛けたが、レイジンに黙らされてしまった。今レイジンは、声の主からこの状況を打破する方法を聞いていたのだ。
(よし、剣にありったけの霊力を纏わせろ)
(こうか!?)
声の通り、シルバーレオに大量の霊力を纏わせるレイジン。刃から白銀の光が溢れ出す。
(霊力を纏わせたら、回せ!今のお前ならできる!)
(おう!)
言われる通り、レイジンはシルバーレオに纏わせた霊力を回す。以前はできなかったことだが、技の霊石はあらゆる技術の精度を向上させる。これにより、強化前には使えなかった技も使えるようになるのだ。
(もっと早くだ!!)
(わかった!!)
どこから見ているのかわからないが、霊力の回転が不十分と見た声の主は、回転速度を上げるよう命じる。その通り回転速度を上げるレイジン。シルバーレオの刃を中心に回る霊力は、まるで竜巻のようだ。
(まだ足りない!!もっとだ!!)
(これが限界だぜ!!)
(限界など超えろ!!この世の全てを己の渦に巻き込むという気概で回せ!!)
レイジンの限界ギリギリの速度だったが、声の主はまだ足りないと言い、レイジンはさらに速度を上げる。
「うおおおおおおおおおおお!!!!」
さらに上がっていく回転速度。だが、
「終わりだ。消し飛べ!!!」
サタンが魔力チャージを終えてしまい、光線を放ってきた。世界を消滅させられるほどの威力を秘めた閃光が、眼前に迫る。
だがレイジンと声の主は、この瞬間を待っていた!!
(今だ!!放て!!!)
「レイジンスパイラルッ!!!」
声を合図にシルバーレオを振り上げ、振り下ろすレイジン。シルバーレオの刀身から、超高速で回転する霊力の竜巻が飛んでいく。その竜巻は光線にぶつかると、なんと光線を巻き取って、サタンに向かっていった。
「なっ、何ィィィィィ!!?」
これにはサタンも驚いた。だが、今や竜巻はサタンの光線を取り込んで大きく肥大化し、サタンの逃げ場を奪っている。
「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーッ!!!!!!」
サタンは光線に巻き込まれた。
レイジンスパイラル。相手の攻撃を取り込み、自分の攻撃に上乗せして叩き返すカウンター技。こちらの攻撃が効きにくいなら、相手の攻撃をぶつけてやればいい。サタンの能力で破られる可能性もあったが、だからこそ回転速度を上げた。いかに神の力を破壊する無神論といえど、物理法則まで破壊することはできなかったのだ。
「すごい…」
「おいおい、マジでやっちゃったよこいつ。」
砂原と安倍は、レイジンが使った新しい技を見て、半ば放心状態となっていた。だが、
「…ちっ!まだやってねぇ…」
レイジンは舌打ちした。
「ガ…グガガ…」
サタンはまだ生きていたのだ。世界を滅ぼす攻撃に、レイジンの力を乗せて打ち返したというのにまだ。
「さて、どうするか…」
今なら叩ける、と思ったが、無神論の能力がある以上レイジンでも殺しきれない。もう一度先ほどの技を使ってくれれば確実なのだが、さすがにサタン自身にもそんな余力はないだろう。明らかに、飛ぶのが精一杯といった感じで、もう何か攻撃が撃てるとは思えない。
「俺がやります。」
と、今まで黙っていたナイトが立ち上がった。
「相馬さん!!」
「ナイト!!お前もう大丈夫なのか!?」
「まだ本調子じゃないですけど、ずっと休んでたから大丈夫です。」
砂原もレイジンも驚いているが、ナイトは回復薬を飲んでからもう五分は休んでいるので、完全回復とはいかないが、戦闘が可能になる程度は回復している。
「これはちょっと負担がかかりすぎるから使いたくなかったけど、一撃叩き込むくらいなら!!」
次の瞬間、ナイトの全身が黒い装甲に覆われた。左腕と同じ色の、黒い装甲に。
「おみゃー、それ…」
烏丸はそれを、呆然と見ている。この鎧の名は、恐怖劇の棺。ナイトにとって、切り札と言える能力だ。消耗が激しすぎて三分程度しか使えないが、サタンに一撃叩き込むくらいなら一分とかからない。
「うおおおおおおおおおおおお!!!!」
加えて、ナイトの体内には先ほど吸収したサタンの力が残っている。それを使って肉体を強化し、サタンに向かって勢い良く跳躍した。
「!!ウウ…!!!」
それに反応したサタンが、ボロ雑巾のようになった右手を前に向け、ナイトに光線を放つ。しかし、サタンにとって最後の力である一撃は、ナイトに効かなかった。恐怖劇の棺の効果は、あらゆる能力を無効化すること。
「ぶっ飛べぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
サタンの攻撃はナイトに無効化され、ナイトの拳はサタンに突き刺さった。
「こんな…ことが…私の…私の…!!!」
サタンは粉々に砕け散った。ナイトは地面に着地し、消滅したサタンへと告げる。
「悪魔は悪魔らしく、魔界にいるべきだったな。」
平和に人々が生きる世界に、悪魔の居場所などない。悪魔らしく魔界にでもいれば、勇者達が召喚され、討伐されることもなかった。この世界に侵攻したことこそが、悪魔達の敗因だったのだ。
*
レジェネイアの人々と悪魔達の闘争は、異世界から召喚された勇者達の手によって幕を閉じた。
「皆様、本当にありがとうございました!!」
村人達を、この世界に生きる全ての人々を代表して、ジルが輪路達に礼を言う。
「しかし、もう行ってしまわれるのですか?もっといて下さっても…」
今彼らは、最初に勇者召喚を行ったあの祭壇にいる。それは、輪路達を元の世界に帰すためだ。本当は悪魔討伐を祝して、宴を催したかったのだが…
「待たせてるやつがいるからよ、早く帰って安心させてやんねーと怖ぇんだ。」
「お気持ちは嬉しいですけど、俺達学生ですから。」
輪路とナイトの希望により、早急に元の世界に帰ることになった。
「そうですか…しかし、我々はあなた方を忘れません!もしまたこの世界に危機が迫った時、あなた方を召喚しても構いませんでしょうか!?」
「そりゃ全然構わねぇよ。けど、前もって連絡くらいはしてくれよな。」
ツーリング中に急に呼び出すような真似はやめて欲しい。ちなみに、バイクはちゃんと持ってきてある。そんなヘマはしない。
「では、勇者送還の儀式を行います。」
ジルは両手を合わせ、呪文を唱え始める。
「お前らにも、いろいろと世話になっちまったな。」
「いえ、あなたがいて下さったおかげで助かりました。」
「こちらこそ、ありがとうございました!!」
「ま、ここは素直に礼を言っとくよ。」
「おみゃーとも戦ってみたかったが、まぁ今回はこれでよしとしとくか!」
「ありがとう。楽しかった」
ナイト、砂原、安倍、烏丸、伊織は、口々に礼を言う。
「じゃあな、相馬ナイト!縁があったらまた会おうぜ!」
「はい!廻藤輪路さん!!」
輪路とナイトは、いつか再会することを誓い、
「勇者、送還!!」
それぞれの世界の勇者達は、元いた世界へと帰還した。
*
「輪路さん…」
輪路の帰りを、今か今かと待ち続けている美由紀。翔がレジェネイアに行った後、美由紀は片時もこの場を離れず二人の帰還を待っていたのだ。
(健気なやつ…輪路、早く帰ってこいよ!)
三郎もまた、二人が帰ってくるのを待っている。そして、
「お、美由紀!」
一瞬空間の穴が開き、輪路と翔が帰ってきた。
「輪路さんっ!!」
美由紀は輪路に抱きつく。
「おお、心配かけちまったな。」
「ホントですよ!!三郎ちゃんが、輪路さんが消えたって、言うから、私、どれだけ心配したか…!!」
美由紀は泣きながら、それでも輪路の無事を喜ぶ。
「悪かったな翔。お前も暇じゃないだろうに」
「いや、こちらも貴重な体験ができた。これを使うなど何年ぶりか…」
三郎に謝られ、翔は首を横に振る。本来時空方位磁針は、異界や異空間を住みかとする魔物を追跡して叩くための道具だが、異世界に飛ばされた仲間を助けるために使ったのは、討魔士の歴史の中でも初だ。
「もう泣くな。帰ってゆっくり、向こうであったことを話してやるからよ。」
輪路は美由紀を慰め、二人でヒーリングタイムに帰った。翔と三郎も役目を終えたので、帰っていった。
*
「オラァァァァァァ!!!覚悟せぇや相馬ナイトぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「待てって!!そんなもん振り回すなバカ!!!」
ナイフを振り回す烏丸と、それを懸命に避けるナイト。異世界から帰った翌日、うやむやになってしまった決闘の決着をつけるべく、烏丸が勝手に決闘を開始したのだ。
「まーたやってるよあいつら…」
「もう、烏丸さんったら…」
その光景を、安倍と砂原が呆れて見ていた。伊織は、現在演習中だ。
「しかし、まさかあいつが関わってくるとはな…」
「…」
二人は今、サタンに召喚され、自分達の敵として立ちはだかった塒白衣のことを考えていた。当然、これで終わったとは思っていない。白衣は倒されたのではなく、この世界に送り返されただけなのだ。
「因縁は深いな…」
「…ナイト…」
暗闇だけがある空間。ここは、彼女が元々幽閉された場所。そして、サタンから召喚された場所でもある。彼女は翔とナイトと輪路の連携によって、自分が召喚を受けた場所であるここに送り返されたのだ。
「…ナイト…」
白衣はもう一度、ナイトの名を呟いた。
「…諦めないから…」
そう、この程度のことで諦めたりはしない。諦めるものか。ナイトは必ず、私が手に入れる。
「…ナイトォォォォォォ…!!!」
白衣は闇の中で、邪悪に笑った。
*
討魔協会。
翔は台座の上に時空方位磁針を置いた。ここは、呪具封印室。強い呪いが掛けられた物品や、強力な道具を封印しておく場所だ。すぐには処分できない物や、協会が使用する中でも特に強力な道具を、第三者に悪用されないよう封印しておくのである。
「封印を頼む。」
「「はっ!」」
翔はこの部屋を守っている二人の討魔術士に、時空方位磁針の封印を任せて去っていった。
向かった先は、自室。
「…」
ドアノブを握る直前に気付いた。部屋の中に、誰かいる。中から気配がする。
「…」
鍵はちゃんとかけて出たはずだ。翔は討魔剣を片方抜くと、片手でドアをゆっくりと開け、中に入った。
「おかえりなさい、翔くん。」
侵入者は、特に構えることなく翔の帰りを待っていた。
「…お前だったのか、ソルフィ。」
翔は相手が誰かわかり、力を抜き討魔剣を納めた。彼女の名は、ソルフィ・テルニア。翔の幼なじみである。翔の自室の合鍵を持っており、時々こうして入っているのだ。ちなみに、翔もソルフィの部屋の合鍵を持っている。
「今日は疲れたんだ。これ以上俺を疲れさせないでくれ」
「会長から聞いたよ。異世界に行ったんだって?大変だったね。」
翔を椅子に座らせ、ソルフィはもう一つある椅子に座る。
「廻藤を救出するためにな。まったく、聖神帝の性質があるとはいえ、よりによってこんなことに巻き込まれるとは…」
「でも、すごく強くなったって評判だよ?」
「…まぁクリフォトの樹の悪魔を倒したのだから、少しは進歩したと見るべきだな。」
しかし、まさかあの土壇場で新しい霊石を作るとは思わなかった。そういえば、翔と初めて戦った時も同じだ。追い詰められた時の輪路の爆発力は、凄まじいものがある。
「私まだ会ってないんだよね。今度会いに行こうかな?」
「…そうだな。俺も一つ思うところがある」
「え?」
ソルフィは首を傾げた。
こんな感じでよかったでしょうか?ナイトレイドさん、ありがとうございました!!




