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異世界冒険譚!!勇者と十匹の悪魔 PART1

今回から、断空牙さんの作品、ワールド・オフェンダーとのコラボです。張り切って行きます!

「村長!」


自室で一人、今後について考えていた老人に、外から飛び込んできた男性が話し掛ける。


「まだこんな所にいたんですか!早く避難の準備を!この村はもう駄目です!」


「この世界は、の間違いではないのか?」


「うっ…!!」


指摘され、男性は言葉に詰まる。今この世界は、滅びの時を迎えようとしている。村人達の疎開は、ほんの一時しのぎにしかならない。


「どこへ逃げても同じじゃ。それより、この世界を救えるかどうか、その可能性に賭けてみようではないか。」


「何をおっしゃっているのですか?」


「試してみるのじゃ。」


この老人の家には、世界に滅亡の危機が迫った時、それを回避するための方法が遺されている。



「勇者召喚を!!」



もう世界を救うには、それしか方法がなかった。











「♪~」


輪路は久々に、バイクに乗ってツーリングを楽しんでいた。今日は協会から休暇を与えられたのだ。本当はもっと腕を上げたかったから、休暇など欲しくはなかったのだが、無理矢理休まされた。せっかくだから楽しもうということで、バイクで走り回っている。


と、


「?」


何かがある。道路の真ん中に、それも空中に浮いている。まだ距離があったので、それが何なのか見えなかったが、このままではぶつかる。慌ててブレーキを掛けようとした時、



目の前の空間に穴が空いた。



「ああ!?」


止まることもできず穴に飛び込んでしまう輪路。穴は輪路が通り抜けると、何事もなかったかのように消えてしまった。


「何だ今のは!?」


空を飛んで上から輪路を見ていた三郎は、穴があったはずの場所に降り立つ。しかし、穴は完全に消えていた。


「…ちっ!」


三郎は苦い顔をすると、ヒーリングタイムに向かって飛んでいった。この時三郎は、輪路が見た何かが消えていたことに気付いていない。なぜなら、三郎には見えなかったからだ。











同時刻。


ここは王国学園。輪路達とは別の世界に存在する学園で、輪路達の世界と同じく、特殊能力者がいる。ただ輪路達の世界と違うのは、もっと広く認知されているということだ。


「…で、何の用だよ?」


この世界の住人、相馬ナイトは、学園の校庭に来ていた。否、連れてこられたのだ。目の前には彼をここまで引きずってきた女子生徒、烏丸憂が腕組みをして立ち、不敵な笑みを浮かべている。


「ふっふっふっ…まずはよく逃げなかったと褒めてやろう。」


「いや、逃げるも何もお前がここまで連れて来たじゃん。」


「今日おみゃーを呼び出したのは他でもない。」


「聞けよ話を。」


ナイトの意見を無視して、烏丸は勝手に話を続ける。岐阜弁で話すその姿には、妙な迫力というか、貫禄がある。


「そろそろわっちとおみゃーのどっちが強いか、白黒ハッキリさせようと思ってのう。」


そう言いながら、烏丸は隠し持っていたナイフを抜いた。そして、ナイフについているスイッチを押すと、ナイフが耳障りな音を立てて高速で振動を始める。


「おまっ、何だよそれ!?」


「見ての通り、こいつは高周波ナイフ。今日の決闘に備えて昨日買っといたんじゃ!」


「い、いや、まさかその危なっかしいモノを、本気で俺に使おうなんてわけじゃあ…ないですよ…ね…?」


高周波ナイフは刃を高周波で高速振動させ、切断力を高めたナイフだ。そんな物で切られたら、大怪我どころでは済まない。本来なら、こんな喧嘩で使うような代物ではないのだが、


「使うに決まっとるじゃろうが!!往生せぇや相馬ナイトぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


厄介なことに、この烏丸憂という女は喧嘩でそういう物を使ってしまうのだ。


「うわーっ!!やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


飛び掛かってきた烏丸から逃げるナイト。烏丸は逃げたナイトを追いかける。


「そ、相馬さん!?それに烏丸さんも!?」


そこへ、一人の女子が来た。名は砂原沙織。とある事情により、ナイトに救われた者だ。


「何の騒ぎ?」


と、もう一人。今度はどこかの軍隊の特殊装備のような服を着た、少女が現れた。彼女は伊織汐。CGTという特殊部隊に所属しており、彼女もまたナイトに救われた者である。


「伊織さん!?どうしてここに!?っていうかどうしてCGTの隊員服なんですか!?」


「近くで演習をしてたら騒ぎが聞こえたから来た。ところでこれは?」


「わかりません。私も騒ぎが聞こえたから…とにかく止めないと!」


「近寄っては駄目。あっちが使ってるのは高周波ナイフだから、迂闊に近付くのは危険。ここは私が…」


伊織は近くで隊の演習をしていたので、装備もいくつか持ってきてある。丸腰で飛び込むよりはずっと安全だ。


「おいおい、何やってんだあいつら?」


今度は安倍彦馬という少年が来た。ナイトとは腐れ縁のような関係である。少し騒がしかったので、様子を見に来たのだ。


「私達にもさっぱり…」


「今から私が止めに入るところ。」


「ふ~ん…ま、こっちに迷惑がかからないようにな。」


砂原と伊織が簡単に状況を説明し、さして何も問題がなさそうだったので、安倍は去ることにした。その時、


「おわぁぁぁぁぁぁ!!!」


「ぶべらっ!!」


烏丸が飛んできて、安倍にぶつかった。隙を突いたナイトが、烏丸の腕を掴んで投げ飛ばしたのである。ただ、投げた先に安倍がいるとは思わなかった。


「何しやがんだ相馬ナイト!!」


「あれ?お前いたの?」


「てめぇ…わざとじゃねぇだろうな?」


「んなわけないだろ。烏丸から逃げるのに精一杯で、今初めてお前がいるのに気付いたんだよ。」


「ちっ…ちょっと油断したか…」


立ち上がる烏丸。再び暴れる前に、砂原が後ろから羽交い締めにして拘束する。


「離せこのクソヴィッチが!!」


「駄目です!!あなた相馬さんに何しようとしてたんですか!!」


「わっちはあいつと白黒ハッキリさせたかっただけじゃ!!離せ離せはーなーせー!!!」


「ちょっ、暴れないで下さい!!」


烏丸は砂原の拘束を振りほどこうと暴れる。高周波ナイフを振り回しているので、非常に危ない。


「ったく…ん?」


烏丸の射程から離れて安全を確保した安倍は、何かがあるのに気付く。


「ん?どうした?」


「いや、あれ…」


ナイトに訊かれて、安倍は指差す。そこには、奇怪な文字が書かれた石が浮いていた。空中に浮いていたのである。


「?」


「え?」


「はな…ん?」


伊織も、砂原も、烏丸も気付く。そして全員がその石を見た瞬間、




五人は不思議な光に包まれて、石もろともこの世界から消えた。











そこには祭壇があった。祭壇の下には、多くの村人が集結している。


「まもなくじゃ!!まもなく勇者様が、この祭壇に降臨なされる!!」


その先頭に村長がおり、村人達に呼び掛けた。そして、次の瞬間、祭壇の上に巨大な光の柱が出現し、光の柱が消えた時、六人の人物がいた。廻藤輪路、相馬ナイト、安倍彦馬、砂原沙織、烏丸憂、伊織汐の六人である。


「な、何だぁ一体!?」


最初に声を上げたのは輪路だった。その後から、村人達が歓声を上げる。


「成功だぁぁぁぁ!!!」「勇者様が降臨なされたぞ!!!」「これで俺達助かるんだ!!!」「この世界は救われるぞぉぉぉぉ!!!」

「…なんかすごい盛り上がってるんですけど…」


ナイトは呟いた。すると、彼らの前に老人が進み出てきた。


「我らの世界、レジェネイアにようこそ、勇者様。」


「世界?レジェネイア?勇者?」


烏丸が挙げられた単語をそのまま言う。


「いろいろと質問はあるでしょうが、ひとまず私の家へ。」


輪路達は老人に案内され、老人の家に行った。











どこかの古城。その最上階に、十人の異形がいた。


「…どこかの誰かが、何かをしたようだ。」


リーダー格と思われる、八枚の羽を持つ巨体が言った。


「この方角には、確か小さな村があったはず。」


巨大なハエの姿をした化け物が、力の波動を感じ取って方角を示す。


「私知ってるわ。その村には確か、勇者召喚とかいう儀式が残ってた。」


「勇者召喚…ふん、異世界に助けを求めるとは、連中もなりふり構わなくなったようだな。」


「何をしても無駄だというのに、人間というのは懲りん生き物だ。」


他の異形は口々に言う。


「だが、野放しにもしておけまい。バール」


「は。」


八枚羽の異形に呼ばれた醜悪な姿の異形、バールは返事をする。


「行って様子を見てくるのだ。そして可能なら、村を潰せ。」


「かしこまりました。」


バールは姿を消す。ハエは笑った。


「いきなりバールを行かせるとは…あなたは加減というものを知らない。」


「しかし、万が一ということもある。ベルフェゴール、ナヘマー。お前達も行け」


「「は。」」


さらに二体の異形が、バールを追っていった。











村長の家。輪路達は一番奥の部屋に通された。


「まずは自己紹介を。私はジル・マーリン。この村の村長をしております」


村長から自己紹介されて、輪路達も名乗る。


「早速だが質問させてもらっていいか?」


「どうぞ。私にはあなた方を呼び出した者として、全てを説明する義務があります。」


輪路は早速、ジルに質問する。


「ここはどこだ?」


「ここはレジェネイア。あなた方が住んでいる世界とは違う、俗に言う異世界でございます。」


「異世界!?」


「左様。そして我々が、あなた方をこの世界に召喚したのでございます。」


「召喚?何で?」


驚く輪路と、さらに質問するナイト。ジルは答える。


「今この世界は滅亡へと向かっております。クリフォトの樹から復活した十匹の悪魔によって」


「クリフォトの樹!?それって…!!」


「知っているのか?砂原沙織。」


砂原はクリフォトの樹という単語に心当たりがあったようで、伊織が尋ねる。


「生命についての働きが記された、セフィロトの樹というものが存在しています。クリフォトの樹というのは、そのセフィロトの樹と逆の働きを示す樹なんです。」


「そう。そしてこの世界のある城には、そのクリフォトの樹が刻まれた巨大な石板が安置されていました。ところが、突然クリフォトの樹を破壊して、悪魔が飛び出してきたのです。」


クリフォトの樹には、十匹の悪魔の名前が記されている。その名前の通りの悪魔がクリフォトの樹から復活し、世界を支配してしまったのだそうだ。


「多くの国が手を取り合い、団結して悪魔を滅ぼそうとしました。しかし、それらの国は逆に滅ぼされてしまい、もうこの世界には小さな村がちらほらと残るのみに…」


ジルはつらそうに話した。たくさんの兵士が、悪魔達に挑む姿を見た。しかし、悪魔達に挑んだ兵士は一人として帰って来なかったのだ。


「そして我々は最終手段を実行することにしたのです。この村には世界に危機が迫った時、それを打開する方法として異世界から戦士を召喚する、勇者召喚の儀式が伝えられています。」


「それで私達を呼んだ、というわけなんですね?」


砂原が訊くと、ジルは頷いた。


「ちょちょちょっ、ちょっと待て!俺が勇者!?」


しかし、輪路は納得していない。


「いやおかしいだろ!!勇者を呼ぶなら、もっとそれっぽい奴にすべきだって!!」


「そうっすよ!!俺なんて平穏を愛するだけのただの学生だし、勇者なんてとてもとても…」


自分達は勇者の器ではないと言う輪路とナイト。ジルは驚く。


「そのようなはずはありません!!ここにいるということは、あなた方はこれを見たはずです!!」


そう言いながら、ジルは何かを取り出した。伊織が呟く。


「これはあの時の…」


石だ。彼らが召喚される時に出現した、奇怪な文字が書かれた石である。


「この石は召喚石。勇者召喚の儀式を行った時、勇者の資質を持つ者がいる世界に現れ、この石を見ることができた者を勇者としてレジェネイアに召喚します。あなた方がここにいるということは、石が見えたということ。そしてそれこそ、あなた方が勇者の資質を持つということに他ならないのです。」


「遠くから見たから何かわからなかったが、そんな大事なもんだったんだなこれ。」


バイクに乗って遠くから見たので、輪路はこれがそれほどまでに重要なものだったということを知らなかった。ちなみに、バイクは担いで祭壇から降ろし、今はジルの家の近くに停めてある。


「ん?ちょっと待てよ?」


と、ナイトは考える。ならあの時召喚石を見ていなければ、自分はこの世界に召喚されなかった。続いて思い出す。あの時召喚石を見つけたのは、安倍だ。そして、自分に召喚石を見せたのも安倍である。


「じゃあ、あの時お前が俺に召喚石を見せなかったら、お前だけ召喚されて俺は巻き込まれなかったと?」


「ん?」


早い話がそうである。そう思うと、だんだん腹が立ってきた。そして、


「やっぱりお前が俺の最大の敵だぁぁぁぁぁぁ!!!」


気付けば怒りが頂点に達し、安倍の顔面にドロップキックを入れていた。


「濡れ衣だーっ!!!」


吹っ飛んで倒れる安倍。ナイトはさらに怒りを投げ掛ける。


「何が濡れ衣だ何が!!今まで散々俺を面倒に巻き込みやがって!!俺は平穏に暮らしたいって何度言わせりゃわかんだよてめーは!!」


「知るかんなもん!!大体どう考えても不可抗力だろうが!!変なもんが空中に浮いてたら幻覚かもしれないと思って他の連中に確認取るだろうよ普通は!!」


「やかましい!!んな言い訳は聞きたくないんだよどうすんだこれ取り返しの付かねぇことになっちまったぞ!!」


「俺だって何か方法があるんなら聞きてぇわ!!文句言ってねぇで打開策を考えろよ打開策をよぉ!!」


「てっめ!!人を勝手に巻き込んどいて方法を考えさせるとか何考えてんだ!!」


「だから不可抗力だって言ってんだろ!!お前こそ何度も言わせんなこのバカ!!」


そのまま口論を始める二人。輪路はかなり引きながら、砂原達に訊いた。


「なぁ。もしかしてこいつら、これがいつものことだったりすんの?」


「えーっと…」


「大体合っている。」


「お、お二人ともおやめ下さい!」


砂原は返答に困り、伊織は無表情で即答した。ジルは二人を止めようとしている。



「うるさいのうおみゃーらは!」



だが、二人の口論を鶴の一声で制したのは、今まで黙っていた烏丸だった。


「はっきり言ってわっちは今の状況があんまり飲み込めてない。けど要はその悪魔ってのを何とかすればいいっちゅうことなんだろ?」


「そ、その通りです!悪魔達さえ倒して頂ければ、すぐにでも元の世界にお帰しします!」


烏丸は質問し、ジルが答える。ジル達は悪魔を滅ぼして欲しいから輪路達を呼んだのであって、このレジェネイアに住んで欲しいというわけではない。用さえ済めば、元の世界に帰してもらえるのだ。


「だろ?ならぐちゃぐちゃ言ってねーで、とっととその悪魔どもを皆殺しにしてやりゃあいい。」


「…ま、その通りだな。人死にが出てるってんなら止めなきゃよ」


輪路も烏丸と同意見だった。どのみち悪魔達を放ってはおけない。これ以上犠牲者を増やさないためにも、倒さなければ。


「私もそれがいいと思います。こんな大きな出来事、黙って見過ごすなんてできません。」


砂原も同意する。


「…とにかく悪魔を全滅させればいい?」


「はい。」


「わかった。容赦しない」


伊織は砂原に尋ね、自身も悪魔退治に尽力すると誓った。


「…やれやれ、ずいぶんと厄介なことに巻き込まれたらしいけど、確かにうだうだ言ってても始まらないよな。」


「だよな。仕方ない。元の世界に帰るためにも、協力してやるよ。」


しぶしぶではあるが、ナイトと安倍も悪魔討伐のため立ち上がった。


「皆さん…ありがとうございます!!」


頭を深く下げて、礼を言うジル。


「そうと決まりゃ、早速敵のアジトに乗り込もうぜ。」


「もうですか?いきなり飛び込むのは危険ですよ。相手は十体もいるんですから」


輪路は今から悪魔達のアジトに乗り込み、短期決戦を仕掛けようと提案した。しかし、砂原の言う通り何の情報もないまま敵の懐に飛び込むのは危険だ。悪魔の数は十。相手は悪魔だから強いのは確実だし、こちらは数で負けている。袋叩きにされたり各個撃破をされでもしたら、ひとたまりもない。


「そりゃそうだが…にしても悪魔か…」


輪路は考える。幽霊やリビドン、妖怪などと対決したことはあるが、悪魔は初めてだ。実在していたとも思っていなかった。と、


「おみゃー、廻藤って言ったっけ?」


「ん?ああ。」


「おみゃー、強いだろ。」


唐突に、烏丸がそんなことを訊いてきた。


「…さぁな。正直言って、かなり微妙だ。」


そう答えたのは、討魔士として、という意味で考えたからだ。まだ翔以外の討魔士と戦った経験はないが、翔曰く今の輪路は見習い討魔士の中でも下の上レベルらしい。そう考えると、強いと言えるかどうか…


「おみゃーの腰に差してあるそれは飾りか?」


「馬鹿言うんじゃねぇ。俺はこいつを使って、いろんな相手と戦ってきたんだ。今度の悪魔だって、サクッとやってやるさ。」


「ほーう。」


どうも烏丸は、輪路を試しているらしい。輪路が強いかどうか、彼女の人を見る一種の物差しである。



その時、



「村長!!大変です!!」


村人の一人がひどく慌てた様子で、家の中に飛び込んできた。


「何じゃ騒々しい!今わしは勇者様方と大事な話を…」


「悪魔が!!悪魔が攻めて来ました!!」


「何じゃと!?」


ジルは最初怒ったが、村人からの報告を聞いて顔色を変える。悪魔が攻めてきた。村人はそう言った。


「それで何の悪魔じゃ!?」


「バールです!!」


「バール?あの殴るやつか?」


「そっちのバールじゃありません!!っていうか使い道違いますから!!」


輪路はバールという名前を聞き、思わず工具のバールを思い浮かべてしまった。すかさずツッコミを入れる砂原。あれで輪路のイメージしたものがわかった彼女も大概だが。


「色欲の悪魔バールか…また厄介な…!!」


「向こうから来やがったか…じいさん、俺が何とかするから、あんたはここに隠れてろ。」


「…悔しいですが、私ではお力になれそうもありません。どうか村をお願いします!」


ジルは老体ゆえに戦う力がない。だから輪路に任せた。


「あんた一人に行かせるわけにはいかないでしょ。」


「そうです!勇者として召喚されたんですから、私達も行きます!」


「わっちも行くぞ!くぅ~!腕が鳴るのぅ!」


「わかった。行く」


「…しょうがねぇな。倒さないと帰れないんだし」


ナイト達も同行を申し出てきた。


「本当はお前らにも待ってて欲しかったんだが…まぁいい。お前、案内してくれ。」


「はい!こちらです!」


村人は輪路達を先導し、悪魔が暴れているという場所に案内した。











村人に案内されたどり着いた場所は、まさに地獄だった。


「あああああ!!!」「ヴァァァァァ!!!」「オオオアアアア!!!」


なんと村人達が武器を持ち、互いに殺し合ったり破壊活動をしたりしているのである。


「何だ…これ…」


呆然と立ち尽くすナイト。その時、


「あら?あなた達見ない服装ね。じゃああなた達が勇者なのかしら?」


耳が尖っており、長い金髪をした、美しい全裸の女性が現れた。


「うわぁっ!!バール!!」


「こいつがバールか!!」


「っていうか、何ですかその格好!?」


村人は悲鳴を上げて怯み、安倍が女性を睨み付け、砂原が女性の恥ずかしすぎる姿を見て赤面した。村人が説明する。


「バールは色欲を司る悪魔です!!美しい姿に変身して相手を魅了する力と、魅了した相手を操る力があります!!」


「そうよ。村の人達を魅了して、潰し合いをしてもらってるわ。面白いでしょう?私が一度姿を見せれば、男も女も関係なく魅せられて、生き物としての本能そのものな中身をさらけ出す…私はそれを引きずり出した上で意のままに操るのが大好きなの。」


色欲のバール。自身が司るものの通り、彼女は色欲に干渉して人間を堕落させ、破滅させる。そして悪魔らしく、その様子を見て楽しんでいるという徹底ぶりだ。


「さぁ、あなた達も私に魅せられなさい。そうすれば苦しむことなく死ねるわ」


バールは両手を広げ、自分の身体をさらに見せびらかす。村人は両手で顔を隠しながら、輪路達に言った。


「奴の姿を見てはいけません!!奴は常に魅了の魔術を発動していて、これにかかったら男も女も関係なく、奴に魅了されて操られてしまいます!!」


バールは女だが、だからといって男しか魅了できないわけではない。色欲は女にもある。そしてバールが使う魅了の魔術は、色欲を持つ者全てに作用するのだ。ナイト達は慌てて顔を隠す。


「くっ!!けどどうやって奴を倒せばいいんだ!?奴を見ないまま戦うなんて…!!」


ナイトは焦る。姿を見たら魅了されてしまうので、全くバールを見ずに戦わなければならない。だが、そんなことは無理だ。



と、烏丸が気付いた。



「廻藤。おみゃー何で顔を隠さないんだ?」



輪路だけが顔を隠さず、まっすぐにバールを見ていたのである。輪路は烏丸の問いに答えない。無視してバールの目の前まで歩いていく。


「ま、まさか、もうバールに魅了されて!?」


「くそっ!!目を覚ませ廻藤輪路!!そんなやつに操られるな!!」


砂原は輪路がバールに魅了されてしまったのだと思い、安倍は輪路を正気に戻そうと呼び掛ける。だが、輪路の歩は止まらない。とうとう、バールの目の前までたどり着いてしまう。


「いい子ね。あなたの反応は正しいわ。こんなに魅力的な女がいたら、逆らえるわけないわよね?」


バールは輪路の行動に気を良くし、より深く操ろうと魔術を強める。輪路は微動だにしない。もしかしたら残った理性で抵抗しているのかもしれないが、これだけ至近距離から見ているのだ。もう逃げられない。



しかし完全に決まったと思った次の瞬間、輪路は木刀、シルバーレオを日本刀に変化させて、抜刀しながらバールを斬り上げた。


「うぎゃあああああ!!!」


至近距離にいたこともあって、バールはかわせずけたたましい声を上げて倒れる。


「ど、どうして!?私の魔術が効いていないの!?」


「ああ。全っ然効かねぇな」


なんと、輪路にはバールの魔術が効いていなかった。バールの目の前まで歩いていったのは、斬るためにただ近付いていただけだったのだ。


「ば、馬鹿な!!あなたには色欲がないというの!?そんなのあり得ないわ!!」


「色欲がないわけじゃねぇよ。ただ、俺はお前よりずっといい女を知ってたってだけだ。そいつの魅力に比べりゃ、お前の魅力なんか塵と同じなんだよ。」


シルバーレオを振り上げる輪路。バールは逃げようとするが、それより早く輪路がシルバーレオを振り下ろした。


「ぎゃああああああ!!!」


再びの絶叫。すると、バールに変化が現れる。絶世の美女だったその姿が、あっという間によぼよぼの汚ならしい老婆に変わってしまったのだ。同時に、周囲の村人達の暴走も止まる。


「ああ?何だこりゃ?」


顔をしかめる輪路に、村人が説明した。


「魅了の魔術が解けたんです!!それがバールの本来の姿です!!」


「魔術が解けた?ああ、そういやお前、変身してたんだっけ?汚いもんほど、綺麗に見せたいってわけか。」


「黙れ!!貴様、私が一番気にしていることを!!」


本当のことを言われて激怒するバール。彼女は色欲を司る悪魔であるが、悪魔だけあってその本性と正体は非常に醜悪なものだ。魅了の魔術は、その本来の自分を隠すための隠れ蓑である。悪魔に対して高い効果を発揮するシルバーレオに二度も斬られたことで、甚大なダメージを受けて魔術が解除されたのだ。


「何にしても、これで俺達はこいつを見ても大丈夫ってことだな!!」


もう魅了を発動できないので、ナイト達は顔を隠すのをやめる。


「くっ…」


追い詰められたバール。だがその時、


「苦戦しているようだな、バール。」


「まさか魅了の魔術を破る人間がいるとはなぁ。」


新たに、騎士の姿をした悪魔と、羽と尻尾を持つ見たまんまな悪魔が現れた。


「ナヘマー!!ベルフェゴール!!勇者様気を付けて下さい!!この二匹も、クリフォトの樹から復活した悪魔です!!」


村人は警告した。騎士姿の悪魔、ナヘマーはバールに訊く。


「大丈夫か?サタン様の予想は正しかったようだな。」


「…完全に油断してたわ…まさか私の魔術が、こんな方法で破られるなんて…屈辱!!」


「まぁこの世界にお前の魅了を破れた人間なんていなかったし、お前が一番びっくりしてるよな。ははっ、こりゃ傑作だ。」


「笑うな!!」


「おっと失礼。」


魅了を破られたのを見て笑っていたベルフェゴールを、バールが一喝する。ベルフェゴールも笑いすぎたと口元を片手で押さえた。


「クリフォトの樹の悪魔が…三匹も…!!」


村人からすれば、それは悪夢と言える光景だった。一匹だけでも自分達が全く敵わなかった悪魔が、一度に三匹も現れたのだ。正気に戻った他の村人達は、もう逃げ始めている。


「楽勝、とはいかなくなったか。まぁいいや、面倒だから三匹まとめてかかってこい。俺一人で十分だぜ」


確かに、楽勝とはいかなくなったろう。しかし、輪路もまだ本気になっていない。


「神帝、聖装!!」


本気を出して、レイジンに変身する。


「変身した!?」


「おみゃーこんな力を隠し持ってやがったか!」


安倍は驚き、烏丸は喜んでいる。ナイトはため息を吐いた。


「自分は勇者の器じゃないとか言っといて、あんたバリッバリのヒーローじゃないっすか…」


「変身ヒーローって言われたことはあるな。」


「お前は剣士か。なら、俺が相手になろう。」


ナヘマーの手に、剣と盾が出現する。ナヘマーは物質主義を司る悪魔で、様々な武器を一瞬で作成して使うことができるのだ。


「だから言ったろ。三匹まとめて相手してやるってな!」


スピリソードとなったシルバーレオを、ナヘマーの顔に突き付けるレイジン。と、


「私も戦います。いえ、私も戦わせて下さい!バールと!」


レイジンの隣に、砂原が進み出た。


「奇遇だなヴィッチ。わっちもちょうど、あのババアと殺り合いたかったところだ。」


「なんかムカついたから、私もあれと戦う。」


砂原の隣に続々と並ぶ女性陣。


「じゃ、俺はあのベルフェゴールってのと戦います。おい安倍!しっかり援護しろよ。」


「…はぁ…お前一人にやらせるわけにもいかねぇか。」


ナイトと安倍は、残ったベルフェゴールと対決する。


「好きにしろよ。」


レイジンは特に止めなかった。











まずは女性陣。


「舐めるな!!ダメージは負っても、お前達ごとき片付けるくらい、わけはない!!」


魅了魔術が発動できなくなるほどのダメージを受けたバール。だがさすが悪魔といったところか、魔力でエネルギー弾を作って攻撃するくらいの余力はあるようだ。砂原達はそれをかわし、伊織がライフルで反撃する。CGTの装備を持ち込めたのは幸いだった。


「あなたには、女性としての魅力を軽々しく扱った報いを受けてもらいます!!」


バールも伊織の攻撃をかわすが、それに気を取られている間に、砂原が自身の武器、銃型デバイスで射撃する。


「わっちはお前のやり方が気に入らねぇ!!真正面から戦うということができんのかァ!!」


そして二つの銃撃に気を取られると、烏丸の高周波ナイフが襲ってくる。


「舐めるなと、言ったはずだぁぁぁぁ!!!」


バールは無数の魔力弾を周囲にばらまき、三人を無理矢理遠ざける。しかし、すぐに砂原が飛び込んできた。


「死ね!!」


すかさず魔力弾を叩き込むバール。魔力弾は砂原に命中し、砂原は砕け散った。


「やった!!」


バールはまず一人潰した、と喜ぶ。だが次の瞬間、バールは背中から撃たれていた。すぐ振り向く。そこにいたのは、先ほど砕いたはずの砂原だった。


「なっ!?どうして!?」


「これが私の能力です。」


砂原は空間教唆という能力が使える。相手の空間認識を誤認させるという能力で、それで自分の姿を誤認させて油断を誘ったのだ。


「く…あ…!!」


砂原のデバイスに殺傷力はなく、麻痺弾を発射する。その効果が現れ始め、バールの動きが緩慢になる。本来ならすぐに効果を発揮する麻痺弾にタイムラグが発生した辺り、バールはやはり人間ではないと再認識させられるが、結果的に麻痺させることには成功した。ここから、伊織がライフルでさらにダメージを与え、烏丸が高周波ナイフでバールを頭から両断する。


「うが…!!」


「どうですか?自分が他者にいいように操られるというのは。」


自分がやった他者を操るという行為を砂原にされて、バールは死亡。その亡骸は炎となって燃え上がり、灰となった。




安倍は銃を抜いてベルフェゴールに発砲する。しかし、ベルフェゴールの周囲に黒い霧が発生し、その霧に阻まれて弾が届かない。


「何だあの霧?」


気になったナイトは、近くにあった石を拾い上げ、ベルフェゴールに向かって全力で投擲した。すると、霧に触れた石があっという間に腐蝕し、溶けて消えてしまった。


「石が腐って溶けた!?」


「俺は醜悪のベルフェゴール!俺の霧に触れたものは、全て醜く腐り滅ぶ!汚ならしい死に様をさらしやがれぇっ!!」


ベルフェゴールは霧をナイト達に飛ばしてきた。醜悪を司る悪魔、ベルフェゴール。あらゆるものを腐らせ醜いゴミへと変えるその力は、彼に非常によく合った能力と言える。


「ちっ!!」


ナイトは安倍の目の前に躍り出て、左手を霧にかざす。すると、ナイトの左腕が黒く変化し、黒い風を発生させて霧を吸い込み始めた。ナイトの左腕はあらゆるものを吸収し、ナイト本人の力へと変えることができる。


「ぐっ!!」


だが、代償は大きい。ナイト自身の身体はあくまでも人間のものであるため、肉体が強化した力に耐えられないのだ。彼が住む世界には、合成獣という怪物がいる。だが目の前にいるベルフェゴールは、そんな合成獣とは比べ物にならないほど強大な力を持っているのだ。そんな存在が生み出した力を吸収すれば、得られる力も大きく、また反動も大きい。ナイトの身体を、内側からズタズタにしていっている。


「俺の霧を吸い取ってる?だがいつまでもつかな!?」


さらに霧を強めるベルフェゴール。ナイトは安倍に言った。


「このままじゃまずい。あいつの注意を引いてくれ!」


「わかったよ。」


安倍はナイトの背中から離れ、ベルフェゴールを撃つ。


「邪魔だ!!」


安倍に霧を放つベルフェゴール。しかし、霧が当たる前に安倍は消えてしまった。


「何!?」


「こっちだ!!」


「っ!?ちぃっ!!」


安倍はいつの間にかベルフェゴールの後ろに現れており、仕方なくベルフェゴールは後ろを向いて霧を放つ。これがまずかった。その攻撃も結局外してしまい、そしてナイトへの注意を怠ってしまったのだ。


「もらったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「し、しまっ…!!」


ベルフェゴールが再度霧を放つ暇もなく、ナイトは左腕でベルフェゴールのみぞおちを殴った。


「…カッ…!!」


凄まじい衝撃を受けて、ベルフェゴールは爆散。その肉片はバールと同じように全て燃え上がり、灰となって散った。




残ったのはナヘマーだけだ。ナヘマーはレイジンの攻撃を盾で受け止め、剣で反撃するという戦法を取っている。しかし、レイジンは剣を弾き、未だに直撃を受けていない。ナヘマーの武器は数度打ち合っただけでボロボロになり、新しい武器を作ることで拮抗している。これはナヘマーの作った武器が弱いというわけではない。むしろこの世界のどんな武器より強い。それでも簡単に壊されているのは、悪魔の力によって作られたものだから。そして、レイジンの力が以前より遥かに強くなったからだ。


(こいつを使ってると、俺の力も強くなる)


それに霊力のコントロールもしやすく、スピリソードの切れ味もいい。こちらは元の武器の強さによっても上下するようだ。


(いい仕事してくれたな、雪村のじいさん!)


以前なら、このナヘマーと戦ったら確実に負けていただろう。しかし、今なら勝てる。


「おおおっ!!」


魔力を込めて斬りかかってきたナヘマー。


「レイジンスラァァァァァァァッシュ!!!」


それを神帝戦技で迎え討つレイジン。レイジンスラッシュは剣ごとナヘマーを両断し、


「…うぐっ!!」


ナヘマーもまた燃えて灰になった。




静寂が周囲を包む。逃げるのをやめて、村人達がレイジン達の戦いを見ていたのだ。やがて、



『ワァァァァァァァァァァァァ!!!!』



村人達は歓声を上げた。


「信じられない…クリフォトの樹の悪魔を三匹も…こんなにあっさり…!!」


村人は驚いていた。今までどんな屈強な戦士をぶつけても、何人も投入しても一匹として打倒できなかったクリフォトの樹の悪魔を、三匹も討ち滅ぼすことができたのだ。驚かないわけがない。


「霊石を使う必要もなかったか…何だ、やっぱり楽勝じゃねぇか。」


レイジンは変身を解く。はっきり言って、今のレイジンスラッシュで倒せるとは思っていなかったので、かなり拍子抜けだ。



その時、



「…っ!!」


ナイトが倒れた。


「相馬さん!!」


「相馬ナイト!!」


駆け寄る砂原と安倍。


「おい!どうした!」


輪路も駆け寄る。ナイトの左腕は元に戻っているが、それ以外の場所からは所々血が吹き出していた。


「…そうだ!翔からもらった回復薬!」


輪路は万一の時に備えて、翔から回復薬をもらっている。


「…三つか。まぁ何とかなるだろ」


輪路は三つもらった回復薬のうち一つを、ゆっくりナイトに飲ませる。呼吸が落ち着き、傷が塞がり始めた。


「…これでよし。なぁ、こいつを寝かせてやりたいんだが。」


「なら病院へ!ご案内します!」


輪路達はナイトを連れて、病院に行った。











「…バール達が殺られたか。どうやら予想以上に手強いようだ」


城で、バール達の魔力が消えたのを察した巨漢の悪魔、サタンは呟いた。


「まさか…ナヘマーとベルフェゴールを付けたというのに…」


ハエの悪魔、ベルゼブブはとても驚いている。


「…よくもバールを…!!」


妖艶な姿をした女性の悪魔、リリスは呪詛の言葉を吐いた。



クリフォトの樹から復活した悪魔。その数は、残り七匹。





クリフォトの樹から復活した悪魔の能力は、僕が勝手に考えたものです。


次回もお楽しみに!

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