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一回は数の内に入らない

夜の講義を聞き流すと、教壇の教授に出席カードを提出してそのまま僕は教室を出た。その教室はカフェテリアに面している部屋だったので、教室の外に出るとまばらながらも三々五々の学生達が談笑している姿が散見した。

カフェテリアの窓から見える外は完全に暗くなっている。そのまま僕はカフェテリアを通過し、外に出ようと足を運んでいた。すると、近くのテーブルから足早にやってきた人影が僕の行く手を塞いだ。

「待ってください」

それは、さっき僕が人違いを犯してしまった例の女の子であった。能面のような無表情に、瞳だけがやけにぎらついて見える。軽蔑したようなさっきの視線が思い起こされて、僕はちょっと腰が引けた。

「な、なに。どうして君がいるの」

それには答えず、

「このあとお暇ですか。いいえ、お暇でなくとも同じことですが」

「だから、君は何なの?」

訳が分からない。

考えてみたのですが、と前置きして彼女は言った。

「世界には自分にそっくりな人間が5人は存在するそうです。私を日系アジア人と仮定して単純に世界人口の3分の1を分母とし、更に同じ年代のみにそれを限った時、そして私の知人の数とその知人の数をかけたものを分子としたものの確率は、天文学的数値とは強ちにも呼べないものだとの結論に達しました」

今の計算には色々おかしな所はあるが、ようするに人違いの起こる確率を計算しているらしい。一つ、唾を飲み込む。

「つまり、君は人違いを容認すると言いたいんだね」

間違っていたら先刻よろしく罵倒されたのだろうが、僕の発言はそう的から外れていたわけではないらしい。

「世俗的に言えばそのような意味にとれなくもないです」

僕より頭一つ分背の低い彼女は、「しかし」と繋いだ。

「私が非を詫びるのは要件ではないです。単純に言えば、私は極めて個人的な興味関心からそのお店とやらに足を運んでみたく感じたのです」

「な、何のために?」

彼女はふんと鼻を鳴らした。

「だから言ったでしょう。極めて個人的な興味関心からです」

説明すべきことはすべて言ったとでも言いそうな満足げな表情を浮かべたが、僕の理解には今一歩足りなかった。世界で5人の人物にでも興味があるのかな? うーん……

「ひょっとして、君って暇なんじゃ?」

恐る恐る率直な感想を言うと、目の前の女の子はそっと視線を逸らした。

「そう言えなくもないですね」

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