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第三話 疾走する悪霊

今回は、輪路が都市伝説に挑みます。

その男はバイクに乗り、峠を攻めていた。半年間、必死に小遣いを稼いで、昨日やっと購入した念願の新車。今までは中古のバイクで我慢していたが、苦労がようやく報われたのだ。


「最高だぜ!!」


フォルムも馬力も、今まで自分が使っていた物と全然違う。この新車を思う存分飛ばして、峠を攻める。それが半年前からの夢だった。


「もう俺を縛るものは何もない!!俺は自由だ!!俺は風なんだ!!!」


必要な金は払った。道路交通法で定めた速度などとっくに過ぎているが、知ったことではない。男は今、自由な風になっていた。



しかし、その自由は早くも終わりを迎えることになる。



正面からトラックが突っ込んできた。


「ん?うわっ!!」


トラック運転手は居眠り運転をしていたらしく、ハンドルを切り損ね、


「うわあああああ!!!」


男はスピードを出しすぎてかわすことも止まることもできず、



惨事は起きた。



キィィィィーッ!!ガシャァァァン!!



トラックはバイクを轢いてしまった。跳ねられたバイクが、投げ出された男が宙を舞う。


「お、おい!!大丈夫か!?」


運転手はトラックを降りて、男を助けに行く。


「う、うわあ…!!」


手遅れだった。即死していたのだ。首がなくなっていれば素人でも一目で即死だとわかるだろう。


「くっ!!」


一人の走り屋を轢き殺してしまった運転手は、罪を犯したことを、その罪を裁かれることを恐れて、トラックに戻り逃げてしまった。



この轢き逃げ事件が、どんな悲劇をもたらすことになるかも知らずに…。











「なぁマスター。」


ヒーリングタイムカウンター席。輪路はゆっくりといつものアメリカンを飲みながら、佐久真に尋ねた。


「やっぱ買った方がいいか?バイク。」


「どうしたのよいきなり。」


「いや、俺も足が欲しくてよ。」


輪路は最近、バイクの購入を考えている。理由は、秦野山市全域を回って幽霊を成仏させるためだ。この街はやたら広いため、徒歩で全域を歩き回るには時間が掛かる。また幽霊の成仏というものも、一朝一夕でできることではない。しっかりと出会った幽霊の話を聞いて、未練を晴らせる方法を聞いた上でそれを実行しなければならないのだ。で、少しでもそれを楽にするために、移動の足が欲しい。輪路としては、バイクが欲しいのだ。


「バイクはあんまり感心しないわねぇ。小回りは利くけどやっぱり危ないし、雨の日とか大変じゃない?今後のことを考えて、車にした方がいいと思うけど。」


しかし、佐久真は車派だった。バイク派な輪路は駄々をこねる。


「小回りが利くからいいんじゃねぇか。それに楽しいと思うぜ?俺は絶対バイクだ。」


「もう、やっぱり男の子ねぇ…」


呆れる佐久真。そんなに好きなら自分に相談せず買えばいいのにとも思ったが、人生経験の長い佐久真にはわかっていた。欲しいことは欲しいが、何か決定的な後押しが欲しいのだと。


その時、


「こんにちは!」


「こんにちは~♪」


「お邪魔します!」


女性が二人と男性が一人、入店してきた。外見から見て、高校生くらいだろうか。


「あっ!彩華あやかちゃん茉莉まりちゃん賢太郎けんたろうくん!いらっしゃい!」


入ってきた三人を、美由紀が笑顔で迎える。彼らは夢咲ゆめさき高校という学校に通う生徒達だ。その内の一人、男子生徒の孝月こうづき賢太郎は輪路と同じく幽霊が見え、それをきっかけとして輪路と友人になり、彼が居候しているこのヒーリングタイムに時々来るようになったのだ。賢太郎と一緒にいる二人の女子生徒、鈴峯すずがみね彩華と茉莉は姉妹であり、賢太郎とは幼なじみである。彩華が姉で、茉莉が妹だ。二人の家は空手の道場を開いており、朝早く起きて稽古をしてから学校に行く。賢太郎は少し気が弱く、その根性を鍛え直すという名目で、二人の朝稽古に付き合わされているのだ。賢太郎に幽霊が見えるということは知っており、賢太郎を通して輪路と知り合い、彼と三人で連れ立ってここに来る。


「おうお前ら。今帰りか?」


「はい師匠!」


「…師匠はやめろっつってんだろ」


賢太郎は輪路をとても慕っている。彼は確かに幽霊が見えるのだが、見えて話ができるだけだ。触ることも、他人に見せたり触らせることもできない。自分よりずっと高度なことができて幽霊相手にも物怖じしない輪路は、賢太郎にとって師匠と言えた。ただ輪路は、自身がそう呼ばれることがあまり好きではない。


「皆さん元気そうで何よりです。」


「最近怪物が出たとか物騒だから、巻き込まれてないかってお姉ちゃん心配してましたよ。まぁこの店には廻籐さんがいるし、あたしはぜーんぜん心配なんてしてないんですけどね。」


彩華は真面目で、茉莉はその対極となるかのようにノリが軽い。


「あ、あはは…」


美由紀は苦笑した。まさか怪物、リビドンが起こした騒ぎに二回とも関わっているなどとは言いようもないし、彼女達を巻き込むわけにもいかない。


「師匠。今夜テレビで心霊スペシャルやるんですけど、知ってます?」


「だからやめろって…まぁいい。ああ、知ってるぜ。」


賢太郎は懲りずにまた師匠と呼んだ。まぁこのやり取りはかなり前からやっているため、輪路も半ば諦めている。普通の人間ならとことん嫌うが、同じ力を抱える者同士なら、無下にするわけにもいかない。また賢太郎の友人ならということで、彩華や茉莉とも話し相手ぐらいにならなってやっている。


「でもあれってヤラセでしょ?あたしはああいうの苦手だな~。」


「大体はそうなんだけどな、たまに当たりがあるんだよ。」


テレビでやる心霊特集などは、内容が大体作り物のヤラセだ。茉莉はテレビをよく見るタイプだが、こういうヤラセは嫌う。輪路もあまり好まないのだが、たまに本物が映っている当たりがあるらしい。


「そういえば、今日の心霊スペシャルって、丘沢峠おかざわとうげも出るんですよね。この前起きた事故知ってます?」


彩華は今夜放送する番組の内容について話した。丘沢峠とは、秦野山市と隣町を繋ぐ峠である。一週間ほど前そこで轢き逃げ事件があり、男性が一人死亡し、轢き逃げをしたトラック運転手は逮捕された。


「ありゃひどい事故だったな。轢き逃げされたバイク乗り、首が吹っ飛んでたんだろ?」


輪路は生者に対しては基本的に無関心だが、人の生き死にに対しては敏感だ。彼にも亡くなった者を弔う気持ちはある。


「はい。でもそれから丘沢峠で、『首なしライダー』が出没するようになったそうです。」


彩華はその後の顛末を聞かせる。



首なしライダーとは都市伝説の一種で、事故などで首を失って死んだライダーの魂が幽霊となり、なくした自分の首を探してバイクで走るというものだ。この首なしライダーに出会った者は、自分の首だと間違われて首を切り落とされてしまう。対抗策はあり、マフラーなどで首を隠していれば切り落とされない。


「首なしライダーか…そいつは知らなかったな。」


輪路は首なしライダーが丘沢峠にいたことを知らない。何せ、ここから丘沢峠までは遠く、輪路もそんな遠い所までは滅多に行かないのだ。


「でも、都市伝説なんて噂みたいなものですし、最近起きた事件だから、面白がって周りの人が騒いでいるだけかもしれませんよ?」


美由紀の言う通り、ヤラセである可能性は高い。いずれにせよ、今この段階で真偽を確かめる方法は、丘沢峠に行くしかないのだが…


「噂だったら無駄足になるんだよなぁ…」


「なら今夜テレビを見ればいいんじゃないの?」


佐久真が解決法を教えた。


「…それしかねぇか…」


輪路はヤラセを行う心霊番組は好まない、というかかなり嫌だ。いたずらに騒ぎ立て、嘘まで織り交ぜて公表するというのは、死者の想いを冒涜する行いである。輪路は死した者達の気持ちも知らず、面白半分で接することを嫌っていた。だからできる限り見たくないのだが、先ほど言った通り当たりもあるため、切り捨てられないというのが現状である。


「…もし首なしライダーの噂が本当だったとして、師匠はどうするんですか?やっぱり、成仏させに行くんですか?」


賢太郎は輪路に尋ねた。首なしライダーは、自分と出会った者の首を刈り取る。それが実在するなら、あまりにも危険だ。一歩間違えれば、自分の首を切り落とされる可能性さえある。しかし、


「もちろん行くさ。幽霊がいつまでもこっちに留まってたって意味ねぇし、ちゃんと成仏させなきゃよ。実害出してるってんならなおさらだ」


輪路はいつもと変わらず答えた。迷える魂を救うことに、躊躇いはないのだろう。


「ま、本当だったらの話だけどな。」


コーヒーを飲み終えた輪路は、奥へと引っ込んでいった。


「心配しなくても大丈夫ですよ。輪路さんのそばにはちゃんと私がいて、無茶しないように見張ってますから。」


「あの子だってもう大人だし、それくらいの判別はつくでしょ。」


美由紀と佐久真も仕事に戻る。彩華と茉莉は、交互に賢太郎に言った。


「不安かもしれませんけど、こういう時こそ弟子が師匠を信じてあげるべきですよ。」


「あんたも廻藤さんのことよく知ってるでしょ?あたし達よりずっと強いし、あんたよりずっとこういうことに慣れてるんだから。」


「…うん、そうだね。」


二人に言われて、賢太郎はようやく安心した。











夜。


「…予想通り、ヤラセばっかだな。」


輪路はテレビを見ながら言った。放送開始からはや一時間。流される映像は、空飛ぶ生首やら叫びながら追いかけてくる白い人影やら、おどろおどろしいものばかりだったが、霊力の持ち主である輪路はそれらが全て偽物であると見抜いた。本物の幽霊ならテレビ越しにでもその気配が感じられるし、姿ももっとはっきり見える。ところが放映されている映像にはそれらが全くなく、わざとらしく派手に編集して怖く見せようという意図が見え見えだった。


「よくもまぁ毎年毎年飽きずにこんなことができるもんだ。そんなに視聴率取りてぇのかよ…」


再びぼやく輪路。と、


『続きまして、最近話題になっている、丘沢峠で撮影された映像です!』


「お、やっとか。」


司会の女性が言い、輪路は身を乗り出した。ナレーションが不気味な声で説明する。


『一週間前、悲惨な轢き逃げ事故が起きたという秦野山市の丘沢峠。それから間もなくして、この峠では首なしライダーが出没するようになったという…』


それからナレーションが首なしライダーについて簡単な説明をし、次にインタビュー画面へと移る。モザイクで顔を隠された男性が、自分が見たという首なしライダーについて話していた。


『軽いドライブの気持ちであそこを走ってたんですよ。時間は…10時半を、少し回ったあたりでしょうか…後ろからバイクが、ものすごいスピードで追い上げてきてるのがミラーに映ったんですね。』


ここで、再現VTRが入り、インタビューはさらに続く。男性は車に乗って、丘沢峠で夜のドライブを楽しんでいたそうだ。


『最初は暴走族か何かだと思ってたんです。僕も何も考えず、まぁ抜かせてあげようと思ったんですね。そしたらバイクがこっちを追い抜く瞬間、見えたんですよ。バイクに乗ってる人、首から上がなかったんです。』


男性はその時驚いてハンドルを切り損ねかけ、危うく事故を起こすところだったそうだ。もし事故を起こしていたら、首なしライダーの伝説通り、首が吹き飛んでいたかもしれない。この日は少し寒かったので、男性はマフラーをしていたらしく、そのおかげで助かったというのもあるだろう。


『この証言を聞いたスタッフ達は、マフラーで首を隠すという厳戒態勢を敷きながら、丘沢峠に監視カメラを設置した。これが、その時撮影された映像だ。』


また映像が切り替わる。今度は、監視カメラで撮影された映像だ。カメラは合計で三台設置されたらしく、その内の一台に問題の映像が映っていた。


『おわかり頂けただろうか?まるでバイクが走るかのように、道の真ん中を不自然な光が飛んでいくのを…』


今ナレーションが説明した通り、カメラには不自然な光が道の真ん中を、規則正しく、しかもかなり速く飛んでいくという映像が撮影されていた。



普通の人間には。



普通の人間には、この映像がそう見える。



しかし輪路には、より鮮明に、より詳細に映像が見えていた。



首のない人間がバイクに乗り、道路を疾走している。彼にはそう見えたのだ。映像に撮影された光は、ちょうどバイクのヘッドライトだけが、普通の人間に見える形となって現れたものだと理解できる。間違いなく、『当たり』だった。輪路はテレビの電源を切ると部屋の外に飛び出した。


「輪路さん!どうしたんですか?そんなに慌てて…」


突然店内にやってきた輪路を見て、美由紀は少し驚きながらも訊く。


「例の首なしライダーは当たりだった。今から丘沢峠に行ってくる!」


「あっ!輪路さん!」


輪路はヒーリングタイムを飛び出し、丘沢峠に向かって走っていった。ここから丘沢峠までは30kmほど離れているが、輪路は本気を出せば100mを六秒で走れる。ただ、持久力があまりない。休みながら走ることになるが、それでも丘沢峠にたどり着かなければならなかった。首なしライダーの噂は、本当だったのだ。なら、特性までもが本当である可能性も高い。興味本位で丘沢峠を訪れる者より先にたどり着き、首なしライダーを成仏させなければならない。幸い、あそこではまだ犠牲者が出ていないのだ。なら、犠牲者が出ずに終わるにこしたことはない。息を切らして走る輪路。と、


「よう輪路。」


「三郎!」


三郎が来た。彼は鳥だが、妖術のおかげで夜目も利く。


「悪いが今忙しいんだ。首なしライダーを成仏させに行かなきゃなんねぇ!」


「首なしライダー…そんなもんまで来てやがったのか。なら、なおのこと俺の力が必要だな。」


「は?」


「お前どうやって首なしライダーを成仏させるつもりだったんだ?相手は常に走ってんだぜ?」


三郎に言われて、輪路は立ち止まる。その輪路の肩に三郎が止まった。そういえば、考えていなかった。丘沢峠に行くという気持ちばかり先走って、肝心の成仏法を考えていなかったのだ。首なしライダーは、常にバイクに乗って走っている。話をするなら、まず首なしライダーに追い付かなければならない。いくら輪路でも、バイクと並走するなど無理だ。


「だったらレイジンを使って…!!」


「レイジンになれば追い付けるだろうな。だが、相手は走り屋だ。それにお前は持久力がないし、普通にやっても確実に振り切られる。たった二十秒程度しか飛べないのがいい証拠だ」


レイジンに変身すれば輪路の走る速度も数十倍に向上する。それだけの速度があれば確実に首なしライダーに追い付ける。しかし、相手は走りに関してプロだ。レイジンになっても持久力がないことは確かなので、まず振り切られる。


「だから俺がいるんだよ。結界を張れば、首なしライダーがよほど強くない限りは捕まえられる。」


三郎の結界は無限にループする異空間。その異空間の中に閉じ込めてしまえば、首なしライダーがとんでもない力の持ち主でもない限り、レイジンが倒すのは容易になる。


「ただし、気を付けろよ?首のない幽霊は古来より強い力を持つ。そもそも実害を出してる幽霊ってのは、大体リビドンになる一歩手前だ。危なくなったらすぐ結界を解く」


「ああ、わかったよ。」


首なしライダーに限らず、首がない幽霊は皆強い力を持っている。封印された状態から自力で復活した、などという例もあるほどだ。丘沢峠の首なしライダーはまだ犠牲者を出していないが、首なしライダーという種類の幽霊自体が被害者を出せる存在なので、危険なことに変わりはない。下手を打てば、首なしライダーは過去にレイジンが戦ったリビドンより、遥かに強くて恐ろしいリビドンになってしまうかもしれないのだ。


「とにかく急ぐぜ!!あのテレビを見て、バカが首なしライダーを見に行くかもしれねぇ!!」


輪路は先を急いだ。











輪路は丘沢峠に着いた。


「確か首なしライダーはここで目撃されたんだよな…」


輪路は監視カメラが首なしライダーを撮影したと思われる場所に来ると、辺りを見回す。


「誰も来てねぇらしいが…三郎、どうだ?誰かいたりしねぇか?」


「待ってろ。」


三郎は上空高く飛び上がると、周囲を見渡す。それから、人間や首なしライダーの気配がないかと、空間把握の妖術を使う。周りに自分の妖力を行き渡らせ、そこに何があるか、調べる妖術だ。一通り周囲の状況を確認してから、三郎は降りてきて輪路に伝える。


「誰もいねぇよ。ついでに言えば、首なしライダーもいねぇ。」


「そうか。」


輪路は安堵した。どうやら、一般人を犠牲にすることはなさそうだ。それから、腕時計を見る。時刻は9時13分。テレビのインタビューでは、首なしライダーを見たのは10時半過ぎと言っていたので、首なしライダーが動き出すには、まだ早いだろう。


「待つのか?」


「ああ。」


輪路は首なしライダーが現れるまで、待つことにした。




三十分経過。


「…」


輪路は腕時計を見る。


「…まだ首なしライダーが出る時間じゃねぇ。」


「ま、気長に待とうぜ。」


話し相手がいるので、退屈はしない。どれだけ時間があろうと、待つのみだ。



その時、一台のワゴン車がやってきて、中から数人の男性や女性が降りてきた。



「おい!確かこの辺りだよな!」「ああ!この辺だこの辺だ!」


輪路は驚く。


「何だお前ら?」


「何って、あんたもさっきのテレビ見て来たんだろ?」


「私達、首なしライダーが本当にいるかどうか見に来たんだよ。」


「「ねー!」」


恐れていたことが起きた。輪路や賢太郎のように、幽霊が見える者には、首なしライダーの姿がはっきり見える。しかし、そうでない者には見えないのだ。そして今回、カメラを通してだが断片的に姿が見えてしまった。それが多くの人間に興味を与えてしまい、こうして見に来てしまったのだ。


「なにバカなこと言ってやがる!!早く帰れ!!今ならまだ間に合う!!」


「はぁ?大丈夫だって。ほら、俺ら全員マフラーで首隠してるし。」


輪路は男達に帰るよう言うが、男達は聞かない。彼らは確かに、首を隠している。これなら確かに大丈夫かもしれないが…


次の瞬間、突風が吹いてきた。その風は、巻き方が甘かったのだろう一人の男のマフラーを吹き飛ばす。


「あ。」


呆気に取られたような声を出す男。次に、三郎が慌てて言った。


「おいお前!!車に戻れ!!首なしライダーが来たぞ!!」


「あ?今このカラス喋った?つーかよく見たら足三本あるぜ?」


「バカ!!俺のことなんてどうでも…」


三郎は男に車に戻るよう言うが、完全に舐めきっていて聞こうとしない。



そして、



「く…び…」



どこか遠くから、声が聞こえてきた。


「ん?」「なに?今の声?」「首?首って言ったのか?」


困惑する愚かな若者達。


「おれの…首…首…あった…」


それからまた声が聞こえた時、


「あ」


マフラーを飛ばされた男の首が突然切り落とされた。首は地面に落ちる前に空中へと消え去り、


「…ちがう…おれのくびじゃ…ない…」


再び声が聞こえて、消えたはずの首が、男の目の前に落ちた。その後に、男の身体が倒れる。


『うわあああああああああああ!!!』


眼前で起こったことをようやく理解した若者達は、パニックに陥いる。輪路は一人静かに、殺気が飛んできた方向を見ていた。暗闇の向こうから、何かがこちらに向かってくる。



最初に聞こえたのは、うるさい咆哮を上げるエンジンの音と、タイヤが高速で回転し地面と摩擦する音。最初に見えたのは、一つの光。その光の向こうに、バイクが見える。煌々とヘッドライトを輝かせ、こちらに向かって走ってくる、首のない人間の姿も。



これこそ先ほどテレビで見た、首なしライダーに他ならなかった。



「首なしライダーだ!!」「逃げろぉぉぉ!!」「きゃあああああ!!」


首なしライダーの姿を見た若者達は我先にとワゴン車に飛び込み、逃げてしまった。輪路は冷静に、三郎に命じる。


「三郎!!結界を張れ!!」


「おうよ!!」


三郎の全身が発光し、周囲が変わった。外観は先ほどと変わっていないが、生物の気配がない。感覚でわかる。フォールリビドンと戦った時と同じ、三郎の結界の中だ。


「戦う前によく聞いとけ。今首なしライダーは、呪いを使って人間を殺した。」


「呪い?」


「種類はいろいろあるが、今奴が使ったのは不可視の力だ。だが聖神帝になれば、呪いや不浄な力は防げる!奴の力を気にせず、おもいっきりやれ!!」


そう言うと、三郎は天空に向かって羽ばたいていった。輪路に首なしライダーが迫る。


「神帝、聖装!!」


輪路はレイジンへと変身し、突撃してきた首なしライダーをジャンプして避けた。宙返りをうって着地したレイジンは駆け出す。首なしライダーを避けた瞬間、自分の首に違和感を感じた。恐らく、さっき三郎が言った呪いを使って、首を切り落とそうとしたのだろう。危ないところだったが、三郎の言う通り、レイジンになれば首なしライダーの呪いを防げるようだ。驚異的なスピードを出したレイジンは、呪いを気にせず首なしライダーと並走する。


「おいお前!!とりあえずちょっと止まれ!!止まって落ち着け!!」


まずは説得。対する首なしライダーは、首がないため顔をこちらに向けられない。だが、意識が自分に向けられているのを、レイジンは感じていた。


「邪魔をするな…俺は俺の首を探しているんだ。それは俺の首じゃない」


首はないが、声を発する首なしライダー。最初彼は輪路の首を見ていたはずだし、実際に呪いで首を切り落とそうとしたが、レイジンに変身することで首が守られたため、首が意思を持っている、すなわち自分の首ではないと判断したのだろう。レイジンを無視する方向に決めているらしい。それでも説得を続ける。


「お前の首なんていくら探しても見つからねぇよ!何せお前の首は…」


「うるさい!!邪魔するなって言ってるだろ!!」


自分を追ってくるレイジンを目障りに思った首なしライダー。その周囲に、無数の光の円が出現した。円は一つ一つが超高速で回転し、レイジンに向かって飛んでくる。


「うわっ!!」


光の円盤を回避するレイジン。標的を逃した円盤は路面や木などに当たる。路面は大きな裂傷を残し、一つの円盤がいくつもの木を切り倒した。


「こいつはヤバいな…」


三郎は上空から、首なしライダーの攻撃を見ている。光の円盤は首なしライダーが己の霊力を圧縮して作ったカッターだ。呪いが効かないとわかったので、レイジンを振り切る意味も込めて、攻撃方法を切り替えたのだろう。


「だから落ち着けって!!」


レイジンは円盤をかわし、かわし損ねた円盤はスピリソードで斬って破壊する。首なしライダーは円盤の数を徐々に増やし、物量作戦に出た。その作戦は成功し、レイジンは円盤をさばくのに手一杯で、段々と距離を離されていく。スピードも落ちてきている。


(くそっ!!走りながら戦うってのはやりづれぇな!!)


レイジンに変身すれば、変身前にはできなかったような戦い方もできるようになる。というか、そんな戦い方をしなければならない戦いもある。パワーなら輪路の方がまだ首なしライダーを遥かに上回っている。しかし、彼にはそれ以上に大切なもの。聖神帝の力を使った戦いの経験値が、圧倒的に足りていなかった。ゆえに、自分より劣る相手を逃がしかけている。こんな戦い方は初めてだから。


「なら勝負に出るぜ!!」


レイジンは一気に決着をつけることに決めた。空を飛ぶのだ。走るよりも、飛んだ方が速い。空を飛んで素早く距離を詰め、レイジンスラッシュで倒す。リビドンでもない相手にこれを喰らわせるのはかなり気が引けるが、もうこれしかない。


「おおっ!!」


レイジンが飛んだ。カッターをスピリソードで斬りながら、一気に距離を詰める。そして、遂に首なしライダーのすぐ後ろを取った。


「もらったぁぁ!!」


スピリソードに霊力を込めて、振り下ろす。



だがその時、



「輪路!!バカ野郎!!周りよく見ろ!!」



三郎の叫びが聞こえた。


「!?」


そして気付いた。レイジンの周囲を、大量のカッターが包囲している。カッターは一斉に、レイジンに向かって飛んでくる。上も下も前も後ろも全部囲まれているため、かわせない。


「このっ…!!!」


レイジンはレイジンスラッシュを自分の周囲に向けて放ち、カッターをいくらか破壊する。だが全てを破壊するには至らず、残り全てを喰らってしまった。


「ぐああああああ!!!」


空中から叩き落とされ、路面を転がるレイジン。


「ちっ…ここまでだな…」


三郎は結界を解く。このまま戦いを続ければ、レイジンが危険であると判断したからだ。結界は消え去り、首なしライダーは走り去っていった。


「ぐぅっ!!」


レイジンはスピリソードを地面に突き刺し、杖代わりにして立つ。首なしライダーの姿は、もう見えない。バイクのエンジン音も、タイヤが回って道路を走る音も、もう聞こえない。


「…逃がしたか…」


首なしライダーに逃げられてしまった。レイジンは変身を解き、呟いた。











ヒーリングタイムは22時閉店である。閉店時間を過ぎても輪路は戻らず、美由紀は店の奥のリビングで心配しながら待っていた。


「ん…」


だが、知らないうちに眠ってしまっていたらしく、時計を見ればもう23時だ。テーブルに突っ伏す形で寝ていた美由紀は、誰かの気配を感じて目を覚まし、起き上がった。


「…あっ、輪路さん!」


見ると、輪路が裏口から帰ってきていた。美由紀は寝ぼけていた意識を一気に覚醒させ、輪路を迎える。


「おかえりなさい!」


「…ああ。」


輪路は少し機嫌が悪そうに言うと、椅子に座り、片手の甲を自分の顔に当てて、ふぅ、と息をついた。それから、


「…水。」


「あ、はい!」


美由紀に水を持ってくるよう言い、水は水道でコップ一杯の水を汲むと、輪路の前に置いた。輪路は礼も言わずにコップを持つと、すぐさま口に流し込み、コップが空になるまで水を飲んだ。コップをテーブルに置き、また一息つく。


「…どうだったんですか?首なしライダーのこと…」


美由紀は遠慮がちに尋ねた。輪路の機嫌が悪そうなのは、間違いなく首なしライダー関係で何かあったからとわかっている。輪路は答えた。


「逃げられた。」


「…そうですか…」


逃げられた。これで確定である。成仏させるべき相手を成仏させられなかったということは、輪路にとって何よりも苦痛なのだ。


「…でも、気を落とさないで下さい!明日また行けば…」


「いや。このままじゃ何度行っても逃げられる」


失敗した理由はわかっている。そしてその理由を解決しない限り、首なしライダーを成仏させることは不可能だ。


「じゃあどうすれば…」


「…まずは下準備だな。」


しかし、それを解決する方法を、輪路はもう考えていた。











翌日。輪路は三郎を連れて、交番まで来ていた。


「こんな所に何の用だ?警察なんかにどうこうできる相手じゃねぇってことはわかってるだろ?」

三郎は訊くが、輪路は答えない。輪路はただ、掲示板を見ている。と、一枚の張り紙が彼の目に止まった。


『現在指名手配中。見かけた方は、速やかに警察にご連絡下さい。ご協力して下さった方には、懸賞金30万円を差し上げます。』


指名手配の張り紙だ。人相の悪い男性や女性の顔写真が、五人ほど添付されている。輪路はそれを見てニヤリと笑った。


「三郎。お前確か、人捜しの妖術とか使えたよな?それでちょっと捜して欲しい相手がいるんだが…」


「ん?…ああ、そういうことか。いいぜ」


三郎は輪路の意図に気付いたらしく、妖術を使う。感覚を街中に行き渡らせる三郎。


「…三人いるな。まず一人は、ここから東に300m行った所にあるパチンコ屋だ。次がそこから北に200m行った所にあるスーパー。最後は東に400m行った所にある公園だ」


「よし。念のため一枚張り紙もらってくか」


輪路は交番に入ると、指名手配犯の顔写真が張られたチラシをもらい、パチンコ屋に行った。





「よし。」


輪路は見事に指名手配犯三人を捕まえて警察に突き出し、懸賞金を合計90万円もらった。次に輪路が向かったのは、バイク屋だ。


「いらっしゃいませ!」


笑顔で迎える店員。輪路はその店員に、先ほどもらったばかりの札束を見せながら言った。


「この店で一番速いバイクをくれ。特に峠を攻められるようなやつをな」











夜。丘沢峠には、エンジン音が響いていた。しかし、それは首なしライダーのバイクのエンジン音ではない。今日購入した、輪路のバイクのエンジン音だ。バイクを使う。それが輪路が考えた、首なしライダーを成仏させるための方法である。何度も言うが、輪路は持久力がない。走りながらという戦い方が、輪路のスピードを落とし、結果あのような博打めいた方法を挑み、不覚を取った。バイクがあれば、走るのに使う労力を攻撃に回せる。


「でもバイクを買うためのお金をあんな方法で稼ぐなんて…言って下されば私が払ったのに。」


美由紀は呆れた。どうしても来たいと言ったため、一緒に来たのだ。買ったばかりのバイクに二人乗りして。ニートな輪路だが、免許は取っている。というか、自分も取るからという理由で美由紀に取らされた。そこでバイクの免許も欲しいと思った輪路の希望で、自動車免許とバイク専用の免許の二つを取っている。だから、バイクを運転できるだけの技量は持ち合わせているのだ。


「バーカ。俺の問題なんだぜ?お前に迷惑はかけられねぇよ」


幽霊関係の問題で、幽霊が見えない美由紀に迷惑はかけられなかった。だから指名手配犯の逮捕に協力するなどという回りくどい方法で、資金を集めたのだ。それにしても、指名手配犯が三人も潜伏していたのは予想外だった。これも聖神帝の力の影響だろうか。まぁ、おかげで最高時速350kmというかなり良質なバイクが買えたのだが。


「けど油断はするなよ輪路。バイクを使った戦いは向こうの方がお前よりずっと慣れてるんだからな」


「わかってるよ。」


「…っと。噂をすれば影、だ。」


三郎は首なしライダーが現れたことを感知する。


「いいか美由紀?そのマフラーしっかり押さえとけ。俺が首なしライダーを成仏させるまで、絶対取るんじゃねぇぞ!」


「はい!」


美由紀は首なしライダー対策のため、マフラーを首に巻いている。こうしておけば、彼女が首なしライダーに狙われることはない。


「来たぞ!!結界を張る!!」


三郎は空を飛び、結界を張る。間もなくして、遠くから首なしライダーが走ってくるのが見えた。


「神帝、聖装!!」


ヘルメットを被り、レイジンに変身する輪路。そのすぐ横を、首なしライダーが通りすぎた。レイジンも美由紀も、標的に入れていないようだ。今首を隠していないのは三郎だけだが、彼は首なしライダーから見えない上空にいるし、そもそも人間ではないのでノーカウントなのだろう。でなければ、昨日やられているはずだ。レイジンは首なしライダーが通りすぎたのを見計らって、自身もバイクを走らせ、後を追う。レイジンが走るのには及ばないが、さすがに高性能バイクなだけあって、すぐ首なしライダーと並走する。


「またお前か。邪魔するなって言っただろ」


「そうもいかねぇさ。お前が実害出した以上はな!」


スピリソードを抜くレイジン。首なしライダーも昨夜と同じように霊力カッターを無数に飛ばし、応戦してくる。レイジンはそれをスピリソードで防ぐ。やはり、昨日より戦いやすい。ハンドル操作の分片手が使えなくなるが、それを引いても持久力を気にせず戦えるというアドバンテージは大きかった。すると、分が悪いとでも思ったのか、首なしライダーは攻撃するのをやめ、バイクの速度を上げた。スピードで強引に振り切るつもりだ。


「逃がすかよ!!」


レイジンもまた、自分のバイクのスピードを上げた。すぐ追い付き、スピリソードを振る。しかし、ガギィィン!!と金属音がして、スピリソードは止められた。見ると、首なしライダーの片腕が巨大なジャックナイフのような形状に変化している。この腕で受け止めたのだ。


「邪魔を…するな!!」


次の瞬間、首なしライダーはもう片方の腕もナイフに変化させ、手放し運転をしながら両腕を振るい、レイジンを攻撃してきた。


「ちぃっ!!」


元一般人とは思えないほど鋭い攻撃を繰り出してくる首なしライダー。レイジンもまたスピリソードを振るい、首なしライダーと斬り合う。


「きゃっ!!」


美由紀の目の前を、走り去ったはずの二台のバイクが通りすぎた。現在この丘沢峠は全体を三郎の結界に覆われており、出ようとすると最初の場所に戻る無限ループが働いている。つまり、もうこの峠を一週してきたのだ。


「輪路さん…頑張って!!」


聞こえてはいないだろうが、美由紀はレイジンを応援した。


「ふん!!」


「ぐっ!!」


首なしライダーは両腕のナイフで同時にレイジンを攻撃し、さらにスピードを上げた。それから、周囲にカッターを無差別に発射する。


「野郎…俺の結界を破るつもりか!!輪路!!さっさと仕留めろ!!」


「わかってるよ!!わかってるがな…!!」


レイジンはバイクの速度計を見た。彼のバイクは、とっくに最高速度に達している。これ以上は上がらない。だが、首なしライダーはまだまだスピードを上げ続けている。首なしライダーは自身の霊力を使ってバイクを操作し、さらに注いでいる霊力を増幅することでバイクのスピードを限界を超えて上げているのだ。その上、霊力カッターの大量放出で三郎の結界まで破ろうとしている。いくら首のない幽霊が強い力を持つとはいえ、これは異常だ。何か力の供給源でもない限り、こんなことはできない。レイジンにとって、思い当たることは一つだけだった。憎しみを糧としてその力を増す怨霊、リビドン。


(この感覚間違いねぇ!!このままだとあいつはリビドンになっちまう!!)


首なしライダーはレイジンへの憎悪によって、リビドンになりつつあったのだ。レイジンはそれを感じていた。しかし、リビドン化を防ぐ方法がない。衝撃波を放とうにも、相手は霊体である。霊力の込められていない物理攻撃は効かない。


(せめて…こっちがもう少し速くなれりゃあなぁ…!!)


せめて首なしライダーに追い付けるだけのスピードが欲しい。



そう思った時だった。



(唱えろ。戦神騎乗)


(!?あの声!?)


レイジンの頭に、またあの声が聞こえてきた。初めてレイジンに変身した時と同じ、あの懐かしい声が。


(唱えろ。戦神騎乗)


今度は別の呪文だ。戦神せんじん騎乗きじょうと唱えるよう指示している。


「戦神、騎乗!!」


レイジンは迷うことなく唱えた。



その瞬間、レイジンの身体が発光し、その光がバイクに移った。バイクは白銀色へと変色する。



「これは…」


レイジンはバイクから両手を離してみる。走れる。両手を離しても、己の意思でバイクを操れる。


「そうか!!これなら!!」


何が起こったのか理解したレイジンは、速くなれと頭の中で強く念じる。思った通り、バイクはスピードアップした。


「まさかあいつ、神馬しんば疾走しっそうを!?」


三郎は驚いている。レイジンがやったのは、自分が乗っている物に自身の霊力を与えて操り、強化を行う神馬疾走という法術だ。レイジンはバイクを自身の霊力で強化して、バイクのスピードを上げた。しかも、ハンドル操作をしなくても意思だけで操れる。


「オラッ!!」


再び首なしライダーに追い付いたレイジンは、今度は両手が自由になっているので、スピリソードの斬撃に加えて裏拳などの打撃も放つ。


「くっ…」


単純なパワーなら、リビドンになりかけている首なしライダーよりも、レイジンの方がずっと強い。今度は首なしライダーの方が追い詰められていた。と、首なしライダーは突然ブレーキをかけ、レイジンは首なしライダーを追い越してしまう。仕方なくUターンする。首なしライダーはその間に両手を元に戻してハンドルを握り、バイクの前輪を持ち上げた。すると、前輪が回転ノコギリへと変化し、超高速で回転を始める。首なしライダーはそのまま、ウィリーで突撃してきた。


「レイジン、ぶった斬る!!」


それを見たレイジンはバイクのサドルの上に立ち、バイクを走らせ、止まれと念じる。バイクは急停止し、レイジンはその反動を利用して飛び出した。そのままスピリソードに霊力を込め、


「レイジンスラァァァァァァァッシュッ!!!」


前輪もろとも、首なしライダーを真っ二つにした。バイクと一緒に大爆発を起こす首なしライダー。


「輪路さん!!」


ちょうどレイジンが首なしライダーを倒したのは自分の前だったため、駆け寄る美由紀。


「首…俺の…首…」


レイジンは半透明になって空中に浮いている首なしライダーを見ている。


「…何言ってんだお前。」


そして言った。



「お前の首ならちゃんと付いてるじゃねぇか。」



「…えっ?」



レイジンの発言に驚いた首なしライダーは、両手で自分の首を触ってみる。首なしライダーは、もう首なしライダーではなかった。首が、首から上が、ちゃんと付いていたのだ。


「ど、どういうことですか!?さっきまで首は…!!」


困惑する美由紀。レイジンに斬られるまで、確かに首はなかったはずである。三郎は降りてきて美由紀の肩に止まり、説明してやった。


「特別な術でも使わない限り、肉体の一部が欠損したままの幽霊なんてものはない。こいつは幽霊になった後、自分の死体を見たんだろうな。それで自分には首がないって思い込んだんだ」


霊体になった後の姿は精神の状態によって決まる。自分には首がないと思い込めば、本当にそうなってしまうのだ。今回はレイジンスラッシュによって魂が浄化され、本来のあるべき姿を取り戻したのである。


「そんなことが…」


「あいつはもう幽霊だ。生身の人間と同じじゃねぇんだよ」


美由紀はあり得ないと思ったが、幽霊の肉体は生身の肉体ではない。だから、あり得ないこともできるのだ。壁をすり抜けたりなどが、いい例である。大体幽霊に生身の首をくっ付けられるわけがないので、首を見つけたところで無意味なのだ。


「ありがとう!俺の首を見つけてくれて!」


男はレイジンに礼を言うと、自分のバイクと一緒に成仏していった。


「やれやれ、とんだバイクチェイスだったな。」


レイジンは変身を解く。


「輪路さん!!よかったぁ無事で…」


「俺が何回も負けるわけねぇだろ?」


「しかし、まさか神馬疾走をやっちまうとはな。」


「神馬疾走?」


「今お前がやったやつだよ。どこで覚えたんだ?」


輪路は三郎から訊かれて、自分のバイクを見る。もう白銀の輝きは消え去り、元のバイクに戻っていた。


「…声が聞こえたんだ。最初にレイジンに変身した時と同じでよ、戦神騎乗って唱えろって。」


「声、ですか?」


「俺には何にも聞こえなかったがな。」


あの声は、美由紀と三郎には聞こえていなかったらしい。


「そうか。」


輪路は特に気に留めなかった。何だか、またあの声を聞ける時が来るような気がしたからだ。


「…じゃ、帰るか。」


「はい!」


「今回は俺も疲れた。もう少し勘を取り戻さなきゃな」


三郎は結界を解くとどこかへ飛び去り、輪路はバイクに乗った。美由紀はその後ろに座り、ヘルメットを被ると輪路の腰をしっかり抱える。美由紀が自分に掴まったのを確認し、輪路はバイクを走らせる。











「なぁ美由紀。」


輪路は帰る途中、自分の後ろの美由紀に尋ねた。


「お前はバイク派か?それとも車派か?」


「…どっちかって言うと車派です。」


「…そうか。」


輪路は少し残念そうに言った。今回は首なしライダーの件もあって、輪路は自分の好きな方を取ることができた。幽霊の問題が、彼の気持ちを後押ししてくれたとも言える。しかし、趣味は人によって違う。自分が好きだからといって、美由紀が好きだとは限らないのだ。


「…でも」


「ん?」


だが、美由紀の返答はまだ終わっていなかった。


「…こんな風に輪路さんと一緒に乗れるなら、バイクの方が好きですね。」


「…俺と乗れるなら車も同じだろ。」


「そうじゃなくて、こんな風に輪路さんに、ぴと、ってくっついて乗りたいってことです。」


美由紀は、輪路と一緒に乗れるならバイクの方が好きだと言った。それも、輪路に密着して乗れるならと。確かにこんな乗り方は、バイクにしかできない。できないのだが…


「…変なやつだな、お前。」


「悪かったですね。」


輪路はデリカシーのなり言葉を返し、美由紀はぷくーっとほっぺたを膨らませた。


「それより、スピードの出しすぎには気を付けて下さいね?」


「わかってるよ。事故って首なしライダーになるなんざ御免だからな」


それから美由紀は軽く注意して、輪路はバイクを走らせた。





はい、今回戦った相手は有名な都市伝説の一つ、首なしライダーでした。この幽霊は出会った相手の首を自分の首だと間違えて刈り取るのですが、気付かないんでしょうかね?自分の首じゃないってことに。まぁ行動に正常さがないってあたり、幽霊らしいとは思いますけどね。ちなみに僕はバイク派です。


次回もお楽しみに!

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