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第一話 神帝聖装

皆様お久しぶりです!遂に完成しました!それではお楽しみ下さい!

とある街の片隅で一人の男が少女と語らっていた。


一見すれば普通の光景。しかし、道行く人はこの二人の会話を不審の眼差しで見て、足早に通りすぎる。



無理もない。なぜなら、男は木刀を持っていたからだ。鞘袋に入れてはいるが、木刀を持った男が少女と会話していれば、大体の者は近付きたくないとは思うだろう。しかし、実はそれだけではない。今男と会話している少女。彼女の姿は、男以外の人間に見えていないのだ。



まず幻覚という言葉が思い浮かぶだろうが、彼女は幻覚ではない。確かに存在しているが、見えないだけなのだ。



…あまり延ばしても話が進まないのでさっさとお教えするが、彼女の正体は幽霊である。



男は少女に、熊のぬいぐるみ、すなわちテディベアを渡してやった。


「ありがとう!この子のことがずっと心配だったの!」


「もう思い残すことはないか?」



「うん!探してくれてありがとう!」


少女は男に礼を言うと、光の粒子となって空へ消えていき、テディベアが落ちた。成仏したのだ。彼女は何年か前に不慮の事故で死亡したのだが、テディベアのことが心配で、それが未練となってこの世をさまよっていたのである。


「元気でな。」


新たな命に生まれ変わるための旅に出発した少女を、男は笑顔で見送った。




「ま~たお前は…本当にお人好しだよなぁ…」




男の肩に、一羽のカラスが留まった。しかしこのカラス、よく見ると足が三本ある。しかも、かなり饒舌にしゃべった。


「またお前か、三郎。」



男はしかめ面をする。





男、廻藤輪路かいどうりんじは幽霊が見える。彼が最初に幽霊を見たのは、三歳の時。その頃はまだ幽霊という概念そのものを知らなかったので、自分に見えているものが何なのか、最初は理解していなかった。親に訊いても、はぐらかすばかり。幽霊が見えるというのは、周囲の人間の話を聞くことで理解した。普通の人間に幽霊は見えないということを、この時の輪路は知らなかった。なので、周囲の人々に、あそこにおばあちゃんがいる~など、あそこに男の子がいる~などと言いふらした結果、周りの者達は彼を不審の目で見るようになり、同年代の子供からはいじめを受け、すっかり荒んでしまった。そんな彼の友達は、幽霊だけ。子供の頃からたくさんの幽霊と触れ合い、友達になった。当然幽霊だからいつかは成仏してしまうのだが、それでも生きている人間の友達を持つよりはずっとマシだった。どころか、今のように幽霊の成仏を助けたりもしている。


「お前の気持ちもわからなくはねぇがなぁ、あんまり自分から死者の魂に近付くような真似はするなよ?」


と輪路にアドバイスする三郎は、幽霊ではない。彼曰く、やたがらすという妖怪なのだそうだ。輪路は、幽霊がいるなら妖怪だっているだろうと、そんなに深くは受け止めていない。ちなみに三郎というセンスのない名前は、輪路に呼ばれる前から付いていた。何百年も前に付けられた名前らしい。この両者の関係は、幼少期からある。輪路も当初友達として触れていたが、だんだん扱いがぞんざいになり、今もまたぞんざいに扱っている。三郎のアドバイスも、ほとんど聞き流しているような感じだ。三郎はため息を吐いて続ける。



「じゃねぇとお前、死に引きずり込まれるぞ?」



死に引きずり込まれる。この言葉の意味を、輪路は三郎から以前にも教わった。この世に生まれた者は、必ず死ぬという運命を与えられている。ゆえに全ての命は、絶えず死に向かって進んでいるのだ。事故死しかり、病死しかり、老衰しかり。それなのに、既に死した者である幽霊に自分から触れればどうなるか。当然、死への運命が加速する。ただでさえ死へ向かっている存在が、生きる者達にとって死そのものである幽霊に自分から触れるのだから。


「前にも言ったろ?構わねぇって。」


だがこれはもう何度も聞いた話なので、輪路はうんざりしている。三郎からしてみれば数少ない人間の友達なので、どうにかしていたずらに寿命を縮めるような真似をやめさせたいのだが、輪路からしてみれば大きなお世話なのだ。好きでやっているわけだし、生まれてから今日までの二十四年間、別に死にそうになったわけでもない。


「お前なぁ…少しは俺の話をまともに」


「喉が渇いた。帰る」


「おい!」


いい加減うるさいと思った輪路は三郎の言葉を遮り、歩き始めた。


「ったく…」


三郎はまたため息を吐いた。だが輪路は三郎を肩から払いのけようとしていないので、やかましいやつとは思いながらも存在自体を疎ましく思っているわけではないようだ。











ここに一件の喫茶店がある。店の名前は『ヒーリングタイム』。時刻は午後4時。そろそろ客足も多くなる頃だ。


「お待たせしました。こちら、エスプレッソでございます。」


「ん。ありがとう」


ここで甲斐甲斐しく働いている一人の女性がいた。彼女の名は、篠原しのはら美由紀みゆき。この店は彼女の父が経営しており、子供の頃から手伝いをしている。長い黒髪が印象的な美女で、彼女を目当てにこの店に来る者も多い。


「はいお待たせしました。こちら、モンブランでございます。あ、美由紀ちゃん。三番テーブルにこれ、運んでちょうだい。」


カウンターにいるおネエ口調の屈強な男。彼がヒーリングタイムの店長であり、美由紀の父、篠原佐久真さくまだ。


「はーい!」


美由紀は元気良く返事をし、佐久真が用意したホットケーキを三番のテーブルに運んでいく。


「可愛いなぁ…」「うん。可愛いよなぁ…」「一日に一回はあの子の顔見ないとやってらんないよ」「わかるわかる!癒されるよなぁ。はーい!だって!」


常連達は口々に、美由紀について話をする。本当に、彼女を目当てに来ている客は多い。



そんな時、入り口のドアがベルを鳴らしながら開き、一人の男が入ってきた。輪路だ。途中で別れたのか、三郎はいない。


「輪路さん!」


「お、帰ってきたわね。」


美由紀は輪路のそばへと駆け寄り、佐久真はコーヒーの準備をする。輪路もまた、この店の常連なのだ。というより、ここに住んでいる。母とは死別し、父は存命だが輪路は父を嫌っているため、家に帰らない。だから、この店に居候させてもらっている。無論普通の喫茶店ならそんなことはできないが、輪路は美由紀と幼なじみなのだ。美由紀からの強い希望で、居候が許されている。


「お帰りなさい輪路さん!」


「おう。マスター、いつものやつ。」


「はいはい、どうぞ。」


美由紀は小学生の頃にいじめを受けていたが、そこに引っ越してきた輪路が助けに入り、以来子犬のように輪路になついている。そんなことがあってからか、佐久真も輪路に一目置いており、滞在に関しては異論がない。



ただ、



「おい、あいつ…」「廻藤だぞ!」「また来たのか…」



見た目通り、粗野で凶暴でもあるので、街の人々からはあまり良く思われていない。


「はい、アメリカンね。」


「おう。」


佐久真は輪路が愛飲しているアメリカンを出す。輪路は過去の経験から、基本的に生きている人間を信頼しないし、相手にもしない。だから周りが自分をどう思っていようと知ったことじゃないし、陰口を叩いていようと無視している。美由紀と佐久真は、そんな輪路が信頼する数少ない、生きている人間だ。美由紀に対しては特に恩義を感じているし、佐久真のことはマスターと呼んで慕っている。


「…ん。やっぱりうまいな」


輪路はコーヒーを一口飲むと、満足げに言った。いろんな喫茶店でコーヒーを飲んだが、ここヒーリングタイムの、特にアメリカンが一番美味いとのことである。美由紀は苦いものがあまり好きではなく、コーヒーを飲む時はいつも砂糖を三杯、ガムシロップを二つ容れるのだが、輪路はブラックで飲むため、大人っぽいと尊敬していた。


「私も喫茶店の看板娘として、ブラックコーヒーくらいは飲めるようになりたいんですけど…」


「関係ねぇだろ。誰がどこの店で働いてようが、好みは人によって違う。」


「そうですけど…」


「お前は真面目だな。マスター、勘定置いとくぞ。釣りはいらねぇ」


「まいど。」


輪路はカウンターにコーヒー代を置き、店の奥に行く。奥は厨房となっており、二階への階段がある。二階が三人の生活スペースだ。


「輪路さん今日はもうずっとここに?」


美由紀は輪路に尋ねる。輪路は足を止めて答えた。


「最近またバカどもがでしゃばってるらしいからな。しばらく休んで、夜になったら潰しに行ってくる。」


それからまた店の奥へと入り、二階への階段を上っていった。輪路が言ったことの意味を、美由紀は理解している。


「輪路さんにはあんまり危ないことして欲しくないのになぁ…」


「大丈夫でしょ。あの子強いし。それより今度は五番テーブルにアイスカフェオレ、運んでちょうだい。」


「あ、はーい!」


美由紀は輪路のことを心配しつつも、佐久真から次の仕事を与えられ、カウンターに置かれたアイスカフェオレを運んでいった。











ここは街外れの空き地。それなり広いうえに昼夜を問わず滅多に人が通らないため、時々不良がたまり場にしている。だが、今ここに不良はいない。代わりに、もっと面倒な連中がたむろしていた。最近日本中を騒がせている、クレイジーハリケーンという暴走族だ。現在日本で最大の勢力を誇る暴走族で、様々な悪行を働いており、勢力の大きさや凶暴性から、警察もまともに手が出せない。刃向かった者は全員病院送りにされている。



そんな向かう所敵なしな暴走族のもとへ、一人の来客があった。



「あん?」


クレイジーハリケーンの一人がそれに気付き、数人の仲間を連れて近付いていった。


「何だお前?もしかしてここ、使いてぇのか?」


「だったら帰んな!この空き地は今俺達クレイジーハリケーンが使ってんだよ!」


「オラ帰れよ!邪魔なんだっつーの!」


メンバー達は来客、輪路を威嚇するが、輪路は帰らない。無反応だ。


「帰れっつってんだろーが!!」


それに苛ついたメンバーの一人が、輪路に向かって持っていた空き缶を投げた。


しかし、空き缶が輪路の頭に当たる寸前、輪路は鞘袋から木刀を抜き放ち、飛んできた空き缶をメンバーに弾き返してやった。


「がっ…!!」


空き缶はメンバーの頭に激突して、粉々になった。そんな速度で固い空き缶をぶつけられたメンバーは、脳震盪を起こして転倒、気絶する。


「てっ!てめぇよくも俺達の仲間を!!」


それに怒ったメンバーが三人、殴りかかってくるが、輪路は拳をかわして木刀で一人目の頭を、二人目の腹を、三人目の背中をそれぞれ殴り、気絶させた。


「や、野郎…!!」


「ま、待て!!こいつどこかで見たことがあると思ったら、『暴君』だ!!暴君の廻籐だよ!!」


「ぼ、暴君だと!?」


輪路に挑もうとする四人目を五人目が制す。五人目が語った話に六人目が、他のメンバー全員が驚く。


輪路は時折、空き地等にたむろする不良や暴走族など、悪さを働く連中を潰しに行く。木刀一本で多数の敵相手に無双する荒々しい戦いぶりと圧倒的な強さから、彼は暴君とまで呼ばれていた。街の人々からの評判が悪いのは、こういったところにも原因がある。


「おいどうする?」「あいつこの前ヤクザ潰したって聞いたぜ!」「マジかよ!逃げた方がよくね?」


クレイジーハリケーンのメンバー達は狼狽し、これからどうするか相談している。と、彼らのリーダーが仲間達を叱咤した。


「お前ら何ビビってやがる!!こっちの人数を見ろ!!」


ちなみに現在クレイジーハリケーンのメンバーは、まだ十五人残っている。


「いくら相手があの暴君だろうと、この人数差を覆せるわけねぇ!!それに俺達は最強無敵のクレイジーハリケーンだ!!たった一人相手にビビって逃げ出したりなんかしたら、他のチームに舐められちまう!!」


「そ、そうだそうだ!!」「俺達はクレイジーハリケーンだ!!」「ここで逃げたりなんかしたら、総長にぶっ殺されちまうぜ!!」


リーダーに気合いを入れてもらったメンバー達は奮い立ち、輪路を包囲する。木刀を持つ輪路に対抗して、鉄パイプやメリケンサックなどの武器を装備している者もいた。


「ほざくじゃねぇかクズどもが。まぁ見せてみろよ、最強無敵とかいう連中の力を。」


「舐めやがって…やっちまえ!!!」


『ウオオオオオオオーーッ!!!!』


輪路はクレイジーハリケーンのメンバー達を挑発し、それに乗ったメンバー達は一斉に襲いかかってきた。


まず殴りかかってきた二人を木刀で殴って倒し、次に来た二人にそれぞれ一発ずつみぞおちに蹴りを喰らわせる。続いて鉄パイプ持ちが咆哮を上げながら飛びかかってきたが、輪路は木刀を横薙ぎに一閃。鉄パイプを破壊した。


「ひっ!!」


まるで本物の日本刀に斬られたかのような切り口を見せる鉄パイプを、思わず手放してしまう。その隙に輪路は容赦なく頭を掴み、自分の後ろから襲いかかってきていたメンバー二人に投げつけてまとめて倒した。


「ラァッ!!」


次はメリケンサック持ちだ。輪路のみぞおち目掛けて、拳を繰り出してくる。輪路は慌てずメリケンサック持ちの拳に合わせて、木刀を片手に持って突きを繰り出す。輪路からしてみればかなり軽い突きだったのだが、その突きを受けた瞬間メリケンサックは粉々に弾け飛んだ。


「くっ!!うおお!!」


衝撃に押されたメンバーだが、まだ片手のメリケンサックが砕けただけだ。すかさずもう片方の拳で殴りかかる。こちらにもメリケンサックが装備されている。のだが、輪路は先ほどと同じように突きを繰り出し、こちらも粉砕した。


「あ…が…」


茫然自失となるメンバーだが、やはり輪路は容赦しない。すぐ木刀で頭を殴る。それからも輪路の快進撃は続き、遂に残りはリーダー一人となった。


「くそっ!!だったら…うおおおおおお!!!」


リーダーは近くに積み上げてあった三つの土管の一つを持ち上げる。


「おお。」


輪路は感心したような声を出した。土管は普通人が一人で持ち上げられるような重さではない。リーダーはその土管を一人で持ち上げてみせたのだ。


「俺はチームの中でも馬鹿力なことで知られててな…こいつを喰らえ!!」


リーダーは輪路に向かって土管を放り投げた。常人なら当たれば無事では済まない。しかし、輪路は常人ではなかった。


「ふん!!」


硬く重い土管さえ、木刀の一振りで容易く両断してしまったのだ。


「んなっ…!!」


「ちょっとだけ面白かったぜ。」


驚いているリーダーに一瞬で接近し、木刀で殴り飛ばす。


「けど弱すぎだな。最強無敵を名乗るには程遠いぜ」


完全勝利。輪路は少しのダメージも受けることなく、クレイジーハリケーンを全滅させた。


「さて…」


ここで、輪路の暴君たるゆえんが明らかとなる。倒れているクレイジーハリケーンのメンバー一人一人のポケットを漁り、財布を抜き取ったのだ。彼は自分が潰した相手から、迷惑料と称して金を奪うのだ。


「半分で勘弁してやるぜ。この前ヤクザどもからも迷惑料もらって、かなり余裕があるからな。俺の慈悲深さに感謝しろよ」


輪路はメンバー達の財布から半分ほど現金を抜き取ると、財布をポケットへ返してやり、嬉しそうに空き地を去っていった。


「ち、ちくしょう…!!」


リーダーは携帯電話を取り出すと、電話をかけ始めた。











輪路が住む街、秦野山はたのやま市から少し離れた所。そこの路地裏にいたクレイジーハリケーンの総長は、先ほどのリーダーからの連絡を受けていた。


「馬鹿野郎!!たった一人相手に何やってんだ!!」


「すいやせん…でも相手があの暴君じゃ、どうしようもなかったっす…」


「チッ!とにかくすぐ行くから待ってろ!」


総長は舌打ちしながら、連絡を終えた。


「総長どうします?」


メンバーは総長に尋ねた。


「メンバー全員に召集をかける。明日全員がかりで廻藤輪路をぶっ潰すぞ!」


「はい!!」


今後の方針を決めたクレイジーハリケーンは、早速秦野山市へバイクを走らせる。


その途中。総長は一人の男をバイクで轢いた。


「ぎゃあっ!!」


悲鳴を上げて倒れる男。総長は怒りながらバイクを降り、男の胸ぐらを掴んで持ち上げた。どうも足が折れているようだが、知ったことではない。


「てめぇ!!よくもこの俺の走りを邪魔してくれやがったな!!」


「ひぃっ!!ご、ごめんなさい!!」


凄まじい剣幕で怒鳴る総長に、俺は怯えて謝ることしかできない。と、総長は気付いた。


「…お前ホームレスか?」


男の身なりはあまりにもみすぼらしい。彼が知る限り、こんなみすぼらしい姿をした人間はホームレスしかいなかった。だが確証はなかったので、訊いてみる。


「は、はい…そうです…」


案の定、男はホームレスだった。


「そうか。」


それを知った総長は男を離してやり、



倒れた男の折れた両足を突然取り出した拳銃で撃ち抜いた。



「ぎゃああああああ!!!」


激痛に悲鳴を上げる男。


「うるせぇよ。」


その絶叫が耳障りだった総長は、男の左肩を撃ち抜いた。


「があああああ!!!」


男は今度は左肩を押さえて倒れ、痛みに転げ回る。


「ど、どうしてこんなことを…!?」


「俺は今機嫌が悪い。だからてめぇを撃ってストレス解消してんだよ」


男は両足と左肩から襲ってくる激痛に涙を流しながら訊き、総長はさも当然というように答える。輪路に自分のチームのメンバー達をやられ、今自分の疾走を目の前の男に邪魔され、とにかく気が立っている。何かで憂さ晴らしをしたかった。それだけだ。


「別にいいよな?お前はホームレスだ。死んだからって悲しむやつなんていないし、むしろ生きてると社会の邪魔だよな?」


「うっ…ううっ…!!」


ホームレスは涙を流しながら総長の話を聞いている。そして総長は、決定的な一言を放った。


「そうだ。お前は無価値な人間なんだよ!」


「っ!!」


無価値な人間。そう言われた瞬間、男は何も考えられなくなった。


「わかったら死ね。」


総長は躊躇うことなく引き金を引き、飛び出した銃弾は男の額を撃ち抜いて、男は糸の切れた人形のように倒れ、死んだ。


「また一つ社会のゴミが片付いた。」


総長は拳銃をしまい、後ろにいる自分の部下達に尋ねる。


「俺ってチョーいい人じゃね?」


すると、部下達から歓声が上がる。


「さすがッス総長!!」「一生ついていきます!!」「総長最高!!」


それらの歓声を聞いた総長は満足そうに頷くと、男の遺体を道の端に向かって蹴り飛ばしてからバイクに跨がり、


「さあ、お前ら行くぜ!!」


号令をかけて走り出す。クレイジーハリケーンの姿は、そのうち誰にも見えなくなった。



そして誰にも見えなかった。



殺された男の遺体から半透明になった男が起き上がり、憎悪を込めた目でクレイジーハリケーンの後ろ姿を見送っていたのは。











翌日。クレイジーハリケーンのメンバーが何者かに全滅させられたという事件は、早くもニュースになっていた。やったのはもちろん輪路だ。


「いや~お手柄だったわね輪路ちゃん。クレイジーハリケーンって警察でも手が出せなかったんでしょ?」


「らしいな。ま、俺の敵じゃなかったんだが。」


佐久真から褒められ、輪路はいつものようにコーヒーを飲む。


「輪路さんが大怪我して戻ってくるんじゃないかと思ってましたから、無傷で戻ってきた時は本当に安心しました。」


「あの程度の連中にやられるほど俺は弱くねぇよ。もっと強ぇ幽霊といつも戦り合ってるからな」


輪路は幽霊を見たり声を聞いたりするだけでなく、触ることも、逆に他人に見せたり触らせることもできる。この能力、話し合いが通用しない幽霊や、荒っぽい性格の幽霊を相手にする時、非常に役立つのだ。幽霊の中には戦国時代などからこの世界に留まっている者もいて、特に侍の幽霊などは、自分を倒せるくらい強い相手と戦わないと成仏できない、などという者が多い。そういった連中を成仏させるために、輪路は必死で腕を磨いたのだ。つまり、そこらのチンピラなんぞよりずっと強い幽霊達と、何年も前から戦ってきたのである。実戦形式で鍛練を積み強くなってきたので、そうそう負けたりはしない。


「それはいいけど輪路ちゃん。もういい歳なんだし、そろそろ就職を考えたら?」


佐久真は話題を切り替えた。輪路は定職に就いておらず、生計はチンピラやら不良やら暴走族やらを襲って金を巻き上げることで立てている。


「いくら不況とはいえ大学は出たんだから、少しは職に就けるでしょうに…」


「おいおいよく考えて言えよマスター。俺みたいな社会不適合者が、働いたってうまくいくと思ってんのか?」


輪路は死者に関わること以外には基本無頓着で、人との付き合いも悪い。いわゆる社会不適合者だ。それは彼自身も理解している。面倒ということで直そうともしない。


「力は強いんですから、土木建設とかに行ったらどうですか?」


美由紀も何とか輪路にまっとうな人間の生き方をさせようとしているが、輪路は聞く耳を持たない。


「ごめんだな。今のままで十分うまく回ってんだから、これでいいだろうが。」


「だからって、自分から荒事に首を突っ込むっていうのは…」


「何だ美由紀。俺がやられるとでも思ってんのか?」


「そうは思ってませんけど…」


「それとも警察のことか?なら安心しろ。あいつら吠えるだけで何にもできねぇし、この前なんか逆に感謝されたぜ。」


輪路がやっていることは一歩間違えれば犯罪だが、警察の手に負えない案件がいくつも解決しているのは事実で、警察側としても輪路に対して強く言えない、というのが現状だ。


「別にいいじゃねぇか。ああいったごろつきどもには、きっちりわからせなきゃなんねぇんだよ。真面目に生きてねぇやつは、俺みたいな人間のカモにされるってことをな。」


と、


「言ってくれるじゃねぇか。」


輪路の持論に異を唱えるかのように、声が割り込んできた。


「ん?」


輪路が振り向くと、そこにはガラの悪そうな男が立っている。


「誰だお前?」


「クレイジーハリケーンの総長だよ。昨日は俺の可愛い兄弟達を、ずいぶんいじめてくれたんだってなぁ?」


どうやら先ほどの話が聞こえていたらしく、総長は殺気を飛ばしまくって輪路を睨んでいる。だが輪路は全く動じておらず、逆に挑発した。


「ああ、あの雑魚どもの親玉かぁ。確かにあれだけじゃねぇだろうとは思ってたが。んで?俺に用か?」


ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべている輪路を見て、総長はさらに殺気を強めた。


「今夜の7時、お前が昨日俺の兄弟達と戦り合った空き地に来い。俺達クレイジーハリケーンがどういった連中かを思い知らせてやる」


「そいつは楽しみだ。7時だな?行ってやるよ。」


「…チッ!」


総長は舌打ちすると、店から出ていった。


「…びっくりしました…」


一触即発の状態をハラハラして見ていた美由紀は、そっと胸を撫で下ろす。


「はぁ…ウチで騒ぎ起こさないでくれてよかったわ。さすがにまずいと思ったのかしらね」


佐久真も安心している。さすがの総長も、昼間から喫茶店などという公共の場で暴れるのは、まずいと思ったのだろう。そんなことをすれば、いくら警察だろうとしかるべき装備を整えて強行手段に出る。


「それ以前に俺が許さねぇけどな。」


輪路はこの店に対して非常に愛着を感じているし、佐久真と美由紀にも恩義を感じている。もしこの店で暴れたり二人に手を出していたら、輪路は激怒して総長を病院送りにしていたところだ。


「さて、やることもできちまったし、夜まで休むわ。」


輪路は店の奥、自分の部屋に向かっていった。


「輪路さん…」


美由紀はそれを心配そうに見ていた。











夜7時。輪路は総長との約束通り、空き地に来た。


「よく逃げずに来たな。予告通り、俺達がどういった連中か思い知らせてやるぜ。」


総長は輪路を歓迎した。メンバー達は輪路を包囲し、退路を断つ。


「ずいぶん多いな。昨日の三倍以上か?」


「ああ。クレイジーハリケーンの総力戦だ。たっぷり楽しめよ!」


バイクの上で総長が号令をかけると、メンバー達が一斉に向かってくる。


「昨日と同じだな。」


輪路は向かってきたメンバー十人を、木刀を抜いて一瞬で倒す。


「どうした?ただ向かってくるだけだってんなら、昨日と同じだぜ?」


「なかなかやるじゃねぇか。なら、こういうのはどうだ?」


総長はポケットから拳銃を抜いた。


「デザートイーグルだ。この前武器の密輸取り引きしてたやつらを襲って、かっぱらったんだよ。」


暴走族のくせに武器の密輸取り引きを襲うとは、本当にやりたい放題である。こんな狂気じみた連中が相手では、警察も手が出せないわけだ。しかし、彼らが相手にしているのは、警察よりずっと厄介な男である。


「言っとくが、俺相手に銃なんざ何の役にも立たねぇぞ。大怪我しねぇうちに降参しろ。その銃俺によこして真面目に生きるって誓うなら、見逃してやる。警察にはまぁ、適当に言って届けてやるからよ。」


「ほざくな!!」


銃など役に立たない。輪路はそう言った。総長はそれをこけ脅しだと思い、躊躇わず撃つ。しかし、輪路は飛んできた銃弾を木刀で近くの地面に弾いた。


「…は?」


総長も、取り巻きも、何が起きたのか理解できなかった。確か輪路は今、銃弾を木刀で防いだように見えたのだが…。


「そ、そんな馬鹿な!!」


総長は認められず、もう二発撃った。輪路はそれを木刀で弾く。見間違いではない。輪路は確かに、木刀で銃弾を防いだ。


「銃持った相手なんざ腐るほど潰してきたんだよ。今さら拳銃見せびらかされたところでビビるわけねぇだろ!」


「いやあり得ねぇだろ!!銃持った相手を倒してきた?百歩譲ってそうだとしてもだ!!銃弾見切って木刀で防ぐとか、そもそも銃弾防げる木刀とか、どう考えてもあり得ねぇだろうがよ!!」


総長は目の前の現実が認められず、喚き散らした。確かに信じられないことだが。


「銃弾はいつの間にか見切れるようになってたんだが、木刀は俺にもわかんねぇなぁ。折れたことなんか一度もねぇし、皮が剥げたりしても気付いたら元通りに直ってんだよ。」


輪路もあり得ないが、彼が使う木刀も規格外だった。見た目はどこにでも売っていそうな普通の木刀なのだが、輪路自身も知らない秘密があるらしい。一方、総長は狼狽していた。銃が木刀に負けたのが、よほど堪えたらしい。


「あ、あり得ねぇ…拳銃が木刀に負けるだと?昨日だって、俺はこいつでホームレスを殺したんだ。その前だってたくさん…だから確実に人殺しができるだけの威力があるんだよ!それが、あんな木刀に負けるなんて…」


総長はこの銃で昨日ホームレスを殺した。その前にも、いや、この銃を手に入れた時から試し撃ちと称して大勢殺した。だから殺人ができるだけの威力はあるのだ。それが、どこの土産屋にも売っていそうな木刀に負けてしまった。総長はそのことに驚き焦っている。


「…脅しで持ち歩いてるわけじゃねぇだろうとは思ってたがな…」


輪路は総長が殺人を行っていることを知り、呟く。そして、



「てめぇ命を何だと思ってやがる!!!」



激怒した。


「な、何を…」


「命を何だと思ってやがんだって訊いてんだよ!!いいか!?死んじまったやつはな!!どんなに未練があったって!!もう何にもできねぇんだよ!!会いたい相手に自分の姿を見てもらえねぇし!!話してぇ相手にだって声が届かねぇんだ!!それなのにてめぇは!!てめぇは!!!」


ひたすら激怒する輪路。幽霊が見える彼には、誰よりも命の重さと尊さがわかるのだ。だから、軽はずみな気持ちで殺人を犯した総長が許せない。いや、輪路は命を軽く扱う者、全てを許さないのだ。


「輪路さん…」


すぐ近くの木の陰から、美由紀が呟いた。輪路を心配して、こっそりついてきていたのだ。


「わ、わけのわかんねぇこと言いやがって…勝ったと思ってるなら大間違いだぞ!!」


総長は慌てながらもデザートイーグルを投げ捨て、愛車から飛び降りた。彼のバイクはサイドカーで、総長はサイドカーの中から、なんとカラシニコフ銃を取り出した。


「かっぱらった銃はデザートイーグルだけじゃねぇんだよ!!こいつで死にやがれーーっ!!!」


そのまま引き金を引き、輪路に向かって乱射する。対する輪路は最初の弾を数発防ぎ、


「うおりゃあっ!!!」


木刀を振り上げた。その瞬間巨大な竜巻が発生し、銃弾と総長を巻き込んで真上に吹き飛ばしてしまった。


『総長ーっ!!』


叫ぶメンバー達。


「っ!!」


輪路は残ったメンバー達に向かって二度、木刀を振る。すると二つの衝撃波が発生し、メンバー達を吹き飛ばした。


「きゃっ!!」


その余波に吹き飛ばされそうになった美由紀は、小さく悲鳴を上げて必死に木にしがみつく。やがて落ちてきた総長に、輪路は言い放つ。


「言ったはずだ。銃なんか何の役にも立たねぇってな」


その通りだった。銃弾を見切るほどの動体視力と、それを防ぐほどの木刀。そして、輪路がその気になって木刀を振れば、竜巻や衝撃波を自在に飛ばせる。こんな相手に、銃など通じるはずがない。


「これでも手加減してるんだけどな。」


しかも手加減しているときた。


「ば、バケモンだ!!」「こんなの勝てるわけねぇ!!」「俺達とんでもねぇやつに喧嘩売っちまった…!!」


クレイジーハリケーン側は完全に戦意を喪失し、連携が総崩れとなっている。


「お前ら何やってる!?まだ終わってねぇぞ!!」


総長は怒鳴り散らしてチームをまとめようとするが、聞く者はいない。


「さて、それじゃお前を倒して、クレイジーハリケーンを完全に潰させてもらうか。」


まだ戦意が折れていない総長を倒そうとする輪路。



その時だった。



「!?」




ただならぬ気配を感じて、輪路はその方向を見る。そこには、みすぼらしい姿の男がいて、こちらを見ていた。


(あいつ…幽霊だな)


輪路は長年の経験から、男が幽霊であると確信する。


(だが何だ?あいつ、なんかおかしいぞ?)


だが輪路は、男に対してよくわからない、違和感のようなものを感じていた。と、輪路が突然顔を向けたので気になっていた総長が、輪路と同じ方向を見る。


「て、てめぇは…!!」


「!!」


輪路は今の総長の発言に驚いた。


「お前、あいつが見えるのか?」


「何言ってんだよ?見えるに決まってるだろ!」


総長にはあの男が、『幽霊が見えている』のだ。やがて二人の様子に気付いたメンバー達も、同じ方向を見る。どうやら他の者にも見えているらしい。


(何だろうあの人?よくわからないけど、すごく嫌な感じがする…)


そして、美由紀にも見えていた。


(どういうことだ?こいつらにはあいつが見えているのか?)


輪路はわけがわからなかった。彼は他者に幽霊を見せることができる。方法は、見せたいと思うだけだ。だが今回輪路は何もしていないし、見せたいとも思っていない。にも関わらず、総長達には幽霊が見えているのだ。彼が輪路と同じ体質だとは思えないし、全くわけがわからない。


「てめぇは、俺が昨日殺したホームレスだろ?生きてたのかよ…」


総長もわけがわからなかった。昨日殺したはずの男が、どういうわけかここにいる。ただ、気が動転していてわからなかった。昨日自分が付けた傷がなくなっていることに。あれだけの怪我がこんな短期間で完治するはずはない。総長は知らないが、男は確かに死んだ。死んで現在は幽霊となっているのだ。幽霊といっても死後の姿は様々で、死んだ直後のボロボロでグロテスクな姿で出てくることもあれば、男のように傷を負う前の姿で出てくることもある。



だがこの男の場合は、他の幽霊と状況が少し、いや、かなり違っていた。



「憎い」


男は唐突に口にした。


「憎い…俺を殺したお前が憎い…俺を無価値な人間だと言ったお前が憎い…」


ひたすら呪詛を唱え続けていたのだ。


(こいつ、相当この暴走族を憎んでやがるな…)


輪路も他人に恨みや憎しみを持つ幽霊は何人も相手してきた。だがそんな彼でさえ、ここまで強い憎悪を持つ幽霊を見るのは初めてだった。


「殺す…お前を…お前らを…殺してヤルゥゥゥゥゥ!!!」


幽霊が絶叫とともに衝撃波と光を纏い、怪物に変化するのを見るのも。人の形をしているものの、全身の肌は黒い装甲のようなもので覆われ、顔は憎悪を張り付けたような凄まじい形相となり、もう元がどんな人間だったかわからない有り様だった。


「うわああ!!」「何だありゃあ!?」「バケモンが増えたぁ!!」


慌てふためくメンバー達。輪路も内心かなり焦っている。本能で悟ったからだ。あれは無理だと。戦っても絶対に勝てないし、逃げないと確実に殺されると。


「お前ら逃げるんじゃねぇ!!どいつもこいつも腰抜けどもが!!」


そんな中、総長が一人奮い立っていた。いや、予想外の事態が起きすぎて、やけになっていたというべきか。


「よせ!!そいつと戦うんじゃねぇ!!!」


「クレイジーハリケーンを舐めんなぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


輪路が止めるのも聞かず、カラシニコフ銃を乱射した。軍隊が使うような銃を、弾切れを起こすまで怪物に撃った。しかし、怪物はかすり傷一つ負わなかった。


「なっ…あっ…」


全くの無傷。総長は茫然自失。そんな総長の目の前で、怪物は自分の右手を変化させた。銃だ。あまりにも大きい銃に変化させたのだ。怪物は銃口を総長に向けると、


「死ネ」


エネルギー弾を撃ち出して、総長の頭を吹き飛ばした。首から上が綺麗に消滅した総長は、そのまま倒れ込む。確かめる必要もない。死んでいる。総長があっさり殺されたところで、遂にクレイジーハリケーンのメンバー達はパニックになり、逃げ惑う。そして、一方的な虐殺が始まった。怪物は逃げる者から優先的に右手の銃で撃ち殺していく。半狂乱になって怪物に挑む者もいたが、怪物は力も強く、左手で近付く者全てを殴り殺していった。遠距離ではエネルギー弾で、近距離は怪力で。どちらも確実に人間を殺傷できるだけの威力がある。はっきり言って、勝てる気がしない。試してみたことはないが、いくら輪路の木刀が特別でもエネルギー弾を防げるとは思えないし、輪路は常人よりかなり頑丈だが、あんなパワーで殴られたら一撃死は避けられても、数発で死ぬだろう。とにかく、戦ったら確実に死ぬ。殺される。そんな予感が輪路の心の中で渦巻き、頭の中では本能が逃げろと警鐘を鳴らし続けていた。しかし、クレイジーハリケーンのメンバー達を見捨てるわけにもいかない。命をないがしろにするような連中だが、だからといってみすみす目の前で死なせるような真似はしたくなかった。


その時、


「輪路さんっ!!」


木の陰から美由紀が飛び出してきて、輪路の左腕に抱きついた。


「美由紀!?お前どうしてここに!?」


「心配になって見に来たんです。それより早く逃げましょう!!このままだと私達、あの怪物に殺されちゃいます!!」


美由紀は抱きついた左腕を引き、輪路に逃げるよう促す。


(美由紀にも見えてるのか…)


あの怪物は美由紀にも見えているらしいと知り、ますます普通の幽霊とは異質な存在だということがわかった。



その時、



「おーい!輪路ー!」


三郎が飛んできた。



「三郎!!」


「三郎ちゃん!!」


「とんでもねぇ憎悪の波動を感じて来たんだが、やっぱりヤベェことになってたな…!!」


「三郎。お前、あの怪物が何かわかるか?幽霊であることは確かなんだが…」


輪路は三郎に怪物が何かを訊いた。三郎は自身が妖怪であるためか、幽霊や妖怪の種類に詳しい。三郎なら、何か知っているはずだ。


「ありゃあリビドンだ。」


「リビドン?一体何なんだリビドンってのは?」


やはり三郎は怪物の正体について知っていた。輪路は詳細を聞き出そうとする。


「死者の魂が強い憎悪によって、現世に干渉するための肉体を得た存在だ。その姿と力は自分が憎悪を残した対象によって変化するが、人間を簡単に殺せるだけの力は確実に持ってる。」


通常幽霊は、この世界のものに干渉することができない。干渉するための肉体を失った存在だからだ。しかし、並外れた強い精神力を持つ幽霊は、現世に干渉できる。ラップ音などの現象として現れる、ポルターガイストがその最もわかりやすい例だろう。しかし三郎の話では、それをさらに超える、常軌を逸したレベルの精神力と憎悪を持つ幽霊は、現世に干渉するための肉体を形成できるらしい。そして、その肉体を形成できるほどの憎悪を持って現世に顕現した存在が、リビドンとのことである。しかし憎悪によって肉体を形成するため、大体は制御ができず怪物の姿になるそうだ。


「他の連中にも見えたのはそういうことだったのか…」


「それと、リビドンはあくまでも肉体を持っただけの存在だ。死んでることに変わりはねぇ。そして、既に死んでるならそれ以上は殺せない。殺す方法でリビドンは倒せねぇんだよ」


リビドンは既に死んだ存在であり、死んでいるならそれ以上は殺せない。例え宇宙を破壊できるような兵器を持ってこようと、殺す兵器であるならリビドンには傷一つ負わせられないのだ。総長のカラシニコフ銃が効かなかったのもそこに原因がある。


「なんてこった…じゃあ勝つ方法なんかねぇじゃねぇか…」


「いや、お前の攻撃ならあるいは…」


「ど、どういうことですか?」


美由紀は動揺しながら三郎に訊いた。確かに輪路の木刀はカラシニコフ銃より強いが、それでもリビドンに通用するだろうか。


「リビドンを倒すには強い霊力で憎悪を浄化して、成仏させるしかねぇ。輪路には並みの霊感持ちなんかとは比べものにならねぇくらい、強い霊力がある。そいつをぶつければ、勝てる可能性はある。」


「どうすりゃそれができる!?」


「お前はアホだから説明したってわかんねぇだろ。とにかく、お前がいつも幽霊に対してやってるような感じで戦ってみろ!」


「…なんか納得いかねぇが、お前らを逃がすだけの時間は稼いでやる!その間に逃げろ!!」


「輪路さん!!」


輪路はアホと言われたことに少し腹を立てながらも、木刀を握り締めてリビドンに挑んでいった。


「オラァッ!!」


「グッ!!」


輪路は木刀を振り下ろし、リビドンを打つ。リビドンは下がった。打たれた箇所を左手で押さえている。


「三郎が言ったことは本当らしいな。」


あのリアクションは、人間で言うダメージを受けている時のものだ。リビドンにダメージが入ったのだ。


「邪魔ヲスルナ!!」


リビドンは右手の銃からエネルギー弾を発射してくる。このリビドンの前身である男は、総長に銃で撃たれて死んだ。その銃が男の精神に強い影響を与え、このような姿になった。自分と同じ死因を他者にも与える怨霊、ブラストリビドンだ。


「ちぃっ!!」


輪路はエネルギー弾をかわす。彼の木刀は銃弾を余裕で防げるが、エネルギー弾は防げるかわからない。今まで折れたことはないが、これを下手に防げば折れてしまう可能性がある。もし折れたら、輪路は戦う手段を失ってしまう。と、


「輪路!お前の木刀ならそれぐらいのリビドンの攻撃は簡単に防げる!打ち返してやれ!!」


三郎から助言が。


「おう!!」


それを聞いた輪路は、ブラストリビドンのエネルギー弾を木刀で弾き返してやった。本当に防げた。ブラストリビドンのエネルギー弾は、霊力を圧縮したものである。だから返してやれば、より効果的にダメージを与えられるのだ。だが、


(重いな…!!)


ブラストリビドンのエネルギー弾は思いの外重かった。防ぐぐらいは問題ないが、そうやすやすと返せるものではなさそうだ。


「皆さん!!こっちです!!」


美由紀は、生き残っているクレイジーハリケーンのメンバー達の避難誘導を行っていた。輪路から逃げるよう言われたが、生き残っている者を見過ごすわけにもいかない。メンバー全員を逃がしてから、ブラストリビドン相手に善戦する輪路に目を向ける。


「すごいですね。本当に戦えてます…」


「あいつはアホだが、まぁ実力はあるやつだからな。」


三郎も観戦しながら言った。幽霊が見える人間には、霊力という力が備わっている。人間が持つ魂の力、それが霊力だ。これが強いと、幽霊の姿が見えたり、声が聞こえたりする。一般的な霊感というのは、この霊力のことだ。常人の霊力は強くなく、幽霊が見える者などほとんどいない。しかし輪路はこの霊力の強さが半端ではなく、幽霊に触れることも、他人に触れさせることもできる。


「霊力を持ってないやつに幽霊を見せるには、幽霊に自分の霊力を質量と感覚を持たせた状態で与えるっていうかなりの高等技術が必要になるんだが、あいつはそれを思っただけでやっちまう。無意識の天才ってとこだな」


三郎は輪路が無意識に霊力を操っているため、この状況で下手に説明するのは危険と判断した。何せ輪路はアホなので、説明したところでわかりはしない。むしろ説明されたことを意識してやろうとして、失敗する可能性さえある。なら普段通りにやらせてやればいいと思い、あのように言ったのだ。


(確かにダメージは入ってるんだがな…)


輪路はブラストリビドンと戦いながら思った。確かに、ブラストリビドンには輪路の攻撃が当たっているし、ダメージも入っている。しかし、どうにも効き目が薄い。


「普通の幽霊ならこういうことはないんだが、あと何発斬りゃあいいんだか…」


輪路はぼやきながらも戦い続ける。


「チッ!やっぱり浄化なしじゃ厳しいか…」


「浄化?」


舌打ちした三郎に、美由紀は尋ねた。


「リビドンは普通の幽霊とは違う。こいつを倒すために一番やんなきゃなんねぇのは、憎悪の浄化だ。ただ霊力をぶつけるだけじゃ、それにはだいぶかかっちまう。霊力に浄化属性を付加させりゃもっと楽なんだが、今のあいつにそこまでのことはできねぇ。あいつの霊力と体力を信じるしかねぇな」


「そんな…」


持久戦。輪路にできるのはそれだけだった。


「ぐっ!!」


ブラストリビドンの攻撃を全力でかわし、全力の木刀をひたすら打ち込む輪路。彼の超人的な身体能力によって、互いは奇跡的に拮抗していた。



だが、それにも終わりが訪れる。



「ガァァァァァァ!!!!」


クレイジーハリケーンの抹殺を邪魔された苛立ちが限界に達したブラストリビドンは、輪路の一撃を受けるとダメージを無視してそのまま強引に木刀を掴み、もぎ取って投げ捨て、輪路を蹴り飛ばした。


「がはっ!!」


派手に吹き飛んで地面を転がる輪路。ブラストリビドンの蹴りは綺麗にみぞおちへと入り、輪路は口から勢い良く酸素を吐き出して、両手で腹を押さえた。


「輪路さん!!」


「っ!?お前らまだ逃げてなかったのか!!早く逃げろ!!」


輪路は美由紀と三郎に逃げるよう促す。だがその時、ブラストリビドンが右手の銃を美由紀に向けた。


「オ前モ死ネ!!」


ブラストリビドンの銃口が、光を集めている。霊力を溜めて、特大の霊力弾を撃つつもりだ。


「美由紀!!逃げろ!!」


「ひっ!!」


再度逃げるよう促す輪路。しかし美由紀は、ブラストリビドンから桁違いの殺意と憎悪を向けられたことで足がすくんでしまい、動けなくなっていた。


(あ、足が動かない!!逃げられない!!)


焦る美由紀。焦れば焦るほど身体は硬直し、死の予感はさらに彼女を焦らせる。


「くそっ!!」


それを見て美由紀は逃げられないのだと悟った輪路は、痛む身体を無理矢理起き上がらせ、駆け出す。木刀を取りに行っている時間はない。こうなったら自分が盾となり、美由紀を逃がす。死ぬかもしれないが、美由紀が助かるなら構わない。


「うおおおおお!!!」


どうにか割り込むのに間に合った輪路は、両手を大きく広げ、美由紀の盾となる。同時に、ブラストリビドンが霊力弾を発射した。輪路の目には、全てがスローモーションに映る。霊力弾を見た瞬間、死の可能性は確定的なものとなった。死ぬかもしれないではなく、確実に死ぬ。


(お前だけは俺が守る!!)


だがこんな時でも、恐怖は一切なかった。


(俺がお前を…)


あったのは、美由紀を守るという強い想いだけ。




(守る!!!)




霊力弾が輪路に直撃する寸前のことだった。




突如として輪路の身体が強い光に包まれて見えなくなり、その光と、同時に発生した衝撃波が霊力弾をかき消したのだ。


「きゃあっ!!」


「グゥッ!?」


美由紀は衝撃波に煽られて倒れ、ブラストリビドンは光の眩しさに片手で顔を覆う。


「この光…ま、まさか…!!」


三郎は光を、輪路を凝視している。予感はかなり前からあった。その予感が、現実のものになろうとしている。





光の中。輪路はずっと前を見ていた。光の先に、誰かがいるのだ。光が強すぎて、その姿はわからない。何者かは言った。


「唱えろ。神帝聖装」


輪路は目の前にいるのが誰かわからない。全く知らない初対面の、男性の声だった。だが輪路は、この声によくわからない懐かしさのようなものを感じている。遠い昔、どこかで聞いたような、そんな懐かしさを。


「唱えろ。神帝、聖装。」


何者かは再び言った。輪路に神帝聖装と、唱えさせたいようだ。輪路はなぜか唱えなければならないと感じ、力強く唱えた。



「神帝、聖装!!!」



その瞬間、何者かは笑みを浮かべた。顔は見えないが、輪路は笑ったのを感じた。その直後、周囲の光は一層強く輝き、そして消えた。先ほどの景色が戻ってくる。


「り、輪路さん!?」


美由紀は驚きながら声をかける。そして、次の言葉を紡いだ。


「何ですかそのかっこ!?」


そう、輪路の姿が変わっていたのだ。白銀に輝く鎧。胸には咆哮するライオンを模した装飾が為され、頭には同じくライオンの頭のような兜を被っている。兜のライオンの口にあたる部分には目だけが付いたマスクがつけられていた。どう見ても視界が制限されているように見えるし、鎧も重そうだが、輪路はまるで甲冑など着けていないように周囲が見渡せ、重量もほとんど感じていなかった。紙のような軽さだ。


「わかる。俺には、こいつがわかるぞ!」


そして輪路はこの甲冑と、甲冑を装備した自分の名前がわかっていた。



「こいつの名前は、レイジンだ!!」



レイジン。その名前が、突然頭に浮かんだのだ。


「まさか聖神帝の力を覚醒させるとはな。」


三郎は嬉しそうに言う。


「聖神帝?何だそりゃ?」


「強い霊力を身につけたやつだけがなれる戦士だよ。その名の通り神の帝王、神を超えた神だ。詳しいことはあとで話してやるから、今はまずあのリビドンを片付けな。」


「へっ!言われるまでもねぇ!!」


輪路、いや、聖神帝レイジンは、ブラストリビドンに向かって突撃した。


「速い!!」


美由紀の目から見ても、スピードは先ほどと比較にならないくらいに上がっているのはわかった。レイジンはブラストリビドンを殴りつけ、蹴りをお見舞いしてやる。全力の木刀を叩きつけても多少よろめく程度だったブラストリビドンが、ただの拳や蹴りでかなりのダメージを受けている。


「力も強くなってる!!」


「それだけじゃねぇ。聖神帝は存在自体が浄化霊力の塊みたいなもんだから、リビドンを始めとする不浄な相手には素手の攻撃でさえてきめんに効く。弱い悪霊なら殴る蹴るだけでも倒せちまうのさ」


倒すために浄化が必要になる敵が相手なら、聖神帝ほど適した存在はいない。しかし、油断は禁物だ。今レイジンが戦っている相手は、弱い悪霊などではなく危険極まりない怨霊、リビドンなのだから。


「ウガァァッ!!!」


「ぐああっ!!」


ブラストリビドンは霊力弾を連射し、レイジンを吹き飛ばす。


「お前は聖神帝になって間もない!!力がまだまだ不安定なんだ!!油断してるとやられちまうぞ!!さっさと終わらせろ!!」


「んなこと言われたってこんな力、ろくな説明もされてねぇのに使いこなせるわけねぇだろ!!」


レイジンは三郎に反論した。彼の力はまだ目覚めたばかりで不安定だ。右も左もわかったものじゃない。さっきよりはかなりマシになったが、それでもこんな力を使いこなして勝つのはかなり厳しいものがあった。三郎はため息を吐き、レイジンに言う。


「お前自分の左腰を見てみろ!!そこには何がある!?」


三郎に指摘されて、レイジンは見た。彼は普段、ここに鞘袋に入れた木刀を差している。木刀は鞘袋から出して使うので、ここには当然鞘袋が差してあるはずだ。が、今鞘袋はなかった。鞘袋の代わりに、白銀に染まった立派な鞘がある。


「こいつは…鞘!?」


「それはお前の鞘袋が、聖神帝の力を浴びて変化したものだ。で、お前は鞘しか持ってないわけじゃねぇよなぁ?」


三郎の問いを聞いて、レイジンは連想する。鞘があるということは…


「そうだ!!俺の木刀!!」


聖神帝への変身が衝撃的すぎて忘れていたが、彼は木刀をブラストリビドンに投げ飛ばされていたのだ。レイジンは辺りを見回し、木刀を探す。それほど離れていない地面に、木刀が突き刺さっていた。


「見っけ!!」


レイジンは木刀に向かって駆け出す。ブラストリビドンが霊力弾を撃ってくるが、構わない。走ってかわす。そして、十分な距離まで近付いたところで、レイジンが跳んだ。


「っ!!」


その勢いで宙返りしながら、木刀を掴み取る。それから地面を一回転して、立ち上がった。同時に木刀にも変化が発生する。レイジンの腕から白銀の光線が何本も伸びて鞭のように絡み付き、光が消えた時、白銀に輝く大太刀となっていたのだ。


「そいつは聖神帝が使う武器の一つ、スピリソードだ!!武器がありゃあやれるだろ!?」


解説する三郎。レイジンの木刀は聖神帝の力を受け、聖剣スピリソードに変わった。そこへ、ブラストリビドンが霊力弾を撃ってくる。


「レイジン、ぶった斬る!!」


レイジンはスピリソードで霊力弾を弾き、両手でスピリソード構えて宣言する。また霊力弾が飛んでくるが、レイジンはそれを弾きながら接近し、ブラストリビドンを斬った。それから、二度、三度、四度と斬りつけ、刺突を放って突き飛ばす。


「ん~剣があると違うな。どうにも調子が出ねぇと思ってたが、こいつがなかったからか。これならいけるぜ!!」


すっかり調子を取り戻したレイジン。そこからは、圧倒的だった。レイジンはブラストリビドンが撃ってくる霊力弾全てを弾き、ブラストリビドンを斬る。それを繰り返した。


「さて、そろそろ決めるか!!」


十分にダメージを与えたと判断したレイジン。彼はこの僅かな時間で、聖神帝の力の使い方というものをある程度掴み始めていた。斬る、という強い想いを、スピリソードに込める。すると、スピリソードの刀身が、強い光を放ち始めた。


「ま、まさかお前、神帝戦技を!?」


驚く三郎。


「ガァァァァァァァァァァ!!!」


霊力弾を撃つブラストリビドン。


「レイジンスラァァァァァァァァッシュ!!!」


レイジンは輝くスピリソードを振るいながら霊力弾を弾き、ブラストリビドンに接近。スピリソードを振り下ろして銃を破壊すると、


「だぁっ!!!」


横に振ってブラストリビドンを斬り、スピリソードを鞘に納める。チンッ!という音が響くと同時に、ブラストリビドンは脱力したように両手をたらし、爆発した。


「やった!輪路さんが勝った!!」


美由紀はレイジンの勝利を喜ぶ。


「まさか神帝戦技まで使っちまうとはな…」


「神帝戦技って?」


「聖神帝の必殺技みたいなもんだよ。あいつのことだからノリでやったんだろうけど」


そう、レイジンは自分が今放ったレイジンスラッシュという技が、神帝戦技と呼ばれる技の一つであることを知らない。完全に場のノリだ。




少しして、爆発の煙が晴れた。ブラストリビドンがいた場所には、ホームレスの男がいる。


「ま、まだ!?」


「いや、あいつからはもう憎悪の波動を感じない。無害な霊体だ」


美由紀は警戒したが、三郎は心配ないと言う。よく見るとホームレスは半透明になっており、怪物になる前の状態ほどはっきりは見えない。レイジンが憎悪を浄化したことで、無害な霊体になったのだ。レイジンは変身を解除し、ホームレスに言う。


「…聞かせてくれねぇか。あんたがあそこまで憎しみに染まった理由を」


すると、ホームレスは素直に、ゆっくりと語り始めた。


「…私は半年前まで、ある会社の社長だった。誰もが私を必要としてくれて、幸せだった。生きていることを実感できる、とても充実した毎日だったよ。」


だが、取り引き先の会社が倒産し、彼が社長を務める会社もその煽りを喰らって倒産してしまった。それからは借金やその返済に追われ、気付けばホームレスになっていた。あっという間の転落だった。


「誰もが私を恨み、私の存在を忘れていった。そんな中私は彼に痛めつけられ、無価値な人間と言われて殺されたんだ。」


許せなかった。自分を無価値だと言った総長が。自分でも感じ始めていたことを指摘され、あまつさえ殺されたのだ。これからまた、全てをやり直したいと思っていたのに。生きてさえいれば、再起はできると思っていたのに…。


「でも、もういいんだ。私は死んでしまった。これで私を覚えている人間も、みんな私を忘れていってしまうだろうから。」


所詮無理な話だったのだと、ホームレスは諦めた。死んでしまった自分には、もう何もできないと。



だが、輪路は彼を見捨てなかった。



「俺が覚えててやるよ。」


「…えっ?」


「俺が覚えててやる。あんたが言うように、死んじまった人間には何もできない。けど、あんたは俺に会えた。死んだ人間が見える俺に」


死んだ者は何もできないが、死んだ者が見える者は、死んだ者に対してしてやれることがある。その者が確かに生きていたということを、ここにいたということを、証明することだ。記憶するという形で。


「まぁ、それぐらいのことしかできないんだけどな。」


だがホームレスにとっては、それが堪らなく嬉しかった。


「いや、いいよ。それで十分だ。私を覚えてくれる人が、一人でもいてくれること。これほど嬉しいことはない…!」


いつしかホームレスは涙を流し、心の底から喜んでいた。


「ああ…こんなに晴れやかな気分は初めてだ…ありがとう…本当にありがとう…」


ホームレスは何度も輪路に礼を言い、成仏していった。


「…元気でな。」


輪路は報われた魂に、自分なりのエールを送った。


「…」


美由紀は何も言わず、輪路を見ている。ただただ、輪路を見ている。


「…お前と同じ獅子王型か…因果なもんだな。」


三郎は二人が気付かれないほど小さな声で呟いた。


「お前の後継者、やっと見つかったぜ。光弘よ」











ここはどことも知れぬ世界。空は晴れることのない暗黒に支配され、大地には不毛な荒野が広がるのみ。この殺風景な場所に一つだけ、不釣り合いに巨大で古風な城があった。



城の中。空中に映し出された映像を、五つの影が見ている。一つはチャイナドレスを着た女性。一つはピエロの風貌をした男性。一つは二本の槍を肩に担ぐ男性。一つは豪勢なドレスを着た女性。一つはその女性に寄り添われ、玉座に座っている鎧を着た男性。



やがて、鎧を着た男性はニヤリと笑って言った。



「これから少し、楽しくなりそうだね。」


映像には、ホームレスを成仏させる輪路の姿が映っていた。





五年前に起きた第三次世界大戦と呼ばれる戦い。最強の力を持つ傭兵達の手によって、世界を滅ぼそうとしていた二大凶悪組織が倒され、この戦争は終結し世界は守られた。





だが、もしかしたらその平和は、かりそめのものだったのかもしれない。





これから再び、世界の命運を握る戦いが始まることを、自分がその戦いに巻き込まれることを、廻藤輪路はまだ知らなかった…。






どうも!この度は新作、聖神帝レイジンを読んで頂き、ありがとうございます!


この作品は前作、メタルデビルズから五年後にあたる正式な続編です。一応初見の方にも楽しめるよう書くつもりですが、聞き覚えのある単語や見覚えのある人物を出しますので、前作を読んでおられる方が楽しめること請け合いです。もしかしたらゲイル達が出るかもしれません。といっても主人公はあくまでも輪路なので積極的な活躍はせず、顔見せ程度になります。今作の敵は対抗できる前作メンバーが少ないですし。それからクトゥルフ神話が主題になっていた前作と差分化を図る意味も込めて、今作は他の神話の怪物や神、妖怪や幽霊がたくさん出ます。また、都市伝説や学校の怪談などにも挑んでいきますので、その辺も楽しみにしていて下さい。


次回は聖神帝の力などについて、詳しい解説をさせて頂きます。お楽しみに!

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