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第十六話 乱戦

今回は衝撃のラストが!!

冥魂城


「傷の様子はどうだい?カルロス。」


「おかげ様で全快ですよ。もういつでも戦えます」


殺徒はカルロスを呼び出し、先日輪路との戦いで負ったダメージの様子を聞いた。常に高純度な霊力が満ち溢れているこの冥界なら、どれほどのダメージを受けようと成仏さえしなければ回復する。よって、カルロスも完全に回復した。


「さぁて、それじゃあリベンジマッチといくか!あのクソガキ血祭りに上げてやる!!」


「ろくな修行もせず頭しか使わんお前では、また返り討ちにされる想像しかできんがな。」


「っせーんだよデュオール!!身体使うしか能のねぇウドの大木が!!」


「何だと!?貴様…道化師風情が調子に乗りおって!!」


カルロスとデュオールは口喧嘩を始める。本当に、この二人は仲が悪い。


「二人ともやめなさいよ。殺徒さんが見てるのに」


「…殺徒様に感謝することだなカルロス。もし貴様が死怨衆の策士として殺徒様に選ばれていなければ、わしはとうの昔に貴様の魂を消し飛ばしていたところだ。」


「ケッ!そりゃこっちの台詞だっつーの。てめぇが死怨衆の将軍でなきゃ、俺はとっくの昔にてめぇの魂を砕いてるぜ。」


黄泉子に言われて、二人は悪態をつきながらも喧嘩をやめた。ここで魂の潰し合いをするより、殺徒の逆鱗に触れることの方が遥かに恐ろしい。


「はぁ…まぁカルロスにリベンジをさせてあげようとは思ってたけどね。」


ため息を吐きながら、次の作戦について説明する殺徒。


「っ!!それじゃあ…!!」


「ああ。行って思う存分廻藤輪路を殺してくるといい」


「っしゃああああ!!あの野郎今度こそぶち殺してやるぜぇぇぇ!!!」


殺徒から輪路の殺害許可をもらい、カルロスは大喜びする。だが、長くは続かない喜びだった。


「ただし、デュオールと一緒に行くこと。」


「…は?」


殺徒はカルロスに、デュオールと行動するよう命じたのだ。態度には出さないが、デュオールも眉を若干ひそめた。


「ど、どういうことですか殺徒様!?こんなやついなくたって、俺は一人で十分やれますよ!!」


「それで返り討ちに遭ったんじゃないか。」


「うぐ…!!」


「そんなにデュオールが嫌いかい?でもね、戦闘面において彼は君よりずっと上なんだ。そんな彼を護衛につけておかないと、聖神帝相手じゃ危なくてしょうがない。わかってくれるね?」


「…」


カルロスは答えない。本当に嫌なのだろう。だが、いくら死人とはいえ組織に入っている以上、いつまでもそんなわがままは通らない。


「僕の言うことが聞けないのかい?」


だから、ほんの少し、本当にほんの少しだけ殺気を込めて、睨み付けながら尋ねた。


「わ、わかりましたよ…デュオールと一緒に行きゃいいんでしょ?デュオールと一緒に…」


殺徒から向けられた殺気に、カルロスは一瞬震え上がってから従った。


「わかってくれて嬉しいよ。やり方は君達に任せるけど、できるだけ派手に暴れて欲しいかな。」


「…はい」


殺徒は殺気を消し、にこやかに笑った。カルロスはデュオールと連れ立って、現世に向かう。冥魂城から出たところで、デュオールはカルロスに言った。


「…殺徒様にだけは何があっても逆らうな。わしとて貴様と行動するなど虫酸が走るが、命令ならば仕方あるまい。」


彼ら死怨衆は、殺徒への忠誠と恩義を忘れたわけではない。しかし、殺徒の恐ろしさを忘れたわけでもない。冥界は、力ある魂が全てを支配する世界だ。強い霊力で、強い肉体を形作るのがリビドンである。魂の強さは霊力の高さであり、霊力の高さはリビドン自身の強さに直結する。冥界のリビドン達の中で最強の霊力を持つ殺徒と黄泉子が、全リビドンの頂点となり、デュオール達死怨衆はそこに集った者達だ。しかし、あの二人に勝るだけの霊力を持つ者はいなかった。黄泉子は殺徒のストッパーでもあるのだが、霊力自体の高さは殺徒の方が上であり、殺徒が本当に怒れば黄泉子でも止められない。死怨衆はデュオール、カルロス、シャロンの他にも、候補となる上級リビドンが十人ほどいたが、その十人は殺徒の逆鱗に触れ、魂を消された。黄泉子も当然止めようとしたが、力が違うために止められなかった。デュオールもカルロスも、それを目の当たりにしている。いくら上級リビドンとはいえ、殺徒の逆鱗に触れた者は消されるのだ。消されないのは、殺徒と愛し合っている黄泉子のみである。それ以外は、例え神であっても滅ぼされてしまうのだ。そんなことはわかりきっているので、


「…わかってるよ…」


カルロスはそう返した。一方冥魂城では、


「もう、殺徒さんったら大人げないわねぇ。」


「仕方ないだろう?カルロスはちょっと特別な上級リビドンだから、こうでもしないと自分の気持ちばかり優先させてしまうんだ。」


「でもいいの?あんなこと言って。」


「まずあの二人に出てもらわないと、できないことだからね。きっとすごく驚くよ」


何やら、悪巧みをしていた。











夕方のヒーリングタイム。


「はぁ~…いいねぇ…」


輪路はいつものアメリカンを飲みながら、和んでいた。任務が早めに終わって帰ってきたのだ。


「こいつを飲むと、帰ってきたって実感がする。」


「もう輪路さんったら、大げさ…じゃ、ないですよね…ごめんなさい」


美由紀は大げさだと言いかけたが、輪路はいつも命のやり取りをしているのだということを思い出し、謝った。


「何でお前が謝ってんだよ。」


「だって輪路さんは…」


「輪路ちゃんがどうかしたの?」


「えっ?いえ!何でも…」


佐久真に訊かれて、美由紀は話題を切った。彼にだけは、輪路が協会の討魔士になったということを知られてはいけない。


「今日は翔さんは一緒じゃないんですね。」


翔は今日、輪路と一緒にはいない。ヒーリングタイムのアメリカンが気に入ったそうで、任務が終わった後は飲んでから帰還しているのだが。


「ああ。なんかやることがあるとかでよ、終わってから来るってさ。」


結局来るらしい。その時、


「!?」


輪路は突然何かを感じた。少しして、


「輪路!!おい輪路!!」


ペンダントから、三郎の声が聞こえた。


「どうした三郎?」


「外出てみろ!!街中でリビドンが暴れてるぞ!!」


「何!?わかったすぐ行く!!」


輪路は通信を終えて、美由紀と佐久真に言う。


「俺もちょっと野暮用ができちまった。すぐ片付けてくる。マスター!勘定ここに置いとくぜ!」


「はい!」


「気を付けてね~。」


輪路はカウンターにコーヒー代を置くと、慌ただしく出て行った。店から出たところで、翔に遭遇する。


「翔!今来たのか!リビドンが暴れてるらしいぜ!」


「知っている。街中でリビドンの気配がするからな」


翔は言った。輪路もまた、霊力の探知能力を鍛え始めているので、おぼろげながらも三郎が言う前にわかったのだ。翔はもっと正確にわかったが。


「じゃあ話は早ぇ。さっさと片付けるぞ!!」


二人は駆け出し、街中で破壊活動を続けるリビドンを倒しに行く。


「三郎!!結界を張れ!!」


「おう!!ただ気を付けろよ!?上級リビドンが二体いるぜ!!」


三郎に結界を張ってもらうのを忘れずに。




「暴れろ暴れろ!!廻藤輪路を炙り出せ!!」


その上級リビドン二体の一人、カルロスはリビドン達に指示を出して暴れさせていた。と、


「む…結界か…」


もう一人、デュオールは結界を張られたことに気付く。


「ちっ!くだらねぇ真似しやがって!!」


それにキレたカルロスは、両手に数本のナイフを出す。結界を攻撃して、壊すつもりだ。しかし、それは叶わなかった。


「上級リビドンが二体いるって聞いて来てみりゃ、やっぱりお前らだったか!!」


輪路と翔がたどり着いたからだ。


「へっ!!やっと来やがったかよ!!ずっと殺したかったぜ!!」


「今回我々の標的はお前だけだが、邪魔な討魔士を一人でも多く潰せるなら好都合。」


カルロスはぶっきらぼうな口調で笑い、デュオールは輪路だけではないのを見て、邪魔者を一人多く消せると知って喜んだ。


「馬鹿言ってんじゃねぇ。今回こそてめぇらを成仏させてやるぜ!!」


「貴様らもこれまでだ。覚悟しろ!!」


だが、当然輪路も翔も黙って殺られるつもりは全くない。輪路は木刀を、翔は討魔剣を抜く。そして、


「「神帝、聖装!!」」


「「魂身変化!!」」


輪路と翔はレイジンとヒエンに、デュオールとカルロスは怪人形態に変身した。











明日奈を先頭に街を走る賢太郎達。明日奈が結界が張られたことを感知し、輪路と翔の加勢に来たのだ。


「ここだ!!」


結界と現世の境界にたどり着いた明日奈は立ち止まる。


「あたいはこのまま結界の中に入る。みんなは篠原さんの所へ!やるべきことはわかってるね!?」


「「「はい!」」」


明日奈は賢太郎に言うと、結界に触れる。間もなくして結界には人が一人通れるだけの穴が空き、明日奈が中に突入すると穴はすぐ消えた。


「じゃあ、僕達は篠原さんの所へ!」


「明日奈さんから託されたあれを、篠原さんに渡さないと!」


「正直あんまり気は進まないけど、やるしかないわよね。」


三人は穴が消えたのを確認し、ヒーリングタイムに向かう。一方明日奈は、辺りを見回して呟いた。


「地獄絵図だねこりゃ…」


周囲にはリビドンが溢れ、建物は破壊されてあちこちから火の手が上がっている。もしこれが結界の中ではなかったらと思うと、ゾッとする。


「早いとこ廻藤さんと合流して、こんなことをしでかしたやつをとっちめないと!」


これだけの数のリビドンがいきなり自然発生するなど考えられない。誰かがどこからか意図的に連れてきた。もしくは生み出した。それくらいわかる。


「シャァァァァァァァァ!!!」


その時、明日奈の背後からリビドンが一体、飛び掛かってきた。明日奈は素早く霊符を取り出すと、リビドンの顔面に貼り付け、


「はっ!!」


念を込める。その瞬間に霊符が発光し、リビドンは爆発して成仏した。あの事件以来霊符のストックには特に注意を払っているし、修行も順調だ。この程度のリビドンに負けはしない。だが、


「…こいつらを野放しにするわけにもいかないよね…」


元凶を倒しても、リビドン達が一斉に成仏するということはないだろう。リビドン達を放置することもできないし、やはり全滅させなければならない。とはいえ、これだけの数を一人で全滅させるのはさすがの明日奈も骨が折れるので、


「まずは廻藤さんと合流しないと!!」


輪路との合流を優先した。両手に五枚ずつ霊符を持ち、襲ってくるリビドン達目掛けて投げつける。霊符は一体につき一枚ずつリビドンに貼り付き、明日奈は念を込めて成仏させる。いくらストックに余裕があっても数には限りがあるので、最低限道を拓くために使う。倒せたリビドンの数は、十体。明日奈は拓けた道を駆け抜けた。











剣と槍を互いに打ち付けるレイジンとデュオール。


「今の俺は前の俺とは違うぜ!!」


レイジンは激しい連撃を放つ。ヒエンと修行し、数々の任務を経験したレイジンは、以前デュオールと戦った時とは比べものにならないほど成長していた。


「だろうな。そうでなくては、わしが出てきた意味がないというもの!!」


しかし、デュオールも負けじと連撃を返してきた。上級リビドンなだけあって、やはり強い。一筋縄ではいかない。


「クラウンマジック!!サウザンドソード!!」


カルロスは大量に剣を召喚し、ヒエンに向けて投げつける。ヒエンは無重動法を使い、飛んでくる剣をかわす。


「こちらとらてめぇに用はねぇんだよ。だからさっさと死ねやコラ!!」


サウザンドソードが効かないとわかったカルロスは、技をサークルナイフに切り替える。しかし、ヒエンは飛んでくるナイフを高速移動でかわし、カルロスに肉薄。


「それはこちらの台詞だ。」


「っ!!」


繰り出されるツインスピリソードによる攻撃を、カルロスは瞬間移動で回避する。


「お前のような快楽殺人鬼には一刻も早く成仏してもらう。やったことがやったことだから、成仏しても地獄に落ちることは確定しているだろうがな。」


未練がある場合と違って、成仏させられれば即天国か地獄に送られる。カルロスは生前も死後も快楽のために大勢の人間を殺したので、成仏して全ての憎悪と未練を払われたとしても、地獄に落ちることは間違いないだろう。


「地獄に落ちるのはてめぇだ!!」


そうなってはもう二度と大好きな殺人を楽しむことができない。これからも殺徒の部下として大勢の人間を殺すため、カルロスは自分を成仏させようと目論む目の前の聖神帝にナイフを振りかざして挑んだ。




「出ろ!!火の霊石!!」


レイジンは呼び出した火の霊石を握り潰し、火焔聖神帝となる。


「霊石か!!」


「前のままじゃねぇって言ったろ!!おらぁっ!!」


スピリソードに炎を宿して、振る。灯っていた炎が刀身から離れ、刃となってデュオールに襲いかかった。


「ぬん!!」


デュオールは炎の刃を二槍で受け止め、防ぎ、払う。レイジンは再びスピリソードに炎を灯し、今度は二回連続で振る。振る度に炎の刃がデュオールに襲いかかった。デュオールは今度も防ぐが、レイジンはその都度炎の刃を放つ。浄化の炎はリビドンにとって最大の弱点であり、いくら武器で受け止めても、デュオールの力を削り取ってしまう。


(いかん!!このままでは…!!)


攻めようにも炎が邪魔で攻められない。防御も炎が崩していく。


(…こうなったら!!)


そんな状態でデュオールが選んだのは、逃げの一手だった。背後に向かって跳躍し、距離を取る。


「逃がすか!!」


追いかけようとするレイジン。だが、その目の前に左右から飛び出してきた二体のリビドンが立ちはだかった。


「くっ!!邪魔すんな!!」


しかし、下級のリビドンなど、霊石を発動したレイジンの敵ではない。炎の刃を飛ばし、一瞬で成仏させる。と、レイジンは気付いた。


「これは…」


ヒエンも気付いた。街中の至るところで破壊活動をしていたはずのリビドン達が、この場所に集まり始めているのだ。


「わしらが何のためにこれだけの数のリビドンを連れてきたと思う?確かに一体一体の強さは貴様らに遠く及ばんが…」


二体のリビドンの背後に立つデュオールは、その二体の後ろにこっそりと槍を忍ばせ、一気に貫いた。


「ウウウ…」「オォ…」


槍に貫かれたリビドンは消滅していく。だが、ただ消滅したのではないとわかった。リビドンが完全に消滅する瞬間に、槍を伝って奇妙な光がデュオールに吸収されたのが見えたのだ。


「こういう使い方もできる。」


「てめぇ…」


レイジンは、今デュオールが何をしたのかわかった。デュオールは、リビドンの魂を吸収したのだ。あれだけわかりやすいものを見せられれば察しはつくし、デュオールの霊力が先ほどよりも上がっているのも、嫌と言えるほどわかりやすい。


「今度はこちらから行くぞ!!」


「させるか!!」


突撃してくるデュオール。それを制そうと、レイジンは再度炎の刃を飛ばす。


「ぬん!!」


だが、デュオールはカースから霊力の刃を飛ばし、相殺する。途中でデュオールを止めるということはできず、仕方なくつばぜり合いをするという形になった。


「てめぇ!!自分が何やったかわかってんのか!!てめぇは仲間の魂を!!」


「当然理解している。だからこそやったのだ」


「何!?」


「元々わしは奴らを仲間などと思ってはおらん。思っておるとしたらせいぜい、体よく使える駒ぐらいだな。だが殺徒様どころかわしの支配にも抗えず、見習い討魔士にも勝てん脆弱な魂など駒としても使えん。そんな役立たずが最後にたどり着く場所こそ、わしを始めとする上級リビドンの餌だ。弱者は強者の糧となる以外の道を選べない!」


「てめぇふざけんなよ!!」


デュオールの言い分に激怒したレイジンはデュオールを弾き飛ばし、炎の刃で追撃する。


(思った通りだ。やはりこの男は激情家!!)


デュオールは炎をかわしながら、レイジンが己の術中に嵌まったことを心中ほくそ笑んでいた。レイジンは魂に対して、強い想いを抱いている。だから魂を冒涜するようなことをすれば、すぐに怒ってペースを乱す。レイジンが使っている火の霊石は怒りを燃料にしているため、この戦法は怒れば怒るほど炎が強化されるというリスクがあるが、メリットもある。火の霊石の燃料は怒りだけでなく、レイジン自身の霊力も含まれているのだ。炎が強まれば強まるほど、使えば使うほどレイジンの霊力は早く消費され、最後には変身が解除される。デュオールはそれを狙っているのだ。


(幸いこっちは二百体のリビドンを連れてきている。こいつらを使えば、わしの力は燃やされてもすぐに補給できる)


デュオールは近くにいるリビドンをカースとイビルで刺して吸収し、


「やめろてめぇ!!」


レイジンはそれを見る度に炎を強化して放つ。


(そして奴は早く力を消費するというわけだ)


デュオールは同じく強化された霊力刃を放って防ぐ。そんなやり取りを繰り返した結果、


「はぁ…はぁ…!!」


レイジンの息が上がり始めた。霊力が切れ始めたのだ。


(まずいな…あの上級リビドン、輪路の霊力切れを狙ってやがる。しかも輪路はそれに気付いてねぇ)


三郎は上空から、レイジンとデュオールの戦いを見ていた。もう既に、デュオールの戦法を見抜いている。先ほどから街中で暴れていたはずのリビドン達が集結してきているのも、デュオールが操っているからだろう。デュオールの力はかなり強化され、レイジンの霊力はかなり減っている。


(お前こんな時のために明鏡止水を修得したんじゃねぇのかよ?ったく、挑発に乗りやすいやつだなあのアホは)


三郎はひどいことを思いながらも、まぁ仕方ないと思っていた。普通の人間ならまだしも、幽霊に対してあんなことをされたらレイジンは間違いなく怒る。それに、まだ技量でデュオールに劣るレイジンでは、明鏡止水が通じるかもわからない。


(こうなったら、一発逆転を狙うしかねぇ!!)


三郎は意を決して、レイジンにテレパシーを飛ばした。


(輪路!!火の霊石と力の霊石を組み合わせろ!!)


(組み合わせる!?)


霊石は一度に一つしか発動できないわけではない。いくつもの霊石を同時に発動することもできる。その分霊力の制御や消費もさらに負担がかかるが、それに見合った効果は確かにあるのだ。


(今のお前なら、二つの霊石を同時に使うくらいはできるはずだ!!)


レイジンは強くなった。始めの頃とは比較にならないほどに。今のレイジンなら、二つまでなら霊石を同時に発動できるはずである。


(…わかった!!)


三郎の助言と自分自身の力を信じ、レイジンは決断。


「出ろ!!力の霊石!!」


力の霊石を出し、握り潰した。


「何!?」


これにはデュオールも驚いた。レイジンが霊石を同時発動できるとは思っていなかったのだ。当然である。レイジンも今初めてやったのだから。火の霊石の力が宿る右腕に、さらに力の霊石の力が追加される。剛焔ごうえん聖神帝の誕生だ。


「行くぜデュオール!!ぶっ潰してやらぁ!!」


「ぬっ!!」


レイジンの気迫を受け、デュオールは身構えた。




「数に任せた人海戦術…あいつと違ってつまらん策だな。」


ヒエンは剛焔聖神帝となったレイジンを見てから、自分を取り囲むリビドンを見て、カルロスに言い放つ。


「仕方ねぇだろ。お前ら聖神帝相手に、小細工は通じねぇんだからよ。」


我ながらつまらない作戦だと思いながら、カルロスはヒエンに言う。人間相手ならいろいろできるのだが、聖神帝は優れた浄化能力によって大抵の呪いや術を無効化してしまえるので、小細工が通じない。仕方ないので、カルロスは人海戦術などという工夫の欠片も感じられない作戦を実行したのである。


「まぁつまんなくてもいいや。こっちとしてはお前らを殺せりゃそれでいいんだけどよ」


しかし、殺人であるなら過程も結果も楽しめるカルロスなので、たまにはそういう単純な作戦もいいかと思っていた。


「殺れ。」


カルロスが合図を出すと、ヒエンの背後にいたリビドンが飛び掛かる。しかしその瞬間、ヒエンの姿が消えた。残ったのは、無数に舞い散る蒼い羽だけ。間髪入れず、羽は炎に変化して爆発する。討魔戦術炎翼の舞いだ。羽が舞う空間の中心にいたリビドンは逃げられず、周辺にいたリビドンも爆発に巻き込まれて成仏する。ヒエンは炎翼の舞いとツインスピリソードの高速斬撃を駆使して自分を包囲するリビドンを一瞬で全滅させると、先ほどのリビドンと同じようにカルロスの背後に瞬間移動して斬撃をお見舞いした。


「うおっと!!」


それを瞬間移動で回避するカルロス。


「そうだったそうだった!!お前もトリックスターだったなぁ!!」


一度距離を取ったカルロスは再度瞬間移動を行い、両手にナイフを持ってヒエンに斬り掛かる。しかし、問題はない。ヒエンは難なくカルロスの攻撃を感知し、瞬間移動でかわして再攻撃。カルロスも瞬間移動でかわして反撃。そこから、二人は瞬間移動合戦を演じた。


(わかっちゃいたが、すげぇ反動だ…!!)


火と力は、どちらも力の象徴であるがゆえに霊石としての相性もいい。制御にそれほどの難はないのだが、消費される霊力が馬鹿にならない。


(今の俺じゃ、せいぜい一撃叩き込むのが限界だ)


これまでの戦いで霊力を消費しすぎた。今のレイジンには一撃叩き込むくらいの力しか残っていない。


(なら、その一撃でこいつを仕留める!!)


もししくじれば、霊石の維持は不可能になるだろう。変身が解けるかもしれない。しかし、それでもやらずにはいられなかった。己の力を高めるために他者の魂を吸い、命の尊厳を役立たずと冒涜したこの男を、絶対に許すわけにはいかない。


「ハァァァァァァァァァァ!!!」


二度目はない。だから全ての霊力を、この一撃に込める。


「クリムゾン…!!!」


全ての力を注ぎ、真紅に輝くスピリソードを、


「レイジンスラァァァァァァァァァッシュゥッッ!!!!!」


レイジンはデュオールへと放った。


「ツインクラッシュスピアー!!!」


デュオールもそれを破ろうと、カースとイビルに霊力を込め、正面から斬りつける。


「ぅぅううおおおおおおおおオオオオオオオ!!!!!!」


二つの霊石とレイジンの想いは凄まじく、それは破壊と浄化の力と化してデュオールを押し込んでいく。


「ぬっ…おっ…!!」


デュオールも必死に踏ん張っている。この一撃が直撃すれば、間違いなく成仏してしまう。



一方、ヒエンとカルロスの瞬間移動合戦は、まだ続いていた。


「シャーッハハハハ!!!当たんねぇなぁオイ!!!」


二人の戦いは、かわして反撃、かわして反撃を繰り返すだけの泥沼と化している。


(だから嫌だったんだ。こいつと戦うのは!)


ヒエンも戦いのプロではあるが、レイジンと違って明鏡止水の境地に到達しているわけではなく、変幻自在なカルロスの瞬間移動を見切って攻撃を当てるということができない。あれはあくまでレイジンが自分を落ち着けるために修得した技術であり、元々落ち着いている者はそこまで到達する必要がない。よって、全ての討魔士が使えるわけではないのだ。だから、カルロスと戦えばこうなることはわかっていた。戦いたくないというのは、こういう意味なのだ。


(仕方ない。奥の手を使うか…!!)


カルロスを仕留めるため奥の手を使おうとするヒエン。


「終わりだデュオール!!!」


デュオールを叩き斬ろうとするレイジン。




その二人を、何かが襲った。




思わず攻撃の手を止めてしまうレイジン。デュオールはその隙に退避し、レイジンは変身が解けてしまった。ヒエンは行動を中断させられ、奥の手を使えなかった。



二人を襲ったのは、殺気だった。それもただの殺気ではなく、重力にも似た巨大な、あまりにも巨大な殺気だ。輪路も、ヒエンも、デュオールも、カルロスも、三郎も、暴れ回っていたリビドン達も、一切の行動をやめて殺気が飛んできた方向を見た。



そこにいたのは、鎧を着た男女。殺気を放ったのは、男の方だ。



「!!」


「あ…あ…!!」


デュオールは息を飲み、カルロスは言葉にならない声を上げて戦慄する。やがてカルロスは震えながら、二人の名を呼んだ。


「あ、殺徒様!!!黄泉子様!!!」


殺気を出しながらも不敵に微笑む男と、その男の片腕に抱き着いて恍惚とした表情を浮かべている女。


「あれが…あいつらが…」


輪路もまた、知らず知らずのうちに呼んでいた。


「殺徒と黄泉子か…!!」


全てのリビドンを束ねるリビドンの長、最上級リビドンの黒城夫妻が、そこにいた。




遂に輪路の前に現れた殺徒と黄泉子!!なぜこの二人が来たのか、二人の目的は一体何なのか!?そして輪路は体感する。その絶望的な力を!!最大最強の死を!!


次回、『その名は邪神帝』。


お楽しみに!!

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