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レイジンvsイザナミ!!ゴールデンウィークの死闘 PART4

長編は今回で終了です。

冥魂城。


「おやおや、伊邪那美を本気にさせちゃったのか。」


「あの子達も、もうおしまいね。」


殺徒と黄泉子は、モニターからレイジン達の様子を見ている。


「いやぁそれにしてもさすが黄泉子様!まさか冥界の神伊邪那美を復活させるとは、想像も付きませんでしたよ。デュオールが帰ってきたらびっくりしますねぇ~」


カルロスは手を叩いて喜んでいる。冥界の神を復活させてぶつけるなどという、スケールが違う作戦を実行してみせた黄泉子。


「…しかし、これだと簡単に人類が全滅しちまって、俺達は楽しめませんねぇ。」


「今は楽しむことより、一人でも多くのリビドンを増やすことの方が大切だよ。」


「あ、こりゃ失礼しました。」


伊邪那美の力を以てすれば、容易く人類を絶滅させられるだろう。快楽殺人鬼のカルロスとしては、それだと早々に獲物が全滅してしまうのでつまらないが、今の彼らの目的は殺しを楽しむことではない。失言だったと謝る。


「で、伊邪那美に人類を滅ぼしてもらった後はどうするんですか?」


「当然、殺すよ。」


「ですよね。」


殺徒は、何を今さらとばかりに返した。カルロスも予想通りの返答に安心している。彼らの目的のためには、伊邪那美すら邪魔なのだ。せっかく起きて働いてもらったところ申し訳ないが、彼女には二度目の死を経験してもらう。


「さて、どうなるかな?」


殺徒は楽しそうに、モニターに目を戻した。











「死ねぇぇぇぇ!!!」


叫びながら、伊邪那美が十握剣を振り下ろす。伊邪那美自身が十倍の大きさになったように、十握剣もまた十倍の大きさになっている。


「ぐぅっ…!!」


レイジンは右手でスピリソードの柄を持ち、左手で峰を支えて受け止める。小さなクレーターができるほどの衝撃を受け、膝を付きそうになった。


「このっ!!」


レイジンを助けるため霊力弾を放つ明日奈。今度は雷神の反撃もなく、伊邪那美は普通に受けた。ダメージはない。のけぞる様子もない。


「…ハァァァァ…!!」


伊邪那美は邪悪に笑ってから、雷神で反撃する。霊力弾をかき消さなかったのは、見せつけるためだ。自分の圧倒的な力を見せつけるために、絶望を与えるために。


「あああああっ!!!」


「明日奈!!」


雷を受けて地面に叩きつけられる明日奈。吉江は慌てて駆け寄る。


「ふんっ!!」


レイジンは伊邪那美の意識が明日奈に向いた隙に、十握剣を跳ね上げ、縮地を使って伊邪那美の懐に飛び込む。巨大化した分鈍重になっているため、懐に飛び込めば少なくとも十握剣を使った攻撃はできない。伊邪那美が雷神で反撃してくる前に両断してやる。そう思って、ソニックレイジンスラッシュを放った。



だが、ガギィィンッ!!!という音がして、攻撃は防がれる。



「ろ、肋骨…!?」


伊邪那美の胸から突き出している肋骨が生き物のように動き、しかも信じられない硬度でソニックレイジンスラッシュを受け止めたのだ。


「馬鹿め!!」


「ぐあああっ!!」


驚いている隙に雷神で反撃する伊邪那美。


「貴様らなど、その気になれば相手にすらならん。それを本気まで見せてやったのだから、感謝して欲しいくらいだ。」


「くそっ!!調子に乗ってんじゃねぇぞ!!」


レイジンはすぐに復帰し、再び伊邪那美に挑む。懲りないやつと思いながら、伊邪那美も十握剣と雷神を使って、レイジンの相手をする。


「明日奈!!大丈夫か!?」


「くっ…平気だよ。それより、式神を!!廻藤さん一人だけじゃ、すぐやられちゃう!!」


「わ、わかった!!」


吉江は明日奈を抱き起こす。かなりのダメージを負ってしまったが、まだ戦えなくなるほどではない。吉江の肩を借りながらも、立ち上がる。


「ちぃ…強ぇな…!!」


レイジンは伊邪那美との激突で、鎧がボロボロになり、白銀の輝きも色褪せてしまっていた。


「そろそろ終わりだ。さぁ死ね!!」


決着も近くなったと察した伊邪那美は、最後の一撃と十握剣を振り下ろす。だが、伊邪那美の腕は十握剣を振り下ろす途中で止まってしまった。


「ん?」


伊邪那美は十握剣を持つ自分の右腕を見る。そこには紙でできた人形が無数に組み付いていて、伊邪那美の腕を止めていたのだ。


「これは…式神か。こんなもの!!」


伊邪那美は式神達を振りほどくと、雷を浴びせて消滅させた。しかし、


「何!?」


式神はそれだけではなかった。たくさんの式神が伊邪那美の周囲を飛び回り、包囲しているのである。


「廻藤さん!!こっち!!」


明日奈が呼び掛ける。レイジンが見ると、明日奈の隣に吉江がいて、何か呪文を唱えていた。それに呼応するかのようにして、伊勢神宮の社の中から式神が飛び出してきているのだ。美由紀達五人が、丸二日かけて用意した式神。その数は千を超えている。伊邪那美は数の暴力にものを言わせて襲ってくる式神達に、十握剣や雷神で反撃しているが、全てを破壊するには相当な時間がかかるだろう。レイジンはとりあえず、指示通り引いた。


「式神達がうまく伊邪那美の目眩ましをしてくれてるが、決定打にはならない。だから式神が全滅する瞬間を狙って、同時にフルパワーの攻撃を叩き込むんだ!!それで今度こそ伊邪那美を倒す!!」


式神に気を取られている今の伊邪那美は、レイジン達に攻撃できない。だが式神の力で伊邪那美を倒せないこともまた事実。ゆえに式神達には足止めと目眩ましに徹してもらい、こちらはパワーの集中に専念。式神が全滅する瞬間を見計らって、集中したパワーを伊邪那美に叩き込もうと言うのだ。


「よし!!やろうぜ!!」


レイジンは了承する。先ほどは明日奈一人だけだったため不覚を取ったが、二人で同時にやればいけるはずだ。


「式神の数も残り少ない!!そろそろだよ!!」


吉江が警告する。見ると、この辺り一帯を埋め尽くさんばかりに飛び回っていた式神が、もう四分の一近くまで減ってしまっていた。恐るべきは神の力。だが、あれだけ残っていれば、次の攻撃に全力を注ぐくらいの時間は十分確保できる。二人は霊力の集中を始める。吉江は式神を操作し、少しでも時間稼ぎができるよう努めた。


「ええい!!鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい!!!消えろぉぉぉぉぉ!!!!」


蚊柱のごとく飛び回る式神の群れに苛立ちが頂点に達した伊邪那美は、全身から雷神の力を全て解放し、放たれた雷撃でとうとう式神を全滅させた。


「今だ!!」


時間稼ぎはもう終わり。しかし、反撃の準備も整った。吉江が鋭く叫ぶ。


「天照…!!」


「ライオネル…!!」


二人は今までに溜めていた力を全解放して、伊邪那美へと放つ。


「大君煌!!!!」


「バスタァァァァァァァァァァァァァァーーーーッ!!!!」


二重螺旋を描く破壊の閃光。あらゆる邪悪を滅する浄化の力は、伊邪那美を倒そうと殺到する。伊邪那美は雷神で反撃しようとするが、


「っ!?」


伊邪那美の身体から、炎雷大神が消えてしまっていた。


(使いすぎたか!!)


原因は、今までの戦いだ。八災雷や先ほどの最大解放など、炎雷大神を酷使してしまったため、力が一時的に消えてしまったのである。憎悪によって力を増すリビドンや、強大な神である伊邪那美ならまだしも、炎雷大神は伊邪那美ほど強くない上にただ操っているだけなので限界がある。伊邪那美から新たに力を供給することもできるが、その場合ほんの一瞬だけ今のように炎雷大神が使えなくなる。


「ぬぅぅっ!!」


仕方なく伊邪那美は、十握剣に己の霊力を込めて光線を受け止めた。だが、しっかりとチャージして放った一撃を、咄嗟に放った一撃で防げるはずはない。


「ぐああああああああああああ!!!!」


伊邪那美は十握剣もろとも、閃光の中に消えた。


「どうだ!!全力をぶち込んでやったぜ!!」


己の全ての力をつぎ込んだ必殺技を、二人で同時にぶつけた。もう立てるはずがない。今度こそ勝ったと勝利を確信するレイジン。



しかし、



「き・さ・ま・らぁぁぁぁぁァァァァァァァァァ…!!!」


伊邪那美は立っていた。先ほどよりはかなり大きなダメージを受けているようだが、これでもまだ致命傷ではなかったようだ。


「おい、ウソだろ?」


さすがのレイジンも、目の前の現実からは逃避したくなった。そう思った次の瞬間、


「八災雷!!!」


炎雷大神の力を回復させ終えた伊邪那美から強烈な一撃を喰らって、神田親子共々吹き飛んでいた。


「がはっ!!」


「ぐうっ!!」


「あっ!!」


三人は倒れる。


「この私相手に、よくここまで戦ったものだ。だが貴様らは、私を怒らせすぎた。いい加減死んでもらおう」


「ふざけんな!!まだ終わりじゃねぇぇぇぇぇぇ!!!!」


レイジンは起き上がり、スピリソードを振った。もうレイジンスラッシュや、ライオネルバスターを撃てるだけの霊力は残っていない。さっきの全力ライオネルバスターで、ほぼ全ての霊力を使ってしまった。だがそんな状況でも、使える攻撃方法が残されている。衝撃波だ。レイジンはスピリソードから、全力の衝撃波を飛ばした。街一つ吹き飛ばせる暴風が、伊邪那美に直撃する。


「俺を舐めんじゃねぇ!!俺はまだまだ戦え…る…」


レイジンの啖呵は、徐々に小さくなっていった。


「気は済んだか?」


あれだけの衝撃波を受けてなお、伊邪那美は悠然と佇んでいたからだ。


「う…うおおおおおおおおおお!!!!」


一瞬怯んだが、レイジンは諦めない。再度衝撃波を放つ。それに合わせて伊邪那美は十握剣を振るい、レイジンの衝撃波を上回る規模と威力の衝撃波を飛ばした。


「があああああああああああ!!!!!」


最後に残された攻撃手段でも押し負け、レイジンは転がる。


「か、廻藤さん…!!」


「う、うぐ…!!」


明日奈と吉江は呻いていた。











「そ、そんな…師匠が…!!」


三郎の力を借りて空中に映像を出してもらい、伊勢神宮の外から結界の中の様子を見ている賢太郎達は、伊邪那美の圧倒的な強さと結界内の惨状を見て、愕然としていた。


「あれが伊邪那美の力、ですか…」


「いくら何でも強すぎでしょ…どうやって倒せばいいのよあんなの…」


彩華も茉莉も空手を習っているだけあって、相手の実力を見切る戦術眼には長けている。そんな彼女達の目を以てしても、逆転の糸口が見つからなかった。何も効かない、攻撃力も桁外れとあっては、倒す方法など見つかるはずがない。


「…」


美由紀は、無言でスカートのポケットの中にある物に、手を伸ばした。




美由紀は昨日、明日奈からある物を渡されていた。


『これって…確か結界符、だよね…?』


そう、結界符である。


『結界の中には力で強引に破る他にも、結界を操ることによって入ることもできる。この結界符を使えば、結界の中に入れるんだ。』


『なるほど…でも、どうしてこれを私に?』


結界符に結界に干渉する力があるのはわかった。だがどうしてこれを自分に渡したのか、美由紀にはわからなかった。これではまるで、戦いの時自分に入ってきて欲しいとでも言っているかのようではないか。


『あたいは、人と人との魂の繋がり、縁っていうんだけど、これを見ることができるんだ。それであんたと廻藤さんの間に、ものすごく強い縁が見えた。当然伊邪那美との戦いの時、一緒にいてとは言わないよ?ただ縁は時として、予想ができないような力を生む。もしもの時、あの人を助けられるのはあんただけかもしれない。』


もちろん何の力もない美由紀を戦いに参加させるつもりはない。だが相手はあの伊邪那美だ。全力を尽くしても、勝てないかもしれない。そんな時、輪路と美由紀の縁が奇跡を起こすかもしれないから、保険として持っていて欲しいと結界符を渡したのだ。奇跡に頼るなど…と思うだろうが、これは神の力を宿す明日奈にとって、とても重要なことである。




美由紀のスカートのポケットの中には、あの時もらった結界符が入っている。


(そのもしもの時って、間違いなく今、ですよね)


戦いが始まった時から、美由紀はもう結界符を使いたかった。しかし、まだだまだだとこらえていたのである。美由紀は結界符を取り出すと、伊勢神宮を包む結界に向かって投げつけた。使い方は、昨日習っている。この結界符は結界に触れただけで発動する特別製で、時が来たら結界に向かって投げればいい。投擲された結界符は結界に貼り付くと、札全体が一瞬光って消滅し、人一人が通れるだけの穴を空けた。美由紀は穴に向かって駆け出し、穴を通り抜けた。


「篠原さん!?」


「篠原さん!!待って!!」


驚いた彩華と賢太郎も駆け出すが、二人が入る前に穴が閉じてしまい、入れなくなった。


「結界符か…いつの間にあんなもん持ってたんだ?」


三郎も驚いている。


「三郎!!僕達も結界の中に入れてくれ!!」


「馬鹿言ってんじゃねぇ!!ただでさえあいつだけでも足手纏いだってのに、お前らまで行ったら死ぬぞ!!」


賢太郎は三郎に自分達も結界に入れるよう言うが、三郎は拒否した。


「じゃあどうするのよ!?見捨てるっての!?」


茉莉も状況を理解し、焦っている。


「んなこと言ってねぇだろうが!!代わりに俺が入って、何が何でも連れ戻してくる!!」


三郎はそう言うと、結界に穴を空けて入っていった。




「輪路さん!!」


美由紀は伊邪那美が近くにいるのも構わず、レイジンのそばに駆け寄った。


「美由紀!?お前どうしてここに!?」


レイジンは驚いていたが、美由紀はその驚愕を無視してレイジンを見た。


「ひどい…!!」


今のレイジンの身体は、本当にひどいの一言だった。スピリソードは先ほどの攻撃で飛ばされたのかなく、レイジンの鎧はボロボロであちこち亀裂が入り、壊れかけている。聖神帝は霊力によって存在を維持しているので、霊力を完全に使いきってしまえば変身が強制的に解ける。今のレイジンはもう、いつ変身が解けてもおかしくない状態なのだ。こんな危険な状態でも、戦うことを放棄しなかった。伊邪那美に抗おうとしたのだ。


「何だお前は?どこから入ってきた?」


伊邪那美は突然現れた上に自分を無視している美由紀に、少々不機嫌そうに訊いた。美由紀は立ち上がり、両手を広げてレイジンの盾になる。


「この人は殺させません!!どうしても殺したいなら、代わりに私を殺して下さい!!」


「な、何やってんだバカ!!俺のことなんて気にしてねぇで、さっさと逃げろ!!」


「嫌です!!輪路さんこそ逃げて下さい!!」


美由紀は今、伊邪那美の前に立っているのが怖かった。しかし、今退けばレイジンは確実に殺されてしまう。彼を守りたい。そう思えば、死の恐怖に立ち向かうことができた。一方伊邪那美は、そんな様子が不快だった。今の美由紀とレイジンの姿が、夫を守ろうとする妻に見えて、昔の自分と伊邪那岐の関係を思い出したからだ。それが堪らなく不快だった。どうしようもなく腹が立った。だから、


「貴様などに、用はないわ!!」


その巨大な腕で、美由紀を強く払いのけた。


「きゃあっ!!」


「美由紀!!」


伊邪那美の怪力に払いのけられた美由紀は地面を何度も跳ねて転がり、近くにあった石灯籠に背中をぶつけて止まった。


「うっ…」


美由紀は気を失ってしまう。


「美由紀ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」


レイジンは美由紀が死んでしまったと思い、絶叫した。


「美由紀!!」


直後に三郎が飛来し、


「…よかった!!まだ生きてる!!」


美由紀が生きていると確認すると、回復の妖術をかけ始めた。


「ふん、死ななかったか。まぁいい、すぐ冥界に送ってやる。貴様を殺した後でな」


伊邪那美は美由紀を殺せなかったことを少し残念に思ったが、別にすぐまた殺せばいいと考え直した。どうせこの状況を変えられはしないのだ。レイジンを殺してから、ゆっくりと他の連中を皆殺しにすれば…



「てめぇ…」


などと悠長に考えていた時だった。レイジンは手を付きながら、起き上がった。怒っていることは声色から明らかである。


「よくも…よくも美由紀を…!!」


殺されたわけではない。気絶しただけだ。しかし、美由紀に手を上げた。これだけで、レイジンを怒らせるには十分だった。


「こ、これは…!?」


吉江は驚いている。霊力を操る巫女である彼女と、明日奈だからこそわかった。レイジンの怒りに呼応して、レイジンの霊力が上がっているのだ。


(そんな!!さっきまで廻藤さんの霊力は、なくなる一歩手前だったはずなのに!!)


尽きる寸前だった霊力が、凄まじい速度で上昇を続けている。明日奈であろうと驚かないはずはなかった。


「明日奈!!私達に残った霊力を全て廻藤さんに!!少しでも回復させるのだ!!」


「わかった!!」


吉江の指示で、明日奈はレイジンに霊力を渡す。彼女に残った霊力もわずかだが、ないよりはいいはずだ。吉江の分もあるので、かなり回復できるはずである。二人が力を貸したのもあって、レイジンの霊力はさらに上昇する。霊力の上昇に伴って、砕ける寸前だった鎧は綺麗に修復された。そして、


「うおおおおおおおあああああああああ!!!!!」


レイジンの怒りは頂点に達した。すると、レイジンの全身から白銀の光が溢れ出し、その光は真紅の炎に変わってレイジンの目の前に凝縮する。


「ぬぅっ!?」


伊邪那美は炎の激しさに顔を覆い、よろめきながら数歩下がる。やがて炎が消えた時、そこには手のひらよりも小さい、ひし形の赤い宝石があった。


「あ、あれはまさか…!!」


三郎は美由紀を治療しながら、宝石を凝視している。


「…ん…」


回復が進み、美由紀は目を覚ました。


「…何だこりゃ…?」


レイジンは突如として発生した謎の事態に、ひとまず怒りを忘れて困惑している。三郎は叫んだ。


「輪路!!それは霊石だ!!それを使え!!」


「霊石?これが…俺の…!?」


よくよく考えてみれば、この宝石はレイジンの身体から溢れた光が炎に変化して生まれた。光は霊力である。そして、霊力から生まれたこの宝石は、間違いなく霊石なのだ。


「…これが…霊石!!」


レイジンは右手で霊石を掴むと、握り潰した。その瞬間に手の中から炎が溢れ出し、レイジンの右腕にまとわりついて、その右腕を白銀から真紅へと変色させた。


「それが何だというのだ!!貴様がどのような力を手にしようと、この状況は変わりはせん!!」


伊邪那美は嘲笑い、雷神を使って攻撃してきた。


「はぁっ!!」


レイジンは真紅に染まった右腕を、伊邪那美へと向ける。すると、レイジンの手から渦巻く炎が発生し、雷を打ち破って伊邪那美に直撃した。


「ぐあああっ!!何だこの炎は!?まるで、迦具土の…!!」


伊邪那美はダメージを受け、自分の身体に燃え移った炎を払う。


「火の霊石。聖神帝の怒りから生まれる魂の炎が、固まって生まれたもんだ。」


「魂の…炎…」


美由紀は三郎の説明を聞き、呟く。予言にはこうあった。レイジンは火之迦具土のような激しい怒りで、魂の炎を燃え上がらせると。あれはこのことを示していたのである。



怒りが生んだ炎の力。その炎を右腕に宿し、邪悪を焼き払う。レイジンは今新たなる力を得て、火焔かえん聖神帝となったのだ!!


「っ?」


と、美由紀は気付く。自分の近くに、何かがある。スピリソードだ。伊邪那美の攻撃で吹き飛ばされたスピリソードが、同じく吹き飛ばされた美由紀のそばにあったのだ。なんという偶然か。美由紀は急いでスピリソードを拾う。


「輪路さぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」


拾って、レイジンに向かって投げた。レイジンは回転しながら飛んでくるスピリソードを、顔も向けずに右手で掴み取った。まるでそうなることが当然であるかのように、タイミングピッタリで収まったのだ。


「…レイジン、ぶった斬る。」


静かに、本日二度目の台詞を告げたレイジンは、伊邪那美に向かって斬りかかる。


「小癪なぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


怒る伊邪那美は、十握剣をもう一本生み出し、二刀流で迎え討つ。霊力を増し、力を増したレイジンにとって、もはや伊邪那美は敵ではなかった。二本の巨大な剣をやすやすと弾き、さばいて伊邪那美を斬る。


「死ねぇぇぇぇぇ!!!」


雷神で反撃する伊邪那美。


「はっ!!」


レイジンはスピリソードを持ったまま、伊邪那美に右手を向ける。すると、今度はスピリソードから渦巻く炎が生まれ、雷を破って伊邪那美を焼く。今までの戦いが嘘なように、簡単にダメージを与えられる。それもそのはず。伊邪那美は迦具土を産んだ時に負った火傷が原因で死んだ。だから、伊邪那美の弱点は火なのである。それだけではない。伊邪那美は冥界の亡者達の神、すなわちゾンビに酷似した存在だ。ゾンビの弱点もまた火であり、加えて聖なる力も弱点としている。火焔聖神帝の炎は、火と聖の二重属性。聖だけでは無理だったが、弱点が上乗せされた今なら攻撃が通るのである。


(明日奈…吉江ばあさん…)


レイジンは戦いながら、今回一緒に戦ってくれた明日奈と吉江のことを思った。自分の力を嫌いながら、精一杯悩んで協力してくれた明日奈。その彼女のことを思いながらも、老齢になるまで自分の使命を果たし続けた吉江。


(美由紀…三郎…)


そして自分を助けるため、危険を承知で飛び込んできてくれた美由紀。美由紀を助けるために来てくれた三郎。


(賢太郎…彩華…茉莉…)


何の力もないのに、それでも手伝ってくれた賢太郎と彩華と茉莉。負けられない。これだけの人々に支えられて、負けるわけにはいかない。負けるはずがない。


「決めるぜ。」


レイジンは右腕と、スピリソードに霊力を込めた。すると、スピリソードの刀身が発火する。


「ファイヤーレイジンスラァァァァァァァァァッシュッッ!!!!」


天高く跳躍し、新たな必殺技を放つレイジン。


黄泉神剣舞よもつかみのつるぎまい!!!」


伊邪那美も黙ってやられはしない。霊力を込めた十握剣を交差させ、レイジンを迎える。しかし、レイジンが再び全霊力を込めた魂の一撃は、十握剣を二本とも破壊し、伊邪那美を頭から斬った。レイジンが着地した瞬間、斬り口から大量の炎が沸き出し、巨大な火柱が伊邪那美を包み込む。


「うぎゃああああああああああああ!!!!!」


苦悶の絶叫を上げる伊邪那美。熱量も浄化力も、今までの数十倍だ。実際の温度に換算すれば、百万度といったところか。これだけの炎を浴びれば、さすがの伊邪那美も無事では済まない。完全に致命傷だ。


「ああああああ嫌だぁぁぁぁぁ!!!!二度も焼かれて死ぬなんて!!!こんな!!!こんなはずじゃなかったのに!!!!私は!!!私は!!!!私はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


炎に包まれて、焼かれながら叫び続ける伊邪那美。自業自得とはいえ、あまりにも哀れな姿だった。



その時、



「もう十分だ!!やめてくれ!!」



男性の声が聞こえた。


「この声…!!」


レイジンは思わず技を止め、変身を解く。今の声は、彼が夢で聞いた声だ。伊邪那美を包む炎は消え、焼け焦げた身体が崩れ落ちて、その後には元の大きさの美しい女性の姿が現れる。これは、伊邪那美の本来の姿だ。火焔聖神帝の炎は浄化の炎。伊邪那美の穢れた部分を焼き払い、元の美しい形へと作り替えたのである。そしてその伊邪那美の隣に、男性が現れた。伊邪那美は驚く。


「伊邪那岐!!」


そう。この男性こそ、伊邪那美の兄であり夫の神、伊邪那岐命である。


「い、伊邪那岐!?」


輪路は思い返す。よく考えてみれば、夢で聞いた声は私の妻と言っていた。あの声の主は、伊邪那岐だったのである。


「…今さら何をしに…!!」


伊邪那美は今まで全く姿を見せず、また今になってようやく自分から姿を見せた伊邪那岐に怒りをぶつける。


「すまなかった。」


そんな伊邪那岐が伊邪那美にかけたのは、謝罪の言葉だった。


「!?」


「…私はあの日、お前にしたことをずっと後悔していた。だが、私にはお前に謝る勇気も、お前を封印から解く勇気もなかった。」


自分があの時伊邪那美の姿を見なければ、逃げ出したりしなければ、伊邪那美にあんな思いをさせずに済んだ。そのことをずっと後悔していたのだ。そんなある時、伊邪那岐は予知夢によって、伊邪那美が復活する未来を見た。当然止めようとしたが、もう伊邪那岐には伊邪那美を止められるだけの力はなかった。信仰がなくなってしまったからだ。大部分の神は、信仰によって力を得ている。クトゥルフ神話の神のように、信仰を全く必要としない神もいるが、日本神話の神は信仰が必要なタイプだ。昨今の特殊能力の普及もあって、神を信仰する者がほとんどいなくなり、伊邪那岐の力はすっかり衰えてしまった。対する伊邪那美は、自分が治める黄泉の国の住人達から信仰を得続けているので、力が全く衰えていない。これでは敵わないと思った伊邪那岐は、伊邪那岐が産んだ神の中で最も力を持つ天照の力を持つ明日奈とその巫女吉江に予言を送り、また彼女達に一番近い場所に住んでいる聖神帝である輪路に、夢を通じて助けを求めたのだという。


「お前達もすまなかった。私の目的のために、ずいぶんと痛い思いをさせてしまったな…」


「い、いえ!!」


「滅相もございません!!」


明日奈と吉江は慌てて頭を下げる。


「…ったく…面倒なことさせやがって、神様ってのは面倒なんだな!」


「輪路さん!!」


神相手にも全く怯まない輪路。そんな輪路の態度に、美由紀は慌てていれ。


「…返す言葉もない。だが、よく戦ってくれた。本当に感謝している」


「…まぁ、霊石も手に入ったし、許してやるよ。」


だが感謝されるのは嫌いじゃない。輪路は伊邪那岐を許した。


「…本当に迷惑をかけたな、伊邪那美。だが、これからはずっと一緒だ。」


「…あなた…」


自分を受け入れてくれた伊邪那岐を、伊邪那美はうっとりと見つめている。


「明日奈、修行に励め。そうすればお前は、ここでなくても全力を振るえるようになる。どこでも自由に生きれるようになれる」


「ほ、本当ですか!?」


「ああ。」


伊邪那岐は明日奈に、彼女の力をどこでも自由に使えるようになる方法を教えた。


「廻藤輪路。そなたにはこれから、過酷な試練がいくつも訪れる。だが、試練は乗り越えられるものだ。決して退かず、逃げず、正面から挑め。」


「…言われるまでもねぇよ。」


次に輪路に、これから聖神帝として様々な試練が訪れることを伝える。


「それから、篠原美由紀、だったな。」


「えっ?は、はい!」


「そなたにも彼と同様、過酷な運命が待っている。しかし、それは廻藤輪路が解決してくれる。だから決して、彼から離れてはならない。」


「…はい!」


最後に美由紀にも、これからの運命について話した。きっと伊邪那岐は、予知夢で何かを見たのだろう。だが、美由紀は恐れていなかった。輪路から離れないでいることなど簡単だったし、離れようとも思ってはいなかったからだ。


「さぁ、行こう伊邪那美。彼ら人間の行く末を、我々神が邪魔してはいけない。安心してくれ、私はもう、お前を一人にはしないから…」


「はい、あなた。」


二柱の神は光の粒子となり、成仏していった。もう二度と、彼らが別れることはないだろう。この時を以て、予言は終了した。











「…ちっ!」


殺徒は伊邪那美が輪路を殺せなかったことを悔しく思い、舌打ちをした。


「あらあら、負けちゃったわね。まぁ所詮日本神話の神だし、もうちょっと強い神をけしかければよかったかしら。」


黄泉子も残念がっている。結局輪路を殺すことはできず、逆に成長させただけで終わってしまったのだ。


「ああカルロス。あなた、早くここから消えた方がいいわよ?殺徒さん今すごく機嫌が悪いから。」


「そ、そうさせてもらいます!!」


殺徒の怒りは、それはそれは恐ろしいのだ。以前殺徒が怒った時は、近くにいたリビドン百匹が一瞬で犠牲となった。

リビドンは一度死んでいるためそれ以上死ぬことはないが、存在を消す方法がいくつかある。そのうちの一つを使われ、リビドンが大量に消されたのだ。

殺徒の怒りを宥めることができるのは、黄泉子だけである。だから巻き込まれないようにと、カルロスは殺徒を黄泉子に任せ、素早く逃げた。


「…もう、そんなに怒らないの。」


「怒ってなんかいないよ。」


明らかに怒っている声で否定する殺徒。仕方ないとため息をついた黄泉子は、殺徒の顔をこちらに向かせ、キスをした。

黄泉子からのキスを受けて、タガが外れたように殺徒もキスを返す。深く、情熱的に、濃厚なキスを絡ませ合う二人。

やがてキスをやめた黄泉子は、殺徒の頬を片手で撫でながら言い聞かせる。


「元々今回の失敗は私に原因があるわ。でも、次は必ず成功させる。それで許して?ね?」


「許すも何も、黄泉子が悪いなんて思っちゃいないさ。それに、まだまだ時間はあるからね。」


黄泉子は悪くない。殺徒は黄泉子の頭を撫でながら言う。


「嬉しい。大好きよ、『隼人』さん。」


「僕もさ、『優子』。」


二人は互いに真の名を呼びながら、愛し合った。











ゴールデンウィーク四日目。休業期間が終わり、開店したヒーリングタイムのカウンター席で、輪路はアメリカンを飲んでいた。


「どうしたの輪路ちゃん?昨日からずいぶんと嬉しそうだけど。」


「ん?ちょっとな。」


輪路は誤魔化す。ずっと求めていた霊石が、やっと一つ手に入った。道のりはまだ長い。しかし、昨日明日奈が別れ際に言った言葉が、輪路にやる気を呼び起こしていた。


『あたい、寮をやめてこっちに戻るよ。それで、頑張って修行する。いい加減、目を背けるのも終わりにしなくちゃね。』


いずれ明日奈は、どこでも全力で力を使えるようになる。そうすると、彼女自身が決めたのだ。彩華達も今までと変わらず、明日奈の友達でいると言ってくれた。彩華が明日奈と友達になろうと思った理由は、明日奈の周りを避けようとする性格を治したかったからだ。明日奈は勇気を出し、自分の力と向き合う決意をした。


(俺も頑張らなくちゃな)


輪路もまた、今より強くなるという決意をした。もう二度と、美由紀を危険な目に遭わせないために。そう決意して、輪路はアメリカンを飲んだ。











どこかの部屋。そこには、高校生くらいの少女がいた。


「翔。」


「は。」


その目の前には一人の青年がいて、膝をついている。


「あなたにやってもらいたいことがあります。」


「何なりとご命令を。」


翔と呼ばれた青年は応え、少女は命令を下す。


「秦野山市という街に行きなさい。そこには、廻藤輪路という、廻藤光弘の子孫がいます。」


「廻藤光弘の、子孫…」


「そうです。彼に会って見定めなさい。彼が、討魔士に相応しい存在かどうか。」


「…かしこまりました。」


翔は了承した。





いかがでしたでしょうか?詳細は、近々執筆する座談会にて。では!

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