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第十一話 討魔士、青羽翔 後編

レイジンvsヒエン!!

「お前も聖神帝だと!?」


「聖神帝になれるのが自分だけだと思っていたのか?」


驚くレイジンに、ヒエンと名乗った聖神帝は呆れたように答えた。


「た、確かに、さっき三郎ちゃんが、協会には聖神帝になれる人がいるって言ってましたけど…!!」


美由紀は三郎が言ったことを思い出す。三郎は翔が変身した聖神帝、ヒエンについて説明した。


「聖神帝の力は自分が生み出す他に、他者から受け継ぐことによっても使えるようになる。青羽家は、あの蒼の不死鳥型聖神帝、ヒエンを代々受け継いでるんだ。」


そして継承した聖神帝の力は、先代の力をも継承するという形になるので、今代の継承者の霊力とプラスされて、結果的に今代の継承者が大幅に強化されるということになる。その強化は聖神帝に変身するまで行われないが、聖神帝に変身した今の翔は、先ほど二倍も離れていた輪路との霊力差を一気に追い抜き、逆に二倍の差を付けた。今翔は、霊力においても輪路を上回ったのだ。


「お前が伊邪那美を倒したという情報はこちらにも伝わっている。本当にそれだけの実力があるなら、俺に一撃当てるくらいできるはずだ。」


「ああ当てられるよ!!当ててやるからそこ動くな!!」


自分が伊邪那美と戦ったことまで知っていたのには少し驚いたが、今は一刻も早くヒエンをぶちのめしたいという気持ちの方が勝っていたので関係ない。レイジンはヒエンに斬りかかる。ヒエンは二本のスピリソード、ツインスピリソードで迎え討った。双剣にしては大きな剣だが、ヒエンが剣を振る速度は全く落ちていない。むしろ、先ほどより上がっている。翔がヒエンに変身したことが原因だろうが、とにかく速い。そして強い。


「ちぃ…!!」


レイジンは完全に圧倒されている。ヒエンは無言で、ただレイジンを圧倒している。動きに全く無駄がなく、速いのだ。このままでは斬撃の物量で潰されてしまう。そう判断したレイジンは一度大きく後退し、縮地を使って接近。ソニックレイジンスラッシュだ。が、ヒエンはそれを易々とかわす。


(なら!!)


「ハリケーンレイジンスラッシュ!!!」


派生技、ハリケーンレイジンスラッシュへと切り替える。しかし、


「…」


ヒエンは何度も襲ってくる斬撃をかわす。レイジンは何度も何度も斬るが、ヒエンには当たらない。そのうち、


「がっ!!」


ヒエンは片方のツインスピリソードで突きを繰り出し、レイジンを強引に引き剥がした。


「は、速い!!ハリケーンレイジンスラッシュをかわしきるなんて!!」


美由紀は驚く。ハリケーンレイジンスラッシュを防がれたり、技が効かなかったことはあるが、かわしきられたことはなかった。


「ヒエンは速さに特化した聖神帝だ。あれに攻撃を当てるなんてのは、今の輪路じゃ無理だぜ。」


聖神帝は型によって、戦闘の方向性が違う。例えば、獅子王型は強大な霊力で押しきるパワー型。ヒエンは凄まじい速度で行動し、相手を翻弄するスピード型なのだ。精錬され尽くしたプロである翔に、まだまだ聖神帝として駆け出しの輪路が勝つなどほぼ不可能。


「んなろっ!!」


力の差を感じ始めているレイジンだが、それを認めず挑む。しかし、スピリソードの一撃が当たる瞬間にヒエンが消え、代わりに無数の蒼い羽が舞い散る。攻撃が空振りに終わった瞬間、羽が炎へと変化し、大爆発を引き起こした。


「ぐああああああ!!!」


吹き飛ばされるレイジン。その先には、消えたはずのヒエンが。


「ふん!!」


「ぐあっ!!」


飛んできたレイジンを斬りつけ、再度吹き飛ばすヒエン。


「この野郎!!」


また斬りかかるが、またしてもヒエンの姿は消え去り、残った羽が爆発してレイジンを吹き飛ばし、その先にいたヒエンがレイジンを斬る。


「ぐ…あ…!!」


「青羽流討魔戦術、炎翼の舞い。お前は俺に触れることすらできんと言ったはずだ」


ヒエンが使ったのは炎翼の舞いという討魔戦術だ。敵が攻撃してきた際、霊力でできた羽を撒き散らしながら瞬間移動し、羽を爆発させて攻撃する。ヒエンはこの回避と攻撃を一体化させた技を、相手が爆発で飛ばされる場所を計算して使うことにより、追撃を可能としている。


「おい!もうわかっただろ!今の輪路の実力じゃ、お前に一撃当てるなんて無理だ!」


「そうですよ!!これじゃ弱い者いじめです!!こんなことをするのが討魔士の仕事なんですか!?今すぐやめて下さい!!」


この戦いはあまりにも一方的すぎた。三郎と美由紀は、必死にヒエンを説得する。


「だからこそだ。」


ヒエンは聞き入れなかった。


「この男が聖神帝の力を振るう者として成長しきってからでは、遅すぎる。災いの芽を育たぬうちに刈り取るのも、討魔士の使命だ。」


「災いって…輪路さんは災いなんかじゃ」


「ないと言い切れるか?お前が廻藤輪路をそこまで信頼しているというのなら、それもいいだろう。だがこの男は、伊邪那美を倒してみせたのだ。それだけの力を持ち、しかも協会の討魔士としての適性を持たないのなら、それは脅威に他ならない。」


「それじゃまるで、協会が全部正しいみたいじゃないですか!!」


「そうだ。この世界において最大、唯一無二の正義の組織は討魔協会だけなんだ。そして聖神帝の力は、協会でのみ使われねばならない。」


輪路は、伊邪那美を倒すほどの力を持っている。それほどまでに強大な、聖神帝の力を持っている。聖神帝の力を使っている以上、もう協会とは無関係ではない。そして強大な聖神帝の力を使う輪路は、協会にとって野放しにしておいていい存在ではないのだ。


「…そうかよ…」


「輪路さん!?」


レイジンはかなりのダメージを受けたが、どうにか立ち上がった。


「やっぱ俺って、厄介な力を持って生まれちまったんだな。」


「本当にそう思う。お前がその力を持って生まれさえしなければ、俺にこんな命令が下されることもなかったんだ。お前がもっと自分の力に対して理解を深めていれば、俺がこんなことをする必要もなかったんだ。全てはお前に責がある」


力を使う者には、必ず責任が伴う。自分の力についてちゃんと理解せず、己の性格も改めようとしなかった輪路が、全部悪い。ヒエンはそう決めつけた。


「…そうだな。俺が悪かった。けどな、いくら俺が悪かろうが、お前に殺されるわけにはいかねぇんだよ!!」


まだ死ぬわけにはいかない。レイジンの力は、まだこれが全てではない。


「ライオネルバスタァァァァァァ!!!!」


不意討ちのつもりで、レイジンはライオネルバスターを撃つ。ヒエンは空中に高く跳躍して、攻撃をかわした。


「うおおおおお!!!」


レイジンはかわされた後、ライオネルバスターをヒエンに向かって連射する。しかし全てかわされてしまい、仕方なく突撃してヒエンへと空中戦を挑む。短時間なら空を飛べるのだ。しかし、レイジンは失念していた。相手は不死鳥型。鳥、ということは無論、レイジンよりも飛行能力は遥かに上なのだ。


「錯乱したか」


ヒエンは冷ややかに言うと、レイジンの攻撃をかわしながら、空をマッハ40という恐るべき速度で飛び回り、縦横無尽な攻撃でレイジンを地面に叩き落とした。


「まだだぁっ!!」


すぐ立ち上がるレイジン。


「出ろ!!火の霊石!!」


レイジンは火の霊石を出すと握り潰し、火焔聖神帝になる。


「おおおおおおおおおおお!!!」


そのままスピリソードに炎を宿し、渦巻く炎で攻撃した。


「火の霊石…なるほど、これが伊邪那美を倒せた理由か。だが…」


炎の渦に飲まれたヒエンは冷静に分析し、炎の中をレイジンに向かって突撃し、


「青羽流討魔戦術、朱雀狩り!!!」


ツインスピリソードに炎を宿して、レイジンを斬った。


「ぐああっ!!」


レイジンは倒れる。


「霊石の力が効かない!?どうなってるんですか!?」


驚く美由紀。伊邪那美の頑強な肉体さえ焼き尽くした火の霊石の浄炎が、ヒエンには一切の火傷を負わせることができなかったのだ。三郎は説明する。


「聖神帝にも、属性ってのはある。レイジンは光で、ヒエンは火だ。炎にいくら炎をぶつけたって、消えねぇだろ?」


聖神帝は霊石によって属性の追加ができるが、元からの属性というものもある。レイジンは光であり、ヒエンは火なのだ。いくら霊石の力があるとはいえ、その霊石の属性が火なら、ただ相手の力を強化してしまうだけなのである。ちなみにレイジンは、光を吸収できない。それは、獅子王型であることに原因がある。不死鳥は炎を喰らってもダメージがないが、ライオンは光線を喰らったら死ぬ。そういうことだ。やるにしても、それ相応の技術が必要になる。


「相手の実力を完全に把握しないうちから感情で戦うなど、自殺行為だ。よく覚えておけ。生きていたらの話だが」


ヒエンは着地し、ゆっくりと歩く。レイジンはもう、勝てる気がしなかった。しかし、それでも一矢報いようと、ヒエンに斬りかかる。


「レイジンスラァァァァァァァッシュッッ!!!!」


だが、ヒエンは無情にも必殺の一撃を軽く跳ね返した。その瞬間、右腕が元の色に戻ってしまった。


「な、何!?」


「霊力切れだな。」


火焔聖神帝が解けてしまったレイジンを見て、ヒエンは言い放つ。


「お前、自分には持久力がないと感じたことはあるか?」


「!!」


ある。レイジンはいつも、自分には持久力がないと思っていた。ヒエンはその理由を言う。


「それはお前が霊力を制御しきれていないからだ。あれだけ考えもなしに垂れ流していれば、どれだけ霊力があってもすぐ尽きる。」


そして霊力と体力には少なからず関係があり、霊力の低下は体力の低下にも繋がる。ヒエンから見れば、レイジンは自分の力を常に垂れ流している状態であり、これではいくら霊力があってもすぐになくなる。だからレイジンには、持久力がないのだ。


「そして俺はこの時を待っていた。霊力を温存しながら戦っていた俺は、霊力が尽きたお前に最大級の攻撃を叩き込むことができる。」


なぜヒーロー物の戦士達が、いきなり必殺技を使わないか、その理由を知っている方はいるだろうか?尺の問題、というのもあるだろう。しかし、つまる所一番大きな理由は、いきなり必殺技を使ってもかわされてしまうからだ。自分の力を温存しながら戦い、相手を弱らせよけられないか、あるいは当てれば一撃で倒せる状態にしてから必殺技を放つ。ヒエンはそれと同じタイプなのだ。


「やめて下さい!!」


ヒエンとレイジンの間に、美由紀が割って入った。


「…そこをどいてもらおう。」


「どきません!!」


「これは討魔士になれるかどうかを決める最終審査だ。一般人の出る幕はない」


「そうかもしれませんけど、もう勝負は決まったも同然じゃないですか!!これ以上やったら、輪路さんは確実に死んでしまいます!!」


「ならそれがこの男の運命だ。どちらにせよ、自分の使命より快楽を優先したこの男に全ての責任はある。」


「だからって殺すことはないでしょう!?輪路さんは絶対に世界を脅かすなんてことはしません!!私がさせません!!だから!!」


レイジンを殺そうとするヒエンと、レイジンを守ろうとする美由紀。力の差は、絶望的すぎるほど離れている。なので、これ以上の議論は無駄だと判断したヒエンは、


「廻藤輪路以外の者に危害を加えるつもりはない。少し眠っていてもらおう」


右のツインスピリソードを納め、美由紀の前に手をかざす。だがその瞬間、


「うおらぁっ!!」


針の穴を通すように、美由紀の背後から脇腹をかすめるように、レイジンが刺突を繰り出した。ヒエンは咄嗟に無重動法を使ってかわす。


「ちっ!外したか!!」


「輪路さん!?」


「美由紀。悪いが、今回は俺に全部任せてくれ。」


レイジンは折れかけていた闘志を再び燃やし、美由紀に言う。


「そ、そんな!!殺されちゃいますよ!!」


「大丈夫だ。俺はこんなやつにやられたりしねぇ。元はと言えば俺のせいだし、自分が蒔いた種は自分で刈らなきゃな。それに、大事なことも思い出した。」


「大事な…こと…?」


「ああ。」


レイジンは美由紀を後ろに下がらせ、ヒエンの前に立つ。


「まだ闘志が折れていない、か。なら、お前への敬意を示して、奥義で葬ってやる。」


諦めずに向かってきた敬意を示し、ヒエンはレイジンを奥義で倒すと宣言。右のツインスピリソードを再度抜き、天高く跳躍する。空中に停止したヒエンは自分の霊力を最大まで解放し、それを全て炎へと変換。そして変換された炎は、ヒエンを核にした巨大な鳥へと変化する。


「青羽流討魔戦術奥義、蒼炎鳳凰そうえんほうおう!!!」


ヒエンの霊力を最大解放して生み出したこの巨大鳳凰。これを纏って突撃するのが、青羽流討魔戦術でも上位に位置する奥義、蒼炎鳳凰だ。


「上級リビドンであろうと、これを受ければただでは済まない!!まして霊力を使いきった今のお前など、一瞬で灰にできる!!」


ヒエンが最も威力を信頼する技。これを受けてしまったら、レイジンは間違いなく即死する。


「もう殺す気満々じゃないですか!!こんなの審査でも何でもないですよ!!」


「…三郎。美由紀を結界の外に逃がしてくれ。このままじゃ、美由紀を巻き込んじまう。」


レイジンは三郎に言った。蒼炎鳳凰の大きさは、軽く見ても50mはある。技の規模が桁外れだ。このままでは美由紀も巻き込んでしまう。


「…わかった。」


「輪路さん!!」


最後までレイジンといようとする美由紀を、三郎は結界の外に飛ばした。


「お前にも逃げて欲しいが、結界の維持があるから無理か…」


「一応外からも結界の維持はできるんだがな、最後までいてやるよ。俺とお前の仲だからな」


「…ありがとよ。」


危険を承知でいてくれると言った三郎に、レイジンは礼を言った。しかし、どうすればいいだろうか。ヒエンからはかなり離れているが、それでも技の威力がひしひしと伝わってくる。


(だが、俺はマスターと約束したんだ!!)


しかし、レイジンはずっと前に、佐久真とある約束をしたのだ。それを果たすまで、死ぬわけにはいかなかった。











それは、輪路がこの街に引っ越してきた初日のこと。輪路は引っ越し作業で忙しい両親が相手をしてくれないので、仕方なく時間を潰すために街を散策していた。と、


「やめて!やめてよ!」


女の子が嫌がるような声が聞こえて、輪路は足を止めた。見ると、すぐそばの公園で、少女が複数の少年に囲まれている。リーダー格の少年がリボンを持っており、少女はその少年に向かってしきりに手を伸ばしていた。いじめだ。


「お前ら何やってんだ!!」


自分もいじめを受けていた身なので、誰かがいじめられていると見過ごせない。輪路は鞘袋から木刀を抜き、少年達に挑んでいった。


「うわあああああ!!!」


少しの間格闘を繰り広げ、輪路に叩きのめされた少年達は、泣きべそをかきながら逃げていった。


「ほら。」


輪路は取り返したリボンを少女に差し出す。


「あ、ありがとうございます…」


少女は消え入りそうな声で礼を言うと、受け取ったリボンで髪を結んだ。


「じゃあ。」


去っていこうとする輪路。


「あ、あの…!」


そんな輪路を、少女が呼び止める。


「…何だよ?」


「あ、あ、の…お、お礼…させて…下さい…」


「お礼?そんなもんいいよ。」


「でっ、でもっ!」


しつこく自分にお礼をしようとする少女に、輪路はとうとう折れた。


「…わかったよ。それで、何してくれんの?」


「わ、私の家、喫茶店、だから…」


「…飲んだり食ったりしていいってこと?」


輪路が訊くと、少女は何度も勢い良く首を縦に振った。


「じゃあお願いしよっかな。家ってどこ?」


「こ、こっち、です…」


少女は指を差して歩き出し、輪路はそれに続く。



途中で二人はいろんな話をした。少女の名前が美由紀だということ、輪路がこの街に引っ越してきたこと、三年生になるということ、二人は同い年だということ、輪路には幽霊が見えるということ。話をしているうちに、二人は喫茶店に着いた。


「ここがその店?」


「はい。名前はヒーリングタイムです」


美由紀も大分落ち着き、輪路と普通に話ができるようになった。店のドアを開けて、輪路と一緒に入る。


「いらっしゃ…あら美由紀ちゃん!」


「ただいまお父さん。」


カウンターに立っていた美由紀の父、佐久真と、輪路に佐久真を紹介する美由紀。輪路に助けられたことも話す。


「あらあら…それじゃあお礼しないといけないわね。さ、掛けて掛けて。」


佐久真は輪路にカウンター席に座るよう言う。だが輪路は、怪訝そうな顔したまま動こうとしない。


「どうしたの?」


佐久真が尋ねると、輪路は佐久真に質問した。


「…おじさんオカマなの?」


「まっ!失礼しちゃうわねぇ!でもまだ子供だし、大目に見てあげるわ。じゃ、好きなもの頼んでちょうだい。」


佐久真はオカマ呼ばわりされたが、輪路はまだ子供なので許した。その後、輪路は適当にケーキなどを頼んで食べた。食べている間、佐久真が訊く。


「そういえば、あなたこの辺りじゃ見ない子ね。」


その疑問には美由紀が答えた。


「今日引っ越してきたばかりなんだって。」


「あら、じゃあお友達とかいないの?ならウチの美由紀ちゃんが最初の友達になるわね。」


「…まぁ…」


輪路は一旦手を止めて考えた。


「よかったわぁ~美由紀ちゃんよくいじめられるから、守ってくれるお友達がいたらって思ってたのよ。美由紀ちゃんもあなたのこと気に入ってるみたいだし、守ってあげてね。」


守ってあげて。そう言った佐久真の顔は、本当に嬉しそうだった。


「…うん。わかった」


なぜかそうしなければならないと思って、輪路は頷いた。











(俺はマスターと約束したんだ!!美由紀を守るって!!)


それは幼い頃からずっと実行してきた、佐久真との約束。もし自分が死んだら、誰がその約束を守るのか。そう思ったら、死ぬわけにはいかない。だが、力の差は絶望的だった。


(チクショウ…俺にもっと力があれば…!!)


ゆえに力を求めた。あの技、蒼炎鳳凰をぶち破り、ヒエンを叩き潰せるだけの力が。


(力が…力が欲しい…!!)


強く願い続けるレイジン。その時、ヒエンは気付いた。


「奴の霊力が…上がっている!?」


もはや必殺技を放つだけの余力もなかったはずのレイジンの霊力が、急速に上昇していた。



魂が求める力への渇望は、聖神帝に新たな力を生み落とす。



レイジンの全身から光が溢れ出し、それは白銀に輝く牙の形をした石へと変化した。


「この感覚…こいつは霊石か!!」


レイジンはこの牙を生み出した時の感覚に覚えがあった。伊邪那美との戦いの時、火の霊石を生み出した時と、感覚が一致している。


「まさかこんな短期間で二つ目の霊石を生み出すとはな…輪路!!そいつは力の霊石だ!!使え!!」


前の霊石を生み出した時から、まだ数日程度しか経っていない。三郎はその成長速度に驚きながらも、新たな力、力の霊石を使うよう命じた。レイジンは右手で力の霊石を掴み、握り潰す。するとレイジンの右腕に、牙を模した突起が二本生えた。



揺るぎなき力を持ってあらゆる敵を叩き潰す、剛力聖神帝の誕生である。



「俺との戦いで霊石を生み出したか…だが無駄なことだ!!お前に蒼炎鳳凰は破れない!!」


突撃するヒエン。レイジンは火焔聖神帝になった時と同じ感覚で、右腕とスピリソードに霊力を込め、跳躍する。


「パワードレイジンスラァァァァァァッシュ!!!!!」


全力を込めた、正真正銘最後の一撃。これで蒼炎鳳凰を破れなければ、レイジンは死ぬ。


(勝つ!!俺は絶対に勝つ!!勝って生きる!!生きて俺は、美由紀を!!)


超パワーを込めたスピリソードと、巨大な炎の鳳凰が激突した。











「輪路さん…」


美由紀は結界の外で、戦いが終わるのを待っていた。自分を結界の外に追い出すということは、それだけ切羽詰まった状況だということ。もしかしたら、輪路は死ぬつもりなのかもしれない。


(お願い…帰ってきて!!)


輪路の帰還を必死で祈る美由紀。



次の瞬間、結界が解けた。



そこにいたのは、レイジンとヒエン。そして三郎だ。が、


「…ぐっ…」


レイジンは変身が解けてしまう。


「…まさか蒼炎鳳凰を相殺するとはな。」


激突した蒼炎鳳凰とパワードレイジンスラッシュは威力が同じで、ぶつかって大爆発を起こし、相殺した。その破壊力は、三郎の結界が破られてしまうほどである。で、蒼炎鳳凰による焼死は免れたが、今の一撃で本当に霊力を使いきってしまい、変身が解けてしまったのだ。


「はぁ…はぁ…」


変身が解けても、輪路は諦めない。重たい身体を、最後の力を振り絞って動かす。


「う…お…おお…!!」


そして、


コンッ!


輪路が振り下ろした木刀が、ヒエンの脳天に命中して、軽い音を立てた。


「…ちっ…」


倒れる輪路。


「輪路さん!!」


駆け寄ろうとする美由紀。それより早く、ヒエンが自分の肩で輪路を受け止めた。ヒエンはツインスピリソードを納刀すると変身を解き、気絶した輪路を支えた。


「り、輪路さんを殺すんですか!?」


「いや、それはしない。この男は最終審査に合格したからな」


「えっ、合格?」


「今俺に一撃当てただろう。」


美由紀は思い出す。確かに先ほど、輪路はヒエンに木刀の一撃を当てた。


「あ、あれでよかったんですか!?」


「どんなに弱かろうと、一撃は一撃だ。合格と認める」


一撃当てれば合格と言ったが、あんな弱い一撃でも合格と認める辺り、翔は意外と寛大なのかもしれない。


「彼を休ませたい。どこかいい場所はないだろうか?」


「そ、それでしたら、私の家に!」


美由紀は翔に手を貸し、輪路をヒーリングタイムへと運ぶ。


「一段落ついたな。俺はもう帰るぜ」


「ありがとう三郎ちゃん!」


三郎も帰っていった。




ヒーリングタイムはもう閉店していたので、輪路を介抱するにはちょうどよかった。


「そういえば、まだ君の名前を聞いていなかったな。」


「そうでしたね。私は篠原美由紀です」


輪路の介抱をしながら、美由紀は自己紹介する。


「篠原…そういえばここは…君がそうなのか…」


「えっ?」


「いや、こちらの話だ。」


翔は何やら呟いたが、美由紀に訊かれると誤魔化した。


「タオルの換え、持ってきたわよ。」


「ありがとう!」


美由紀は佐久真にも手伝ってもらい、寝かせている輪路の頭に濡れタオルを乗せた。美由紀も佐久真も、翔が少し悲しそうな顔をして佐久真を見ていたのには気付かなかった。




「…ん…」


輪路はしばらくして目を覚ました。翔と美由紀は、輪路が合格したこと、もう殺さなくていいということを話した。佐久真は自分の部屋で、後始末をしている。話を聞かれる心配はない。


「ちぇっ、結局一撃当てるのが限界だったか。」


舌打ちする輪路。あの一撃だって、おまけみたいなものだ。翔もわざと受けたという。


「お前の成長には、目を見張るものがある。やはりお前のような男をみすみす死なせるには惜しいと思ってな」


「…まぁいいや。それより、俺は討魔士になっていいんだよな?」


「ん?ああ。」


「なるぜ、討魔士に。」


輪路は討魔士になる決意をした。


「輪路さん、団体行動は苦手だからならないって…」


「そう思ったんだが、今回の試験、こいつが情けをかけてくれなかったら、俺は負けてた。それが気に食わねぇ。だからもっと強くなって、こいつをぎゃふんと言わせてやりたくてな。どうせ拒否権はねぇだろうし」


呆れた理由だ。翔に勝つために、討魔士になるのだという。


「まったく…なら俺も、その性格を矯正するために、明日から毎日お前を鍛えてやろう。」


「は?」


「当然だろう?いくら並外れた霊力を持つとはいえ、今のままのお前では戦力になどならない。討魔士として最低限は使い物になるよう、俺が鍛えてやると言っているんだ。」


「…」


翔の方が上手だった。


「そうと決まれば、俺は帰る。会長に今回の件を報告しなければならないからな」


翔は席を立ち、


「明日を楽しみに待っていろ。」


店から出ていった。


「どうしましょう輪路さん…」


「…勘弁してくれよ…」


美由紀と輪路は、呆然と呟いた。











「おかえりなさい、翔。」


シエルは翔を迎える。


「どうでした?廻藤輪路は。」


「とてつもない霊力の持ち主でした。性格には多少問題が見られますが、矯正できるレベルです。期待はできるものと思われます」


「それはいいですね。近々会うと伝えておいて下さい」


シエルは嬉しそうに言った。


「ああ、それと…」


だが、その表情はある資料を取り出して、突然厳しくなる。


「秦野山市の周辺で、黒城殺徒の一味が暗躍しているようです。彼らの動向にも気を付けて下さい。万が一にも、邪神帝の力を復活されるようなことがあってはなりません。」


「は。」


シエルから命を受けて、翔は頭を下げた。シエルが見せた資料には、殺徒、黄泉子、デュオール、カルロス、シャロンの五人の顔写真が記載されていた。





これで、輪路は討魔士になりました。もっともっと強くなりますし、世界中に行きますから物語の幅が一気に広がります。ここからが、この作品の本当の始まりなんです。ヒエンの階級については、また後日紹介させて頂きます。


次回もお楽しみに!

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