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レイジンvsイザナミ!!ゴールデンウィークの死闘 PART1

今回から、レイジン初の長編です。ちょっと早いかな?と思いましたが、思いきって、張り切っていきます!それから、この長編にはシャトルさんがアイディアを送って下さったキャラが登場します。シャトルさん、ぜひ見て下さい!

「…?」


気が付くと、輪路は何もない場所にいた。辺り一面真っ白で、誰もいない。


「何だここ?いつの間に…」


確か部屋に戻って寝たはずだったのだが、本当にいつの間にこんな所に来たのだろうか。すると、


「あなたに頼みがある。」


どこからともなく声が聞こえてきた。


「誰だ!?」


輪路は訊くが、声の主は構わず続ける。


「伊勢市に行ってくれ。伊勢神宮に、神田かんだ吉江よしえという老婆がいる。彼女に会ってくれ…」


「は!?何言ってんだ!?お前一体…」


「彼女に会って、私の妻を、止めてくれ…」


声の主は一方的に話を切る。




「!!」


輪路はベッドから起き上がった。


「…夢…?」


どうも夢を見ていたらしい。


「…」


しかし、今見ていた光景が、声の主が言っていたことが頭から離れなかった。











伊勢市、伊勢神宮。


「…はっ!!」


神宮内で一人、無数の燭台に囲まれて祈祷を行っていた老婆は、その内の一つの前に置いてあった一枚の紙を見た。紙は和紙で、白紙だ。いや、白紙だった。染み一つない白紙だったのだが、今はびっしりと無数の文字が書かれている。さっきまでこんな文字はなかったはずだ。が、老婆にとってこれは日常茶飯事なことだったので、このことにはさして驚いていない。


「これは…!!」


驚いたのは書かれていた内容だった。











「冥界の神を復活させる?」


殺徒は黄泉子に聞き返した。


「ええ。現世のとある神に憎悪を持つ神、伊邪那美命いざなみのみことをね。」


「なるほど…」


殺徒は内心かなり驚いていた。確かに輪路は厄介な存在であるが、まさかその排除のために伊邪那美命を使おうとするとは思っていなかったのだ。


「まさか止めたりしないでしょ?」


「止めない止めない。ただ、相手は正真正銘の神だ。気を付けて行くんだよ?」


「もちろん。それじゃ、行ってくるわ。」


黄泉子は冥魂城から出発し、殺徒はそれを見送った。


「…さすが、僕が見込んだ女性だよ。黄泉子」


殺徒はとても嬉しそうだった。











「なぁ美由紀、マスター。変な夢見たんだけどよ」


輪路は眠気覚ましのコーヒーを飲みながら、自分が見た夢の話をしていた。


「伊勢神宮に?」


「ああ。」


「じゃあ行ってきたら?今ゴールデンウィークだし。ま、輪路ちゃんはいつも暇なんでしょうけど。」


佐久真は行くよう勧めた。今日はゴールデンウィークの一日目である。ヒーリングタイムは、その内最初の三日は休みなのである。


「まあな。言われなくてもそうするよ」


「私も行きます。」


だから、美由紀も外出できる。伊勢市は秦野山市の隣街であり、丘沢峠を越えた先にある。輪路のバイクで行けば、一時間もかからずに着く。輪路は三郎を呼び出し、バイクの後ろに美由紀を乗せると、伊勢神宮に向かって出発した。


「でも、一体誰がそんなこと言ったんでしょう?」


「もしかして、お前がいつも聞いてるっていう声か?」


走りながら、美由紀と三郎が訊いてくる。ちなみに、三郎は飛んでいる。バイクより三郎が飛んだ方が速いからだ。


「…いや、俺が聞いてる声とは、声質が違っていた。別人だ」


輪路に伊勢神宮に行くよう言った何者かは、いつも窮地に陥った時に導いてくれた、あの声の主とは別の声だった。しかし、それも伊勢神宮に行けばわかるかもしれない。いつもの声と違うのが少し気になるが、まぁわかるならわかった方がいい。輪路はバイクを走らせた。











冥界。

黄泉子は双剣を腰に携えて、とある場所に来ていた。彼女の前には巨大な岩が置いてあり、道を塞いでいる。黄泉子は口の端をわずかに吊り上げ、双剣を抜く。


次の瞬間、黄泉子の腕が消えた。



そして再び現れたと同時に、大岩が粉々に砕け散った。岩を斬り刻んだ黄泉子は、開けた道へと歩みを再開する。




岩の先にあった坂をしばらく降りて、その先へ先へと進む。やがて、先ほどの岩の数十倍以上ある大きさの、宮殿が見えてきた。黄泉子は躊躇うことなく宮殿に入り、上を目指す。そして、最上階。一番奥の部屋の扉を開けると、


「誰だ?」


女性の声が聞こえた。黄泉子は部屋の中に入り、膝を折って頭を下げる。


「私は黒城黄泉子。あなたの封印を解いた者です。伊邪那美様」


「ほう、お前か。この私と、黄泉の国の封印を解いたのは。」


黄泉子の前にいたのは、身体のあちこちが腐敗し、雷のようなものがほとばしっている女性だった。このおぞましい姿をした女性こそ、冥界の神の一柱。黄泉の国の支配者、伊邪那美命である。











伊勢神宮にたどり着いた輪路達。有名な神社の一つだが、今ここに、客は一人もいない。というのも、第三次世界大戦から五年の歳月をかけて、特殊能力が普及してきたからである。炎や水を操る。なかったはずの物を生み出す。あり得ない事象を実現させる。そういった特殊能力の研究は、世界中で百年近く前から進められてきた。だが社会的に大きな意味を持つほどまで普及してはおらず、研究に必要な資材や予算もあまり割けなかった。特殊能力を会得できる者も限られていたし、詳しい人間や興味のある者、いわゆるマニアが存在を知っていた程度だったのだ。



しかし、ある科学者が特殊能力の研究について、非常に意欲的に取り組んでいた。



その名はエドガー・サカウチ。あらゆる部門において様々な革命的功績を残し、政界にも大きな影響力を持つ男だった。



世界中の大統領や重役に顔が利き、また弱みも握っていたため好きに資材や予算を引っ張り出せた。おまけに自分が研究を行い易い実験場として、ヘブンズエデンという傭兵育成学園まで作ったのだ。そうやって生み出したデータを世界中の能力研究機関に提供した結果、特殊能力者の数は飛躍的に増え、特殊能力者専用の競技大会まで行えるようになった。加えて、第三次世界大戦を終結へと導いたのが、ヘブンズエデンから派遣された訓練生達だった。これにより特殊能力の研究がさらに見直され、世界中からも大きな注目を浴びるようになり、社会貢献へと役立てられるようになっていったのである。それと有名な神社に客が来なくなるのとどういう関係があるのかというと、それは存在の必要性だ。なぜ神社や寺に客が来るのか?観光目的、というのももちろんあるだろう。だがほとんどの場合、神社や寺を通じて願掛けを行い、望みを叶えてもらうためだ。いわゆる、困った時の神頼みというやつである。しかし、特殊能力者になることによって、大抵の望みは叶えられるようになった。客は自分の欲望を、自分で満たせるようになったのである。こうなると受験合格や就職の内定など、特殊能力ではどうにもならないこと以外で、神社や寺に願掛けをしに来る者は極端に少なくなる。で、いくらゴールデンウィークとはいえ、今はそんな時期じゃない。何の用もなく神社に来るなど、暇人のやることだ。輪路が変身能力などさして珍しいものでもないと言ったのは、その変身能力が広く知られているからである。


「で、俺らはそんな神社に来たわけだが…」


輪路は目的の人物を捜す。あれがただの夢でないなら、神田吉江という老婆がいるはずだ。と、


「あの人じゃないですか?」


美由紀が指差した。見ると、そこには巫女服姿の老婆がいて、箒で掃除をしている。輪路は老婆に尋ねた。


「なぁ、ちょっといいか?」


「ん?何ですかいね?」


「この神社に神田吉江って人が住んでるって聞いたんだが…」


「吉江は私ですよ。」


やはり、この老婆が吉江だった。吉江は輪路達が自分を捜していたと知ると、何やら呟きながら輪路達を見た。


「木刀を携え、女と八咫烏を連れた男…どうやら間違いないらしい…」


「ん?今こいつのこと八咫烏って言ったか?」


「ええ。さ、どうぞこちらへ。」


吉江は三人を連れて、神社の近くにある小屋の中に入った。


「なぁ、あんた」


「一つ確認させて下さい。」


輪路が吉江に尋ねようとした時、吉江がそれを制して訊いてきた。


「あなたは聖神帝ですね?型は獅子王で、色は白銀の。」


「「「!?」」」


なんと吉江は、輪路が聖神帝の資格者であると言い当てたのだ。何のヒントも与えていない。ただ、少し話をしただけである。


「そ、そうだが…」


「やはり、あなたが予言の…」


「予言?どういうことですか?あなたは一体…」


「私は古きよりこの社を守る、天照の巫女の一人です。祈祷を行っていたところ、予言を受けました。」


「天照の巫女!?」


老婆は美由紀の質問に答える。


「あなた方をお待ちしていました。」


「俺達を、待っていた?」


「はい。ですが詳しいことを話す前に、まず自己紹介といきましょう。私は神田吉江。天照の巫女です」


吉江から自己紹介され、輪路達も名乗る。


「俺は廻藤輪路。お察しの通り、聖神帝レイジンの資格者だ。」


「俺は八咫烏の三郎。こいつらのダチだ」


「篠原美由紀です。よろしくお願いします」


「こちらこそ。早速ですが廻藤さん、あなたにお願いがあります。もうすぐ復活する伊邪那美を、私とともに撃退して頂きたいのです。」


「伊邪那美?」


「伊邪那美って、日本神話の伊邪那美命ですか!?」


輪路はあまりピンとこなかったが、美由紀は吉江が言った伊邪那美命という存在を知っていた。




伊邪那美命とは、日本神話に登場する神の一柱である。夫であり兄でもある神、伊邪那岐命いざなぎのみことの妻で、伊邪那岐とともに日本を作り、多くの神を生み出した。先ほど吉江が言った天照とは、天照大神あまてらすおおみかみのことであり、この神もまた、伊邪那岐から生み落とされた存在だ。伊勢神宮は天照を奉った神社である。伊邪那美は火之迦具土ひのかぐつちという炎を司る神を生んだ際に死んでしまい、伊邪那岐は伊邪那美に会うために黄泉の国へ行った。が、伊邪那岐はその時伊邪那美に、自分の姿を見ないよう言われたのに見てしまう。伊邪那美は身体のあちこちが腐敗し、雷神を生やしているという恐ろしい姿に変わり果ててしまっていた。その姿を見て恐れおののいた伊邪那岐は命からがら逃げ帰り、黄泉の国の出入口である黄泉平坂よもつひらさかを大岩で塞ぐ。そしてその時、伊邪那美は日本の人間を一日に千人殺すという呪いをかけ、黄泉の国の支配者となった。


「だが、一般的に語られている話とこの神話は、少し違う。」


三郎は語った。冥界は天国と地獄の狭間に存在する、一時的に死んだ魂を受け入れる場所。一時的とはいえその広さは凄まじく、多元宇宙や異世界で死んだ者の魂も入れられる。黄泉の国はその冥界の一部でしかない。そして伊邪那美は一度死んだ時から既に黄泉の国の支配者であり、伊邪那岐は伊邪那美を黄泉の国ごと封印した。それが神話に出てくる大岩の力なのだという。


「それで、もうすぐその封印が解けるってのか?」


「ええ。封印が解ければ、伊邪那美は間違いなく現世に降臨し、日本を破壊し尽くすでしょう。」


伊邪那美は黄泉の国に堕ちた自分の姿を見て恥をかかせた伊邪那岐を恨んでいる。あまつさえ伊邪那岐が治める国の人間を、一日千人殺すなどという呪いまでかけたほどだ。国に対する恨みも相当深いと思われる。そんな伊邪那美が現世に降臨すれば、もはや呪いなど必要ない。直接日本を滅ぼすだろう。


「そんな時予言があり、あなた方がここに現れることがわかったのです。これが、その予言です」


吉江は一枚の紙を持ってくると、それを見せた。紙にはこう書いてある。


『今より三日に伊邪那美命が現世へ降臨する。されど、他の地より木刀を携え、八咫烏と女を伴いし男が現れ、これを迎え討つ。この者、白銀の獅子王の姿を持つ聖神帝なり。かの聖神帝、天照の巫女とともに戦い、火之迦具土のごとき激しい怒りによって魂の炎を燃え上がらせ、伊邪那美命を焼き滅ぼさん。』


「なるほど、木刀を持ってるってのは俺のことだな。」


「こんなに正確な予言があるんですね…」


「天照の巫女のことは確かに俺も知ってるが、あんた相当力のある巫女なんだな。」


輪路と美由紀は予言に驚いている。三郎は八咫烏であり、八咫烏は天照の使いでもあるため、巫女のことは知っていた。もっとも彼自身輪路達に構いっぱなしであったので、本業の天照の使いとしての責務は他の八咫烏に任せて、自分は放棄しているも同然だ(三郎曰く、こっちの方が面白いらしい)。だから、天照の巫女についてはどうなったのかさっぱりわかっていない。ゆえに、正確な予言の祈祷ができるほど力があることを知らなかった。


「ここもすっかり寂れてしまいましたが、天照の巫女としての鍛練は怠っていません。」


「だがいずれにせよ、伊邪那美の撃退には俺の力が必要ってわけだな?じゃあ協力してやるよ。」


「おいちょっと待て輪路!!」


吉江の要請を受けようとする輪路に、三郎が待ったをかけた。


「何だよ三郎?」


「お前、相手が誰なのか本当にわかってんのか!?伊邪那美だぞ!?正真正銘の神だ!!リビドンを相手にすんのとはわけが違う!!」


伊邪那美は人間ではない。人間を遥かに超越する存在、神である。死人とはいえ人間が変異した存在でしかないリビドンとは、次元そのものが違う。いくら高い霊力を有している輪路でも、霊石も持っていない今の状態では勝てない。


「だからって見過ごせってのかよ!?伊邪那美が来たら日本は終わっちまうんだぜ!?」


「そうは言ってねぇ。ただ安請け合いをするなと言ってるんだ。上級とはいえ、リビドンごときに苦戦してるってのに、本当に神と戦うだけの覚悟があるのか?」


三郎は輪路の覚悟の確認がしたかった。伊邪那美は危険な存在だ。デュオールにさえ敵わない今の輪路では、戦ったところで犬死にする可能性がある。それでも戦うか。


「輪路さん…」


美由紀は輪路を見つめてくる。その不安そうな目を見て、輪路は三郎に言った。


「当然だ。相手が神だろうと関係ねぇ。やってやるぜ、伊邪那美とよ!」


しかし輪路に、迷いはなかった。というより、全てを滅ぼそうとしている者が相手なのだから、戦うか否かは彼にとって愚問と言える。それに予言が正しければ、輪路は伊邪那美に勝てるのだ。何の心配もいらない。


「だがいくら予言に書かれてるとはいえ、お前一人じゃ絶対無理だ。」


「輪路さん一人じゃないですよ三郎ちゃん。吉江さんがいるじゃないですか」


確かに、元々協力を呼び掛けてきたのは吉江だ。彼女に協力してもらえばいい。


「相手は神域の存在だぜ?いくら天照の巫女でも、神には勝てねぇ。だからもう一人、協力者が必要だな。」


天照の巫女は、様々な妖魔から人々を、伊勢神宮を守ることを使命としている。だが相手は一つの神話体系の上位に君臨する伊邪那美だ。いくら破魔の巫女でも限界はある。


「もう一人って、そんな都合のいいやつがいるか?」


しかし輪路が知る限り、霊力があっても戦闘で活用できるレベルまで力を引き上げている人物はいない。と、


「…これも運命か…」


吉江が呟いた。


「どうしたんですか?」


それを聞き逃さなかった美由紀。吉江は告げる。


「協力者になりうる存在なら、一人だけ知っています。」


「マジか!!誰だ!?」


輪路は驚いて尋ねる。


「私の娘です。名前は、明日奈。あの娘はとても強い力を持っているので、間違いなく役に立つでしょう。ですが…今ここにはいません」


吉江は語った。




神田明日奈。天照の巫女、神田吉江の一人娘。天照の巫女は皆修行によって霊力を身につける。しかし、明日奈は生まれた時から、歴代の巫女に匹敵するだけの力を持っていた。調べてみたところ、その力は天照大神の力そのものらしい。


「ですが、天照は神であり、明日奈はあくまでも人間。神の力を人間が制御するには、かなりの難があります。幼い頃、自分の力を制御できずに暴走させた明日奈は、近くにいた友人全てに怪我を負わせてしまいました。」


怪我自体は大したことはなかったのだが、自分の力がトラウマになってしまい、また天照の巫女としての重圧に耐え兼ね、中学生になったのを境にこの神社から去っていってしまったのだ。


「今は秦野山市夢咲高校の寮に住んでいます。昔わかったのですが、あの子の力は天照の力そのものであり、その力はこの伊勢神宮と深く結びついています。だから、この地を離れるほど力が弱まるのです。」


「だからここにいないんですね…」


自分の力を少しでも弱めようと、明日奈はここを去ったのだ。誰も傷付けたくないから。


「…夢咲高校って言ったな?ちょっと賢太郎達に訊いてみる。」


夢咲高校といえば、賢太郎達が通っている高校だ。もしかしたら、彼らが知っているかもしれない。そう思って輪路は、賢太郎にペンダントで通信をかけた。


「賢太郎、俺だ。聞こえるか?」


「あれ、師匠?どうしたんですか?」


「お前んとこの高校に、神田明日奈って女子生徒がいるらしいんだが、知ってるか?」


「神田明日奈…僕は知りませんね…ちょっと茉莉ちゃんと彩華さんにも訊いてみます。」


賢太郎はすぐ近くにいた茉莉と彩華に尋ねる。


「ねぇ二人とも。神田明日奈って子知ってる?」


「あたしは知らないわね。」


「私は知ってますよ。友達です」


「彩華さんが知ってました。でも、どうしたんですかいきなり?」


茉莉は知らなかったが、彩華が知っていた。しかし、なぜ輪路がそんなことを訊いてきたのかわからなかったので、理由を訊く。


「…ちょっとわけありでな。そいつに会いたいんだが、彩華と茉莉んとこの道場に呼び出してもらえねぇか?」


「訊いてみます。彩華さん、輪路さんが神田さんに会いたいって。道場に呼び出して欲しいらしいけど…」


「わかりました。連絡してみますね」


「連絡してみるそうです。」


「急ぎの用事だ。なるべく今日…いや、今すぐ会いたいもんでよ。そう伝えてくれるか?」


「わかりました。」


賢太郎は一旦通信を終わる。輪路は美由紀達に伝えた。


「連絡してみるってよ。」


「…なんかお前積極的だな。」


「ああ。ちょっと、会って話がしてみたくなってよ。」


三郎は珍しく生きている人間に積極的な輪路を見て、何か裏があるのではないかと感じていた。だが、会ってみたくなったと言った輪路の目付きは、どこか寂しそうだった。間もなくして、賢太郎から連絡が来る。


「師匠。神田さん、今から会ってくれるそうです。」


「わかった。じゃあすぐ行く」


輪路は立ち上がった。明日奈に会いに行くのだ。さすがに街の外に、それも彼女が最も忌避する場所に呼び出すというのは気が引けるので、こちらから出向く。


「三郎、一緒に来い。美由紀は待ってろ。すぐ終わる」


「わかった。」


「はい。」


輪路は小屋を出てバイクに乗り、三郎と一緒に明日奈に会いに行った。


「あの子を説得するつもりでしょうか?私も何度も戻ってくるよう言いましたが…」


吉江は不安そうだ。親の自分が説得して無理だったのに、赤の他人である輪路の言葉を聞き入れるだろうかと。


「…大丈夫だと思います。輪路さんも、あなたの娘さんと同じ苦しみを味わってますから…」


「えっ?」


美由紀は吉江を安心させるように言った。











黄泉の国。


「なるほど。お前は私に、その輪路とかいう男を殺して欲しいわけか。」


「ええ。」


黄泉子は伊邪那美に事情を説明し、輪路を殺してくれるよう頼んだ。


「よかろう。現世には行くつもりでいた。だが、忌々しい封印のせいで少し弱っていてな…三日ほど猶予が欲しい」


「廻藤輪路を殺して下さるなら、いつでも構いませんわ。」


「その代わりに…」


伊邪那美が片手を上げる。すると、彼女の周囲に無数の恐ろしい顔をした女性の怪物が現れた。


「この黄泉醜女よもつしこめ達に偵察させる。すぐに、良い知らせをやれるだろう。お前は己の夫のもとに戻り、彼の者の死を待つがよい。」


「そうさせて頂きます。」


伊邪那美のやる気と憎悪を知った黄泉子は、満足した様子で帰っていく。


「ああ、少し待て。」


と、伊邪那美が黄泉子を呼び止めた。


「何か?」


「お前、名は黄泉子と言ったな?それは偽名であろう?真の名を教えてはくれまいか。」


「…」


黄泉子の顔色が変わる。そして数秒後、


「…申し訳ありませんが、今はまだ夫以外の者にはお教えできません。失礼します」


黄泉子は自分の本当の名前を教えず、伊邪那美の前から、黄泉の国から去った。


「…夫か…」


伊邪那美は少し物思いにふける。自分にも、愛する夫がいた。だが、その夫は…


「…行け!!現世に赴き、廻藤輪路を殺すのだ!!」


思い出して腹が立った伊邪那美は黄泉醜女達を解き放ち、黄泉醜女達は現世に向かった。






今回は説明会で終わりましたが、次回はいよいよ、シャトルさんのキャラ、明日奈の登場です。お楽しみに!

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