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幽霊少女の置き土産

「どうして君はそんなに人を避けるんだい?」

 ある時、バイトの休憩時間、スッタフルームで文月先輩にそう尋ねられたことがあった。まだバイトを始めたばかりの頃だった。

「別に……避けてるわけじゃないです。コミュニケーションが苦手なだけで」

「本当にそうかい?」

 文月先輩はペットボトルのお茶を仰ぎながら変わらぬ調子で言う。

「それは言い訳で、本当は人が嫌いなんじゃないかな?」

 先輩の言葉に、胸が詰まるのを感じた。テーブルの対面に座る彼を睨んだ。

「なんですかそれ。僕だって一人は嫌に決まってます」

「だからと言って人が嫌いではないと言う証明にはならないね」

 飲み終わったペットボトルを部屋の隅のゴミ箱に投げる先輩。その仕草は気だるげで、いかにも片手間ですと言った風だ。空のペットボトルは綺麗にゴミ箱へ吸い寄せられていった。そんなことにさえ、何故だか腹が立ってきた。

「なんですか、あんた。バイトの先輩だからって、怒りますよ?」

 すると、文月先輩はくくっと笑った。

「じゃあ怒ってみる? 聞くけど、君って怒ったことある?」

「そんなのあるにきまって……」

 反射的にそう言いかけて僕は口を噤んだ。先輩は変わらぬ表情で黙って僕を見つめてくる。

「君ってさ、何かに本気になったことがないんじゃないかな? 物事にしろ、人にしろ?」

 ………………

「無味乾燥なのはさ、君の環境じゃなくて君自身なんだよ。君は何を選んで、この人生を描いてきたの?」

「何を選んで?」

「人生は重要な選択肢の連続だ。君は多分、何も選んでこなかったんじゃないかな。何をして、生きてきたの?」

 ……受験する高校や大学だって自分で決めた。バイトだって。でも多分、そういうことじゃない。僕は人間として必要な営みの上で、何物も選んでこなかった。それゆえ彼の言うことは図星だ。でも、図星を突かれたからこそ、僕は不機嫌だった。

「偉そうに言ってるあんたに何が分かるんですか!」

 そういうと、先輩は笑みを深めた。

「分かるさ。かつての僕がそうだったからね。でもま、そうやって怒鳴れるってことは、生きてる証じゃないの?」

 はっと我に返る。19年間生きてきて他人に向かって怒鳴ったことなんか一度もなかった。本気の感情をぶつけたことなんか、僕には一度もなかったんだ。悔しくて、自分がひどく惨めだった。

「僕は、文月ふみつきかける先輩が嫌いです」

「良いことだ。人を嫌うこともまた、情動が必要だからね。リハビリにはなる」


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