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第十二話 七人の呪い

お待たせしました!

「ねぇ、そろそろ帰った方がよくない?」


秦野山市から遠く離れたどこかの海辺。そこに四人の女子高生がいた。


「もうちょい!」


「あんたってホント海好きだよね。」


「まだ5月だってのにさ。」


女子高生達は遊び場を探していたが、かといって行くアテもないので、仕方なく近所の海辺に来ていたのだ。海開きには早すぎるので、泳いで遊ぶということはできないが、眺めるだけでも結構時間が潰せる。


「ん?」


と、女子高生の一人が何かに気付いた。


「ねぇ、あそこに誰かいない?」


「えっ?」


女子高生が、誰かがいると指を差している。


「…誰もいないよ?」


しかし、他の女子高生達にはわからなかった。


「はぁ!?どうしてわかんないの!?七人もいるじゃん!!」


女子高生は驚く。自分達を七人もの人間が見ているのだが、その女子高生以外には見えていないのだという。


「んなこと言われても…」


「見えないものは見えないし…」


女子高生は困惑している。


「だから、あそこにいるって言って…」


もう一度教えようと集団を見る女子高生。



その時、こちらを見ている七人の内一人と、女子高生の目が合った。次の瞬間、女子高生は倒れてしまう。


「えっ、どうしたの!?」


「ちょっと笑えないよ!しっかりしなって!」


女子高生を介抱する残りの三人。その内の一人が例の集団を捜そうとしてみるが、やはり誰もいない。


「とにかく病院!救急車!」


女子高生の一人がスマホを取り出し、急いで病院に電話をかけた。











ヒーリングタイム。


「『女子高生急死』』、か…」


佐久真は新聞を見ながら言った。新聞にはこう書いてある。


『昨夜、高知県にて水島真弓(16)が、海辺にて突然倒れ、病院に搬送されるも間もなく死亡した。治療に携わった医師らの話では、原因不明の高熱を発症しており、有効な処置もまともにできず、三十分も生かせなかったと話している。また彼女に同伴していた友人達は、水島氏が倒れる直前、七人の謎の集団を見たと言っていたと供述しているが、関連性は不明である。』


「怖い事件ねぇ…新種の病気かしら?」


佐久真は呟いた。と、美由紀に訊く。


「そういえば、輪路ちゃんは?」


「輪路さんなら特訓です。翔さんが指導して下さるそうで」


「翔?昨日のあの子のこと?」


佐久真には翔のことを話していない。輪路を運んできた時も、翔との戦いの結果ではなく、特訓のしすぎで倒れた輪路を翔が偶然発見して連れてきたということにしている。


「はい。昔武術をやっていたそうで、せっかくだから指導して下さると。」


美由紀も翔が討魔士であるということは隠し、武術家の跡取りで武者修行をしているということにしている。


「ふ~ん…新種の病気が流行ってるみたいだから、無理しないよう言っておいてね。」


「はい。」


うまく誤魔化せたようだ。


(輪路さん大丈夫かなぁ…)


美由紀は今頃翔にしごかれているであろう輪路を心配した。一応命の安全は保証してくれたが…











荒野。


「はぁっ!!」


木刀を打ち込む輪路。翔はそれをかわして、輪路の首筋に手刀を当てた。


「いてっ!」


「まだ霊力を抑えきれていないぞ。」


今やっている訓練は、霊力の制御だ。輪路に霊力を制御しながらひたすら木刀を打ち込ませ、翔は素手でそれの相手をするという形を取っている。


「昨日も言った通り、お前は霊力の制御が甘い。霊力探知に長けた者が相手では、攻撃を見切られるし隠れても居場所がすぐばれる。持久力まで低下する」


だからまず、霊力を制御する訓練をしているのだ。今翔は無重動法を使わず、輪路の霊力を見て攻撃をかわしている。輪路は攻撃する時、全身から強く霊力を放出する癖があるのだ。


「力を外に放出せず、内に留めろ。それが霊力による真の能力強化だ」


「おわっ!!」


指導しながら輪路を投げ飛ばす。


「力を全身に行き届かせ、届かせた部分から先に行かせず、留めるイメージをするんだ。留めないから力が流れ出て、余分に消費する。力の解放は、神帝戦技を使う際だけだ。」


「んなこと言われたって、そんなうまくいくわけねぇだろ!」


「うまくいくではなく、いかせるんだ。イメージを身体と魂に刻みつけろ」


「ちっ!」


まず霊力の燃費の悪さから改善する。持久力が伸びなくては、この先の特訓についていけない。


「はぁ…はぁ…はぁ…」


輪路は荒い息継ぎをする。翔は腕時計を見た。特訓を始めてから、既に三時間が経過している。


「…少し休憩しよう。」


「何言ってやがる!俺はまだ…」


「…」


翔は溜め息を吐くと、輪路に近付き、額を軽く殴った。


「うがっ!!」


倒れる輪路。


「教官は俺だ。お前は教官から指導を受けている、一生徒にすぎん。教官の命令には従え。そして教官が休めと言ったら、お前は大人しく休むんだ。いいな?」


「…くそっ…」


輪路は悪態をついた。翔に従い、仕方なく休むことにする。元々工場跡地だったこの荒野は、当時の名残として廃材がそこら中に放置されている。二人はその内の一つに座った。


「飲め。」


翔はガラスの小瓶を輪路に渡した。中には、綺麗なクリアグリーンの液体が入っている。


「何だこりゃ?」


「協会で支給されている回復薬だ。少し苦いが、効果はある。」


「ふ~ん…」


輪路は小瓶の蓋を開け、中身を飲んだ。味としては、ヒーリングタイムのアメリカンを少し、苦くした感じだろうか。だが飲めないという苦さでは決してなく、飲むほどに旨みが生まれ、飲んだ後にさっぱりとした後味と爽やかさが出てくる。


「美味いなこれ。」


輪路は回復薬の感想を言った。


「この回復薬は俺の知り合いが二年ほど前に、飲みやすく効果も高くなるよう改良を加えた物でな。俺は効果さえあれば味や見た目はどうでもいいと言ったんだが…」


「へぇ、そんな知り合いがいたのか。」


「ああ。協会所属の討魔術士でな、俺の幼なじみでもある。」


討魔術士とは、その名の通り術の扱いに長けた存在のことだ。薬などの扱いにも詳しく、討魔士が直接戦闘を担当する存在なら、討魔術士はサポートの担当だ。


「昔からいろいろとおせっかいなやつでな。子供の頃、俺が訓練で怪我をすると、どこで見ていたのかいつもやってきて、怪我の手当てを始めるんだ。こんなかすり傷は放っておいても治るからいいと俺は言うんだが、それでも構わずやろうとする。人の話を聞かないやつだ…」


幼なじみの討魔術士の話をする翔。


「なんかお前、楽しそうだな。」


輪路は翔が、ずいぶんと楽しそうに幼なじみの話をしているように見えた。


「気のせいだ。少し話しすぎたな、身体はどうだ?」


「ん?おお!すげぇ楽だぜ!」


翔は素っ気なく答え、輪路に尋ねる。回復薬を飲んだ輪路は、先ほどまでの疲れが吹き飛んでいることに気付く。


「内服薬だが、あらゆる怪我や病気に効くし、体力や霊力の回復にも効果がある。」


「すげぇ高性能だな…」


「戦闘で深い傷を負ったり霊力を消耗した場合でも、素早く復帰して勝利することが必要とされるからな。」


味方の支援を待っている時間がない場合もある。そんな時は自力で回復しなければならないので、回復薬の存在はまさしく討魔士にとって生命線なのだ。より効果の高いものを開発する必要がある。


「さ、訓練を再開するぞ。教えることは山ほどあるんだ」


「お、おう!」


回復した輪路は、翔との特訓を再開する。


「けどお前は休まなくていいのか?さっきの回復薬飲むとか。」


「あの程度俺にとって訓練した内にも入らない。俺を休ませたかったら、俺を疲れさせてみろ。」


「へっ!上等!」


目指す壁は高く、そして厚い。











夜、高知県の海辺。


ここに奇妙な団体がいた。人数は七人で、全員女性である。


「ああ…憎い…」


一人の女性が呟く。


「うん。憎いネ」


すると、もう一人がそれに同調する言葉を吐く。


「でも、成仏、しタイ。」


最初の一人がまた呟く。


「うン。シたいネ」


今度は別の一人が同調する。


「…ジャあ、行こウか…」


最初の一人がそう言うと、


「「「「「「うん、ソうシよう。」」」」」」


残った六人全員が同調した。どこかに向かって歩き出す七人。



その七人の中には、水島真弓の姿があった。











佐久真は朝刊を読んでいた。


「『急死者相次ぐ!新種のウィルスか!?』…怖いわねぇ…」


新聞には、昨日の新聞に記載されていた水島真弓と同じ、高熱を出して死亡した女性の情報が載っていた。もう三日連続である。


「被害に遭った人、全員女性なんですよね?しかも、みんな同じこと言ってたって…」


美由紀の言う通り、急死したのは全員女性であり、しかも死ぬ直前に七人の女性を見たと言っていたそうだ。


「こりゃもしかしたら、気を付けなくちゃいけないのは輪路ちゃんじゃなくて、美由紀ちゃんなのかもしれないわね。」


「や、やめて下さいよ店長!私本当に怖いんですから!」


「ごめんごめん。と、冗談はさておき、輪路ちゃんは今日も特訓?」


娘をからかった父は、輪路がいない理由を訊く。


「はい。翔さん、しばらくこの街にいて下さるみたいで。」


「飽きもしないで毎日毎日…翔さんもよくあの子の面倒を見てくれるわ。今度会ったら、お礼言っとかなくちゃね。」


三日連続と言えば、輪路と翔の特訓もである。忍者の時も思ったが、よく続くものだ。


「本当ですよね。」


真実を言うわけにもいかず、美由紀は適当に同調しておいた。











荒野。


「…りゃっ!!」


輪路が木刀で四回連続の攻撃を放つ。一撃ごとに速さが増しており、四撃目は当たりこそしなかったが、翔の右肩をかすった。


「へへっ、コツを掴んでやったぜ!」


得意げな輪路。それからまた何回か、翔に向かって攻撃を放つ。


(もう霊力の抑制を体得したのか…こいつならもう二~三日かかると思ったが…)


輪路はこの三日の内に霊力の抑制をかなりマスターしており、元々剣術の技量が高かったのもあって、翔も輪路の攻撃を読むのがかなり難しくなった。霊力の抑制は普通の討魔士なら、体得に約1ヶ月かかる。神童、青羽家始まって以来の天才と呼ばれた翔でさえ、完全な体得には一週間かかった技術で、翔は輪路の成長速度なら五日か六日ぐらいだろうと思っていたが、輪路の成長速度は翔の予想を遥かに超えていた。たった三日の訓練で、輪路は霊力の抑制を完成させつつある。


(やはりこの男、とてつもない才能を眠らせている)


このままだと、遠からず抜かれてしまうのではないか?そう思っていた時、輪路の木刀が、自分の額まであと2mmという距離まで迫っていたことに気付いた。一瞬焦った翔は右手で木刀を弾き、左手で輪路のみぞおちに掌底を叩き込んだ。


「うおあっ!!」


大きく吹き飛んで倒れる輪路。そこで翔は、はっ、と我に帰り、輪路に駆け寄った。


「すまない。大丈夫か?」


「いてて…この野郎、加減なしでやりやがったな!?」


その言葉を聞いて、翔は気付かされる。今自分は反撃したのではなく、反撃させられたのだと。



輪路を殺すのはもったいないから、あの時合格させたのはそういう理由だと言ったが、実は違う。何がなんでも生きようと、勝利をもぎ取ろうとする輪路の、あの気迫。その気迫によって、翔はその場に縫い付けられていたのだ。輪路を増長させないようああ言ったが、輪路には戦う相手に敗北の危機感を抱かせる、精神の爆発力がある。強くなろうとする精神の爆発力が、輪路に異常なまでの成長速度をもたらしている。


「…どうした?」


輪路は翔に尋ねた。見た所さほどダメージはなさそうだし、霊力も完全に抑えきれている。疲れた様子も見られないから、持久力も上がっているようだ。


「…いや。霊力の抑制はできているようだから、このまま次の訓練に移行する。いいな?」


「おう。いつでもいいぜ」


霊力の抑制は今を以て完成した。さらなる霊力の制御を体得するため、訓練は次の段階に移行する。


「次は霊力を集中する訓練だ。一つの場所に集中し、抑制した霊力を解放してみせろ」


「は?お前霊力を解放したら攻撃読まれるから駄目だっつったろ。」


「それはお前が全身から霊力を放出していたからだ。能力強化をするだけなら抑制して留めるだけで十分だが、戦いにおいては一瞬の爆発力が明暗を分ける。」


霊力の抑制は自分の力を抑えることで、わざと自分を弱く見せるというカモフラージュができる。相手が弱いと判断すれば、そこには油断が生まれる。その油断を突いて一気に霊力を爆発させ、対応される前に仕留める。そういった戦法を取るために、霊力解放の訓練が必要なのだ。


「攻撃しながら攻撃に使う部分に、攻撃を受けながら攻撃を受ける場所に、それぞれ集中して霊力を解放する。そうすれば攻撃のダメージは大きくなり、受けるダメージは最小限で済む。」


例え対応されたとしても、防御箇所だけ集中して霊力を爆発させれば、ダメージを少なく留めることができる。


「討魔剣は使わないが、ここからは俺も本格的に攻める。しっかり霊力を制御しないと、怪我をするぞ。」


討魔剣とは、翔が変身前に使っている剣だ。協会で支給されている武器の一つで、翔が使う双剣タイプの他にも、長剣タイプや大剣タイプも存在している。普段は術を使って存在を消しており、術を解くと出現する。この訓練でそれは使わないが、翔は体術も高いレベルで修得しているため、うまく霊力を制御しないと大怪我する。攻撃だけでなく防御も目的とした訓練だ。


「上等!やってやるぜ!!」


訓練は再開した。




「はっ…はっ…はっ…!!」


荒い息継ぎをする輪路。何とか立っているが、全身傷だらけで痣だらけだ。


「…少し休もう。」


「…わかった。」


また殴られてはたまらないので、素直に従う輪路。これだけの傷を負っても、回復薬を飲むと瞬く間に治っていった。


「そういやお前の上司の…シエルだっけ?近々会うって言ってけど、いつになったら会えるんだ?」


翔は輪路に、近々シエルが会うということを話している。だがもう三日経つというのに、シエルには会えない。


「まだ目処が立っていない。」


「おいおい…」


「仕方ないだろう。お前と違って、忙しい方なんだ。」


「…悪かったな暇人でよ…」


輪路は悪態をついた。


「そういえば伝えるのを忘れていた。明日俺は来れない」


「ん?なんかあんのか?」


「会議があるんだ。最近厄介な連中が暗躍しているようでな、その対策を練らなければならない。」


翔は協会設立に最も大きく貢献した三大士族の討魔士であるため、会長補佐という重要な役割を与えられている。ちなみにレッドファング家が副会長であり、グリーンクロー家が副会長補佐だ。


「厄介な連中?」


「本格的な任務への参加はまだ先だと思うが、知っておいてもいいだろう。上級リビドンの集団だ」


「…上級リビドン…」


輪路は上級リビドンの集団と聞いて、真っ先にデュオールとカルロスを思い出した。


(…まさかな)


しかし、その考えをすぐに消す。確かに奴らは強かったが、討魔協会などというでたらめな組織が目を付けるほど、危険な連中ではないだろう。


「そういえば、お前はリビドンについて知っているか?」


「ああ。この前三郎に聞いた」


「そうか。なら、上級リビドンのこともわかるか…」


言いながら、翔は空を見た。


「…雲行きが怪しくなってきたな。今日はここまでにしよう」


空には暗雲が立ち込め、今にも雨が降りそうだ。


「早く終わったら来るが、俺がいないからといって訓練をさぼるなよ。」


「…わかってるよ…」


輪路は去っていく翔を見送った。











夕方。翔が予想していた通り、大雨が降っていた。


「天気予報が当たりましたね。」


彩華と茉莉は傘を持っていたおかげで、濡れずに済んでいる。賢太郎は学校に忘れ物をしたようで、今取りに行っているところだ。二人は先に帰っている。


「…ん?」


と、茉莉は何かを見つけた。


「お姉ちゃん、あそこ…」


「えっ?」


茉莉は指差し、彩華はその方向を見る。しかし、何もない。


「何かあるんですか?雨が激しくてよく見えません。」


「え~?あたしははっきり見えるわよ?」


「だから、何が見えるんですか?」


視界を遮ってしまうほどに激しい、滝のような雨。しかし茉莉はその雨の中でも、それがはっきり見えるのだという。


「女の人よ!OLとか女子高生とかいるじゃない!こっち見てる…」


突然茉莉が黙った。こちらを見ている集団から、目が離せなくなったのだ。そして、



その内の一人と目が合い、その女性はニヤリと笑った。



「あっ…」


それを見た瞬間、茉莉は倒れた。


「茉莉?茉莉!!」


驚いた彩華は傘で雨が掛からないようにしながら茉莉を抱き抱え、揺さぶる。


「どうしたんですか!?しっかりして下さい茉莉!!」











翌日。激しかった雨はすっかり上がり、強い陽の光が差してしていた。


「昨日はすげぇ雨だったな。」


アメリカンを飲む輪路。美由紀は尋ねる。


「今日はずいぶんゆっくりしてますね。特訓に行かなくていいんですか?」


いつも二人は早い時間に荒野で待ち合わせているので、こんなにゆっくりコーヒーを飲んではいない。


「翔のやつ今日は会議があるから来れないってよ。それに今日は土曜だからな」


今の時間帯は10時を少し回った辺りだ。しかしたまには休息も必要ということで、ゆっくりしている。さぼるなとは言われたが、やらないわけではない。



その時、


「廻藤さん!聞こえますか!?」


ペンダントから、彩華の声が聞こえてきた。今日は土曜なので客も少なく、不審がられることもない。


「ああ、どうした彩華?」


「すぐ秦野山総合病院に来て下さい!茉莉がいきなり高熱を出して…」


「あ?んなもん医者に任せりゃいいだろ。」


「明日奈さんの指示です!!」


「明日奈もいるのか!?」


これは驚いた。病院には既に明日奈がおり、しかも明日奈が輪路を呼ぶよう指示しているという。


「わかったすぐ行く。」


輪路は通信を終えた。


「ってわけだ。ちょっと行ってくる」


明日奈が呼んでいるのだから、ただ事ではない。すぐ病院に行こうとする輪路。


「急に高熱を出したって言ってましたよね?最近起きてる事件と関係あるかも…」


美由紀は言いながら、佐久真を見た。


「行ってきなさい。今日はお客さん少ないから、私一人でも何とかなるわ。」


「ありがとうございます!」


父の許可を得た美由紀は、輪路と一緒に病院へ向かう。











冥魂城。


「ふむ…興味深い悪霊達が動いているね。」


モニターで見ながら、殺徒は言った。いつも通り殺徒に抱きつきながら、すぐ近くで同じくモニターを見ているシャロンに、黄泉子は言う。


「行きたいって顔してるわね。いいのよ?行っても。」


「と、とんでもございません!!ただでさえデュオールがいないのに、私が離れたりしたら…」


シャロンは慌てて首を横にふり、出撃を拒否する。と、


「そういうことなら心配するな。」


デュオールがやってきた。


「おやデュオール。満足のいく修行はできたかい?」


「は。もう二度と連中相手に不覚は取りません」


デュオールは殺徒の前に膝を折る。誰の目から見ても、以前とは比べものにならないほどの力を感じた。


「そういうわけだシャロン。冥魂城の守りはわしが代わる。気兼ねなく行ってくるが良い」


「…では、お言葉に甘えて出撃致します。」


シャロンは遠慮がちに、しかしどこか嬉しそうにしながら、出撃していった。


「…素直じゃないんだから。」


「我慢強い女ですからな。だからこそ、冥魂城の守りが務まるというものですが。」


黄泉子とデュオールは、シャロンを見送りながら言う。ふと、デュオールは思った。


「そういえばカルロスは?」


「自分の部屋に籠ってるよ。何か新しい作戦でも考えてるんじゃないかな?」


デュオールが訊くと、殺徒は答えた。最近カルロスはずっと部屋に籠ってるおり、様子がわからないとのことだ。


「…ふん。」


元々カルロスは嫌いなので、デュオールは特に何も思うことなく、鼻を鳴らした。











秦野山総合病院。


「うっ!」


ここに着いた瞬間、輪路は呻いた。


「どうしたんですか?」


「気持ちわりぃ…何だこりゃあ…?」


輪路はこの病院から漂ってくる嫌な空気を感じ、吐き気をもよおしていた。とりあえず受付を済ませた二人は、茉莉が入院しているという隔離病棟の一室へ向かった。


「ここだ。ここから嫌な空気が流れてきてる」


輪路はある病室の前で足を止めた。入口に来た時に感じた嫌な空気は、この病室から漂ってきていたのだ。


「ここ、受付で案内のあった病室ですよね…」


受付で聞いた、茉莉が入院している病室である。二人は意を決して、中へと入る。


「廻藤さん!」


「師匠!篠原さんも!」


病室の中にはベッドが一つしかなく、それを先に来ていた彩華、賢太郎、明日奈の三人が囲んでいた。茉莉はベッドの上で、顔を真っ赤にして苦しそうな息継ぎをしながら、寝込んでいる。


「お前ら、今一体何がどうなってる?」


嫌な空気の源は、茉莉だった。輪路は状況を確かめるため訊く。明日奈が説明した。


「この子、七人ミサキに取り憑かれてるんだ。」


「「七人ミサキ!?」」


輪路と美由紀は驚いた。




七人ミサキとは、その名の通り岬で七人の人間が同時に集団自殺などした時、まれに形勢される霊団だ。一人一人がそれぞれ強い憎悪を持っており、その憎悪が互いを結びつけているために成仏できない。他の人間を殺すことによって先頭から成仏していくが、殺された人間が新たに七人ミサキに加わるため、七人ミサキというくくりは永遠になくならないのだ。そして七人ミサキに取り憑かれた人間は、高熱を出して死んでしまうという。


「昨日の帰り道で、茉莉が倒れる前に、七人の女性を見たと言っていたんです。」


慌てて救急車を呼んで入院させた彩華だが、調べても原因不明で手の施しようがないと診断された。そこで、もしかしたら霊的な何かが関係しているのではないかと思い、明日奈を呼んで見てもらったところ、七人ミサキに取り憑かれているということが判明したのだ。


「七人…女性…高熱…じゃあもしかして、最近起きている女性の急死事件って…」


「七人ミサキの仕業だよ。あいつら地縛霊じゃないから、成仏するためにあっちこっち歩き回るんだ。」


美由紀は最近起きている女性の急死事件との共通点から、事件を起こしている犯人が七人ミサキであると予想し、明日奈はそれを肯定する。


「このままじゃ茉莉ちゃん、七人ミサキに取り込まれるって…!!」


賢太郎は焦っている。輪路は打開策を明日奈に訊いた。


「どうすりゃいい!?どうすりゃ茉莉を助けられる!?」


「七人ミサキを倒すしかない。奴ら、この街のどこかに潜んでるはずだよ。」


七人ミサキは茉莉に憑依しているが、この場にいるわけではない。ただ霊が取り憑くことだけが憑依ではなく、霊の力の一部が取り憑くことも憑依と言うのである。七人ミサキは初めて茉莉と会った時、偶然自分達の姿が見えた茉莉をターゲットに定め、自分達の力を憑依させたのだ。今回はその力こそが、輪路が感じた嫌な空気の原因である。自分達は安全な場所から、茉莉が死ぬのを待っているのだ。


「わかった。何とか七人ミサキを捜し出してみる」


「でも、どうやって?」


「とりあえず三郎に連絡してみる。あいつなら、もう七人ミサキの存在に気付いてるはずだ。」


美由紀は七人ミサキを捜す方法を訊き、輪路は三郎に連絡するという案を出す。


「日頃鍛えてるのが幸いしたね。この子の体力なら、あと一時間はもつ。あたいはここに残って、少しでも時間を稼ぐよ。」


いくら修行を始めたとはいえ、明日奈の力はまだ半分程度しか使えない。それもあるが、七人ミサキの力はかなり強力で、追い出そうと試してみたが無理だった。できるのは、せいぜい茉莉が死ぬまでの時間を延ばす程度だ。


「私達はどうすれば!?」


「彩華と賢太郎くんはあたいと一緒に残って、茉莉ちゃんに呼び掛けてみて。親しい仲のあんた達なら、反応して生命力が強まるかもしれない。そうすれば、さらに延命できる。」


「わかりました!」


彩華と賢太郎は、明日奈の手伝いをし、茉莉に呼び掛けることになった。


「よし。行くぜ美由紀!」


「はい!」


輪路は美由紀を連れて病室を出た。明日奈は茉莉を延命させるため、七人ミサキの力を弱めるための祈祷を始める。


「茉莉!!今廻藤さん達が、何とかしてくれますからね!!」


「それまで諦めちゃ駄目だ!!気を確かに持って!!」


「はぁ…はぁ…!!」


苦しそうな茉莉に、彩華と賢太郎は必死に呼び掛けた。











その頃、茉莉は夢を見ていた。


見ていたのは、彼女がまだ小学生ぐらいだった頃の光景。どこかのビルの中だ。


「もーいーかい!?」


自分は、誰かに向かってそう呼び掛けている。


(ここは…あの時の…)


あの時、自分は賢太郎と二人で、かくれんぼをしていた。そう思い出しながらも、視界はどんどん動いていく。茉莉はその時、かくれんぼの鬼だった。ビルのどこかに隠れている賢太郎を捜しているのだ。


「賢太郎くーん!どこ~?」


応えるはずがないのに、賢太郎に呼び掛ける茉莉。



その時だった。



突如としてビルが爆発し、全てが炎に包まれたのだ。



茉莉は外に吹き飛ばされ、全身に擦り傷をたくさん作って倒れていた。その時見たのだ。2~3m先に倒れている者を。それは間違いなく、賢太郎だった。ひどい有り様だ。どうやら自分より爆心地に近かったらしく、そのせいで茉莉よりずっと深い傷を負っていた。何しろ、右腕と下半身がなかったのだ。頭からもおびただしい量の血を流している。


「…っ…!」


賢太郎くん。そう叫びたかったのに、声が出なかった。立ち上がって駆け寄りたかったのに、身体が動かなかった。



「やれやれ、ちょっとやりすぎたかな?」



声が聞こえたのは、その時だった。視界の外でしており、首が動かないのでそちらを向けない。誰かわからない。


「ん?」


声の主は、無惨な姿になっている賢太郎に気付いたらしく、賢太郎に近付いてきた。その時になってようやく、声の主の姿が見えた。女性だった。眼鏡をかけた女性だったのだ。


「こりゃ見事な重体だね。しかも死んでないのか。気絶してる分、痛みを感じてないのが救いだけど。」


女性は賢太郎が死んでいないと言った。それを知った茉莉は必死に口を動かす。助けて。賢太郎くんを助けて。すると、声は出ていないが、茉莉の意思が伝わったのか、女性は茉莉を見た。女性は茉莉に問いかける。


「君はこの子のお友達かい?」


茉莉は残された力を振り絞って頷く。


「ふ~ん…で、ボクにこの子を助けて欲しいって?」


再度の質問に、茉莉はもう一度頷く。


「…まぁこうなったのはボクのせいだし、それぐらいのことはしてあげようかな。でも困ったなぁ…今ウボ・サスラの細胞は切らしてるんだよ」


何か意味のわからないことを言いながら考える女性。と、女性は何か思い付いたようだ。いたずらを思い付いた子供のような顔をしている。


「いいことを思い付いたぞ。こうしよう」


女性は賢太郎の腹に触れた。すると、何と女性の手が賢太郎の腹の中に埋まっていくではないか。


「っ!?」


驚く茉莉。


「ああ大丈夫大丈夫。心配しなくてもちゃんと治すから。おや、精神まで欠落してる。頭を打ったからかな?じゃあなおのこと好都合だ。」


まるで茉莉の心が読めているかのような反応を返し、女性はまた意味のわからないことを言う。と、なくなっていた賢太郎の右腕と下半身が、みるみる元通りに治っていく。血の痕も、破れた服さえも綺麗に修復され、完治したと見た女性は、賢太郎の腹から手を抜く。腹にも手が埋まっていたような痕はない。女性は茉莉を見て言った。


「このことは誰にも言っちゃいけないよ。この子が無傷な理由を訊かれても、知らないって答えるんだ。わかる時は君から教えなくても、みんなにわかるからさ。」


その女性の声を聞き終えた瞬間に、茉莉の視界は暗転した。











輪路と美由紀は三郎のナビゲートを頼りに、街の一角にある廃屋にたどり着いた。


「ここ、有名な心霊スポットですよね…」


美由紀が言う通り、ここは秦野山市でも有名な心霊スポットである。


「三郎。この中か?」


「ああ。憎悪の気配がきっちり七つ、中から漂ってくる。」


もちろん、輪路は前もってここに住み着いていた幽霊を成仏させている。しかし、ここは廃屋だ。廃屋は、建物にとっての死である。命のない物にも、死はある。そして、死は生ある者だけでなく、死すらも呼び寄せる。この廃屋自体を完全に破壊しない限り、何度でも幽霊が住み着くのだ。


「だからさっさと壊しとけっつったのに…まぁいい。行くぜ」


輪路は木刀を抜いて、廃屋に入っていった。七人ミサキはその特性ゆえ、対話で成仏させることができない。戦って倒す以外に、成仏させる道はないのである。美由紀と三郎も、その後ろからついていった。


「…いたな。」


この廃屋は、元々小さなホテルだった。そのロビーにあたる場所に入った時、輪路達は見つけた。中に七人の女性の幽霊がたむろしているのだ。


「水島真弓…それ以外にも、新聞に顔写真が載ってた人が全員います。」


美由紀の言葉で、女性達が七人ミサキと確信した輪路は、女性達の前に出る。


「…あなタ、誰?」


「もうスグ私達の仲間ガ増えるカラ、邪魔シナいで。」


七人ミサキは輪路に言った。仲間とは、茉莉のことを言っているのだろう。


「こっちはそれを邪魔しに来たんだ。つっても話し合いで成仏させるのは無理だってわかってるから、ちょっと痛い目見てもらうぜ。」


木刀を構える輪路。だがその時、


「女性に手を上げるなんて、最低な殿方ですわね。」


シャロンが現れた。


「輪路気を付けろ!!こいつ上級リビドンだ!!」


「何!?じゃあデュオールとカルロスの仲間か!!」


「その通り。私の名はシャロン・ファロン。あなたを殺しに来ました」


シャロンは名乗る。


「それにしても、予想以上にひどい殿方ですわね、あなた。いくら幽霊とはいえ、女性に手を上げるとは…そういうことなら、こちらにも考えがあります。」


値踏みするように輪路を見たシャロンは、突然手元に大きな扇を二つ取り出し、その内の一つを片手に持って振り上げた。すると、扇から電撃が発生し、七人ミサキ達に降りかかった。



七人ミサキは互いが互いの憎悪で七人ミサキというくくりに縛り付けているため、いくら憎悪が強まってもリビドンにはならない。しかし、それは一人一人という場合だ。外部から手が加わるなどして、全員の憎悪が同じ速度で同じレベルまで高まれば、リビドンになる。シャロンという外部の存在から力を与えられ、七人ミサキはセブンスリビドンへと姿を変えた。


「女性は女性らしく、精一杯殿方に抵抗させて頂きましょう。」


さらにシャロンが扇を一振りすると、突風が発生してホテルを跡形もなく吹き飛ばした。


「神帝、聖装!!」


輪路はレイジンに変身し、盾となって美由紀と三郎を守る。


「いきなり現れるなり勝手なことばっかり言いやがって!!」


「んなこと言ってる場合か!!とりあえず結界を張るぜ!!」


しかし、これで戦いやすくなった。少し遅れたが結界を張る三郎。


「美由紀!!お前は下がってろ!!」


「はい!!」


美由紀を下がらせ、レイジンは合計八人もの悪霊達に挑む。最初に襲ってきたのは、セブンスリビドンの一体。しかし武器は持たず素手で、動きも緩慢だったため、翔と特訓をしているレイジンにはひどく遅く見えた。レイジンはセブンスリビドンの攻撃をスピリソードで跳ね上げ、連続で斬る。


「時間がねぇからさっさと決めさせてもらうぜ!!レイジンスラァァァァァッシュ!!!」


「ギャアアアアア!!!」


茉莉の命が尽きるまであとわずか。早急に勝負を着けなければならないレイジンは、素早くレイジンスラッシュを決めてまず一人目のセブンスリビドンを倒した。だが、


「何!?」


倒したセブンスリビドンが、すぐに復活したのだ。三郎が教える。


「そいつらは七人同時に倒さねぇと、残ったやつが力を補給して復活させちまうんだ!!」


何と厄介な相手だろうか。


「だったら、七人まとめて倒してやるぜ!!ライオネルバスタァァァァァァァ!!!!」


戦法を切り替え、ライオネルバスターを放つレイジン。だが、シャロンが扇を振った瞬間、セブンスリビドン達の前に壁が出現し、ライオネルバスターを防いでしまった。


「死魔障壁。私の存在を忘れてもらっては困りますわ」


そうだった。セブンスリビドンだけではなく、シャロンも同時に相手にしなくてはならないのだ。


「ちぃっ!!」


舌打ちしながらも、まずシャロンを倒そうと動くレイジン。だがセブンスリビドン達が邪魔をし、うまく攻められない。数の差が、レイジンを追い詰めているのだ。


「こんな時、明日奈ちゃんや翔さんがいれば…!!」


しかし、明日奈は現在茉莉の延命処置で手一杯だし、翔は会議に出席していていないのである。











ヒーリングタイム。そこに、来客があった。翔だ。会議が終わったので、様子を見に来たのだ。


「いらっしゃい。あら、あなたが翔さんね?」


出迎えたのは佐久真。コップを洗っている。翔は店内を見渡した。客は一人もおらず、翔と佐久真の二人きりだ。


「…もう、戻っては来られないのですか?」


翔が佐久真にそう訊いた時、佐久真の手が止まった。


「…あなた、協会の人間?」


「はい。青羽翔と申します」


「ああ、青羽家の…」


どこか遠くを見ている佐久真。翔とは、決して目を合わせようとしない。


「会長はお元気?」


「…五年前に亡くなられました。今は、シエル様が会長です。」


「そう、シエルちゃんが…」


「…私は当時のあなたを知っているわけではありません。しかし、皆あなたが戻ってくるのを待っています。」


「生憎だけど、私はもう二度と協会に戻るつもりはないわ。それより、最近起きてる女性の急死事件を知ってる?あれ、七人ミサキの仕業よ。今この街に来てて、輪路ちゃんが成仏させに行ってるわ。あの子一人じゃかなり苦戦するだろうし、行ってあげて。」


「…はい。」


話題を切り替えた佐久真に言われて、店から出ようとする翔。


「それから」


しかし、佐久真に続けて言われ、足を止める。


「…シエルちゃんに言っておいて。お父さんの最期に立ち会えなくて、ごめんなさいって。」


「…わかりました。」


翔は今度こそ店を出た。











「ぐあっ!!」


セブンスリビドンの一体に、背後から蹴り飛ばされるレイジン。


「どうしよう…このままじゃ輪路さんが…」


レイジンは先ほどからずっとセブンスリビドン達に弄ばれ続けている。レイジンが決定打を打とうとするとシャロンが邪魔し、状況が好転しない。


その時、


「すまない。遅くなった」


翔が現れた。


「翔さん!!」


「お前どうしてこの場所がわかった!?」


「結界が展開されているのを突き止めたんだ。」


驚く三郎に、翔はどうして自分がここに来れたのかを説明する。結界の中には、結界に干渉する術を使って入ってきた。


「お前もいたのか、シャロン。」


「青羽翔…また、厄介な殿方が現れたこと…」


シャロンは憎々しげな表情で翔を睨んでいる。


「翔!!」


「待たせたな廻藤。ここからは、俺も参加させてもらう!」


翔はレイジンのそばに立つと討魔剣を出現させて抜き、


「神帝、聖装!!」


ヒエンに変身した。


「リビドンの集団は俺が倒す。お前はシャロンを倒せ。今のお前なら、上級リビドンが相手でも戦えるはずだ。」


「わかった。あと、その集団は七人ミサキって連中が変身した連中だから、気を付けろよ!」


ヒエンはセブンスリビドンを、レイジンはシャロンを、それぞれ相手にする。


「レイジン、ぶった斬る!!」


「ヒエン、参る!!」


並び立つ二人の聖神帝。


「…いいでしょう。肩慣らしはここまで」


その光景を前にして、とうとうシャロンも本気を出すことにした。


「魂身変化!!」


チャイナドレスが毒々しい色になり、肌も黒ずんで硬質な姿の、怪物へと変化する。


「魔麒麟!!邪応竜!!」


麒麟が描かれた扇と、竜が描かれた扇を振るシャロン。すると、彼女の周囲に無数の四角い『壁』が出現し、宙を舞い始める。


「障り壁の舞い…」


どうやら、この死魔障壁とかいう壁を使って戦うのが、シャロンの戦闘スタイルらしい。


「うおおおっ!!」


レイジンは障壁飛び交う真っ只中に、スピリソードを振りかざして飛び込んでいった。



ヒエンに襲いかかるセブンスリビドン。しかし、ヒエンは襲ってきたセブンスリビドンの一体を斬りつけ、さらに凄まじい速度で次の一体の目の前に移動。攻撃されたら炎翼の舞いで反撃している。と、美由紀は気付いた。ヒエンはセブンスリビドンを一体ずつ、まんべんなく攻撃し、一つの場所に集めているのだ。


(そうか!七人ミサキは七人同時に倒さないと復活しちゃうから、同時に倒せるよう一ヵ所に集めてるんだ!)


さすがヒエン。七人ミサキの倒し方を熟知している。やがてセブンスリビドンを全て集めたヒエンは、天高く跳躍。


「青羽流討魔戦術奥義、蒼炎鳳凰!!!」


蒼炎鳳凰を発動し、突撃した。セブンスリビドンは逃げる暇もなく、蒼い炎の爆発に巻き込まれ、一瞬で成仏した。三郎がさらに結界を張ってくれた上に、あの時より大きさが小さめなので、美由紀にダメージはない。


「すごい…」


「さすが、三大士族ってところか。」


美由紀も三郎も、ヒエンの鮮やかな手際に感嘆している。シャロンの妨害があったとはいえ、レイジンが苦戦したセブンスリビドンを、あっさりと倒してしまった。



レイジンは苦戦していた。ただ妨害するだけしか能がないと思っていたが、上級リビドンなだけあってシャロンは強い。


「はっ!!」


シャロンが邪応竜を向けると、死魔障壁の一枚が飛んできた。それをスピリソードで受け止めるレイジン。死魔障壁はその名の通り、結界の一種である。しかも、尋常じゃなく硬い。スピリソードで斬れないのだ。


「私の死魔障壁は鉄壁です。何者であろうと、破壊は絶対に不可能!」


「ぐうっ!!」


破壊できないまでも、弾き返すレイジン。しかし、シャロンを倒すにはあの死魔障壁を破壊することが、どうしても必要だ。


「出ろ!!力の霊石!!」


思い付いた手段は強行突破。力の霊石を使い、剛力聖神帝となったレイジンは、そのパワーを右腕とスピリソードに宿し、邪魔な次々と死魔障壁を斬り裂いていく。


「ならば…」


とうとうシャロンの目の前までたどり着いたレイジン。しかし、最後の一撃を叩き込む瞬間、周囲に散っていた死魔障壁の欠片が全て集合し、一枚の死魔障壁となって立ちはだかった。構わず叩き込むが、その死魔障壁には傷一つ付かない。


「合体死魔障壁。一枚一枚では防げなくても、複数を束ねれば、防御力は何倍にも増大する!!」


死魔障壁の欠片を集めることで作り上げた、より強固な死魔障壁。さすがのレイジンでも、これは破れない。


(特訓の成果を見せてやる!!)


自分があれだけボロボロになって、嫌な男に師事したのは、負けるためではない。レイジンは自分にそう言い聞かせ、スピリソードと右腕に霊力を込める。


(込めた力を、爆発させる!!)


右腕とスピリソードが輝く。それに伴って力が増し、


「パワードレイジンスラッシュ!!!」


レイジンの攻撃は死魔障壁を打ち砕いた。


「なっ…!!」


目の前で起きたことが信じられず、しかし喰らうわけにもいかず、飛び退くシャロン。しかし、逃がしはしない。今度は両足にも霊力を込め、爆発。縮地を使って一瞬で距離を詰める。


「パワードソニック…!!」


「うっ!!」


死魔障壁を展開する余裕はない。魔麒麟と邪応竜を盾にするシャロン。


「スラァァァァァァァァッシュ!!!」


「ああああああっ!!!」


しかし、二枚の扇は斬り裂かれ、シャロンも大ダメージを受けて倒れる。


「くっ…ここは退く!!」


自身の敗北を悟ったシャロンは、瞬間移動で逃走した。











「茉莉!!茉莉!!」


「茉莉ちゃん!!」


呼び掛け続ける彩華と賢太郎。すると、


「…ん…お姉ちゃん?賢太郎くん…?」


茉莉は目を覚ました。


「茉莉!!」


抱きつく彩華。先ほどまでトマトのように真っ赤になっていた茉莉の顔は、何事もなかったかのように健康な色を取り戻していた。


「七人ミサキの力が消えた。廻藤さんがやってくれたみたいだね」


峠は越えたと、祈祷をやめて一息つく明日奈。


「師匠に連絡します!」


賢太郎は早速輪路に連絡を入れる。


「お姉ちゃん。あたしどうなったの?」


「幽霊に取り憑かれてたんですよ。でも、廻藤さんが助けてくれたんです。」


「そうだったんだ…」


状況がよくわからなかったが、彩華の言葉で自分が危機的状況だったらしいことを知る。


(じゃああたしが見た夢って、走馬灯みたいなものだったのかしら…)


茉莉が見たあの夢は、子供頃に経験した、あの事故の記憶。死にかけていたから、今になってあんな夢を見たんだろうと、茉莉はそう思うことにした。










「そうか。じゃああとでそっちに行く」


輪路は通信を終えた。


「賢太郎からだ。茉莉がさっき目を覚まして、助かったってよ。」


「よかった!一時はどうなることかと思いましたけど!」


美由紀は輪路から茉莉が助かったという知らせを聞き、喜ぶ。三郎は輪路に言った。


「今回はあいつに助けられたな。ちゃんとお礼言っとけよ?長い付き合いになるんだし。」


「…わかってるよ…」


輪路は少し嫌そうだ。とはいえ、今回最も働いたのは翔である。彼が来てくれなければ、茉莉は死んでいただろう。


「…今回は助かった。」


「誰か取り憑かれていたのか?」


「まぁな。」


「ならよかった。お前も、少しはまともに戦えるようになったらしいからな。」


翔の言う通り、しくじりはしたが上級リビドンと戦って、事実上勝ったのだ。大成長て言える。


「だがまだまだ、見習い討魔士ができることができるようになったレベルだ。これからも鍛えてやる」


翔は辛口なコメントを残すと、去っていった。


「…んっとやなやつ。」


輪路は愚痴る。


「でもどうします?ここ、ぐちゃぐちゃになっちゃいましたけど…」


美由紀は辺りを見る。シャロンの攻撃で、廃屋は吹き飛んでしまった。


「まぁいいだろ。業者の代わりに壊してやったて思えばな」


しかし、輪路はあまり深刻に考えていなかった。











「申し訳ございません。」


シャロンは殺徒に頭を下げた。


「やはり、外に出るべきではありませんね。慣れないことをすると、失敗します。」


「まぁまぁ、そう気を落とさないで。こっちも長らく君を縛り付けてたからさ」


「そうそう。仕方ないことよ」


「…ありがとうございます。」


殺徒と黄泉子から許しをもらい、シャロンは下がった。


「…とはいえ、あの男どんどん強くなってるわ。シャロンを追い返すなんてね」


黄泉子は殺徒に言った。殺徒は考えてから呟く。


「…近々出向いた方がいいかもしれないね。」





今回はいろいろ詰め込んだら長くなりました。やっぱり分けた方がいいですかね?でも区切ったりすると、次回が気になるでしょうし…まぁ、頑張ります。



次回もお楽しみに!

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