表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/27

自由の刑

 そう、ここでは彼女、辻風結菜が最も強い価値を持つ。氷谷祭神は唯一の跡継ぎである彼女に弱いし、従うしかないのだ。

 しかし、やはり一筋縄ではいかなかった。

「なるほど。俺への牽制として結菜を使うか。だが、どうせ消える命。そうなればその男諸共に死んでやるぞ!!」


 氷谷が大声を上げると、再び突風が巻き起こった。参道脇の砂が舞い上がり、僕らの顔に直撃する。手を繋いだまま、もう片方の手で顔を庇う。

 突風に紛れて神の高笑いが耳に届く。

 巻き上がる砂嵐の向こうに、不意に複数の人影が浮かび上がった。顔をガードする手の間から目を細めると、その人影のしゃべり声が唸る風の間から耳に運ばれてきた。

「誰、あんた?」「うちの子じゃないね」「文月が失踪したらしい……」「清華が病気になったんです!」

 僕の両親、バイト先の店長、清華のお母さん。声々は突風の中から僕を詰ってくる。

「どうしてわたしを見捨てたの!? 先生!? やっぱりその女が好きだから!!?」「いい加減にしてくれ! 警察を呼ぶぞ!?」

 これは幻聴だ。ぐっとこらえる。大丈夫、現実じゃないんだ。細かい石粒が体を打ち付け、指先を痛める。隣の彼女の様子も見えないが、繋がったままの僕の右手が彼女の体温を僕に運んできて、唯一本物の存在を感じることができる。対して、砂嵐の向こうに浮かぶ人影は幻覚なんだ!

「幻覚じゃないぞ!」

 氷谷の声。

「お前がこのまま行けば、異世界でお前の存在は両親になかったことにされ、お前が慕っていた先輩は神隠しに遭い、教え子は苦しみの末死ぬ運命を辿る。これは現実になるぞ!」

「そんな脅しには屈しない! 僕はお前が消えるまで、絶対に屈しない!」

 氷谷は一族の信仰を失い、消えかけている。力は残っていないはずだ。

「僕が、結奈を守るんだ!!」

 声の限りに叫ぶと、途端に風が猛烈に強くなった。耳元では強風が悲鳴を上げ、一切の音を遮断する。指先は風の冷たさに感覚を失っている。唯一繋がられた彼女の左手に、ほんのわずかに更なる力が込められたような気がしたが、僕はもう吹き付ける風に耐えきれることはできそうになかった。

 右手の繋がりが徐々に切れ始め、砂嵐の視界の中に消えて行く。

「先輩!?」

 繋がりの手が切れて、僕の体は宙を舞った。なるほど、神様と討死か。それも悪くない。聞こえないはずの彼女の悲鳴がどこからか聞こえ、耐え切れぬ突風に体を預けながら、僕の意識は空中で失われた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ