レイジンvsイザナミ!!ゴールデンウィークの死闘 PART2
今回はいよいよ、シャトルさんがアイディアを送って下さったキャラクターが登場します!
鈴峯道場。普段は大勢の門下生で賑わっているこの場所も、さすがにゴールデンウィークとなれば誰もいない。いるのは、この道場を開いている両親の娘姉妹と、その二人の幼なじみ。そして、姉妹の姉の方の友人の四人だけだ。四人とも、輪路の到着を待っている。しばらくして、
「遅くなったな。」
輪路が道場に上がり込んできた。
「師匠!」
賢太郎達三人が、輪路を迎える。
「ゴールデンウィーク中に悪いな。どうしても会わなきゃいけねぇ相手がいたんだ」
輪路は、道場の真ん中に仏頂面をして立っている、ツインテールの女子高生を見つけた。
「お前が、神田明日奈、だな?」
「そうだけど、あんた誰?」
女子高生は肯定した。この少し目付きの鋭い彼女が、天照大神の力を持って生まれた少女、神田明日奈である。
「俺は廻藤輪路。さっき伊勢神宮に行ってお前のお袋さんに会ってな、全部聞いた。お前、天照の力を持ってるんだろ?」
「えっ!?」
「天照!?」
「それって日本神話の!?」
驚く賢太郎達。明日奈は別に変化はなく、ただ輪路を睨み付けていた。
「…その話を知ってまだあたいに話し掛けてきたってことは、もしかしてあんたその道の関係者?」
「関係者って言ったらまぁそうだな。ド素人も同然だが」
「へぇ…で、あたいに何の用?」
「もうすぐ伊邪那美が復活するってんでな、何とかしたいんだが俺一人じゃ無理そうなんだ。それで、お前の手を借りに来た。」
「驚いた…それで神田先輩に会いたかったのね…」
茉莉はようやく、輪路が明日奈を呼び出した理由を理解する。
「もしかして、お前も感じてるんじゃねぇのか?伊邪那美の復活をよ。」
「…ああ感じてるよ。もっとも今は復活したばっかりだから、すぐには仕掛けてこない。今日から数えて、あと三日。それで力を取り戻して現世に攻めてくる」
輪路は日本神話の神の力を持っているのだから、伊邪那美の復活を感じているのではないかと思っていたが、当たりだったようだ。
「でもそれが何?あたいはあんたに協力したりなんかしないよ。」
だがそれがわかった上で、明日奈は協力しないと言った。
「伊邪那美がこっちに出てきたらどうなるかわかってんのか?大勢死ぬんだぜ。」
「もちろんわかってるよ。」
「じゃあ何で何もしないんだ?」
「関係ないからさ。」
「関係ねぇってこたねぇだろ。お前、彩華と友達なんだってな?このままだと彩華も殺されるぞ。」
頑なに協力を拒否する明日奈。しかし伊邪那美が降臨すれば、日本は滅んでしまう。そうなったら彼女の友人である彩華も。輪路はそう諭すが、
「関係ないんだよ。あたいは誰にもそばにいて欲しくないのに、彩華はいつもいつもあたいに付きまとってきてさ…そんな自称友達なんかどうだっていいんだよ」
「ちょっと、そんな言い方ないんじゃないですか?あたしのお姉ちゃんに向かって。」
茉莉は珍しく怒る。熱血で、走り出したら止まらない。ついていくのに苦労する女だが、大好きな姉だ。姉に対して暴言を吐くような真似は、許せなかった。
「いいんですよ茉莉。私が好きでやってることですから」
「お姉ちゃん…」
「…明日奈さん。私のことはどうなっても構いません。ですが、茉莉と賢太郎くんだけは守って下さい。二人を守るために、どうか廻藤さんに協力して下さい。お願いします!」
彩華は頭を下げた。
「…」
明日奈は無下に断ることができないのか、黙っている。疎ましく思っている相手だが、こう言われると弱い。
「ここまで言ってんのにまだ動かねぇつもりか?お前のお袋さんだって、お前のこと心配してるんだぞ。」
「…」
再び説得を始める輪路。明日奈はまだ黙っている。答えがない。
「お前は自分の力を嫌ってるみたいだが、今はその力が」
「うるさい!!」
なおも説得しようとした時、明日奈が吼えた。そしてその瞬間、
「うおっ!?」
見えない巨大な何かがぶつかり、輪路は後ろに吹き飛ばされた。木の床の上をゴロゴロと転がり、道場の外へ、縁側へと落ちたところで、ようやく止まる。
「な、なななな、何だ今の…しょしょ衝撃波みたいなものががが…!!」
「賢太郎くん!!」
「ごふっ!!」
突然の出来事に発狂した賢太郎だが、茉莉の蹴りを顔面に喰らって正気に戻る。
「痛ててて…」
輪路は這いながらもどうにか起き上がり、道場に戻ってくる。
「そ、それがお前の力か…」
「念力だよ。けど今のはほんの一部だ。まだあたいを誘ってくるってんなら、もっと威力を上げてぶつけるよ。」
明日奈は天照の力の一端を発現させ、念力で衝撃波を生み出し、輪路を吹き飛ばしたのだ。
「力は使いたくないんじゃなかったのか?」
「そうだよ。だから使わせないで」
己の力を嫌悪している明日奈。だから何があっても、何が起きても知らんぷりで、どんな状況でも力を使わないと決めている。だが、自分に危害を加えようとする相手が現れた時は別だ。そういった相手は、自分が嫌いな力を使ってでも叩き潰す。自分を、自分が嫌いなあの神社に連れ戻そうとする輪路を、二度とそんな気が起きないように、叩き潰す。もしまだ何か言ってくるようなら、そうしよう。明日奈はそう思った。本当なら、そういった目的でも使いたくはない。これは本当に最終手段だ。だから、だから使わせないで。そう願う明日奈。しかし、
「…やれよ。俺はそれでも、お前を連れ戻す。」
輪路は折れなかった。
「…!!」
だからさっきよりも大きさと威力を上げて、念力で衝撃波をぶつけた。
「ぐっ!!」
周りの壁や床が陥没するほどの大きさとパワーだ。しかし輪路は木刀を抜くと衝撃波を受け止め、踏ん張って耐えた。
「悪いな彩華、茉莉。けど大丈夫だ。ここはもう、三郎の結界の中だからな。壊れたように見えてるが、道場は壊れてねぇ。」
輪路はこうなることを想定して、三郎を外に待機させていた。何かあったら結界を張るようにと。
「廻藤さん!!」
「師匠!!」
道場なんてどうでもよかった。それよりも、輪路の命の方が大事だ。駆け寄ろうとする彩華と賢太郎。
「来るな!!」
だが輪路は叫んでそれを制する。茉莉は二人の肩を掴んだ。
「ここは廻藤さんに任せましょう。元々、あたし達にはどうにもできない話だし…!!」
茉莉は姉と幼なじみが、この戦いに巻き込まれることを恐れていた。鍛えてはいるが、レイジンに変身できる輪路とでは耐久力が全く違う。明日奈の攻撃を受けたら、ひとたまりもない。
「お前もここが結界の中だってわかってたから、こんだけおもいっきりやったんだろ?だがまだまだ。こんな程度じゃ、俺は倒せねぇぜ。」
「うるさいって言ってんだろ!!」
再度衝撃波をぶつける明日奈。先ほどよりもさらに大きい。だが輪路も受け止める。
「どうした!!こんなもんか!?お前が嫌ってる力ってのも、大したこたぁねぇな!!」
「黙れ!!これでもあたいはまだ本気じゃないんだ!!それにここは伊勢市でもない!!あたいの力は、半分以下まで落ちてんだよ!!あんたが生きてられんのは、場所がよかったからってだけだ!!」
「お前が本気を出してないから、でもあるだろ?俺を黙らせたかったら本気を出せ!!全力を出せ!!叩き潰して黙らせてみろ!!」
「くっ!!黙れ黙れ黙れぇぇぇ!!!」
激怒した明日奈は両手を前に向ける。すると、明日奈の周囲に無数のエネルギー弾が発生し、輪路に向かって飛んできた。それに衝撃波も織り交ぜてくる。
「ちぃっ!!」
輪路はそれらの攻撃を、全て木刀で防ぐ。明日奈は攻撃を続ける。輪路も防ぎ続ける。
「どうして…どうして!!どうしてあたいにあたいの力を使わせるんだよ!!こんな、自分でも自由が利かない力をさ!!嫌がらせかよ!!嫌がらせでやってんのかよ!!」
明日奈は輪路に攻撃しながら、怒りをぶつける。彼女の力は、伊勢市でしか全力を発揮できない。それ以外の場所では出力が半分になり、伊勢市から離れれば離れれるほど落ちる。自分の意思で100%コントロールするということができないのだ。子供の頃に比べればかなり使いこなせるようになったが、力が落ちるということは変わっていない。
「…そんなに嫌か。自分の力が」
そのうち、輪路は明日奈に訊いた。その疑問は、彼女の怒りにさらに火を点けることとなる。
「嫌に決まってんだろ!!こんな力!!あの街でしか使えない!!あたいはあの街に縛り付けられてんだ!!天照の使命!?そんなの知るか!!あたいの生き方はあたいが決める!!しきたりや使命なんて、そんな名目で決められた道なんか歩きたくない!!あたいは自由に生きたい!!」
自分の想いを、攻撃とともにぶつける明日奈。輪路はそれを、木刀を使ってひたすら耐える。
「特別な力なんていらない!!普通でいいんだ!!普通の人間として生まれたかった!!なのに、なのに…何であたいばっかり…こんな…!!」
いつしか明日奈は攻撃をやめ、泣き出してしまった。
「あたいはもう…うんざりなんだよ…!!」
座り込んで涙を流す明日奈。特殊能力の研究、開発が進められるこの世界においても、彼女のように能力を望まない者もいる。何の力もない真っ当な人間として生まれることを、望む者もいるのだ。
「…俺もだよ。」
「…えっ…?」
輪路から声を掛けられ、顔を上げる明日奈。
「俺はな、ガキの頃から幽霊が見えるんだ。あの頃は本当に、この力が嫌で嫌で仕方なかった。」
輪路は、自分の意思で幽霊を見る力のオンオフができない。だから見たくない幽霊を見る羽目になったり、周りの人間に避けられたりもした。この力のせいで、数え切れないくらい何回もひどい目に遭ってきた。
「けどな、ある幽霊が教えてくれたんだよ。自分の力から目を背けてたって、何の解決にもならねぇんだってな。」
*
それは、まだ輪路が小学三年生だった頃のこと。輪路は家への帰り道、一人の女性を見つけた。既に幽霊は見慣れていたので、感覚で女性が幽霊だとわかった。それに怖くも何ともない。ただ、
「またか…」
と思った。いや、呟いた。もう見たくない。幽霊なんか見たくない。そんな気持ちが言葉になったのだ。
「何で見えるんだよ…見たくなんかないのに…」
しかし、いくら見たくないと思っても、見えなくすることはできない。何度も試したが、無理だった。だから愚痴る。見たくないと、ひたすら愚痴る。
「ねぇ。」
女性の幽霊が話し掛けてきたのは、そんな時だった。輪路の大きすぎる独り言が聞こえたのだろう。間近に来たことでわかった。女性は、夢咲高校の制服を来ていた。この頃の輪路はまだ知らなかったので、高校生くらいだと認識する。
「君、私が見えるの?」
女性は輪路が自分の姿を見ていることに、かなり驚いているようだ。もっとも輪路としては、幽霊を見ることは日常茶飯事だったので飽きているし、驚きもしない。
「…見えるよ…」
だから、かなりなげやりに答えた。相手が年上だろうと関係ない。幽霊なんてみんな同じだ。そう思っていたから。と、
「お願い!手伝って!」
「えっ?」
突然そう言われて、輪路は呆気に取られてしまった。
それから輪路は、女性と話をした。彼女の名は、愛川沙弥。二年前、父への誕生日プレゼントを渡そうと家路を急いでいた途中で、交通事故に遭って死んだのだという。それからずっと父にプレゼントを渡せなかったこと、母に心配をかけてしまったことを謝ろうとしていた。だが幽霊は一般人には見えないし、声も聞こえない。触れることもできない。しかしこの未練を晴らすまでは成仏することもできないので、八方塞がりでどうすることもできず、ずっとこの街をさまよっていたのだという。
「君に私の気持ちを、父さんと母さんに伝えて欲しいの。」
「…別にいいけど…」
「ありがとう!君が素敵な力を持っていてくれてよかった!」
沙弥は喜んでいる。自分の想いを伝える手段がようやく見つかって、嬉しいのだ。だが輪路は、あまり嬉しくなかった。
「…よくなんかないよ。俺、この力のせいでみんなに避けられて、いじめられて…こんな力、大嫌いだ。」
素敵な力。沙弥にそう言われたのが気に入らなかった。この力のせいで今まで散々な目に遭ったのだ。断じて素晴らしい力などではない。この力を知ってなお彼を避けなかったのは、美由紀と輪路の母だけだ。
「…すごく嫌な思いをしてきたんだね。」
「うん。嫌な思い出しかない」
「だけど、自分の力から目を背けてたって、なんにもならないよ?それは君の力なんだから。」
「…」
確かにそうだ。この力は捨てたくても捨てられない。捨てる方法がない。なら、向き合うしかない。でも向き合いたくない。そう思っていた時、
「輪路さん!」
「美由紀…」
美由紀が駆け寄ってきた。
「あれ?君ガールフレンドがいたの?」
「そんなんじゃねぇよ…」
輪路に親しげに話し掛けてきた美由紀を見て沙弥は勘違いをし、輪路は嫌そうに顔を背ける。
「輪路さん?」
美由紀には沙弥が見えないので、輪路が独り言を言っているようにしか見えない。仕方ないので、輪路は面倒だと思いながらも沙弥のことを、これから沙弥の両親に会いに行くということを教える。
「じゃあ、その沙弥さんっていう人を、助けるんですか?」
「…そうなるな。ったくめんどくさい…」
「めんどくさいってことないんじゃないの!?」
「めんどくさいから言ってるんだよ。何で俺がこんなこと…」
「君って生意気な上に毒舌だね…まぁ頼れる人が君以外いないから仕方ないんだけど…」
「お前も結構嫌なこと言うよな。」
口論を始める輪路と沙弥。他人から見れば、輪路が一人で怒っているようにしか見えない。というか、年上相手におもいっきりタメ口である。
「わ、私も行きます!」
そんな口論に割り込む形で、美由紀が同行を申し出てきた。
「別にいいけどさ、面白くも何ともねぇぞ?」
「行きますっ!」
「…そんなに言わなくても…まぁいいや、行こうぜ。」
美由紀の強い『押し』に負けたこともあって、輪路は彼女の同行を許した。沙弥に道を教えてもらいながら、沙弥の家を目指す。ちょっとした冒険みたいで、輪路は少し楽しかったりした。美由紀も同じことを感じていたようで、冒険らしく輪路から離れないよう、輪路の手を握っていた。沙弥はそんな二人を、ニヤニヤしながら見ている。
「…何だよ?」
「べっつにぃ~?」
輪路は少し腹を立てたが、沙弥は教えない。さすが年上。こういうことでは敵わない。
しばらくして、三人は沙弥の家にたどり着いた。もう夜だ。辺りはすっかり暗くなってしまっている。子供の足では到着に時間がかかってしまうのも仕方ない。輪路は呼び鈴を鳴らし、沙弥の母に出てきてもらう。
「どなたかしら?」
初対面の輪路と美由紀に、出てきた女性は少し戸惑っているようだ。
「母さん…」
二人の隣で、沙弥が静かに呟く。やっと、自分の想いを伝えることができる。彼女も緊張していた。だが、彼女の呟きも、彼女の緊張感も、母には伝わっていない。輪路はそれを意識しながらも、沙弥の母に自分達が来た理由を話す。
「…あのね、幽霊なんてこの世にいないの。どうしてあなたが沙弥のことを知ってるのかはわからないけど、あんまり私をからかわないで。」
しかし沙弥の母は輪路の言っていることを信じなかった。と、
「どうしたんだ?今、沙弥がどうとかいう話が聞こえたんだが…」
沙弥の父も出てきた。母は父に、輪路達が話したことについて話す。
「悪いが帰ってくれ。いくら子供でも、私達の娘を馬鹿にすることは許さない。」
父はかなり怒っている。娘が幽霊になってさまよっている、などという馬鹿げた話を聞けば、誰だって怒るだろう。
「どうして!?私は目の前にいるのに…」
沙弥は悲しんでいる。その顔には、やはり無理だったかという落胆の色も見て取れた。
「どうしましょう輪路さん…」
美由紀は輪路を見る。輪路だって、どうしたらいいかわからない。
(この人達にも見えたらいいのに…)
と思うくらいが関の山だった。
その時、
「…沙弥…?」
沙弥の母が、輪路の隣に立っている沙弥を見て言った。
「何を言ってるんだ。お前まで…え…沙弥…?」
沙弥の父も、沙弥の存在に気付く。
「え?見えるのか?」
輪路も驚いていた。
「り、輪路さんっ!!私にも見えますっ!!この人が沙弥さんなんですね!?」
美由紀にも見えているようだ。
「あ、ああ…」
「輪路さん何したんですか?」
「いや、他の人にも見えたらいいなって…」
ただ、そう思っただけだった。本人に自覚はなかったが、沙弥との触れ合いによって輪路の霊力が成長し、幽霊に自身の霊力を分け与えて実体化させるという技が使えるようになった瞬間だった。
「沙弥…お前…死んだんじゃ…」
「…死んだよ。でもね、父さんに謝りたくて、ずっとこの街にいたの。誕生日プレゼント、渡せなくてごめんなさい。母さんも、心配させてごめん。死んだりしてごめんなさい」
「沙弥…」
沙弥は二人に謝る。沙弥の父は沙弥へと手を伸ばした。震えている。沙弥もそれに合わせて、手を出す。触った。触れ合った。
「「沙弥!!」」
「父さん!!母さん!!」
三人は泣いて抱き合う。やっと通じた。やっと、届いた。輪路が届かせたのだ。
「二人とも、ありがとう。やっと私、成仏できるよ。」
自分の未練を晴らしてくれた輪路と美由紀に、沙弥は礼を言う。二人とも、少し照れくさそうだ。
「それから、もう一度言うね。君の力は、やっぱり素敵だよ。君にこの力があったおかげで、私は救われたんだから。」
「…俺…」
「本当にありがとう。さよなら、輪路くん。」
「…ああ、どうか元気で。」
光となって消えていく沙弥に、輪路は精一杯のエールを送った。
*
「それ以来、大嫌いだった自分の力が、少しだけ好きになったんだ。俺でも誰かの役に立てる、助けられるってわかったんだからな。」
この出来事を通して、輪路は自分の力が何のためにあるのかを知った。伝えるべき想いを伝えられないまま死んでしまった者。その想いを届けるために、この力はあるのだと。今まで何をやっても失敗ばかりで、人に疎まれることしかなかった自分が、ようやく誰かの役に立てたのだ。沙弥のありがとうが嬉しかった。彼女の想いが、自分の力と向き合う勇気をくれたのだ。
「お前の力だって、何の意味もなくあるわけじゃねぇはずだ。天照の巫女は、人を守るためにいるって聞いてるぜ。お前の力は、人を守るためにあるんじゃねぇのか?」
輪路は明日奈に問いかける。何のための力か、それを知る時ではないのかと。
「いつまで自分の力から目を背けてるつもりだ!?」
「…あたいは…」
明日奈は答えられない。わからないから、答えられるはずがない。その時だった。
(輪路!!気を付けろ!!そっちに何か行ったぞ!!)
三郎がテレパシーで、輪路に何か伝えてきた。間もなくして、
「見つけた…」「こいつだ…」「廻藤輪路…」
恐ろしい顔をした女性の怪物が何体も現れ、輪路達を取り囲んだ。
「何だこいつら!?」
驚く輪路。明日奈は教える。
「黄泉醜女!!伊邪那美の使いだよ!!」
黄泉醜女とは黄泉の国に住む鬼であり、ひと飛びで何千kmも走れるというとてつもない速度を持つ怪物だ。日本神話には伊邪那美が逃げる伊邪那岐を捕らえるため、無数に放って追わせたと伝えられている。
「伊邪那美も黙っちゃいねぇってわけか…賢太郎!!彩華!!茉莉!!明日奈を連れて隠れてろ!!」
「「はい!!」」
「はぁ…人使い荒いんだから…!!」
輪路の命を受け、賢太郎と彩華は素早く、茉莉も文句を言いながらではあるがしっかりと、明日奈の安全を確保する。黄泉醜女達は輪路以外興味がないのか、四人を無視して輪路に襲い掛かった。輪路は先走って襲ってきた黄泉醜女四匹を木刀で打ちすえ、明日奈に言う。
「明日奈!!お前はいい加減自分の力と向き合え!!いくら弱めたって、消えるわけじゃねぇんだろ!!だったら真正面から向き合うしかねぇ!!その上で自分がどうしたいか考えろ!!」
黄泉醜女と戦いながら言う輪路。だが黄泉醜女は鬼なので、普通の人間より遥かに耐久力が高い。だから木刀で殴っても向かってくる。
「神帝、聖装!!」
輪路はレイジンに、邪を討つ存在へと変身した。
「あれは…聖神帝!?」
明日奈は吉江から聞いたことがあった。天照の巫女以外にも、この世界を邪悪な存在から守っている人間はたくさんいる。そのうちの一つが、聖神帝。特に銀の獅子王型を発現させた者は過去に一人しかおらず、全ての命を守るというとてつもなく大きな使命を背負って戦ったそうだ。それと同じ力を持つということは、人間だけでなくこの星、いや、宇宙にまで関わるほどの使命を背負っているということに他ならない。
「あの人…あたいよりずっと大きい使命と力を…」
明日奈は黄泉醜女相手に無双を繰り広げるレイジンを見て、呆然と呟いた。
「師匠はすごい人ですよ。自分では卑下してますけど、立派な人です。」
賢太郎は誇らしげに言った。輪路の過去を初めて知ったが、やはり師匠と呼ぶに値する存在だった。こんな男だから、自分は慕ったのだと。
「どうか廻藤さんの言葉の意味を考えて下さい。明日奈さんは今、どうしたいんですか?」
「もう高校生になったわけですし、逃げるのはおしまいにした方がいいと思いますけど?」
彩華と茉莉は、明日奈を説得しようとする。明日奈の本心は、
「あたいはこの力を…好きになりたい…!!」
自分の力を好きになりたいということだった。自分の力なのに自分で制御ができないが、自分の一部であるということは疑いようのない事実なのだ。なら好きになりたい。少なくとも、嫌いなままではいたくない。誰も傷付けず、しっかり使いこなしてたくさんの人を守りたい。それが明日奈の本心なのだ。
「レイジンスラァァァァァァァッシュッ!!!」
目の前の黄泉醜女をレイジンスラッシュで斬り捨てるレイジン。
「ガァッ!!」
その背後から、別の黄泉醜女が鋭い牙で噛みつこうと襲い掛かった。しかし、
「はっ!!」
明日奈が右手から放った光線を受けて、跡形もなく消滅する。
「あたいも戦う!!」
「そうこなくちゃな!!」
それから二人は大暴れし、黄泉醜女は残り一体となった。しかし、レイジンは最後の一体を倒さず、言い放つ。
「帰って伊邪那美に伝えな!!伊勢神宮で待ってるから、寄り道せずまっすぐ来いってよ!!」
レイジンはこの黄泉醜女を、伊邪那美へのメッセンジャーとして使うつもりなのだ。
「ウウウ…!!」
黄泉醜女は悔しそうにしながらも大人しく従い、走り去っていった。
「さっきは助かった。礼を言うぜ」
レイジンは変身を解く。彼が明日奈に会いに来た理由は、単純に協力を求めてだけではない。己の力に嫌悪感を覚えた者として、激を飛ばしに来たのである。生きている人間には基本無関心だが、非道を行う者には正面から立ち向かうし、同じ苦しみを抱えた者には共感することもあるのだ。
「…あんたが一生懸命自分の力と向き合ってるところを見たら、あたいにもできそうな気がしたんだ。」
誰かの想いと行動は、誰かの心を動かす。輪路は沙弥を、明日奈は輪路を見て、互いに心を動かされた者だった。元々、引っ掛かりはあったのだ。先ほど黄泉醜女について輪路に教えたのも、勉強したからだった。天照の巫女として生きることに耐えられず逃げ出したが、その使命を捨てきることもできなかった。
「じゃ、やることは決まったな。」
「うん。あたい、戻るよ。自分の家に!」
消えかけていた使命感に火が点き、明日奈は伊勢神宮へと戻る決意をしたのだ。
「僕達も行きます!」
「私達も!」
「ここまで首突っ込んじゃったらねぇ…個人的に興味もあるし。」
賢太郎達も手伝ってくれるらしい。これで協力者は得た。あとは、伊邪那美を倒すだけである。
*
「なるほど、面白いではないか。神に挑発を仕掛けるとは」
黄泉の国。戻ってきた黄泉醜女から報告を受けた伊邪那美は、笑っていた。いや、顔は笑っているが、明らかに怒っている。
「いい度胸だ。ぜひとも殺してみたくなったぞ、廻藤輪路よ。」
元々日本の人間は皆殺しにするつもりでいたが、これで最初に殺す相手を誰にするかは決まった。輪路だ。輪路を最初に殺す。久々に沸き上がった殺意を、オーラに変えて全身から放出する伊邪那美であった。
設定に大幅な改変が入りましたが、いかがでしたでしょうか?次回はいよいよ、伊邪那美との対決です。




